妖精の軌跡first【完結】   作:LINDBERG

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初投稿です。最近になってようやく軌跡シリーズをプレイし始め、フィーが余りにもカッコ良かったので、もっとサイドストーリーを楽しみたいな、と思い自分で考えてみました。
楽しんで頂ければ幸いです。


子猫は知らぬ間に主人に噛みつく

帝都近郊都市トリスタ

 

ここはトールズ士官学院 第3学生寮の一室。

三階建てレンガ造りの建物は、どことなく趣があり街道に程近い街外れに建っていた。

10人以上が生活出来る建物だが、今は銀髪の少女が一人居るだけだ。

彼女の名前はフィー・クラウゼル

数日前から、とある事情でここに厄介になっていた。

 

少女は眠っていた、まるで子猫を思わせるような可愛らしい寝姿である。

時刻は昼を過ぎた辺りか。しかし昼寝という訳では無い、昨日の夜から寝続けているのだ。

……ちなみに昨夜の就寝時間は21時前だった。

 

そこに、廊下を歩く足音が近付く。

足音の主はサラ・バレスタイン。フィーをここへ連れて来た張本人だ。

 

コンコン

 

軽いノックの後、サラは声を掛けながら扉を開けた

「フィー、居る?入るわよ……、って、何でまだ寝てんのよアンタは!しかも、朝見た時と同じ格好だし!」

サラは呆れながらもベッドに近付くと、フィーの布団を引き剥がした

「……ん、……んん?……何だサラか。……おはよ」

「おはよう、って時間じゃないし!そもそも朝出掛ける時に声掛けた時も、一応返事してたでしょうが!?」

「……そだっけ?……で、何?」

「……はぁ、アンタねー、する事無いからって、寝てて良いって事にはなんないのよ?来週から学院に入学するんだから、少しはシャキッとしなさい!シャキッと!」

「……サラ、何か言い方がオバサンくさいよ?」

「なっ!オバっ!!」

 

瞬間サラのこめかみに青筋が立ち、紫の闘気が吹き出しそうになる。うら若いとまではいかなくとも、25歳の女性にオバサンは禁句だ。

 

「……アンタには、一度タップリと解らせてあげなきゃならないみたいね……。表に出なさい!今すぐ!!……って言ってる側から、布団に潜り込もうとするんじゃない!!」

 

サラが剥ぎ取った布団をもう一度掛け直すフィー、そうはさせまいと布団を引っ張るサラ。

 

「いい若い者が、昼間っから寝てばっかりいるんじゃない!」

「省エネモードは寝るのが一番。っていうか、いい若い者って、やっぱりオバ……」

「2度も言わんで良い!!」

サラのこめかみに再び青筋が立つ

「いいから起きなさい!!」

「ん、後3時間……」

「単位がデカイ!!」

 

そのまま暫く二人で布団を引っ張り合う。そのうちに流石のフィーも眠気が無くなったのか、渋々ベッドから降りた。

 

「んー、しつこいなサラは……」

「これでもアンタの担任教官になるんだからね、これからはアタシの言う事は、問答無用で聞いてもらうわよ!」

「ハイハイ、……でも、サラが士官学院の先生ってのが今だに信じられないんだけど?」

「それに関しては何回も話したでしょ!……それに、アンタをあのままにしておく訳にもいかなかったし。……っていうかご飯とベッドがある所なら、どこでも良かったんでしょうけど?」

「んー……、否定はしない」

「そこはしなさいよ!……まぁ恩を感じる必要も、売る気もないんだけどね……」

 

 

数日前、二人は戦場で出会っていた。

 

戦闘自体は既に終わりを告げ、硝煙と火薬の匂いが未だ燻るなか。所属する猟兵団に置いてきぼりをくらい、たった一人で立ち尽くすフィーを、サラが半ば無理矢理連れて来たのがトールズ士官学院。サラが教官を勤めている学院だった。

幼い頃から戦場で過ごしていたため、一般的な常識や教養が欠如しているフィーを学院に連れ帰り、人間的に成長させようと考えたのだった。

規定の年齢に達していない事に関しては、学院長に頼み込んで何とかしてもらった、というかその辺に関して学院は妙に理解があった。

 

入学式までの数日間、とりあえず学生寮で過ごさせているのだが、当のフィーは基本的にベッドから動こうとはしない。

 

