ゾイド Wild Flowers~風と雲と冒険と~第一期 作:尾久出麒次郎
しばらく進むと、ビルの陰からソルダットアントにディマンティスも次々と現れて一番前を歩いてるヨハンのビッグマザーが一七連突撃砲を向ける。
『さっきの奴らの仲間だな! こいつら――』
『待ってヨハン! 屋内に隠れてる人達がいるかもしれない……メガロマックスは控えた方がいいわ』
ヘルガの言う通り今この周りの建物の中にも身を寄せあって隠れてる人達がいるかもしれない、どうする? するとハロルドはモニター通信でカミルに言う。
『カミル君、火器の使用は最小限に、僕と一緒に前に出て白兵戦に持ち込むぞ』
『わかりました……行くぞ、シルヴィア! 白兵だ!』
カミルはアリエル二世と並んで先行し、ソルダットアントやディマンティスの群れに襲いかかる。歩くと広いが二機のライガーだと狭い幹線道路でソルダットアントを一撃で引き裂く。
「次!」
カミルはホバーボードで森を疾走する時に鍛えた判断力が、まさかここで役に立つとは思わなかった。次のソルダットアントは前足で押さえて真っ二つに噛み千切り、そのまま放り投げてビルの壁にぶつける。
「潰れろ!」
カミルは次のターゲットをディマンティスに狙いを定めて跳びかかり、前足で叩き潰し、後ろ足でソルダットアントを蹴飛ばした。目についた敵ゾイドを手当たり次第倒してる間もハロルドの視野の広さに、経験の差を思い知らされる。
『ヨハン、イヴァーナ! そっちにも沸いてきたぞ!』
ハロルドの通信に一瞬だけ周囲を見回すと、後方の三機の周りにもソルダットアントやディマンティスが沸いてきたが、ヘルガのリリアとヨハンのビッグマザーがイヴァーナのマルゴを守るように次々と蹴散らす。
どこまで行けばいい? どこまで蹴散らして進めば安全圏内に入るんだ?
カミルは全身の疲労が蓄積し、いつの間にか肩で呼吸していて全身の筋肉が鉛のように重く感じて肺は酸素を求め、心臓は鞭を打つかのように鼓動を続けて全身に血液を循環さえていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……こいつ!」
纏わりつこうとするディマンティスを、外す方が難しい至近距離でショックカノンを撃ち込み、撃破すると次の敵に狙いを定めるとレーダーに反応があり、新手か!? 南区の方から一機のゾイドが接近してくる。
一機のゾイドは走りながら手近なソルダットアントやディマンティスを撃破しながら接近してくる、誰だ? 視認しようとすると、ハウンドソルジャーが目の前のソルダットアントをクロスソーダーで貫いた。
コックピットに「RANA」とペイントされた機体、ラオだと確信するとモニター通信が入る。
『カミル! ヘルガ! 大丈夫!?』
『ラオ! よかった、無事だったんだね!』
ヘルガは安堵した表情になると、ラオも安堵した笑みで頷く。
『ここから二キロ先に味方の防衛線があります! 皆さんついてきて!』
ラオが先導するとすぐにイヴァーナが指示を飛ばす。
『カミル君、ハロルド、ラオさんの援護に回って! 姫様、後少しです!』
『了解、カミル君、僕は左を守るから君を右を守ってくれ!』
ハロルドの指示にカミルは「わかりました!」と頷くと、そのままラオの援護に回る。ラオを守らないといけないが、それ以前に自分を守らないといけない。
一昨日の駆除作戦にはいなかったディマンティスにカミルはラオに注意を促す。
「ラオ、気を付けて! ソルダットアントに加えてディマンティスまでいる!」
『ええ、市街戦用にGNDAがネオゼネバスから輸入したって聞いたけど、こんなに沢山いるなんてね!』
ラオも走りながら二種類の昆虫型ゾイドを蹴散らす、南区の防衛線はすぐそこだ。
