ゾイド Wild Flowers~風と雲と冒険と~第一期   作:尾久出麒次郎

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第一二話、その4

 ハウンドソルジャーの最高速度は時速三三〇キロ! 実はカミルのシルヴィアことライガーゼロより速いし、中型ゾイドなので小回りも利く、制限速度を二〇〇キロ以上オーバーしてあっというまに中央区を抜けると西区に入る。

 両側がスラムとなっていて長い間舗装されてない道路をラナは走る。

 長く走り続けると駆動系統が過熱して冷却液の温度が徐々に上がって行き、イエローゾーンに入ると警報が鳴り、レッドゾーンになると更に過熱警報がなって最悪機体が分解する。

「ラナ……お願い、いい子だから頑張って!」

 ラオは冷却液の温度計を何度も一瞬だけ見ながら呟く、見えた! 西区のスラムを出て地雷源の街道に入ろうとした時だった。

「行くわよラナ! 跳べ!」

 ラオはラナを走り幅跳びの要領でジャンプさせると、空中で一八〇度反転させて後ろ足で着地する。下から凄まじい衝撃が襲いコックピットが上下に激しく揺さぶられてラオは逃げる公用車に目を離さない。

 絶対に逃がさない! その気持ちを感じ取ったラナは公用車に向かって激しく吼える。  

 するとドライバーはビビって急ブレーキを踏んだのか甲高いスキール音を立てて急停車、シートベルトしてなかったらフロントガラスに頭をぶつけてもおかしくないほどだった。

「よし、止まった」

 ラオは素早くシートベルトを外し、座席後部のコンパウンドボウを取ってコックピットを開けると躊躇わず五~六メートル以上の高さから飛び降りる。

 着地と同時に膝を曲げて吸収すると、素早く立ち上がってクイーバーから矢を取り、コンパウンドボウを引く。

 月明かりしかない真っ暗闇の中、ラオは冷たい眼差しで矢を放つ。

 助手席から出てきたカービン銃を持ったボディーガードは肝臓を貫かれ、断末魔の悲鳴を上げて倒れる間に、運転席から出てきたボディーガードにも躊躇いなく矢を放って心臓を貫き、即死させる。

「さぁ出てこい……ザリオン」

 ラオは冷たい眼差しで三本目を取ろうとすると、両側の後部座席のドアが開いて左は拳銃弾を使うピストルカービンを構えて右側の男は怯えながら四つん這いで逃れようとしてる。

 ラオは三本目を構えると同時に左の男がピストルカービンを発砲、弾丸は左の頬を浅く切り裂き、血が滴るが動揺することも怯むことなく、氷のような眼差しで矢を放った。

 矢は二発目を撃つと同時に男の眼球から脳を貫き、息の根を止めると銃弾は明後日の方向に飛んで行き、ラオは最後の一人であるザリオンに向けて四本目を放った。

「ああああっ! 痛い痛い痛い! 足がぁぁぁぁぁっ!!」

 矢はザリオンの右太股を貫き、引き摺りながら矢を抜こうとする。ラオは右足の矢筒から炸裂矢を取って引くと、ザリオンは小型自動拳銃を懐から抜いて闇雲に撃ちまくる。

「来るなぁぁっ!! 来るな来るな来るな!」

 何発も響く銃声と掠める銃弾にラオは動じることなく、何発撃ってもこの距離で簡単に当たるものじゃないし、刺し違えになることも覚悟の上だった。ザリオンは立ち止まって振り向き、自動拳銃で精密射撃を試みようとするがそれより早く、ラオは矢を放った。

 炸裂矢はザリオンの(はらわた)を貫いて炸裂、文字通り木っ端微塵になって肉片を撒き散らした。

 炸裂音が響いた闇夜の街道が静寂に包まれ、ラオの心を慰めるように暖かい風が吹く。

「終わった……のかな?」

 終わって真っ先に感じたのはあらゆるものを失った喪失感と虚しさだけだった。

 ラオは終わったのかともう一度自分に問うが、まだ終わってない……やらなきゃいけないことがある! ラナのコックピットに戻ろうとすると足音と駆動音、マゼランの方角から三機のゾイドが近づいてくる。

「何あれ?」

 ラオは嫌な予感がして頭を切り替え、急いでラナのコックピットに座ってシートベルトを締める。

 GNDA所属のゾイドではなかった、国籍マークも見当たらないしマゼラン軍のでもない、南区に駐屯してるPMC所属の機体でもなさそうだ。

 三機とも中型高速ゾイドで一機はガイロス製のスカウトサーバルで残り二機はへリック製のシャドーフォックスだった。すると向こうからモニター通信で呼び掛けてきた。

「誰だろう? ハロー? 聞こえますか?」

 モニター通信のチャンネルを合わせながら呼び掛けると繋がり、カミルと同い年くらいの男の子でマゼラン訛りの強い共通言語(Zinglish)で話しかけてきた。

『聞こえます――って女の子? おいセレナ、アヤメリア! 俺たちと同年代の子が乗ってるぞ!』

 驚きを見せる男の子、すると気の強そうな金髪ショートカットの女の子がモニター通信を繋げてきた。

『えっと……こんばんわ、あたしはアヤメリアでそっちはジョエル、あたしたちある人を追いかけてマゼランから来たの……同い年で紺色の髪にエメラルドグリーンの鋭い瞳の男の子なの知らない?』