「はぁ、こんな事言いたく無いんだけど……、少しは予習とかしときなさいよ。学院の資料とか教科書とか、先に渡してあるんだから。少しも読んだ跡が無いじゃないの」

横目で、机の上に重なったままの数札の本をチラリと見ながらサラが言う。

「ん、読んだよ。……少し」

少しというのは表紙と目次の事だ。

「まったく……、ホントはアタシが勉強教えようって思ってたんだけど。教頭から雑用押し付けられちゃって、暫く時間取れそうにないのよ……」

「勉強って……、何教えてくれるの?」

「あのねー、これでも一応教官なのよ。導力学の基礎と、帝国史の流れ、基本的な戦術規範位なら教えられるわよ」

「……射撃訓練だけじゃ無いんだ?」

「そんな訳ないでしょ!」

「ぶっちゃけ、実技以外は教わりたく無いなぁ……」

「……アンタねぇ」

サラがため息を吐き出しながらも、胸の中に怒りを留める。

 

「はぁ、アタシはそろそろ学院に戻るけど、部屋の片付け位はしておきなさいよ」

部屋の入り口には、荷ほどきされていない箱が雑多に置かれていた。

「……っていうか、そこの箱、何入ってるのよ?」

サラが部屋の隅に積まれたままの木箱を指差しながら聞く。先程から若干の火薬臭が鼻を突いていた。

「ん、……乙女の秘密」

「……くれぐれも寮を爆破しないように」

「らじゃ」

「はぁ……」

今日、何度目かのため息を残すと、サラは部屋を後にした。

 

 

 

「……めんどくさいなぁ」

ブツブツと一人ごちながらもフィーは部屋の片付けを初めた、基本的に言われればやる性格だ。

しかし、装備品一式が入った木箱に手を掛けたところでその動きはピタリと止まった。

 

衣類はこっちの箱にまとまってるし、火器はこっちの箱に入ってる。取り出すとぐちゃぐちゃになっちゃうからこのままでいいか。

 

木箱から手を離し室内を見回す。

 

日用品は使いやすいトコに置いてあるし、机の上は学院の道具しか出してない。スニーカーは棚に飾ってある。なんだ、片付けるものなんて無いじゃん。

 

他人から見れば散らかっているが、自分流に使い勝手よく整頓されているのだと一人で納得し、ものの10秒で作業を打ち切った。

 

 

 

さて、これからどうしよう?

 

流石にもう一眠りというのは躊躇われる、散歩にでもいこうか?

 

「そういえばお腹すいたな」

無意識に手をやる。

 

何か食べに行こうかな?駅前のカフェでピザとか?

 

 

そこまで考えた所で、ふと思い立つ

 

何のかんので、サラには世話になってるし、お礼に夕食くらいは作ってごちそうしようかな?

自分の食事は遅くなるけど、…………まぁ良いか。

 

「うん、そうしよう」

フィーは部屋を出るとトリスタの町へ繰り出した。

 

 

 

 

町へ出てから思い出した、お金が無い。

 

猟兵団時代にため込んでいた全財産は、学院の入学金にほとんど消え、残りは帝都の銀行に預けてある。

寮住まいになってからは、サラの財布をアテにしていた為、持ち合わせが全く無い。

 

どうしよう?学院に行ってサラに借りようか?でも、せっかくだからビックリさせたいし………。

 

「うーん」

 

いっそのこと、その辺の民家で食べ物を分けてもらおうか?上手くすれば食材どころか調理済みの料理が手に入るかもしれないし。

 

そんな事を考えていると、町の中央を横切るアノール川が見えて来た。

 

そうだ、魚にしよう。自給自足ならタダだ。

 

フィーは川沿いの桟橋へと足を進めた。

 

 

 

さて、どうやって捕まえよう、釣竿はないし……。

 

川の中には10数匹の魚が群れで泳いでいる。竿がなくても網があれば、投網の要領で捕まえられそうだ。

 

部屋に帰れば、大きめのネットあったな

 

一旦寮に戻ろうかと思案するフィーの目にあるものが入った。

道端に落ちた、一本の長い木の枝だ。

フィーは腰元から愛用の双銃剣の一丁を取り出すと、枝を手際よく切り落とし、全体を整えていく。

 

こんなもんかな?

