ありふれた贋作で共に世界最強   作:シュシュマン

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どうも、お久しぶりです。シュシュマンです。

更新が大分遅くなってしまい本当にすいませんでした……
失踪はせずに最後まで頑張っていくのでどうぞよろしくお願いします!

前回のあらすじ:異世界『トータス』に召喚されてから二週間が経った。雪月を含めたクラスの皆が着々と成長していくなか、ハジメだけは思うように成長出来ず悩んでいた。そんな時、団長のメルドから七大迷宮の一つ『オルクス大迷宮』に遠征に行く事が伝えられる。

では、拙い文章ではありますが、ゆっくりしていって下さい!旦~~


第五話:月夜での語らい・雪月の過去

 メルド団長からオルクス大迷宮へ遠征に向かうと伝えられたその日は、全員が早めに床に就き、翌日の朝早くに馬車で向かう事になった。

 

 

『オルクス大迷宮』

 

 

 この迷宮は前に図書館でハジメとの話に出てきた七大迷宮の一つであり、全部で百層存在すると言われている。『言われている』と表現したのは、この迷宮が発見されてから既に百年以上経過しているのだが、未だに百層まで到達した者が誰もいないからだ。それだけここは危険な場所という事になる。しかし、ここは多くの冒険者や傭兵、更には新兵の訓練にまでよく用いられて非常に人気がある場所でもある。

 

 何故七大迷宮という大陸でも有数の危険地帯のひとつであるのに、新兵の訓練などに使われて人気があるのか?

 

 その理由として、ここは魔物の強さが階層毎に明確になっており、自身の実力を測りやすいのだ。それに、出現する魔物が地上のと比べて、非常に良質な魔石を体内に持っているからだそうだ。

 

 ここで新しく出てきた魔石というものについても説明しておこう。

 

 魔石というのは、魔物がもつ力の核、それが魔物であるということを証明するものでもある。魔石は、それを保有する魔物が強ければ強い程、得る魔石が良質なものになっており、それは魔法陣を作成する原料になったり、日常生活に用いられる魔道具の原動力にもなっていて、この世界では非常に需要の高い品だ。

 

 魔法陣は描くだけでも発動するのだが、魔石を粉末状にして用いた時よりも威力などが三分の一までに減少してしまう。なので、魔石を原料として使った方が効率的なのだ。その為、王国では時々この迷宮に魔石の回収に来たりしている。

 

 しかし、魔石は魔物が持っている為、そう簡単には手に入らない。さっきも言った通り良質な魔石を持つ魔物ほど強く、更には強力な固有魔法というものを使ってくるからだ。

 

 固有魔法とは、詠唱や魔法陣を描く事が出来ない魔物が持つ唯一の魔法である。使える魔法は種族により異なるが、一種類しか使えない代わりに詠唱も魔法陣も一切使わないで発動する事が出来る。つまり、いつ使ってくるのか分からない。魔物が油断できない相手である最大の理由がこれだ。

 

 自分達は、メルド団長率いる騎士団員数名と共に、『オルクス大迷宮』へ挑戦する冒険者たちが宿泊する為の宿場町『ホルアド』に夕方頃に到着した。新兵の訓練によく利用するみたいで、王国直営の宿屋まであるそうで、そこに泊まる事となった。

 

 部屋は二人部屋になっているらしく、雪月とハジメが同じ部屋になった。王宮の豪華な部屋に天蓋付きベッドとは違い、至ってシンプルな部屋とよく知っている形のベッドを見た二人は、互いにそれぞれのベッドへとダイブし「「ふぃ~」」と気を緩める。しかし、二人の一日は終わらない。雪月はベッドから起き上がると、

 

「よし、ハジメ! 今日もやるぞ!」

「うん!」

 

 ハジメと雪月の二人が最近、寝る前によくやっている事……それは‟錬成”の練習だ。雪月が鍛冶場見学に行った際に貰った鉱石を使ってハジメと雪月は日々錬成の練習を重ねていた。だが、何故雪月が鍛冶場見学で鉱石を貰えたのか?

