ゾイド Wild Flowers~風と雲と冒険と~第一期 作:尾久出麒次郎
カミルは成り行きとは言え昼間に戦ったノアたちにまさか護衛されるとは夢にも思わなかった、東洋の古い言葉に「昨日の敵は今日の友」或いは「
チャトウィンを出て二〇分経過すると先行してる斥候のレブラプター部隊から通信が入る。
『ベルケ1より全機! ソルダットアントのスリーパーが多数目視で確認した! レーダーにも多数あり』
『こちらベルケ8、夥しい数のソルダットアントがいる! 襲って来る! 奴ら待ち――』
ベルケ8の無線が途絶えてノイズにかき消されると、レーダー上でベルケ8の反応が消えると、代わりにデータリンクで無数の小型ゾイドの反応が出て全身の毛が逆立つような気がして、ハロルドがモニター通信で一言を強く入れてきた。
『カミル君、いよいよだ……絶対に死ぬな!』
「はい!」
カミルは返事する間も、小隊長が必死で呼び掛ける。
『ベルケ1よりベルケ8応答しろ! クソッ! ざっと数えて三〇機はいるぞ! しかも街道を塞いでる!』
『こちらエルマ1! 後方からも反応が多数! 旧式とは言え何でこんな発展途上国の軍隊がこれだけ数を揃えられるんだ!?』
後方を警戒してるブラックライモスからも通信が入り、後方のレーダー画面も反応がびっしりと出て完全に囲まれた状況になり、狩りの獲物にされたような気分で背筋が凍りそうで本能的な恐怖を感じてるとゼルマが叫ぶ。
『
前衛のヨハンがビッグマザーを立ち止まらせると、ベルケ隊に注意を促す。
『よし! ベルケ隊は射線から退避せよ、ロックオン!』
『ベルケ1了解! 各機射線から退避しろ、ディバイソンのメガロマックスが来るぞ!』
ベルケ隊のレブラプターは向かってくるソルダットアントの群れに両腕のビームガンを撃ちながら退避する。
『メガロマックス・ファイヤー!!』
ヨハンがコールするとビッグマザーの一七連突撃砲の砲口が輝き、一斉にホーミング砲弾が放たれて先陣を切って向かってくるソルダットアントを撃滅すると、ノアのバーサークフューラーがビッグマザーの前に降り立つ。
『荷電粒子砲で道を開きます! 援護を!』
『了解、ベルケ隊は全機バーサークフューラーを援護!』
ゼルマが指示すると、バーサークフューラーは両足のアンカーを降ろして尻尾の放熱フィンを上下に展開しながら口腔内の砲塔が前方にスライドする、その間にバスタークローを前方に向けてチャージを開始する。
『フルバースト!』
ノアがコールすると同時に荷電粒子砲と二門のビームキャノンが放たれ、真っ暗闇の森に挟まれた街道が一瞬だけ昼間のように明るくなり、数十メートル後方にいたカミルも思わず左手をかざす程だった。
三本の眩い禍々しいエネルギーの奔流が群れを飲み込む。発射時に生じた衝撃波で吹き飛ばされ、掠めただけで表面は勿論内部の電子機器や駆動系が焼け爛れ、弾薬や燃料を誘爆させて全身或いは一部を容易く吹き飛ばす。
直撃を受けて飲み込まれたソルダットアントたちは金属のボディを一瞬で原型を留めない程にまで溶解し、蒸発し、プラズマ化した。
スリーパーの中に紛れて指揮を取っていた有人型のパイロットは視界が真っ白になって一瞬だけ全身を焼かれる激痛を感じ、次の瞬間には骨や髪の毛、細胞一つも残さずこの世から消えたに違いない。
両側面からもソルダットアントの群れが姿を見せると、カミルはいよいよだと気を引き締めてゼルマは二機のエレファンダーに指示する。
『両サイドからも敵が来る! アタッカー1及び2攻撃を開始せよ!』
『アタッカー1了解、攻撃を行う』
『2了解!』
二機のエレファンダーが攻撃をアサルトガトリング掃射を開始すると、イヴァーナがチャトウィンで待機してるトラベラー社の砲兵隊に支援要請する。
『クォーリよりトラベラー隊、支援砲撃を要請、座標をデータリンクします!』
『了解、進撃中の味方機へ被害予測範囲をレーダーに表示、すぐに着弾地点から距離を取れ!』
レーダー上に被害予測範囲が表示されるとカミルはすぐに退避して距離を取る。反対側にいるハロルドの方は退避しながらも可能限り被害予測範囲に誘き寄せてる、さすがだと思いながらカミルはソルダットアントを潰しながら退避する。
