ゾイド Wild Flowers~風と雲と冒険と~第一期 作:尾久出麒次郎
ハロルドは待機中にコックピットの換気システムを作動させてリトルシガーを吸う。
ヨハンからは電子機器に悪影響を出るからせめて電子タバコにしろと言うが、電子タバコは味気ないし、この葉巻の味は電子タバコでは味わえない。
時おりビッグマザーと統合型データリンクシステムでレーダー情報を共有してるが、反応するのは野良ゾイドや野生ゾイドでこちらに向かってくる気配もない、すると案の状退屈してきたのかヨハンからモニター通信が入る。
『ハロルド、ちょっといいか?』
「ああ、どうした?」
ヨハンの表情はいつになく深刻そうなだ、いつもならリトルシガーを吸ってることに一言文句を言うが今日は言わない、ハロルドは吸いながら耳を傾ける。
『実は夕べ、イヴァーナとカミル君の話をしたんだ……俺としてはカミル君は四人目の仲間になっていいと思う。以前から思春期の姫様には同い年で同じ目線に立ってくれる友達が必要だと思ってたし、この上ないボーイフレンドだと思う』
「ああ、昨日の姫様には驚かされたよ……まさか両思いだったなんてね」
『ああ、カミル君が姫様の支えになればと思ってる……だがイヴァーナは違う、カミル君のことを旅の仲間としては受け入れているがボーイフレンドとしては受け入れていない……イヴァーナはいざとなれば……カミル君のことを……盾か、囮……悪い言い方をすれば捨て石にすると言っていた』
「だろうな、イヴァーナがただでカミル君を受け入れるとは思ってなかったからな……ヨハン、お前はそれに関してどう思う?」
ハロルドは訊く。あの冷徹なイヴァーナだ、姫様のためなら自分の命すらも捨て石にするだろう。
『俺は賛成できない、そんなことをすれば姫様の心に深い傷を残すようなことはしたくない……前から思っていたが、姫様は普通の女の子になりたいって気持ちがある……そういう意味では姫様は『アーカディア王家の王女』の役目と血筋に囚われたお姫様だ』
「囚われのお姫様には救い出してくれる王子様――いや、勇者が必要だな」
ハロルドは昔読んだ児童文学を思い出す、魔王に拐われたお姫様を旅人の勇者が救い出し、更に外の世界へと連れ出して結ばれるという物語だ。
『まぁ……あの姫様なら、魔王に拐われても勇者を待たずに自分で脱出しようとするほどのお転婆だからな』
「ああ、城を何回も抜け出してアーカナに遊びに行って市井の友達まで作るほどだったからな、見つかってお騒がせニュースになったのが懐かしいな」
『だが肩書きや血筋は魔王とは別次元だ、俺達にはできないがあの少年ならできるかもしれない……現段階では微かな期待程度だが』
現段階ではな、ハロルドも同じ意見だと警戒しながら口にしようとした時、見たことのない鳥類型の小型ゾイド――地球の生き物でいうなら鶴の姿をしたゾイドが一羽、一瞬で森の中に姿を消した。
ヨハンもハロルドが何かに気を取られてることに気付いた。
『どうしたハロルド? 何か異常か?』
「一瞬だが、小さな鳥型のゾイドが見えた……かなり小さかった!」
『小さいってまさか……超小型ゾイドか、それとも野生化したオーガノイドか?』
ヨハンは軽い冗談のつもりで言ったのだろう、まさか古代遺跡にそんなのが眠っているのか? あるいはずっと前に目覚めてデススティンガーのように自己繁殖してる可能性も捨て切れないが、オーガノイドは生きた化石と言われるゾイドだ。
ここで生息してる可能性は限りなく低いが決してゼロではない。
奥の通路も光は行き渡っていて、昼間ほどではないが明るく行き着いた先の部屋にはさっきの半分ほどの広さで、驚くことに一二〇〇〇年経ってるにも関わらず電源はまだ生きていた。
「ここ……まだ電源が生きているのか」
カミルは不気味なほど静かな部屋に一歩一歩入る。壁には文字が一部しか刻まれておらず、床と天井に繋がれ、クリーム色の透明なカプセルの光が強まったり弱まったりと、規則正しく緩やかに、まるで生命の鼓動のようだった。
ヘルガは刻まれた文字を切なそうな表情で読み上げた。