 

 実は、よく出入りして熱心に勉強していたお陰なのか、鍛冶場の人達に気に入られ、余った鉱石や小さい欠片なら少しくれるという事なので、お言葉に甘えて貰っていたのだ。

 

 しかし貰ったのはいいが、どう有効活用すれいいのか悩んでいた時、ハジメから「錬成の練習に使ってみたらどうだろう?」という提案があったのだ。その手があったか! と雪月は提案してくれたハジメも誘って、貰った鉱石で錬成の練習をしているのだ。

 

「錬成、錬成、錬成………」

「錬成、錬成、錬成、錬…成………」

 

 二人とも一つ一つの鉱石に集中して錬成を行っていく。

 

 互いに丁度良い所で終えて、一息つく。

 

「ふぅ、一度休憩を挟むか」

「毎度の事だけど、疲れるね」

「まぁ、やって損はないと思うんだけどな。それで、どうだハジメ? なんかステータス変わってたりしてるか?」

 

 ハジメは自分のステータスプレートを見て確認する。

 

「……駄目みたい。何も変わってない」

「……俺もだな。結構やってるはずなのに、な~んも変わってねぇ」

「…やっぱり、僕には才能が無いのかな」

「だぁ~もう! よせよせ、何度も弱気になるんじゃねぇよ」

「でも、ここまで成長しないとなると流石に……ね」

 

 ハジメは誰がどう見ても分かるくらい落ち込んだ表情になる。雪月は頭を掻くと……

 

「……今日はここまでにしよう。俺は少し外に出てくる。もう遅いからハジメは先に寝てていいぜ」

 

 そう言って、雪月は窓から外に出ようとする。

 

「ちょ、ちょっと雪月! ドアから出ないの!?」

「こっちの方が近道なんだよ。それじゃ、さっさと寝て休んどけよ? 明日は迷宮探索なんだからな。あ、帰りはドアから入るから鍵借りてくぜ」

 

 そう言いながら、雪月は部屋の鍵を持って窓から飛び降りる。ハジメは慌てて窓から顔を出し、下の方を見ると、何処かへと走っていく雪月の姿が見えた。雪月が無事な事に一先ず安堵するハジメ。

 

 他にやる事も無かった為、窓をそのままにして寝ようとベッドに移動した直後、唐突に扉をノックする音が聞こえてくる。

 

(すわっ!?)

 

 ノックする音にビクッとなるハジメ。今は十分深夜だと言える時間帯、こんな夜中に一体誰が? ハジメは緊張を表情に浮かべるが、その心配も杞憂に終わる。

 

「南雲くん、起きてる? 白崎ですけど…今ちょっといいかな?」

 

 なんですと? と、一瞬硬直するが、我に返ったハジメは慌てて扉に向かい、鍵を外して扉を開ける。そして、目の前に立っていた香織の恰好を見て思わず…

 

「なんでやねん」

 

 と、ツッコミを入れてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって、ここはホルアドの宿場から少し離れた開けた場所。そこに人影が一人。

 

 

 

 

 

 雪月だ。

 

「すぅ…はぁ……」

 

 深呼吸をして、両手を剣を持つように構える。

 

「―――投影、開始(トレース・オン)

 

 そして、本来この世界には無い筈の自分だけが使える呪文を詠唱する。その一、二秒後、雪月の前に一本の剣が現れる。前に投影した事のあるバスタードソードだ。前にも言った通り、雪月は以前投影した事のある武具の類は、時間をかけずに投影出来る様になっていた。投影した剣を何度か軽く振った後……

 

「シッ!」

 

 今度はさっきよりも速いスピードで振り抜いていく。雪月は最近、剣や槍などの武具を投影しては、それを十分に使いこなせるように鍛錬を続けているのだ。より速く投影し、よりうまく扱えるようになる為に。

 

(まだだ…まだ速くなれる筈だ!)

