ゾイド Wild Flowers~風と雲と冒険と~第一期   作:尾久出麒次郎

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第二話、その2

 まさかあのカミルが本当にライガーゼロを見つけるとは!

 それだけでも凄いが、まさか手懐けてしまったのは驚きだった。

 ジョエル・カーチスは格納庫のキャットウォークで、整備中のシルヴィアという名前のライガーゼロに畏怖の念を抱きながら見ていた。

 セブタウン整備工場長の息子で陽気で飄々とした性格とカミル同様ゾイド好きなことから気が合い、大人びて整った顔立ちでそれなりにモテる。

 小学校の頃からよくカミルを整備工場に連れて行って見学させ、遊び場にしていた。もっともここ三年は山に入り浸って滅多に来なかったが。

 

 翌日の学校に行くと噂はあっという間に行き渡っていて登校すると、カミルはたちまち質問攻めに遭っていた。

 

「おはようカミル! あの白いライガーに乗ってたんだって?」「聞いたぜ、カミルあのライガーをどうやって手懐けたんだ?」「なぁ、あのケーニッヒウルフと戦ったんだって?」「ついに見つけたんだって? あの白いライガーを」

 

 この間ジョエルが割り込むは余地はなく、昼食の時間に食堂でようやくカミルと話すことができた。

「一躍有名人だなカミル、そのライガーゼロ……シルヴィアって名前だっけ」

「そうだよ。野良ゾイドだったけどね」

「ああ、聞いてる。ショックカノンやイオンターボブースター、各種センサー類は全部交換、今日からオーバーホールするって親父が言ってた」

「ということはまだ始まったばかりか……どれくらいかかるかな?」

「だいたい一週間、卒業の日までには十分間に合うぜ」

「そうか……ならよかった」

 カミルは安堵の表情を見せる、やはりカミルは卒業したら旅に出るつもりだろう。あのシルヴィアに乗って、それに関しては肯定も否定しないのが建前だが本音は寧ろ一緒に行きたい。

 ジョエルも数ヶ月前にあるゾイドを見つけて連れて帰ったら即行で親父に意図がバレてしまって、その日のうちに里山に帰されてしまった。森へ帰る時に凄く寂しそうな仕草をしていたのが、未だに頭から離れない。

 あいつ今どうしてるかな? カミルがバン・フライハイトに憧れてるなら俺はアーバイン・キャバリエーレのような賞金稼ぎになりたいと思ってる。

「なぁ、一緒に来てた人たち……整備費用負担してくれたんだよな? 親父も驚いてたぜ、あんなにポンと金を出す客はそうそういないってさ……何者なんだ? あの人たち?」

「詳しくはわからないけど……強くなるために修行の旅をしてるって」

「ふ~ん……まあ、旅の目的は人それぞれだからな」

 ケーニッヒウルフのパイロットに関しては噂が一人歩きしてる。無精髭にサングラスの強面なヘリック人の男、インテリ系オタクっぽいガイロス人の男、はたまた女子力(物理)全開のキャリアウーマンみたいなアーカディア人女性、そしてセリーナ王女そっくりの絶世の黒髪ロング美少女だという。

 そう思っていた時、背後からカミルの天敵が現れた。

「ねぇカミル、ジョエル、放課後予定空いてる?」

「えっ? な、何……アヤメリア」

 アヤメリアのご登場にカミルは警戒体勢に入るが、いつも一緒にいるセミロングのストロベリー・ブロンドに小柄でスレンダーな女の子、セレナ・ワーナーはそれを気にする様子もなく訊いてきた。

「放課後ちょっとさ、書店に探してる本があるんだけど一緒に手伝ってくれない?」

「何を探してるんだ?」

 ジョエルが訊くとアヤメリアは人差し指を立ててこっそりと小声で言った。

「バン・フライハイトの本よ『風と雲と冒険と』あれ……急にまた読んでみたくなったの」

 それでカミルは微かに動揺してるようだが、気付いてるのか気付いてないのかわからないがアヤメリアはカミルに有無を言わせないような目になる。

「ねぇカミル、手伝ってくれるよね?」

「待ってくれアヤメリア、カミルはライガーの整備に立ち会わないといけないからさ」

「あらそう。ならいいわ」

 ジョエルが代わりに言うとアヤメリアはあっさり引いた。これは何か別のことを企んでるなと、ジト目で二人を見るとセレナは不敵な笑みを浮かべてジョエルは嫌な予感がした。

 

 予感は当たってしまった。カミルは表情には出さなかったが上機嫌で学校を出て行くと、アヤメリアは険しい表情で急に予定を変更した。

「カミルを尾行するわよ!」

「やっぱり……何が目的なんだ?」

 ジョエルは怪訝な目で見ると、セレナはワクワクした様子で話す。

「いやね。あのおっきなウルフに乗ってたパイロットが、同い年の女の子って噂でアヤメリアはそれが気になって気になってしょうがないのよ。もしかしたらカミルと仲良くしてるのかもしれないって、アヤメリアはカミルのことが――」

