更新が遅くなってしまってすいませんでした、シュシュマンです。
前回のあらすじ:オルクス大迷宮に挑む為に宿場町『ホルアド』へと到着した勇者一行。そこで雪月は雫に自身の過去を話したり、無茶して修行していたのを叱咤され、無茶をしないという約束を交わされる。更に、明日の迷宮探索に嫌な予感を感じる香織からハジメの事を気に掛けてほしいと頼まれる。そして、とうとう迷宮へと潜る時が来る。
では、拙い文章ではありますが、ゆっくりしていって下さい 旦~~
その日の夜、また夢を見た。
この世界に来てから度々見ていた、あの地獄の様な光景を……
周りは赤く染まった大地、あちこちに魔物であろう見たことない怪物の死骸と人間の死体、足元に目を向けると………
「……ハッ!? はぁ、はぁ、はぁ……」
そこから先を見ることなく、目が覚めた。乱れていた呼吸を整えてから隣を見ると、スー、スーと寝息をたてているハジメの姿があった。どうやら起こしてはいないようだ。
窓の方に視線を移すと、まだ太陽が顔を出していなかったが、空が少し明るくなり始めていた。
今日はいよいよ迷宮に潜るというのに、最悪な目覚めだった。
(なんでこんな時に限って、あれを夢に見るんだよ………くそっ!)
急に胸騒ぎがしてきた。白崎が言っていた様に、迷宮で何か良くないことが起ころうとしているんじゃないか……
その後、もう少し寝ようかとも考えたが、結局寝れなかった。
☆★☆
自分達が宿場町のホルアドに到着してから一晩が経ち、迷宮へ潜る日がやって来た。
現在、メルド団長達騎士団を含めた全員が『オルクス大迷宮』への入口がある広場に集合していた。
周囲には多すぎないかと思えるくらいの露店が所狭しと並んでおり、それぞれの店主が必死に客寄せをしていた。七大迷宮という有名な場所な上に、ここは人気がある場所だ。商人が稼ぐ場所としては絶好なのだろう。
迷宮の入口へと視線を移す。
入口は意外なことにしっかりと整備されており、受付まで置かれていた。例えるなら、
受付では、制服なのかピシッとした服を着こなした少し年上に見える女性が、笑顔で迷宮へ出入りしている人達をチェックしていた。
気になって近くにいた騎士団員に聞いてみると、なんでも各人のステータスプレートをチェックして出入りを記録することで、死亡者数を正確に把握するためらしい。戦争を控え、多大な死者を出さないための措置ということだ。
こうなった理由が、いつ戦争が起きてもおかしくないこの状況の中、どこかの阿呆が馬鹿騒ぎしたり犯罪を犯したりして、国内に問題を抱えたくないとのことで、王国が冒険者ギルドと協力して設立したらしい。国もギルドも色々と大変そうだ。
「ふぁ~~~…あふぅ」
「雪月、眠そうだね」
列の一番後ろの方で大きなあくびを出していると、隣にいたハジメが話しかけてきた。
「あぁ、少しな」
「昨日眠れなかったの?」
「夢を見ちまってな……早く目が覚めちまった」
「夢?」
夢で見たあの光景については、まだ誰にも話していない。話す必要がないと思ったし、なにより……話したくなかった。
「それって、どんな夢だったの?」
「ん~? 秘密だ」
「えぇ~、すっごい気になるんだけど…」
「なぁに大した夢じゃねぇよ。ちょっとした過去の黒歴史だ」
「あ、ごめん。嫌なこと思い出させちゃったかな?」
「別に良い」
とりあえず、嘘をついて誤魔化す事にした。今はあの夢の事を思い出す度に大きな不安に駆られるから、出来るだけ考えたくなかった。
「……あ! そうだハジメ、お前に渡す物があったんだ」
「僕に?」
「そうそう、えっと………ほいコレ」
話題を変えようと考えて、ハジメに渡す物があったのを思い出す。寝不足のせいなのかすっかり忘れていた。
腰に着けたウェストバッグの中から、ハジメに渡すつもりだったものを渡す。
「これって、ナイフ?」
「あぁ、正確にはコンバットナイフだ。そいつは投影で作ったものだが、強度はそれなりに頑丈なはずだぞ」
雪月がハジメに渡したものは、刃渡りが十五センチ近くある鞘付きのコンバットナイフだった。
