今回から再スタートしていきますよ! まぁ、駄文かもしれませんが…そこはご了承ください(汗)
という訳で…ゆっくり見ていってください!(๑´◡`)_旦
うっすらと明かりが灯る洞窟の中、聞こえてくる獣の唸り声。恐怖で歯がガチガチ鳴りそうなのを必死に我慢しながら、
雪月は唐突に思い返していた…自分がこんな場所に来てしまった経緯を……
☆★☆
月曜日の朝。窓から差し込んでくる太陽の光は、一週間の始まりを告げる自然の目覚まし時計だ。学生や社会人はこれからまた始まる学校での日々や大量の仕事に憂鬱になる者が多いだろう。
彼、神薙雪月はこれから始まる一週間に半分憂鬱、半分楽しみといった割合だ。
何故半分楽しみなのか? それは、学校で会える一人の親友が理由だ。
未だ完全に抜けていない眠気と闘いながら、朝食を食べようと食卓のある居間へ向かう。
「……んお?」
部屋に着くと、部屋には既に彼の家族が全員集合していた。
「あぁ、雪月。おはよう。朝食出来てるわよ」
「おはよう母さん。あ〜、相変わらずいい匂い〜」
最初に雪月に笑顔で挨拶してきたのは、母の
「兄さん、いつもより遅く起きてきたという事は寝坊ですか? ……夜更かしはいけませんよ?」
「俺が夜更かしした事は確定なのか? 我が妹よ…まぁ合ってるけどさ」
溜息を吐きながら雪月に話しかけてきたのは、雪月も言った通り、妹の
以前どの高校に行くのかと聞いた事があった。すると海音は「兄さんと同じ高校」と即答だった。理由を聞いてみると「兄さんがいるから」とこれまた即答だった。どうしてそこまで俺にこだわるのかね……。
海音は黒髪のロングストレートに加え、それに似合う整った顔立ちをしている。今までに十数人という男が海音に告白してきたそうだ。中には海音の通う学校一のイケメンも入っていたとか。しかし、海音は全員をものの数秒で撃沈させているという。恐ろしい妹だ。
「雪月、体調管理はしっかりしておけよ? 病気になったりして、美桜さんや海音に心配かけるんじゃないぞ?」
「そうは言うけどさ、父さん? 中学に入ってからずっと皆勤賞なんだぞ。大丈夫だって」
雪月に体調管理の事を指摘しているのは、父の
そんな家族四人で何気ない会話をしながら、雪月は朝食を済ませる。今日の朝食は白米にベーコンとキャベツの味噌汁、ブリの照り焼きにかぼちゃの煮物、トマトと胡瓜のサラダだった。どれも大変美味でございました。
朝食を済ませ、歯磨きや洗顔をして制服に着替えた後は、弁当を受け取って学校に向かうだけだが、雪月は何かを思い出したように母親に告げる。
「あ、そうだ母さん。今日は少し早めに出るからお昼はコンビニで買っていくわ!」
「え? 何か用事でもあるの?」
「実は、今日友達に借りていた本を返そうと思ってさ。量が多くて重いから少し早めに出ようと思って」
そう言いながら、雪月は手に持っていた大きめの紙袋を見せる。それを見ていた海音がジト目になりながら…
「…兄さん? もしかして今日起きるのが遅かったのって、夜遅くまでその本を読んでいたのが原因なんじゃ?」
海音の言葉を聞いていた美桜の目もジト目になる。雪月は一瞬ビクッとした後、目を左右に泳がせた後……
「い、行ってきま~す!」
「あ、ちょっと雪月(兄さん)!!」
母と妹、二人の圧力に耐えきれなくなった雪月は逃げるように学校へと向かう。途中コンビニで昼食を買って再び学校へと向かう。今日の昼飯をサンドイッチかおにぎりにするかで時間を食ってしまい、下駄箱に着いた時には始業のチャイムが鳴る数分前だった。
急いで上履きに履き替えて自分の教室へと向かう雪月。急ぎながらも、今日はどのように過ごそうかと考えている内に教室のドアの前に到着し、なるべく音を立てないように教室のドアを開ける。すると雪月の目に、彼の親友が苦笑いしながらクラスの中でも有名な四人組と話して周りから睨まれている場面に出くわす。
