魔法使い「聖杯を嫁にしたんだが冷た過ぎて辛い」   作:シフシフ

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前回のあらすじ!

魔法使い「家だ!なんにもないぞぅ!さぁ、まずはアインツベルンに洋服を貰いに行こう!」
嫁聖杯「家だ!……なんにもない!」
ホムンクルス「ひぃ!」
アハト「腰痛、腰痛……腰痛なんです……」
魔法使い「脅かしたろ!」

という訳で、初投稿となる3話です。


えー、そしてですね。皆様に重☆大な報告があります。
嫁視点を書いていたところ、筆が捗りすぎまして……アハトのところまで辿り着けませんでした。

まぁほら、初投稿ですから。仕方ありませんよね?それにほら、皆さんもおっさん共がひたすら誤る(誤字にあらず)ような展開なんかより、女の子が読みたいですもんね?

なので、生暖かい目で舐めるように文面を見渡し「プギャー、語彙力のなさ!こんなので勘違いとか、他の作者に謝れよ」とコメントしてください。

(注)コメ稼ぎではありません。

では、どうぞ。








魔法使い「嫁の視点が思いの他文字数あってアハトが居ねぇ」

 

 

「……なにもない」

 

 私が奴の家に入り初めに思った事はそれだった。

 質素、と言うには物が無さすぎた。玄関から見える光景は壁と床、そして天井のみ。

 仮にコレを家と言うのなら、犬小屋の方が相応しい。

 

「これから増やせばいい」

 

 私の呟きが聴こえたらしい。魔法使いがそう言う。これから増やすと言っても……その量は計り知れない。何せなんにも無いのだから。必要なものを揃えるだけでも結構な時間がかかるだろう。

 それに、私はハリボテに留まるつもりなど無いのだ。

 

「っ!……!」

 

 故に、抵抗する。拘束から解き放たれ、さっさと逃げ出そうと考えた。

 

「─────暴れるな」

 

 だからだろうか。頭上から降り注ぐ極寒の声。そして、バカみたいな量の魔力の隆起。まるでそこだけが別の重量に捕まったかのように空間が歪む。

 

 殺される、とそう思った。

 

「───バギ」

「!」

 

 詠唱と共に放たれる小さな竜巻。それが部屋を蹂躙し、埃の全てを外へと放った。

 おのれ、魔法使いめ。あの魔力は脅しだったか……。

 

「……降りるのでは無かったか?」

「っ!……うるさい」

 

 こ、こいつめ……!私の事を完全におちょくっているな?!少なくとも妻として現界させたのだ、多少は優しくしろ!

 フン!とそっぽを向きながら緩んだ拘束から素早く抜け出し───

 

「ひぅっ!…………」

 

 床の冷たさに悲鳴を上げた。

 な、情けない。しかし何故こんなにも冷たいのだ!あ、暖かな場所を探さなくては! 

 

 そう思った私は素早く周囲に目を走らせ、見つける。

 

「っ〜〜!」

 

 なんで、なんでお前しか居ないんだ魔法使い!早く服とか靴をよこせ!裸では限界がある!

 

 っ!こ、こいつ、両手を広げて……来いという事か?ふざけるなバカ者が。折角逃げ出したのに戻るわけないだろう!それも計算済みか!?

 

「いやだ。はやくふくをよこせ」

「断る」

「!?」

「……すまないが、君の大きさに合う服はない。使っていない俺のローブで我慢しろ」

 

 無表情で言うな。こいつ、私の事を()()として見ていないな?

 

「おぶっ?!」

 

 うぅ、ローブを投げてきただと?私は物か?……聖杯、だな。まさか……いや、そんなはずは無い。こいつが私がアンリマユだと気が付いていないはずがない。

 

 いう事を聞かない体に、不可思議な感情。

 明らかな封印だ。

 そうだ、そうだったのだ。こいつの考えがやっと一つ理解出来た。

 嫁にするなど、所詮表面的なものでしかない。

 

 真の目的は私の封印。汚染を除去し、聖杯戦争を正常に戻すための自己犠牲。

 聖杯制作に関わった者としての責務か!

 

「さて、足りないものは魔術協会に……と思ったが」

 

 ん?なんだ、何か魔力の反応が……まさか、敵か?確かに魔法使いの敵など山ほど居そうだしな。

 

 はっ!これはやつが逃げられないように私が押さえておけば死ぬかも知れない!

