???「ここに来るのも三度目。ようやく正体を明かせるな」
???「御機嫌よう諸君、平行世界の未来から来た神薙雪月だ」
未来雪月「前回は過去の俺に力を託し、二尾狼と戦って倒した所までだったな」
未来雪月「その後、帰り道が分からなくなって迷うとか醜態を晒していたが、何かに導かれるように進んでいくと、そこには不思議な結晶があった」
未来雪月「どうやらその結晶から滲み出てきている液体はかなりの回復効果を持ったモノらしいな。あいつが親狼から受けた傷もあっという間に回復していやがった」
未来雪月「さて、今回は戦利品として得た親狼の肉を喰らう所から始まるが、果たして……」
未来雪月「第十三話、始まるぞ」
未来雪月「そろそろ俺の出番も終わりかな?」
「んぎぎぎぎぎ~~~!」
少し広めの空間に、声が響く。緑光石がぼんやりと辺りを照らし、一つの影を映し出す。
雪月は手に持った親狼の肉を噛み千切ろうと、必死で引っ張っていた。そして、ようやくブチィッと音を立てて、食べやすい大きさになる。そしてそれを咀嚼していく。
「あむ、んむ……はったいな、ふそぅ(かったいな、くそぅ)。ほれに(それに)、んっぐ。まっず!」
親狼の肉はお世辞にも、美味いとは程遠いものだった。硬い筋ばかりな上に、味も良くない。本来ならペッと吐き出したいところだが、ようやくありつけた食料を前にして、飢餓感には勝てなかった。この肉も、味や臭いを我慢すれば食べれないという訳ではない。雪月は再びかぶりつく。
「はぶっ、んぐぐぐぐぐ〜……むんっ! んむんむ……ごくっ。味はともかく、数日間なにも食わなかった後の食事がこんなにも幸せだと感じる感覚は久しぶりだな。父さんに修行だと言われて、山に一週間放り込まれた時以来か?」
雪月は中学の夏休みに、父親である鷹虎に、神薙家が所有する山でサバイバルをさせられた経験がある。最初の数日間はまともなものが食えず、ようやくの思いで川でとれた魚を焼いて食べた時のあの幸福感は、今でも忘れられない。
ちなみにこのサバイバル、夏休みや冬休みなどの長期休みに入る度にやらされて、時には山に住む動物と戦うなんてこともあった。雪月が迷宮に入ったばかりに見せた警戒スキルは、これのお陰だったりする。自然と出来るようになるまで、一体どれほど山の好戦的な動物達に先制攻撃を許したことか。
「……あぁもう、やめだやめ。二度と思い出したくねぇ」
そんな思い出に苦い顔で浸りながら、硬い肉を喰らっていく雪月。なにか飲み物が欲しいと思い、先程見つけた回復水を飲もうと立ち上がった瞬間、体にチクッと小さな痛みが走る。
「ん? なんだ、今……のっ!? ぶっ! ごはっ!」
その直後、今のとは比べ物にならないくらいの全身の激痛と突然の吐血が襲ってきた。
「がはっ、ごほっ! 一体、なに、がっ! あ、があぁあああああ!!」
あまりの痛みにその場を転げまわる事しか出来ない。体の中から得体の知れない何かに喰われているような感覚だった。
(この、痛み……まるで、体の、内側から、壊されて、いる、よう、な……!)
