ありふれた贋作で共に世界最強   作:シュシュマン

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あらすじ部屋にて……

雪月「……またここに連れてこられちまった。しかも今回俺だけだし」

雪月「まぁいいか、とっと終わらそ。神薙雪月だ」

雪月「迷宮探索も二十階層まで進み、そこで勇者が馬鹿な事やらかそうとしたりしたけど、順調だった。けど、檜山の阿呆が軽率な行動をしたせいで俺達はトラップにはまり、どこかの橋の上に転移させられたんだ」

雪月「メルドさんの指示で階段がある方へ撤退しようとしたが、魔法陣が現れて中から魔物がわんさか出てきやがった。もう一方の方からはなんだかデカイ魔物が現れたんだが、メルドさんが言ってた”ベヒモス”って一体……まぁここで考えても仕方ない。という訳で……」

雪月「第八話、始まるぞ!」

雪月「……次回は俺出ないよな?」


第八話:カウントダウン 前編

 橋の両サイドにいきなり現れた、赤黒い魔法陣。通路側の方は直径十メートル程の巨大なものが一つ、階段側はそれよりも小さい、一メートル位なのだが、その数が異常だった。二十、三十…もしくはそれ以上だろうか。

 

 その異常なまでの数の魔法陣から、魔物が次々と出てくる。

 

「うじゃうじゃと出てきやがるな。待てよ、あれって確かどこかで……」

 

 通路側の魔法陣の前で剣を構えながら、顔を階段側の方に向ける雪月。その魔物をどっかで見たはずだと記憶を探っていく。

 

(あ、思い出した! ハジメが読んでいた図鑑に……)

 

 雪月は以前ハジメが呼んでいた魔物図鑑を横からチラッと見た時、偶然にその魔物のページだったのだ。

 

 その魔物の名は‟トラウムソルジャー”。見た感じガイコツ戦士のような魔物だ。人の骨格を持ち、眼球が無いその空洞の眼窩には魔法陣と同じ様な赤黒い目のような光が煌々と輝いていた。そんな奴が既に百体近く、階段側の通路を埋め尽くさんとしている。恐ろしい事に、まだ絶賛増殖中だ。

 

(あれはあれでヤバいけど、もっとヤバいのがこっちにいるんだよな……)

 

 雪月は視線を通路側へと戻す。

 

 視線の先には十メートル程の魔法陣、そこから現れた巨大な魔物。体長は十メートル級といった所か、四足で頭部には巨大な二本角と兜のような物が付いている。見た目を例えるなら、恐竜のトリケラトプスが兜を付けた感じだろう。その目は赤黒い光を放ち、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜から生えている角が炎を放っている。まさに悪魔のような姿だ。

 

「メルドさん、さっき言ってた…そのベヒモスって魔物は?」

「………」

「メルドさん?」

 

 雪月は目の前にいる魔物について聞こうとしたが、メルド団長には聞こえてないのか沈黙が返ってきた。その直後、目の前の奴が大きく息を吸い込んだかと思うと…

 

「グルォアアァァァアアアアア!!」

『っ!?』

 

 凄まじい咆哮を上げてきた!

 

「っ! アラン! お前は生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! お前達は全力で障壁を! ここで奴を食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かうんだ急げ!!」

 

 その咆哮で正気に戻れたのか、メルド団長が怒号と共に矢継早やに指示を飛ばす。しかし、勇者は退こうとはしなかった。

 

「待って下さいメルドさん! 俺達も…」

「駄目だ! あれがもし本当にベヒモスだったら今のお前達には到底無理だ!」

「何故です!? 確かに俺達じゃ力不足かもしれませんが、見捨てるわけには!」

「奴が六十五(・・・)階層の化物だからだ! かつて‟最強”の称号を持った冒険者が手も足も出なかった魔物なんだ!!」

 

 メルド団長の告げた衝撃の事実に近くにいた光輝達、そして雪月も固まる。

 

(今メルドさんはなんて言った? ベヒモスが六十五階層の魔物? じゃあ今、俺達がいるのは……六十五階層!?)

 

 六十五。それはかつて、百年以上前に最強と言われた冒険者が辿り着いた最高到達層のはずだ。記録ではその冒険者はそれより下の階層には行けなかったという。理由は、今自分達の目の前にいた。

 

(じゃあなにか? 俺達はあのトラップで四十階層以上も下に飛ばされた上に、当時の最強が手も足も出なかった魔物と後ろの大量の骨共を相手にしろと!? どんな悪夢だよ!)

