ゾイド Wild Flowers~風と雲と冒険と~第一期   作:尾久出麒次郎

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第一二話、その1

 第一二話、離別、本当の旅立ち

 

 テントが立ち並ぶ南区中心部も怒号や指示が飛び交っていた。

 カミルはオメガをシルヴィアの背中の上で待機させ、ハロルドが前を歩いてテントの前で待ってるヨハン、イヴァーナと合流するとイヴァーナは開口一番ヘルガに告げる。

「姫様、脱出の手筈が整いました」

「次の行き先は?」

「ここから南西に向かって三〇キロ先にあるムダルラ共和国に行きましょう。少々遠回りですが政情不安なビース共和国よりはマシですし、そこから西に向かって行きましょう」

「わかったわ、南西の方はどう? 抜けられそう?」

 ヘルガは訊くとヨハンが答える。

「はい、包囲網の突破にアーカディアとネオゼネバスのPMCに協力を得ました」

「協力?」

 ヘルガはイヴァーナに視線をやると、彼女は頷いて答える。

「はい、アーカディアのトラベラー・セキュリティ社が脱出時に国境付近までカノントータスによる支援砲撃、護衛にはネオゼネバスのクーガル()ミリタリー()サービス()社が国境まで同行してくれます」

「随分至れり尽くせりだな、しかもネオゼネバスの会社に一番危険な仕事をさせるとはな……支払いは大丈夫なのか?」

 ハロルドは怪訝な目で見つめると、イヴァーナは気にも留める様子もない。

「ええ、請求書はアーカディア王国国民議会ではなく元老院に直接送るように言いました……あそこなら少々後ろめたい出費が出ても追求はできません、それに……CMS社は喜んで格安で引き受けてくれるそうです」

 カミルは一歩引いた場所からイヴァーナの言葉には限りなく純度の高い黒い影を感じ、ヘルガに耳打ちして訊いた。

「ヘルガ、どうして国民議会じゃなくて元老院に?」

 ヘルガは歩きながらなんとも言えない複雑な表情を見せて話し始めた。

 

 うん、アーカディア王国は二院制で上院が元老院、下院が国民議会……私が話すのもなんだけど今の王国政府や官僚機構は贈収賄の汚職が蔓延していて、特に元老院の腐敗が酷いってお祖父様が言ってたわ。

 お祖母様が亡くなった混乱に乗じて、王国政府や官僚機構を強権化させる法案が成立されたの。それで王室の権限が弱体化してしまってお父様も元老院最高議長の娘と望まない政略結婚させられて、それで私のお母様と秘密裏に大恋愛をしてたの。

 お祖父様も、もしあの時強く振る舞っていれば腐敗を招くことはなかったと後悔してたわ。アーカディア王国は以前よりも国家規模の割には細分化された政府組織や官僚機構のおかげで無数の派閥や利害関係が複雑化して……一つの法案を成立させるのに何十もの委員会や公聴会、各省庁の認可が必要なくらいになってしまったの。

 しかも、国民に寄り添った法案を成立させるのに何年もかけるのに、税金の引き上げや貴族、富裕層を優遇するような法案をすんなり成立させてしまうから、国民の不満は言うまでもないわ。

 いつクーデターや反乱――いいえ最悪ここのように内戦が起きてもおかしくない、だから私が力を蓄えてアーカディアを救わないといけないの。

 

「こちらへ、CMS社の方がお待ちになっています」

 イヴァーナが中に入るよう促したのは大型の軍用テントで、中に入ると地図が置かれたテーブルの傍にCMS社のコントラクター二人が立っていて、カミルは思わず目を見開いてヘルガも驚きの表情を見せた。

「やぁカミル、ヘルガもまさかこんなにも早くまた会うなんてね」

 ついさっき一戦を交えたノア・カワシマ・アイゼンハイムが微笑み、鶴型の白いオーガノイドが挨拶するかのように鳴く。もう一人は黒髪ショートカットの白人女性が不満げな表情と口調で自己紹介する。

「初めましてCMS社ガードセキュリティ部門のゼルマ・ヘクセ・ヘーネル。こちらは部下のノア・カワシマ・アイゼンハイムです」

「ほう……さっきのダークスパイナーの君じゃないか」

 ハロルドも微かに驚きの笑みを見せるとカミルも同じ気持ちだった。

「ノア……テラガイストがどうしてここに?」

「はぁ……クォーリさん、わかりやすく説明してくれますか?」

 ゼルマは腕を組んで口元をへの字にして固く口を閉ざし、睨み付けるようにイヴァーナを見つめると彼女は頷く。

「ヘーネルさんの表の身分はCMS社の社員、ノア君に至っては留学生で現地雇用のアルバイトですけど……実態はテラガイストの工作員ですよね? CMS社は社員の中にテラガイストの工作員を紛れ込ませて世界各地で諜報活動をしてることはASISの頃から知ってましたから」

「まさか……ネット上でCMS社にはテラガイストの工作員も多く在籍し、そこから各国で諜報活動してるという噂が本当だったとはね」

 ヨハンは苦笑し、イヴァーナは凄みのある笑みをゼルマに向ける。

「それに、CMS社員にテラガイストが紛れ込んでいたうえに学術的価値のある古代遺跡の盗掘に破壊行為、この事実が表に出たら大変なことになりますからね……勿論決定的な証拠を押さえてることもお忘れなく」

 イヴァーナは不敵な笑みで上着のボタンに触れる、ボタンに小型カメラを仕込んでるのかもしれない。ゼルマは軽く溜め息吐いて、不満げな表情のままテーブルの上に広げてる地図を見下ろしながら訊く。

