ありふれた贋作で共に世界最強   作:シュシュマン

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あらすじ部屋

???「奈落へと落ちた少年は、気が付くと川の中にいた」

???「周りは薄暗く、親友の姿も見当たらない」

???「ひとまず行動しようとする少年の前に、奈落の底の魔物が立ち塞がる」

???「なんとかその場を切り抜けようとするが、今度はそんな彼を絶望が襲う」

???「彼の下に飛んでくる一つの布きれ。それはよく知っている物だった」

???「怒り狂う少年。しかし、ある魔物のたったの一撃で彼の自信やプライドは粉々に崩れ去ってしまった」

???「恐怖に負けて逃走する少年。逃げ切ることは出来たが、自分があまりにも無力だということを思い知らされる」

???「そして、そんな彼にさらに待ち受けるものとは……」

???「第十二話―――”受け継がれる力”」

???「……いよいよだ」


第十二話:受け継がれる力

 

 

 

 

 

 全てを失った。

 

 

 

 

 一緒に戦っていた仲間も、友達も………親友も。何もかもを失った。そして、俺だけ(・・)が生き残った。何故かは分からない。単に運が良かっただけなのか、それとも別の理由があるのか、だがそれはどうでもよかった。その時の自分にはそれを考えるだけの余裕はなく、ただその場に呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。

 

 

 

 最初に感じたのは、深い悲しみ。

 

 

 

 動かなくなった仲間達の前で何度も泣いた。守れなくてごめん、救えなくてごめんと何度も何度も謝罪の言葉を呟きながら。どれだけ泣いたのか分からない……

 

 

 

 次に感じたのは疑問。

 

 

 

 どうしてみんなが死ななければならなかった?―――――魔人族と戦争をしていたから。そして負けた。

 

 そもそも俺達は一体なんのために戦っていた?―――――俺達はハイリヒ王国に、人間族を救ってほしいと頼まれた。その為に、俺達は異世界の神エヒトによってこの世界に召喚された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………神?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうやって自問自答を繰り返していた時、俺はある答えに辿り着いた。

 

 そもそも、その神が俺達をこの世界に召喚しなければ、こんな事にはならなかった。どうして俺達なんだ? 何故俺達がこんな目に合わなければならない!?

 

 沸々と湧き上がってきたのは……怒り、そして憎悪。心の底から激しく怒り、それと同時にその存在そのものが死ぬほど憎いと感じたのは初めてだった。

 

 そうして、俺は死んでいった仲間達に別れを告げ、ただ一人、誰もが馬鹿馬鹿しいとも思える復讐を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『神を殺す!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その為に戦った……戦い続けた。己を限界と思えるまで鍛え上げ、戦う。それでも及ばなければ、再び鍛えて、戦って、勝って、戦って、負けたらまた鍛える。その繰り返しだ。

 

 そうやって何度も限界を迎え、それを越えていく。何度も、何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も! そうやって限界の、さらにその先を目指して―――‼

 

 

 

 ☆★☆

 

 

 

「こうして思い返してみれば、俺は、ただ死に場所を求めていただけなのかもしれない。『神を殺す』なんて大層な目的を掲げておきながら、本当はみんなの後を追いたかっただけなのかもな」

「……………」

「だが、俺は死ねなかった。どんなに絶望的な状況でも、必ず生き残ってしまった」

 

 

 

 空が赤い雪原。そこにある無数の剣とは異なる二つの影が存在した。一人は男、もう一人は四つん這いの状態で俯いている雪月だ。

 

 先程から男の方が喋り続け、雪月は黙っていた。ちょうど顔の下にある手が濡れているのは、泣いているからだろう。そして、雪月がかすれた声で呟く。

 

「今のは……なんなんだよ……」

「惚ける気か? お前なら、もう既に分かっている筈だろ? お前が見たのは………」

 

 

 

 

 

 俺の過去、そして……………お前(・・)の未来のひとつだ。

 

 

 

 

 

「……それじゃあ、やっぱり、お前は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『未来の俺』だっていうのかよっ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男、未来の雪月が過去の自分を見下ろす。その目はとても冷たいものだ。

 

