ゾイド Wild Flowers~風と雲と冒険と~第一期   作:尾久出麒次郎

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第一〇話、その4

 闘技場に出た瞬間、後方の通路が崩落した。

 幸いハロルド達の声は聞こえて無事みたいだが、通信のノイズが激しくて聞き取れない。MFD画面も乱れている。

 近距離でヘルガとの通信はできても瓦礫の向こう側にいる三獣士の三人とは通信できてない。

『カミル君ECCMとパルスガードをONにして、電子戦ゾイドが近くにいる!』

「わかった」

 カミルはECCMとパルスガードの作動スイッチを入れるとMFD画面の乱れがなんとか改善されるが、崩落させた奴は誰だ? そう思った時、シルヴィアが唸ってレーダーにも反応が出た。

「!? ……何かがいる」

 カミルは何となく神経がビリビリしてソーアシティでゴジュラスに遭遇した時と似たような感覚でシルヴィアは威嚇の姿勢で唸る。リリアも同じで闘技場の真ん中にいる、進路上に立ち塞がるかのように奴は立っていた。

 モニター通信で二人に呼びかけてきた。

『カミル、ヘルガ、オーガノイドを渡してくれないか? この力はネオゼネバスに必要なんだ』

 無線越しに聞こえたノアの空虚な声、薄紫色のボディに長い尻尾、背部の大型バックパックにはドリルとなるマグネーザーにEシールド、一八五ミリビームキャノンを組み合わせた複合兵装のバスタークローが二基と大型スラスターを装備してる。

 ライガーゼロのライバルであり兄弟機でもある肉食恐竜型ゾイド――バーサークフューラーだ! シルヴィアにとっては因縁の相手なのか、敵意剥き出しで唸る。

 そしてヘルガも真っ向から拒否する。

『それはできないわ、オメガはもう私達――カミル君について行くつもりよ!』

『そうか、なら悪いけど……力ずくでもカミル……君ごと連れて行くよ!』

 ノアは躊躇いを捨てたような眼差しになると、バーサークフューラーの背部スラスターを噴射させ、バスタークローを前方に向けて牽制射撃してきた。

『カミル君、来る!』

「うん、オメガ! 君は逃げろ! 奴らの狙いは君だ!」

 カミルは聞こえたかどうかはわからない。だけど、あのバスタークローをまとも受けたら一巻の終わりだ! と全身から冷たい汗が噴き出す、シルヴィアは手の内を読んでるかのように的確に砲撃とバスタークローを回避すると、死角に回り込んだところでショックカノンを撃ち込む。

「そこだ!」

 怯ませるせたがフューラーはショックカノンを受けてもダメージを最小限に抑えるような動きを見せる。

『そのライガーゼロ、相当な戦闘経験を積んでるみたいだね……でも君の方はついてこれてない、ただ乗せられてるだけだ』

 悔しいが彼の言う通りだ。だけど一人じゃない! 右斜め前にいるリリアが背後から両肩のミサイルを四発発射すると二基のバスタークローを展開。Eシールドを作動させて防御しつつ、ブースターと両足のバーニアでジャンプ!

「あんな高さまで飛べるのか!?」

 ライガーやウルフでは無理な高さだ! カミルは次の瞬間、フューラーを目で追った自分を呪った、リリアはヘッドギアを被ってスナイパーライフルを展開してる。つまり視界が制限されてるから! 見失ってるかもしれない!

「ヘルガ! 上だ! 逃げろ!!」

『上ね!』

 カミルはシルヴィアを急加速させる、間に合え! リリアがすぐに急発進して回避するがそこも読んでいたのか、フューラーが着地すると同時にバスタークローで追撃をかけようとする。

「間に合ええぇぇぇっ!!」

 カミルはフューラーに跳びかかるが、左のバスタークローで凪払われて弾き返されてリリアは右のバスタークローで突き飛ばされた。

「うわぁあああっ!!」

『ああああっ!!』

 カミルとヘルガは悲鳴を重ね、地面に叩き付けられてコックピット内が上下左右に激しく振動する。リリアは素早く立ち上がり、カミルも全身の鈍い痛みに肩を上下させながらシルヴィアを立ち上がらせると、バスタークローの砲口を向けている!

