人助けしたら、なんかおとおさんになれた   作:虎神

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第3話

 

とりあえずあれだ。日本は、いつからこんな物騒な国になったんだ?

 

 

 

 

 

 

あれから無事日本に到着した俺は、持ち前の目付きの悪さで警察に何度か声をかけられながらも、父と母が愛してやまなかったこの国を堪能していた。

もともと、俺は日本で生まれた人間だ。ルーマニアの料理も確かに美味しいが、やはり日本の食があっているのだろう。夜の露店を見つければ、とりあえず買っていた。

 

そして、時刻は午後七時を回ったところ。

建物という建物に明かりが付き始め、まるでキラキラと光る宝石のように感じられた。

 

「けど、相変わらず人は多いな」

 

俺は思わずため息が出た。

というのも致し方ない。自分が現在住むトゥリファスは、そう人口が多い場所ではない。白のレンガでできた街並みは、旅人などにはよく受けるが、住んでる者からすれば味気がない。それに、無駄に道などが広いので、市場以外ではそうそう人は集まらないものだ。

 

 

まぁ、何が言いたいかというと、とにかく落ち着かなかった。

 

「今日はさっさと宿を見つけて、明日に備えるか」

 

確か、ここいらに父の知り合いがやっているホテルがあったはずだ。いきなりで悪いが、父の名を出せば融通が効くだろう。

そう思い、俺はそのホテルに向かおうとした時だった。

 

「────ん?」

 

職業柄、音に敏感になった俺は、かすかに聞こえたその音に反応した。周りを見るが、どうやら聞こえたのは俺のみらしい。

聞こえたのはこの先の路地裏。正直言って見て見ぬ振りをしたいところだが、気づいているのが自分のみの為、それも少ししにくい。できれば、面倒ごとではないように願おう。

そんな僅かな願いをしながら、俺は路地に足を踏み入れた。

 

 

流石はこの男、一級フラグ回収士である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うん、結論から言うと僕知ってた。メンドくさい事になるって。

 

「そこまでだ」

 

「ッ!?」

 

そう言って拳銃を向ける俺の目の前には、小さな血だまりの中、右足を抱えて蹲る男(その他2名)と、その前に立つ小さな拳銃を持った美女。どうやったか分からないが、黒いローブに早着替えした白髪の可愛らしい少女が、玩具のナイフらしきものをこちらに向け立っていた。

最近の玩具は凄いなぁと思いながらも、この状況を見るに、男はこの緑色の髪の美女に撃たれたんだろう。あっ、今ホルスターから抜く時間違って一発撃っちゃったけど、誰も怪我してないし問題ないよね!

 

「そこまでにしろ。さもなくば威嚇じゃすまない」

 

とりあえず威嚇という事にしておこう。

というかさっきから、あの美女さんが俺の事をジッと見つめてくるんだけど何かな?ま、まさか俺に気があるんじゃ────

 

「あら、物騒な物を持っているわね貴方。そんなもの、子供が持つものじゃないわよ?」

 

うん、僕知ってた(2回目)

そうだよね、見てたのこの拳銃だよね。そりゃ俺みたいな目付きの悪い奴に惚れるわけがないよね。あ、絶対今俺、目が死んでいってるわ。

と、とにかく法律的にアウトだから言っておいてやろう。

 

「それはこちらのセリフだ。それはアンタみたいな女性が持つものじゃない」

 

だが、その言葉を言った後、女はまたもジッと俺の方を見つめてきていた。

その間に俺は、無言で倒れる男とその他2名に、さっさと行けと首で合図を送る。それが通じ、すぐに男たちはこの場を立ち去る。

そういえばさっきからオモチャのナイフを構えたままのこの子、よく見ると凄く可愛いな。まぁ、母親がこれだけ美人なら、それも頷けるが。だがまぁ、あまり子供に銃を見せる訳にはいかないな。

俺はそう思うと、彼女達に向けていた拳銃を下ろした。

 

「...ふぅ、もう気はすんだだろう?次はもう少しマシな場所で撃て」

 

まぁ、場所を考えても撃っていい訳じゃないが。

 

「貴方が邪魔しなかったら、もう少し気が済んだのだけどね」

 

「子供がいるんだ。あまり血を見せるべきじゃない。アンタも親なら分かれ」

 

「あら、貴方にはこの子と私が親子に見えるのかしら?」

 

────え?違うの?