 

先端を鋭く尖らせ、その周りをザラザラにして返しを作り、持ち手の部分を自分の手に合わせて削り出し、余分な枝葉を切り落とすとそれは完成した。

手作りの銛である。

 

桟橋からお手製の銛を構え、川の中へ目をこらす。

先程まで眠たげだった瞳は鋭さを持ち、まるで猫科の獣のように集中力を高めていく。

 

足元には何匹かの魚が確認出来るが雑魚ばかりだ、どうせなら大物が欲しい。

 

 

 

待つこと数分。ふいに大きな魚影が視界に入る。

 

フィーは躊躇わずに銛を投下した。小さな身体全身のバネを使った目にも止まらぬ早業だ。

銛は水飛沫すら上げることなく、水中に吸い込まれていき、見事獲物に突き刺さった。即席の返しが付いているため逃げられる心配もない。

ゆっくりと銛を引き上げると、大きなグラトンバスが仕留められていた。食用には向かない魚だが、なかなかのサイズではある。

 

「ぶい、だね」

 

しかし、川魚に詳しく無いフィーは、釣果に満足し意気揚々と引き上げていった

 

 

 

 

 

魚だけじゃ物足りないかな?

 

一度寮のキッチンに帰り、獲物を置くとフィーは再び外へ出た。

 

野菜が欲しいなー。

 

今度は街道の方へ足を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

草むらに分け入ると、目についた食用(と勝手に思っている)の野草を数本引っこ抜いていく。

 

この位あれば良いかな?……ん?

 

その時、数アージュ先に生き物の気配を感じ取る。

見ると一匹の蛇がニョロニョロと動いていた。

 

……蛇肉って美味しいんだよね。

 

フィーは迷わず近寄ると、素早く蛇の尻尾を掴み、近くの石に頭から叩きつけた。

春先の陽気に誘われ、巣穴から出て来たばかりの蛇は、無惨にもあっという間に失神し、動かなくなる。

 

因みに毒のある種類だが、見た事が無い種類の蛇だったためかフィーは気付かない。……というか気にもしない。

 

ふふん、大量、大量!

 

左手に引き千切った雑草、右手に気絶した毒蛇を掴んだ少女は、満足気な顔で来た道をスキップで引き返して行った。

 

 

 

 

「レッツ、クッキング!」

気合いが乗ったフィーの掛け声が厨房に響き渡る

 

さて、どうしようか?

 

まな板の上には、川魚と野草と気絶した蛇が乗っていた。

 

焼き魚にしようかな?でも、せっかくだから少し手の込んだやつ作りたいし…。

 

そう言えぱ昔、猟兵団で一番の料理上手だったジミーが東方料理について話していたのを思い出す。

何でも向こうでは生の魚を食べるそうだが、とても美味だとの事だ。お酒にも良く合うらしく、晩酌のお供にもピッタリらしい。

 

やった事無いけど、お刺身作ってみようかな?

 

手際よく鱗を剥いだグラトンバスを三枚におろし、食べやすいサイズにカットしていく。フィーの調理技術はかなり高く、あっという間に捌いていった。

 

問題は料理知識の無さだ。

そもそも川魚自体、新鮮であっても生で食べるには勇気がいるが、特にグラトンバスは仮に火を通したとしても食べられる部分が少ない。一見すると肉厚の身に脂が乗っていて美味しそうには見えるが、食べても人間の胃腸では消化出来ないのだ。

 

川魚特有の生臭さもあるが、そこは下処理を丁寧にしたため、殆ど感じられなかった。

 

 

これで良いかな?

 

初めてとは思えない出来映えの活け作りが完成した。

 

因みにフィーはキッチンナイフは使わず、愛用の双銃剣を持ち込んで調理している。弾丸も入ったままだ。

暴発したら、その時はその時、と割りきっている。

 

 

野菜はどうしようかな。

 

何処にでも生えていそうな雑草を、あくまでも野菜としながらフィーは考える。

 

どうせなら東方料理で統一しよう。

 

火にかけた鍋に油を注ぎ、衣を着けた野草を手際よく投下していく。学生寮の厨房だけあって、調味料や粉類等は常備されていた。

 

数分後、カラッと揚がった見た目には美味しそうな天ぷらが完成した。

 

 

二品作り終えたフィーは、最後の食材と向き合っていた。

 

食べた事はあるけど、蛇ってどうすれば良いんだろ?