「……どうか……この子が……破滅の魔獣の目から逃れ……幸福な時代に目を覚ますことを祈って」
「破滅の魔獣――デスザウラーのことね、そしてカプセルに眠ってるのは……大いなる力……オーガノイドよ」
イヴァーナは高揚感に満ちた表情でゆっくりと歩み寄る。大いなる力とはオーガノイドのことだったのかと、カミルは恐る恐る手を伸ばしてカプセルに触れると温かい、まるで命を宿しているかのようだ。
「オーガノイド……」
カミルは呟きながら顔を近づけると何かが動いた気がした瞬間、クリーム色の液体の中で「Ω」の文字が青白く光り、カプセルの中にいる生物と目がような気がした。
次の瞬間、カミルの頭に頭痛に似た感覚と共に言葉が響いて二・三歩後ずさってよろめいた。
「うっ! オメ……ガ?」
「カミル君! 大丈夫」
ヘルガがよろめくカミルを支える。目が合った瞬間、カミルの頭の中にはオメガの言葉が響いた、まさかこのオーガノイドの名前? 次の瞬間、カプセルは徐々に光の鼓動を速め始める。
「鼓動が速まってる……まさか、目覚めようとしてる!?」
イヴァーナの言う通り、カプセルのガラスにヒビが入ると中の液が漏れ出して暑い湯気が部屋全体に広がる。カミルは湯気の中でカプセルから出てくるオーガノイドの影が見えたかと思った瞬間、それは翼を広げて甲高い産声にも聞こえる声を上げた。
鷲型で霞色のボディにピンク色の目、額に空色の「Ω」の模様、鳥類型のオーガノイドなんて聞いたことがない、カミルは昔読んだ冒険小説で「パルス」という名前の四足獣型のオーガノイドが登場したが……。
「イヴァーナ、これが……大いなる力の正体なの?」
ヘルガは息を呑んだ様子で訊くと、イヴァーナは確信した様子で頷く。
「ええ、これが大いなる力の正体……オーガノイドよ」
「オーガノイド……」
カミルはシルヴィアと初めて出会った時のように一歩一歩刺激しないように、ゆっくりと近づくとイヴァーナが制止する。
「カミル君、下手に近づいては危険です」
「わかってます……」
カミルは鷲型オーガノイドにゆっくり近づくと、ジッと警戒してるようすで何の前触れもなく霞色の翼を広げて甲高い声を上げて威嚇して思わず、仰け反る。
翼幅は四~五メートルはあって威圧感半端ない、バン・フライハイトもオーガノイドのジークと出会った時に尻尾で思い切り叩かれたことがあるという、あれでよく骨折しなかったものだ。
「大丈夫だよ、君の名前は……オメガだね」
カミルはオメガの名を呼ぶとオーガノイドは威嚇の姿勢を少し緩める、自分の名前がわかるかもしれない、カミルはそっと手を伸ばす。
オメガもゆっくりと威嚇の姿勢を解こうとしてるが、警戒は緩めない。
「いい子だから……怖いよね、でも大丈夫だよ」
カミルは優しく声をかけながらオメガに手を伸ばす。オメガもそっと顔を近付けるとそっと触れ合う寸前、ヘルガもイヴァーナも緊張した面持ちで見守っていたに違いない、だから気付くのが遅れてしまった。
部屋に何かが投げ込まれ、金属の転がる音が響いて振り向くとイヴァーナは叫んだ。
「フラッシュバン!!」
カミルは
「うっ、うう……何があったんだ?」
「動くな、おとなしくしていれば命の保証は約束する」
鋭利な女性の声、統合型ヘルメットを被ったパワードスーツの強化歩兵。
サプレッサーを装着したブルパップ式のゼネバス製六・八ミリ突撃銃――シュマイザーSG11のCQBモデルのC型を携行してる。
「特殊……部隊? ヘルガ! 大丈夫?」
「私は大丈夫! あなた逹、何者なの!?」
凛とした声を響かせるヘルガも後ろ手に拘束され、同じように拘束されたイヴァーナが真っ先に見抜いた。
「……あなた逹……テラガイストの
「そちらこそ、アーカディア王国のセリーナ王女にそっくりな少女を連れてるな」
女性の強化歩兵はライフルをイヴァーナに突き付けて言う。
周囲を見回すと同じような強化歩兵が四人、そのうち二人は単発のグレネードランチャーを構えて威嚇するオメガに向けて発砲、ネットが打ち出されて絡まるがそれをあっさりとブチブチと引きちぎると二人の強化歩兵は困惑する。
