妖精の軌跡first【完結】   作:LINDBERG

12 / 43
いつもの事ですが、今回もかなり強引な展開です。
あまり深く考えずに楽しんで下さい。


子猫は蜂が嫌い

「ねぇフィー、この後暇?」

授業終わりにミリアムが話し掛けて来る。

 

「ん?ちょっと部活行って来よっかなって思ってるけど……」

園芸部のフィーは、ずっと育てていたハーブが先日ようやく芽を出したので、最近は毎日花壇の様子を見に行っている。

もっとも、行かなくてもエーデル部長が見てくれるので、それ程心配は無いのだが。

 

「じゃあさ、その後ちょっと付き合ってよ?」

「いいけど……、何処か行くの?」

「うん、クレアがいっつもお世話になってるお礼に、ヘイムダルで甘いものご馳走してくれるってさ」

 

意外なところからのお誘いだ。

でも考えてみれば確かにいっつもお世話してる気がする。

人の好意はありがたく頂こう。

 

「うん、大丈夫だよ」

「りょーかい、それじゃあ他のみんなにも声掛けとくから、1時間後に駅前の公園でね」

「らじゃ」

 

甘いものか……、何だろう?

大量のヨダレを垂らしながらフィーは部活に向かった。

 

 

 

1時間後

公園にはⅦ組のメンバー全員が集まっていた。

 

「みんな集まってるね?それじゃあ、ヘイムダルに向けて、しゅっぱーつ!」

ミリアムの掛け声と共に駅へ向かう。丁度列車がホームに入って来た。

 

一向は列車に揺られ、ヘイムダルを目指す。

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん、今日は良くお越しくださいました」

マーテル公園に程近いスイーツ店。

クレア大尉が笑顔で一行を迎えてくれる。

 

赤いレンガ造りのその店は、ヘイムダルでも有名な菓子店だった。

店内にはテーブル席が3脚に、カウンター席が6席。

最大で20人程が座れるスペースがある。

 

女性陣、男性陣に別れて座る一同。

 

「お店のご厚意で、1時間貸し切りにしてもらいました、遠慮無く召し上がってください」

 

カウンターの上には、ホールサイズのケーキが7つと、大量の焼菓子やタルト、珈琲や紅茶が用意されている。

 

各々が好きなだけ皿にスイーツを取り分けて食べ始める。

 

「ん~、このチーズケーキおいしい!」

「本当ですね、フワフワなのに滑らかで、いくらでも食べられそうです」

「うむ、これは美味だな」

「うん、チーズの酸味とコクのバランスが絶妙。良い仕事してる」

「あはは、フィー評論家みたいだよ?」

 

女性陣は早くも1ホールを食べつくしそうだ。

 

「うん、美味いな、これ」

「僕、甘いもの好きだから、いくらでもいけるよ」

「ふふふ、ノルドの皆にも食べてもらいたいものだ」

「ユーシス、それは僕のタルトだぞ!」

「阿呆、早い者勝ちに決まっているだろう!」

「お前ら、こんな時までケンカすんな!」

 

男性陣も我先にと群がる。

その様子をクレアと店の主人は嬉しそうに見ていた。

 

「あら?フィーちゃん、何を飲んでるんですか?」

エマがフィーのカップを覗きこむ。

「ん?お手製カフェラテ」

珈琲に、ケーキに乗ったクリームを溶かしたフィー特製である。

「わー、ボクもやってみよう」

ミリアムも真似る。

「ちょっと貴女達、マナー違反よ!……美味しそうだけど……」

真似したいけど、お嬢様としてのプライドが邪魔するアリサ。

「ふふふ、良いじゃ無いか、そのくらい」

気になる事はすぐに試したくなるラウラは、すでに紅茶のお代わりに珈琲をスタンバっている。

 

「クレア大尉、そう言えばあの時の猫はどうなりました?」

「はい、あの後すぐに飼い主が見つかって、ちゃんと送り届け……、あら?」

その時、クレアのARCUSに通信が入る。

 

「はい、クレア・リーヴェルト」

……

……

……

「了解、すぐに向かいます」

ARCUSを閉じる。

 

「皆さん、急用が出来たのでこれで失礼します」

「どうしたの、クレア?」

「この近くで強盗事件が起こりました。支払いは済ませてあるので、皆さんはごゆっくりとしていって下さい」

店の主人に向き直る。

「マスター、後は宜しくお願いします」

「畏まりました」

 

「では皆さん、これで失礼します。ミリアムちゃんまたね」

そう言い残しクレアは去って行った。

 