 

考えても始まらないので、取り敢えず頭を切り落として血抜きをする。

胴体だけの蛇が断末魔を上げることも出来ずに、まな板の上で激しくのたうつ。

 

「ハイハイ、暴れない」

 

胴の両端を双銃剣で突き刺して固定する。暫くすると蛇は動かなくなった。

頭を落とした時に毒袋を破ったらしく、一部が変色している。

 

蛇の毒は血管に入らなければ大丈夫とは言うが、口から入ったとしても体内の何処かが炎症でも起こしていたらアウトである。

 

何となく色が悪い所もあるけど……、火を通せば大丈夫だよね?

 

基本的に加熱さえすれば、全て問題無いと思っているフィー。

 

うーん……あっ、良いこと思い付いた!

 

皮を剥ぎ、身を開いて丁寧に骨切りしていく。ステーキソースにハチミツ、マスタード、各種調味料を混ぜた特製ソースをまんべんなく塗ると、フライパンで焦げ目が付くまで火を通す。一度フライパンから外し、再度ソースを塗って再び焼く。何度か繰り返すと色艶のある蒲焼きが出来上がった。

 

グラトンバスの活け作り、雑草の天ぷら、毒蛇の蒲焼きの三品が完成した。

 

見た目や匂いはどれも完璧だった。

 

 

サラ早く帰って来ないかな?

 

少しウキウキした気分で、テーブルセッティングをしながら、子猫は主人の帰りを待った。

 

 

 

 

「スゴいじゃないフィー!どうしたのよコレ?」

帰って来るなりサラは目を丸くしている

「ん、イヤ、別に。ちょっと料理でもしようかなって思っただけ」

午後の時間を、ほぼ食材調達と料理に費やしたのは内緒である。

 

「いやー、これは大したもんだわ。ちゃんとした東方のお店で出てくる料理みたいじゃない」

「それほどでも」

少し得意げな顔のフィー

「あー、でもどうしようかしら?帰りに夕飯買って来ちゃったのよね」

右手の紙袋を持ち上げるサラ。中身は二人分のサンドイッチだ。

「タイムセールで買ったから今日中に食べなきゃなんないし……、うーん」

「じゃあ、ワタシがサンドイッチ食べるから、サラはコッチ食べてよ」

「えっ、いいの?」

「サラに食べてもらう為に作ったんだから」

「嬉しい事言ってくれるじゃない!じゃあ、遠慮なくそうさせてもらうわね」

言いながら席に座るサラ。

 

いつの間にやら両手にビールと果実酒のボトルが握られている。

 

早業……さすが、紫電のバレスタイン……。

 

あえて口にはしないが、感心するフィー。

 

「ん、どうかした?」

「んん、何でも無い。それより温かいうちに食べなよ」

「そうね。じゃあ遠慮なく、いただきまーす!」

軽く手を合わせてから、取り敢えずビールをグラスに注ぎ一息に飲み干す。

「くぅー、沁みる!」

間髪入れず2杯目を注ぎ、それもイッキに飲む。

「ぷっはー!このために生きてる様なもんよね!」

何処かで聞いた様なセリフだが、酒飲みが語る内容など何処の世界でも一緒である。

 

空きっ腹にアルコールが吸収され、早くもほろ酔い加減のサラ。

 

「それじゃあ、お刺身からいってみましょうかねぇ」

グラトンバスに手を伸ばす。

 

「ん~、コリコリしてて美味し~い!」

ややクセのある地ビールを先に飲んだせいか、かすかに残る生臭さは気にならないらしい。獲物が新鮮なお陰で食感もバッチリだった。

 

続いて天ぷらを口にする。

 

「コレもサックサク!アンタやるじゃない!」

雑草の苦味が、良い具合にアクセントになっている様だ。

酒も更に進み、いつの間にか出してきた追加のビールも、あっという間に3本目を空にして、今は果実酒の蓋を開けている。

 

「蒲焼きも良い色!これは作るの時間掛かったんじゃない?」

「んー、少しね」

その間にフィーは二人前のサンドイッチをペロリと平らげ、今は自分で淹れたホットミルクを飲んでいた。

「いただきまーす!」

大口を開けて蒲焼きにかぶり付く。

「甘辛くて美味しい!このタレどうしたのよ?」

「ん、あり合わせで作ってみた」

 

