ゾイド Wild Flowers~風と雲と冒険と~第一期   作:尾久出麒次郎

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実はアニメゾイド無印第一話のオマージュ満載です。


第一話、その2

 戦争遺跡から北西約一・五キロにある突き出た見晴らしのいい中腹で、隣にいるタカシは双眼鏡を覗いて様子を見てたが無線が入って思わず舌打ちした。ああ機嫌を損ねたなと、ユウスケはタカシが露骨に不機嫌な表情で無線機を取るのを見る。

『こちらドルトア! 戦争遺跡の瓦礫に挟まれてディマンティスが動けない! クソッ、コンバットシステムがフリーズしてる! 救援を要請する!』

「了解、ちょっと待ってろ!」

 無線の送信ボタンを離すと、タカシはありったけの悪態を吐き始めた。

「ったくドルトアの奴! 使えやしねぇっ! 斥候任務で野良ゾイドのフリをしてりゃいいものの、声かけられた途端自分から襲いやがった! 共和国製ならともかく、帝国ゾイドだから外から乗ってるのがバレにくいはずなのによ! 余計な仕事を増やしやがって! あいつ帝国出身じゃなかったのか?」

「仕方ないさ、帝国は帝国でもガイロス出身だ。ガイロスは一〇年位前に徴兵制度が廃止されたの知らなかったのか? それに、ディマンティスはデルポイ大陸やニクス大陸とか海の向こうに生息するゾイドだ。不審に思って近づいたんだろう」

「知ってたけどさ、まさかあんなに使えねぇとは知らなかったんだよ! ったく!」

「まっ俺も同意見だ。第二次大陸間戦争以来ガイロスとネオゼネバスは伝統的に仲が悪い、トライアングル・ダラス*1を挟んで睨めっこを半世紀年以上続けてる……そんな中で徴兵制度を廃止したのは苦渋を決断だっただろう」

 ユウスケは踵を反し、救出に向かうためブラックライモスの所へと歩き出す。

「でもよ、俺だってニートでお前はフリーターだったんだが、今じゃ一人の立派なゾイド乗りだって社長も行ってたぜ! ほらニート徴兵論とかさぁ――」

「俺たちは民間軍事会社(PMC)所属だ、軍隊とは違う。比較的自由な所でゾイドの操縦を学ぶことができたんだ。それに昔に比べて兵器やコンピュータの技術が高度化・専門化が進んで、これらを扱う軍人の専門職化が進んでる。無理矢理連れてきたやる気のない奴にやらせても軍事予算を浪費するだけさ!」

 ユウスケとタカシは社会の底辺で生活していたがPMCであるホワイトファング社で徹頭徹尾ゾイドの操縦を学び、ブラックライモス*2に乗っている。

 ユウスケはブラックライモスのコクピットに入るとシートベルトを着用、補助動力装置(APU)のスイッチを入れ、バッテリー電源をONにするとコクピット内のパネルが点灯、始動前チェックを行う。

 左から右へと各種コントロールスイッチ及び装置、ナビゲーション及び無線装置、敵味方識別装置であるIFF、操縦桿であるスロットルレバー、レーダーコントロールパネル、ゾイドの燃料である原始海水と同じ成分のリキッドイオン(ゲル状の液体であるレッゲルでも可能)コントロールスイッチ等々……これらが決まった位置にあることを確認して次に各種パネルや警告灯のチェック。

「さあ仕事だぜ、相棒!」

 ユウスケは前面計器パネル下のあるエンジンスターターを勢い良く回す。内臓電源がONになって操縦系統がゾイドの生命核であるゾイドコアに接続され、多機能ディスプレイ(MFD)が点灯し、ZOIDS ON! ブラックライモスは唸る。

 一連の動作をしなくてもゾイドは生き物だから自分で歩いたりするが、操縦はゾイドコアに接続しないとできない。精神リンクもできないことはないが、できる人は限られている。

「機嫌は良いようだな、誰かさんと違って……行くぜ!」

 ユウスケは操縦桿を左右のスロットルレバーを握り、押し出した。

 

 

 ようやく歩けるようになったカミルは体を状態を確認する。骨は折れてない、外傷も大したことないようだ、立ち上がって少し歩くとホバーボードが真っ二つと無残な姿に変わり果て、カミルは顔面蒼白になって悲鳴を上げた。

