ゾイド Wild Flowers~風と雲と冒険と~第一期 作:尾久出麒次郎
翌日、今日は独立記念祭でカミルはラオやノアとチャトウィンの中央区にある首相官邸近くの公園でヘルガで待っていた。午前中ヘルガは保守穏健派でガリン共和国評議会の痩身で鋭い眼光のラウン首相と、改革派のリーダーであるクゥアン国務大臣の三人で会談を行っているという。
「――それで、僕はヘルガを追いかけてこの国に来たんだ」
ヘルガは独立記念祭をここで知り合った友達と回るのは以前から約束してたらしい、待ってる間にカミルはラオにヘルガとの出会いと冒険話を聞かせて時間を潰していた。
「そっか……二人で冒険して一緒に見上げる星空、いいなぁ……ロマンチックだね」
ラオは羨ましそうに溜め息を吐くと、話を傾聴していたノアも頷く。
「そうけどさ……何で僕こんな格好なの?」
ノアは黒のショートポニーテールを解いてセミロングになり、ラオによって紺色のミニスカートに白のオーバーニーソックスに可愛らしいスニーカーを履き、白いフリルにピンクのリボン付きブラウスを着せられ、極めつけは化粧までされていた。
「その方が可愛いからよ! それに日頃からゴードンやサムに女みたいだって馬鹿にされてるからね、見返すチャンスよ!」
ラオは力説するが、一瞬でバレそうな気が……しないとカミルは見つめる。
化粧してるから一瞬は誤魔化せるかもしれないと思ってると、視線に気付いたノアは頬を赤らめて恥じらいの表情を見せる。
「あ……あの、は……恥ずかしいから……そんなに見ないで」
「えっ? ああごめんごめん!」
カミルは慌てて目を逸らすが、今の恥じらいの仕草は女の子そのものだ! ヤバイヤバイぞおい、ヘルガがいなかったら変な方向に目覚めてしまいそうだったと思わず青褪めると、ヘルガがヨハンに付き添われて連れてやってきた。
「お待たせ! あれ? ノア君……その格好」
緑のベレー帽を被り、白い長袖フリル付きのブラウスを着て紺色のロングスカートにショートブーツを履いてやってきたヘルガは驚きの眼差しで見抜いた。
「おお、男の
ヨハンにもあっさり見抜かれて褒められるがノアは恥ずかしそうに俯く、カミルは嬉しくないだろうなと思わず同情しながら、ヘルガの方を向くと俯いて震えてる。
「ノア君……それ……」
ドン引きしてるんだろうな、とカミルは思ったが真逆だった。
「可愛いいいいいいっ!!」
ヘルガは顔を上げると宝石のような瞳を恒星のように輝かせ、興奮気味に裏返った声になるとラオも自慢げな表情になる。
「でしょう? あたしが化粧したのよ!」
「ラオ凄い! ああでもノア君……見れば見るほどもう可憐な女の子にしか見えないわ、女の子以上に女の子らしいの!」
ヘルガはうっとりとした眼差しで見つめる。確かに背は高いが華奢な体格、透き通った白い柔肌、形のいい花弁のような桃色の唇、人形のような顔立ちに長い睫毛、潤んだ瞳と眼差しは守ってあげたい気持ちを刺激する。
ラオは悪戯を企んでるようで、にやにやしながらノアを唆す。
「ノア、この格好でゴードンやサムを引っかけてやろう!」
「……うん、一瞬でバレると思うけどね」