「いつもの光景だなぁ~」と苦笑いしながら、雪月は親友の元へと歩みを進める。先に雪月に気付いた周りの生徒達は雪月を見た途端、男子も女子も含めて全員がさっきまで彼の親友に向けていた視線をさっと逸らす。周りのいつも通りの反応に雪月は内心溜息を漏らす。そして、親友の後ろに着くと肩をツンツンとつっつく。いきなりつつかれた事に驚いたのか、一瞬ビクッとした後、慌てて顔をこちらに向ける。すると、今まで苦笑いしていた顔がパァッと明るくなる。
「雪月!」
彼の名前は
「よぉ、ハジメ。ま~たいつも通りの光景だなぁおい」
「あはは、そうみたい」
雪月とハジメが互いに苦笑いしていると、ハジメの傍にいた女子生徒が話しかけてくる。
「神薙くん、おはよう。今日は来るのが遅かったね?」
彼女の名前は
「おはようさん白崎。実はコンビニで時間とっちまってな」
「ん〜? いつもお弁当の神薙くんがコンビニなんて珍しいね? …あれ? その紙袋は?」
「ん? あぁ、そうそう。ハジメ、これ」
そう言いながら、雪月は持っていた紙袋をハジメのすぐ横に下ろす。ハジメと香織は頭に?を浮かべる。
「雪月、これは?」
「ハジメから借りていた本全部。読み終わったから返そうと思ってな」
「嘘ぉ!? 貸したのって先週の金曜だよ!? 土日で全部読み終わったの!?」
「おう」
「流石に早過ぎない?」
「いや~、読み始めたら止まんなくてよ…寝るのも忘れて読み耽っちまった。カカカ!」
「駄目だよ神薙くん、夜更かしは!」
「分かってるって。これからは気を付けるさ」
そう言いながらカッカッと笑う雪月にハジメは呆れたような表情を浮かべ、香織は苦笑いしていた。
「あ、そういえば神薙くんが南雲くんから借りた本ってなんなの?」
「えっと確か…Fate…だっけか? 結構面白かったぜ。良い本貸してくれてありがとな、ハジメ」
「気に入ってもらってよかったよ。僕も好きなんだよね、この作品」
「へ~、わっ! 結構な数入ってるね。これ全部読んだの?」
香織が紙袋の中を覗いてみると、中には名前の最初ににFateが入っているものばっかりだった。その本の数は軽く三十冊を超えていた。
「あぁ、週末の暇な時はずっとそれを読んでたよ。ハジメ、別のがあったらまた貸してくれないか?」
「もちろん、今度持ってくるよ」
「お、良いね~。楽しみにしてるぜ」
雪月とハジメが話に花を咲かせていると、わざとらしい咳払いが聞こえてくる。
「ゴホン! 神薙、俺等の事を忘れないで欲しいな」
雪月が明らかに嫌そうな顔で視線を話しかけてきた声の主へと移す。そこには雪月に割り込まれた事で少々不満顔になっている一人の男子生徒がいた。
「よぉ、いたのか天之河。悪い、気付かなかったわ」
「気付かなかったって…お前な……」
雪月の言葉に苦笑いしているのは
「まぁ、いい。とにかく! 南雲、君は態度を改めるべきだ。香織だって何時までも君に構っていられる訳じゃないんだし、香織の優しさに甘えてばかりなのもどうかと思うぞ」
「だからね、光輝くん。私は南雲くんと話したいから話しかけてるんだってば~」
香織が言った瞬間、周囲がザワザワと騒ぎ出す。何故この一言だけで、周囲がこんなにも騒ぐのか…
雪月の親友、ハジメはいわゆるオタクというものだ。だが、容姿や言動が見苦しい訳ではない。彼の容姿は髪を短く切り揃えて寝癖は無い、至って平凡だ。勉強やスポーツも突出したものはなく平凡。だが、コミュニケーションはきちんと取れていて、積極的ではないが受け答えはしっかりとしている。単に漫画や小説、ゲームや映画といった創作物が好きなだけである。
そんなハジメに、香織は毎日話しかけてきているのだ。学校の人気者である香織が。授業中は居眠りが多くて、不真面目な生徒と周りから見られているハジメに話しかけているのは、面倒見が良い香織が気に掛けているのだろうというのが周りの考えだ。これでハジメの態度が周りにとっていい方向に改善されてたら、周囲も許容出来ていたのかもしれない。
しかし、ハジメは本人曰く、“趣味の合間に人生”というスタンスで生きているので、態度を改めるつもりはない。そんなハジメが香織に毎日話しかけられているのが、同じく平凡な彼等には許しがたいのだろう。女子達は態度を改善させないハジメに不快感を感じているようだ。