雪月はその想像を絶する痛みに耐えながらも、地面に這いつくばりながらも回復水がある場所を目指す。そして、なんとか辿り着き、液体が溜まっているくぼみに口を勢いよく突っ込んで啜る。直後、回復効果が発揮して痛みが引いていくが、すぐにあの痛みが襲ってくる。
「うげぇあ!? な、なん…で? どうして、肉を喰った、だけで、こんな! 魔物の、肉を……っ!」
ここで、雪月はある事を思い出す。それは、ハジメと共に図書館に来ていた時の事だった。
~~~~~~~~~~
『なぁハジメ、魔物って食えるのか?』
『えっ、どうしたの急に』
お互い本を読んでいたら、いきなりそんな事を聞いてくる雪月に驚くハジメ。
『いやさ? もし仮に食料の備蓄が切れた時に、周りに魔物しかいなかったら倒してその肉食えるのかな~って思って』
『……もしかして雪月、昨日の座学聞いてなかったの?』
『へ? 昨日? 昨日………あ~、昨日はその、前日にちょっと夜更かしをしちまって、座学の時間は寝てたわ』
その日は剣術の訓練に熱が入り、夜遅くまでしていたのが仇となってしまった。その所為で、雪月は朝の座学の時間はほとんど夢の世界へと旅立っていたのだ。気まずそうに頬をポリポリと掻いて目を逸らす雪月。ハジメは溜息を吐く。
『はぁ、その座学の時間に雪月が気になってる事を丁度説明してたんだよ』
『あちゃ~、やっぱ普段しない夜更かしなんてするもんじゃないな』
『まったく……それで、魔物の肉を食べれるか、だったよね。答えは【
『無理? しかも絶対ときたか』
『そう。前に試した人がいたらしいんだけど、魔物の肉を食べたその人は体がボロボロに砕けて死んだそうだよ』
ハジメの答えを聞いた雪月の顔が引き攣る。
『し、死んだ? えっ、ボロボロって……マジで?』
『うん。魔物は”魔石”という特殊な器官を体内に持っていて、そこから体中に魔力を巡らせることで驚異的な身体能力を得てる。これは知ってるよね? そして、体内を循環している内にその魔力は変質して、骨や筋肉に浸透してより頑丈にしてると言っていたかな』
『ふむ、となるとその変質した魔力ってのが、食えない原因になるのか?』
『その通り。研究者の間ではその魔力が人間の体内に入ると、内側から細胞を破壊していくんだって』
『おぉくわばらくわばら、けど食えないなら仕方ねぇな。わざわざ食事の為に命捨てるわけにもいかねぇし』
『そもそも、騎士団の人達がいるから食べ物が無いなんて状況にならないと思うけどね』
『それもそうだな、カカカ!』
~~~~~~~~~~
「そう、だった。魔物の、肉は、食えない、って、ハジメが言って、たっけ、か……ぐぅっ!」
雪月は少し前の自分を殴りたかった。何故こんな重要な事を忘れてしまっていたのか。しかし、既に食べてしまったからもう後の祭りである。魔物の肉を食った時点で、雪月の死は確定していたのだが、運が良いのか悪いのか、それを許さぬ存在があった。
「うっ、ぐっ! 痛みが、おさ、まっ! あぁあああああーーー!」
先程飲んだ回復水が異常な速度で雪月の体を修復していき、そして痛みが治まったと思ったらまた激痛が襲ってくる。
雪月が飲んだ異常な回復効果がある液体を生み出す謎の結晶。それはこの世界では歴史上最大級の秘宝とも呼ばれ、今では失われた伝説の鉱物と言われる”神結晶”と呼ばれる代物だった。
神結晶は、この世界の大地に流れる魔力が千年という長い年月をかけて、偶然出来た魔力溜りがそのまま結晶化したものだ。本来なら直径三十~四十センチ程の大きさで、今回雪月が見つけたのは比較的小さめの物だった。そして、結晶化した後にそこから数百年の歳月をかけて魔力が飽和すると、それが液体となって滲み出す。雪月が飲んでいたのはこれで、名を”神水”と呼ばれている。
神水は、飲んだ者の怪我や病をたちまち治してしまうと言われており、雪月はこれを自身の身をもって体感している。しかし、既に失明した左目のような欠損した部分を治す力はない。そして、飲み続ける限り寿命が尽きないとも言われ、人々の間では不死の霊薬と言い伝えられている。神代の物語なんかでは雪月が憎むエヒト神が神水を使って人々を癒す描写があるとか。
そんなとんでもない代物のお陰で、雪月の肉体は今、魔物の肉による破壊と神水による再生が同時に起こっていた。
(これ、は……俺の、体の中で、破壊と、再生が何度も、繰り返されて、いる!?)