 

 剣、弓、槍……雪月が現在扱う事の出来る武器を順に投影して、それを振るっていく。まだ見た事の無い、これから戦うであろう敵を思い浮かべながら……

 

 

 

 

 

 

 だが、鍛錬は後ろから突如聞こえてきた声に阻まれる。

 

 

 

 

 

 

「こんな夜中だっていうのに……精が出るわね、神薙君」

「っ!?」

 

 雪月はその場から咄嗟に飛び退き、手に持っていた弓矢を声がした方向に構える。構えた先には人影が見えるが、月が雲に隠れており、その所為で暗くて顔が分からなかった。

 

「ちょ、ちょっと待って! 武器を降ろして!」

「? …その声まさか」

 

 聞き覚えのある声に雪月は構えていた弓矢を降ろす。そして、

 

「八重樫か?」

 

 自分に声を掛けたであろう人物の名前を挙げる。すると、弓矢を構えていた先にいた人影が動き出し、その姿を雲から顔を出した月の光が照らす。そこにいたのは……

 

 雪月の予想通り、雫だった。

 

「えぇ、そうよ。それにしても、いきなり武器を向けるなんて酷すぎない?」

「だったら、鍛錬で集中している時にいきなり後ろから話しかけないでくれ……」

 

 相手が知っている人物であったことに雪月はひとまず安堵する。

 

「っていうか、こんな時間まで起きてたのか?」

「寝てたんだけど、不意に目が覚めちゃったのよ。そしたら、香織がいなくなっててね。探してる途中で窓を見たら、丁度神薙君が走っていくのが見えてね、気になってこっちに来ちゃった」

「成程、そういう事か…って、白崎の方は探さなくていいのかよ?」

 

 香織と雫は親友なのだから探した方が良いのではと思っていた雪月だが、雫の方は全然焦っていなかった。

 

「大丈夫よ、どこに行ったかは予想出来てるし」

「……まぁ、ハジメの所だろうな。あいつの事心配してたみたいだし」

「私もそう思うわ。勘がよく当たる神薙君が言うんだし、そうかもね」

「嫌な予感がした時以外だと確率は半々って所だけどな」

 

 雪月はとりあえず持っていた弓矢を粒子状にして消す。それを見ていた雫が、

 

「便利なものね。魔力があれば、いくらでも武器を出せるんだから」

 

 と、羨ましそうな表情で言う。

 

「そんな便利なものじゃねぇよ? 投影するにはある程度その武器に関する知識が必要だから、知らない武器はまず無理。そして何より、投影した贋作は脆い……すぐに壊れちまう」

 

 それを、雪月はさっきまで弓矢を握っていた両手を見ながら否定する。

 

「デメリットもあるって訳ね……そういえば、どうしてこんな夜遅くに鍛錬なんかしてるの? 神薙君って体動かしてないと落ち着かないタイプだったっけ?」

「そういう訳じゃないんだけどな。ただ……」

 

 雫の言葉に雪月は頬を掻きながら、チラッと雫を見た後、

 

「俺はさ、今よりも更に強くなりたいんだよ。強くなって、早いとこ元の世界に……家族の所に帰る! 全員の前でも言ったが、俺がこの世界で戦う理由はそれだけだ」

「前にも言っていたわね、それ………ねぇ、思ったんだけどさ」

 

 雫が、右手を力強く握りしめながら話す雪月に聞いてくる。

 

「神薙君って、どうしてそこまでして家族に拘るの? 確かに、家族に会いたいって思ってる子もいるとは思うけど、神薙君のは少し異常よ?」

「……俺ってそこまで家族に拘っている様に見えるのか?」

「えぇ。多分クラスのほとんどはそう思っている筈よ?」

「そうか、他の奴等にはそう思われてるのか……まぁどうでもいいか」

 

 クラスの皆からそんな風に見られていたと知っても、どこ吹く風といった感じの雪月。雫はそんな雪月の図太さに苦笑いしながら呆れていた。雪月は数秒、夜空を見上げていると…

 

「まぁ隠してた訳じゃないから、話してもいいか」

「話すって……何を?」

「俺が家族に拘っている理由だよ。気になってたんだろ?」

「まぁ、多少は……」

「取り敢えず、立ちながら話すのもなんだ。そこの樹の近くに座りながらでも話すとしよう」

「えぇ」

 

 二人は近くにあった樹に腰を下ろす。雫が座ったことを確認した雪月が口を開く。

 