「…香織は本当に優しいな。でも、何時までも南雲に構っていられないだろう? 南雲はずっと君に甘えてばk「待てよ」神薙?」
光輝の言葉を遮るように雪月がハジメと香織の前に出る。雪月の身長は百七十八センチで若干光輝より低く、目線は光輝より若干下になる。雪月は言葉を続ける。
「なぁ天之河、さっきから聞いてたらよ…お前の自己解釈もそこまでにしておけよ? 白崎はさっきハジメと話したいから話してるだけだとさっき彼女自身も言っていただろ? それに、ハジメも別に白崎に甘えてる訳でもないだろ。ハジメが今までに一度でも白崎に甘えるような事をした事があったか? それと、お前にハジメの生き方をどうこう言う権利なんて無いだろうが。ハジメはハジメで自分の将来の事をちゃんと考えて生きているんだからよ」
雪月はハジメの生き方や態度についてどうこう言うつもりはない。何も考えてなければ注意したかもしれないが、雪月はハジメが真面目に今後の事を考えているのを知っているからだ。
本人から直接聞いた事だが、彼の父親はゲームクリエイター、母親は少女漫画家らしく、ハジメも将来に備えて両親の会社や仕事場でバイトしているそうだ。しかも既に即戦力扱いされる技量を持っているとの事。
雪月はハジメの将来をきちんと考えた生き方を尊重している。むしろ応援しているくらいだ。故に、雪月はハジメの生き方に文句をつけている光輝が気に食わないのだ。
「だが神薙、学校に来る以上、やる気が無いのは駄目だろう? 君にだってやるべき事があるはずなんだから、南雲なんかに構ってないで自分のやるべき事をやったらどうだ?」
光輝はこの時、重大なミスをしてしまった事にすぐに気付けなかった。雪月に言ってはならない言葉を言ってしまった事に……
「…今何つった? オイ」
雪月の言葉に怒気が含まれていることに気付いた光輝は内心「しまった」と思っていた。
だがもう遅い。次の瞬間、雪月は光輝の胸倉を掴む!
「天之河、てめぇ今…ハジメ
雪月の声が教室どころか廊下にも響くくらいに大きくなる。
「い、いや…神薙、俺は…」
「天之河、お前にとっちゃハジメはやる気の無い奴程度にしか見ていないんだろうがな……俺にとっては家族の次に大切な掛け替えのない親友なんだよ! それ以上ハジメの事を馬鹿にしたような事を言うんだったら……」
雪月は誰もが見ても分かるくらい激怒した様な表情から一気に無表情になり、一言告げる。
「……骨の二、三本逝っとくか?」
その言葉に光輝だけじゃなく、ハジメも含めたその言葉が聞こえた全員が顔を青褪めて震え上がる。彼らは知っているのだ。雪月が怒っている時に言う言葉は冗談ではなく、本気で言っているという事に。
過去に一度…そう、たったの一度だけ、雪月が本気で怒ったところを見た事がある彼らは……
「待て神薙、落ち着け」
そう言って、横から雪月の肩を掴んでいるのは
だが、そんなの気にしないとばかりに雪月は龍太郎を睨む。
「坂上…邪魔するってんなら、お前も痛い目見せるぞ?」
「いいから落ち着けって。第一、なんでそこまで怒るんだよ? 光輝はただ、南雲を注意してただけだろうが」
「あ?」
龍太郎の言葉に雪月は表情を険しくする。
「じゃあお前等に聞くがよ、ハジメは今まで誰かに自分から迷惑掛けた事があるのか? ハジメの行動が、誰かの迷惑になったことが」
「あん? そりゃあ、お前…………あれ?」
「そ、それは……」
二人が言い淀む。雪月の目の前にいる二人は言葉を続ける事が出来なかった。思い返してみれば、ハジメが自分から周りに迷惑を掛けた事なんて見た事がほとんど、否、全く無かったのだ。
「言えないのか? そりゃあそうだろうな。ハジメは自分から周りに迷惑掛ける事なんてしないからな。白崎はさっきも言った通り、自分が話したいから話しているだけでハジメが迷惑を掛けている訳じゃない。それなのになんでお前等に注意されなきゃいけない? ハジメはハジメで自分の価値観を持ってるんだよ。勝手にお前等の価値観を押し付けるな!」
