ゾイド Wild Flowers~風と雲と冒険と~第一期   作:尾久出麒次郎

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第一〇話、その3

 その頃、チャトウィン中央区南の高校ではランチを食べ終えるともうすぐ午後の眠たい授業が始まる、ラオは欠伸しながら教室に入るとみんなテレビに釘付けになって怯えた表情でいる。

「どうしたのみんな?」

 ラオは訊きながら、テレビの画面を見ると眠気が引いて思わず目を見開いた。テレビで保守強硬派でGNDAの最高司令官であるザリオン将軍が電波ジャックして声高らかに演説していたのだ。

 

『今日、我々はガリン族の誇りを外国人逹の手から取り戻す! 伝統を軽んじ、代々受け継いできた民族の誇りや文化を奪おうとする者逹に鉄槌を下す時が来た! ガリンの改革派と穏健派の者逹よ、今一度最後のチャンスを与えよう。外国人逹を殺せ! 匿う者、庇う者、躊躇う者、一切容赦するな! 我らの強さを見せろ! 力を見せろ! 慈悲を見せるな!』

 

 ラオは背筋が凍るものだった、この教室には海外からの留学生もいる。

 教室のみんなは困惑していた。今から殺せなんて「はいそうですか」ってできるわけがない、だが次の瞬間には教室に一発の銃声が響いて悲鳴で溢れ返る。

「えっ? 何!?」

 ラオは振り向くと同級生の男の子であるタモが薄ら笑いしながら、拳銃で留学生の親友を撃ち殺したところだった、背中を撃たれた彼は血を流して倒れたまま動かない。

「はははは……ざまぁみろ……前から気に食わなかったんだよ」

「タモ……あんた……なんてことするのよ! 普通友達を撃つ!?」

 同級生逹が震え、泣くじゃくる中、ラオは恐怖よりも怒りが上回るとタモは旧式でガストン自動拳銃のコピー品を向ける。

「お前だって保守派だろ、決めたんだよ。反抗する奴は……保守派でも殺すさ」

 タモは震えながらトリガーを指にかける、銃を向けられるのは初めてじゃない。ギャング連中に鍛えられたラオにはわかる、タモの目を見ると撃つのを躊躇ってるのがわかって冷たく言い放った。

「撃ってみろ」

「えっ?」

「撃てるものなら撃ってみなさい! その代わりあんたは、無抵抗の女の子を撃った汚名を一生背負う! その覚悟があるなら引き金を引きなさい!」

 ラオは自動拳銃の銃口を自らの胸に押し当てると、タモは怯えながらトリガーに指をかける。

「なっ……舐め――」

 言わせないと言わんばかりにラオは射線を外し、一発放たれると窓ガラスが割れて再び教室が悲鳴に溢れ返る。ラオはタモを一瞬で関節技をかけて、拳銃を奪い取った。

「痛い痛い痛い痛い! ラオ! 悪かった! 悪かったから!」

「そう……でもね」

 その言葉、今撃った親友に言ってやりなよ。だから……ラオは昨日まで親しく遊び、学んだ同級生の頭部に銃口を突き付けると、タモは一瞬で青褪めて自分の死がのしかかってることを悟ったのか逃れようともがいて泣き叫ぶ。

「い、嫌だああああぁぁぁぁぁっ!! 死にたくない!! 死にたくない!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!! ラオやめてくれえええええぇぇぇっ!! 友達だろおおおおおぉぉぉぉぉっ!!」

「……それさぁ、撃たれたあの子が言う言葉よ」

 ラオは躊躇いを振り払って引き金を指にかけると、同級生逹は悲鳴を上げてラオを止める声さえあった。ごめん、タモのこと好きだった子には悪いけど、タモにはやるべきことができたから、ラオは冷たい口調で言い放った。

「あの世で謝りに行って成仏しな」

「か、母ちゃあああぁぁぁぁぁん!!」

 タモの絶叫と教室の同級生逹の悲鳴が重なり、銃声で黙らせた。タモのことを弔ってる暇はない、同じような強硬派の奴らがいるかもしれない。

「みんな、ここも安全じゃないわ! すぐにここから逃げた方がいいわ!」

 ラオはそれだけ言って教室のロッカーの鍵を開けて長いバッグを取り出す。その中からヘリックのR&Bスタローン社製のコンパウンドボウを取り出し、矢が入った矢筒を身に付けると教室を出る。

 廊下を出ると他の教室でもあちこと銃声や悲鳴が響いてる、隣の教室の方ではガリン族の子達が我先にと泣き叫びながら教室を出てる。ラオは知り合いの女の子――ロアンもいたのですぐに駆け寄って訊いた。

「ロアン、どうしたの!?」

「ラオ……カウン先生が……カウン先生が!」

 ロアンはガチガチに震えながら指差す、普段温厚で留学生逹にも親切に接する共通言語担当のカウン先生がどうしたの? ラオは最大級の嫌な予感がしながら教室を見ると泣き叫び、命乞いする留学生逹の声が聞こえる。