雪月は再び窪みに口を突っ込んで、神水を啜る。
「ぷはっ! カカ……上等、じゃねぇ、か! 魔物の肉で、俺の体が壊されるか……無事に、生き残れるか、勝負、だ。がっ! うぎぃあああああーーー!!」
神水によって治まっていた痛みがまた襲ってくる。雪月は地面をのたうち回ったりする事しか出来ずに数分が経過したところで、雪月の体に異変が起こり始めていた。
最初の変化は髪の色だ。真っ黒だった髪が頭頂部から徐々に真っ白に変わり始めたのだ。否、全部ではない。ほんの一部分だけ黒いままだった。そして、異変はまだ終わらない。
そして次に、肉体の方にも変化が現れた。元々鍛えていたお陰か、常人より多少は太かった腕や足がさらに太くなっていき、内側から青黒い線が体中に浮き出し始めた。この現象は今雪月の体の中で起こっている破壊と再生が関係している。
人間の体には、超回復と呼ばれる現象がある。骨や筋肉が事故や怪我で断裂、骨折したりすると、その部分だけ周りより少し太くなって治るというあれだ。今雪月の体はそれが体全体で、絶え間なく起こっている状態だ。破壊された所から、瞬時に治る。それが体の至る所で起こり、雪月の体を急速的に強靭なものへと作り替えていっているのだ。
「ぎっ、ぐ、ぎぃいいい……うぐっ! ごぁあああああーーーーー!!」
ひと際大きな叫びをあげると、雪月は仰向けに倒れる。もう痛みに耐えるような声は聞こえてこなかった。雪月の体が耐え切れずに死んだのか、それとも……
雪月の体は髪が前髪の一部分を除いて真っ白に染まり、腕しか見えないが、体中には青黒い線が幾本も走っていた。まるで魔物のようである。
十数秒間、その場に静寂が訪れる。
だが次の瞬間、雪月の右目がカッと見開かれる。その目は以前の黒目ではなく、親狼の電撃と同じ、瑠璃色に変化していた。
雪月はそのまま両手を握ったり開いたりを数回繰り返し、周りを確認すると、ネックスプリングでその場から跳び起きる。
「……さっきと同じ場所にいて、自分の意志で体を動かせるって事は……俺はまだ生きてるんだな」
雪月は確認の為にその場で軽くストレッチしてみたり、数回ジャンプしたりするが、体が軽く感じる。それどころか体中に力が漲ってくるようだ。
「変な感じだな。体は不調を感じるどころか絶好調だし。なんか奇妙な感覚があるし。俺の体どうなっちまったんだ?」
雪月は自分の体の変化に戸惑いながらも、他になんか変わった所はないだろうかとステータスプレートを取り出し、自身のステータスを確認する。
===============================
神薙雪月 17歳 男 レベル:13
天職:錬成師 贋作者
筋力:220
体力:250
耐性:200
敏捷:370
魔力:260
魔耐:260
技能:投影魔術[+高速投影]・千里眼・心眼(偽)・魔装演舞・剣気闘法・錬成・剣術・双剣術・双大剣術・槍術・弓術・魔力操作・胃酸強化・纏雷・全属性適正・全属性耐性・言語理解
===============================
「ぶっほ!?」
そこに表示された内容を見て思わず吹き出してしまう。二尾狼達と戦う前と比べて、レベルは一つ上がっているのだが、ステータスの上り幅がおかしすぎる。それによく見ると、技能欄の”弓術”の後に見慣れない技能が三つも増えていた。
「えっ、これって…えっと……胃酸強化は文字通りだとして、魔力操作に纏雷? 後者はともかく前者の方は名前からして、魔力を操作できるって事か? どうやるんだろ?」
雪月は取り敢えず自分の体に意識を集中する。すると、体中に青黒い線が浮かび上がる。
「うわなんだこれ、キモッ!?」
顔が引き攣る雪月。まるで自分が魔物になったような気分である。だが、先程から感じていた奇妙な感覚の正体が分かった気がした。
「さっきから感じるこの感覚はひょっとして、魔力だったのか? じゃあ試しに、この魔力を循環させてみる感じで……」