「正確には平行世界のお前、というべきなんだろうな。俺とお前とじゃ少し過去が違う」

「………どうして、俺にあんなものを見せた……」

「まぁ、ちょっとした八つ当たりみたいなものだ」

「な、に……?」

「なぁ、過去の俺。お前は自分が強いと思いあがり、守りたいものを全部守れると信じきっていた、違うか?」

「………それは」

 

 未来の自分の言葉に雪月は言い淀む。実際そうだったのだから反論出来ない。

 

「俺も同じだったさ。守れると信じていた。だが、その考えは甘かった。俺は失った、仲間を、親友を! もしお前が本当にあいつを………ハジメを守りたいと思うならっ! 自分が誰よりも! あの天之河(勇者)よりも強くならなきゃいけなかった!」

「くっ……うぅ……」

「あの絶望した日から俺は強くなった! 他の奴とは比較にならないほど強くなったと自負できる! どんな敵だろうと倒せる自信がある! ……今なら……」

「……………」

「今なら、失ったもの全てを守れる自信がある。だが! 俺にはもう守るものが何一つ残っていない! 何も残ってないんだよ! どうして! なんで俺は今になってこの強さを得た!? どうしてあの時にこの強さが無かった!? 今の俺のこの強さに何の価値があるっていうんだぁ!!」

 

 未来の雪月は叫ぶ。それは全てを失い、それを奪った者達や、神への復讐の為に己を鍛え続け、今に至る彼の心の奥底に溜まっていた気持ちだった。

 

「………だったら」

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「だったらよぉ!」

 

 気付けば雪月はよろよろと立ち上がり、未来の自分の胸ぐらを掴む。

 

「今すぐ俺に寄越せ!」

「……………」

「いらないってんなら、もう必要ないって言うなら、それを俺にくれよ! 俺には必要なんだ。今必要なんだよ強さ(それ)が! 俺から大切なものを奪った奴に復讐するために、必要なんだよぉ!!」

「………あぁ、もとより……」

 

 スッと未来の雪月が片手を上げる。

 

「そのつもりだ」

 

 そして、下ろすと同時に、雪月の背中に激痛が走る。

 

「がっ、あが……な、なん、だ?」

 

 雪月が後ろを見ると、自分の背に刺さってる(・・・・・・・・・・)剣が見えた。

 

「な、んだよ……これ……」

「なぁ、お前にはあるか?」

「あ、うぁ?」

「自分にもっと力が、今以上の強さがあればと……死ぬほど悔やんだことはあるか?」

「そん、なの……!」

 

 ドグンッ!

 

「あぐっ、う、あ゛、ぎ、がぁ、あぁぁあああああぁあああああ!」

 

 背に刺さった剣から何か得体のしれないものが流れ込んでくるのを感じる。体が熱い。まるで中から焼かれているようだ。ドクンッドクンッとまるで剣自体が脈打っているように感じた。そしてそれは段々と強くなっていく。

 

「今この時、この瞬間! 俺の世界とお前の世界は一時的に完全に繋がった。今からお前に俺の……いや! 俺達(・・)の全てを託す! その力で! 奴を……神を殺せ!!」

「ぐっ、うぎ……おぉおおおおおぁぁぁああああああああああ!!」

 

 雪月は空に向かって右手を伸ばす。そこに何かがあるわけではない。しかし、雪月は何かを掴もうと伸ばし、次の瞬間、強く握りしめる!

 

 するとそれに反応したかのように、周りの景色が、がらりと変わっていく。赤く染まった空は青く輝く晴天へと変わり、周りに突き刺さっていた剣はそのままに、新たに槍などの剣以外の別の武器が加えられていく。

 

 雪月は右手を天に向かって伸ばしたまま、呆然と立ち尽くしていた。

 

「これで、全てがお前に託された」

 

 雪月は未来の自分の方に目を向けると、その表情は心なしか笑っているように見えた。その直後、視界が真っ白に染まってくる。そして、すべてが真っ白に染まる前にある言葉が聞こえてきた。

 

「そういえばお前は、あの布きれだけで死んだと考えたようだが、それはちょいとばかし早計なんじゃないのか?」

 

 それを聞いた直後、雪月の視界は完全に真っ白に塗り潰された。

 

 

 

 ☆★☆

 