「俺が家族に拘るのはな……俺はまだ両親に……いや、あの二人に恩返しが出来ていないからだ」

「恩返し? どういう事?」

「それは………」

 

 雪月の言葉がそこで止まり、俯いてしまった。何か言いにくい事なのだろうか、雫が心配そうな表情で雪月を見る。

 

「………うし」

 

 数秒後、雪月は意を決した様に顔を上げて、雫の方に向く。そして、

 

「まず八重樫、俺はな………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神薙家の本当の子供じゃあない(・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪月の言葉と共に二人の所に少し強めの風が吹く。

 

「………え?」

 

 雫は雪月が言った言葉を一瞬聞き間違いかと思い、すぐに理解出来なかった。だが、雪月の顔を見て聞き間違いではないと理解する。

 

「本当の子供じゃ……ない? それって、つまり……」

「まぁ養子って奴だな。引き取られたのは、俺が三歳の頃だ」

「三歳……それまでは?」

「本当の家族が居た。けど、事故で親は二人共死んじまったよ」

「事故って、何があったの?」

「車が崖から落ちたんだよ。俺は相当運が良かったのか、頭に数針縫う傷を負ったぐらいで、大きな怪我もせずに済んだ」

 

 そう言って雪月は自分の前髪を上げる。雪月の右側の前髪の生え際辺りに、二~三cm程の小さめの傷跡が残っていた。

 

「……そんな事があったなんて」

 

 雫はかなり驚いている様だ。そんな雫を、雪月は横目で見ながら話を続ける。

 

「事故で両親が死んだ後、最初は俺を引き取ってくれる親族を探してくれたそうだが、どうやら両親は他の親族とは絶縁状態だったらしくてな。引き取り手が見つからなかった」

「………」

 

 言葉が出てこなかった。そんな過去があるとは、今まで見てきた彼からは微塵も感じられなかったからだ。

 

「そんな時、俺をぜひ引き取りたいって言ってきた人達が現れてな。その人達は、両親が死んだ事故の第一発見者だったんだ」

「それが……今の御両親?」

 

 雫の言葉に雪月が頷く。

 

「神薙家には、一歳の海音がいたんだけどな、どうやら男の子も欲しかったみたいなんだ。そんで、結局他に引き取り手が現れなかったから、俺は神薙家に養子として引き取られた。けど、引き取られてすぐはかなりぎくしゃくしたなぁ」

「そうなの?」

「あぁ…物心がつくのが早かったから、どんな事でも海音の方を優先させてほしいって遠慮しちまってな。素直に甘えることが出来なかったんだ」

 

 雪月は恥ずかしそうに頬を掻いていた。雫はそんな雪月を見てフフッと笑う。

 

「自分が血の繋がった息子じゃないのは分かってたからな。でも、鷹虎さんと美桜さん……父さんと母さんが、俺を本当の家族の様に大切にしてくれているって事に気付くのに、そんなに時間は掛からなかった」

 

 雫は雪月に見入っていた。家族の事を話している雪月は、とても穏やかな表情をしていたからだ。

 

「二人には感謝しか出てこない。俺はあの二人に、いろんなものを貰ってきた。そんで、中学を卒業した頃から、俺が二人に出来る事は何かないだろうかって色々考えてたんだよ。でも……そんな矢先に、今回の異世界召喚だ」

「それでさっき、恩返しが出来ていないって言ったのね」

 

 雪月が再び頷く。

 

「俺はまだ二人に育ててくれた恩を全然返せていない、何も出来ていないんだ」

 

 雪月の表情が真剣なものに戻る。

 

「だから俺には、のんびりしている暇はないんだ……家族の為にも、俺は一刻も早く……」

「…でも、私達はこの世界に来てまだ二週間しか経っていないのよ? 焦りは禁物だわ」

「分かってる、けどな……っ!!」

 

 雪月が何か言おうとする前に雫がいきなり雪月の肩を掴む。いきなり掴まれた雪月の目が見開く。

 

「や、八重樫?」

「けどじゃない! 焦って無茶なんかして、神薙君にもしもの事があったらどうするの!? ここは私達がいた世界じゃない、一歩間違えたら死ぬかもしれないのよ!!」

「そ、それは……」

 