 

 雪月はチッと舌打ちする。メルド団長の言ったことが確かなら、今の自分達にあれ(ベヒモス)を倒す術はない。ならば、と、雪月は(トラウムソルジャー)の方へと駆ける。

 

 今自分が優先すべきことは、上階への階段に通じる道の確保。そう判断した雪月は急いで向かおうとするが、

 

 グルァァアアアァァァアアアアア!

 

「っ!」

 

 突如後ろから聞こえてきた咆哮に思わず足を止めて、振り向いてしまう。

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず――‟聖絶”!!」」」

 

 振り向いたと同時に聞こえてきたのは、声からして三人分だろうか…何かの詠唱だった。そして刹那、凄まじい衝撃波が雪月を襲う!

 

「うぉっ!? ぐぅ……!」

 

 雪月は何とか吹き飛ばされないように足で踏ん張りながら、顔を覆ってる両腕の隙間から何が起こったのかを確認しようとする。見えたのはおそらく突進してきたであろうベヒモスと白い半球状の障壁のような物、さっきの詠唱はこの障壁のものだと雪月は確信した。

 

 ‟聖絶”―――純白に輝くこの障壁は、一分だけだがどんな物でも破ることの出来ない絶対の守りを出現させる。今回騎士団は、国では最高級と称される紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱に加え、それを三人同時に発動させる。紙に書かれている物のため一回きりだが、今は迷っている暇はない。

 

 そのおかげでベヒモスの突進は止まるが、足元は粉砕され、凄まじい衝撃波と振動が橋全体を襲う!

 

 元々撤退中だった生徒達は、通路側の状況を全く知らないため、突如襲ってきた衝撃に悲鳴が上がったり転倒する者が相次いだ。

 

 なんとか転倒せずにいた雪月は、再び階段側の方に向けて駆ける。ベヒモス程ではないが、骨…トラウムソルジャーは三十階層後半、正確に言えば三十八階層に出現する魔物。今日戦ってきた魔物とは一線を画する存在だ。万全な状態ならともかく、こちらは二十階層での戦闘の直後な上に、理不尽なトラップで前方からは不気味な人骨が百体以上、後ろにはそれを超える怪物が待ち構える場所に放り込まれる。パニックになるには十分すぎる。

 

 訓練で教わって来た隊列は一切無視し、我先にと階段を目指してがむしゃらに進んでいく生徒達。騎士団員の一人であるアランが必死に抑えようとするが、目の前の恐怖が勝って誰も聞こうとしない。

 

 雪月も剣を振るって応戦するが、目の前の骨達は思った以上に手強い。倒しても倒しても次から次へと襲ってくる。

 

「きゃっ!?」

 

 誰かの短い悲鳴が聞こえた。視線を向けると、転倒している女子生徒が。後ろから誰かに突き飛ばされたのか。そんな彼女に……

 

「うぅ…」

「っ! 逃げろぉ!!」

 

 雪月は叫ぶ。

 

「えっ?」

 

 雪月の叫びに反応した彼女が顔を上げると、目の前に骨が一体、剣を振りかぶった状態で立っていた。

 

「あ」

「くそっ、どけぇ!」

 

 雪月は目の前にいた敵を蹴り飛ばし、女子生徒の下に走る。今から全力で向かえばまだ間に合う距離だ。しかし……

 

「っ!」

 

 駆ける雪月の横から別のが現れた。彼女を助けようと周りを見なかったのが仇となり気付けなかった。そいつが上段に構えた剣を振り下ろしている事にすら……それと同時に、女子生徒の方にも剣が振り下ろされる。

 

(あ、ヤバ……)

 

 死ぬ―――彼女と雪月がそう感じた瞬間、突如骨の足元が隆起した!

 

 バランスを崩した骨二体ともの剣が逸れる。隆起は近くにいた数体を巻き込んで橋の端に向かうように波打っていき、最終的に奈落へと突き落としていく。突然の事で呆然とする。

 

(助かったん…だよな? 今のは……)

 

 雪月は辺りを見渡す。そしてある人物を見つける。

 

 ハジメだ。橋の縁から少し離れた場所で、安堵の息を吐きながら座り込んでいる親友の姿があった。

 

(ハジメ? そうか、錬成か!)