 

 

「……うっ、あ………」

 

 目を覚ます。そこは爪熊からの逃亡の末に辿り着いたあの小さな部屋だった。

 

「さっきのあれは、夢じゃ……ない、よな」

 

 雪月は上体を起こす。爪熊によって左目は失われ、視界は左半分が真っ暗だった。

 

「ん……血が止まってる。あいつがなんかしたのか?」

 

 体の状態を確認したが、出血が止まっていた。しかし、傷はそのままのため、体を動かそうとすると激痛が走る。

 

「つっ! くぅ……少しは体を休ませねぇとな。これ以上無茶したら、体壊しちまう」

 

 体を休ませようと近くにあった壁に寄りかかる。完全に座り込んだと同時に、今度は頭に痛みが走る。

 

「が、あっ! 頭が、痛い!? なんだ、これ? 頭の中に、何か知らないモノが……入って、くる!?」

 

 頭を抱えて蹲る。耐えれない程ではないが、その場から動けずにいた。そして数秒後、痛みは徐々に引いていった。

 

「はあ、はぁ、はぁ………一体、何だったんだよ。今、の…は……?」

 

 雪月が自分の状態を確認しようとする前に、頭の中に自分が知らないはずの情報が思い浮かぶ。

 

「これは、俺の知らない記憶? そう言えば……」

 

 あの雪原で未来の自分は言った。『俺達の全てを託す』と。

 

「もしかして!」

 

 雪月は慌てて自分のステータスプレートを取り出す。そこには……

 

===============================

神薙雪月 17歳 男 レベル:12

天職:錬成師 贋作者

筋力:150

体力:170

耐性:150

敏捷:300

魔力:200

魔耐:200

技能:投影魔術[+高速投影]・千里眼・心眼(偽)・魔装演舞・剣気闘法・錬成・剣術・双剣術・双大剣術・槍術・弓術・全属性適正・全属性耐性・言語理解

===============================

 

 と、このように表示されていた。

 

「……………」

 

 雪月は数秒間、プレートとにらめっこする。もうプレートとキスするんじゃないかという距離まで顔を近付け、自分の情報を注視する。

 

 そして、プレートから顔を離すと、「はぁ」と深い溜息を吐く。

 

「全てを託すって言うから、なんかステータスが爆発的に増えているのかと思ったけど、違うのか。取り敢えず分かったのは、俺が受け継いだのは記憶と、それから……」

 

 再びプレートの方に目を向ける。プレートには変化が三つほどあった。

 

 まず一つ目は、天職欄にあった???が『贋作者』に変わっていた。未来の自分から色々受け継いだ影響だろうか。

 

 二つ目と三つめは技能についてだ。よく見ると、投影魔術の横に[+高速投影]というものがついている。これはおそらく”派生技能”と呼ばれるものだろう。その技能を使い続けることで、後天的に身につく新たな技能。

受け継いだ記憶の中には、経験も含まれているからそのお陰だろう。名前から察するに、より速く武器などを投影することが出来るのだろう。有り難い限りである。

 

 三つ目については、これが一番謎だった。技能欄に新たに二つの技能が加わっていた。『魔装演舞』と『剣気闘法』である。

 

「これについてが一番分からねぇ。記憶の中に情報があるんだろうけど、靄がかかったようになんも分からない。プレートで詳細を見れないだろうか」

 

 技能の詳細を見ようとするが、ここで思わぬ障害が発生する。

 

 

 

 『この技能は現在使用不可能のため、詳細の開示は不可』

 

 

 

「………はい?」

 

 雪月の目が点になる。予想外の展開に理解がすぐに追いつけなかった。

 

「いや、えっと…は? 見れないって……はぁ!? なんだよそれ……あんの野郎、使えるモンを寄越せよ(怒)」

 

 雪月は拳をワナワナと震わせて怒りが込み上げてきたが、すぐにやめて冷静になる。

 

「落ち着け、怒ったって意味はない。使えないのはきっと何か理由がある筈だ。ひとまずこれは一旦保留。次に確認すべきなのは……」

 

 雪月は立ち上がり、唱える。

 

「―――”投影、開始(トレース・オン)”!」

 