雪月は血液のように全身を流れるイメージを思い浮かべる。すると、ぎこちないが奇妙な感覚、もとい魔力がゆっくりと全身を回り始めた。
「お? お、おぉ~。こりゃ面白い」
その感覚を楽しんでいると、不意に右手にはめている手袋に描かれている錬成の魔法陣が明滅しているのに気が付く。もしやと思い、今度は右手、正確には右手にある魔法陣に集まるイメージを思い描く。するとどうだろう。ゆっくりではあるが、魔力が右手の方に収束していき、更には錬成の魔法陣に宿っていくではないか。
雪月はそのまま右手を地面に置き、何も唱えずに錬成を試みる。すると、地面はあっさりと盛り上がった。
「うわぉ、出来ちまいやがった。本来なら人間が直接魔力を操作するのは不可能って座学で言ってたな。俺がこれを出来るようになる前と後で違う点は、魔物の肉。って事は、この”魔力操作”はあの狼の肉を食ったことで得た力か。なるほどなるほど」
”魔力操作”の確認を終え、続いて”纏雷”の検証に入った。
「これは、電気…に関連するものだよな多分。となると二尾狼が見せたあれか? あの尻尾のバチバチ。イメージとしては……」
雪月は静電気のように電気が弾けるイメージを思い浮かべる。すると、両手の指先から親狼と同じ青い電撃がパチパチッと弾けるのが見えた。
「ふむ、さっきから何気なくやってたけど、魔物の固有魔法は詠唱が無い代わりにイメージが重要になってくるんだろうなきっと。なら得意分野だ。投影も錬成も、イメージが重要な技能だからな」
その後も、”纏雷”の練習を繰り返すが、二尾狼のように飛ばすまでは出来なかった。名前の通り、纏わせる事しか出来ないのであろう。しかし、他に収穫もあった。
「纏わせるって事だからもしかしたらとは思ったが、大成功だな」
雪月の右手には投影した虎徹が握られており、その刀身が仄かに青白く光り、時折バチッと青い電気が弾けていた。もしかしたら投影した武器にも纏わせられるのでは? と思い試してみたが、その試みは見事に成功。武器に電気を纏わせられるようになった。
”胃酸強化”はその名の通り、胃酸を強化する為のものだろう。もしまた魔物の肉を食う際に、あの激痛を味わうとなれば今後は魔物肉は遠慮したいところだ。だが、それ以外の食物がこの奈落の底にはあるとは限らない。だがこの技能があれば?
取り敢えずと思い、雪月は残った肉を食おうとして口の前まで運んで、ふとある事を思いつく。
手に持っていた肉を口から離すと、”纏雷”を使って肉を焼いていく。しかし……
「うぶぇ! ひっでぇ臭い。味がひどい上に臭いまでこれかよ!」
そう、焼いた際にひどい悪臭が漂ってきたのだ。思わず鼻をつまんでしまう。臭いに耐えながらも、丁度良い焼け具合になるまで焼いていく雪月。肉の色が全体的に変わったのを確認すると、今度こそ口元までもっていき、かぶりつく。
「はぶっ、んぎぎぎぎぎーーーーー!」
ブチィッと音を立てて肉がちぎれ、それを咀嚼していく。そうして食事を再開して一分………五分………十分が経過したが、体に異常は現れなかった。
「んぐ、あぁまっず! けどこれで、食事については解決だな。”胃酸強化”のお陰か、それともただ耐性が付いただけなのか。どちらにしろ、これでもう断食生活はおさらばだ!」
喜んでいると、傍に置いてあったステータスプレートが明滅しだした。
「? なんだ?」
手に取ってみると、ある部分が音はないがピコン、ピコンといった感じに明滅していた。その部分とは……
「”魔装演舞”と”剣気闘法”。なんでいきなりこの二つが?」
頭に?を浮かべながらも、プレートの技能欄のその部分をチョンとつついてみる。すると、プレートの表示が変わるとともに、頭の中に機械的な声が響く。
『技能に”魔力操作”を確認。これにより、”魔装演舞”及び”剣気闘法”を開放します』
「ふぁ? えっなにごと!?」
『………”魔装演舞”、”剣気闘法”の封印を解除及び情報の開示、完了。なお、”魔装演舞”は一部が未だ封印状態にある事を報告。これにて終了します』