「カウン先生!」

 ラオが教室に入った瞬間、目を見開いて血の気が引いて凍りついた。

 小柄で痩身のカウン先生には大きいベルト給弾式汎用機関銃(GPNG)――NMG15の甲高い銃声とマズルフラッシュ、泣き叫びながら血飛沫を上げる生徒逹断末魔の悲鳴、至近距離から七・六二ミリフルロード弾のシャワーに、顔の半分が無くなったり、腕や足が千切れ飛んだ。

 至近距離から弾丸を浴びた生徒は顔がぐしゃぐしゃになり、真っ赤な血と共に臓物をぶちまけていた。

「はははは……おお、ラウンじゃないか……どうだ? これからガリンのために、一緒に外国人逹を殺して回ろうじゃないか」

 空虚な表情のカウン先生にラオは歯をギリギリと食い縛り、泣くのを堪えながら素早くコンパウンドボウ本体に付いたクイーバーから矢を引き、躊躇うことなく矢を放ってカウン先生の心臓を射ぬくと目を見開いたまま息絶えた。

 辺りが静まり返る、遠くには爆発音、銃声、怒号や悲鳴が聞こえる。

「まさか……」

 ここと同じようなことがチャトウィン全域で? ラオはそんなわけがないと、三階建て校舎の窓から外を見回すと、町のあちこちで煙が上がり、昨日まで独立記念祭で平和だった町が戦場と化していた。

 目眩がしそうだった、だけどの次の瞬間に湧いてきたのは失望と憤怒だった。

「ふざけるな……何がガリン民族のためよ……こんなの、ただの憂さ晴らしの虐殺よ! あんたたちそれでも人間かぁぁぁぁぁっ!!」

 校舎のあちこちで銃声や悲鳴、怒号が響き渡っていた。

 

 

 カミルがHM210の銃口を向けたまま、ノアは不敵とも悲しげとも言える笑みになる。

「君たちに目を付けて正解だったよ、古代ゾイド人の血を引く王女がいるから……大いなる力を見つけられることができた」

「ノア、君は一体何者なんだ!?」

 カミルは思わず訊くと、ノアは寂しげな表情で答える。

「イヴァーナさんが言う通り僕はテラガイスト、この遺跡に眠る大いなる力を探していたのさ、後を付けて正解だった……逃げられちゃったけどね」

 後ろで格闘戦を繰り広げていた強化歩兵とイヴァーナはお互いナイフで唾競り合いになると、強化歩兵は素早く下がってノアに言った。

「ノア、行くぞ! オーガノイドの確保が最優先だ! それとチャトウィンでクーデターが発生した!」

「了解、それじゃあ君たちも……すぐこの国を出た方がいいよ、保守強硬派がクーデターを起こしたみたいだよ」

 クーデターだって!? 昨日一緒に遊んだラオやゴードン逹は大丈夫なのか? カミルは思わず銃を下ろすと、ノアと強化歩兵は瞬間移動のごとく姿を消した。するとイヴァーナが左手を耳に当てる。

「ヨハン? 何かあったの? ええっ? クーデター!? わかったわ!」

 イヴァーナは通信を終えると、深刻な表情で二人に告げた。

「姫様、カミル君、すぐに戻りますわよ! チャトウィンでクーデターが起きたわ!」

「わかったわ! 行こうカミル君!」

 ヘルガも深刻な表情になると、カミルも頷いて急いで来た道を戻ってプレハブを出た瞬間、オメガがカミルの前に降りてきて慌てて止まった。

「オメガ!? 君は大丈夫なのかい?」

 大丈夫だと言わんばかりに鳴いて返事する言葉――共通言語(Zinglish)は通じるのか? ヘルガも決意と覚悟を問う眼差しでオメガに訊いた。

「あなたも一緒に来る?」

 オメガは迷わず鳴いて返事すると、思わずイヴァーナに微笑む。

「イヴァーナ、大いなる力は手に入れたみたいね」

「ええ、いいですかオメガ! 今後は姫様を主人として従うように! 急ぎますわよ!」

 三人はゾイドを駐機している空き地へと急いだ。

 

 

 ハロルドは戻るのを待ってると、三人が見たことのないゾイドを引き連れて戻ってきた。鷲型ゾイドの超小型ゾイドでシルヴィアの背中に乗った。当然ながらシルヴィアはこいつ誰? と尋ねるようにカミルに唸る。