 詠唱を唱えたと同時に、その手に片手剣が出現する。新たに得た”高速投影”のお陰で投影速度は向上していた。だがそれだけではない。

 

「……………すごい」

 

 雪月は自身が投影した剣に目を奪われていた。投影速度もそうだが、その精度も格段に上がっていた。

 

「なるほど、こりゃすげぇや。ここまで投影の速度や精度が上がってるんなら、あいつ等に一泡吹かせるのも……けど、今はまだ駄目だ。まずは今の自分を理解する必要がある。どこまで出来るのか、それを知っておかないと」

 

 雪月はまだ、託されたものを完全に使いこなせていない。このまま戻ったとしても、勝てないのは明らかだ。

 

「ひとまずここを拠点として休憩しつつ、一つ一つ確認していくか。幸い、ここはあの入口を塞いでしまえば、魔物がここに来ることはない」

 

 そう言って、雪月は自分が錬成で作った入口の方に向かい、再び錬成でその出口を塞ぐ。この空間は緑光石のお陰でそこまで暗くはない。

 

「よし、入口はこれで大丈夫。あとは………」

 

 雪月は今まで左手に握りしめていたハジメの服の切れ端を、自分の左目を覆い尽くすように巻き付ける。

 

 ギュッ

 

「よし、やるか」

 

 そうして雪月は誰も来ない狭い空間の中で一人黙々と確認作業に入る。

 

「……あ、そういえば」

 

 ふと、未来の自分が最後に言っていたの言葉を思い出す。

 

「死んだと考えるのは早計だと言ってたけど、まさか……」

 

 そっと左目を覆った布に触れる。

 

「いや、あの熊野郎に遭遇しちまってるんだ。生存は……絶望的だろう」

 

 雪月は首を横に振って有り得ないと決めつけ、それ以上その事について考えるのをやめて再び確認作業に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは、雪月がいる空間とは離れたとある場所

 

 そこに横たわる一つの影。そして……

 

「誰か……助けて………雪月………」

 

 誰にも聞こえる事の無い呟きが響いていた。

 

 

 

 ☆★☆

 

 

 

 時は進み、奈落の底に落ちてから一週間ほどが経過していた。奈落の底では太陽の光が無いから、外ではどれほどの時間が経っているのか雪月には分からない。だが、彼にとってそれはどうでもよかった。

 

「ふぅ……フン!」

 

 雪月は手に握っているものを振るう。しかし、それは今まで使ってきた中世のヨーロッパで見るような両刃の剣ではない。

 

 その手には刀身が僅かに逸れており、刃は片方にしかない。更に、その刀身には数珠刃と呼ばれる刃文(はもん)が浮かび上がり、振るうと時々緑光石の光に照らされてキラリと輝く。

 

 雪月が持っていたのは紛れも無い、日本刀だった。それはかつて江戸時代にその名を馳せた刀工、長曽弥 興里(ながそね おきさと)が作った最上大業物、虎徹だった。

 

 元々雪月自身が持っていた刀に関する知識に加え、受け継いだ記憶からその情報を引き出して、とうとう日本刀を投影することに成功したのだ。

 

 しかし、虎徹は贋作が多い刀でもあるため、今雪月が手にしているのが本物の虎徹を投影したものとは限らないが。

 

「ハッ、セイッ!」

 

 雪月は手に持った虎徹(贋作)の感触を確かめていく。真上から真下、左右の袈裟斬り、からの逆袈裟斬り、胴斬りとあらゆる角度から刀を振るっていく。そして、一通り確認し終え、休憩に入る。

 

「ふむ、もう大分体を動かせるようになってきたな。これなら……」

 

 塞いだ入口の方に目を向ける。雪月の口角が上がる。

 

「さあ、狩りの始まりだ!」

 

 その直後、雪月の腹がぐぎゅるるると下品な音を立てる。雪月はチラッと自分の腹を見る。

 

「……あいつ等の肉、食えんのかな? 腹減ったな……」

 

 雪月自身は気付いていなかったが、その口元からは涎が溢れていた。

 

 

 

 ☆★☆

 

 

 

 迷宮のとある通路、そこを五匹の二尾狼が歩いていた。

 

 二尾狼は雪月が推測した通り、群れを作って行動する魔物だった。ここでは彼等が一番弱い存在のため、それを数と連携で補っているのだ。彼等は絶好の狩りの場所を探し、迷宮を歩く。

 

 ヒュンッ! ドズンッ!!

