魔法使い「聖杯を嫁にしたんだが冷た過ぎて辛い」 作:シフシフ
鬼滅の刃面白いね!(二の太刀)
※
八枚舌のダーニック。
ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアを少しでも知ろうと考え調べられたのなら、この名を知らない訳が無い。彼を表す代表的な2つ名である。
派閥抗争や権力闘争の場面において抜群の手腕を発揮し、裏切り寝返りは当たり前、信じる者は勿論信じていない者まで利用する超一流の詐欺師として知られているのだ。
そんな“八枚舌”は立派な八枚の舌を噛みちぎらんばかりの激情に駆られていた。
しかし、そんな愚行に及ばないのは一族の目があったため。理性を総動員して睨みつけるだけに留める。
彼は自らが召喚したランサーと共に僅かに高い所から広間へと集った面々を見下ろしていた。
そこには5人……いや、
そのうちの6人は令呪をその身に宿しているようだった。
ダーニックが睨み付ける先には、黒い髪に黒い瞳。アインツベルンの紋章が刻まれたローブを纏うその男。
60年も昔、ダーニックは男に対抗すべく叡智の英雄たるフィン・マックールを召喚するもあっさりと敗北していた。
そんな仇敵と言うべき存在は、この場にやってきた時点で攻撃され淘汰されるべきである筈だ。
だと、言うのに…………!
「おのれっ……!魔法使いが……!」
■
「さて、聖杯大戦を終わらせよう」
ショウがそう言って転移する。当然私もついて行く。
次に私達が訪れたのはトゥファリス……?だった。多分トゥファリスで合ってる。
……トゥリファス?
わ、わからん。
まぁとにかく、魔法使いはさっさと終わらせる気満々だ。
そうは問屋が卸さない。
邪魔してやるぞ。
「マユ、少し観光でもしよう」
…………あれ?
「す、すぐにおわらせるんじゃ……」
「……何を言っている?まだ聖杯大戦は始まってすらいないぞ」
「あ、そ、そっか」
じゃ、じゃあ、観光しよう、かな?
いやいやいや…………おかしい。
そもそもショウも令呪が宿ったならサーヴァント召喚すればいいじゃないか。
「ショウは、その、サーヴァントは……しょうかんしないのか?」
あ、こら。ロビン拗ねるな。
仕方ないだろう聖杯戦争なんだから。
「サーヴァントか……必要とは思えないが、マユが言うのなら召喚してみよう」
「う、うむ」
……もしやロビン。私はいま自分の首を絞めたか?
もしかして妨害が難しくなるんじゃ……
「では適当な場所へ転移する。ルーラ」
やってしまったかもしれない。どうか、ヘンテコなサーヴァントであってくれ!!
──少女転移中──
ショウと共に拠点、旅の祠へとやってきた。
そこには……なんか可愛いコウモリの模様のローブを着た変な人がいた。
ショウが言うにはハーゴンという神官らしい。
神……官?
まぁともかく、味方のようだし、うん。関わらない方がいいかな。なんかショウを信仰してる変な集団の頂点らしい。
その妻である私も信仰の対象なのだとか。視線が怖いぞやめろ。
話を戻そう。旅の祠へやってきたのはサーヴァント召喚の為だ。世界中と繋がっている旅の祠は大きな龍脈の上に建っている。
召喚する環境としては申し分ないし、“世界中と繋がっている”という旅の祠自体があらゆるサーヴァントを呼び寄せる為の呼び水になるのだとか。
ちなみに、この情報はあの英雄譚*1から得た知識だ。
ショウはそれを読んだからか、あるいは元から知っていてここにやって来たのだろう。
「マユ」
私が考え込んでいるとショウに呼ばれる。なんだ。と応えて振り向けば何やら考え込んでいる様子だ。……多分考え込んでいる。
「マユ、君はサーヴァントが見たいのか?」
「なに?」
「……サーヴァントを呼ぶ意義を聞いている」
お、チャンスだ!聞いたかロビン、召喚を止めさせることが出来そうだぞ!喜べ!
というかお前を召喚すればいいのでは?聞いてみるか。
「わたしはべつにサーヴァントとかみたくない」
「ほう」
「でもしょうかんするならあのアーチャーはどうだ?まえのせいはいせんそうでよんだだろう?」
「いや、不可能だな」
「や、やはりそうか」
そ、即答……まぁ確かにアンリマユをこの姿に押し込めるための楔として使われているのだ。ロビンを呼ぶのは無理か。呼んでも他のロビンフッドが来るだけだろうしな。
「ではサーヴァントは呼ばなくてもいいのか?」
「うむ、ひつようない」
「…………しかし、もしもという事もある」
「……え?」
もしも?何がもしもなんだ?魔法使いがサーヴァント如きに負けるわけが無いだろう?全盛期の大英雄ならまだしも、劣化した使い魔が勝てるはずが無い。
魔力だとか色んなものが制限されてしまうのだぞ?
