妖精の軌跡first【完結】   作:LINDBERG

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子猫は時に意外な力を出す

王立闘技場グランアリーナ

闘技場控え室。

 

数多の戦士達がここで覚悟を決め、試合に挑んだ事だろう。

また、数多の戦士達がここで恐怖を押し殺し、勇気を振り絞って闘いに赴いた事だろう。

 

ある意味この場所は、闘技場で最も神聖な場所と言えるのかも知れない。

 

 

 

そんな場所に初めて来たフィーとサラは揉めていた。

 

「なんでワタシまで!?」

「だってあの状況で、アタシ達だけ貴賓席で高みの見物なんて、許されるはず無いでしょうが!!」

「んじゃ、一般席に移れば良かったじゃん!」

「あっちの席は、チケットが無いと入れてくれないの。私達は皇子達と一緒に、タダで入って来ちゃったじゃない」

「なら、一回外に出てチケット買えば……」

「本日のチケットは、完全ソールドアウト、外に出たらもう戻って来れないわ」

「じゃあ……」

「もう諦めなさい。良いじゃないの、カシウス・ブライトと一勝負出来るなんて、そうそうある事じゃ無いわよ?」

 

サラは何故か楽しそうだ、あの化物オヤジとヤり合うのが嬉しいらしい。

 

「サラはあの准将の事、知ってるの?」

「ん?まぁ、遊撃士の時にちょっとね……」

 

そう言えば、カシウス・ブライトも少し前まで遊撃士だったハズだ。帝国内の遊撃士支部が襲われた事件に関わっていたとか聞いた事がある。

その時に繋がりがあったのかな。

 

ん?という事は?……。

 

「そうか……、残念だったね……」

「?……、何が残念なのよ?」

「サラ……、どうせ准将にフラれたんでしょ?」

「んな!?何言い出してんのよアンタは!?!?」

「だってどう見てもサラ好みのオヤジじゃん。言い寄ってフラれたお礼参りに、一発お見舞いしてやろうって腹積もりなんじゃ無いの?」

「ん、んな訳無いでしょうが!!!」

 

無茶な理屈なのは承知しているが、何か言ってやらないと気が済まないフィーと、あながち的外れでも無い指摘に、動揺を悟られまいと憤るサラ。

 

そんな二人の様子を皇子は楽しそうに見つめ、ミュラーは苦笑いしながら見ていた。

 

 

 

 

「会場の皆様、お待たせ致しました」

アナウンスが流れる。

 

「おや、時間の様だ。ご婦人方、続きは闘技場内で頼むよ。ミュラー、二人のエスコートを頼む」

「承知した。さ、二人共、此方へ……」

 

ミュラーに促され、半ば無理矢理闘技場に連れて行かれるフィーとサラ。その間も二人の不毛な言い争いは止まらなかった。

 

 

 

「只今より、デュナン公爵閣下企画のスペシャルマッチを執り行います!!」

会場は興奮に包まれる。

 

 

 

「北、紅の組。王国軍、カシウス・ブライト准将!!」

 

先程の決勝戦と同じく、会場全体から惜しみ無い拍手が巻き起こる。

カシウスが棒を片手に姿を現した時には、やはり観客全員がスタンディングオベーションで出迎えた。

 

 

 

「続きまして、南、蒼の組。エレボニア帝国、オリヴァルト皇子以下4名のチーム!!」

 

疎らな拍手が起こる、帝国が今までしてきた事を考えれば当然か。ブーイングや罵声が無い辺りに、リベール国民の寛大さと礼儀正しさが伺える。

 

 

 

先頭の皇子が手を振って観衆に応えながら入場し、その後をフィーとサラ、最後にミュラーといった順で続く。

 

 

 

この段になっても、フィーとサラは揉めていた。

 

「サラは、酒癖と男癖が悪過ぎ」

「ちょっと待ちなさいよ!男癖って、いつアンタに男の事で迷惑掛けたって言うのよ!!」

「アタシじゃ無くても、何か思い当たるんでしょ?」

「そ、そ、そ、そんな事無いわよ!何言ってるの」

明らかな動揺を見せるサラ。

「大体サラは、いっつもその場のノリで物事決めてるでしょ?結果が良ければ取り敢えずOKって感じで」

「何言ってるのよ!アタシだって色々考えてるわよ!」

「特別実習の班分けだってリィンありきだし……、あれじゃリィンが可哀想だよ」

「何よ、随分リィンの肩持つじゃない!……あら?ふふふ、そうか、なるほどねー」

「……なっ!ち、違うからね!そういうんじゃないからね!!」

「照れない照れない!そっか、そう言えば、いつぞやは二人でホテルに行く様な仲だもんねー」

「だから!あれは違うって何回も言ったじゃん!!」

「良いのよ良いのよ、ふふふ……」

 

ふふふ、じゃねーよ!!!