 

 しかし、そんな彼等に何処からか飛来してきた謎の物体が襲う。五匹の内、一体がそれに頭を貫かれ、絶命した。声を上げる暇もなく、即死である。

 

 残りの四匹は周りを警戒しつつも、死んだ仲間の下に近寄る。飛んできたものを確認するためだ。そうして、彼等は謎の物体の正体を突き止めた。

 

 それは細長い何かだった。矢のようにも見えるし、細長い剣のようにも見える。しかし、矢も剣も知らない二尾狼は、これが何なのかさっぱり分からなかった。そして、彼等の不幸はまだ続く。

 

「―――――我が骨子は捻じれ狂う」

「グルゥア!?」

 

 急に聞こえてきた声に驚いたような声を上げる二尾狼達。周りを見て、声の主を探すが見当たらない。

 

「―――――偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)!」

 

 ビュンッ! ドパパンッ!

 

 再びあの得体のしれない何かが飛んできた。そして避ける間もなく、一匹の頭を貫いても勢いは止まらず、もう一匹の命も奪う。残った二匹はそれが飛んできた方を見る。その先には僅かな光が灯った闇が広がっているだけだ。

 

 その奥から再び聞こえてくる。

 

「ふむ、弓術にも自信はあったが、上々のようだな」

 

 二匹の二尾狼はピクッと耳と二本の尾を立て、グルルルルルと唸り声を上げる。通路の向こうに何かいる。警戒しながら見ていると、闇の中からそれが姿を現した。

 

「御機嫌よう狼共。悪いが狩られて俺の糧となれ」

 

 通路の奥から現れたのは雪月であった。その手には黒い大きな弓が握られている。

 

 先程雪月は、二尾狼達から離れた所にいた。そして、記憶の中にあった黒弓と刀身が螺旋状になっている剣を投影する。剣を弓に番え、引き絞ると同時に剣が細くなっていき、矢のような形状に変化する。”千里眼”で二尾狼達の正確な位置を確認し、放つ。それは見事に二尾狼に命中し、五匹の内、三匹を瞬く間に葬ったのだ。

 

「さて、遠距離武器の性能は十分に確認できた。後は近接だな」

 

 雪月は持っていた黒弓を手放し、今度は虎徹を投影する。投影した虎徹を両手で持って、正眼の構えで二尾狼と相対する。対する二尾狼は、何故か一匹がもう一匹を守る様に前に出てくる。

 

「………へぇ。遠くから見た時、もしやとは思ったけど……お前等、親子か?」

 

 残った二匹の二尾狼を見比べてみると、後ろにいる方が二回りほど小さい。

 

 雪月がこの二匹が親子ではないかと思ったのは、さっきの群れの中で、雪月が仕留めた三匹はそれぞれ一定の間隔を空けて歩いていたのに対し、この二匹はまるで寄り添い合うように歩いていたのだ。

 

 魔物にも親子関係というものがあるのだろうかと気にはなったが、雪月にはそれよりも気になっていた事があった。

 

「まぁ親子云々は置いといて、だ。お前等だけ見た目が違うのが気になるんだよな。なぁ、なんでお前等青いの(・・・)?」

 

 そう、この二匹だけ青黒い線が体中に走っているのだ。今まで出会った魔物は全て赤黒い線だったのに、この二匹だけが違った。その体を青黒い線が時折ドクンッドクンッと脈打っている。

 

「グルルルルルルル……」

「ま、獣相手に聞いたところで、答えなんて帰ってくる訳ないんだけどな」

 

 親と思われる二尾狼は二本の尻尾を逆立て、バチバチと雷電を纏わせる。それを見た雪月の目が見開く。

 

「ほぅ、そっちも青くなっているのか。青っていうより、瑠璃色の方が近いか。うん、こっちの色の方が綺麗に見える」

 

 雪月はその青い雷電に一瞬だが見惚れてしまっていた。けどすぐに気持ちを切り替える。目の前にいるのは敵なのだから。

 

 両者が睨みあって数秒、先に親狼が動き出す!