もうそこまで出かけた言葉を飲み込み、俺は二人を少し観察する。確かに、言われてみれば良くは似てない。髪の色も違う。

だけどなんだろう、その体のそこから滲み出る蠱惑魔じみた雰囲気が似てる、というかうんほんとマジでどちらもいいと思いますはい。

 

「見た目が似ているから親子じゃない。その子と、親がどれだけ愛し合っているかで、家族は決まる。血の繋がりが全てじゃない」

 

願わくば、その子が貴方みたいな美人になることを心のそこから願います。

そう願い、ジッと白髪の少女を見つめていると、急にその美女がその子の頭を撫で始めた。

 

「おかあさん?どうしたの?」

 

「ッ!!い、いえ。なんでもないわ。驚かせてごめんね?」

 

「ううん!おかあさんが頭をなでてくれたら、わたしたちは嬉しいよ!」

 

 

 

────天使はここにいたか。

 

はっ!?危ない危ない。もう少しで開いてはいけない"ロで始まりンで終わる扉"を開けるところだった。

だが、それほどまでに愛らしいその子の笑顔を見て、俺は昔のニアを思い出した。

ニアもこの子と同じ白髪の少女だ。昔はよく一緒に遊んで、夜とかも怖くなったら『燐お兄ちゃん、一緒に寝て?』とか言いにきたのに、今はどうだ。

 

 

『起きてください。...起きなさい。────起きろ』

 

『働いてください穀潰し』

 

『主人はやれば出来る子です。では、この仕事をどうぞ』(数センチの束)

 

『主人、庭の手入れをお願いします。私は少し眠るので』

 

『お腹が空いた?それでは、冷蔵庫の横に置いてあります。勝手に食べてください。え?インスタントなのかと?それが何か?』

 

 

...あれ?俺ってアイツの主人だよね?俺の精神主に壊してるのアイツのような気がしてならないのだが。

そんな悲しき事を思い出すと、この仲睦まじい目の前の親子が羨ましく思える。帰ったら少しあいつに甘えてみるのも悪くな────いや、やっぱりやめておこう。あとが怖い。

 

「貴方、もしかして────」

 

その時、俺の視線に気づいたのか、その美女はそう言い言葉を切る。。おそらく、"貴方、もしかして撫でたいの?"と聞いてきたのだろう。

もちろん撫でたいが、それはあまりに変態チック過ぎる。ここはさりげなく言おう。

 

「...まぁな。アンタを見てると羨ましいよ」

 

本当に、本っっっっっ当に!!羨ましい。俺、今目から血の涙とか出てないよな?

するとその美女は少し暗い顔をして、「...ごめんなさいね」と、少し間を空けて謝ってきた。おそらく少しは考えてくれたのだろう。なんて優しいお人なんだ!!銃持ってて怖いけど。

 

「何を謝る必要がある。気にしてない」

 

嘘です。超気にしてます。今すぐにでもその子をお持ち帰りしたいくらいには気にして、気に入ってます。

だが、あまりに気持ちよさそうに撫でられるその子を見て、これ以上ここにいても心の傷を負うだけだと考えた俺は、早急にここを立ち去ることにした。

 

「さて、俺はそろそろ行くとしよう。次はもう少しマシな出会い方を期待している」

 

「え、あ────」

 

え、なに?まさか考えてる事バレた?他国で警察沙汰とか、本当に洒落になんないから。

その後、無事彼女達のもとから逃げられ、もとい立ち去れた俺は、夜の街を一人で歩いていた。目指すは今日の宿である、死んだ父の知り合いが運営するホテルだ。

時刻は既に午後八時をまわったところ。そろそろ向かってもいいだろうな。

 

だが、俺はのちに後悔する。

もしここで何処かに立ち寄れば、もしここで信号に捕まれば、もしここでトイレに行きたくっていればと────

 

