ゾイド Wild Flowers~風と雲と冒険と~第一期   作:尾久出麒次郎

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第一二話、その3

 二~三機のソルダットアントに集られ、コックピット内は各駆動系統の警報が鳴り響いて躊躇ってる暇はなかった。まだ諦めるのは早い外部スピーカーをオンにしてカミルは叫ぶ、ノアがシグマを呼んだようにカミルはオーガノイドの名を叫んだ。

「オメガァァァァアアアアーッ!!」

 主人の叫ぶに応えるかのように甲高い声を鳴きながら翼を広げると、青白い光に包まれながら一度上空に上がり、反転してシルヴィアに合体すると青白く輝く。

 一瞬で駆動系統が正常レベルにまで回復すると力強い雄叫びを上げる、ソルダットアントたちは本能的な危険を感じたのか、一瞬だけ動きを止めたその瞬間がチャンスだった。

「行くぞシルヴィア! オメガ!」

 カミルはヘルガたちに追い付くためにシルヴィアを急発進させると、思い切り引っ張られたかのようにシートに押し付けられる。

「ぐっ……凄い!」

 今までとは比べ物にならない瞬発力! 加速力! そして前足の一撃でソルダットアントをバラバラに爆砕する破壊力! その分凄まじいGが全方向からかかるが取り付いたソルダットアントは振り落とされる。

 無事でいてくれ! ヘルガ! カミルは両脇腹のスタビライザーを展開してイオンターボブースターをオン、フルパワーで点火すると推進剤のゲージが物凄い勢いで減っていく! よし、追い付けた!

『カミル君! 大丈夫なのか!?』

 ハロルドの声は驚きと同時に嬉しさが込められていた。

「はい! 俺は大丈夫です! ヘルガ! ヘルガ! 返事して!」

 ブースターをオフにしてリリアの右横に並んで通信するが繋がらない、リリアは何かを伝えたくて必死に吼えてイヴァーナが明らかに動揺した口調で通信してくる。

『カミル君、姫様の様子がおかしいんです! 通信機を切ってしまうなんて、こんなことは初めてです!』

『イヴァーナ! テメェいい加減わかれよ! お前が姫様を今まで散々限界まで追い込んだからだろ!! それで我慢し過ぎでとうとう壊れちまったんだよ!!』

 ヨハンはモニター越しに怒鳴ると、イヴァーナもキッとして言い返す。

『私の教育が間違ってるとでも言いたいんですか!?』

『ああそうだよ! 王女の家庭教師はともかく、思春期の女の子の教育としては失格以前の問題だ! 国境まであと少し! この山間部を抜けたら国境だ!』

 カチンとした表情のイヴァーナに気にも留めない様子でヨハンはビッグマザーを反転させると、追いかけてくる群れに向かって突撃砲を撃ちながら反対方向へ走る。

 カミルは死ぬ気かと、全身から冷や汗が滲み出てイヴァーナも止めに入る。

『何を考えてるんですかヨハン! 死ぬ気ですか!?』

『ここで群れを止めるんだよ! 行くぞビッグマザー! アーカディア王国の誇りにかけて……メガロマックスファイヤー!!』

 ビッグマザーの一七連突撃砲が一斉に火を噴き、ホーミング弾が群れの前衛を吹き飛ばすと、後方のソルダットアントが撃ち返してくる重装甲のディバイソンと言えど厳しい。機関砲弾やビーム砲の雨に装甲版が凹み、一七連突撃砲の一部の砲身が歪む。

 このままじゃヨハンさんもやられる! カミルはシルヴィアを反転させようとするとハロルドが強く制止した。

『待てカミル! 君は姫様の傍にいて守るんだ……一時も離れるんじゃないぞ!』

 アリエル二世のEシールドを展開して庇うようにビッグマザーの前に出る。  

『頼むぞカミル、最終目的地はアーカディア王国だ! どんなルートを辿ってもいい、どんな手段を使ってもいい! 姫様と生きてアーカディア王国に辿り着くんだ!』

 ヨハンも今まで聞いたことのないような精悍で重い口調だった、それは自分を仲間の一人として認め、ヘルガを託してるようだった。

「わかりました! 俺がヘルガを送り届けます!」

『頼んだぞ! カミル!』

 ヨハンが全てを託すように言うと堪らないという表情でイヴァーナが、マルゴのショートレールガンを撃ちながら文句を言う。

『ちょっと何勝手に話を進めてるんですか!?』

『追いかけていいぜイヴァーナ、マルゴの足で追い付けるならな……行け! カミル・トレンメル! 俺たちも必ず生きて追い付く! 約束だ! 振り向かず走れ!!』

 ヨハンの言う「約束」の重みを感じながらカミルは「はい!」とだけ返事してシルヴィアを加速させながら、外部スピーカーでリリアに呼び掛ける。

「リリアついてこい! 国境を越えるぞ!」

 加速しながらも振り向くことなくカミルは国境へと急いだ。

 