 

 雪月は納得する。今さっき女子生徒と雪月を救ってくれたのはハジメの錬成だったのだ。彼は連続で地面を錬成することで、滑り台の要領で骨達を橋の外へ滑らせて落としたのだ。

 

(ハジメの奴、また錬成の練度が上がってるんじゃないか? 錬成の速度、範囲、回数。最初の頃よりだいぶ成長している)

 

 雪月はハジメの成長ぶりに感嘆していた。そして……

 

(まさかハジメに助けられちまうとは……)

 

 ハジメに命を救われたことに嬉しさ半分、悔しさ半分といった感情を抱いていた。守ろうとした親友に命を助けて貰ったことは嬉しく思う。だが、その親友の前で自分の命を危険に晒してしまったのが悔しかった。

 

 雪月がそんな事を考えている内に、魔力回復薬を飲んで橋に座り込んだままの女子生徒の下に駆け寄るハジメ。彼女と雪月を救った錬成の魔法陣が描かれた手袋をした手で彼女の手を引っ張って立ち上がらせる。

 

「早く前へ行って。気持ちを落ち着かせて冷静になれば、あんな骨だけの魔物なんて大したことはないさ。このクラスは僕を除いた皆がチート持ちなんだから!」

 

 呆然として為されるがままの彼女に、ハジメは笑顔で言いながらバシッと背中を叩く。助けられた彼女もハジメに礼を言って戦場へと戻って行った。

 

「雪月、大丈夫?」

 

 女子生徒を見送ったハジメは今度は雪月の方に駆け寄る。

 

「あぁ…すまんハジメ。助かった」

「かなり焦ったよ。見たらあの魔物が雪月に剣を振り下ろそうとしてたんだもん」

「……さっきの奴を助けようとして周りへの注意を怠った俺のミスだな」

「仕方ないよ。実戦は何が起こるか分からないからね」

 

 会話しながらも、ハジメは錬成で骨の足元を崩した後に固定して足止めし、雪月が剣で攻撃する。今回の実戦訓練でハジメと雪月が組んで戦う時に編み出した戦法だ。ハジメが錬成を用いて敵を足止めし、雪月が仕留める。その逆のパターンも一応試したが、雪月の錬成で敵の足止めは出来ても、ハジメの攻撃力が心許なかったため、このパターンは諦めた。

 

 周りにいた骨をすべて退けた二人は、戦況確認のため周囲を見渡す。

 

 生徒のほとんどがパニックになって出鱈目に武器やら魔法やらを振り回したり出しまくってる。あれでは敵を倒すどころか、最悪誤爆して死者を出しかねない。騎士のアランが今も必死に纏めようとしているが、うまく機能していない。未だ魔法陣から骨が大量生産中の現状を打破するには何かきっかけが必要だった。

 

「雪月、君ならこの状況どうする?」

「そうだな、この最悪とも言える状況を打破するには……あそこでパニックになってる奴等を纏めつつ、あの骨共を突破できるだけの火力が必要だろうな。悔しいが……俺には無理だ」

「じゃあ、それらが出来るとしたら……」

「まぁ思いつくのは一人だけだわな。ったく当の本人は何やってんだよ」

「なら行こう!」

「あぁ!」

 

 二人は走り出す。階段側ではなく、ベヒモスの方へ。未だにメルド団長と言い争っている勇者(天之河)から力を借りるために。

 

 

 ☆★☆

 

 

 通路側では、未だにベヒモスが突進を繰り返していた。

 

 その度に壮絶な衝撃波が周囲に撒き散らされ、橋にいくつもの亀裂が入っていた。砕けるのはもう時間の問題だろう。三人の障壁に加え、メルド団長も加わっているが、焼け石に水だった。

 

「ええい、くそっ! 障壁がもう持たん! このままでは……」

 

 メルド団長が今の状況に苦虫を噛み潰したような顔をしていると……

 

「天之河くん!」

 

 後ろから声が聞こえる。振り返るとそこには……

 

「えっ? な、南雲!? それに神薙まで!」

「南雲くん!?」

 

 二人の男子がこっちに走って来た。雪月はともかく、ハジメがここに来るとは思っていなかったのだろう。そこにいた全員が驚いていた。

 

 雪月はメルド団長に状況の確認をする。

 

「メルドさん、状況は?」

「今はなんとか奴の突進を防げているといった所だ。この隙に光輝達を撤退させようとしているんだが……」

「メルドさん、俺はまだ戦えます! メルドさん達を置いて自分達だけ逃げるなんて出来ません!」

 

 どうやら目の前の勇者は頭の中には撤退という二文字はなく、それどころか自分ならベヒモスをどうにか出来るとでも思っているんだろう。自分の力を過信し過ぎている。

 