「そんなんじゃないわ! さっさと行くわよ!」

 アヤメリアは必死で否定するが、尾行する二人を横にジョエルは少し考えてあり得る事だという結論を出す。カミルとアヤメリアは幼馴染で、よくカミルにちょっかい出しては泣かしていたという。

 だがここ三年、それは鳴りを潜めて週末になると山に入り浸ってだんだん逞しく男の顔になっていた。

「ねぇジョエル、あんたここの工場長の息子でしょ?」

「無茶言うな、許可を取らないと俺でも入れねぇって」

 整備工場に正門に到着するが整備区画は工場長の息子と言えど関係者以外立入禁止の区域だ。

 アヤメリアは「それなら!」と向かいの切り立った崖のある小山に指差して登った。

 工場内には忙しく作業車や超小型ゾイドが行き交っている、この中からカミルを見つけられるのだろうか? アヤメリアは鞄から双眼鏡を取り出して探す。

「さぁて、カミルはどこにいるのかしら?」

「はぁ……はぁ……アヤメリア……あんまり……近づいたら落ちちゃうよ」

 セレナは完全に息が上がっていて、ジョエルは格納庫周辺に目を凝らして探すが、流石に見つからない。すると旅一座のゾイドなのかグスタフ*1が見えた。

「アヤメリア、ちょっと貸してくれ!」

「うん、ちょっとだけよ」

 ジョエルは双眼鏡を覗くとグスタフは近年多国籍軍の頭を悩ませてる即席爆発装置(IED)対策したグスタフMRAP(耐地雷・伏撃防護型)で機体の数だけバリエーションがあると言われてる。

 国籍マークはアーカディア王国のだがグスタフMRAPは民間にも多く出回っていてあの機体に限って言えば通信機能を強化した大型のアンテナに、鋭くて甲高いエンジン音……恐らく、ガイロスのシュタウフェンベルク機械工場製大馬力エンジンに換装して速度と航続距離を強化してるのかもしれない。

 他にはネイビーブルーのシールドライガー、ヘリック陸軍ではなく海軍の水陸両用作戦や陸軍の第一八空挺軍団と並んで大規模緊急即応部隊である水陸機動軍団所属に見えるが、国籍マークはアーカディア王国のものだ。

 隣にいるのはディバイソンでカラーリングはヘリック陸軍のだが、国籍マークやはりアーカディア王国のだ。

 するとケーニッヒウルフが入ってきてその先には……カミル! ケーニッヒウルフは頭を下げるとコクピットハッチが開き、降りてきたのは思わず見惚れてしまう程の綺麗な黒髪の女の子だった。

「ねぇ、あれカミルじゃない!?」

「えっ!? 返して!」

 セレナは二~三〇〇メートル以上先にいるカミルに指を差すと、アヤメリアはすぐさま反応してジョエルから分捕って覗くとすぐに発見した。

「いた! カミル! ちょっと誰よあの子!?」

「えっ? 見せて見せて!」

 セレナが双眼鏡を借りて覗き「おおっ!」と、まるでいいものを見つけたかのような高い声になる。

「うわぁ……綺麗な子、あらあらぁ……カミル、あんな笑顔学校じゃ見せてくれないわ。あれさ、絶対恋してるって顔よ!」

「ええっ!? ちょっと、うわっ!」

 アヤメリアとセレナの二人は崖の上でバランスを崩してふらつき、ジョエルは反射的に動いた。

 

 

 カミルは放課後シルヴィアの様子を見に行く。整備工場のスタッフによれば今日から一週間は装甲版を外し、全身の整備にかかるという。

 久し振りに整備工場を見回ろうと駐機場に入る。検査を終えたのかリリアが格納庫から出てきてカミルは思わず微笑んで手を振ると、駐機場に入って適当な場所に停めてコクピットを開け、ヘルガが降りて来た。

「カミル君、学校終わったの?」

「うん、シルヴィアの様子を見に行ったところなんだ。これからリリアと散歩?」

 カミルはリリアの頭部に触れて訊くと、ヘルガは途端に饒舌に喋る。

「うん、リリア――ケーニッヒウルフやコマンドウルフ系統のゾイドは定期的に散歩させないとストレスを溜めちゃうの。軍用だと戦闘訓練とかで発散できるけど、私たちみたいに旅してるとずっと歩きっぱなしで町に到着したら休ませて、その後は情報収集も兼ねて町の周りを散歩させてるの」

