ゾイド Wild Flowers~風と雲と冒険と~第一期 作:尾久出麒次郎
第一〇話、古代遺跡に眠る大いなる力
今日の午前中も中央区の首相官邸で非公式会談だ、今日は保守派の中でも強硬派でGNDAの最高司令官であるザリオン将軍との会談だ。
ハロルドは緊迫した表情でヨハンと正装した姫様の後ろに立つ、ザリオン将軍の後ろにもアサルトカービンを装備した兵士二人が護衛に立っている、ザリオン将軍曰く改革派内部の急進派の暗殺を警戒してるという。
「――つまり、先日のスリーパーゾイド逹の背後には大国の可能性が?」
軍服姿のザリオン将軍は鋭い眼差しで姫様を見つめて言うと、彼女は臆することなく頷く。
「はい、自動操縦装置は華国製の旧式でしたが広く使われてる物です。北エウロペ連合加盟国や各国のPMCが採用している物でした。カンカー村周辺は先日、大規模なダイヤモンドやエルワチウム・ゼロの鉱脈が見つかったばかりです、近くには第二次大陸間戦争で両国の目を逃れた未発見の遺跡も多くあります。狙いは恐らく、天然資源の採掘利権」
「うむ、ヘリックやガイロス、ブリタニア、ネオゼネバスの資源開発会社もここに来ていて水面下では、採掘利権を巡っての交渉や駆け引きが既に始まっている……このままでは改革派が招いた外国資本にこの国を食い潰され……絞り尽くされる」
ザリオン将軍は微かに憂いの表情になる。
「私たちは……先祖代々守ってきた土地や文化、習慣を守っていかねばならないというのにな」
改革派が外国資本を受け入れたことで少しずつだが生活水準は上がり、乳児死亡率も低下しているのも事実だ。そして独立を守るために各国のPMCに頼りがちなGNDAも、いずれは陸軍と空軍としての国軍化も進んでいる。
それと引き換えに先祖代々守られ、引き継がれてきたガリン族の伝統的な生活や習慣に綻びが生じ始め、ラオのような若い世代には古臭く見え、このままではいずれ伝統が廃れてしまうのではないかと危惧する声も多くあるという。
カミルは部屋で装備を身に付けるとモーテルのフロントに鍵を預けた。
近くのダイナーで早めのランチを済ませると遺跡調査に向かうため、シルヴィアに乗るとカンカー村の遺跡でヘルガ逹と合流してモニター通信を繋ぐ。
『お待たせカミル君、行こうか』
「うん、最初の冒険だね」
カミルが頷くと、ハロルドやヨハンからもモニター通信が入る。
『遺跡内部にはこの前のスリーパーゾイドの生き残りや野良ゾイドいる、その辺りはソーア山で経験してるかもしれないが、遺跡は学術的価値も高い、可能な限り被害を出さないようにしてくれ』
『この遺跡は観光資源でカンカー村の収入源にもなってるからな……それと今のお二人さん、デートの待ち合わせみたいだったぞ!』
ヨハンのにやけた顔にカミルは頬を赤らめ、ヘルガも恥ずかしくも嬉しそうな顔になる。
『姫様、カミル君調査が終わったらデートするのもいいぞ!』
ヨハンが朗らかに言うと、イヴァーナがモニター通信で割り込んでくる。
『ヨハン! 余計なことを口にしません! カミル君もわかっていると思いますが遊びに来たんじゃありませんからね! ゾイドから降りて調査することもあります、トレジャーハンターを名乗る盗賊もいる可能性もありますので降りる時は銃を持って行くように』
「わかりました、気をつけます」
カミルは頷くと出発。城壁に見える入り口の細い通路を抜けるとヨハンのビッグマザーを先頭に真ん中にリリア、その左右を守るかのように左にシルヴィア、右にアリエル二世、後方警戒にマルゴがポジションに就く。
壁の内部は所々に第二次大陸間戦争で破壊されたゾイドの残骸がツタや植物に侵食されてる。一見すると何もないように見えるが、樹木で生い茂る山の所々に
そこを住みかにする野良ゾイド逹を刺激しないように注意しながら進行、周囲を見回しながら呟く。