「何を言っているのよ光輝! メルドさんの言う通り、私達は撤退するべきよ!」

 

 雫は今の状況をしっかり理解出来ている様だ。腕をつかんで何もわかっていない勇者を諫めようとする。

 

「おいおい、光輝の無茶は今に始まった事じゃねぇだろ? 最後まで着き合うぜ、光輝!」

「龍太郎……ありがとな。よし、やるぞ!」

「チッ! 状況に酔ってんじゃないわよこの馬鹿ども!」

「雫ちゃん……」

 

 だが、龍太郎の言葉のせいでさらにやる気をみなぎらせる勇者。苛立ち、舌打ちをする雫。それを心配する香織。

 

(はぁ……なんであいつ(天之河)は相手と自分の力量差が分からないんだよ。あの勇者はここまで馬鹿だったのか?)

 

 雪月がその馬鹿さ加減に呆れていると、メルド団長がこっちの状況を聞いてきた。

 

「雪月、そっちはどうなんだ? 何故こっちに来た!?」

「状況は……はっきり言って最悪です。ほとんどの奴が未だパニック状態で、いつ死者が出てもおかしくないかと。こっちに来たのはあいつの力を借りるためです」

 

 雪月の視線が戦う気満々の勇者の方に向く。その間にハジメが飛び込んできた。

 

「天之河くん、早く撤退を! 君がいないと駄目なんだ! 早く!」

「いきなりどうしたんだ? それよりも、なんで君がここに! ここにいるのは危険だ、俺達に任せて南雲は……」

「そんなこと言ってる場合じゃないんだよ!」

 

 ハジメをこの場から撤退させようとした勇者の言葉を遮って、ハジメは今までにない乱暴な口調で怒鳴り返す。

 

 普段のイメージとはかけ離れたその姿に雪月も含めた全員が硬直し、目を見開く。

 

「君にはあれが見えてないの!? みんないきなりの事でパニックを起こしている! リーダーが必要なんだ!」

 

 呆然とする勇者の胸ぐらを掴みながら自分達が走ってきた方に指をさすハジメ。

 

 その先では、大量の骨に右往左往になりながら、出鱈目に戦っているクラスメイト達の姿が見えた。誰も彼もが好き勝手に戦うものだから、敵の増援を突破できずにいる。スペックの高さで命は守れているが、それも時間の問題だ。

 

「あそこを突破できる力が必要なんだ! 皆の恐怖を一気に払拭できるだけの強い力が! それが出来るのは僕らの中では天之河くんだけなんだよ! リーダーなら前だけじゃなく、周りをちゃんと見ろよ! 神山で言った様に…皆を救ってよ!」

 

 ハジメの最後の言葉に勇者である光輝は頭を思いっきり殴られたような気がした。確かに自分は、神山で世界を、そして皆を救うと誓った。だが、さっきまでの自分に同じことを言う資格があるだろうか? 目の前の敵を倒そうとに躍起になり過ぎて、今自分が本当にすべきことを見落としてしまっていた自分に。だが、今はこれ以上考えている時ではない!

 

 ハジメの言葉を受けて、ただ呆然と、混乱に陥り怒号と悲鳴を上げているクラスメイト達を見ていた勇者、光輝は頭をぶんぶんと横に振り、ハジメに頷く。

 

「あぁ、すまない。すぐに行くよ! メルドさん! すいませ―――」

「お前等下がれぇーーー!」

 

 光輝が『すいません。先に撤退します』―――そうメルド団長に言おうと振り返った矢先、彼の悲鳴と同時に、遂に障壁が音を立てて砕け散り、荒れ狂う衝撃波が彼等を襲う!

 

「雪月!」

「っ! おぅ!」

 

 ハジメは咄嗟に親友のを叫ぶ。雪月もハジメがやろうとしている事を瞬時に悟り、二人は同時に地面に手を置き……

 

「「―――”錬成”!!」」

 

 錬成で石壁を作りだす。しかし、それはあっさりと砕かれその場にいた全員が吹き飛ばされる。壁のお陰で少しは威力は殺せたが、焼け石に水だ。

 

 衝撃波により舞い上がっていた埃が、ベヒモスの咆哮によって吹き飛ばされる。

 

 そこには、一番近くで衝撃を受けたため、倒れ伏して呻き声を上げるメルド団長と障壁を張っていた騎士が三人。光輝達も倒れていたがすぐに起き上がることが出来た。メルド団長の後ろにいた事や二人が出した石壁で難を逃れた様だ。