 

「グルォア!」

 

 咆哮を上げながら、稲妻を雪月に向かって放つ。

 

 しかし、雪月は口角を僅かに上げてニヤッと笑ったかと思うと、素早く腰に着けてたウェストバッグから何かを取り出し、投げつける。すると、放った稲妻が投げられたモノに吸い寄せられていった。

 

「グアッ!?」

 

 親狼はかなり驚いただろう。自身が放った電撃が、別の何かに向かっていくのだから。そして、そこに生まれる隙を、それを彼は見逃さない。

 

 ダッ! と雪月が親狼に向かって走り出す。

 

「カカッ! やはりな。電撃と言っても所詮は電気。こうやって避雷針を用意しちまえば、簡単に対処できる」

 

 雪月は迷宮を散策する前に、二尾狼の電撃対策として避雷針を投影しておいたのだ。成功するかどうかは不安であったが、結果は見ての通り。見事、電撃を誘導することに成功した。

 

「グルァ!」

「ふん、悪いな。避雷針はまだまだあるぜ!」

 

 親狼は再び雪月に向かって電撃を放つが、それも複数の避雷針によってあらぬ方向に誘導されてしまう。そして、雪月が親狼の眼前へと迫る。

 

「グルゥオァアアア!」

 

 もう電撃は通用しないとようやく判断したのか、親狼は雪月に噛みつかんと飛びかかる。だが……

 

「……遅い」

 

 雪月は体を少し逸らして躱しつつ、その首めがけて虎徹を振るう。

 

「斬!」

「ガァッ!?」

 

 雪月は手の感触から一撃が入ったと確信したが、仕留めきれなかったのだろう。首から血を流しながらも、親狼は元いた場所まで跳んで雪月と距離をとっていた。だが、雪月には分かっていた。自分が負わせた傷は致命傷だと。このままではあと数分足らずで命を落とすだろうと。それでも止まらない。後ろにいる存在を守るためにも。

 

「そいつを…子を守るために命を懸ける……か」

 

 雪月は小さい方の二尾狼をチラッと見た後、視線を戻し、再び虎徹を構える。そして次の瞬間、走り出す。それに続いて親狼の方も走りだす。

 

「はぁぁあああああ!」

「グルォアアアアア!」

 

 雪月が虎徹を振るう姿勢を取り、親狼も雪月に噛みつかんと飛びかかる。そして、両者が交錯する!

 

 その場には虎徹を振りぬいたままの姿勢でいる雪月と、親狼の姿があった。お互いそのまま数秒間動かなかったが……

 

「ぐっ、うぅ……」

 

 先に雪月が膝をつく。よく見ると、左肩の肉が少し抉れている。親狼に持っていかれたのだろう。だがその直後、親狼の首から血がドバッと吹き出し、ばたりとその場に倒れてピクピクと数回痙攣した後、そのまま動かなくなる。

 

「………くそ。最後の最後にやられたな」

 

 雪月はチラッと親狼を見た後、残った一匹の方を見る。残りの一匹は、唸りながらこちらを睨みつけていた。

 

「グルルルルル!」

「ふん……勇ましいな。親の敵討ちって所か? でも、お前でも分かっているはずだ」

 

 雪月は虎徹の切先を殺気を纏わせながら子狼に向ける。殺気に当てられたのか、子狼がたじろぐ。

 

「お前じゃ俺には勝てない。挑んできた所で、死ぬだけだ。お前の親が命を懸けて守ったその命、もっと大事にした方が良いぜ」

 

 雪月は殺気を解いて子狼から視線を外し、親狼の死体に近づく。

 

「悪いが、こいつは貰っていくぞ? この中じゃ一番の戦利品だし、俺も腹が減ってるんでな」

 

 そう言いながら、大型犬並みの大きさがある死体を肩に担ぐ雪月。現実ならは持てる重さではないのだが、そこはステータス様様だ。

 

「グル、グルルルル……」

 

 子狼は雪月を睨み続けているが、先程までの覇気がない。目の前にいる敵には敵わないと分かっていても、親を殺した相手をこのままにしておくわけにはいかないという思いから逃げずにいるのだろう。

