ゾイド Wild Flowers~風と雲と冒険と~第一期 作:尾久出麒次郎
口直しに独立記念公園の屋台のスイーツを食べ歩き、ラオがZiフォンで連絡していたのか、独立記念公園の入り口でゴードンとサムが立っていて、ゴードンがこちらを見つめると大きく手を振った。
「おおっいたいた! よぉラオ、それにカミル!」
「やぁヘルガ! ってあの……その女の子は? それに……ヘルガ……ど、どうしてマゼランの田舎者と?」
サムの視線は指を絡ませて繋いでるカミルとヘルガの手で、明らかに動揺しているが田舎者呼ばわりされるのはさすがに我慢できず、空いてる手の平を胸に強く当てて渇を入れるつもりで言い放つ。
「俺の名前はカミル・トレンメルだ! 覚えておけサミュエル・ハートフィールド!」
「な、何を……昨日助けてくれたことは礼を言うが、田舎者の癖に生意気だぞ!」
それでサムが怯んだ様子を見せると、カミルは啖呵を切る。
「昨日のディナーで君の話しを聞いたけど、由緒ある家柄だとか、知り合いに政財界や芸能界に大物俳優やプロデューサーがいるとか、身内の自慢話をしてたけど君はどうなんだ? そんな自慢したい程の凄いお祖父さんや伯父さん、お父さん逹がいるなら、その人達にとって恥ずかしくない人になれるよう努めるべきじゃないのか!?」
「おっ、おう……確かに……」
サムよりもゴードンの方が納得して頷き、カミルは止めを刺すつもりで言い放つ。
「その人達の権力や威光を笠に着て振る舞うってことは、その人逹の顔に泥を塗って、恥をかかせて、面子を潰して回ってることになるぞ!」
「カミル君……」
ヘルガは惚れ直したかのように頬を仄かに赤らめて見つめると、心中を察したのかラオは同情する様子で溜め息吐いて、ポンとサムの肩に手を乗せた。
「諦めなサム、カミルとヘルガはここに来る前に……由緒ある家柄や世界中のお金をかき集めて世界を支配できる権力を持っても、絶対に手に入れられない二人の絆を育んでいたんだよ」
ラオは諦観の眼差しで見つめると、絶大な財力や権力を持っていそうなハートフィールド家の御曹司は受け入れられない様子だった。
「そんな馬鹿な……ハートフィールド・グループの御曹司で次期社長の息子であるこの僕が……嘘だ……金なら家にいくらでもあるのに」
「そういうところだぞサム! よく言ったなカミル! 俺はお前のことが気に入ったぜ!」
ゴードンは清々しい笑みを見せると、視線を女装したノアにシフトする。
「まっ、この金持ちのボンボンは放って置いて俺と一緒にお祭りを楽しもうぜ! 俺、ゴードン・スターム・ルガーだ、名前教えてくれよ!」
ゴードンは日頃から金持ちであることを鼻にかけていたサムに、いい気味だという目で言う、そして女装したノアに馴れ馴れしく言い寄って来ると愛らしい笑みで自己紹介した。
「ノア・カワシマ・アイゼンハイムです、よろしくお願いします!」
「ほうノアって名前――ノア!? なぁ……お前、本当に……ノ……ノアなのか?」
ゴードンは明らかに動揺した表情で訊くと、ノアは大胆にもあざとくウィンクする。
「うん、いつも君に弄られてるノアだよ!」
ラオは必死で笑いを堪えてるとゴードンはふるふると怒りに震え、嘆く。
「ラ……ラオ……ノア……お前ら、よくも騙しやがったな! 俺のときめきを返せええぇぇぇっ!」
最初は困惑していたノアも滅茶苦茶ノリノリだった。
独立記念公園前大通りをしばらく歩いてると、人口密度が増して人混みが多くてヘルガはこっそり指でちょんちゃんとつついて耳打ちした。
「カミル君、二人だけにならない?」
「いいけど大丈夫?」