 

 徐々に遠ざかって行くリリアとシルヴィア、きっと大丈夫だ。カミル君はこのうえないボーイフレンドできっと姫様の心を優しく照らしてくれるし、オーガノイドもいる。

 ハロルドはゆっくり見送る間もなくソルダットアントの大群に向き直る。独立してそんなに経ってない発展途上国なのに、どうやってこんな大部隊を用意できたんだ? そう微笑んでると反転してきたイヴァーナのマルゴが横に並ぶ。

『全く……とんでもない人選ミスですよ! 三獣士二人が姫様の運命をあの少年に託すなんて!』

『大丈夫さ、ここの奴らを片付けてすぐに追いかける……だろ?』

 ヨハンはいつもの飄々と軽い口調で訊くとハロルドは頷き、左胸のポケットを意識する。

 アーカディア王国で健気に帰りを待ち、妻となる女性で任務が終わったら式を上げようと約束していた。

「ああ、僕も絶対に……生きて帰らないといけない理由があるからな」

 ヨハンには「死亡フラグ~」って笑いながらからかわれるが死ぬつもりはない、そう覚悟を決めた時にキラースパイナーが戦列に加わった。

『三獣士、私も加勢する……レオマスターに負けっぱなしで死んでもらっては示しがつかないからな』

「ほう……ゼルマ中尉、大丈夫なのか? ノア君を一人にして」

『彼には……あの二人を国境まで守るように言っている』

 ゼルマは淡々とした口調で言う、それほど信頼してるのだろう。

 カミルと姫様と一緒に街で遊び、遺跡で戦ったノア・カワシマ・アイゼンハイム。

 オーガノイドを連れた彼ならきっと大丈夫だろう、できるならもう二度と戦わないで仲良くして欲しいものだが。

『それじゃあさっさと片付けて……姫様を追いかけますよ!!』

 イヴァーナの合図で戦闘再開! ハロルドは先陣を切ってソルダットアントの群れに跳びかかる、さぁアリエル……僕に力を貸してくれ! 操縦桿から手を離してアリエル二世と一つなる。

「行くぞアリエル!」

 そうなれば数の暴力が有利だと思ってる奴と対等になれる。

『任務を果たすぞシャル!』

 隣にいるキラースパイナーも背中のキラードームの鋏に仕込んだガトリング砲やレーザーキャノンを撃ちながら援護する。アリエル二世と精神リンクで動いてると、時間の流れが緩やかに感じて敵の動きもそれだけ遅く見える。

 アリエル二世は手加減なくソルダットアントを叩き潰し、引き裂き、蹴り飛ばす。

『怯むなシャル! 目の前の敵を片付けろ!』

 ゼルマは発破をかけながらキラードームの外周部のビームの雨を撃ち出し、両鋏であるジャイアントクラブを飛ばし一度に二機のソルダットアントを挟み潰した。

「シャル、いい名前だな」

『口説いてるつもり?』

「いや、そのダークスパイナーは君の心に触れたがってる……君もシャルに心を寄せるんだ、そしてシャルを心で動かすんだ」

 昼には敵対していた若いパイロットにアドバイスを送る、自分も歳を取ったなと自嘲しながら終わらない無限湧きしてくるソルダットアントの群れに正面から挑んだ。

 

 

 その頃、チャトウィンではPMCとGNDAの有志連合が保守強硬派を一気に押し返していた。

 GNDAの改革急進派が極秘裏に設立したばかりのサイバー戦部隊を投入、保守強硬派司令本部のサーバーに侵入してそこからスリーパーゾイドたち偽の指令を送り、強制的にコンバットシステムをシャットダウンさせていた。

 だがそれが全てに行き渡るまで時間がかかるため、チャトウィン市内のスリーパーたちを優先してそこから都市周辺に広げていく形となった。

 保守強硬派の混乱に乗じて有志連合による中央区奪還作戦を開始。

 有志連合のゾイド部隊と機械化歩兵部隊による電撃戦を展開、停止して動かなくなったソルダットアントを押し退けてGNDAの司令部を奪還後、クーデターの首謀者であるザリオン将軍に身柄を拘束されて軟禁されたラウン首相の救助に即席コマンド部隊が突入する。

 

 ラオは有志連合の民兵としてラナに乗って首相官邸に群がっていた数少ない有人のソルダットアントを黙らせると、六輪駆動のMRAP三台が停車。バラクラバを被り、カービン銃を装備した対テロ特殊部隊出身者のPMC社員で構成された即席のコマンド部隊が降車して展開。