最後にそう言って、声は聞こえなくなった。
呆然とする事しか出来なかった。プレートが明滅していると思ったら、いきなり声が響いて、今まで使えなかった技能がアンロックされたといきなり言われ、有無を言わさずに勝手に進んでいき、勝手に終了していった。
雪月はとんでもない嵐が過ぎ去っていったような感覚だった。数秒間その状態が続いたが、やがてハッとしたかと思うといきなり頭を抱え出す。
「お、落ち着けよ俺。一旦冷静になろう冷静に! あぁそうだ、深呼吸しよう。すー、はー、すー、はー。よし、これで落ち着ける……わきゃないだろう!?」
手に持っていたプレートを思わず地面に叩きつけてしまう。冷静になろうとしたが、あまりにも驚きの連続だったため、頭の整理が追い付いていなかった。そこから十数分かけてようやく落ち着きを取り戻せた。
「ふぅ……取り敢えず分かった事は……」
雪月はプレートを拾い上げる。
「この二つは”魔力操作”があって初めて使える技能だったってことか。
未来の自分に対して再び怒りが込み上げてきたが、すぐに霧散する。というのも、今まで使えなかった技能がようやく使えるようになった事の方が嬉しかった。
「さてさて、まずは”魔装演舞”から見させてもらいましょうかねぇ」
まずは”魔装演舞”の部分をチョンと触る。すると、プレートの表示が変化した。
=============================
魔装演舞
自身の武具に様々な属性の魔力や能力を一時的に付与する技能。
第一章から最終章まで存在し、一部封印あり。
=============================
「ほぅ、様々な属性を付与、か……あぁそうか、俺の”全属性適正”はこのためにあったのか」
雪月はこの時、何故自分が”全属性適正”なんてものをもっていたのかを理解出来た。この技能を使いこなすためだったのだ。
「一部封印ありってのが気になるけど、詳細とかあんのかな?」
すると、プレートの表示が再び変化した。
===============
魔装演舞 一覧
第一章 天之舞
第二章 焔之舞
第三章 雷之舞
第四章 絶之舞
第五章 氷之舞
第六章 風之舞
第七章 地之舞
最終章 死之舞(現在封印状態)
===============
雪月は次いで表示された内容に目を輝かせるが、一番下に表示された表示を見て、表情が若干険しくなる。
”最終章 死の舞(現在封印状態)”
魔装演舞の中で唯一これだけが封印されているようだ。
「”最終章 死の舞”……か。随分物騒な名前だな、死って。よく分からんけど、こいつはなんか危ない気がするな……一応、気に留めておくか」
雪月は表示を自身のステータスに戻すと、次いで”剣気闘法”の部分を触る。
「さてさて、一部物騒な部分があったけど、魔装演舞については大まかな事は分かった。次はこっちを見てみるとしますかね」
チョンと触ると、プレートの表示が変化し、”剣気闘法”についての詳細が表示される。しかし、その内容を見た雪月の表情は直ぐに怪訝な表情に変わる。数秒間それが続いた後、今度は天井を仰ぎ見る。
「………なんじゃこれ?」
”剣気闘法”の詳細を見た雪月は、そう呟く事しか出来なかった。
☆★☆
魔物の肉を食って見た目が変わり、新しい技能を得て、”魔装演舞”と”剣気闘法”が使えるようになってから数日が経過した。
現在、雪月は迷宮内を物陰に潜みつつ進んでいた。この数日間はエリクサー(『神水』という名前を知らないため、雪月が勝手に命名)がある部屋を拠点として、新しく得た技能の特訓をしつつ、二尾狼を狩ってその肉を食う生活をしていた。
しかし、ここで問題が発生。
二尾狼を食って伸びていたステータスが、まったく変動しなくなってしまったのだ。最初の頃は、食べれば初めて食した時に比べたら少ないが、そこそこステータスは増えていた。だが、それも回数を重ねていく内に徐々に減少していき、今はどれだけ肉を喰らっても、ステータスは変化なし。