「ここ……どんな遺跡があるんだ?」
『興味があるかいカミル君? こういう時はイヴァーナが詳しいぞ』
モニター通信越しにヨハンが遠回しに促すと、イヴァーナは饒舌に授業を行う先生のように話す。
『このカンカー遺跡は今から一二〇〇〇年、古代ゾイド人の一種であるカンカー人が建設した都市です……今みたいに高層ビルを作るよりも、山を堀り抜いて補強することで景観を損なわずに、内部に集合住宅や商店、公共施設にゾイドが通れるくらいの通路を作っていました。地質学的に地震が少ないってこともありましたけどね、この遺跡はゾイドバトルで栄えた街だったそうで……今から入る遺跡はかつて闘技場だった所ですよ』
カミルは目の前にある山を堀抜いて作られた高さ五〇メートル、幅六〇メートルはあるだろう入り口に入る。
通路は昼間ほどではないがかなり明るく、天井や壁に一筋の光を放ってカミルは思わず驚きの声を静かに上げる。
「広い……おまけに意外と明るいな」
『カンカー人は土木技術や電気エネルギー技術に優れていて、各所に採光窓から入った日光を鏡のように反射する
イヴァーナは何となく楽しそうに話していて、カミルは何となく訊いた。
「イヴァーナさんって、遺跡調査とか好きなんですか?」
イヴァーナは訊かれて気付いたのかハッとして、否定するかと思ったが微かに穏やかな笑みを見せる。
『ええ、そうですね……』
イヴァーナの表情はカミルの知る限りつっけんどんな表情からは想像もつかない程の綺麗な笑みで、ヨハンもそれを見逃さなかったようだ。
『おおっ、イヴァーナ今微かにデレたな』
『うん、デレたわね』
ヘルガも頷くとハロルドも同調する。
『ああ、確かに僕も確認した』
『も、もうすぐ予定地点に着きます! 降りる準備と装備の確認を忘れないように!』
イヴァーナは顔を真っ赤にしながらいつもの口調に戻った。
闘技場に出ると広いスタジアムのようになってるが一二〇〇〇年も放置されていたためか、樹木が生い茂って観客席の方も一面緑で覆われていた。そこ通り抜けると再び明るい通路を通り抜けて行くとしばらく進むと、予定地点は遺跡に寄り添うように作られて朽ち果てそうなプレハブ式の二階建てのみすぼらしい建物だった。
「この建物……第二次大陸間戦争時代のものかな?」
『いいえ、その後の時代のものですよ。ハロルド、ヨハンはここで待機。姫様とカミル君は私と降りて一緒に調査するわ』
ハロルドとヨハンは『了解』と返事するとカミルも「わかりました」とシルヴィアのコックピットを開け、後部スペースに持ってきたHM210を右肩にかけた。
カミルは絡まったツタをフルタングナイフで切って三人一緒に引き剥がし、扉を開ける。
「開けます、せーの!」
カミルは力一杯引き戸を開けてプレハブの中に入る。
イヴァーナによれば、この今にも崩れそうなプレハブはビース共和国からの独立以前――自治共和国時代に作られたものでアーカディア国立大学の調査隊のものだという。だが資金難やガリン共和国独立時の政情不安により撤退せざるを得なくなり、長い間忘れ去れたものだという。
「二年前に亡くなった伯父が研究チームの一員でした、遺品整理をしてたら調査記録が書かれた手帳が見つかりましてね……今回の調査は私の個人的な調査でもありまし、それにメモには大いなる力が眠ってると書かれていました」
「大いなる力……」
ヘルガは呟く、カミルはそれが何なのか、それはこれから調査していけばわかるだろう。プレハブの中にある机の中は殆ど空だが、遺跡の入り口だけは残されていた。
それはプレハブの奥にあり、そのまま遺跡の入り口へと繋がっていた。
「この奥です、まだ調査してない区画があります」
イヴァーナの示す先、山を堀抜いた通路はどこから採光してるのか? 天井や通路は帯状に光って明るく、ライトは必要なさそうだった。奥に進むと掘られたトンネルが徐々に土で固められたものから、大理石の床や壁に変わり始め、奥に進むと真っ暗な部屋に入ると、それぞれライトを取り出して入る。