最初に南区を来た時の印象はまるで町全体が軍事基地のようだという印象だったが、クーデターが起きてからは一層その姿を見せていた。
あちこちでPMCやGNDAの大小様々なゾイドや軍用車両が行き交う、無線を開いてみるとあちこちで怒号や指示、要請が飛び交っている。
『避難民をチャトウィン国際空港に収容してるがもうすぐ満杯になる! 新たな避難場所を! このままでは輸送ゾイドの着陸地点が確保できない!』『こちら第二〇二砲兵大隊! もうすぐ弾薬が切れる! すぐに補給が必要だ!』『中央区に展開してる第三一五旅団より航空支援要請あり! アールグレイ第五飛行隊向かえるか!?』『各野戦病院より要請! 避難民の中に医者や看護師、とにかく医療従事者の協力を募ってくれ! 人手が足りないそうだ!』
カミルとヘルガ、そして三獣士一行は空いてる臨時の駐機スペースでシルヴィアを停めると、頭を下げてコックピットを開け、降りて地面に足を付けた瞬間に緊張を緩めると疲労がドッと押し寄せて体が重くなり、両膝関節を曲げてその場で両手を付いて肩で呼吸する。
オメガもシルヴィアから降りてそばで心配そうに鳴くと、ヘルガも駆け寄ってきた。
「カミル君! 大丈夫!?」
「うん……大丈夫」
カミルは顔を上げるとヘルガの表情も疲労が溜まってるようだが、そこへボロボロの制服姿のラオが駆け寄ってくると、真っ先にオーガノイドのオメガに目が入ってきょとんとした表情で訊いた。
「カミル、ヘルガ――って、その子は?」
「遺跡で見つけた新しい仲間のオメガよ」
ヘルガは単刀直入に言うとラオは少し驚いてるようだった。
「そ、そう……それより二人とも大丈夫?酷く疲れてるよ!」
「うん、遺跡で……色々あってね、ラオこそ大丈夫?」
ヘルガはノアがテラガイストでオーガノイドを連れていたことを伏せる、カミルも同じ気持ちだった。まさかあの愛らしい男の子がテラガイストの諜報員だったなんてとてもじゃないが言えない。
ラオは唇を噛み締めて震える。
「あたしは……あんまり大丈夫じゃない。学校は先生たちが留学生の人たちを殺しちゃうし……つい昨日までさ……お祭りで一緒にお酒飲んで食べて、歌って踊って、騒いだ人たちが……今は銃を向け合い、刃物で切り裂き合い、鈍器で殴り合ってるのよ……こんな理不尽なこと起きていい訳ないわ」
ラオの瞳から涙が溢れ、そして憤怒と憎悪に満ちている、イヴァーナは複雑な眼差しで見据えるとみんなに言う。
「姫様、カミル君、私とヨハンは脱出の手筈を整えます……ハロルドは二人をお願い!」
「了解した。姫様、カミル君、少し休みましょう……特にカミル君は休んだ方がいい」
ハロルドの言う通りだ。オーガノイドと合体したバーサークフューラーと戦ったんだ、生きてる方が不思議だった。
ジョエルはマリンと名付けたスカウトサーバルのコックピットに入る、ゾイドの操縦方法はVRゲームと整備工場の仕事の手伝いで覚えた。ごめん親父……工場は継げない、俺はやっぱり自分を誤魔化して生きて行くなんて俺にはできない。
合流場所であるセブタウンの街道に出ると、セレナがエレナと名付けたシャドーフォックスとアヤメリアがテレサと名付けたシャドーフォックスが待っていて、ジョエルはモニター通信で繋ぐ。
「すまん、二人とも待たせたな」
『ジョエル、本当にいいんだね? 二度と帰って来れないかもしれないよ』
普段は明るくセレナはシビアな表情を見せると、ジョエルは愚問だと頷く。
「そういうお前こそパタゴニアに行って現状を世界に暴いてやるとは言ってなかったか?」
『そうだけど……大人になってからでも遅くないわ、実はあたしもカミルのこと尊敬してたの……誰かに敷かれたレールの上を歩くんじゃなくて、自分で自分の行く道を決めるんだって』