 いいぞ!やれ!殺せ!!

 

「……誰だ、出て来い。さもなくば相応の報いを受けることになるぞ?」

 

 っバレてるぞおい!くっ、しかし奴の目的が私の想像通りならば、私の事は必ずや守るはず。私が奴を押さえ込むことで名も知らない相手はやりやすくなるはず!

 

 ふっ、掴んでやったぞ魔法使い。その命をな!

 さて、出てくるのはなんだ?魔法使いを殺すべく創り出されたゴーレム、若しくは高名な魔術師殺しか?

 

「も、申し遅れました。わたくしは、アインツベルンより魔法使い様に贈られました、ホ、ホムンクルスでございます」

 

 ……ほむんくるす?

 

「要らん。帰れ」

 

 帰れ、役に立たん。ホムンクルス如きが勝てるわけなかろう。

 

「で、ですが……も、申し訳ありません。先の発言は取り消しいたします」

 

 何やらモジモジと言い訳をしようとするホムンクルスを睨みつける。私の努力を無駄にしたのだから当然の報いだ。私の視線に気がついたのか、ホムンクルスは酷く顔を青ざめさせた。ふふん、そうそう、そういう顔をしてくれなくてはな!

 

「では、わたくしはこれで……」

「待て、ホムンクルス、少しアインツベルンに用が出来た。来い」

 

 ふふふ、そう、アンリマユたる私を恐れる事は悪い事ではない。なぜなら!私はこの世全ての悪なのだから。むしろ恐れろ。嫁にするとか絶対に言うなよ。呪い殺すぞ。

 

「──」

 

 ぬわっ!?ま、眩しい!?

 

 ……え?

 

 な、何故だ。私はさっきまでハリボテに居たはず。いつの間にか豪邸に変わっている?

 まさか先程のは幻術……?

 

 っ!なんだ?とても暖かいぞ?

 

 ……ふむ、調べても特に異常はないか。魔術か?話を聞きそびれたな。

 

「案内を頼むぞ、ホムンクルス」

「は、はい」

 

 ……どうやらあの家が姿を変えたわけでは無さそうだ。癪だが聞けるやつは魔法使いしか居ない。仕方ないから尋ねるか。

 

「まほうつかい、ここは?」

 

 私は軽く、そう聞いた。だがすぐ様その問に後悔することになる。

 

「───アインツベルンの城だ」

 

 その顔は恐ろしい程に冷たかった。表情という表情を理性で殺し、無表情という仮面を被っているような、そんな無機質さを感じさせる顔。

 

「そうか、アインツベルンか……」

 

 確かに思い浮かべれば私は聖杯で、アインツベルンはそれの制作に関わった御三家の一つ。さらに言えば最も魔法使いと交流があったであろう場所。

 

 しかし、アインツベルンは()()()()()

 魔法使いを裏切ったのだ。

 反則に反則を重ねたルール無視。それを第3次聖杯戦争で起こしたのだから。

 

 魔法使いに対抗するために、アヴェンジャーとルーラーの召喚を行った。

 正確にはアインツベルンが選び出した優秀なマスターにアヴェンジャーを使役させ、その裏でアインツベルンがルーラーを使って暗躍した。

 

 ────この魔法使いが参加した聖杯戦争で。

 

 その結果何が起きたかなど、語る必要すら疑問に思うレベルだ。

 分霊のアンリマユは殺され、聖杯は汚染された。

 つまり、魔法使いはアインツベルンの尻拭いをしたのだ。

 自らを裏切ったアインツベルンの。

 

 つまるところ、この訪問は報復。もしくは罰を与えに来たのだろう。

 奴のあの表情がそう言っていた。

 

「……安心しろ、君は俺が守る」

「は?なにをいって」

 

 私が考え込んでいると、魔法使いが私の顔を覗き込んできた。思わず聞き返すも返答は

 

「そうだな……こうしよう」

「え?」

 

 ────魔法だった。

 

「──モシャス」

「!?」

 

 肉体の全てが書き換えられていくのを感じる。

 霊格すらもだ。

 魔力の質さえ変貌していく。

 

「これ、は……?」

 

