ゾイド Wild Flowers~風と雲と冒険と~第一期 作:尾久出麒次郎
本日昼頃に発生した軍事クーデターはそのまま紛争に移行していた。
後にチャトウィン紛争と呼ばれる保守強硬派が起こしたクーデターに反発した保守穏健派と改革派、そして各国の外国人保護のためPMCとの間での武力衝突が発生。
保守強硬派は西区のスラムを守る多数の民兵組織を統合、バラックや倉庫にソルダットアントやディマンティスを中心とした小型ゾイドを、チャトウィンを囲む森林地帯にはスリーパーゾイドを隠し、チャトウィン包囲網を以前から用意周到に準備していた。
ザリオン将軍の演説が合図となり、保守強硬派は行動を開始して行政の目が届きにくい西区のバラックや倉庫に隠してた小型ゾイド達が進撃して三つに分かれて北区、南区、中央区に侵攻を開始した。
そして後方撹乱として様々な職場、学校、お店に潜んでいた強硬派が行動を開始して単独で銃を乱射したりする者もいれば、二~三人程度の徒党を組んで放火や略奪を起こし、徒党を組んだ者同士で合流すると、暴動に発展させた。
北区の繁華街には富裕層の外国人も多く住んでおり、貧困の中で育った彼らにとっては散々搾取した憎悪の対象で、各所で凄惨なリンチや虐殺が起き、彼らを匿う改革派や保守穏健派も対象となった。
この暴虐は民族・政治的な理由は勿論、個人的な私怨や日頃の鬱憤によるものまで及んでいた。
中央区の方はGNDAの首都防衛隊とPMCの有志連合で迎撃、南区もGNDAとPMCで防衛陣地を固め、更にラジオとテレビ、インターネットをフルに活用して民間人の避難を呼び掛けていた。
どうやってここまで来れたかは覚えてない。
ラオは背中にコンパウンドボウと矢筒を背負い、手には殺した敵から奪った古びたNK30突撃銃を持って可愛らしい制服には砂や泥がこびりついていた。
同級生や留学生、先生と学校から逃げ出すことには成功したが、途中ではぐれたり戦闘に巻き込まれて死んだり、逃げ遅れて助けてと泣き叫ぶ友達に背を向けて走ったこともあった。
そしてゴードンとサムの三人だけになってしまった。
「ねぇ……本当に南区に行けば助かるんだよね?」
サムは縋るような眼差しと口調で涙目になってガチガチ震えている、無理もない。
「ガタガタ震えてないで、歩けよ! ここで死ぬのは俺だって嫌さ!」
ゴードンも必死で恐怖を押し殺しながら後ろを警戒する、手には持つのは初めてだと言うNK30を持ってる、無理もないさ。
平和な国で野良ゾイドの駆除や公正なルールでやってきたゾイドバトルとは違って、いろんなタガが外れた紛争地帯に放り込まれたのだから、クソッ! ザリオンの奴、もし見つけたら絶対にぶち殺してやる!
ラオは親しい同級生や先生を奪い、そして大好きなこの町を地獄の戦場にした奴らが許せなかった。なにが伝統を守るんだよ、こんなのただの無意味な殺戮じゃないか!