「これを僕に? 雪月、ナイフなんて投影出来たんだね。っていうかこれ、本物?」
「まあ、
「そ、そうなんだ。でも、僕が持つよりも雪月が使った方が……」
「既に俺の分も用意してある。そいつは、お前のために用意したもんだ、持っててくれ」
そう言って、持っていたもう一本を取り出してハジメに見せる。
(ハジメの事だから、きっと俺が使った方が良いって言うだろうと思って、もう一本用意しておいて良かったわ)
ハジメにこれを渡そうと思ったきっかけは、今回見たあの夢だ。大きな不安を抱えた俺は、自分に何が出来るのかと考えた。
その結果、何か身を守れるものを渡そうという結論に至った。最初は盾などの防具でもどうかと思ったが、上手く投影が出来なかった……なんでや!
色々考えた結果、自分がある程度の知識やイメージを持っていて、筋力の乏しいハジメでも扱えそうなナイフを渡そうという結論に至った。
(これで少しでもハジメの助けになればいいんだがな……)
ハジメは申し訳なさそうな顔をしながらも、それを受け取る。
「分かった。それじゃあ、貰っておくね。ありがとう雪月」
「あぁ。迷宮に入ったら、少し練習してみようぜ。俺も使うのは初めてだから慣れておきたいしな」
「自信ないなぁ」
「危なかったら俺がフォローするって」
「二人とも、早くしないと置いていかれるぞ?」
「「へ?」」
後ろにいた騎士団員の言葉を聞いて、雪月とハジメは正面を向く。
目の前に並んでいたはずのクラスメイト達は一人もおらず、入口前に残っているのは自分達だけだった。
雪月とハジメは一瞬ポカンとした後、慌てて受付にステータスプレートを見せ、皆の後を追ったのだった。
☆★☆
先に入っていたクラスメイト達はそこまで進んでおらず、すぐに追いつくことが出来た。後ろにいた団員の人に軽く注意された後、雪月とハジメは皆の後に続いて迷宮を進んでいく。
迷宮の中は、外とは打って変わって静かなものだった。壁を見ると、松明などの明かりを持っていないのに、ぼんやりと光っていて不思議だった。
メルド団長の説明によれば、この光は緑光石という特殊な鉱物によるもので、『オルクス大迷宮』はこの緑光石の鉱脈を掘って造られたものらしい。
「外とは全然違うんだね」
「あぁ、不気味なほど静かだ」
隊列は、メルド団長が一番先頭、騎士団員がそれぞれ先頭と列の一番後ろに半分ずつ分かれ、その間に雪月達がいるという感じだ。雪月とハジメはクラスメイト達の中で一番後ろを歩いている。
ハジメが雪月の方を見ると、何故か辺りをきょろきょろと見回していた。
「どうしたの、雪月?」
「ん、魔物はいつ現れるのかな〜って」
「もしかして雪月、魔物と早く戦ってみたいの?」
「いや……もう迷宮の中に入ったんだから、いつ出てきてもいいように警戒するのは当たり前だろ?」
「あぁ、そっか。なるほど確かに」
ハジメが頷いていると、後ろにいた団員が説明してくれた。
「魔物が現れるのはもう少し先に行ってからだ。ここでは警戒しなくても大丈夫」
「あ、そうだったんですか……」
どうやら、ここではまだ魔物は出てこないらしい。ここはただの通路だそうだ。
そうしてしばらく歩いて行くと、ドーム状の広場に出た。天井の高さは七、八メートルといったところだろうか。
「随分と広い所に出たね」
「いかにも何か出てきそうな場所だなこりゃ」
その時、メルド団長の声が聞こえてくる。
「お前達! ここから魔物が出てくる、気を引きしめろよ!」
その声でクラスメイト達に緊張が走る。雪月は辺りを見回していたが、ある一点をじっと見つめていた次の瞬間、カッと目を見開いて叫ぶ。
「メルドさん! 壁の隙間から何か来ます!」
『!!』
雪月の言葉に全員の視線が壁の方に集まる。その直後、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。
しかも、ただの毛玉ではなかった。その正体が二足歩行で上半身が八つ割れた腹筋と、膨れ上がった胸筋の部分だけ毛がなく、ムッキムキな姿をしたネズミなのだ。いや、人間っぽいネズミだからネズミ人間といったほうがいいだろうか?