雪月の怒気が含まれた叫びに光輝と龍太郎がたじろぐ。普段は真面目で誰とでも話せる雪月だが、怒るとこのクラスの誰よりも怖い存在となる。
そんな中、雪月の元に歩み寄る人物が一人…
「ごめんなさいね、神薙君。光輝は悪気があった訳じゃないから……」
「……八重樫」
雪月に謝っている彼女の名前は
現代の美少女剣士として香織と同じくらい人気がある(主に女子からだが…)。後輩の女子達からは“お姉さま”と言われ慕われているのだが、本人は嫌なのか、いつも頬を引き攣らせている。
最近では、後輩女子達の間で「剣道では負けなしのお姉さまを負かし続けている男がいる」という噂が流れており、その男子生徒を血眼になって探しているとか。
「雫……」
「神薙君、光輝を許してあげて。お願い」
「………」
雪月は雫を少し見て目を閉じながら息を吐くと、光輝をキッと睨みながら胸ぐらを掴んでいた手を放す。
「……分かったよ。俺も騒ぎを起こして、家族にまた迷惑掛けるわけにもいかねぇしな」
「そう、ありがとう」
「……ふんっ」
そう言われて、頬をポリポリと掻く雪月。雫は雪月を含めたこの面子の人間関係や各々の心情を一番理解しており、いつも苦労しているのを雪月は知っている。その所為か、雫のお願いをあまり無下に出来ずにいる。
「あ、そうそう。神薙君、これ」
「ん?」
雫が何かを思い出したように、内側に折られた紙を雪月に渡してきた。
「何これ?」
「後で開けてみて。もうすぐチャイム鳴るだろうし」
雫の言葉に続いて始業のチャイムが鳴り響く。その数秒後に担任が教室に入ってくる。それを合図に、立っていた生徒が皆自分の席に座る。雪月の席はハジメのちょうど真後ろ。教師は教室のこの空気にはとっくに慣れてしまったのか特に気にせず、連絡事項を伝え始める。そして、いつも通り授業が始まると同時に、ハジメが夢の世界へと旅立つ。そんなハジメを見ていた香織と雪月が微笑み、雫は苦笑いをしていた。他の男子達は舌打ち、女子達は軽蔑の視線をハジメに向けるが、雪月の睨みによってそれも数秒で終わる。
こうして、誰もが憂鬱だと感じるであろう一週間の一日目が始まる。
☆★☆
教室のざわめきと後ろからつつかれる感覚に、ハジメは意識を覚醒させていった。突っ伏していた体を起こして後ろを見ると、雪月が笑顔で自分の席に座っていた。
「ハジメ〜、昼休みに入ったから飯にしようぜ〜」
どうやら昼休みに入ったらしい。教室を見回してみると、購買組はもう買いに行ったのだろうかいなくなっており人数が減っていた。しかし、このクラスは殆どが弁当持参組なのでまだ三分の二の生徒が残っている。それに加え、四時間目の社会科教師の畑山愛子先生が教壇で生徒数人と談笑していた。
ハジメは椅子を雪月の方へ向け、鞄から十秒チャージ飲料を取り出す。それを見ていた雪月は苦笑いし…
「ハジメ、またそれかよ。そんなんばっか食って、栄養失調とかになっても知らねぇぞ?」
ジュルルルルル、ギュッポン!
「そういう雪月だって、コンビニのサンドイッチとパックの野菜ジュースだけじゃないか。人の事言えないでしょ?」
「ん~……まぁそれもそうだな。カカカ!」
ハジメが昼食を済ませ、雪月が笑っていると、一人の生徒がニコニコしながら近寄ってくる………香織だぁ。
ハジメは内心「しまった」と呻り、雪月は内心「やっちまった」と溜息を吐いていた。いつもだったら雪月と一緒に彼女が来る前に教室を出て、何処かで漫画や小説について話すのが定番なのだが、ハジメは昨日の徹夜が、雪月は夜更かしが効いたらしい。香織の事をすっかり忘れていた。
「南雲くん。教室に残っているなんて珍しいね? どんなお弁当食べてるの? 良かったら、一緒に食べない? もちろん、神薙くんも一緒に♪」
教室が不穏な空気に満たされる。雪月がハジメの方を見ると、もう勘弁してくださいといった表情で雪月に助けを求めていた。やれやれと思いながらも、ハジメの為に行動を起こす。
まず、周りの敵意を持った視線への対処。これは簡単だ、何故なら……
(キッ!)