 

「強盗か、最近多いみたいだな」

「帝国解放戦線が出てきてから、帝都の治安が悪くなってるみたいだね」

「先日のガレリア要塞の件も関係しているのだろうな」

リィン、エリオット、ガイウスが話し合う。

 

「そう言えば、こないだの父さんからの手紙に、今は帝都の方には近づくな、と書いてあったな……」

「お前、来てからその事を言ってどうする!?」

「マキアスの親父さんも大変だな、あの鉄血オヤジの相棒ってだけでもしんどそうなのによ」

マキアス、ユーシス、クロウが銘々に言う。

 

その様子を女子陣は、美味しい物食べてる時に無粋な話してんじゃねーよ、とばかりに睨んでいた。

 

 

 

「それじゃあ、手相占いでもしましょうか?」

エマが場の雰囲気を変えるために言い出した。

「委員長、占いなんか出来るんだ?」

「ええ、少しだけですけど」

「面白そうね、やってもらおうかしら?」

アリサが右手を開いて見せる。

「はい、アリサさん。何が知りたいですか?」

「そうね……、恋愛は……皆の前じゃちょっとね……、……って、こういうのって二人だけの時にするもんじゃないの?」

「まぁ、普通はそうですけど……」

「んー、……やっぱりいいわ、止めとく」

 

アリサが手を引っ込める。

「そうだ!こういうのは、男子の方が好きよね。やって貰いましょう?」

 

いや、占いって普通女子が好きなモノじゃ……。

 

「ねぇ、貴方達、占い好きよね?」

 

サッと目を伏せる男性陣、しかし運悪く女子の近くに座っていたリィンとクロウが捕まる。

「エマ、この二人お願い」

アリサがリィンとクロウの手を引っ張り、エマの前に差し出す。

 

「ちょっ、アリサ……」

「俺らに拒否権はねーのかよ!?」

「良いじゃない、減るもんじゃ無いし。さぁエマ、チャチャっと見てやって!」

 

エマが苦笑いしながらも二人の手を見る。

 

「えーっ……まずリィンさんですが。女難の相が強く出てますね、これは一生付きまとう程強い卦ですから気を付けて下さい」

「えーっと?委員長、それは具体的に何をどう気を付ければ良いんだ?」

「……続いてクロウさんですが、早死にの相が出てますね……。十分気を付けて下さい」

「マジかよ!?イヤだからそんなもん、どう気を付ければ良いんだよ!?」

 

ホントかな?

フィーも二人の手を覗きこむ。

 

……ん?

……

……

……ま、いっか。

 

 

 

その後スイーツを楽しみながら各々談笑する一同。

久しぶりにゆっくりとした時間を過ごす。

帝国解放戦線の事、今後の特別実習の事、学園祭の事、色々と先行き不安な事もあるが、この時ばかりはみんなリラックスしているようだ。

 

クレア大尉に感謝しないとな。

 

 

 

そこに、店の扉が開かれ、男達が入ってくる。

「あっ、すみません。表の貼り紙に書いてあった通り今は貸し切り……」

マスターが対応するが、途中で台詞が止まった。

 

「全員動くんじゃねぇ!!」

「両手を上げろ!」

「一言でも喋ってみろ!どうなるかわかってんだろうな!?」

銃を持った男3人が口々に叫ぶ。

 

キョトンと見つめるⅦ組メンバー。

 

……これは、もしやあれか?クレア大尉が言ってたヤツか?

……何て運の悪い連中だ。

 

 

 

「聞こえねーのか!手を上げろって言ってんだよ!」

「ふむ、……マスター、すまぬが少し荒らすぞ」

ラウラが自慢の大剣を取りだし、一足飛びに間合いを詰める。

次の瞬間には3人の男達はノビていた。

 

「……気の毒に、わざわざここに入って来るとは」

ラウラが哀れみを含んだ目で見つめる。

「ホントだな、逃げる場所なんて、幾らでもあっただろうに……」

リィンが同情する。

「まぁでも、自業自得とも言うんじゃないですか?」

エマが正論を口にする。

「まぁ、そうかもね……。ミリアム、クレア大尉に連絡してくれる?」

「はーい、えーっとちょっと待ってね」

「待て、その必要は無さそうだ」

ガイウスが窓の外を見ながらミリアムを制する。

見ると、憲兵隊の車輌が何台か近付いて来る。

 

「このまま、引き渡せば良かろう」

「ああ、クレア大尉も乗ってるかも知れないしな」

ユーシスとマキアスが騎士剣とショットガンを男達に突き付けながら言う。

 

 

 

「んん、ん?」

ノビていた男達の内、リーダー恪の男が目を開けた。

その目は、真っ直ぐにフィーを捉える。

 

「ししししし、シルフィード?!?!」

 

あれ?ワタシの事知ってるの?