そいつ等が「キィーーー!」と叫びながらこちらに走ってくる。
「な、なんじゃあれ」
「魔物…なんだよね? なんていうか、かなり…」
「あぁ、か…かなり……」
「「気持ち悪い!」」
ハジメと雪月が叫ぶ。他のみんなもそう思っているのだろう。見える限り、全員の顔が引き攣っていた。だが、いつまでもそうしてはいられない。
「よし、まずは光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で相手をしてもらうからな、準備はしておけよ! あれはラットマンという魔物で、すばしっこいが大した敵じゃない。訓練を思い出して冷静に行け!」
メルドさんが言い終わったと同時に、ラットマンと呼ばれた魔物達が、そこそこの速度で突っ込んできた。
(さて、最初は
「それと…雪月! こっちに来い!」
「ゑゑ!?」
「!? ど、どうしたの雪月。変な声出して」
まさか自分が呼ばれるとは思わず、変な声をあげてしまった。
「うっそだろぉ……あぁ~仕方ねぇ、ちょっくら行ってくるわ」
「う…うん、気を付けてね」
クラスメイト達の間を通って、メルド団長の横に立つ。
「来たな。雪月はもしもの時のために、後衛の奴等を守る準備をしておいてくれ」
「……あれを見る限りだと、俺は必要ないと思うんですが?」
現在ラットマンと対峙しているのは、前衛の天之河、坂上、八重樫の三人だ。そこから少し離れた後方では、白崎にメガネっ娘の中村恵理、そしてクラスの中では低身長No.1の谷口鈴の仲良し女子二人組を加えた計三人が魔法の詠唱を始めている。前衛が敵の足を止め、後衛の魔法で一気に倒すという戦法だろう。
俺は前衛の三人が仮にも、敵の突破を許した時の保険として呼ばれたわけだ。だが、それも前の三人の戦闘を見てると必要ないだろと思えてくる。
天之河は王国から渡された、光属性&敵の弱体化&自身を強化なんていう実に勇者らしい能力が付与されたアーティファクト‟聖剣”を使って敵を確実に屠っている。しかし、名前が‟聖剣”で終わってしまっているのは何か物足りなさを感じる。
坂上は元の世界で空手部に所属していたという事もあり、天職が‟拳士”という素手で戦う前衛職なので籠手と脛当てを付けている。これもアーティファクトだ。聞けばこのアーティファクト、
八重樫は予想通り、‟剣士”の天職持ちだ。刀に似た剣を抜刀術の要領で振るい、敵を見事に一刀両断している。その動きは洗練されたもので、初めて見た騎士団の人達は感嘆していたものだ。中には見惚れていた者もいたくらいだ。
この三人が強すぎるせいなのか、さっきから魔物があの三人を突破できる気配が全く無い。なのであまりにも暇だ。暇すぎてまた眠くなってきた。
(ね、眠い。早く終わってくれぇ)
「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地に帰れ、‟螺炎”」」」
「おん?」
雪月がそんな事を思っていると、その場に詠唱が響き渡る。視線を向けると、魔法が発動されるところだった。
螺旋状に渦巻く炎が、ラットマン達を吸い上げるように巻き込んで燃やし尽くしていく。「キッーーー」というう断末魔の悲鳴を上げながら、パラパラと物言わぬ灰となって絶命していく。
「う、うわぁ……!」
広場にいたラットマンは今の魔法で全滅した。どうやら自分達の戦力ではこの階層の敵はあまりにも弱すぎたのだ。目の前の惨状を見て、眠気は完全に吹き飛んでいた。顔もかなり引き攣っているのだろう。
「あの…メルドさん? あれ…完全にやり過ぎなのでは?」