セレナは少し照れ臭そうに言うと、アヤメリアは呆れたと溜め息吐く。
『それなら言っておけばよかったじゃない! さぁ……あの馬鹿をお姫様から取り戻して連れて帰るわよ!』
ジョエルは頷き、セレナも微笑んで進路を
『なんだか、古典的な冒険RPGみたいね!』
「それって
ジョエルが冗談のつもりで言うと、アヤメリアは真に受けてしまう。
『そうよ! ヘルガは決して悪い子じゃないわ! だけどカミルの心を虜にして連れ去った、お姫様の姿をした魔女よ! 追いかけてカミルに恋の魔法を解いて連れ戻すのよ!』
「アヤメリア、本気で言ってるのか? カミルは自分の意志でヘルガを追いかけたんだ、あの様子じゃ本気だったぞ」
ジョエルは苦笑しながらも、もしカミルがバン・フライハイトみたいに歴史に名を残すとしたら? 国の壁を越え、身分の壁を越え、そしてまだ見えない壁を越えてお姫様との恋を成就させとしたら? そう考えてると、セレナは無邪気に笑いながら問う。
『ねぇねぇもしさ、カミルが身分の差を乗り越えてあのお姫様と結ばれたとしたら、どうなると思う?』
『どうなるって……それこそカミルが王室に婿入りするか、ヘルガが王室離脱するかよ……ヘルガは普通の女の子になりたいって言ってたから』
アヤメリアの言う通りあの冒険から帰ってきた後、カミルはヘルガが普通の女の子になりたいという願望を抱いてたことを話していた。
「囚われのお姫様かもな……ヘルガは」
『えっ? どういうことジョエル? ヘルガが囚われのお姫様だなんて?』
アヤメリアが首を傾げるとセレナが見抜く。
『ヘルガがアーカディア王国の王室に囚われてるってこと?』
「ああ、身分そのものに囚われてるんだ。あいつが救えるかどうかはわからないが……もしあのお姫様を救い出す……見方を変えればお姫様を外の世界に連れ出し、拐おうとしてるのかもしれないな」
ジョエルは苦笑しながら言う。もし成し遂げることができたらバン・フライハイトが世界を救った英雄なら、カミル・トレンメルはお姫様を城から外の世界へ拐った勇者と呼ぶべき存在になるかもしない。
そう考えてるとアヤメリアは真っ向から否定する。
『だったら余計危なっかしいわ、幼馴染みとして放っておけないわよ! あの勇者気取り、絶対に捕まえて全うな人生に連れ戻してやるわ!』
『アヤメリアまだカミルにフラれたこと引き摺ってるの?』
セレナはジト目で言うと、アヤメリアは首を横に振る。
『引き摺ってない! とにかく、あの馬鹿を連れ戻すためにどこまでも追いかけるわよ!』
『南エウロペのアーカディア王国まで? 長い旅になるわよ』
『当たり前でしょ! それに、ガリンで捕まえればすぐ戻って来れるわ!』
アヤメリアとセレナのやり取りにジョエルは微笑む、多分チャトウィンでは捕まえられない、長い旅になるだろう。だが親には言ったんだろうか?
『お前ら自分の親には言ったか?』
ジョエルの質問にアヤメリアは頷いて答える。
『うん、カミルのこと追いかけるって言ったらおばさんに言ったわ! 両親とは大喧嘩したけど』
『あたしも! 勘当だって言われちゃったけどね!』
セレナも悪びれる様子もなく、逆にジョエルに訊いた。
『ジョエルはどうだったの?』
『俺か? 俺は何も言わずに置き手紙残して行ったよ!』
ジョエルはどうせ親父に怒鳴られるだけだと思って置き手紙を残した、アヤメリアは呆れた顔になる。
『呆れた……まっ、あたしも人のこと言えないけどね』
『アハハ……さて、早速問題発生よ……フレンドシップタウンにマゼラン軍が集結して国境を封鎖するらしいわ』
セレナの言う通り先を急いだ方がいい、さぁ……冒険の始まりだ!