 

「あれ?フィーの知り合いなの?」

「ん、えーっと、……ダレ?」

 

「何言ってんスか!俺ですよ俺!昔カチ合ったじゃないスか!?」

 

西風とカチ合った?何処かの猟兵か軍関係者か?

 

「ほら2年前、金持ちの警護をしてるシルフィード姉さんに、一発でKOされた俺ですって!」

 

……、イヤ、覚えてる訳ねーだろそんなの。

 

「イヤー、あの一撃は昨日の事の様に覚えてますよ!姉さんの銃のグリップが俺の脳天にズコーンって!」

 

何で嬉しそうに言ってんだ?って言うか、姉さんって呼ぶの止めて。

 

「ほら、見て下さいよ。傷跡がしっかり残ってますから!」

 

男が頭を突き出してフィーに見せようとする。

「おい、動くな!危ないぞ!」

ショットガンを構えたマキアスに頭が当たる。

 

咄嗟の事でよろめくマキアス、銃口が男から外れて窓の外に向かい、その瞬間引き金に力が入った。

 

銃弾は窓ガラスを粉砕し、外に到着した憲兵隊の車輌にヒットする。

 

「あ……」

と、全員が思った時には何もかも手遅れだった。

 

 

 

「撃ってきたぞ!総員、散開して戦闘形態を取れ!」

素早く車輌の陰に隠れ、Ⅶ組を包囲する憲兵隊。

 

 

「何をやってるんだこの阿呆!!」

「ち、違う!事故だ、事故!!」

 

その時、フィーが何かの気配を感じ取る。

「マキアス!伏せて!」

「え?」

 

言いながらフィーがマキアスにタックルを仕掛ける。

「んな?」

床に倒れ込む二人の頭上を、銃弾が通過する。

 

「スナイパーが居る!ブラインド下ろして!」

一番後方の車輌の裏からライフルを構える憲兵が見えた。

 

大急ぎで窓のブラインドを下ろすリィンとガイウス。

その間もスナイパーはこちらを狙って居る。

 

「ちぃ!しゃーねーか!」

クロウがハンドガンで牽制の威嚇射撃をする。

ブラインドが下ろされ、外界との視界を遮断した。

 

 

こうしてⅦ組の面々はスイーツ店に籠城する事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で憲兵隊を撃つんだ!?帝国解放戦線の回し者か、お前は!!」

「だから事故だって言ってるだろう!!そこの男が急に……」

「そもそも!入学式の時から思っていたが、何でショットガンを持っているんだ!?学生が使う武器じゃ無いだろうが!?ゾンビ狩りでもするつもりか!!」

「い、今更そんな事を言われてもだな……」

ユーシスとマキアスがいつも通り言い争う。

 

「す、スゲーや!さすが姉さんのお仲間だ!有無を言わさずぶっ放すなんて……」

「お前は黙っていろ!!!」「君は黙っていたまえ!!!」

二人がハモって怒鳴る。

 

……息ピッタリだね。

 

「すっかり囲まれたわね」

「うん、クロウの威嚇射撃が良く無かったみたい。向こうは完全にヤル気」

「あの場合しゃーねーだろ?撃ってきたのは向こうだぜ。まぁ、その前にこっちがぶっ放したんだけどよ……」

アリサ、フィー、クロウが外の様子を窺いながら言う。

 

「とにかく、武装解除して出て行くしか無いだろう?」

「うむ、そうだな、発砲に関しては誠心誠意謝罪するしかあるまい」

ガイウスとラウラが正論を口にする。

 

「ちょっと待って、……、うわ、ヤバいよ!」

「?、どうかしましたかミリアムちゃん?」

「あれズーラ隊長だ!」

「え?ズーラ隊長って確か……、うわ、ヤバいよ、それ!」

「?、誰だズーラって?」

 

ブラインドの隙間から覗き見ると、横分け頭にチョビヒゲでやたらと目付きの悪いオヤジがいる。

あれがズーラ隊長なのだろう。

 

「んーと、対凶悪犯専門の部隊長なんだけど、元々は何処かの猟兵みたいで、三度の飯よりも銃を撃つのが好きな人なんだって」

ミリアムが説明してくれる。

 