時折聞こえる銃声や悲鳴、怒号、それを耳にするたびに誰かの命が奪われてるんだと思うと、次は自分なのかと意識してしまって泣き叫びたい気持ちになる。
ラオは保守強硬派のゾイドや民兵、荷台に機関銃を装備したピックアップトラック――テクニカルの目を逃れるため、裏通りを歩く。
目指すは避難所で自分のゾイドを預けて駐機してる施設だ。
あと二キロ歩けば到着するがとてつもなく長い。おまけにコックピットの鍵はかけてるし、高度なセキュリティがかけてある。
だから他の誰かが操縦することができない、おまけに問題は南区に行くには広い幹線道路を渡らないといけない、ラオは裏通りからビルの壁づたいに歩き、幹線道路を覗き込んで見回す。
ビル街の幹線道路は車やバス、トラックがぎっしりと破壊されて放棄されて所々に老若男女問わず苦痛に満ちた表情の死体や原型を留めてない死体が転がっている。
「行けるわ、姿勢を低くしてついてきて」
ラオは後ろの二人に合図するとゴードンは口元をへの字にして頷き、サムも半べそかきながら頷く、よし行くわよ! ラオは中腰のまま飛び出して破壊されたトラックの陰に飛び込む。
ここまで生き延びる術を教えてくれたのは死んだ兄のおかげだ。GNDAの兵士だったが、一年前に地雷を踏んで帰らぬ人となってしまった。こういう開けた場所ではスナイパーが潜んでる可能性がある。
「いい? なるべく姿を晒さないように、この辺りにはスナイパー……スコープを付けたライフルを持ってる奴がどこかのビルで見下ろしてるかもしれないから」
「OK、俺が一番気を付けないといけないな……デカくてトロい的にされそうだしな」
さすがゴードン、こんな時でもジョークを言えるなんて図太い神経に見えるが冗談を言わないともたないんだろう。ラオは優しく微笑んで頷く。
「そうね。あんたみたいな図太い神経の持ち主、死なせないからね」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! なにか来るよ!」
サムの言う通り、車と車の隙間に身を潜めてると何かが迫ってくる。足音からしてソルダットアントにしては足音が軽いし、それに足の数が多いな。
ラオはそっと顔を上げて見回すと、そいつと目が合った。
八本足で蜘蛛型コマンドゾイドに見える戦闘用ビーグルのショットウォーカーだ! 向かって右側面に
「伏せて!」
ラオの悲鳴に近い叫びと共に七・六二ミリフルロード弾が撃ち込まれ、放棄された車や野晒しの死体に穴を空ける。ラオは伏せてそのまま匍匐前進して逃れるが、サムは泣き乱して悲鳴を上げる。
「こんな所で死ぬのは嫌だぁっ! ママーッ!!」
「古典的な漫画みてぇに泣き言を上げてる場合か馬鹿野郎! 愛しのママに会いたかったら進め! このヘタレマザコンが!」
ゴードンは怒鳴り散らしながら匍匐で進むが、なんとかしないといけないと。ラオは取っておきの切り札を使うことにした。
「ゴードン、あんたはこのマザコンを連れて先に逃げて! あたしがあいつを何とかするわ!」
「でもラオ……お前一人じゃ――」
「あたしはあんたよりずっと危ない目に遭ってるわ! 速くサムを連れてあっちの路地裏に逃げな!」
「わ、わかった……死ぬなよ!」
ゴードンはそう言って泣くじゃくるサムを連れて幹線道路の向かい側に向かう、その間にラオはゴードンとサムから離れて姿勢を低くしてNK30をセミオートで撃ちながらショットウォーカーの注意を引く。
こっちが一発撃つと向こうは一〇発以上撃ち返してくる。隠れながら注意を引くと、突然引き金を引いても弾が出ない! すぐに隠れて弾切れかと右側面を見ると空の薬莢が残ってボルトが中途半端な位置で後退したままだ。
「なんでこんな時に
ラオは思わず泣き言を上げると、反応したショットウォーカーがGPMGを掃射してきてラオは咄嗟にバスの陰に隠れる。
NKシリーズは信頼性が高くて劣悪な環境下でもトラブルが少ないことに定評のある銃だが、どうやら元の持ち主は手入れを怠ったに違いない。
「……仕方ないわね」
ラオはNKを捨ててコンパウンドボウに持ち替える、もうちょっと注意を引きたかったけど仕方ない! ラオは銃撃から逃れながら背中のコンパウンドボウに持ち替え、特殊な矢を取り出す。