雪月はこうなった原因を考えていると、ある事を思い出す。地球にいた頃にはまっていたRPGのゲームで、同じ敵を何体も倒していると、自身が強くなったことで次第にその敵から得られる経験値が減少していった。もしかしたら、今の自分もそれと同じ事が起きているのでは? と思い至る。
それを検証するために、雪月はある魔物を探しながら迷宮を進んでいた。目的はその魔物の発見と討伐、およびその肉を回収して食すことだ。潜みながら進んでいるのは、余計な体力の消費を抑えるためである。
そうして進むこと数分、目的の魔物を発見する。
「キュウ!」
迷宮に似つかわしくない可愛い鳴き声を上げるのは、かつて雪月が戦わずに逃げの一手を選んだ相手、蹴りウサギだ。蹴りウサギはこの迷宮では二尾狼より強い。相手が複数でも、蹴りウサギがあっさりと倒してしまうのを雪月はその目でしっかりと見ている。
今回の狩りは、検証の他に自身の腕試しも兼ねている。自分がどれだけ強くなったのか、蹴りウサギは試すにはちょうどいい相手だ。
しかし、ようやく見つけた蹴りウサギはどうやら他の魔物と交戦中のようだ。相手は一匹。しかも、その相手は雪月が良く知っている奴だった。
「グルルルルル……」
「んん? ありゃあ、子狼じゃねぇか。今回は運悪く蹴りウサギに遭遇しちまったか」
それはかつて、雪月が戦った他のとは違う特徴を持っていた二尾狼の子供だった。他の二尾狼が赤黒い線を持っているのに対し、雪月が倒した親狼とこの子狼だけ青黒い線を持っていた。何故この二匹だけが違う特徴を持っていたのかは未だ分かっていない。
雪月は修行していたこの数日間、何度かこの子狼と遭遇していた。出会う度に雪月は襲い掛かられ、これを撃退している。しかし撃退はするのだが、殺そうという考えは一切湧いてこなかった。それどころか、回収した肉を一部分け与えた事もあった。この狼を見ると、なんだか放っておけないという奇妙な感覚が、いつも湧いてくる。子狼の方は雪月が与えた肉を最初は食おうとしなかったが、雪月がその場を離れると、鼻を近付けてスンスンとにおいを嗅ぎ、渋々咥えて何処かへと去っていく。
これがこの数日間における、雪月と子狼との出来事だ。
閑話休題、雪月は二匹の魔物の方に意識を戻す。
物陰に潜む雪月の視線の先で行われていたのは、戦いとは呼べないものだった。子狼の方は尻尾からバチバチと瑠璃色の電撃を放って攻撃するが、蹴りウサギはそれを前に見た空中を踏みしめる動作で難なく躱し、反撃する。子狼を殺さない程度に手加減をして。
その光景は、蹴りウサギが子狼を
放たれた矢は蹴りウサギ目掛けて飛んでいくが、途中で気付かれ、空中を踏みしめられて躱されてしまう。しかし、雪月の攻撃はそれだけでは終わらない。
「シッ!」
蹴りウサギが空中を踏みしめるタイミングを狙って、いつの間にか近付いていた雪月が上段から既に投影していた虎徹を振り下ろす。だが、それすらも空中を踏みしめて躱されてしまう。そしてお返しと言わんばかりに、その強靭な足で死角になっている雪月の顔面左側めがけて回し蹴りが放たれる!
雪月は咄嗟に左腕でその回し蹴りを防ぐ。かなりの衝撃が腕から体全体に伝わって襲い、大きく後ろに後退させられる。その際に、左手に持っていた虎徹を手放してしまう。
「…カカ……相変わらず凄まじい蹴りだなぁ。けど……」
雪月は回し蹴りをくらった左腕をプラプラと動かしながら蹴りウサギに見せつける。
「悪いが、もうてめぇの蹴りじゃあ俺の腕は折れねぇよ。残念だったな」
雪月はニヤッと獰猛な笑みを浮かべる。その表情が気に入らなかったのか、もしくは自分の蹴りが効かなかった事に腹を立てたのか、蹴りウサギが「キュアッ!」と鳴きながら足をたわめる。
「ふん、突っ込んでくるのは構わないが……後方注意だぞ?」
雪月がそう言うと同時に……
ドスッ!