 私は恐怖に慄いた。なぜやらなかったのかは不明だが、奴は私という存在を、アンリマユという存在を容易く()()()()()ということが出来てしまうと、理解してしまったから。

 

「一時的に外見を変えさせてもらった。これならば君が聖杯であると看破される事も無いだろう」

 

 外見だと?バカにしやがって。そのような子供騙しな言葉が通用すると思っていたのか。

 もはや肉体は別物だ。視点は随分と上に上がり、体の肉は随分と増えた。

 

「─────チッ」

 

 私にはわかった。この体が奴の召喚したアーチャーであると。

 弱点を理解できる肉体に変えたのだろう。さらに言えばアーチャーの宝具もスキルも何も使えない。サーヴァントとしての側だけ、ステータスさえ無いへっぽこだ。

 

 魔法使いの警戒心の強さ、用意周到さに舌打ちが出る。

 だからだろうか、答え合わせが欲しかった。私の考えた事が全て嘘であり、全部が偶然の産物で、まぐれの出来事なのだと言って欲しかったのかも知れない。

 

「おい、魔法使い。何故私をここに連れてきた?一体何の目的だ」

 

 しかし、かえってきたのは無言の()()。私の目を真っ直ぐと見て。

 まるで、心の中を覗かれたような気分だった。そしてそれは間違っていないのだろう。

 

「…………そうか」

 

 なんて言うことだ、つまり、私は逃げる事が叶わないということか。

 少なくとも、なんの力もない状態で魔法使いを殺さなければ私は自由にはなれないのだ。

 

「……何か用か、魔法使い」

「特に要件は無い」

「では何故私を見ている」

「いや───俺も女々しいと思ってな」

 

 内側から歓喜が湧き上がる。

 忌々しい限りだ。そして、理解した。こいつの私への封印は二重では無い。三重だったのだと。

 

 此奴は自らのパートナーであったアーチャー、ロビンフッドまでを楔に使用したのだ。

 つまり、この感情は聖杯でもなく、私でもなくロビンフッドの物。

 

 奴らの会話を思い出す。

 

 ──落ち着け、アーチャー。……本来ならば君の願いを叶えるつもりだった。

 

 あの時、魔法使いはそういった。この言葉の意味を私は理解できる。ロビンフッドは恐らく分かっていないのだろう。

 

 ロビンフッド、アーチャーの願いは「幸せな家庭を築く事」だった。

 生前は戦いに明け暮れ、名も、顔も知れることなく死んでいった彼女はたとえ平凡で無くとも幸せな家庭を望んだのだ。

 

 だがアーチャーは魔法使いと聖杯戦争を共に戦い抜いたことで自らの願いの小ささを恥じ、魔法使いにその願いを伝えなかった。

 

 ところが魔法使いはその願いを理解していたのだ。本人よりも正確に。

 あの時のセリフはプロポーズにほかならない。

 

 自らを慕い、恋慕を寄せ家庭を築きたいと望んだ少女の願いを叶えるつもりだった、とそう言ったのだから。

 だが、私……アンリマユが死亡し、聖杯を汚染した時点でその願いを叶えるわけには行かなくなったのだろう。

 

 だから、アーチャーが自覚すらしていなかった「褒められたい、報われたい」と言った願いを叶えようと、不器用にも褒めたのだろう。

 全ては自分が想い、自分を想った少女の為に。

 

 ……だからこそ、私にあのような恐ろしい気配をぶつけたのだ。

 

 奴は私を見ていない。

 奴が見ているのは私の中の……ロビンフッド。

 納得がいった。

 魔法使いの行動、言動の全てに。私に向けられる冷たい眼差しの意味に。

 

 私は物なのだ。入れ物なのだ。愛しいロビンフッドを犠牲にしなければならない程の厄介な獣を閉じ込めるためのケージ。

 やつにとって服を与えることすら煩わしい忌々しい器。

 

「ならば良い────元より、奴に許可など求めていない」

 

 立ち上る魔力に鳥肌が立つ。

 無表情とは裏腹の激流のような魔力。

 

 

 あぁ、そうだ。

 

 

 魔法使いの怒りは、きっと、誰よりも……

 

 

 

 

 

 

 

 ────私に向けられている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故、私は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寂しいと思っているのだろう。

 

 









嫁聖杯の願いは─────









──────必要とされたい。










ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤto be continued?

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