(サッ!)
雪月が睨み返してやればそれで終わりだ。さて、これで周りの視線は何とか出来た。
次に、目の前にいる
「え~っと、すまん白崎。ハジメはもう食べ終わってるし、俺はこれだけで足りるから…向こうにいる天之河達と食べたらどうだ?」
その言葉に賛同するかの様に、ハジメがミイラの様にカラカラとなった十秒飯のパッケージをヒラヒラと見せ、雪月は自分の前に置かれているサンドイッチとパックの野菜ジュースに視線を落とす。これで諦めてくれたらいいのだが……
しかし、こういう時の雪月の勘は自分でも恐ろしいと思う程に良く当たる。今回も嫌な予感は当たってしまい、今の抵抗など意味を成さないとばかりに追撃を仕掛けてくる。
「えぇ!? 二人共、お昼それだけなの!? 駄目だよ! 男の子はちゃんと食べなきゃ! 私のお弁当分けてあげるからさ、一緒に食べよ? ね?」
再び周りの空気が重くなる。
ここで雪月の睨み返し再発動!
(ギロッ!)
(ササッ!)
周りの視線を退けた雪月がこの状況をどうしたものかと考えていると、少し離れた所から救世主が現れた……光輝達だった。
「香織、こっちに来て一緒に食べよう。南雲は食べ終わっているみたいだし、雪月はそれだけで足りるみたいだからさ。折角の香織の美味しい手料理を無理に食べようとするのは二人に悪いだろうし、俺が許さないよ?」
(言い方が一々癇に障るな、やっぱり骨n……)
(だ、駄目だよ雪月! お願いだから抑えて!!)
相変わらずの爽やかな笑顔&キザな台詞をポンと言う光輝。そしてそんなキザ野郎に怒りが込み上げ始める雪月とそれをなだめるハジメ。しかし、香織はキョトンとしていた。彼女は少々鈍感というか、かなり天然なのだ。そんな彼女には、光輝の言葉やイケメンスマイルは全く効果を示さずスルーされる。
「え? なんで光輝くんの許しが必要なの? 私は南雲くん達と一緒に食べたいから誘ってるだけだもん」
「「ブフッ」」
あまりにも香織が素で聞き返すものだから、それを聞いていた雪月と雫が思わず吹き出していた。雪月は笑っている雫をチラッと見た時、朝のいざこざの後で雫に渡された紙の事を思い出す。机の中にしまっていた紙を開いてみると、そこには短くこう書かれていた。
『今日の放課後、剣道場にて待つ』
(んがっ!?)