「同い年で紺色の髪にエメラルドグリーンの鋭い瞳?」

 ラオは知ってる気がする、それも文句無しの美少年だった。

「その子ってもしかして……ゼネバス系の色白の美少年だった?」

『うん、そうなのカミル・トレンメルって名前なの』

 三人目の活発そうで小柄なストロベリーブロンドのセレナという名前らしき女の子が、モニター通信を開いてきた。

「ああ……お友達だったんだね」

 ラオは思わずタッチの差で捕捉できなかった三人に同情すると、察したアヤメリアがモニター通信越しに掴みかからんばかりに問い詰める。

『カミルを知ってるの!? 今どこにいるの!? あのお姫様も一緒!? あいつ独立記念祭でデートしたの!?』

『落ち着けアヤメリア、一旦チャトウィンに向かいたい……案内してくれないか? 俺はジョエル……ジョエル・カーチスだ』

 通信越しにアヤメリアを宥めてる男の子がジョエル・カーチスか。

「ラオ・ラン・ラウンよ、ラオでいいわジョエル」

『よろしくラオ、今捲し立ててるのはカミルの幼馴染みのアヤメリア・ハミルトンと友達のセレナ・ワーナーだ』

『よろしくねラオ、カミルってあのお姫様と再会したの? よかったら聞かせてくれる?』

 セレナは恋バナが好きなのか瞳を輝かせて聞いてると、ラオは軽く溜め息吐いて微笑む。

「いいわ、チャトウィンまで案内するからついてきて」

 ラオはチャトウィンの南区に向ける、どの道やることがまだ残っている。手早く自動操縦装置を設定して到着する間にカミルのことを話した。 

 

 

 国境まであと五キロを切った!

 カミルは走るリリアの周囲を守り、近づくソルダットアントを蹴散らしながら外部スピーカーで必死に呼び掛け、叫び続けていた。

「ヘルガ! 聞こえてるなら返事してくれ!! ヘルガ、君の声を聞かせてくれ!! ヘルガ!」

 コックピット周りに損傷箇所は見当たらない、無線機をオフにしたのは間違いないから直接コックピットを開けるしかないがこの状況では無理だ! せめて国境を越えて落ち着ける場所じゃないと駄目か!

「ヘルガ! お願いだ! 君が必要なんだ!! 声を聞かせてくれ!」

 言葉では駄目だ! きっと耳を塞いでるんだろう! カミルが歯痒い思いをしてると群れの中に突っ込んだノアのバーサークフューラーが無傷で戻って来た。

 本体は無傷だがバスタークローは数えきれないほど葬ってきたのか、細かい傷だらけでオイルが血のようにこびりつき、ノアがモニター通信を開いてきた。

『どう? ヘルガの様子は?』

「駄目だ……応えてくれない、どうすればいいんだ?」

 カミルは何もできない自分の無力感に苛まれて声が震えるが、ここで泣いては駄目だ。後方からも更にソルダットアントの群れが追いかけて砲撃してくると、バーサークフューラーがバスタークローを開いてEシールドを展開。

『諦めないでカミル、もうすぐ国境だ。越えれば奴らも追いかけてこない! 何も通さずに君自身の声で救って上げるんだ!』

「ノア、君はどうするんだ!?」

『契約は国境まで、君は僕の心配よりも自分とヘルガのことを考えるんだ!』

 ノアは砲撃が収まった瞬間を見計らったように、バーサークフューラーの両足のバーニアや背中のスラスターを全開、ライガーやウルフでは無理な高度までジャンプ! ホバリングの状態で大きく口を開けてチャージする。

『あとは僕に任せて、君はヘルガを連れてアーカディアに行くんだ』

「ノア……ありがとう!」

『近いうちにまた会おう、オーガノイドのことは諦めてないから』

 それを最後にモニター通信が切られると、カミルは振り向くことなくシルヴィアを走らせる。

「走れ! シルヴィア! リリア! 国境を越えろ!」

 カミルは振り向かずに叫ぶと、後方から眩い光に包まれる。

 後方のバーサークフューラーはホバリングしながら拡散荷電粒子砲を発射して更に凄まじい反動に耐えながら両足のバーニアや背中のスラスターを自在に操り、広い範囲に薙ぎ払う。

 まるでレイヴンだと思いながら、国境線を越えると平原地帯に出る。

 マゼランやガリンを覆うミューズ森林地帯を出たのだ。もっと走れ! 事前情報ではこの辺りには地雷注意の看板はない、このままあと一〇キロは走るんだ!

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