「それで? 作戦内容を説明してくれます?」

「今から、お詳細をお話します」

 イヴァーナはガリン脱出作戦の手筈をみんなに説明を始めた。

 ムダルラ共和国までの道のりを無人航空機(UAV)型ゾイドが上空を偵察、比較的安全なルートを選定中で、選定作業が終われば出発してCMS社のゾイドが護衛しながら国境まで同行、敵が現れた場合には要請に応じてトラベラー社のカノントータスが支援砲撃を行うという。

 イヴァーナが一通り説明を終えると、ハロルドは質問する。

「CMS社の護衛戦力は?」

「私のダークスパイナーとノアのバーサークフューラー、それからエレファンダー二機の分隊とブラックライモス八機とレブラプター八機の二個小隊で護衛します」

 恐竜型大型ゾイド二機にエレファンダー二機、ブラックライモスとレブラプターの八機ずつつけた護衛、かなり大掛かりだとカミルはふとヘルガの横顔を見ると複雑な眼差しで地図を見つめていた。

 

 ルートの選定が決まり、いよいよ脱出作戦の準備に入る間、カミルはヘルガとお世話になったラオたちに別れの挨拶する。

 ラオは名残惜しそうに二人を見つめる。

「本当に行くんだね。ヘルガ……」

「うん、ラオ……今日まで私のこと良くしてくれて本当にありがとうね、楽しかったわ!」

 ヘルガも名残惜しさを押し殺したような表情で言う。サムは周囲に怯えてばかりだが、ゴードンはカミルに礼を言う。

「カミル、お前と一緒に遊びたかったぜ! サムに物怖じせずにズバズバ言う奴初めてだったからよ!」

「う、うん……ありがとう、ゴードンとサムたちはこれからどうするの?」

 敵に囲まれた状況でどうなるんだろう? カミルは訊くとヘルメットとボディアーマーを装着して姿勢を低くして怯えるサムが答える。

「ほ、本国から救援が来るってパパが言ってた! ……パパの知り合いに国防総省の高官がいるから! 感謝しろよ!」

「ああ、お前の親父にな! 帰ったらマゼランの田舎者に論破されたって話しておくよ!」

 いつ砲弾が飛んで来てもおかしくないこの状況にも関わらず、ゴードンは豪快に笑うとラオも笑いサムは気まずそうな表情になる。

「えっとサミュエル君……自慢ばかりするんじゃなくて自慢される人になるように努力しようね」

 ヘルガは苦笑しながらフォローするとラオは見回しながら訊いた。

「それとさ、ノア見てない? Ziフォンで連絡すると返事は来るから生きてるみたいだけどさぁ……いくらSNSで無事だって言っても実際に顔を見せてくれないと安心できないの」

 それでカミルは思わず息が詰まりそうになって、ヘルガと目を合わせると彼女は口にするのを躊躇ってるようだ。

 ネオゼネバスの留学生がまさかテラガイストのスパイだなんてとても言えない、カミルは少しの間目を閉じるとゆっくり見開いて重い口も開いた。

「ノアに必ず伝えておくよ、ラオが心配してるって」

「頼んだわよカミル、ヘルガ……絶対に生きてこの素敵な王子様と幸せになってね」

 ラオはカミルに託し、ヘルガを見つめて言うと彼女は頬を赤らめて頷いた。

「うん、ラオも絶対に死なないでね」

「勿論よ、あたしにはやるべきことがあるから!」

 ラオの言うやるべきことは何だろう? カミルは訊こうとした時、イヴァーナが告げる。

「姫様カミル君、時間です」

 ヘルガは頷いて三人に「それじゃ」と踵を返すとカミルも「さよなら」と言って後に続く、どんな眼差しと表情で見つめてるんだろう? カミルは振り向きたい衝動を押さえながら駐機場に向かい、シルヴィアのコックピットに入って座席に座った。

 コックピットを閉じて始動前チェックとエンジンスタートを行うと、モニター通信をノアに繋ぐ。

「ノア、ちょっといい?」

『うん、どうしたのカミル?』

 ノアの澄み切った眼差しで見つめるとカミルは伝えた。

「ラオが君のことを心配してた……ラオには僕もヘルガも君がテラガイストだってことは伏せてる、だから直接顔を見せて安心させてあげて」

『わかった、この任務が終わったら会いに行くよ』

 ノアはニッコリ笑顔で頷く、こんな愛らしい男の子がテラガイストでバーサークフューラーに乗ってるなんて知ったらラオやゴードン、サムはどう思うんだろう?

 

 チャトウィンを出ると前衛にヨハンのビッグマザー、後ろにヘルガのリリアが歩く、その直掩として背中の砲塔をガトリング砲とミサイルポッドの複合兵装であるアサルトガトリングユニットを装備したエレファンダー・アタッカーが左右に二機。

 その内側左にカミルのシルヴィア、右にハロルドのアリエル二世。

 後方警戒と指揮にイヴァーナのマルゴが続く、前方の斥候にノアのバーサークフューラーとCMS社のレブラプター二個小隊のベルケ隊と殿にブラックライモス二個小隊のエルマ隊、ゼルマのダークスパイナーは背鰭のジャミングブレードを外し、(かに)型の重装甲ゾイドのキラードームを載せたキラースパイナーとなっていた。

 

 解説

 クーガル・ミリタリー・サービス社 通称CMS

 ネオゼネバス帝国のクーガルグループのPMCで本国以外にもロンディニュウム、ニューヘリックシティ、ブルーシティにもオフィスを置く、ネオゼネバスの退役軍人の再就職先で表向きは身辺警護や重要施設の警備、軍需物資輸送だが、テラガイストのカバー企業で表向きでは退職した工作員も多く在籍している。

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