 雪月は雫の言う事に何も言い返せない。雫は止まらなかった。

 

「神薙君にもしもの事があって、悲しむのはあなたの家族だけじゃない、南雲君や香織、私だって…」

「………」

「お願いだから約束して。時間は掛かるかもしれないけど、必ず生きて帰る為に無茶な事はしないって」

 

 そう言って雪月の顔をじっと見つめる雫。雪月も数秒見つめ返した後「ふぅ」と息を吐く。

 

「……分かったよ、無茶な事はしないって約束する」

「本当に?」

「…………本当だって」

「ちょっと、今の間は何かしら?」

「……………」

 

 半目で睨んでくる雫に雪月は視線を逸らす。そんな感じが数十秒続いた後、雪月が再び溜息を吐く。

 

「無茶をしないってのはちゃんと約束する。八重樫の言った通り、ここは異世界……何が起こるか分からない。不本意だが、時間をかけて着実に強くなっていくよ」

 

 雪月が諦めたような表情しながら言うと、雫は「うんうん」と言いながら首を縦に振る。

 

「分かってくれたようで良かったわ」

「ったく……とりあえず、もう宿に戻るとしよう」

 

 そう言って雪月が立ち上がり、宿の方に向かって歩き出す。

 

「あら、もう戻るの?」

「あぁ。昔話をしてたらやる気がなくなっちまったし………お前が寒そうにしてるのもあるな」

「えっ」

 雫は雪月の方を見る。今の彼女は寝間着姿、城の方で支給されたネグリジェを着ている状態なのだ。自分には似合わないと最初は着るつもりはなかったのだが、寝間着がこれしかなかった為、仕方なく着ている。

 

 夜中に何処かへ向かう雪月の姿を見かけて追いかけた時、最初はそこまで寒くは感じなかったが、雪月と話をしている内に少し寒く感じてきてはいた。雪月はそれを見逃していなかった。

 

「さっきから小さく震えてんのバレバレだっての。寒かったんだろ? 風邪ひくとまずいから、早く戻るぞ」

「え、えぇ……」

 

 雪月と雫は宿に向かって歩いて行く。雪月が少し前の方を歩き、その後ろに雫がついてくるという感じだ。寒そうにしていたのを指摘されて以降、雫は顔を俯かせて全く喋らなくなった。雪月も何を喋ったらいいのか分からず、宿に戻るまで二人は無言の状態が続いた。最後に八重樫の顔を見た時、若干頬が赤く染まっていた様に見えた気がした。

 

 そんな状態が宿に着くまで続き、玄関を通って二人がそれぞれ自分の部屋へ向かおうとした時、雫が雪月の方に顔を向ける。

 

「神薙君」

「ん?」

「今日約束した事……忘れないでね」

「……大丈夫だ、分かってる」

「なら良いわ、おやすみ」

「おう、おやすみ」

 

 雪月の言葉を着た雫は、安堵したような表情をして自分の部屋へ戻っていく。雪月も自分とハジメが泊まっている部屋へと向かう。

 

 皆が寝静まって静かになり、月明かりに照らされた廊下を歩いていく。自分の部屋が見える所まで来た時、その扉が開き、部屋の中から知っている人物が現れる。

 

「それじゃあ、おやすみ」

 

 部屋から出てきた香織は部屋の方に向き直ってそう言った。中にいるハジメに向けて言ったのだろう。その後扉を閉め、自分の部屋に戻ろうとして雪月と目が合う。

 

「あれ、神薙くん?」

「よう、白崎。こんな時間に何してたんだ?」

 

 自分に気付いた香織に雪月は何をしていたのかを尋ねる。

 

「私は南雲くんとお話ししていただけだよ?」

「話? それって、明日の迷宮探索についてか?」

「…うん、そうだよ」

 

 雪月が『迷宮』と言った直後、香織の表情が少し暗くなった。すぐに元の明るい表情に戻ったが、雪月はそれを見逃さなかった。

 

「……ハジメの事が心配なんだろ?」

「………やっぱり、分かっちゃう?」

「そりゃあな」

「そっか………」

 