ノアは乗る気なようだ、カミルは大丈夫かなと思いながらもドキドキしながらヘルガの所に歩み寄る。
「ヘルガ、一緒に回ろうか」
「うん、回ろう」
ヘルガは仄かに赤らめながら無邪気に微笑むと、ヨハンは羨ましそうに見つめる。
「青春だねぇ……若いっていいね」
「ヨハンさん、そういえばハロルドさんやイヴァーナさんは?」
カミルは周囲を見回しながら訊く。
「大丈夫だ。二人共も見えない所から見守ってるし、特にイヴァーナは今日だけは大目に見ると言っていたよ」
ヨハンの言うことが本当なら大丈夫そうだろう。行き交う人逹はみんな笑顔で今日を楽しみにしていたのが窺える、今日はチャトウィン全域を挙げての独立記念祭だ。
「それじゃみんな、行こうか!」
ヨハンはまるで引率の先生か保護者みたいだった。
一際賑わってる北区のマナプロウ繁華街でランチを食べ、映画館に行くとギュンター・プロイツェンが現代に復活し、笑っちゃいけないドタバタ騒ぎを起こす風刺ブラックコメディ映画『帰ってきたプロイツェン』を見る。
見終わって映画館を出ると、あっという間に日が傾き始めていて、感想や他愛ないお喋りをして街を歩く。
歩く間、カミルはさりげなくヘルガの横に立つとその横顔を盗み見る、するとお互いに目が合い、ヘルガは頬を赤らめる。
「どうしたのカミル君?」
「う、うん……あのね」
カミルは返事の代わりにお互いの指先が触れるとヘルガはドキッとしたのか、柔らかそうな頬が赤くなってすぐに照れ臭そうな微笑みに変わり、カミルはそっと優しく包むように手を握った。
もう言葉は必要なかった。
ヘルガの柔らかくて血の通った温かい感触、それがゆっくりとカミルの手を握り返す、イヴァーナさんに見られてはいけないし、見られたら大変かもしれない。だけどその背徳感がカミルの心を燃やした。
独立記念公園には様々な屋台が立ち並び、中には昆虫食を扱う屋台もあって調理されたバッタ、コオロギ、イモムシ、サソリ等が山積みにされ、ヘルガはギョッとして敬遠してる様子だった。
カミルはというと三年間シルヴィアを探してる間、山の中でホバーボードを壊して昆虫を食べて飢えを凌いでた時のことを思い出しながら見てるとラオが訊いてきた。
「カミルって虫とか食べられる?」
「うん、山籠りで虫を獲ってたから……そうだ!」
カミルはヘルガがヨハンやノアと楽しそうに話してる隙に、一際強烈なインパクトを放ってる食用ゴキブリの串揚げを一本買うとニヤニヤしながらラオと目を合わせる、察しのいいラオは誘いに乗ったらしく親指を立てる。
「OK、あたしが注意を引くわ」
ラオはヘルガに声をかける。
「ヘルガ、ちょっと二人で話したいことがあるの! ノア、ヨハンさん外してくれる?」
「うん、それで何? どうしたの?」
ヘルガはラオに言われるがまま、一度二人だけになる。ヘルガの背後からカミルはソロリソロリと忍び足で近づき、甘ったるい声をかける。
「ヘルガ」
「ん?」
何も知らないヘルガは振り向くと、眼前にデカデカと串揚げにされた大型のゴキブリ。
「――いやぁぁあああああああっ!!」
ヘルガは案の条、一瞬で青褪めて仰け反って裏返った声で絶叫!