「大丈夫、ヨハンには言ってるから大目に見てくれるし……イヴァーナやハロルドもちゃんと見守ってるもの、それに私が後で怒られればいいだけだから」
ヘルガはこういうことには慣れてるらしい、カミルはヨハンと目を合わせると「ふっ」と微笑むと、二人でヨハンの後ろにこっそり隠れる。
「姫様、カミル君……お気をつけて、よいデートを」
彼の言葉でヘルガは大胆にもカミルの手を握って走り出す! こういう場合って僕の方が手を握る方かも? それにしてもロングスカートなのによく走れると、カミルは感心しながら人混みの隙間を器用に縫うように走り抜けて肺、心臓、筋肉を酷使する。
「はぁ……はぁ……イヴァーナさん……追いかけてきてるかな?」
一キロぐらい走ったカミルは息を切らしながら体が温まって訊く、ヘルガも汗で髪を貼り付かせて仄かに火照った表情がドキッとする程艶やかだ。
「多分ね……そうだ、あれに乗ろうよ!」
丁度停留所に止まった東区行きのバスに乗り込むと、扉が閉じて出発。
ヘルガはバーに掴まって無邪気な笑みになる。
「これなら逃げ切れるかも!」
「だといいけどね!」
カミルはようやく二人きりになれた気がして、このまま遠いどこかへ駆け落ちして行けそうな気がした。
バスを降りると様々な国の人で賑わう東区の中心街に入る。
日が暮れると祭りは更に勢いを増し、行き交う人々の肌や髪の色、話す言葉も様々ですれ違う人の中にはマゼラン語を話す人もいた、するとヘルガはカミルに身を寄せ、艶かしく絡みつくように手を繋ぐ。
「……デートだね、カミル君」
「うん、やっと二人きりになれたね」
カミルは心地好い胸の鼓動を感じながら、北区に以上に熱狂と混沌の渦でひしめき合ってる東区を一緒に歩いてると、軽やかで爽やかな音楽が聞こえる。
「ねぇカミル君、あれあれ!」
興味津々のヘルガの視線の先にはゾイドの駐機場の空いたスペースの真ん中に、いくつものイベントテントの下で多種多様な国の人逹が集まって楽器を持ち、軽やかで駆け抜けるような爽やかなメロディを奏で、みんな思い思いに踊っている。
そして踊ってる人逹を囲むようにメロディに合わせて手拍子したり、ビール等のお酒、ドリンクを片手に騒いでる老若男女がまるで独立記念祭を口実に、歌って踊って騒いでる。
「ヘルガ……行ってみる?」
カミルは共通言語とガリン語で「飛び入り参加大歓迎!」と踊るような文字の手書きの看板に目をやると、ヘルガは「一緒に踊ろう!」と言って駐機場に入るとカミルは困惑してかき消されないよう大声で言う。
「ええっ!? ヘルガちょっと待って! 僕踊り方知らないよ!」
「私だって舞踏会の社交ダンスしか知らないわ!」
ヘルガは小走りしながら晴れやかな顔で叫ぶと、ビアジョッキを持った顔の赤いおじさんが声援を送る。
「そうだぞ! 最悪見よう見まねでいいんだ!」
「……だって! 一緒に踊りましょう!」
ヘルガは躊躇うことなく踊ってる人逹の輪に入る、その表情は心から楽しんでいるようでカミルもそれならと、見よう見まねでヘルガとペアを組んで踊る。
「もっと近づいて!」
ヘルガは大胆にもカミルの腰に手を回して抱き寄せ、思わず心臓の鼓動が跳ね上がる。
「ええっ!? ヘルガ!?」
リズミカルに手足を動かし、片腕を組み合って回り、交差した両手を繋ぎ合って回ると遠心力に飛ばされそうになる。
「離さないでねカミル君!」
「うわわわっ! ヘルガ! ストップ! ストップ! うわぁあああああっ!」
ヘルガと一緒に回るカミルは思わず悲鳴を上げる。
「きゃあはははっはっ!」
ヘルガは大きく口を開けて笑い歓声を上げ、かなりお転婆な普通の女の子の顔をしていた。