……、イヤ、それは猟兵じゃ無くてただのサイコパス。

 

「噂だけど、投降してきた犯人を蜂の巣にしたとかしないとか……」

エリオットが恐ろしい噂を口にする。

 

「とにかく、今は外に出ちゃダメだよ!」

「ミリアムなら説得出来るんじゃないか?」

「ううん、ボクは一応情報局の所属だから、全然面識は無いんだよねー」

「そうか……、じゃあ、やっぱりクレア大尉に連絡して貰えるか?彼女ならこの場を収めてくれるだろ?」

「うーん、それがさっきからARCUSで呼び出し掛けてるんだけど、全然繋がらないんだよ。建物の中にでも入ってるのかな?」

 

「トールズの制服着てるんだし、いきなり撃たれる事は無いんじゃないかしら?」

「いや、緑か白の制服ならともかく、Ⅶ組の赤い制服は帝都内ではそこまで認知されていない。表に出た途端に赤い制服が更に赤くなる可能性は捨て切れないぞ」

 

マズイ、状況が全く好転しない。

 

「うーん、ARCUSを持ってて他に誰か頼れそうな人は……」

「サラ教官に連絡してみましょうか?」

「どうかしら?憲兵嫌いの教官が来ると余計に拗れそうな気もするけど?」

 

他に誰か頼れそうな人は……。

……あっ、居た!

 

こないだリベール行った帰りに、困った事があったらいつでも連絡してきたまえ、って言ってたよね。一緒に戦って、一緒にご飯食べて、一緒に笑った仲だもんね。

ちょっと申し訳無いけど、この位お願いしても良いよね?

 

フィーがARCUSを取り出し、目的の人物を呼び出す。

通信が繋がった。

 

「あ、オリビエお兄ちゃん?フィーだけど、あの……」

「やぁ子猫ちゃん、連絡ありがとう!君の心の恋人、オリビエ・レンハイムさ。今ちょ~っと都合が悪いんだ、発信音の後にメッセージを入れてくれるかな?それじゃあアディオス、マイラヴァー」

ピーッ

……

……

……

ふ、ふ、ふざけんなこのアホ皇子!!

 

思わず床にARCUSを叩き付けそうになった。

 

ナニ改造して留守録機能なんか付けてんだ!!

しかも音声メッセージが偽名ってどういう事だ!?

くそーっ!こんな事ならミュラーお兄ちゃんの連絡先教えて貰うべきだった!!

 

フィーは心の底から後悔した。

 

 

「おら!寄せ集めのクサレ憲兵共!命がいらねぇなら掛かって来やがれ!こっちには最強の猟兵団のメンバーが居るんだからな!!」

強盗のリーダー恪の男が、扉越しに挑発する。

フィーは音もなく彼に近付くと、襟首を掴んで力任せに引き倒し、口の中に双銃剣を突っ込んだ。

銃に付いた刃で男の口が切れたが知った事じゃない。ついでにその良く回る舌も切り落としてやろうか?と物騒な事まで考えていた。

 

「命がいらないのはあんたの方だよ?このまま頭吹き飛ばされたく無かったら2度とその口開かないでくれる?」

情の欠片も感じられない、冷たく低い声で告げる。

男は涙を流しながら首を縦に振る。

凄まじい恐怖が色濃く顔に出ているが、そこには何故か至極の悦びが感じられた。

 

 

 

「うーん……、ダメだ、やっぱりクレア応答してくれないや」

「どうします?もし向こうが突入でもして来たら……」

「ああ、店ごと蜂の巣にされるかもな」

 

「こうなれば自力で逃げるしか無いか……。マスター、こちらの店に裏口はお在りか?」

ラウラが店の主人に聞く。

「いえ、正面の扉だけです」

「しかし、逃げると言ってもどうするつもりだ?仮にこの店を出れたとして、憲兵隊に追い回されるのが落ちだぞ?」

「うう、僕、蜂の巣になるのはイヤだよ……」

「ボクはがーちゃんに乗って逃げるから平気かな?」

ユーシスとエリオットの不安をよそに、ミリアムが一人だけお気楽感を出す。

 

「そうだ!確かマーテル公園の中に地下道への入り口が在ったな!」

マキアスが帝都での実習を思い出す。

「それだ!確かガルニエ地区のホテルに出られるはずだ!」

「ふむ、公園まで逃げ切れれば何とかなりそうだな」

「公園か……、ここから300アージュはあるぜ?」

「ええ、移動してる間に蜂の巣になりそうですね?」

 