これを見た瞬間、雪月は目を見開きながら慌てて雫の方を見る。すると、雪月が紙を見ているのに気付いていたのか、こちらに向かってウィンクしていた。それを見た雪月の顔が引き攣る。
(やれやれ、またか……最近
何故雪月が雫からこんな果たし状じみた物を貰っているのかというと、先程言っていた後輩女子達の間で噂になっている「雫を負かし続けている男」が関係している。
実を言うと、この噂は真実であり、これは雪月の事をいっているのだ。雪月は剣道の勝負で、雫を打ち負かした事がある。それも何回も。
どうして剣道では負けなしとされている雫に雪月が勝っているのか、その答えは…雪月も彼女と同じ様に、剣術を学んでいるからなのだ。ただし、雫の実家の道場で習っているのではなく、彼の父、神薙鷹虎から小学四年の頃から現在進行形で剣術を学んでいる。
そして、何処かで聞かれたのか、それを知った雫から勝負を申し込まれ、彼女を打ち負かした。それ以来、時々勝負を挑まれ続けている。
(はぁ…朝の件もあるし、断りにくいよなぁ……)
雪月が頭をガシガシ掻いていると、廊下が少し騒がしくなっている事に気が付く。
「ん…なんか廊下が騒がしくないか?」
「うん? ……そういえばそうだね。何かあったのかな?」
ハジメと雪月が廊下の騒ぎについて話していると、廊下の様子を見ていた男子生徒達の会話が聞こえてきた。
「おい、何かあったのか?」
「あぁ…なんか近くの中学校の制服着た女の子が来てるんだとよ。なんか人を探してるみたい」
(中学校の制服? ここの学生か教員の関係者って事か? わざわざ学校の中にまで入って来るとはな……)
雪月がそんな事を考えながら残りのサンドイッチを食べようと手を伸ばしたところで、またしても会話が聞こえてくる。
「しかもよ、その女の子、すっげぇ綺麗なんだとよ」
「そうなのか?」
「あぁ、黒髪のロングストレートにそれに似合う綺麗な顔をしてるらしいぜ」
最後の言葉を聞いた瞬間、雪月の手が止まる。それはもう一時停止したかの様に…
(黒髪…ロングストレート…それに似合う綺麗な顔立ち……そして近くの中学校? う〜ん……ものすご~く知ってる奴の特徴と一致するんだが)
「雪月? 急にどうしたの?」
雪月が急に動きが止まった事に心配になったハジメが聞いてくる。
「いや、今廊下を騒がせてる奴についてちょっとな」
「どういう事?」
ハジメが疑問に思っていると、廊下が更に騒がしくなる。
「お、おい…こっちに来るぞ! お前話しかけてみろよ!」
「む、無理無理、無理だって!」
どうやらこっちに近づいてきているらしい。行った方が良いのかもしれない。
「はぁ…ちょっと行ってくる」
「え、何処に?」
「廊下。もしかすると知り合いかもしれんから」
そう言って、雪月は教室のドアに向かって歩き出す。重い足取りで……
教室のドアの前に集まっているクラスメイト達の一番後ろに着いた雪月は近くにいた男子に声を掛ける。
「なぁ、俺にも見せてくれないか?」
「へ? げっ! か、神薙!?」
「なんだよ、げっ! て…別に何もしねぇよ。ただ見たいだけだから」
急に後ろに雪月が現れた事に驚いたのか、廊下を見ていたクラスメイト達が全員驚愕の表情をしていてその場を動こうとしなかった。これじゃ廊下を見ることが出来ない。
しかし、その必要はなかった。
「あ、やっと見つけた!」
『!!』
「………やっぱりお前か、海音」
男子達の向こうから聞き覚えのある声が聞こえてくる。その声でやっと我に返ったのか、クラスメイト達がササッと道を開ける。その先には……雪月の妹、海音がいた。
「どうした? わざわざ学校の中まで来て。なんか俺に急ぎの用事でもあったのか?」
「うん、これを届けに来たの」
そう言うと、海音は小さな包みを雪月に渡して来た。
「……これは?」
「お弁当。私が渡して来るって言って持ってきたの」
「わざわざ学校の中まで届けに来たのか? 昼はコンビニで買って済ませるって言った筈だろ? それに届けに来るんならメールで知らせてくれりゃ外まで行ったってのに……というか、お前自分の分はどうした?」
「もう食べ終わったわ! それで急いで持ってきたの」
「お、おう……さいですか。というか、食い終わって直後の急な運動はしない方が良いぞ」
海音が笑顔&右手でVサインしているのを雪月が苦笑いしながら話していると、後ろから様子を見に来ていた香織が聞いてきた。
「ねぇ、神薙くん。その綺麗な子は?」
「んぁ?」
香織の言葉でクラスに残っている生徒全員の視線が雪月に集まる。雪月は教室全体を見回した後……
「あ~……俺の妹だ」
「神薙海音です。兄がいつもお世話になっています」
雪月の短い紹介に海音の自己紹介が加わる。それを聞いたクラスメイトは一瞬の沈黙の後……
『え~~~!!?』
廊下どころか学校中に響くのではないかという叫びが木霊する。そんな中、香織が二人に聞いてくる。
「嘘! 神薙くん妹さんいたの!?」
「お、おぉ」
「ねぇ、本当なの? 神薙くんと兄妹って!?」
「は、はい。本当です」
男子達は「嘘だ…」とか「神薙にあんな可愛い妹が? 有り得ねぇ…」とかうわ言の様に呟きだし、女子達は海音の周りに集まって質問しまくっていた。突然の質問攻めに海音も困り顔だ。若干涙目の視線がこっちに向いて語りかけてくる。「助けて」と。
「あ~、弁当ありがとな海音。それと皆、海音が困ってるから質問攻めは勘弁してやってくれ」
「え~? でも気になるじゃない!