矢尻が超小型の信管、シャフトがプラスチック爆薬となっていて、刺さると爆発する特殊な矢だ。一発一発が高価で威力も手榴弾程度しかないが、使い方次第では強力な武器になる
「さぁ……仕留めてあげるわ」
ラオを追いかけるショットウォーカーは小型タンクローリーの上に乗って周囲を見回して探す、匍匐で見つからないように這いずり回る。小型タンクローリーは危険物の標識を付けてる。
「そこから動かないでね……」
ラオは死角に回り込むと立ち上がり、静かに構えて弓を引くと狙い瞬時に定めて矢を放った。ショットウォーカーは
炸裂矢は危険物を満載したタンクを貫いて信管が作動して起爆、満載していた燃料に引火して大爆発を起こし、巻き込まれたショットウォーカーはバラバラに爆砕された。
刺さった瞬間を確認したラオはその場に伏せて頭を守って爆発をやり過ごす、破片が降り注ぐ中ですぐに異変に気付いて確認しに来るだろうと立ち上がり、ゴードンとサムが待つ場所へと急いだ。
スリーパーゾイドの群れを突破し、追撃をかわすとチャトウィンの市街地に入るとチャトウィン市内は嘘のように静まり返っていた。
カミルはシルヴィアのコクピットの中で変わり果てたチャトウィンの様相を見回して絶句する、昨日までお祭りで賑わっていた建物はことごとく破壊され、道路には破壊されて放棄された大小様々な車がした止まったままだ。
「ここ……本当にチャトウィンなのか?」
泊まっていたモーテルも炎上していて通りはゾイドで踏み潰された跡があり、部屋には着替えだけ置いてきてよかったが、所々には老若男女問わず死体が転がっていて場所によっては一〇人程度から三〇人纏めて殺された死体があった。
ハロルドは苦虫を噛み締めたような声が聞こえる。
『明らかに虐殺も起きてるな』
『こんな惨いこと……どうしてできるのかしら……』
ヘルガは声が震えていた。するとレーダーに反応を示す電子音が鳴り、カミルは前方を見ると超小型ゾイドが何かを追いかけてるようにも見える。
「前方に何がいる! この反応は……超小型ゾイド!」
カミルはシルヴィアはカメラを拡大すると、超小型ゾイドはかつて自分を追いかけたゾイド――ディマンティスだった。GNDA所属の機体で先を見据えると思わず目を見開いて、背筋が凍り付いた。
ディマンティスが追いかけてるのは乳飲み子を抱え、小さな子供を連れて必死に逃げる母親だった。それにはヨハンも気付いた。
『おい、あれ無抵抗の民間人を追いかけてるぞ!』
『駄目だ、間に合わない』
ハロルドの諦めた声が冷たく聞こえたるが、それでもアリエル二世の背部二連装ビーム砲を展開、カミルはすぐにショックカノンを撃つ準備をして引き金に指をかけるが、そこで引けなくなる。
駄目だ……ディマンティスは母子を壁際に追い詰めてる、ショックカノンを撃っても巻き添えになるだけだ。追い詰められた母親がこっちを見てなにかを叫んだ次の瞬間、ディマンティスの大鎌が乳飲み子と子供を連れた母親に向かって振り下ろされた。
「……なんてことを」
カミルは全身の血液が瞬時に熱せられたように熱くなり、それにシルヴィアが反応すると怒りの込めた雄叫びを上げてディマンティスに跳びかかると、そのまま押さえつけてじたばた逃れようとするディマンティスを容赦なくバラバラに引き裂いた。
畜生……あと数秒見つけるのが速かったら、カミルは悔しさを噛み締めるとイヴァーナが諭す。
『カミル君、悔しいのはわかります』
「……イヴァーナさんにもそういう経験あるんですか?」
『ええ、数えきれないほどよ。だからこそ、生き延びて……助けられなかった人達の分まで生きるのです』
イヴァーナの言葉に納得できたかどうかはわからない、だけど今はなんとかして生き延びないといけない。カミルはディマンティスに殺された母子に一瞥する、幼い二人の命を庇うようにして虫けらのように潰された無惨な死体に冥福を祈る。
助けられなくてごめんなさい、カミルは最期の瞬間に助けを求める母親の表情が頭から離れなかった。モニター越しに見つめるヘルガもなんとも言えない複雑な表情を見せていた。