 雪月の問いに答えた香織はどこか思いつめた表情をしていた。

 

「神薙くん、いきなりだけど……お願いがあるの」

「お願い?」

「うん。明日の迷宮探索、なるべく南雲くんの事を気に掛けてほしいの」

「どういう事だ?」

「私、とても嫌な予感がするの。明日の迷宮で、何か良くないことが起こるんじゃないかって……」

 

 香織は何かを恐れているような表情をしていた。こんな表情をする彼女はあまり見た事がなかった。

 

「そうか…分かった。明日はなるべく、ハジメの事を気に掛けておくよ」

「ありがとう。もし、南雲くんが怪我とかしたら、その時は私が治療するから」

「あ~そういえば、白崎は天職が‟治癒師”だったな」

 

 ‟治癒師”とは、治癒の魔法に秀でた魔法師の事であり、熟練した治癒師の治癒系魔法はたとえ大怪我した者の傷さえもたちまち治してしまう程のものらしい。

 

「ま、白崎の出番が出てこないように俺も気を付けるさ」

「ありがとう神薙くん。ごめんね、いきなりこんなお願いして」

「別に。俺も明日はハジメをサポートしようかと思っていたからな」

「あ、やっぱりそうだったんだね」

 

 どうやら自分がハジメのサポートをしようとしていたのはというのは香織に予測されていたらしい。

 

「白崎も知ってるはずだが、ハジメのステータスは俺達に比べてかなり低い。だから、ステータスの低いハジメでも戦える方法はないか一緒に模索してるんだよ」

「そういえば、神薙くんってよく南雲くんの訓練に付き合っていたね」

「あいつも誰かに頼りっぱなしなのは嫌なんだろうな。自分から提案してきたんだ」

「そうだったんだ……」

 

 香織は自分が出てきた扉の方を見つめる。数秒見つめた後、雪月の方に向き直る。その表情は決意に満ちた顔だった。

 

「神薙くん、明日はお願いね。私達で南雲くんを守ろう」

「おう、任せとけ」

「それじゃあ、私は部屋に戻るね。おやすみなさい」

「おやすみ……あぁそういえば、部屋に戻ったら八重樫が起きてると思うから謝っとけよ? 白崎が部屋からいなくなったって探してたみたいだからな」

「あ~、雫ちゃん起こしちゃってたか。ありがとう神薙くん、戻ったら謝っておくよ」

 

 そう言って香織は自分の部屋に戻っていく。それを見送った雪月は自分の部屋の前まで行きドアを開ける。

 

「あ、雪月お帰り。本当にドアから戻って来たんだね。てっきり窓から戻って来るかと思ったよ」

「あのなハジメ、俺はドアから戻るって最初に言っt―――!」

 

 突然雪月が険しい顔になって部屋の外に出る。

 

「ど、どうしたの雪月!?」

「……いや、今誰かに見られている感じがしたんだが……………誰もいないみたいだな」

「気のせいだったんじゃない? きっと疲れてるんだよ」

「……そうかもしれないな。とりあえず、もう寝るか」

 

 そう言って雪月は部屋の中に戻り、ドアを閉める。

 

 

 

 ☆★☆

 

 

 

 月明かりが届いていない暗い廊下の先、その曲がり角で香織がハジメがいる部屋から出た先にいた雪月と話し、自分の部屋に戻っていくその背中を見つめていた者がいた。その者は、次に雪月と、雪月が入っていった部屋を歪んだ表情でで見ていた。そして、それに気付いた者はいなかった。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

宿場町『ホルアド』へと到着した勇者一行。そこで雪月は雫に自身の過去について話すことになる。その際に焦りから無茶して修行していた事を叱咤され、今後無茶をしないという約束を交わされ、香織と明日の迷宮探索の時に二人でハジメを守る約束を交わすことになる。そして、それぞれの思いを胸に初の迷宮探索が始まる。

次回「迷宮探索開始、悪夢への序章」

絶望へのカウントダウンが……始まる。

次回はもう少し早く出せればいいなと思っています。

それでは、また!三└(┐卍^o^)卍ドゥルルル
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