「ん……、じゃあ誰かが囮になって引き付けて、その間にみんな逃げるとか?」

フィーが提案する。

「ダメだ、危険過ぎる!他の手を……」

「他に良い案ある?」

「……」

全員黙り込む。

 

「大丈夫、囮はワタシが引き受けるから」

「イヤ、俺が囮になって引き付けるから、みんなはその間に逃げてくれ」

「ダメ!こういうのはワタシの役目。リィンはみんなと一緒に行って!」

「……なら、俺とフィーで残る。それならどうだ?」

「……はぁ、……らじゃ」

 

……全く、頑固な朴念仁だ。

まっ、そこがリィンらしいんだけど。

 

「じゃあ、俺とフィーと……、……クロウ、頼めるか?」

「……ちっ、しゃーねーか……。おうよ、任しとけ!」

 

うん、この3人なら何とかなりそうだ。

後は出たとこ勝負。……いつものヤツだ。

 

「Ⅶ組の制服は脱いだ方が良さそうだな」

「ああ、何か代わりになる物は……」

「丁度良いのがあるよ」

フィーが3人組の強盗を指す。

 

 

 

強盗の服を頂戴し、パンツ一丁になった3人組を拘束する。

フィーは床に屈んで、リーダー恪の男に話し掛ける。

「このまま抵抗しなければ蜂の巣にはならないと思うから、後は大人しく捕まって」

「姉さん……」

「それで罪を償ったら、今度は真っ当に生きて。どう考えてもアンタに強盗は無理……」

「……はい、……はい、姉さん……」

男が涙ぐむ。

「……それと、ワタシの事は姉さんって呼ば無い事」

「ぐす、……はい、姉さん……」

 

……ホントに解ってんのかな?……ま、いっか。

 

 

「よっしゃ、気合い入れて行くとするか!」

「フィーこれ、マスターから貰ったタオルだ、顔に巻いて隠してくれ」

「らじゃ、……。そうだ、呼び名も変えた方が良いかも?」

「あー、だな、念のためその方が良さそうだ」

「呼び名か……、何にすれば良い?」

「ん、じゃあクロウがバンダナでワタシがクラさん、リィンは、……ボクネンで良いかな?」

「バンダナ巻いてるからクロウがバンダナで、クラウゼルだからフィーがクラさんなのは解るが、俺のボクネンは何処から来たんだ?」

「ん、まぁ、テキトーに決めただけだから気しないで」

「???そうか……」

 

リィンは理解していない様だが、他のみんなはすぐにピンと来たらしい。

 

朴念仁は、自分の事を朴念仁だと認識する事が出来ない。

何故なら……朴念仁だから。

 

 

 

「俺達がなるべく引き付けるから、皆は隙を見て逃げてくれ。ラウラ、エリオット、マキアス、皆の道案内を頼む」

「了解!」

 

「マスター、騒がしてゴメンね、後で窓ガラス弁償しに来るから……」

クラさんがマスターに謝罪する。

「いやいや、気にしなくて良いよ、後は適当に誤魔化しておくから。それよりも、またいつでも食べにおいで」

マスターは、こんな事何でもない、というように笑って言ってくれた。

 

マスター……、……男前だぜ。

 

 

「そんじゃあ行くぞ!クラさん!ボクネンジ…、ボクネン!」

「らじゃ!バンダナ!」

「バンダナ、今何か言い間違わなかったか?」

 

 

 

3人がリンクラインを繋ぎ外に飛び出す。

フィーがいきなり閃光弾を炸裂させて相手の視界を奪う。

 

相手は簡易武装の憲兵隊員9名、それと車輌が3台。

ARCUSの連携を使えばどうにかなる戦力差だ。注意すべきはスナイパーと、噂のズーラ隊長か。

だが、憲兵隊の応援もいつ来るか解らない、速攻で片を付けたい。

 

相手の視界が眩んでいる内に、ボクネンが八葉の疾風で前線に出ている2人を倒す。

同時にバンダナが後方に控えるスナイパーを射撃で威嚇し、行動を制限する。

 

相手は憲兵隊という事もあり、ボクネンは峰打ち、バンダナは威嚇射撃のみで対応する。

それでも万が一が合った場合は……、致し方無い。何しろ帝国男子は常在戦場である。

 

 

「何をしておる!さっさと蜂の巣にしてやらんか!!」

ズーラ隊長が目を押さえながら喚き散らす。

 