 

 

 

「おほん、お二人共、整列して貰えるかな?」

ミュラーが後ろから小声で囁く、

「え?」

 

気が付くと、闘技場中心でカシウスと向かい合っていた。

気恥ずかしさに思わず小さくなるフィーとサラ。

 

 

 

闘技場の中央で向かい合う4人対1人。

 

「お久しぶりですな皇子、壮健そうで何より」

「准将、あなたの方こそお代わり無いようで。いつぞやの影の国以来かな?」

「ふふふ、その節は無礼を働き申し訳無い」

「いやいや、こちらこそ面倒事に巻き込んですまなかった。ん?巻き込まれたのは私も同じだったかな?」

 

「ミュラー少佐も代わり無いようで」

「はい、そこのお調子者に振り回される以外は、問題なく」

 

「久しぶりだな、紫電の」

「ご無沙汰しております、カシウス准将」

「帝都での一件……、私の力が及ばず、申し訳無い」

「いいえ、カシウスさんに来て頂けなかったら、ヘイムダルどころかエレボニアから遊撃士が撤退していた事でしょう。改めてお礼を」

「ふふふ、その割りにはA級にランクアップした途端に足を洗ったようだが?」

「私の方も色々ありまして……、詳しい話は後程にでも……」

「いやいや、女性の秘密を無理に聞くような野暮はしないさ……」

「カシウスさん……」

 

サラの顔にほんのり赤みが差す。

 

「ふむ?それで、こちらの可憐な淑女は?」

カシウスがフィーを見つめながら聞く。

「私の教え子です、ほら、挨拶」

「ども」

一言で済ますフィーと、顔がひきつるサラ。

 

「ふふふ、名前を教えては貰えないのかな?」

「女性の秘密を無理に聞くのは野暮だよ?」

名前くらい教えても構わないが、取り敢えず言ってみる。

「はははは、これは一本取られたかな?」

英雄相手に一歩も引かないフィーと、楽しそうに笑うカシウス。

そして苦笑いのサラと、なんとか笑いを堪える皇子とミュラー。

 

「それでは、宜しくお願いする、准将殿!」

「こちらこそ宜しく、皇子殿下!」

 

双方が一旦離れて開始の合図を待つ。

 

 

 

生で対峙した准将の印象は、抜け目無く調子が良いが、決して隙を見せない賢しいオヤジ。

何となく西風の団長を思い出した。

恐らく実力差以上にヤりにくい相手だろう。

 

対してこちらは……。

 

……

……

……あ。

 

そう言えばサラと言い合いしてたから、こっちの戦力確認してないや……。

 

サラは言わずもがな導力銃と剣、ミュラーはヴァンダール流の大剣だろう。

 

皇子は?

見ると、凝った装飾がなされた導力銃の動作チェックをしている。相当手慣れている様子だ。

更に戦術オーブメントを片手で構え、いつでも駆動出来る様に準備している。

 

そう言えば修羅場は潜ってるとか言ってたか。

……どういう皇子だ???

 

となるとワタシが陽動で動いて、前衛にミュラーとサラ、バックアップに皇子という感じか……。

 

サラとARCUSのリンクラインを繋ぐ、サラとは初めてのリンクだったが上手くいった。

目配せだけで、プランを共有し合う二人。

 

皇子もARCUSを持っているが、ここはお兄ちゃん同士に任せた方が良いだろう。

戦闘プランに関してもイチイチ説明する必要は無い、言わずもがなというヤツだ

 

 

 

後は……出たとこ勝負か。

 

深く息を吸い込み、双銃剣を取り出す。

 

さっきの試合を見る限り、准将は余裕を見せてどっしり構えて来る筈だ。相手の出方さえ予測出来れば、戦力差はいくらでも覆せる。

 

全神経を集中させていく。

 

 

 

「それでは……」

アナウンスが流れる。

 

体制を低くし、身構えるフィー。

 

 

 

「始め!!!」

 

フィーが風を巻いてカシウスに飛び掛かる。

サラがその真後ろに続き、フィーの影の様に動く。

 

サラの位置からは、フィーで隠れてカシウスは確認出来ないが、リンクを通してフィーからの情報が入る。

どっしり構えるカシウスをフィーのスピードで掻き回しながら、死角からサラが狙う位置取りだ。

 

 

 

しかし、二人の作戦は一瞬で崩れ去る。

カシウスが棒を構えたまま突っ込んで来た。

 

?!マジか、オイ!!!?