 

 

 

 

「は?」

 

「ひぃ!?も、申し訳ありません!!本当に、本当に申し訳ありません」

 

「い、いや、アンタは何も悪くない。だからそんなに涙を浮かべるな」

 

「すいませんすいませんすいませんすいませんすいません!!どうか家族だけは!!」

 

「何故そうなった?」

 

ホテルにある、大きなホールのど真ん中。俺は今、無数の視線の中、ただひたすらに涙目の女性に謝られていた。

なんと、父の知り合いは一年前に転勤しており、現在は全く違うところで働いているらしく、それならと普通に部屋を取ろうとしたのだが、なんとたった今満員になったのだという。

 

「頭を上げてくれ。もう今日は空きそうにないのか?」

 

「は、はい。残念ながら」

 

ふむ、この時期の夜に街で野宿────うん、死ぬな。クッソ、誰だ俺の部屋を取ったやつは!!(違います)

そう少しイライラしながら、たった今横で部屋を取ったであろう人物に、俺は眼を向けた。

どうやら子供連れのようだ。綺麗な薄緑色の長い髪に、体のラインがよく出る服装の女性。子供は綺麗な白髪の少女で、ピンク色の可愛らしいワンピースがよく似合っていた。

 

って、あれ?この二人何処かで見覚えが...。

 

「あら?貴方はさっきの───」

 

「あ!おとおさんだ!!」

 

『!!?』

 

少女のその大きな声が、ホール全体に響いた。

ほぉう、なるほど。どうやらこの美人妻と美少女の旦那兼お父様が来ているらしい。いったいどこのどいつだと、俺は背後を振り返る。

だが、そこにいるのはママさん団体だけ。もう一度少女の方を見ると、その視線はジッと俺の方を────

 

────俺?なんで?

 

 

「ちょっと、今の見た?今自分の子を無視しようとしたわよ」

 

「ええ。それに見て、そのスッとぼけた怖い顔」

 

「絶対浮気相手と来てたわよねアレ。だってあんな剣幕で案内さんを睨みつけて」

 

「奥さんもあんなに綺麗な方なのに。浮気だなんて。これだから男は」

 

 

...どうやら俺の知らんところで、俺が浮気をして、それがバレそうになり自分の子供を無視したことになっていた。

いやちょっと待って?ほんとちょっと待って!?おとおさん?俺が?今にも人を目で殺せそうなほど睨んでくるあの警備員じゃなくて?俺まだ童貞だよね!!?

頭が理解出来ない状況に陥り、少しショートしていると、その白髪の少女がトタトタとコッチに来て、"だいじょうぶおとおさん?"などと心配してきた。それにより、さらに大きくなるヒソヒソ話。

先ほど恐怖の眼でこちらを見ていた担当の女性は、もはやゴミを見るような眼でこちらを見ていた。

 

「...ねぇ、ごめんなさい。さっき二人と言ったのを取り消して、三人にしてくれるかしら?もちろん、そこの人を入れて」

 

「は?」

 

するといきなり、何かを考えていたようだったその美女が急に、そのような事をカウンターの女性に言い出した。

 

「はい。分かりました。どうぞこちら501号室の鍵です」

 

「いやちょっと待────」

 

「ええ、ありがとう。ジャック、行きましょう。────もちろん、あ・な・た・も・よ?」

 

「────はい」

 

無数の視線。無数の陰口。少数の小さな罵倒に歓迎されながら、俺はまさしく、尻に敷かれた旦那の如く、そのジャックと呼ばれた少女と手を繋ぎながら、部屋に向かって廊下を歩いていくのだった。

 

 

 

 

あと、いく途中、先ほどチラッと見たママさん団体から、目の前の美女が応援されていたのを、俺は見なかった事にしたかった。

 

 

 

 

 

とりあえず、もう一度言おう。

日本はいつから、こんな物騒な(言葉と人数のみで、人を征する事が出来る)国になったんだ?

え?言ってる事が違う?聞くんじゃない。感じるんだ。

 

 


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