「ヤバッ!」

 カミルはイオンターボブースターを点火して急発進すると同時に砲撃、あと一・何秒遅かったらやられてた! カミルはあのバスタークローさえなかったら近づけるのにと内心毒づいた。

『カミル君、大丈夫?』

「大丈夫、あいつ……滅茶苦茶強い」

『うん、でもノア君……背中の兵装……頼り切ってるのかも?』

「……ヘルガ、あれを一発で破壊できる?」

『背中のライフルならね』

「……やるしかないか……俺が引き付ける!」

『わかったわ! 気を付けて!』

 そうと決まるとヘルガはリリアの両肩のミサイルポッドを展開してフューラーに向けて四発を発射! フューラーはEシールドで防御して着弾すると、その間にカミルは煙に紛れて死角に回り込む。

「行くぞシルヴィア!」

 カミルはフューラーの懐に飛び込む、ここからはシルヴィアの独擅場だった。

『入り込まれたか!』

 ノアも困惑してるようだ、二本のバスタークローを回転させて振り回すがシルヴィアはそれを巧みにかわす。ノアの言う通りシルヴィアはバーサークフューラーとの戦闘経験豊富らしい、カミルは凄まじいGに振り回されてシェイクされるカクテルになった気分で必死に耐える。

『くっ、しまった!』

 右側のバスタークローが回転したまま深々と地面に突き刺さって抜けなくなると、カミルは千載一遇のチャンスだと思いながら後退させて叫んだ。

「今だヘルガ! 撃て!」

 フューラーはバスタークローを回転させたまま強引に地面から抉り取った瞬間、ライフル弾がバックパックを撃ち抜いて爆発! よしこれである程度弱体化した! バーサークフューラーは転倒して、カミルはまた立ち上がるかもしれないと身構えた。

 

 

 ガリン共和国首都チャトウィンのクーデターはニュース速報で世界中に報道され、ニュースは隣国マゼラン共和国のセブタウンにも届いていた。

 ジョエルはセレナやアヤメリアの誘いに乗りながらも、やはり追うのはやめるべきかと悩んでいた。

 明日のパタゴニアへの旅立ちに備えて荷物を纏めていて、我ながら自分の優柔不断ぶりに自己嫌悪して溜め息吐いてるとZiフォンが鳴る、セレナから電話だ。

「もしもし? セレナ?」

『ジョエル! 今すぐテレビ点けて! マゼラン()ナショナル()テレビ()のチャンネルに! チャトウィンでクーデターが起きたって!』

 肝が据わってるセレナがかなり慌てた口調だった。

 チャトウィンって、カミルが滞在してる街だ! ジョエルは慌ててリビングに駆け込んで、親父がビールを飲みながらサッカー中継を楽しんでるのをお構い無しにリモコンを奪い取ってMNTのチャンネルに切り替える。

「おいジョエル! お前何するんだよ!」

 親父がいきなりお楽しみを横取りされて文句言うのを気にも留めず、ジョエルはニュースに釘付けになる。

 画面に映ってるリポーターの背景のチャトウィンからは各所で煙が上がって時折銃声や爆発音が聞こえる。

『こちらはMNTチャトウィン支局です! 先ほど保守強硬派の指導者であるザリオン将軍が演説を行ってクーデターを起こし、チャトウィン市内では保守派と改革派の間で戦闘が各所で起こり、一部では虐殺も起きているという情報もあり市内は混乱の極みです!』

「大変なことになったな……こっちに難民が押し寄せて来なければいいんだが」

 親父は心配してる様子だが、どこか他人事のように見ている。

『今さ、アヤメリアから電話が来て今からチャトウィンに行ってカミルを連れ戻すって! ジョエル……あんたも行く?』

「俺は……」

 ジョエルはそこで口にするのを躊躇う、テレビを見る限りクーデターが起きてるチャトウィンは内戦状態とも言える、今行くのは死にに行くようなことに等しい。

『無理しなくていいよ、私とアヤメリアだけでも行くから……あんたも将来のことあるし』

「俺は……」

 ジョエルは葛藤しながらZiフォンを握り締める。

 思えばあいつは自分の意志を持って動いていた、バン・フライハイトに憧れを抱いたいつの頃からか、幼馴染みのアヤメリアに泣かされていたあの弱虫は変わり始めた。

『あまり悩んでる時間はないの……行くなら今しかないの』

「俺は……」

 ライガーなんて見つけられないし、手懐けるなんて無理だと周りにヒソヒソ言われて馬鹿にされても、ホバーボードで何回転んでも、命を危険に晒して生死の境を彷徨っても絶対に諦めることはなかった。

 それに比べて俺はどうだ? 親父には工場をお前が継げと言われて言われるがまま勉強し、周りの空気を読んで周りに合わせて生きて行く、カミルはそれを否定した。

「セレナ……俺は……俺は――!!」

 ジョエルは決断を下し、押し殺していた気持ちをセレナに打ち明けた。

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