「あぁ~、そう…だな。とりあえず、よくやったぞ! 次は参加しなかったお前達にも戦ってもらうからな、気を緩めないでいくぞ!」
雪月の言葉に頷きつつ、他の奴らに気を抜かないように注意をするメルド団長。けどやはり、初めての迷宮の魔物討伐にテンションが上がるのは止められないようだ。頬が緩んでいく生徒達に「しょうがねぇな」とメルド団長は肩を竦める。
「それとお前達……さっき雪月も言っていたが、今のは完全にやり過ぎだぞ? 今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておくようにな。今のだと魔石も木っ端微塵だろうからな」
メルド団長の言葉に、魔法を行使した三人組は頬を赤らめる。
「しかし、よくラットマンが壁の隙間から出てくるのが分かったな」
メルド団長が感心したような表情で雪月を見ていた。
「まぁ、この場所は何かが出てきそうだとは思いましたからね。遠くを見ることが出来る‟千里眼”を使って、周囲を警戒してたんですよ」
「成程。しかし随分と手馴れているな」
「まぁ元の世界で色々……ありましてね。自然と身に着いたんですよ、ハハハハハ……」
メルド団長は雪月の過去にどんなことがあったのか気になったが、色々と言ったあたりから雪月が死んだ魚のような目をしだしたのを見て、思い出したくないことなのだろうと、聞かないでおくことにした。
その後、雪月はハジメの所に戻り、メルド団長の号令で迷宮の先へと進んでいく。
☆★☆
そこからは特大きな問題も起こらず、交代しながら戦闘を行い、階層を順調に下っていった。当然、雪月も何度か魔物と戦った。
訓練とかの時となにも変わらない。武器を投影して、それを振るっていくだけだ。
「フンッ!」
目の前にいる魔物を投影した剣で両断する。
「ふぅ……メルドさん、この辺りの魔物はこれで最後のようですよ」
周囲を見回した雪月がメルド団長に告げる。
「よし、次の階層にいくぞ!」
『はい!』
そして、自分達は一流の冒険者か否かが決まると言われてるらしい二十階層に辿り着く。そう呼言われている理由は、自身の力を過信してここより先の階層に行こうとすれば、必ず痛い目にあうという事なのだろう。
現在、この迷宮の最高到達階層は六十五層らしいのだが、それはもう百年以上前の冒険者がなした偉業らしく、今では四十を越えれば超一流、今雪月達がいる二十を越えれば充分に一流扱いされるそうだ。
「まぁ俺達は強さがチート級らしいからな。ここまで力押しで来たって感じだろう」
「だね、僕らは実戦での戦闘経験が全然足りてないだろうから」
実際ハジメの言う通りだ。自分達は実戦の経験が全く足りていない。けど、元々の強さが異常だったことから、
だが、ここまで潜るのに苦労しなかった理由はそれだけではない。
「全員よく聞け! ここから先はトラップの数も多くなってくる。先走らないようにな!」
メルド団長の声が響き、それを聞いた全員が気を引き締める。
そう、迷宮で最も危険なのはトラップだと言われている。中には、下手をすれば即命を落とすものまでいくつか確認されているそうだ。
だが、騎士団もその点については対策を立てている。
『フェアスコープ』と呼ばれる魔道具で、常に周囲にトラップが無いか警戒して、誘導してくれている。
自分達がここまで難なく降りてこれたのも、ほとんどがメルドさんと騎士団の人達のお陰と言っても過言ではない。
「お前達! 今までの相手が楽勝だったからって、絶対に油断するんじゃないぞ! 今日の訓練はこの二十階層で終了だ! 気合い入れろ!」