 

まさか、向こうから仕掛けて来るとは思って無かった。

 

急制御、急転換。

フィーが身を翻してそれを避ける。

サラも身体を捩ってカシウスの突進をかわす。

 

しかし、カシウスの狙いは最初から二人では無い。

二人の更に後ろ、大剣を構えるミュラーに強烈な一撃を打ち込む。

 

前の試合のシードとのぶつかり合いと、同じレベルの衝撃が辺りに拡がる。

砂埃で二人の姿が隠れる。

 

それを皇子がエアリアルを駆動させ、無理矢理吹き飛ばす。ミュラーも一緒に巻き込むが、そこは気にしないらしい。

 

烈風で砂埃が晴れると、カシウスとその一撃を受け止めたミュラーが姿を現す。

……二人共笑っている。

 

そのまま至近距離で、大剣と棒を打ち合う二人。見た事が無い位の高速乱打だ。しかも一撃一撃が、離れているフィーにまで届く程の衝撃波を生む。

 

そこにサラが加わる。自慢の雷撃を加えた破壊力抜群の一撃を見舞う。

だが死角からのそれに、カシウスはしっかり反応する。

 

帝国でも指折りの二人を同時に相手取り、その全てを受け止めるカシウス。

 

間隙を縫ってフィーが銃撃を撃ち込むが、目視すらせずに避けられる。

このレベルになると、立ち位置が解っていれば、どのタイミングでどういう弾丸が飛んで来るか、予測されてしまう。

 

……これって、ワタシが参戦する意味ある?

 

少し自信を無くすフィー。

 

皇子も銃撃とピンポイントで狙えるアーツで援護するが、同じ理由でかわされる。

 

 

化物オヤジめ……。

……もっと考えないとダメか。

 

フィーはカシウスとの間にサラが入る位置に移動し、意識を集中しながら好機を待つ。

 

カシウスがサラに向けて打突を放ち、サラはそれを紙一重で避ける。

カシウスが肉薄し、追撃を狙う。

 

しかし、サラが避けた瞬間に彼女の背後から、既に放っていたフィーの銃弾が飛んで来る。

 

瞬間、カシウスの顔色が変わり、僅かに体制を崩しながらそれを避ける。その一瞬の隙にミュラーが大剣の斬撃を見舞うが、器用に棒で受け流すカシウス。

 

そこにサラの追撃と、フィーの援護射撃が全く同時に二方向からカシウスを襲う。カシウスが更に体制を崩しながらも、何とか防御する。

 

これがARCUSのリンクをフル活用した攻撃だ。

味方をブラインドにしたカウンター、間合い速度の違う同時攻撃。

いかに連携を高めたとて、到底実現出来ない偶発的要素で起こり得る様な攻撃を、ARCUSのリンクがあれば狙ってやってのける。

 

リィン達Ⅶ組のメンバーとも、勿論リンクの力は使うが、ここまでの代物では無い。数多の戦場で培った経験と、天性のバトルセンスを持つサラとフィーの連携だからこそだ。

 

その後も、トリッキー過ぎるタイミングで、二人を援護するフィー。

ミュラーとはリンクしていないので、サラとだけのコンビネーションだが、カシウスの意識から外れたタイミングでの銃撃を仕掛け続ける。

 

 

 

カシウスが、棒を激しく回転させて爆風を生み、ミュラーとサラを弾き飛ばして一度距離を取った。

 

 

良し!

 

初めてカシウスが、嫌がっているところを見せた。攻撃が当たった訳では無いが、ペースは奪えそうだ。

 

しかし、こちらの前衛二人の消耗も激しい。

無理もない、戦車の砲弾にも等しい攻撃を至近距離からぶつけ合っていたのだ。

 

ワタシが時間を稼がないと。

 

何とかサラ達が回復する時間を作るべく、フィーが1人で仕掛ける。リンクを通してサラの不安気な感情が伝わるが、ここで相手まで休ませては、先程の攻勢の意味が無くなる。

 

 

 

カシウスが構える。

 

ワタシ相手なら、打ち合いながらでも一呼吸置けると踏んだか?