『砲撃用意、撃て!』
砲兵隊長の号令して数秒後に着弾。爆炎と共に木々やソルダットアント達が木の葉のように吹き飛ばされる、だがそれでも数が減る様子はない。ソルダットアントたちは二三ミリガスト式機関砲や腹部に搭載したビーム砲を撃ってきた。
ヘルガは外側を護衛してるエレファンダー二機、内側を護衛してるハロルドやカミルが逃したソルダットアントを一機ずつ一撃で仕留めていた。まだ国境まで遠い、こうしてる間にも自分のために命を落とす人が増えていく。
『こちらエルマ6取り付かれた! 離れない! 助け――』
パイロットの悲鳴の後は通信が途切れ、同時にレーダーからも反応が消える。
その度にヘルガは操縦桿を握り締め、口の中に苦いものが広がるような気がして表情が歪むのを堪える。こうしてる間もイヴァーナは自分の一挙一動を見逃さずに目を光らせてる。
カミルのシルヴィアが全身を駆使して一度に三機のソルダットアントを葬ると、一機が抜けた。
『ヘルガ! そっち行った!』
「OK!」
ヘルガは正面から飛びかかってくるソルダットアントを前足で薙ぎ払って地面に叩き付けると立ち直る暇を与えずに胴体に爪を叩き込んで仕留め、国境に向けて進むとハロルドが叫ぶ。
『アタッカー2! 深入りし過ぎだ! 後退しろ!』
『了解! 取り付かれた! ポイズンニードルだ! 操縦系統が言うことを聞かない! 嫌だ……嫌だ! 死にたくない! 来るな来るなぁぁぁぁ――』
アタッカー2が身の毛もよだつ叫び声と共に金属のひしゃげる音がした瞬間、無線が途切れてレーダーから消える。ヘルガはレーダーから消えた場所を通過すると、アタッカー2のエレファンダーは複数のソルダットアントに集られ、コックピットは抉じ開けられてパイロットは無惨に虫のように潰されていた。
カンカー平野の時に見たことがあると、ヘルガはリリアの速度を落とすとイヴァーナの檄が飛ぶ。
『姫様、立ち止まってる暇はありません! 一瞬でも止まったら取り付かれます!』
「わかってるわ」
ヘルガは表情に出さないように、必死で堪える。
『ここで死んだら、多くの犠牲が無駄になります!』
その犠牲を強いてきたのはイヴァーナでしょ! ヘルガは込み上げてくる言葉を嘔吐物のように押さえるその間にもCMS社の部隊は次々と通信が途切れ、レーダーからも反応が消えていき、ヨハンが叫ぶ。
『エルマ隊の半数がやられた! ベルケ隊も残り三機!』
『国境まであと一五キロ! 全機最後まで諦めるな! 持ちこたえろ!』
ゼルマは叫びながら迫ってくるソルダットアントの群れに、背中のキラードームの外周のレーザーを撃ちながら迎撃、それでいて絶対に
そうしてる間もどんどん数が減り、後方のブラックライモス隊の最後の一機がソルダットアントに取り付かれ、パイロットの悲鳴が耳に響く。
『こちらエルマ2! 操縦系統が麻痺してる助けてくれぇぇぇっ!』
『トラベラー隊、支援砲撃を要請。座標をデータリンク』
イヴァーナの冷淡な声と共に後方の被害予測範囲が表示され、その中にあのブラックライモスがいたが次の瞬間にはレーダーから消えた。
イヴァーナは本当に血も涙もない! この旅が始まってから、自分とは何の関係もない人たちを巻き込んで自分のために命を捨てることを仕向けている。
『了解、砲撃する! ……砲撃用意、撃て!』
トラベラー隊の砲撃により後方で爆炎が上がる。ヘルガは心の中で何度も謝る、ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい! すると取り付かれたエレファンダーのパイロットが叫ぶ。
『そっちに一機抜けたぞ! お嬢ちゃん! 逃げ――』
無線が途切れ、レーダーから消えるとイヴァーナが叫ぶ。
『姫様!』
イヴァーナの声にヘルガがハッとするとソルダットアントが一機抜け、衝撃でコックピットが激しく揺さぶられる、取り付かれた! ヘルガは必死でリリアを動かして振り払おうとするが離れない! ここで死ぬわけにはいかない……だから!