 

「ぐっ……龍太郎、雫、時間を稼げるか?」

「やるしかねぇだろ!」

「……何とかしてみせるわ」

「よし、それと……神薙」

「ぐぅ…あん?」

 

 光輝が龍太郎と雫に問う。その問いに辛そうではあるが確かな足取りで前へ出る二人。それを確認した光輝は体の調子を確かめていた雪月に向かって頭を下げる。

 

「龍太郎達と一緒に時間を稼いでくれないか? 君の力を貸してくれ。頼む!」

「………いいだろう。白崎! メルドさん達の回復を!」

「うん!」

「ハジメ! お前は……」

「大丈夫! もうやってるよ!」

 

 雪月は光輝の助力の要請を渋々了承し、香織にメルド団長の回復を頼み、ハジメに念のため石壁を張っておくように言おうとしたが、既にハジメはメルド団長の所で石壁を張り終えていた。

 

「三人共頼むぞ!」

「おう!」

「えぇ!」

「あんま時間を掛けるなよ!」

 

 龍太郎、雫、雪月の三人がベヒモスの下へ走り出す。その隙に、光輝は今の自分が繰り出せる最大の技を放つために詠唱を開始する。

 

「神意よ!全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ! 神の息吹よ! 全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ! 神の慈悲よ! この一撃を以って全ての罪科を許したまえ!―――‟神威”!」

 

 光輝の詠唱と共に真っ直ぐ突き出した聖剣から眩い極光が迸った。

 

 二十階層で繰り出そうとして失敗した天翔閃と同系統の技だがその威力は段違いだ。橋全体を振動させ、石畳を抉り飛ばしながら、極光がベヒモスへと迫る。

 

 詠唱が終わるのと同時に、三人は離脱していた。流石に無傷とはいかず、三人共ダメージを負っていた。しかし、あの魔物相手に走れるだけの体力が残っているなら善戦した方だろう。

 

 聖剣から放たれた光属性の砲撃と見紛う程の威力を持った斬撃は轟音と共にベヒモスへと直撃する。その瞬間、光が辺りを満たして白く塗りつぶし、激震する橋に大きく亀裂が入る。

 

 その間に三人が光輝の傍に集まる。

 

「はぁはぁ……三人共、お疲れ」

「おう。ぜぇぜぇ、流石にやっt―――」

「おいコラ坂上、それ以上言うんじゃねぇ、フラグになるだろうが! メルドさん達を回復させるまでの時間はある程度稼いだんだから撤退するぞ!」

「私も賛成。二人共、行きましょう!」

 

 光輝は莫大な魔力を消費したようで肩で息をしていた。龍太郎が今この場で言ってはいけないセリフを言いそうになるが雪月が止め、撤退を促す。雫は雪月の案に賛成の様だ。

 

 四人はメルド団長の治療を行っている香織達の下へ向かおうとする。しかし、光輝の足取りが重い。先程の攻撃は文字通り、光輝の切り札だ。残っていた魔力をほとんど持っていかれたようで疲労がかなり溜まっている。向こうの方では治療が終わったのか、メルド団長達が起き上がろうとしていた。

 

 ふと、雪月が通路側の方に視線を向ける。次の瞬間、その顔が驚愕に染まる。

 

 視線の先では、ようやく光が収まり、舞っていた砂埃が吹き払われ………無傷のベヒモスが姿を現した。

 

「そ、そんな馬鹿な……」

「嘘だろ、さっきのは光輝の切り札だったんだぞ。それで無傷って……」

「ボケっとしてる暇はねぇだろ! 急いで離れるぞ!!」

 

 光輝と龍太郎はショックを隠し切れないようだ。雪月はある程度は予想していたが、流石に無傷なのは想定外だった。

 

 ベヒモスは低い唸り声をあげ、光輝を射殺さんとばかりに睨んでくる。その直後、スッと頭部を掲げたと思ったら次の瞬間、頭の角がキィイイイインと甲高い音を立てながらどんどん赤くなり始めた。その数秒後には頭部の兜全体がまるでマグマのように燃え滾り、そして…こちらに向かって突進しだした。

 

「お前ら何やってる! 逃げろぉ!!」

 

 メルド団長の叫びにようやく光輝と龍太郎の二人が正気に戻って走り出すが、それと同時にベヒモスは一瞬立ち止まったかと思うと、光輝達のかなり前で跳躍した。奴が何をしようとしてるのか、走りながら何となく理解した雪月の顔が青褪め、叫ぶ。

 

「横に飛べぇ!!」

『っ!』

 

 雪月の叫びに三人が一瞬驚くが、全員全力で横っ飛びで左右に分かれる。次の瞬間、赤熱化した頭部を下に向けて、まるで隕石の様にベヒモスが落下してきた!