カミル逹は知るよしもなかったが、このパーティーにはカメラが設置されていて動画共有サイトの「ZiPM」に生配信されていた。そして、それは世界中に生配信されていたので、親友の姿を探していたジョエルは偶然見つけてしまった。
「ん? まさか……カミル?」
しかもセレナの家のリビングで、Ziフォンの小さい画面だったが確かにカミルだと、思わず声を上げてしまいアヤメリアに詰め寄られることになった。
「どこ? どこなの!? 見せてよジョエル!」
「待て待て人違いかもしれないぞ!」
ジョエルはZiフォンを高く上げて渡さないようにすると、セレナが訊いた。
「もしかしてジョエル生配信見てたの?」
「そうだよ! っておい取るな! 返せよ!」
ジョエルはアヤメリアにZiフォンを奪われると必死に取り返そうとするが、彼女はそれをかわしながら読み上げる。
「えっと何? ガリン独立記念祭アイリッシュ・パーティー?」
アヤメリアが読み上げるとセレナは手早くZiフォンを操作してテレビに接続、地球移民の少数民族ケルト人が伝えた音楽だという。生配信がテレビに接続すると、踊る人々の中にあのお姫様と楽しそうに踊ってるカミルの姿があった。
ジョエルは青褪め、セレナはうっとりした表情で嬉しそうに画面を見る。
「あらあらカミルったら、あのお姫様に会えたんだね……あんな楽しそうな顔、見たことないわ……」
何言ってるんだセレナ! アヤメリアの前だぞ! ジョエルは全身から冷や汗を滲ませながらアヤメリアを横目で見ると、嫉妬の炎を燃やして冷たく微笑んでいた。
「カ~ミ~ル~待ってなさいよ~必ず連れ戻してやるからね……覚悟しておきなさいよ!」
アヤメリアの嫉妬に共振してるかのようにカタカタと周囲の物が震えた、いつもの火山性地震だが今の一際強くないかと、ジョエルは不安に思うくらいだった。
先に踊り疲れてヘトヘトになったのはカミルの方だった、今いる場所は東区にある小高い丘の公園でヘルガ曰く、ラオに穴場スポットだと教えてもらった場所だという。
カミルは斜面の草地に座ってようやく一息吐けると足を伸ばす。
「疲れた……あんなに激しく踊るなんて思わなかったよヘルガ、アーカディアにいた時も舞踏会で踊ったの?」
「うん、厳しいマナーとかあったけどね……あんなに気兼ねせず激しくて楽しく踊れたことなかったわ、城の舞踏会では絶対に味わえないよ!」
ヘルガも草地に座って足を伸ばして無防備な姿を見せると、カミルはソーア山で一緒に星空を見上げたことを思い出す。
「……また、一緒に夜空を見られたね」
「うん、今夜は月が綺麗だし花火も上がるわ」
ヘルガの言う通り今夜は二つの月が姿を見せ、チャトウィンの夜景もあって星は数える程しか見えない。だけど、瞼を閉じれば鮮明に甦ってくるあの星空の思い出、二人の間に沈黙が流れる……今ではそれさえも心地好い。
「ヘル――」
「カミ――」
ほぼ同時に顔を向け、視線が合い、思わず無邪気に笑い合ってしまう。
「ヘルガは何を言おうとしたの?」
「カミル君こそ……どうしてハロルドに仲間に入れてなんて言ったの?」
ヘルガに訊かれてカミルは今こそ覚悟を決めて、思いを伝える時だとそっとヘルガの白い手を重ねる。
ヘルガはドキッとしたのか頬が赤くなり、唇も艶やかになる。
「ヘルガ……僕はサムの言う通り……辺境の国の田舎者で、君はアーカディアの王女だ……それでも――」
カミルは急加速する心臓の鼓動を抑えようと、呼吸を整え、思いを伝える。
「――僕は君のことが好き。アーカディアの王女だからではなくヘルガ、君自身のことが好きなんだ!」
沈黙した数秒程度の時間が数時間と感じるほど引き伸ばされて行く、心地好い風が吹き付けてヘルガの長い黒髪が靡くと、彼女は晴れやかで透き通った笑みになった。