メルド団長の掛け声がまた響く。雪月達はそれに答えながら、魔物との戦闘に戻っていく。
「おしっ、来たぞハジメ!」
「う、うん!」
雪月とハジメの元に犬のような姿の魔物が走ってくる。犬といっても、歯を剥き出しにして涎をダラダラと流している全く可愛げのないやつだが……
それが二体、お互い少し離れて迫って来た。雪月はそれぞれを一瞥すると…
「そうだな……ハジメ、俺が左のやつを相手するから、右のやつは任せるぞ!」
「えっ! 僕一人で相手するの!?」
「お前なら大丈夫だよ!」
そう言って雪月は左の魔物の方へ向かっていく。
「ガァアアア!」
雪月に向かってくる魔物が口を開いて飛びかかってくる。しかし……
「遅い」
雪月はそう呟きながら横に躱し、すれ違いざまに相手の首に鞘から取り出したナイフを突き刺す。
「ギャン!?」
「
首からナイフを抜き、反対の手に持っていた剣を振り降ろして首を斬り落とす。それと同時に、剣の方から「バキンッ!」と音が響く。
「っ!?」
剣の方を見ると、剣身が中間あたりからポッキリと折れていた。
「……贋作だから脆いのは分かっちゃいるが、こうも簡単に折れちまうってことは…俺もまだまだ……か。ごめんな」
そう呟いて、雪月は粒子となって消えていく剣を見送り、新しく剣を投影する。
「さて、と…ハジメの方はどうなってるか。大丈夫だとは思うが……万が一もあるか?」
そう言って、ハジメの方へ向かう。
☆★☆
雪月が魔物に向かって走って行った直後……
「お前なら大丈夫だって言われたって…」
ハジメはこの階層に来るまで、他のメンバーに比べてそれほど多くは戦っていない。しかも、彼が参加した戦いのほとんどが、雪月と二人掛かりで相手をしたり、騎士団員がある程度弱らせた魔物にハジメが止めを刺すと言った感じである。一人で弱っていない魔物と戦うのは、これが初めてなのだ。
「あぁもう! こうなったらやるしかない!」
そう言って自分を鼓舞しつつ、ハジメは震える手を地面に置き、自分の唯一の技能である錬成を発動させる。
その直後、魔物の少し手前の地面ががいきなり陥没し、落とし穴が出来上がった。
「ガァッ!?」
魔物の方は、いきなりの事で対応出来ず、穴に落ちてしまう。落ちたのを確認したハジメは慎重に近付き、もう一度錬成を行い、相手に反撃されないように周りの地形を変形させて相手を一切動けなくする。
「グッ…ググ…グギ……」
「ふぅ……かなり不安だったけど、上手くいって良かった」
相手が動けないのを確認したハジメは、雪月からもらったナイフを鞘から取り出して魔物の首に刺し、駄目押しに持っていた剣を腹部に突き出して、串刺しにした。
「ガッ…ギ……」
数秒震えた後、魔物は完全に動かなくなった。
「か、勝てたん……だよね?」
魔物が動かなくなったことに安堵したハジメは、その場に座り込んだ。まだ自分が一人で倒せたことが信じられないのか、その場から動こうとしなかった。
「……………」
「おっ! もう終わってたみたいだな」
ぼーっとしていると、声が聞こえてくる。そっちの方に顔を向けると、雪月がそこに立っていた。
「あ……雪月」
「ほらな。俺が言った通り、大丈夫だったろ。ほれ、立てるか?」
「う、うん」
雪月は手を差し出して、ハジメを立たせる。
「どうだった? 戦ってみて」
「どうだった? じゃないよ! いきなり任せるって言われて怖かったんだからね!」
「ご、ごめんて。でも、お前の錬成の精度も上がってるみたいだったし、今のお前ならあれくらいの魔物の一匹くらい大丈夫かな~って思ったんだよ。実際勝てただろ?」