「ああっ!! 僕のホバーボードが!! どうしよう……これじゃ帰れないよ……」

 カミルは全身の力が抜けて両膝を落として、両手を地面に着けた。

 セブタウンまで約二五キロ……最低限のサバイバルキットはあるが、山を迂回するルートを通ると最低でも二~三日はかかる。

 バン・フライハイトだったらめげずに戦争遺跡で使えそうなパーツで修理しようとしたんだっけ? 改めて彼の精神的な逞しさに感服する、カミルは立ち上がって真っ二つになったホバーボードを持って遺跡に入る。

 中は薄暗く、カミルはヒップホルスターからヘリック共和国製四五口径一四連発の大型自動拳銃GF45――通常の五インチモデルの銃身を延長した、競技及び狩猟用の六インチロングスライドモデルのL型を右手で抜き、銃下部に装着したフラッシュライトを点灯させる。いつでも発砲できるようにスライドを引いて装填、セイフティレバーを下に動かしてデコッキング。

 遺跡の中は案内板が残っており中央大陸(デルポイ)語だ。この先は……格納庫と書かれている、もしかしたら動かせるゾイド――いやもう逃げ出して野良ゾイドになってるのかもしれない。

 五分くらい緩やかな左カーブの通路を歩くと、格納庫に通じる鋼鉄製の扉が立ち塞がってカミルはGF45LをセーフティをONにしてホルスターに戻すと、真っ二つになったホバーボードを置いた。

 開くといいけど……カミルは両手で扉を掴むと深呼吸して息を止め、思いっ切り力を込めて引き戸を開ける。重い! カミルが全力で振り絞ってやっと動いた、錆びついて油が切れた機械のようにガリガリと耳に障るような音が響く。

 なんとか通れるくらいまで開け切ると、荒い呼吸と全身汗まみれになっていた。

「なんとか開いた……」

 あの日から元軍人で猟師の祖父に鍛えてもらったが、やはりまだまだ未熟だと痛感する。扉に寄りかかって座り少し休憩、腰のベルトに固定した水筒を取って水を飲んだ。それで落ち着くと、GF45Lをホルスターから抜いて立ち上がった。

 扉をくぐると、中はかなり広くカミルの中学校の敷地より広いドーム球場並みの広さだった。天井が所々に落ちていて太陽光が差しているから、フラッシュライトは必要なさそうだが、端の方は暗くて見えにくい。

 カミルは慎重に格納庫を進むうちに何かがいると金属の匂いがして、ぞわっと肌で感じた。何だろう? さっきのディマンティス? それもすぐ近くいる、全身の肌に微弱な電流が流れてるような感じがする。カミルの目と鼻の先、約四~五メートル先に目が妖しく光った。

 こっちを見てる、しかも大きい。カミルはゴクリと息を呑んで恐る恐るフラッシュライトを点灯させた。

 白い装甲型キャノピーに光るカメラアイ、所々にレーザーコートが剥がれたされた鋭い牙、タテガミを思わせるバリアブルラジエーター、全身にある大小無数の傷跡は数え切れない程の死線を潜り抜けてきた歴戦の猛者の証だろう。

 大型のライオン型ゾイドのライガーゼロだ! 元々はガイロス帝国製だが第二次大陸間戦争前半のエウロペ大陸戦争時にへリック共和国軍に鹵獲されて今じゃ、へリック、ガイロス、ネオゼネバスの三カ国で使用されてるゾイドだ。

 カミルは一目でライガーゼロだと認識した瞬間、フラッシュライトに刺激されたライガーゼロは怒鳴るように吠えた。

「うわぁああああああっ!!」

 カミルは思わず両耳を塞いで両目を閉じると、凍り付いたかのように動けなくなる。

 ライガーからすれば人間なんて虫けら同然だ。生身で高速機動ゾイドに襲われる恐怖は本で読んだことがあるが、実際に体験するとは夢にも思わなかった。

 カミルは恐る恐る目を開けるとライガーゼロは顔を至近距離まで近づけて「グルル」と唸りながら舐め回すように見ている。気になるのかな? カミルはライガーゼロから視線を逸らさずにゆっくりGF45Lをホルスターに戻して両手を見せる。

「よしよし……大丈夫だよ……脅かしてごめんね……悪気はないんだ」

 カミルは優しく声をかけ、ゆっくり手を伸ばすとライガーゼロは一歩後ずさり警戒心を露にしながら威嚇する姿勢を取り、唸る。

「そうだよね。ごめんね……勝手に君の縄張りに入っちゃって……でもね、僕はずっと君に会いたかったんだ。君に会うために、強くなりたいって自分を鍛えてたんだ……まだまだ君に釣り合う人間じゃないけどね」