光が射してない部屋をライトで照らすと広さは学校の教室くらいで、真ん中に装飾を施され蝋燭か明かりを立てる円柱状のような台以外何もないが、壁にびっしりと書かれてる。
「この古代ゾイド人の文字……古代北エウロペ人の文字ね、これ……ゾイドイヴ?」
ヘルガが照らした先にはあのイヴポリスの巨大女神像――ネットの資料映像や写真で見たことがる、カミルはゾイドイヴが描かれた一歩一歩踏み締めながら訊く。
「イヴァーナさん、ここって……」
返事の代わりにイヴァーナはライトの部屋の真ん中にある円柱状の台にある籠にライトの光を絞り、上に向けてセットすると、真上にあった鏡面石が対角線状に反射する。
すると、蓄電石が反応して隅々まで光が行き渡り、刻まれた文字や壁画が浮かび上がるように光って数秒で部屋の中が照らされて明るくなる。
「メモによりますと、この遺跡はゾイドと惑星Ziの関係を研究していたそうです」
イヴァーナの視線の先には左右二つの丸い何かの断面図だった、ヘルガも見つめながら一方の左側の断面図が描かれた壁に歩み寄り、呟く。
「内核……外核……下部マントルに上部マントル……地殻……惑星Ziの断面図ね」
「そしてもう一方は……ゾイドコアの断面図」
イヴァーナの視線にあるもう一つの断面図はゾイドコアに目をやると、なんとなく似通ってる、ヘルガは二つの断面図と古代文字を目で追う、読めるようだ。
「ゾイドイヴの生命エネルギーの源は惑星そのものから供給されてたわけね、南エウロペにあるイヴポリス――レアヘルツの谷は二億年前から一〇億年後まで地殻変動の影響が少ない地域って言われてる……彼らは私達よりも先にそれを知っていた」
「そう……古代ゾイド人はそれを知っていてそこにイヴポリスを作った。そして……この惑星Ziそのものを……一つの巨大なゾイドと解釈してたのね」
イヴァーナの言葉にカミルは想像もつかなかった。この惑星Zi自体がゾイドなら、人間はこのゾイドの体に住んでる――いや、住まわせてもらってるに過ぎないのかもしれない。
そしてイヴァーナは部屋を見回して言う。
「姫様、カミル君、どこかに奥に続く扉があるはずです。そこに大いなる力が眠っていて今後の旅に……そしてアーカディアを救う鍵にもなります!」
その大いなる力とは何なのか、カミルは部屋を見回すがせめてヒントがあればと思いながら部屋の壁を探索すると、びっしりと古代文字や壁画が刻まれた壁にA4サイズくらいの空白があった。
「これ……もしかして」
昔読んだの遺跡探索の冒険小説で、刻まれた壁の空白部分を押すと仕掛けが作動して隠し扉や通路が開くのがあった。もしかしたらと押し込むが動かない。ヘルガはライトを照らしてヒントを探す。
「どこかにヒントが書かれて――えっ? 待って」
何かに気付いたのか舐め回すように動かしていたライトをピタリと止め、読み上げる。
「二つの石に……光を与えよ……さすれば汝の道は開かれん! イヴァーナ、これってもしかしてこれも蓄電石じゃない?」
ヘルガはすぐそばにあった壁の空白部分に手を触れると、イヴァーナは頷く。
「そうです、カンカー人の集光パネルであり、そしてバッテリーにもなってます!」
「二つの石に光を……それなら、ヘルガ! そっちの方に光を当てて!」
カミルはライトを壁の空白部分に当てるとヘルガも「うん!」と頷き、蓄電石に光が溜まり始めるが仕掛けが作動する様子がない。
「そのまま光を当て続けて下さい! 蓄電石は光を浴びると電気を生成して、必要な分だけ溜まったら作動する仕組みになってます!」
イヴァーナの言う通り三〇秒程待つと蓄電石が光ったまま、間にある壁の一部が下にスライドして幅もそれなりにある程の幅がある通路が姿を現した。