 

……嘗めないでよね、オッサン!

 

フィーが弾幕を張りながら接近する。

棒で軽く銃撃をいなし、再度構え直すカシウス。しかし、そこには既にフィーの姿は無い。

僅かな時間の隙にカシウスの背後に回り、双銃剣の連撃を仕掛けるフィー。

一瞬虚を突かれはしたが、難なくフィーの攻撃を捌くカシウス。

フィーは閃光手榴弾を炸裂させて一度距離を取り、更に速度を上げてカシウスの周りを旋回する。

 

 

 

以前から気付いていた、ワタシの技は対集団に特化しているため、一対一の戦闘には向か無い。これさえ当たれば何とかなるという技が無いのだ。

 

じゃあ、どうにもならないのか、と言うとそんな事も無い。ワタシにはスピードという武器がある。

 

自惚れている訳では無いが、ワタシ位のスピードで動けて、攻撃に連動出来る人間は猟兵団時代を探してもそうは居なかった。

 

……だからこそ、いつぞやのストレガーレディが欲しかったのだ。あれさえ履けば、Spd+25、Mov+15。更にオートで補助アーツが発動するから状態異常も体力切れも心配ない。

ワタシのストレガー、それを……。

 

……

……

……

……ワタシのストレガー!!!!

 

3ヶ月間心に秘めた乙女の怒りが頂点に達し、フィーのスピードが限界を超えて上昇する。

青白い闘気を纏い、残像を残しながらカシウスに迫る。

周りから見ると、まるでフィーが何人にも分裂したかの様な錯覚を覚える。

 

 

 

さすがのカシウス・ブライトもこれ程のスピードはそうそう目にした事が無い、驚きを隠せない様子でフィーに対して向かい合う。

 

と、同時にカシウスはその姿に何処か既視感めいたモノを感じていた。小さな体躯、両手に持った刃、自慢のスピードをフルに使った攻撃。

かつて自分の命を狙い、その後10年間を養子として共に過ごし、今は遊撃士として実の娘と二人何処かで活躍しているであろう青年の姿を。

 

そして、彼らは今、恋人同士という事らしい。

 

自分が帝国で一仕事終えて帰って来たら、以前の部下が起こしたクーデターが原因で半ば強制的に軍に復帰させられ、その後リベールの異変で忙殺されている間に義理の息子と実の娘が、ちゃっかりくっついていた。

 

周りの人は皆それを祝福し、いつの間にか公認の事実となっていた。

 

二人とも、父さんはな……。

 

父さんは……。

 

……

……

……

……父さんは、全部許した訳じゃ無いからな!!!!

 

カシウスの身体から凄まじいオーラが立ち上る、それは父親と軍のトップという板挟みが生み出した、1人の英雄のやり場の無い哀しみが具現化した力だった。

 

オーラは鳳凰の姿を形作り、カシウスを包み込んだ。

 

「あああああ!!!!」

「オオオオオ!!!!」

 

獣の様な咆哮と共に、やり場の無い溜まりに溜まった怒りと、胸に仕舞い込むしかない哀しみを、全力でぶつけ合う二人。

 

グランセルの街にまで届くような衝撃が、アリーナ全体に拡がる。

衝撃に耐えきれず、闘技場の外周がメキメキと音を立てひび割れていく。

観客が身を低くして衝撃に耐える。

 

人智を越える程の衝撃が、会場を包み込んだ。

 

 

 

 

 

「フィー!!」

サラの絶叫が響き渡る。

 

自分とフィーを繋ぐリンクラインが途切れた。

まさかとは思うが……。

 

やがて、砂埃が晴れ、フィーとカシウスが姿を現す。

 

カシウスは棒を構えて立ち、フィーは片膝をついて息を切らせていた。

どうやらどちらも無事らしい。

 

ほっと胸を撫で下ろすサラ。

 

まったく……、ムチャしちゃって……。

 

 

 

 

はぁ、はぁ、はぁ……。

ヤバい、身体が動かない、ちょっとガンバり過ぎた……。

 

よく覚えてないが、自分でも信じられない位の力が出た、またしても制服はボロボロだ。

 

正面には、カシウスが構えを崩さずに立ちはだかる。

髪型が乱れ、軍服にほつれも見えるが、ほぼ無傷の様だ。

だが今回はさすがに、乱れた髪型を直す余裕は無いらしい。

 

 

はぁ、はぁ、立たなきゃ……。

 

無理矢理に身体を持ち上げる。

足元がフラつくが何とか立てた。

双銃剣を持ち上げるが、力は全く入らない。

 

くっ、回復アイテムかアーツを……。

 

 

 

急に、何処からともなく薔薇の花が1輪飛んで来る。

 

「ふふふ、愛と真心を君達に!」

 

皇子が薔薇の花を撃ち抜いた。

花びらが散り、フィーに降りかかる。

……体力が回復した。

 

???何が起こった???