「……兄さん? あのって何ですか? 普段この人達にどういう印象を持たせているんですか?」
一人の女子の言葉を聞いて急にジト目になる海音。雪月は一瞬ビクッとした後、視線を逸らす。
「兄さん。目を逸らさずにこっち向いてください」
「な、何を言ってるのかな~? 俺は逸らしてなんていない、ぞ?」
「じゃあ、こっちをしっかり見てください!」
「そ、それよりも! そろそろ学校に戻ったらどうだ? 友達が待っているんじゃないのか?」
「話題を変えて誤魔化そうとしないで!」
そんな雪月と海音のやり取りを、ハジメは自分の席から驚きながらも普段見れない雪月の微笑ましい光景だなぁと見ていた。ハジメだけではない、香織や雫、他にも複数の女子達が同じ様な気持ちで二人を眺めていた。
周りの視線に気付いたのか、雪月が辺りを見回して顔を赤くする。
「な、なんだよお前ら! 見せ物じゃねぇんだぞ!」
「兄さん、正直に答えてください! 毎日学校で何やってるんですか!?」
「だぁ~! とりあえずお前は自分の学校に戻れ! お前がいると調子狂うわ!」
教室が笑いに包まれる。と言っても、殆どが女子のものだが。男子は嫉妬の視線を雪月に向けていたが、今の雪月にそれを気にしている余裕はない。今はどうやって海音を帰すかで頭が一杯だった。
ハジメは二人のやり取りを見ながらも、この後どうしようかと視線を自分の傍に戻した時、その表情が凍りついた。
ハジメの目の前、正確には光輝の足元に純白に光り輝く円環と幾何学模様が現れたからだ。この異常事態に他の男子達や笑っていた女子達もすぐに気付く。もちろん、雪月と海音も。雪月は海音を庇うように前に立ったが、それ以上は動けずにいた。教室にいた全員が同じ様にその場から動けずにいた。光り輝く紋様は、俗に言う小説や漫画に出てくる魔方陣のようなものだった。
魔方陣は徐々に大きくなり、ほんの一、二秒で教室全体を覆うものとなった。そこで、漸く我に返れた生徒達の悲鳴が響く。教室に残っていた愛子先生が教室を出るように生徒達に必死に呼びかける。
雪月は「海音っ!」と叫びながら、後ろに隠れて怯えた表情で自分の服の裾を握っていた海音を咄嗟に教室の外に突き飛ばす。海音が小さな悲鳴を上げながら教室の外に出たのと魔方陣の輝きが爆発したように『カッ!』 と光ったのはほぼ、同時だった。
突き飛ばされた海音が教室の中を見ようとして、まばゆい光に腕で目を覆って一体何秒経ったのだろうか……。漸く光が収まり、海音が目を開けて再び教室の中を見た時、そこには………
誰もいなかった。
椅子や机、開かれた弁当箱や散乱する箸やペットボトル、そして、海音が届けに来た雪月の弁当箱も床に転がっていた。教室の中にいた人だけが全員、神隠しにでもあったかの様に忽然と消えていたのだ。
海音はふらふらとおぼつかない足取りで教室の中に入って行き、自分が届けに来た弁当箱の前にぺたんと座り込む。震える手でそれを取って抱き込むと、最後に見た自分を教室の外に出してくれた兄の必死な顔が浮かび、その直後に涙が溢れてきた。
「……兄さん? にいさん…お、にい、ちゃ、ん。いや、いやぁ……いやぁーーーーー!!」
海音は周りの事を気にせず泣いた。騒ぎを聞きつけた教員によって、すぐさま警察に連絡が入り、この事件は白昼の高校で発生した集団神隠し事件として世間を大いに騒がせ、海音はその唯一の目撃者として事情聴取される事となる。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
突然教室から消えてしまった雪月達。彼等は一体何処に行ってしまったのか?
次回「邂逅と異世界召喚」
それでは!三└(┐卍^o^)卍ドゥルルル