魔法使い「聖杯を嫁にしたんだが冷た過ぎて辛い」 作:シフシフ
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えっへん!
と胸を張るマユたんを眺めつつ、カレーライスを頬張る。
カレーライスであれば中華鍋などの重たい料理器具を使わなくても作れる!とマユたんが言い出し、いまに至る。
どうやらバイキルトなどの呪文であろうと俺の手を借りた事になって1人で作れた事にはならないらしい。
そこで1人で作れるものを探したようだ。
……まぁ、カレーを作るための鍋をコンロに上げたのは俺なのだが。セーフなのか?
それにしても美味いな。マユたん補正が凄いのか、本人が上手いのか…………両方だな(確信)
お?マユたん、おかわりですか。いっぱい食べるのすこだ。
「〜♪」
マユたんが鼻歌まで歌ってご飯を食べている時だ、突然、俺は腕に違和感を覚える。そして、魔力を感じた。
なんだ?と首を傾げた時、甲高い金属音が鳴る。
「ショ、ショウ……?」
どうやらマユたんがオタマを落としたらしい。わなわなと震えるような、信じられないものを見るような目だった。
何故だ、俺は既にマユたんのカレーライスを完食したはず。なぜあんな目で見られている?
まさか福神漬けか?福神漬けを入れたのか不味かったか……?あれは美味いんだ、入れても良いはず。
っ、確か女性の中にはそういった後付けの味付けを嫌う人がいたな。折角自分が作ったのに、自分の味がごちゃ混ぜになってしまうからやだ!みたいな。
かわいいかよ。
「ショウ、てをみせてくれ!」
「手?どうかしたのか?……ッ」
「やっぱり……!」
マユたんに言われて手の甲を見ればそこには……赤い、痣……?
アイエエエエエ↑ッ令呪!?令呪なんで!?
くっ、このくっそ恥ずかしい令呪がまたっ……!!
なぜTENGA柄なのか。これが分からない。
童貞のお前にはこれがお似合いだ、とでも言いたいのか!
恥ずかしい!恥ずかしいぞぉ!………そうだ!見た目変えちゃえ!魔力の無駄遣いとは言うまいな。どうせ余ってるんだ。
はっ、待てよ……?マユたんは英霊達に会いたがっていたな!これはチャンスか……!?
し、しかし万が一の事があってマユたんが攻撃されるようなことがあれば心に取り返しのつかない傷を残すかも知れない……やはり置いていこうか……?
むむむ!悩む。
■
食事中、突然、ショウの手に令呪が宿った。
私は聖杯として
私を生み出した大聖杯が、また使われようとしている。
…………もう
ショウが私を使う時が来たのか?
予想では『私の身体がある程度成長した時』の筈だったが、それが外れたのだろうか。
思わず、カレーをよそうオタマを落としてしまう。
身体がこの幸せな時間の終わりを想起して固まってしまった。
それを振り払うように声を出す。
「ショウ、てをみせてくれ!」
「手?どうかしたのか?……ッ」
「やっぱり……!」
やはり、令呪だ。
ショウがいつも通りの無感情な顔で手を眺め、そして私を見た。
目には私が映っている、黒い鏡のように。私を
ぞくり。
背を冷たい物が走った。
あぁ、終わった。
何が幸せな時間だ。結局は何も、初めから変わっていなかった。私は手段でしかないのだ。道具でしか無く失った所で大した損失でもないのだ。
だが何故だ。なぜ、抵抗しないんだ私は。
ロビンが邪魔を?……いや、していない。彼女自身、驚いて思考を止めているように思える。
では、私の意思か。
ショウの事を見つめながら呆然と立ち尽くした。
『……マユの心が欲しくなった』
そんな言葉を思い出す。
もう、完全に奪われていたのだ。抵抗するだけの意思はある、と信じたい。だが抵抗する意義を失いかけている。
「マユ?」
「っ」
不思議そうな、私を労るような低い声が耳を打つ。
ビクリと身体をふるわせてショウを見た。
あぁ、ダメだ。許せない。
フツフツと黒い感情が湧いてくる。この男が、何を欲し、なんの為に行動しているのかを考えると…………気が狂いそうだ。
「……どうやら、令呪のようだな」
再確認するようにショウが言う。
赤の線が複雑に絡み合い
令呪の形が左右対称に近しいほど、その人物は精神的に安定している事を表しているとされる。
不揃いな令呪の持ち主は精神的に異常者であるのだ。つまり、ショウの精神性は……そういうことなのだろう。
……だから何なのか。それが分かったからといって何になる?人間の精神で永きを生きたのだ。異常が生じない方が可笑しいだろう。
「聖杯戦争に選ばれたらしい」
白々しい。分かっていたのだろう?