「あっはははっはははは! 今の見た? ラオ?」
これにはカミルもたまらず大笑いしてラオも腹を抱えていた。
「ぶぅあっははっははは見た見た! ああもう何で外国人はゴキブリ嫌いなのかわからないわ! 串揚げにして食べると美味しいのに!」
さすが発展途上国の少数民族の娘、ゴキブリ耐性の持ち主だ。
ヘルガは涙目になりながら文句を言う。
「もう! カミル君の馬鹿! ラオもどうしてあんな害虫平気なの?」
「ガイチュウ? 何それ? 食べると美味しいわよ、それにあたしはゴキブリよりもマラリアとか運んでくる蚊の方がよっぽど怖いわ!」
ラオの言う通りゴキブリより感染症を運んでくる蚊の方が遥かに怖い、実際旅人の中にはマラリアや黄熱病、ガフキー・カハール熱で亡くなる人もいる。
「そうそうそれに……」
カミルは躊躇うことなく、串揚げにされたゴキブリにかぶり付いてそれを見ていたヘルガは「ひぃっ!」と短い悲鳴を上げるが、意外と美味い! しっかり噛んで飲み込む。
「うん、美味いよ」
「無理無理無理無理! 絶対無理!」
ヘルガは本気で怯えてる様子で異変に気付いたヨハンとノアが駆けつけ、ノアはギョッとして青褪めて。
「うげぇっ! ゴ、ゴキブリ!? そんなの食べてたの!?」
「おおっ? エウロペオオゴキブリの串揚げか懐かしいな……多国籍軍の合同サバイバル訓練以来かな? どれ、一匹いいかな?」
反対にヨハンは懐かしそうな眼差しでカミルに尋ねると「どうぞ」と串を差し出し、ヨハンは「ありがとう!」と上機嫌でかぶりついて串から引き離した。ヨハンがゴキブリを咀嚼し、飲み込む様を見てヘルガはドン引きしてるのも気にせずヨハンはイヴァーナを呼ぶ。
「イヴァーナも出てこいよ、美味いぞ!」
しかし出てこない、あれ? と思いながら見回す、串にはあと二匹残っている。
「おかしいな、いつもは呼んだらちゃんと出てくるのに」
ヨハンはわざとらしく首を傾げてる、するとヘルガも首を傾げてると何かを察したようで、恐る恐る歩み寄りながら声を震えさせる。
「カ、カミル君……一匹……一匹貰っていい?」
「うん、いいよチャレンジしてみる?」
カミルはゴキブリの串揚げをヘルガに渡すと、嫌悪感に満ちた目でゴキブリを見つめると泣きそうな顔で鼻を摘まむことなく、かぶりついて串から引き離すと文字通りの苦虫噛み潰した顔で咀嚼し、飲み込むとみんな「おおーっ」と感心の声を上げた。
ヘルガはしてやったわ! という表情でイヴァーナを呼ぶ。
「イヴァーナ! どこにいるの? 出てきて美味しいわよ! ……もしかしてゴキブリ怖いの?」
さすがに姫様であるヘルガの声は無視できないのか、何もない空間から三点着地を決めて現れ、周囲の行き交う人達からは驚きの声を上げる。
「怖いわけありません! そもそもカミル君! そんなゲテモノ料理で姫様を脅かすなんて、どこのワルガキですか!」
イヴァーナは珍しく弱腰でヘルガは日頃の仕返しと言わんばかりに、薄ら笑いを浮かべながら最後の一匹が刺さった串を差し出す。
「イヴァーナ、いつも言ってたわよね? アーカディア王家の者であるなら好き嫌いせずに異国の料理や食文化も敬意を持って食べることって」
「ぐぬぬぬぬぬ……それなら」
イヴァーナは躊躇いを振り払って一瞬でかぶりついて、素早く咀嚼して飲み込んだ。
「これで文句はないですよね? あと必要ない時に呼び出すのは慎んで下さい!」
青褪めた表情のイヴァーナは瞬間移動のごとくジャンプして姿を消して、カミルは見上げる。
「凄い……強化スーツを着てる人始めて見たよ」
「ああ、近衛師団時代に強化歩兵の資格を取っていてね……ASIS時代でも活躍していたそうなんだ」
ヨハンもそれだけ言うと、イヴァーナが最初から存在しなかったかのように独立記念公園は賑わっていた。
強化歩兵
パワードスーツと統合型ヘルメットを被り、サプレッサー付きカービンや自動拳銃、高周波ブレードを装備している。アシストによる人間では不可能な壁に張り付いて登ったり、天井にぶら下がったり、最大二〇メートル以上のジャンプ、短距離なら瞬間移動も可能、光学迷彩やNBC対策も完璧に施されているがこれで車一台分のコストがかかるのが難点で、パワードスーツを着るには特殊部隊隊員並みの訓練が必要。
モデルはM○S2の天狗兵や○GS4のヘイブン・トルーパー