「嘘だろ! 簡単に引きちぎりやがった!」
「やっぱり対人用では無理がある、これならどうだ!」
強化歩兵の一人が手早く排莢して次弾装填する、カミルは叫んだ。
「オメガ! 僕らに構わず逃げろ!」
それに反応したのかわからない。
オメガはグレネードを向けられた瞬間、翼を広げて飛び掛かり、両足で蹴りを入れると二人は「うぼあっ!」と悶絶して一人はグレネードランチャーを暴発させてしまい、弾頭は天井に跳ね返って高圧電流が放出される。
そしてオメガはそのまま翼を広げて羽ばたかせ、狭い通路をギリギリで飛び去る。
「追いかけろ! 逃がすな!」
イヴァーナの傍にいる強化歩兵に指示を飛ばすと、二人はすぐに追跡するため瞬間移動したかのように姿を消すと、その一瞬の隙をイヴァーナは見逃さなかった。
「姫様、隠れてください!」
イヴァーナは一瞬で拘束を解いて立ち上がり、対峙する強化歩兵はSG11Cを向けるがそれより速く、接近して払いのけてライフルが床に転がると、長い腕と足が入り乱れてお互い一歩も譲らない格闘戦に入る。
ヘルガの拘束も解いていた。
「カミル君、今手錠を切るから!」
ヘルガはイヴァーナの暗殺用ナイフを持ってプラスチックの手錠を素早く切る、カミルは止めようとした強化歩兵にタックルしようとすると、姿を消したかのようにその場で宙返りしてかわした。
「かわした!」
カミルはすぐに受け身を取ると転がりながらHM210を拾い、フォアエンドを前後させて00バック弾を装填すると、強化歩兵が銃口を向けるのとほぼ同時だった。
「こっちよ!」
ヘルガは叫ぶとイヴァーナが相手してる強化歩兵が落としたSG11Cを拾って構えてセミオートで三発撃つ! それを踊るように全弾かわした! こいつ本当に人間か!? カミルは着地の瞬間に胴体に撃ち込んだ! 怯みはしたが手応えがない。
「防弾!?」
「それなら!」
ヘルガはSG11Cのセレクターを動かし、前傾に構えてフルオートで三~四発ずつ撃つ、強化歩兵は銃撃をかわす数秒間の隙にカミルはベルトのホルダーからショットシェルを一発取り、ローディングゲートに素早く入れるとフォアエンドを動かして装填! 強化歩兵がこっちを向いた瞬間!
「吹っ飛べ!」
カミルは引き金を引いて肩が吹き飛びそうな反動に耐えながら撃ち出す。九粒の散弾を撃ち出す00バックとは違って一発の弾を撃ち出す強烈なスラッグ弾だ!
本来は扉を破壊する時や大型の動物を狩る時に使う代物だ。
スラッグ弾は統合型ヘルメットの表面を吹き飛ばした! これならただでは済まないはずだと排莢して次弾装填。だが、割れたヘルメットの中から見覚えのある眼差しが見えて目が合った。
「!? ちょっと……まさか……君は!」
思わず引き金を引くの指が止まる顔だった、ヘルガも気付いたのか銃を下ろした。
「嘘……そんな」
割れたヘルメットを脱ぎ捨てて正体を現す。セミロングの黒髪に長い睫毛、透き通るような白い肌に女の子のように繊細な顔立ち。
ノア・カワシマ・アイゼンハイムだった。
解説
テラガイスト
かつてはガイロス帝国とヘリック共和国に対してテロ行為を行い、ネオゼネバス帝国再建を目的としたテロ組織でネオゼネバス帝国建国後は世界中に張り巡らされたネットワークを生かして諜報機関となる。
独自の戦力を設けており、準軍事部門のバイパーから選りすぐりの特殊作戦部隊シャドーが存在しており、テロリストの重要人物の監視、誘拐、破壊工作、時には暗殺等を幅広く行う。
シュマイザーSG11
ゼネバス帝国時代から存在するシュマイザー社製アサルトライフル、口径は6.8㎜口径で作動方式はショートストローク・ガスピストン方式でブルパップ方式を採用している。歩兵部隊からゾイドのパイロット、後方支援職種、特殊部隊向けに様々なモデルが存在しており、フォワード・イジェクション方式で利き手を選ばない工夫が凝らされている。銃身長は様々でマークスマン仕様のM型からCQBモデルのC型、一回り大きい7.62㎜モデルが存在する。