 

皇子の不可思議過ぎるクラフトで回復するフィー。

そこにサラとミュラーが加わり、3人で陣形を組む。

 

良し!まだまだこれからだ!

気合いを入れ直し、カシウスに向かって構える3人。

 

 

 

しかし、カシウスの方は闘気を収めていた。

 

「むう……、これまでかな?」

カシウスが構えを解く。

 

「えっ?」

「周りを見ると良い」

 

見ると、闘技場のあちこちが破壊され、観客も何人か待避してしまっている。

貴賓席を見ると公爵がひっくり返り、執事のフィリップが助け起こしている。

 

「……あれ?やっちゃった?」

「うむ……、やり過ぎた様だ」

フィーとカシウスは顔を見合わせて黙り込む。

 

アナウンス設備も壊れたらしく、試合終了のコールも掛からない。

先程迄の歓声が嘘の様に静まり返り、会場には何とも言えない空気が漂っていた。

 

「えーと、サラ、何とかして……」

「ア、アタシにどうにか出来る訳無いでしょ!」

「ミュラー少佐……」

「……自分は不器用なもので」

 

二人とも、頼りにならない。

 

どうしよ?

……コソッと抜け出してもバレないかな?

 

 

 

「ふふふ、どうやら私の出番の様だね?」

見ると、皇子が何処からともなくリュートを取り出して、鳴り響かせている。

 

「いつの時代も闘いの後には虚しさだけが残るモノさ……。そんな君達にこの曲を送ろう……。琥珀の愛」

 

……歌い出した。

 

 

 

「流れ行く星の軌跡は 道しるべ 君へ続く♪」

 

会場全体に乾いた空気が広がっていく。

 

「焦がれれば想い胸を裂き 苦しさを月が笑う♪」

 

この歌好き何だけどな……。

トラウマになりそう……。

 

「叶うことなどない はかない望みなら せめてひとつ傷を残そう♪」

 

「ここは皇子に任せて、我々は引き上げよう」

カシウスが冷静に言う。

 

「はじめての接吻 さよならの接吻♪」

 

「そうね、それがベストだわ」

サラが無感情に言う。

 

「君の涙を琥珀にして 永遠の愛閉じ込めよう♪」

 

「では、行くとするか」

ミュラーがいつもの事だというように言う。

 

皇子の琥珀の愛は2番に突入した。

会場の雰囲気は……、説明する迄も無い。

 

4人は全てを彼に任せ、闘技場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「申し訳ありません、カシウス准将!」

闘技場の外でサラが頭を下げる。

 

「いやいや、頭を上げてくれバレスタイン教官、やり過ぎたのはこちらの方だ。……それにしても」

チラリとフィーに目をやるカシウス。

「とんでもないヤンチャ娘を、受け持ってる様だな?」

「良く言うよ、化け物オヤジが……」

「ちょっ、フィー!」

「ははは、まぁそこは、お互い様かな?」

 

心底楽しそうに笑うカシウス。

彼にしても、普段のデスクワークを抜け出して、こんなに騒いだのは久しぶりの事だった。

 

幸い観客に怪我人は無く、闘技場の破壊された箇所もすぐに復旧可能な部分だけらしい。

一番被害があったのはおかっぱ公爵らしいが、少し休めば大丈夫と執事のフィリップが言っていた。

本人は夜の晩餐には顔を出すと言っているらしい。

 

 

 

「ふふふ、どうやら迎えが来たらしいな」

カシウスが笑顔を崩さずに王宮の方を向く。

 

見ると、軍服姿の女性がこちらに向かってきた。

女性はフィー達4人の前まで来ると、ビシッと敬礼して見せる。

 

「リベール王国王室親衛隊、ユリア・シュバルツであります。お迎えに上がりましたミュラー少佐」

 