蹴りウサギの腹からいきなり刀身が飛び出して来た! よく見れば、それは先程雪月が手放した虎徹だった。
「”魔装演舞 第一章 天之舞”」
雪月はこの時、未来の自分から受け継いだ力の一端を披露していた。
魔装演舞 第一章 天の舞。これは魔装演舞の中でも属性が関係しない技の一つだ。その力は単純明快で、自身の武具を魔力で操作するというもの。と言っても、直進させたりなど簡単な操作しか出来ないため、このようにわざと手放した武具を操って不意打ちするくらいにしか用いることが出来ない。
「キュ……グ……」
蹴りウサギはその場でよろめく。それと同時に雪月は走り出した。そして、右手に新たな武具を投影する。
「―――”
詠唱の直後、雪月の右手に瑠璃色のスパークが迸り、一つの武具の形を成していく。
それは刀。刀身の長さは六十センチを超え、その表面には箱乱刃の刃文が見える。その名は「村正」。過去の刀工達の中でも、かなりの知名度を誇る
「じゃあな。さよならバイバイ!」
姿勢を少し低くして村正を水平に振るい、蹴りウサギの首を正確に捉えて両断する。首がどさりと音を立てて地面に落ち、胴体の方はその場で横に倒れた。村正を振りぬいたまま、数秒残心を取っていた雪月は蹴りウサギが完全に絶命したのを確認すると、先程までこの蹴りウサギと相対していた子狼の所に向かう。
「よぅ、結構やられたみたいだな」
「………グルァ」
子狼は顔を向けずにこちらをチラリと横目で見た後、まるで「うるさい」と言っているかの様に雪月の言葉に答えた。やはり、雪月の言葉は理解しているようだ。
「獲物を取っちまって悪かったな。けど、お前のあの姿を見たら、いてもたってもいられなくてな」
「………」
子狼はなんの反応も示さない。そこで雪月はある提案をしてみた。
「なぁお前、俺と一緒に行動してみないか?」
「っ!?」
子狼がこちらの方に振り向く。その直後、「グルルルルル」と唸り声を上げて威嚇してくる。そうなっても仕方ない事だ。子狼にとって雪月は親の仇。その仇と何故一緒に行動しなければならないのか。
「まぁいきなり何言ってるんだコイツってなるよな。けどよ……お前この先、一匹でやっていけるのか? 仲間もいない状態で、本当に自分だけで生き残れると思うのか?」
「……………」
目の前の子狼は何も答えない。きっとこいつだって分かっているはずだ。このままでは自分は生き残れないだろうと。
「俺と一緒に行動すれば、少なくともお前の生存率は上がるだろうし、もしかしたら、他の魔物の肉を食ってお前は強くなれるかもしれない。まぁ強制はしないさ。決めるのはお前だからな」
そう言って雪月は、自分が仕留めた蹴りウサギの死体をその場で解体して小分けし、投影した布に包んでいく。
「俺は自分の拠点に戻るつもりだ。来る気があるんなら、ついてこい」
拠点がある方に向かって歩き出す。子狼の横を通り過ぎ、自分が来た道を戻っていく。すると……
「グァ!」
「ん?」
すぐ後ろの方で声が聞こえ、振り返ってみると、そこにはこちらに歩いてくる子狼の姿があった。
「それがお前の答えか。ま、どれほどの付き合いになるのか分かんねぇけど、よろしく」
雪月は握手できない代わりに、蹴りウサギの死体から切り取った肉の一部を差し出す。子狼はにおいを嗅いだ後、肉を口に咥え、雪月の横に並んで歩き始める。
こうして、雪月に小さな同行者? が出来たのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
駄目だ、中々ストーリーが思いつかん! どんどんお話を投稿で来ている人たちがうんらますぃいいいよぉおおお!
次はどんな展開にして書いていこうかな……
それでは、また!三└(┐卍^o^)卍ドゥルルル