「うん、ずっと前から知ってた」
カミルも承知の上だったセブタウンを離れる時、ヘルガは甘美な声で囁いていたことを。
「私ね、ソーアシティでゴジュラスと戦ってる時に……聞いちゃった」
ヘルガはにっこりと満面の笑みで言うと、カミルはあの時だったのかと思わず両手で顔を覆いたくなるほど恥ずかしくなる。
「だからね……カミル君だけだったよ」
ヘルガは艶やかな笑みでカミルの手を繋いで指を絡ませ、ゆっくりと顔を近づけてお互いの額が触れる。カミルはヘルガのディープスカイブルーの輝く瞳を見つめ、心が吸い込まれ、虜になるような甘い声で囁いた。
「必ず会いに行くって約束して、本当に会いに来てくれたの……君だけだから」
そして二人のこれからの門出を祝福するかのように、甲高い口笛のような音が夜空に響いて大輪の花を咲かせると、ヘルガはそれが合図のように目を閉じる。
カミルは誰も触れてはいけない禁断の果実のようなお姫様の唇を重ねようと近づけた。
「そこまでぇぇぇぇぇえええええっ!!」
この悲鳴に近い叫び声はまさか……予想通りイヴァーナが汗だくで息を切らしながら駆け寄ってきた。ハロルドとヨハンも連れて、ヤバいとカミルは思わず青褪めてヘルガは露骨に不満な表情で見つめる。
「もうイヴァーナったら……いつも最高で最悪のタイミングで来るんだから」
詰め寄ろうとするイヴァーナをヨハンは後ろから羽交い締めにして制止する。
「落ち着けイヴァーナ! 姫様本気で怒ってるぞ!」
「離しなさいヨハン! カミル君! あなた今自分が何をしようとしたのかわかってるのですか! あろうことか姫様の唇を奪おうとするなんて!」
ヨハンの言う通りヘルガはイヴァーナに対して露骨に不満を露にしたかと思ったら、人差し指を艶やかな唇に当てる。
「いいじゃない! 私だってカミル君のことが好きだから……なんなら私がカミル君の唇を奪っちゃおうかしら?」
ヘルガは悪戯好きな小悪魔のようにウィンクする、それがとても愛らしい。
「姫様! アーカディア王家の人間たるものが破廉恥なことを!」
ヨハンの拘束を振りほどこうとするイヴァーナの横をハロルドが通り抜る。
「姫様、逢瀬のところ申し訳ありません。本当は花火が終わるまで待つつもりでしたが……イヴァーナは我慢できなかったようです」
「まぁ! 今までずっと三人で覗いてたの!?」
ヘルガは顔を真っ赤にする、確かに自分も今のシーンを母親やアヤメリア辺りに見られたら気持ちのいいものじゃないだろう。ヨハンはイヴァーナを羽交い締めにしたままにやけ面になる。
「申し訳ありません姫様、でもとても甘酸っぱくて尊いシーン見させてもらいましたよ!」
「そんな訳ないでしょ! 離しなさいヨハン!」
イヴァーナは拘束を振りほどこうとするが、ヨハンは知り尽くしてるのか動きを先読みしてるかのように放さない。
「姫様、明日の遺跡調査もあります。あまり遅くならないように」
「勿論よハロルド、明日はカミル君が仲間になって最初の冒険なんだから!」
ヘルガはハロルドに頷くと、カミルに視線を向けると微笑みを交わし合ったがふと視界の隅に翼を広げ、飛び回っている一羽の鳥型ゾイドが目に入ったような気がした。
今のは? カミルは花火で彩る夜空を見上げるが見間違いだったかなと思い、残りの花火は五人で楽しむことにした。
ZiPM
ヘリックの企業ゴーグル社が運営する大手動画投稿サイトでZi-people-moveの略、グローバリー三世号のグ○○ル社員の子孫が「惑星Ziにもユー○○ーブを!」と立ち上げ、動画投稿の広告収入で稼いでいる人のことをZiムーバーと呼ばれ、ゾイド乗り逹も旅をしながら広告収入を稼いでいる人もいる。