 

「ふん。俺が許せないか? なら、もっと強くなれ」

「グア?」

 

 子狼は雪月の言っている言葉を理解しているのか、首を捻る仕草を取る。その様子に雪月は若干驚きつつも続ける。

 

「悔しかったら、今以上に強くなってみせろ。己を鍛え、限界を超えてみせろ。そうしたら、少しは俺に追いつけるかもな」

 

 そう言って、雪月は歩き出す。子狼は唸り声を上げずただそれを見ているだけだった。その様子を横目で見ながら、雪月は自分が歩いてきた通路の奥へと消えていった。

 

 

 

 ☆★☆

 

 

 

「……いかんな、迷った」

 

 二尾狼との戦いが終わって、戦利品である親狼の死体を担いで歩いていた雪月が呟く。

 

 雪月は現在、絶賛迷子中であった。周りがよく似た地形である上に、雪月は目印を付けておくのを忘れていたのだ。自業自得である。

 

 今魔物に襲われるのはマズい。逃げるにしても、せっかくの戦利品を置いていかなくてはならない。それだけは何としてでも避けたかった。

 

「う~ん、仕方ない。錬成で壁に穴作って、そこで休憩を………お?」

 

 雪月はどこか良い場所はないかと周りを見回していると、不意に通路の脇にあった隙間の奥で、何かがキランと光るのが見えた。

 

「なんだ? 今の……」

 

 雪月は気になっていた。自分でも、どうして今のがここまで気になってしまうのか理解不能だったが、自分の中の直感がその隙間の中に行くべきだと何度も訴えてくる。

 

「………行ってみるか」

 

 雪月はその隙間に向かって歩き出す。周りに魔物がいないかを入念に確認しながら、隙間に近づいていく。そして、隙間に到着したと同時に……

 

「―――”錬成”」

 

 錬成を使って、隙間を自分と親狼が通れる広さまで広げていく。そして、それを繰り返しながら隙間の奥へと進んでいく。時折、奥の方でまたキランと何かが輝くのが見える。これから向かう先に何があるのだろうと、少し期待しながら進んでいく雪月。そうして、錬成しながら歩くこと数分、少し(ひら)けた空間に出た。

 

 そして、目的の物が目の前にあった。

 

「おぉ………」

 

 雪月はそれ(・・)に目を奪われた。それは壁の中に埋まっており、ソフトボールくらいの大きさの青白く輝く結晶だった。そして、その結晶からは一定の間隔で水滴が滴り落ちていた。その滴った先には小さな穴が空いており、そこに液体が溜まっていた。

 

「……………」

 

 雪月は親狼の死体を地面に置くと、まるで導かれるようにそこまで歩いていき、片手でその液体を掬って口に含むと、次の瞬間……

 

「っ!」

 

 謎の液体を口に含んだ途端、先程まで感じていた疲れが一気に吹き飛んだ。それどころか、親狼に抉られた肩の傷までもが瞬く間に塞がっていくではないか。

 

「すごいな、これ。回復効果のある水か。しかもこの回復速度、世の中にはすげぇモノがあるもんだ。けど……」

 

 雪月は自分の左目を覆っていた布をクイッと上げてみる。しかし、そこには真っ暗な世界しか映らなかった。

 

「この左目は駄目、か。まぁ、治らないんなら仕方がない。それよりも、だ!」

 

 親狼の方を見る。それを見た途端、口元から涎が出始めてきた。

 

「久々の飯で肉だ。腹いっぱい食わせてもらうぜぇ」

 

 自分が通って来た道を錬成で塞いだ後、以前投影したコンバットナイフを使って毛皮を丁寧に剥がしていく。

 

 そうして、ある程度まで剥がし終えた後、丁度良い大きさに切った肉を見てゴクリと生唾を飲む。そして……

 

「いただきます……はぐっ!」

 

 そして、無我夢中でそれに食らいついた。




 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 う~ん。頭の中では大まかなストーリーが出来上がっているのに、いざそれを文章にしようとすると、中々上手くいきません。

 相変わらず拙い文章ですが、これからも読んでいただけると嬉しいです。

 それでは、また!三└(┐卍^o^)卍ドゥルルル
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