「そりゃそうだけどさぁ!」
雪月の言っている事は間違っていない。実際、迷宮での実戦や今まで雪月とやってきた特訓で何度も錬成を行ってきたおかげで、ハジメの魔力と精度は徐々にではあるが、上がってきていた。レベルも徐々に上がっているから、やはり実践は良い訓練になっているのだろう。
(それに、ハジメ一人でも魔物と戦えるんだって所を見せる事も出来たしな)
そう思いながら、雪月は視線を魔力回復薬を飲んでいるハジメから別の所へ移す。その先には、ハジメが一人で魔物を倒したことにかなり驚いている騎士団員達の姿があった。
あれだけ驚くってことは、ハジメがまともに魔物と戦えるとは思っていなかったのだろう。後で聞いた話なのだが、この世界では「錬成師=鍛治職」というのが常識らしく、錬成を実戦で用いる人は今までいなかったそうだ。
だが、錬成も使い方を少し変えれば、戦闘に用いることが出来るという事が今回の戦闘で証明された。ハジメの努力の賜物である。
メルド団長から小休止すると言い渡され、ハジメと雪月は近くにあった岩場に腰を下ろす。雪月が各自で休んでいるクラスメイト達をを見ていると、香織がこちらを…否、ハジメを見て微笑んでいた。
ハジメもそれに気付いたが、何故か慌てて目を逸らす。香織が口を尖らせていたが、隣にいた雫がからかっているのだろうか…香織が顔を真っ赤にして反論していた。うっすらと聞こえたが、ラブコメがどうとか……?
「ハジメ、なんで目を逸らしたんだ? 白崎の奴拗ねてるぞ?」
「えっと…なんか白崎さんに見守られているみたいで、なんだか気恥ずかしくなっちゃって」
「それだけお前が心配なんだろうさ。これ以上心配かけたくなかったら、もっと強くなるべきだ」
「わ、分かってるよ!」
ハジメがそう言いながら横目で香織達を見ていたが、急に背筋をピシッと伸ばす。
「ん、どうした?」
「いや……………実は、今日の朝から変な視線を感じてて……」
「視線?」
「なんかこう、負の感情がどっぷりと乗ったって言えばいいのかな? そんな感じの視線」
ハジメが周りをキョロキョロと見回す。
「…その視線は今も?」
「いや、探そうとするとすぐに霧散しちゃうんだ。宿を出たあたりからずっとその繰り返しで……もう嫌になるよ」
「……ふむ」
雪月は顎に手を当てて少し考え込む。その表情は先程とは打って変わって真剣なものだ。
「僕、なんかしちゃったのかな?」
「それはないと思うんだが…一体誰が?」
「はぁ~、なんだか嫌な予感がしてきたよ」
「嫌な予感…か……」
ハジメは深々と溜息を吐く。雪月は少し険しい表情になる。
(今朝から感じている胸騒ぎも全然治まらねぇ。この先にまだ何かあるってのか?)
その時、メルド団長の休憩終了の号令がかかる。雪月は一旦考えるのをやめ、ハジメと共に迷宮の探索を再開する。ハジメや自分が感じている嫌な予感が杞憂であることを願いながら。
しかし……その予感はその後すぐに、最悪の形で当たるとは……この時の二人はまだ知る由もない。
そして、ここからが悪夢の始まりだという事にも………
最後まで読んでいただきありがとうございます。
いよいよ勇者一行の迷宮探索が始まる。序盤は自分達がチート級の強さを持っているおかげか苦もなく進むことが出来た。ハジメと雪月も自分達に出来る事を駆使し、着々と実力をつけていく。
だが、そんな二人が向かう先に待つ悪夢に、二人はまだ気づいていない
亀更新ではありますが、これからも頑張っていきたいと思います。
それでは、また!三└(┐卍^o^)卍ドゥルルル