 

 回避するのが一瞬早かったおかげで直撃は免れたが、着弾時の衝撃波が彼等を襲う。四人共ゴロゴロと転がり、止まる頃には、満身創痍とはいかないが衝撃波でかなりのダメージを負っていた。

 

「大丈夫かお前等、動けない奴はいるか!?」

 

 どうにか最初に動けるようになったメルド団長が四人の安否を確認する。四人は動けないほどのではないが、十分に動くことは出来ないでいた。先程の衝撃波で、先のメルド団長と同じく体が麻痺していた。

 

「はぁはぁ、みんな……無事か?」

「お、おう…」

「なんとか……」

「ゲホッエホッ、あの巨体であんなことが出来るとか…反則だろ」

 

 光輝の問いに龍太郎と雫が答え、雪月はせき込みながらベヒモスの方に視線を向ける。ベヒモスは橋にめり込んだ頭を引き抜こうと踏ん張っている所だった。

 

 奴が動けない今の内にと、メルド団長は光輝達を撤退させるために香織を呼ぼうと振り返る。香織の方は騎士団員達の治療を丁度終えたところだった。それともう一人、その視界に、こちらに駆け込んでくるハジメの姿を捕らえた。

 

「坊主! 香織と一緒にあいつ等を連れて下がるんだ!」

 

 ハジメにそう指示するメルド団長。そして、その場にいる全員がその指示の意味を理解した。メルド団長は命懸けでベヒモスを食い止めるつもりなのだろう。唇を噛み切るほど食いしばりながら盾を構え、ここを死地と定めたような表情をしていた。

 

 全員が歯噛みする中、ハジメは必死の形相でとある提案をしていた。二人の一番近くで倒れていた雪月にはその提案の内容が聞こえ、目を見開く。それはあまりにも成功率が低く、馬鹿げていると思えるものだった。しかし、現状ここにいる全員が助かるにはその方法しか無いのも事実だった。

 

 雪月はボロボロの体に鞭を打ち、足を引きずりながら二人の下へと向かう。

 

 ハジメの提案を聞いたメルド団長は逡巡するが、ベヒモスがは既に頭を引き抜いて態勢を整え始めている。頭部の赤熱化が始まっていてもう時間が無い。

 

「その作戦はお前が一番危険が伴うものだ……やれるんだな?」

「やります。やってみせます!」

「待てハジメ」

 

 雪月が待ったをかける。

 

「雪月?」

「はぁ、はぁ……ハジメ、その作戦の成功率を上げる方法が一つあるぞ」

「それってもしかして…」

「あぁ……俺も参加させろ」

「なっ!? 無茶だ雪月、お前の体はもうボロボロなんだぞ!」

 

 メルド団長は無理だと雪月を止めようとするが、雪月は笑みを浮かべる。

 

「大丈夫ですよメルドさん、別にあいつと戦えって訳じゃないんですから。あくまで足止め。魔力と走れるだけの体力があれば十分でしょ?」

「それは……だが!」

「ねぇ雪月」

「あん?」

「体の方は大丈夫なの?」

「あぁ、ある程度は動けるようになった。白崎に頼めば走れるようになるまで回復はしてくれるだろ」

 

 雪月は腕を振り回したり、足をプラプラと動かしてみる。体の痺れはある程度収まったようだ。

 

「なら、力を貸して」

「応よ!」

 

 ハジメの頼みに雪月はサムズアップで答える。その様子を見たメルド団長は数秒唸った後、「くっ」と笑みを浮かべる。

 

「分かった、もう何も言わん。雪月はともかく、まさかお前さんに命を預ける事になるとはな……必ず後で助けてやる。頼んだぞ!」

『はいっ!』

 

 今、ハジメの提案による、二人の錬成師の戦いが始まろうとしていた。




 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 ベヒモス戦は前編と後編に分けようと思います。後編は頑張って明日か明後日に出そうと思います。

 いよいよ来週から『ありふれた職業で世界最強』のアニメが始まりますね。自分は非常に楽しみです。

 それでは、また!三└(┐卍^o^)卍ドゥルルル
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