「アサシンが危険だな。俺の感知や魔法をくぐり抜けるような輩が出てはマユが危険だ」
「ぇ」
お、おいロビン。これは不味いぞ。絶対に召喚するつもりだ!
何かと理由をつけて私の護衛にするつもりだ!
え?護衛ならいいじゃないかって?悪いわ!護衛に止められてショウの邪魔をできない未来が見える!
「……ならば先んじて手を打つか」
あー、はい。なるほどな(諦め)
「そ、そうだな、うん。それがいいとおもうぞ?うん」
頼む。男であってくれ。魅了持ちとか絶対にやめてくれよ!
「マユの護衛を頼む以上、女である事が好ましいな」
おい!ショウ!違うだろ!私よりもお前を優先してくれ!頼む!ロビンの嫉妬心が凄いの!やめて!
「……ふむ。ならば凝らずにアレでいいか」
あ、アレ?
もうダメだロビン。私にはショウの考えが読めないというか、読む気にもなれない。
ショウの中では既に完成しているのだろうが、その設計図を見せてくれないのでは話も出来ない。
「マユ」
「っ!な、なんだ」
「召喚は延期だ。予定通りしばらくの間は観光だ」
「そ、そうか!わかった」
もう深く考えなくても良いのでは?その方が楽な気がする。
いやしかし、ダメだな。考えを放棄してショウから与えられるだけの子供に成り果てるなど、この世全ての悪として譲れない一線なのだ。たぶん!
□
あぁ、天国だ。ここが理想郷なのだ。
みろ、隣を歩く俺の妻を。
見たことのない街並み、溢れるような人。それをずっと目で追って驚きや喜びを体全体で表している。しかも、それに本人が気が付いていない。
俺に見られていると言うことも忘れてはしゃいでいるのだ。
全く……可愛すぎるぜ。あまりはしゃぎ過ぎるなよ、と初めに言ったんだぞ俺は。迷子になったら困るからさ。
マユたんその時なんて言ったと思う?「ふふん。わたしはこどもではない!しんぱいはむようだ!」だぜ?
「わぁ……!ショウっショウみろ!あれ!ほら!」
「あぁ、あれはブラン城だ。昔は関所のような役割があった」
遠くに見える城と手元のパンフレットとを行ったり来たり顔を動かして、もう片方の手で握る俺の手を引っ張ったり揺らしたりしてくる。
ふふふ、鼻血がやべぇ。ホイミ。
「むっ、むむむ…………えぇい、ほかのかんこうきゃくがじゃまだ!」
「そうか」
「おおわっ!お、みえる!よくやったぞショウ!」
観光客が多いので見えなくなってしまったようだ。なので、俺は肩車をしてやる。決して、けっっして!太ももを両頬で感じたいとか、首や肩周辺でお尻の感触を楽しみたいとかそんなやましい気持ちが有る訳では無い。全く……重力呪文が忙しいぜ。
おおっと、ホイミも忘れるな。死ぬぞ。出血か興奮による心臓発作か……魔法使い史上最大の危機だ。
ふふふ、頭をペシペシ叩くなたたくな、萌える。
「なぁショウ!あのブランじょうははいれるのか!?」
「あぁ、まだ入る事が出来るはずだ」
「ショウははいったことあるのか?」
「昔な」
「おぉ、すごいなぁ」
うっ(心臓発作)
リザオラル。
ふぅ(蘇生)
おいおい……体がもたねぇぜ。会話ができるってこんなに幸せなのね。
体が軽い……こんな気持ちで観光するの初めて……!!
「あー……でもたくさんならびそう」
「……退かすか?」
「っ!だめだめ!かわいそうだろ!」
「天使か?」
「へ?」
「だがそうだな。マユは偉いな」
「ふふん。とうぜんだ。…………てんし?」
「気にするな」
ふぅ、あと1週間と3日でとある魔術師がアサシンの召喚を行う。俺はそこに乗り込んでアサシンを貰うつもりでいる。
確か記憶ではなんか女の人がマスターにされるんだったか。その人を手厚く保護して記憶とかを消して元の生活に戻し、アサシンの権利を譲ってもらおう。
間違ってもまたアーチャーが出てきてしまうなんて事が無いようにな。
「うー……あとどれくらいまつの?」
「さぁ?なんなら俺が話し相手になろう」
「ほほう、あっそうだ!アレだショウ!あの、しりとりというのをやりたい!」
「いいだろう、受けて立つ」
「…………かてそうにない!」
…………あぁ、天国だ。もう戦争始まる前に皆殺しも有りだな。マユたんに怒られそうだからやらないけどさ。
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