 カミルはそれ以上は伸ばさず優しい口調で語りかける。するとライガーゼロは真っ直ぐカミルの瞳を見つめる、まるで心の奥底まで覗かれてるようだ。自我の強いゾイドは時に人間以上の知性を見せることがあり、一目で良い人と悪い人を見分けられるという。

 自分は試されてる。ライガーゼロに相応しい人間かどうかカミルは臆することなく真っ直ぐライガーゼロを見つめる。ライガーゼロは肯定も否定することもない様子で、威嚇姿勢をやめてお腹を地面に着けてリラックスしてる様子だった。

「ああ……少なくとも、僕のことは悪く見てるわけじゃないんだね」

 もしかしたらコクピットに導いてくれるとまではいかないか、バン・フライハイトだったら乗せてたかも? まぁ僕はそんなものだったのかもしれない。そう思っていた時、格納庫の壁が轟音を立ててぶち破って奴が現れた。

『やっと見つけたぜホバーボードの小僧! よくも俺をコケにしてくれたな!』

 さっきのディマンティス! やはりパイロットが乗ってるらしく、外部スピーカー越しにガイロス訛りの共通言語(リングワ・フランカ)で怒りを露にしてる。カミルは声をかけただけで追いかけたのはこっちの方だと言いたいが、巨大な物に睨まれるという本能的な恐怖から両足がガタガタと震えて動けない。

 突然の闖入者にライガーゼロは唸って威嚇体勢に入る、だがディマンティスの狙いは自分だ。

『ほう小僧、珍しいライガーを連れてるな! 乗らせはしないぜ!』

 ディマンティスは両腕にある二連装機関銃で威嚇射撃、カミルとライガーゼロの間を引き裂くように着弾して土煙が舞い上がる。一発一発が、命を簡単に奪う銃弾が目の前の空間を貫く、カミルはガチガチと震え全身が萎縮して動けない。

 こいつは気まぐれ一つで自分を一瞬で肉塊にしてしまう! するとディマンティスは自分の入ってきた扉に向かって機関銃を撃ち込み、天井を崩して退路を断った。

 絶体絶命だ。

『そのまま動くんじゃねぇぞ小僧、このライガーはいただくぜ』

 ライガーを手懐けたと思ってる? カミルはライガーゼロと目を合わせると力強い唸りで、まるで大丈夫、諦めるなと励ましてるようだ。確証はないけどライガーゼロは味方してくれる、その気になればあいつは一捻りだ。

「ラ、ライガーゼロをどうするつもりだ!!」

『ああ? 決まってるじゃないか売るんだよ、ライガーゼロは貴重なレアゾイドだ。一〇年は遊んで暮らせる金が入るからな』

 下劣だ……ゾイドは売り物でも金づるでもない。人間と同じ生き物なのに……こんな奴に僕は……僕は……カミルは拳をゆっくりと握り締めた。悔しさと怒りが、メラメラと静かに燃え上がってきて叫んだ。

「違う!! ゾイドは売り買いするものじゃない!!」

『ほほう、そんな立場でよく言えるな』

 ディマンティスは二連装機関銃を向ける、やられる! カミルは反射的に両腕で庇って目を閉じた瞬間。ライガーゼロがカミルを庇うように前に出ると、二連装機関銃が火を噴くがそれに怯まず飛び掛る、ディマンティスはあっさりとかわした。

『おっと!! こんな狭い場所で暴れていいのか!? 小僧が下敷きになるぞ!!』

 ディマンティスは両腕の二連装機関銃を天井に向けて乱射、ドームの破片が落下してきて砕け散り、カミルを襲う。目の前に重さ数キロある建材が落ちてきて、カミルは足がすくむが、すぐに死にたくない! という生存本能が働いてライガーとは逆方向へ走る。

 クソッ! 僕がライガーの足を引っ張ってるんだ。ならば、カミルは腰のホルスターからGF45Lを抜いてセーフティOFFにして引き金を引いた。

 格納庫内に響く機関銃の銃声に比べれば四五口径弾の銃声は豆鉄砲だった。それでもカミルはディマンティスに向かって撃ちまくり、たちまちマガジン内の一四発を撃ち尽す。たちまち攻撃に気付いたディマンティスがカミルに視線を向ける。

「僕はこっちだ! 来い!」

 カミルは叫びながら格納庫の外に向かって後ろ向きに走る。僕が外に出ればあいつも追ってくる、外に出ればディマンティスなんて一捻りだ。

『テメェ逃げるんじゃねぇっ!!』

 ディマンティスはチョコチョコと動きながら背中を向け、口径も連射速度も桁違いのガトリングガンを掃射。カミルは乗り捨てられたトラックの陰に跳び込み、直撃は免れたが真上からドームの建材が落ちてきた。