「でも一人じゃ危ないんじゃない? 君と出会った時も一人だったけど」

「その時はハロルドを呼ぶわ、それにリリアが一生懸命私を守ってくれたのは一度や二度じゃないの! リリアは私の友達だから、その分を労ってあげないと」

「そうか……昨日出会った時、叶わなかったわけだ」

 カミルは昨日の手も足も出なかった状況を思い出しながら言うと、ヘルガは首を横に振った。

「ううん、私はまだまだよ。射撃の腕だとヨハンが上だし戦術はイヴァーナの足下には及ばないわ、格闘戦もハロルドに詰めが甘いっていつも言われてる。私はただ、リリアに乗せられてるようなものなの……私、一人じゃ弱いから」

 ヘルガは微かに暗い表情になる。上には上がいる、カミルはリリアと目を合わせると静かに唸る。一人じゃ弱い、だから強くなるために、修行の旅をしてるのかもしれない。

「僕も……強くなりたくて去年亡くなった祖父に銃の扱い方、自然の中での暮らし方、ゾイドとの接し方、身の守り方を教わったよ。おかげで山で自給自足できるくらいになったけどね」

「カミル君、野生児ね」

 ヘルガはクスリと笑みを浮かべるとジャンプしてリリアの上顎に腰掛け、少し躊躇いがちな口調で話す。

「私ね……生まれてからずっと……お城で暮らしてたの。普通の女の子のように普通の学校には行かせてもらえなくて、イヴァーナや家庭教師の先生たちからは礼儀作法やヴァイオリン、ヨハンからは武術や射撃を教わり、ハロルドからゾイドの操縦を学ぶ……それ以外にも夜は毎晩のように国内外の政府高官の人を招いて晩餐会が開かれたわ……同い年の友達なんていなかった……外に出る時と言えば外遊や週に一回通う、王立図書館で本をたくさん借りるのが楽しみだった……特に冒険小説や青春恋愛小説を読むのが好きで……それが当たり前のことだと思っていた。でもね、一二歳の時にあの本を読んでから私は普通の女の子として外の世界に飛び出したいっていう衝動に駆られたの」

「あの本?」

 カミルは呟くと、ヘルガは微笑んで言おうとした時リリアが静かに険しく唸った。

「どうしたのリリア?」

 ヘルガは見上げて訊くと、リリアは顔を上げて首を小さく上下に動かしてる。まるであれを見ろと言ってるかのようだ。カミルはリリアの視線の先を見ると整備工場向かいの切り立った崖に人が三人、ぶら下がっていカミルは指を差した。

「ヘルガ! あれ!」

「大変……リリア!」

 ヘルガの言葉でリリアはコクピットを開けながら頭を下げると、ヘルガは素早く飛び乗る。お淑やかな見た目に反してかなりのお転婆だ。

「カミル君! 乗って!」

「えっ!? わかった!」

 カミルも迷わず飛び乗ってコクピットに入る。勢いで入ったのはよかったが、ヘルガはコンソールパネルを降ろし、コクピットハッチを閉じると、一気に狭くなってヘルガに覆いかぶさるような状態になってしまう。

「えっ? ちょっ――ヘルガ!」

「しっかり捕まって! 跳ぶわよ!」

 ヘルガはモニターをONにすると躊躇う様子もない。カミルは安全バーに捕まって歯を食い縛った瞬間、リリアはフェンスを跳び越えるためダッシュ、ジャンプ! Gに押さえられて現場に急行する間ほんの数秒間、ヘルガと密着状態だった。

 汗と香水の混ざった生々しくもいい匂い、柔らかくて暖かい肌に微かに聞える吐息に滑らかな唇、一瞬の時間が長く引き延ばされてるように感じた。

「カミル君! 開けるわよ!」

 ヘルガの凛とした声が耳元でダイレクトに響き、振り向くと目を見開いた。

「ジョエル! セレナ! アヤメリア!」

 ジョエルが左手で突き出た木の枝に捕まって、右手でセレナを離すまいと握ってる。セレナは右手でジョエルの、左手でアヤメリアの手を掴み、必死に引き千切られそうな体を気力で持ち応えさせていた。

 

 解説

 グスタフMRAP

・発展途上国に駐留する多国籍軍を悩ませている地雷やIED対策を施したグスタフ、部隊レベルで様々な改修がされており、バリエーションは機体の数だけある。ヘルガたち一行はガイロス帝国のシュタウフェンベルク社製の燃費のいいエンジンに換装して航続距離を増やし。大型のアンテナを装備、機体後方には大型のキャンピングトレーラーを繋いで牽引してる。

武装:アーカディア・ウェポン・インダストリーズ社製120mmショートレールガン

*1
ダンゴムシ型輸送用ゾイドで官民軍問わず幅広く使用されている

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