 ラオは突入するコマンド部隊の指揮官からの無線を聞く。

『これよりエントランスホールに突入する! ラウン首相の救助とクーデターの首謀者ザリオン将軍を発見次第身柄を拘束、抵抗する場合は射殺する! エスコートのゾイド部隊及び援護の歩兵や民兵たちに感謝する、引き続き周辺を警戒してザリオン将軍が逃げないか見張っててくれ! 場合によっては車ごと潰しても構わん!』

「ミリシャ6了解、ゴードン、サム! ここをお願い!」

『えっ? ちょっとどこ行く――』

 サムの制止を振り切り、ラオはモニター通信を切る。ラナを二階建ての広い首相官邸の裏側に回り込ませると、保守強硬派の兵士が悪足掻きと言わんばかりに一階と二階の窓から突撃銃や汎用機関銃、グレネードランチャーを撃ってくる。

「嘘っ! ヤバッ!」

 ラオは全身から冷や汗を噴き出しながら走り抜ける、幸い屋上から携帯型ロケットランチャー(RPG)を撃ってくる奴らは官邸正面に集中配備してたらしく、ロケット弾が一発も飛んで来なかったのが幸いだ。

「往生際が悪いわよ!」

 装甲式のコックピットでよかったと思いながら一八〇度スライディングターンさせると、クロスソーダーの右片方を展開、無線で突入したコマンド部隊に確認する。

「ミリシャ6より突入部隊へ、まだ官邸の裏側まで来てない?」

『こちらブラヴォー2-0今中庭で敵と交戦中だ!』

「ミリシャ6了解、ちょっと官邸を壊すわ!」

 ラオはクロスソーダーの右片方だけを前方に展開して走り出す。

「くたばれぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 一階と二階の間を崩しながら駆け抜け、轟音と共に建材を瓦礫に変え、砂塵を巻き上げ、二階にいる敵兵は崩落に巻き込んで一階の敵兵は落ちてきた瓦礫の下敷きにしてやった。

 勿論ザリオン将軍と父であるラウン首相のいる執務室を巻き込まないように配慮してる。

『何やってるんだミリシャ6! ちょっとどころじゃないぞ!! 親父さんに怒られるどころじゃすまないぜ……』

 コマンド部隊の隊長はきっと頭抱えてるに違いないが、今頃保守強硬派は慌てふためいてるに違いない。

『奴ら混乱してるぜ! その隙に一気に攻め込め!』

 コマンド部隊が攻め込み、後続にGNDAのレンジャー部隊やチャトウィン市警の警察特殊部隊が各部屋を制圧にかかり、あっという間に制圧されて執務室まで辿り着いたようだ。

『執務室前に集結……突入! GO! GO! GO!』

『ラウン首相を確保! 外傷はないと本人も言ってるがザリオンの姿はない』

 ラオは一先ず安堵する、言いたいことを言えることがこんなにありがたいと感じたことはなかった。だが次の瞬間、コマンド部隊の指揮官が慌てた口調で無線で叫ぶ。

『これが聞こえてる奴はよく聞いてくれ!! ザリオンは地下駐車場にある秘密通路でチャトウィンの外に逃げたそうだ!! 森に逃げ込まれたら見つけるのは困難になる!! 今すぐに非常線を張れ!! チャトウィン――いや、ガリンの外に出すな!!』

 ラオは奴を逃がすわけにはいかないと冷たい怒気を放つ、だがどこにいる? ここから一番近い国境は南のムダルラ共和国だが、改革派の味方をしてるし対立してる北のビース共和国は保守派寄りだが国境からは遠い。

 そう考えを巡らせてると飛行ゾイドを運用してるPMCから無線が入る。

『ルイボス・エア社本部より、上空を警戒飛行中の無人航空機(UAV)が怪しいセダンを発見。西区を時速八〇キロ以上のスピードで西に向かって疾走している』

『こちら司令部了解、ナンバープレートを照合できるか? 官邸の公用車かもしれない』

『少し待ってくれ……今別のUAVが撮影してデータを送る』

 ラオはほんの一分程度の時間が長く引き伸ばされてたかのように長く感じながら、周囲を警戒しながら待ってると無線が入った。

『ナンバープレート照合完了! 官邸の公用車で間違いない! データリンクを全ゾイドに送信する』

 GNDA司令部から送られてきたデータがレーダー画面に表示される。

 ここから約一五キロ! ラナなら追い付ける!

「走れ! ラナ!」

 ラオは西区に向かってラナを疾走させる。残骸の車や停止したソルダットアントやディマンティスを踏み潰し、蹴り飛ばし、味方のゾイドや装甲戦闘車両を跳び越える。

「ごめん!! どいてどいてどいて!!」

 ラオは叫びながら幹線道路を駆け抜けた。

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