ゾイド Wild Flowers~風と雲と冒険と~第一期   作:尾久出麒次郎

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エピローグ

 エピローグ

 

 ムダルラ共和国の平原地帯を走り、カミルはそろそろこの辺りで大丈夫だろうとシルヴィアを止め、コックピットを開けて飛び降る。

 リリアの所に駆け寄ると彼女は頭を降ろす。

 カミルはリリアに感謝しながら、コックピットの開閉レバーを探してそれを引くと、ゆっくりコックピットが開いた。

「ヘルガ! 大丈夫!?」

 カミルはコックピットのヘルガの姿が見えると外傷は無さそうだったが、両手で顔を覆って下を向いてすすり泣いていた。

「ヘルガ! 怪我はない? 痛いところとかない?」

 カミルの声に気付いたヘルガはゆっくりと顔を上げると、ディープスカイブルーの瞳は赤みを帯びていた。

「カミル君? よかった……君がいなくなっちゃったら……私――そうだ!」

 ヘルガは何かを思い出したかのように、おろおろしながらコックピットコンソールを上げて立ち上がり、降りると周囲を見回して三獣士のゾイドたちがいないことに気付いた。

「カミル君ハロルドは? ヨハンもイヴァーナも……ノア君もいない……どうして?」

 おろおろしながら動揺を露にするヘルガにカミルは言葉にするのが辛い、だけど伝えなきゃいけない。

「僕たちが逃げる時間を稼ぐために……必ず……生きて追い付くからと言って……」

 ヘルガは呆然として立っていられなくなったのか、魂が抜けるかのようにその場で両膝を着いてボソボソと呟く。

「そんな……私が、無線を切ってしまったばかりに……私のせいよ」

「ヘルガ! そんなこと言わないで! 君のせいなんかじゃない!」

 カミルは動揺しながら自分を責めないように諭すが、ヘルガは絶望に満ちた表情で首を横に振る。

「……ハロルドも……ヨハンも……イヴァーナまで……みんな、私のために死んでいく……もう……無理……こんなの……耐えられない!」

「ヘルガ……」

 カミルは彼女が抱える心の闇の深さを感じ、ヘルガは涙が枯れてしまったのか両手を地面に着けて嘆く。

「イヴァーナがいつも言ってた! 尊い犠牲を無駄にしないために王女の務めを果たすのが使命だって……使命って何? どうして私が役目を背負わないといけないの!? 私はアーカディア王家に生まれただけの……ただの弱い女の子よ!」

 弱音を吐き、本音を吐露するヘルガ、もし王女じゃなかったら普通の女の子だ。カミルは立ち尽くしながら嘆き叫ぶ彼女をただ見ているしかなかった。

「……もう綺麗なドレスなんて着たくない!! ティアラもアクセサリーもいらない! 置物や絵画で彩られた広い部屋もいらない、お城の華やかで贅沢な生活なんていらない……王女の身分なんか……今すぐ……捨ててしまいたい」

 こんなのイヴァーナさんが見たら弱音を吐くなと毅然とした態度で叱咤するだろう、でも今の彼女に必要なのはそれじゃない。

「私はただ……市井の子たちと同じように学校に通って……友達と勉強して……放課後や休みの日は……一緒に街に遊びに行って、泣いたり、笑ったり、時は喧嘩したり、恋もしたかった……王女になんて生まれたくなかった!!」

 ヘルガは囚われのお姫様だった。生まれた時から王女の身分、使命、重責、(しがらみ)という名の鉄格子で閉じられた冷たく暗い牢獄に幽閉されていた。

 僕に……俺に……ヘルガを救い出せるのだろうか? ヘルガを王女という肩書きそのものから、この震えはなんだ?

 カミルはどうして自分が震えてるのかわからなかった、ヘルガが背負ってるモノがあまりにも大きくて重いモノだから怖じ気づいたのか?

 違う! それじゃあ武者震いなのか? 違う!! この震えは何かはわからない、だけど……ハロルドさんやヨハンさんは俺にヘルガを託した! どうせもう後戻りはできない、バン・フライハイトの足下にも及ばないけど今できることがある。

「……ヘルガ」

 カミルはできるだけ温もりを込めた声で右手を差し伸べる、夜明けが近づいてるのだろう東の空が徐々に明るくなり始めた。

「……カミル君?」

 ヘルガはゆっくりと顔を上げる、その顔は苦悩と絶望に歪みきっていた。

「立てる?」

 カミルは温かく微笑むとくしゃくしゃにしたままヘルガは恐る恐るカミルの手を握る、その白く細い手には微かな力が残っていた。

 大丈夫、ヘルガは強い女の子だ。きっと立ち上がれると、ゆっくりと引っ張り上げて立ち上がらせると手を離さずそのまま引き寄せ、抱き締めた。

「!? ……カミル君?」

「ヘルガがアーカディアを救う使命があるなら、僕は君を……王女の役目から救ってみせる!」

 カミルは決意を示しながら、ヘルガのディープスカイブルーの瞳を見つめる。

「私を……外の世界に連れ出してくれる?」

「うん、必ず僕が……君を連れ去るよ、この広い外の世界へ……約束する」

 もう後戻りはできない、絶対にヘルガから離れるつもりはない、一人ぼっちになんかさせない。

「……私のために死なない?」

「うん、君を残して死ぬものか――」

 何があっても絶対にヘルガと生きてアーカディアに辿り着いてやる、そのために何度でも引き金を引いてやる! だって……。

「――僕はヘルガのことが、好きだから」

 その意志を眼差しと言葉で伝えるとヘルガは確かな希望の光を感じたのか、両目から大粒の雫が頬を伝い、それが夜明けの光に美しく反射する。

「うん、私も……カミル君のことが……好き」

 例えどんなに明日が遠くても、霞んで見えても、朝は必ずくる。

 ヘルガの心に光が射したのか、微かに微笑むと見つめ合う。

 この人生(たび)は映画みたいに甘くない、厳しいものと覚悟して腹を括らないといけない。だけど今だけは……朝日を背景にお互いの唇を近づけて重ねようとした瞬間。

 オメガが心配した様子で鳴きながら二人の傍に降りてきた、カミルは思わず唇を離す。

「うあっ!」

「ふぅあっ!」

 ヘルガも突然の珍客に驚き、心配した様子で二人を交互に見る。

 甘酸っぱい時を邪魔されたが、オメガに悪気はないようで気遣うような声で鳴くとヘルガは大きく口を開けて笑い出す。

「ふふっ……あっはははっはっはははっはっ!!」

「ぷっ……はははっははははっはははっはは!!」

 カミルも思わず大笑いすると、ヘルガは目元を人差し指で拭うとオメガの頭を撫でる。

「ごめんねオメガ……あなたも一緒だもんね」

 勿論だと言わんばかりにオメガは鳴くとカミルも頷く。

「うん、君は一人じゃない」

「カミル君だって一人じゃない……行こう、目指すは――」

 ヘルガの真っ直ぐな眼差しは朝日から反対の方を向く、西に向かって進み西エウロペを経て二つの地峡を抜けて目指す先は南エウロペ大陸の小国。

「――アーカディア王国へ!」

 僕らは行く、力強く旗を掲げながら、遥かなる歴史(とき)に名を馳せた英雄みたいに、誇り高く。

 ここからカミルとヘルガの、本当の冒険の旅が始まったのだ。

 

 旅立ち編~完~

 冒険編に続く。 

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