「…………どうしたものか」
それも演技なんだろう?
疑心暗鬼?否。確信を持って心の中で問うに留まる。口に出せば何が起きるかわからない。
「…………はぁ」
っ、また、新しい表情を見た。
諦めたように目を瞑り、ため息と共に疲れたような顔で私の頭に手を置いた。私を連れていくのだろう。
「では、行ってくる」
「…………?」
背を向けてショウが玄関へ歩いていく。
まて、どういうことだ。
私をなぜ連れて行かない。天の衣を着せ、大聖杯へ連れなければ…………終わらせてから転移で連れていけばいいだけの事か。
………………ならば。
「まて、ショウ。わたしもいく」
ならば止めてやる。邪魔でもなんでもして、長引かせてやる。
「……………………危険だぞ?」
「かまうものか。ショウのそばをはなれるほうがこわい」
「マユ……」
ショウの目元が少しだけ動いた。
どうやら驚いたようだ。
「ふんっ、きがえてくる」
私は自分の部屋へもどり、服装を整えようと駆け出した。
「………………参ったな」
後ろで小さく呟かれた一言に、少しだけ優越感を感じた。今に見ていろよ魔法使い。
※
場面は変わりルーマニア・トゥリファス。
何処にでもあるような古民家に、無数の人影があった。
「……というわけなのです」
魔術協会の人間から事のあらましを説明され、頭を下げられているのは黒髪黒目の黒ずくめの男。そして、その隣にちょこんと座る少女。
「ほう」
男は魔法使い。そして、少女はその嫁だという。
貧相な椅子に腰掛け足を組んでいる様が、魔術師達には王座に御す魔王でも見上げているような気分であった。
とにかく、仕事はしたのだ。
ダーニックが何をし、どうして今に至るのかを詳細に説明し協力を扇いだ。
男は帰りたい、帰りたい。と願いながらチラリと肘掛に置かれた魔法使いの手を見る。
そこには不規則で時間によって形を変える理解不能な令呪が宿っていた。
ハッキリ言って不気味だった。
何かの拍子に突然殺されてしまうのではないかと気が気では無かったのだ。教えを乞うならば良い。命を捨てる価値がある。だが、機嫌を損ねるかもしれない要件を伝える…なんて命の無駄遣いだ。
魔法使いの沈黙はどれほどだったのか、1分?数十秒?いや1時間は超えるだろうか。
引き伸ばされたような時間を感じながら、答えが帰ってくるのをひたすらに待った。
そして、ゆっくりとその口が開かれて………
「───────断る」
魔術師は気絶した。
あぁ、死んだ。そう思ったのだろう。
慌てて他の人間が前に出る。
「な、何故でしょうか魔法使い様!」
顔を青ざめさせ気絶してしまった同僚を庇うように立ち、膝を震わせながら声を出す。
それに気が付いているのだろうか、全く気にしない様子で魔法使いは言う。
「組みする必要性を感じないからだ」
絶対強者の風格。圧。魔力を極力抑えてくれていると理解していて尚、気をやりそうになる。
そしてその言葉が決してまやかしでも誇張されたものでもないと理解する。
「さて、聖杯大戦を終わらせよう」
次回は……未定!(いつもの)
見せて!とちらっと令呪が宿っているのを見て絶望したマユ(柄は見てない)。
その後で見てくれ、と改造してカッコよくして見せるショウ。
やっぱり精神異常者じゃないか(確信)