『新しい仲間だよ、名前はオメガ! 仲良くしてねシルヴィア!」

『おいあれはオーガノイドじゃないか!? まさに大いなる力ってオーガノイドだったのか!』

 ヨハンは驚きを露にすると、ハロルドも同意見だ。

「ああ、こいつの力はどんなものかはまだわからないが……オーガノイドの力は絶大だ」

『ええ、ここは姫様が主人になるべきだと思うんですけど……カミル君、今からでも姫様に従うように言ってくれます?』

 イヴァーナは不満たらたらのようだが、姫様はキッとした表情でお断りと言わんばかりに首を横に振る。

『言わなくていいわ、カミル君がその力になってくれるから!』

 姫様はもうこれ以上何も背負いたくないという口ぶりだった、イヴァーナはそれを見逃さない。

『姫様! あなた――』

 イヴァーナが何か通信越しに説教しようとした時、ヨハンが割り込む。

『お説教は後だ! 何かが二機、こっちに接近してくるぞ!』

「相手してる暇はない! ここは逃げるぞ!」

 ハロルドも撤退を告げると、カミルのシルヴィアが先行してその後に姫様のリリアが続く、すると各種MFD画面が乱れてモニター通信の映像も乱れ始める。ジャミングだ! ハロルドは繋がってるうちに叫んだ。

「カミル君! 姫様を連れて逃げろ!」

『ハロルドさん……が……て……』

 激しいノイズにカミルの声がかき消されてる。強力な電子戦ゾイドが接近してる可能性があると闘技場の通路に入ろうとした時、突如通路の天井が崩落してハロルドは急ブレーキをかけた。

「危ない! クソッ! カミル君! 姫様!」

『ハロルド、大丈夫か?』

 ヨハンが無線通信に切り替えてきた近距離での通信はまだ通じるようだ。ハロルドは電子戦機対策として対電子妨害対抗手段(ECCM)とパルスガードを作動させる。

 MFD画面の乱れは改善したが、正常とは言い難い。

「すぐにECCMとパルスガードを作動させろ。強力な電子戦ゾイドが来る!」

『後方から二機の大型ゾイドが接近してくる、一機は――速い!』

 イヴァーナが告げて接近してくる方向をみると、真上に何か通過して飛び越えた。イヴァーナのマルゴは一八〇度反転させて後退しながらショートレールガンを展開させる。

 ハロルドはアリエル二世を反転させると、ハロルドは思わず操縦桿をギリギリと握り締める、大型の肉食恐竜型ゾイドだった。

 薄緑のボディにゆらゆらと小刻みに、そして不気味に揺れる巨大な背鰭、長い頭に長い尻尾、二足歩行で意外と大きな前足に鋭い爪、間違いないネオゼネバス製の大型電子戦ゾイド――ダークスパイナーで無線越しにヨハンが戦慄しているのがよくわかった。

『おいおいおい冗談だろ、こんなヤバい奴がいたのか!? クソッ近づくだけで火器管制装置(FCS)が滅茶苦茶に狂ってるぞ!』

『こちらのレールガンの照準も狂ったままです!』

 無線はまだ妨害されてないのが救いだ、するとダークスパイナーの方からモニター通信を入れてきた。

『こちらはテラガイストのゼルマ・ヘクセ・ヘーネル中尉。アーカディア王国三獣士に告ぐ、オーガノイドを引き渡して口外しないと約束するなら諸君らの安全を保証する』

 ダークスパイナーのパイロットは黒髪ショートに左目が隠れた切れ長の目付きで神経質そうな顔立ちの女で、イヴァーナは露骨に拒否する。

『お断りします! テラガイストの準軍事部門(パラミリタリー)バイパー……それも特殊部隊――シャドーね!』

 ハロルドも同意見だと頷く。

「悪いが君の求めてるオーガノイドはたった今、僕達の仲間が主人になったよ」

『あの少年とお姫様のことか……合流されては厄介だ、ここで足止めさせてもらう!』

 ゼルマ中尉の言葉と共にダークスパイナーの両肩にある一四四ミリ機関砲が火を噴く、ハロルドは回避行動を取るが操縦系統の反応が鈍い! 辛うじてかわしたが、相手はライガーゼロやケーニッヒウルフと同じく完全野生体ベースのゾイドだ。

「さて……どう戦う?」

 ハロルドは自分自身に問うと、ヨハンも同じようだ。

『ハロルド、そっちはどうだ? こっちはFCSが狂ってる』

「こっちは操縦系統だ、お前のビッグマザーは大丈夫なのか?」

『なぁに、こっちのディバイソンは俺が直々に回路に絶縁体処理してるから操縦系統は問題ない、だが奴との格闘戦は自殺行為だ』

 ヨハンの言う通り、ダークスパイナーは電子戦機の癖に格闘戦能力も高い。相手の技量にもよるが、勝機がゼロな訳ではないとハロルドは操縦桿を握り直す……アリエル、僕に力を貸してくれ。 

 

 解説

 

 ノースエウロペ・コンツェルンNMG15

 ベルトリンク式汎用機関銃七・六二ミリフルロード弾を使用する北エウロペ連合制式汎用機関銃でライセンス生産や輸出も盛んに行われてるため、世界中の戦場で見かける。車載や超小型ゾイド、歩兵携行型等バリエーションは多く、耐久性に定評がありエレミア砂漠の炎天下で三〇〇〇発以上の連続射撃に耐えたという。

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