 カミルは体を丸くして死に備えた。潰される! 轟音とともに歯を食いしばった……生きてる。

 その代わりライガーゼロの唸り声が耳に入った。顔を上げるとライガーゼロの下顎が見え、首を振って払いのけた。

「ライガー? 君が助けてくれたの?」

 頷いてるかのように唸る、カミルが立ち上がるとライガーゼロは屈んでコクピットを開けた。カミルは迷わず乗り込んでシートベルトを締め、安全バーを下げて始動前チェックを省き、父に教わった始動方法を思い出しながらスターターレバーを引くと操縦系統がゾイドコアに接続された。

 MFDが点灯するとコクピットを閉じて操縦桿を握る。その生命感――カミルにはゾイドが生きてるという生命の鼓動を感じた。凄い、このゾイドは桁違いだがそれに浸ってる暇はなかった。

 すぐそこまで凄まじい爆炎と爆音が複数重なり、衝撃がコクピットにまで伝わる。

「あいつの仲間か!?」

 今度こそ格納庫が砂煙を上げて倒壊した。

 

 

『ガンガン撃ちまくれ! 倒壊させて奴の動きを止めろ!』

「わかってるよ、ドルトア! お前はさっさと社長に報告して来い!」

 ユウスケは無線でドルトアの無事を確認しながらブラックライモスの電磁キャノンのトリガーをリズムよく引いて連射する。隣にいるタカシは悪態吐きながら更に、ミサイル攻撃を加えた。

『ったく! ガキ一人相手に何でこんなに使わないといけねぇんだよ!?』

 全くだ、ミサイルも電磁キャノンのバッテリー代も決して安くない。コンバットシステムをフリーズさせて社長のゾイドなら抑えられる、それで元を取り返そう。そう思ってると戦争遺跡の格納庫は轟音を立てて倒壊。

 不謹慎だがガキの頃ニューヘリックシティの世界貿易センタービルに飛行ゾイドが突っ込んだ自爆テロ事件を思い出す。

 倒壊に巻き込まれた人間は殆ど助からなかったらしい、格納庫はたちまち煙に包まれて見えなくなる。

『よっしゃあっ!! やったぜざまあみろ!!』

「油断するなタカシ、ドルトアはライガーゼロだと言ってた」

 ユウスケは各種センサーを操作して確認すると反応あり! 風で煙が晴れるとユウスケは操縦桿を握り締めた。

 白いライガーゼロは全身を震わせて埃を振り払って堂々とした姿を現し、一瞥すると天に向かって猛々しい雄叫びを上げ、大気の震動させてるかのように体が震えた。

 ユウスケと同じだったのか、ブラックライモスは勝手に一歩後ずさるとタカシは無線越しに怒鳴る。

『ユウスケ! 何ビビッてるんだ! ライガーゼロは高速機動ゾイドだ、熟練パイロットでも難しいって言われてるゾイドだぞ! あのガキが乗ってたとしても乗りこなせるわけがねぇっ!』

「わかってる、わかってるが……」

 ユウスケが身構えてるとタカシは怯まずに突っ込む、ブラックライモスは自分より大きいディバイソン*3を倒したという記録が残ってるが、それは奇襲に限ったことだ。

「おいタカシ! 正面から突っ込むな! クソッ、聞いちゃいねぇ!! どうなっても知らねぇぞ!」

 ライガーゼロも躊躇うことなく正面から襲い掛かる、今更タカシを止めても止まるあいつじゃない。クソッ! これじゃあ伝説のゾイド乗りを相手にした盗賊になった気分じゃねぇか!

 

 

 突っ込んでくるブラックライモスにカミルは臆することなく正面から突っ込み、紙一重で突撃戦用超硬度ドリルを回避すると、右前足を軸にしてスピンターン! かわされたブラックライモスは慌てて停止した一瞬の隙に跳びかかって左前足の一撃を加える、それで十分だった。

『なんだこいつ! 速いぞ!』

 敵パイロットの無線が聞える。

『そんなこと言ってる暇あったら助けろ、ユウスケ!』

『無理だ! クソッ! 当たれ!』

 もう一機は仲間を助けようと電磁キャノンを向けるがカミルはホバーボードで鍛えた反射神経でそれより速く、操縦桿を前に押し込むと全身をバネのようにしてスタートダッシュ!