通常時のサラならば、舌先の痺れにすぐさま気付くのだが、酔いと無駄に美味しい料理で今は望むべくもない。

しかも、自分の教え子になる少女の手作り料理である、多少の違和感など全く気にならないらしい。

 

三品ともよほど気に入ったらしく、見る間に料理が口へと運ばれていく。酒もさらに進む。

 

 

「んー、食べたー!ごちそう様でした!」

3皿ともキレイに完食し、両手を合わせる。

 

「アンタにこんな才能があったとはねぇ、団に居た頃からやってたの?」

「んー、料理は担当が決まってたから。殆ど無い」

「それでこれなら、そっちの道でもやってけるかもね」

「どうかな?でも、誰かに食べてもらうのは殆ど初めてだし……、良くわかんない」

「えっ?だって、団に居た時も誰かに食べてもらってたんでしょ?」

「戦闘用のレーション何かは良く作ってたけど……、ちゃんとしたのは……、自分で食べる分だけかな?」

「そうなんだ……」

「でも久しぶりに料理するのは楽しかったし、また作っても良いかな?………そしたらサラ、……また食べてくれる?」

「勿論!いつでも大歓迎よ」

「うん、わかった」

そう言うとフィーは空いた皿を回収し、流しへと運んでいく。

 

ボトルに残った果実酒を、全てグラスに注ぎながらサラはその小さな後ろ姿を見ていた。

自分の為に一生懸命何かをしてくれた少女を頼もしく思い、同時に愛しくも思っていた。

「家族が居るって、こんな感じなのかしら?」

小さく呟きながらグラスの中身を飲み干す。

「ふふ、ワタシの柄じゃないか」

自嘲しながら、空のグラスを置く。

「ん?何か言った?」

皿を洗いながらフィーが振り返る。

「ううん、美味しかったなーって」

笑顔でサラが答える

「ふーん、ありがと」

ぶっきらぼうだが、口元を緩め礼するフィー。

皿を洗う音だけが室内に響いている。

 

二人だけの学生寮。

宵の時間はゆっくりと流れていった。

 

 

 

 

 

 

翌早朝

 

 

 

「ううう……」

 

サラのうめき声が室内に響く。

 

昨夜は自分の部屋に戻ってから、更にボトル1本を空にしてベッドに入った。しかし、夜更けに体調の急変で目を覚まし、それから一睡も出来ずにいる。

 

初めはただの飲み過ぎだと思った。たが、全身に及ぶ異常な発汗と寒気、痙攣と高熱。

風邪かとも思ったが、喉の腫れや咳は無い。

おまけにひどい下痢で、何度もトイレを往復し、身体中の水分が体外に排出されていく。

 

自分の経験として一番近いのは毒の状態異常か?

だが昨日魔獣と戦った記憶は全く無い。

 

とすると…………、………まさか一服盛られた?

……何で?誰に?何処で?

その時、サラは昨日の職員室を思い出した。

 

入学式用の書類を纏めている時にコーヒーを飲んだのだが、その時向かいに座る教頭と目が合った。(かもしれない)

あの時の教頭の目……。あれは…獲物が罠に掛かったのをほくそ笑む猟師の目だった!(……気がする)

恐らく、いつも陰で悪口ばかり言ってるのがバレたのだろう。

 

 

まさか……、自分愛用のマグカップに何か毒物を?

 

「……あの髭オヤジぃ、…………よくもぉ、……よくもやってくれたわね!!?」

体調のせいか、とんでもない妄想を膨らませる。

 

こういう時に限って装備品一式、学院の専用ロッカーに入れっぱなしだ。アイテムもオーブメントも手元に無い。

 

「……ぐぅ」

唸り声を上げなから立ち上がると自室を後にし、学院へと向かう。

 

ひどい吐き気だが我慢する。今吐くのは昨夜料理を作ってくれた、フィーに対する冒涜のような気がした。

 

「……見てなさいよぉ、……絶対に……、……地獄を見せてやるわ!!!」

 

代わりに呪いの言葉を吐き出しながら、紫電のバレスタインは学院までの短くも果てしない道を歩き出した。

 

 

 

 

 

 

その頃、フィーはベッドの中で眠っていた。

 

暖かい布団と、雨露に濡れない自分だけの部屋。急な襲撃を警戒する必要もなく、無防備でいられる安らぎと安堵感。

そして自分を誉めてくる新しい飼い主。

 

子猫は幸せであった。

 

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