『ヘルガ!』
カミルの乗るシルヴィアが駆け付けて噛みついて引き千切って吐き捨てた次の瞬間、背後からソルダットアントが群がり、三機がシルヴィアに取り付いた。三機ともポイズンニードル付きだった。
ヘルガは大きく目を見開いた、あのポイズンニードルで刺されたらライガーゼロと言えど動けなくなる。
「駄目ええええぇぇぇっ!!」
ヘルガは叫びながら走り一機を前足の爪で引き剥がすが、残りの二機がポイズンニードルで刺した! 毒針に刺されたシルヴィアは悲鳴を上げる。
「カミル君!!」
ヘルガには一瞬で貞操を奪われ、尊厳が踏みにじられ、陵辱される苦悶と恐怖が混じり合った悲鳴にも聞こえ、背筋が凍り付いて全身の体毛が逆立つように感じた。
『ヘルガ! 先に行け! 俺は大丈夫! すぐに追いかけるから!』
無線越しにカミルの声が響くが、それに混じって警報が鳴り響いてる。
『カミル君最後まで諦めるな! 僕と姫様が君を守る!』
ハロルドが駆け付け、一緒に二機とも引き剥がす、毒が回ってるにも体が思うように動けないにも関わらず、リリアと自分を守るために戦おうと必死で走ってるが足取りがぎこちない。
イヴァーナはヘルガとハロルドに叱咤する。
『ハロルド!! 私情で姫様の護衛を怠るのですか!? 姫様が最優先です!! 姫様も、立ち止まってる暇はないと何度言えばわかるんですか!?』
『イヴァーナ! カミル君を本気で見捨てるのか!?』
ヨハンがノアのバーサークフューラーと一緒に戦いながら怒鳴ると、イヴァーナの声がいつも以上に冷たかった。
『ここで姫様が倒れたら、誰がアーカディアを救うんですか?』
『ベルケ隊が全滅、アタッカー1も応答なし。ゼルマ中尉もう僕たちだけです』
ノアの声も異様に冷たく聞こえるとゼルマが応える。
『了解、国境まであと少しだ! ホエールカイザーがそこで回収してくれる!』
『行け! ヘルガ! 必ず追いかける!』
カミルが叫ぶ、ヘルガは縋るようにハロルドをモニター越しに見つめると彼はただ一言、自分とカミルに告げた。
『……すまない』
その一言が痛いと感じるほど重く、苦しく、やるせなさが込められていた。
「嫌……カミル君を置いていくなんてできない……」
『姫様!』
イヴァーナの怒号が響く。
シルヴィアがどんどん引き離されていき、目に映る世界が灰色に染まろうとしてる。
嫌……私はここでカミル君を失う……そしてその後、イヴァーナからカミル君の死は意義のあるものだったと必要以上に美化するだろう。
――尊い犠牲を無駄にしないためにも王女としての使命・責務・役目を果たすことです。
多分そんなことを言うだろう、私の足下にはもう数え切れない程の屍の山が築かれてる。
私はもう普通の女の子になれない。
紛れもない事実がヘルガの心を絶望の闇に覆い尽くし、へし折り、押し潰すと、震えながらやがて今まで抑えていたものが涙と共に言葉が溢れ出す。
「もう……こんなの……嫌……王女なんて……やりたくない」
『姫様!! 王女の責務を放棄するなんて許しません!! 弱音を吐くなんてこのイヴァーナが許しません!!』
イヴァーナは言葉を聞き逃さなかったが、ヘルガはもうどうでもよかった。
「カミル君が死ぬなら……私もここで死ぬ……」
『姫様!! こんな――』
だから心を閉ざすと同時に全てのモニター通信を一方的に切って通信装置の電源も切る。
もうどうにでもなればいい……ヘルガは力尽きたかのように操縦桿を手放した。
それを察したリリアが必死で吼えながら自分の意思でソルダットアントを叩き潰し、噛み砕き、食い千切る。何度も主人を励ますように吼えるリリア、もういいのよ……私のために何度も体をボロボロにして……あなたも疲れたでしょ?
カミル君、ここで死ぬなら……私もここで一緒に死ぬから。
誰もいない狭いコックピットの中で計器類の照明やモニタースクリーンも消して真っ暗闇の中、ヘルガは数年振りに、嗚咽を漏らし泣きじゃくった。