「ぐうっ! 凄い!」

 コクピットのカミルは座席に押し付けられるような感覚を味わう。速度計を見ると一瞬で時速二一〇キロにまで加速し、更に加速して歯を食い縛る。

 凄い! 父さんとシールドライガーに乗ってた時以上だ。

 敵のブラックライモスは電磁キャノン、二連衝撃砲を撃ちまくるが着弾する前にライガー自身が照準から外れてる。カミルは更に加速させて、ブラックライモスの回りを円を描いて徐々に狭めるとタイミングを見計らった。

「そこだっ! はぁあああああっ!!」

 カミルは操縦桿の左片方を引っ張って急ブレーキをかけ、左に急旋回。そしてほぼ水平に跳びかかり、ブラックライモスの左脇腹に右前足でストレートを叩き込んだ。

『おわぁあああああっ!!』

 八五トンの機体に時速二〇〇キロ以上のスピードで脇腹を叩きつけられ、ブラックライモスとパイロットは耐えられず断末魔の悲鳴を上げる。

 そのまま押し倒して、離脱して距離を取ると二機のブラックライモスはよろよろと立ち上がる。カミルは安堵した、悪党とは言え無事ならいい、あとは撤退してくれることを祈りながら身構える。

 来るなら来い! カミルは操縦桿を握り締める。

『クソッ! 引くぞタカシ!』

『逃げるのか!? あんなガキに負けて!』

『馬鹿言え、相手はライガーゼロだ。しかも下手な素人以上に危険な奴が乗ってる!』

『チッ! 撤退だ! 覚えてろよぉっ!』

『奴め、まるで……まるでバン・フライハイトだ!』

 その捨て台詞が妙に耳に残り二機のブラックライモスは逃走。やがて見えなくなるとライガーゼロは天に向かって勝利の雄叫びを上げた。

 カミルは全身の力が抜けて安堵の息を吐いてコクピットを開け、ライガーゼロから降りると春の時期とはいえまだひんやりした山の空気を吸い、やっと気が休まった。

 同時に歓喜で体が震え、拳を強く握り締める。

 

 ――まるでバン・フライハイトだ!

 

 僕が……バン・フライハイト、カミルはライガーゼロを見上げて目を輝かせ、そして声の限り叫んだ。

「やった……やったぁああああっ! 勝ったぁっ! 勝ったよ!!」

 カミルは初めて味わう勝利に草地を思いっ切り転がる。学校のいじめっ子よりも怖い奴らに勝ったなんて! いや……一人で勝ったんじゃない、ライガーゼロのおかげだ。

「ありがとう、君のおかげだよ……そうだ、君の名前は……どうしよう?」

 さすがにジークにするわけにもいかない。カミルはそう考えてるとライガーゼロは屈んで頭もとの薄く消えかかった文字を見せる。中央大陸(デルポイ)語だ、えっと共通言語(リングワ・フランカ)で言えば「SYLVIA」と書かれている。

「シル……ヴィア? 君の名前は……シルヴィア!」

 名前で呼ぶとシルヴィアは嬉しそうに吠える、以前のパイロットが名前を付けたということはゾイドを生き物として接した。いい人だったのかもしれない、するとシルヴィアはコクピットを開けた。

「よし、それじゃあ帰ろう。よろしくねシルヴィア!」

 シルヴィアはまた嬉しそうに雄叫びを上げた。

 

 解説

 

・共通言語(リングワ・フランカ)

 地球移民の言葉でグローバリー三世号の乗組員たちが持ち込んだ言葉、つまり英語であるいはEnglishならぬ、Zinglishとも言う。

 

・ガリル・アーモリーGF45

 45口径大型自動拳銃、ガーディアンフォース制式拳銃。金属フレーム、ダブルアクション、デコッキングレバー兼セーフティ、ショートリコイル方式等の枯れた技術で作られたため信頼性は高い。

 ストッピングパワーを重視した45口径弾を14発装填している。他にも9mm口径型のGF9は18発、40口径型のGF40は16発装填可能である。元々民間向けだが軍や警察にも採用されて特殊作戦用GF45T、スポーツ兼ハンティング用ロングスライド型GF45L コンパクト型のGF45C、スポーツシューティングマッチ用ロングスライド、コンペンセイター付きのGF45S等がある。

 モデルはダブルカラムのM1911拳銃及びHK45

*1
デルポイ大陸とニクス大陸を結ぶ海域、ダラス海域内にある航行が困難な魔の海域

*2
帝国製サイ型中型重装甲・重武装ゾイド、腹部側面に大型電磁キャノンを装備して角は回転ドリルとなって敵を貫く

*3
共和国製の大型のバッファロー型重装甲・重武装ゾイド、前面の一七連突撃砲と鋭い角による強襲作戦を得意とする


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