凛とした切れ長の目、短く刈り込んだ短髪にベレー軍帽。男よりも同姓にモテそうな印象だ。

少し堅苦しさも感じるが、彼女の実直な人柄がそうさせるのだろう。

 

「ご無沙汰している、ユリア大尉」

ミュラーが今までに無いほど優しい顔で答える。とてもさっきまで、笑みを浮かべながらカシウスと打ち合っていた人物とは思えない。

 

 

 

「おっと、会議があるのを忘れていた。私はこの後レイストン要塞に戻るが……。ユリア大尉、後を宜しく頼む」

「はっ、了解致しました、准将」

 

「では諸君、申し訳無いがここで……」

簡単に後を託し、カシウスは空港に向かって歩き出す。

 

ミュラーとユリアは敬礼で見送り、サラは頭を下げて礼儀を示す。

 

と、カシウスが途中で振り返りフィーの方を見つめる。

「またいつでも遊びに来ると良い、シルフィード殿」

ニヤリと笑って、その場を後にした。

 

 

 

何だ、最初から知ってたんじゃん。

 

全く、喰えないオヤジだ。

 

 

 

「ふふふ、准将のあのように楽し気な姿は久しぶりに拝見する。どうやら有意義な時間を過ごされた様だ」

ユリアが笑顔でフィー達に向き直る。

 

「それでは、王宮にご案内致します」

「ああ、宜しく頼む」

 

ミュラーがユリアと並んで歩き出し、サラとフィーがそれに続く。

 

後ろから見ると、二人は軍の同僚という風にも見えるし、仲の良い友人の様にも見えるし、それ以上にも見える……。

 

「ねぇサラ……、あの二人って……」

「しー、言わぬが花ってヤツよ……」

フィーが驚いてサラを見つめる。

「サラ……、そんな気の回し方出来るんだ?」

「な、どういう意味よ!」

「ん、いや、別に」

「全く、一言多いんだから。……それにしてもアンタ、さっきのどうやったのよ?」

「?、さっきの?」

「闘技場でカシウスさんとぶつかり合った時よ。見た事無い動きだったじゃない?」

「んー?……良く解んない」

 

実際良く覚えていない。急に身体のリミッターが外れた様な感覚があったが、もう一度やれと言われたら怪しいモノだ。

 

「何だ、ただの火事場の馬鹿力か……。でも一度出来たんならまた出来る様になるわよ。良かったらアタシも協力するから」

「ん、さんくす」

 

そうだ、さっきのを自在に使いこなせる様になれば、きっと自分の力は飛躍的に高まる。

そうなったらきっと……。

……ま、今はいっか。

 

身体中のあちこちが痛い、筋肉繊維が何ヵ所か断裂しているらしい。さっき回復して貰わなかったら、あのまま動けなくなっていただろう。

……

……

……

あれ?回復?

……誰にして貰ったっけ?

 

 

 

ふと、何処からかリュートの音色が聞こえる。

 

「ふふふ、酷いじゃないか諸君。私を置いて先に行ってしまうとは……」

皇子が何処からともなく現れる。

 

あ、忘れてた……。

 

ミュラーが、先程迄の優しい表情が嘘の様に厳しい顔付きになる。

「ふん、あんな迷惑極まりないリサイタルに付き合ってられるか。アリシア女王とは俺が謁見してくるから、貴様はアリーナの改修でも手伝って来るが良い!」

「ははは、ミュラー君の照れ屋さん。本当は一時も私と離れたく無い癖に?」

「一時でも長く離れて居たいの間違いだろう?」

 

皇子がユリアの前に立つ。

 

「久しぶりだねユリア君」

「お久しぶりです、オリヴァルト皇子。……相変わらずの様ですが……」

「ふふふ、誉め言葉と受け取っておこう」

どこまでもハートが強い皇子だ。

 

「クローゼ君は、今日は居らっしゃるのかな?」

「姫様は本日ボースの視察に出ております。夜の晩餐までには戻られるとの事ですが……」

「では、積る話はその時にでも」

「……かしこまりました。では皆様、女王陛下の元へご案内致します」

「ああ、宜しく頼むよ」

 

一行は再びユリアのか先導の元歩き出す。

 

 

 

王宮に晩餐か……。

どっちも今までのワタシなら無縁のモノだ。

 

……そんなのより、今すぐベッドに潜り込みたいなぁ。

 

 

 

子猫は痛んだ身体にムチを打ちながら、後に従った。

 

 

 

 

 

 

 

晩餐会に続く。

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