……どうやら噂はホントらしい。

こんな危ない隊長は、さっさと黙らせるに限る。

 

「行くよ!」

ボクネンに続いて、クラさんが高速で突っ込み、手前に居る2人を沈黙させながら後方に居るズーラの背後を取る。

左手で腕をネジ上げながら喉元に双銃剣を突き付け、耳元に囁く。

「動いたら、グサッ!!だよ……」

顔を隠すタオルで声が籠るため、普段よりも異様な迫力が出た。

ズーラの恐怖が背中から伝わって来る。

 

 

リンクでバンダナとボクネンを呼び寄せ、3人でズーラを取り囲む。

憲兵隊の目は完全にこちらを向いていた。

 

 

 

店の方を見ると、ラウラ達が姿勢を低くしながら離脱して行くのが見えた。

しかし、憲兵隊の応援らしきサイレンが近付いて来ている。

 

みんな、無事に逃げ切って……。

 

 

 

「オラ!テメェら!隊長がどうなっても良いのか!!」

バンダナがズーラ隊長に銃を突きつけ威嚇する。

 

バンダナ上手いな……、何処かでやってたのかな?

 

「今すぐ武装解除して、腹這いになれ!」

ボクネンも太刀を構えて威圧する。

 

ボクネンもなかなか上手い、どうやらこの二人は犯罪者の素質があるらしい。

 

 

そこに憲兵隊の応援車輌が2台到着する。

期待したがクレア大尉の姿は無かった。

まぁこんな姿を見られたら、どう言い訳しても通じ無いかもしれないが。

 

5名の隊員が車輌から飛び出し、銃を構えながらクラさん達を包囲する。

 

「テメェら!只の脅しだとでも思ってんのか!!武器を捨てろって言ってんだよ!!」

バンダナが憲兵隊の足元に向かって、禍々しい狂気を秘めた弾丸を射出し、更に威嚇する。

 

ホント上手いなバンダナ、本職みたいだ。

 

「オラ、テメェからも言ってやれよ!!」

バンダナがズーラの髪の毛を掴み、引っ張った。

……ズーラの頭頂部から、急に髪の毛が無くなった。

 

あっ。

 

バンダナの右手には、それまでズーラが必死に隠していたであろう、男の秘め事が握られていた。

 

「あー、その、……、すまねぇ」

そう言うとバンダナは、ズーラの頭にそれを再度被せた。

適当に乗せただけなので、それは不自然にズレていた。

 

憲兵隊員達は一瞬驚きの表情を見せたが、一同に目を伏せる。良く見ると笑いを噛み殺すのに必死らしい。

 

……今しか無い!

 

クラさんがズーラを後ろから突き飛ばした。

力無く、前のめりに倒れるズーラ。

倒れた拍子に再度ズーラの地頭が晒される。

 

「バンダナ、ボクネン、こっち!」

クラさんが憲兵隊の車輌の1つに向かって走り出す。

「おう、クラさん!」「了解、クラさん!」

バンダナ、ボクネンが後に続く。

 

「バンダナ、運転出来る?」

「あたぼうよクラさん!しっかり掴まってな!」

 

バンダナが運転席に座り、助手席にボクネン、後部座席にクラさんが乗り込む。

「バンダナ、ゴー!!」

クラさんの掛け声と共に車輌が発進する。

「あばよ、ヅーラ隊長!ん?ズーラだったか?」

バンダナが捨て台詞を吐く。

「バンダナ、少し言い過ぎだ!頭頂部分以外は結構残っていたぞ!」

 

……ボクネン、全くフォローになって無いよ。

 

 

 

その様子を見ていたズーラは、ワナワナと震えながら自分の魂とも言うべきそれをしっかりと被り直す。

「……総員、奴らを追え!!必ず蜂の巣にしてやるのだ!!!」

ハゲしい怒りと共に車輌に乗り込むズーラ、隊員達もそれに続く。

憲兵車輌4台がクラさん達を追跡する。

 

 

 

「ヤバい、追ってきた!バンダナ、もっと飛ばして!」

「おうよ!けど、何処に向かえば良い!?」

「うーん、クラさん、何か良い考えはあるか?」

 

少し考えるクラさん。

 

ワタシの手持ちは閃光弾3つと爆薬が少量。

余計な被害が増えるから、このまま街中でのカーチェイスは避けたい。

なるべく被害を出さずに、相手を撒くには……。

 

クラさんに、ある考えが浮かぶ。

 

「バンダナ!そこ左に曲がって!」

「あいよ!」

バンダナが急ハンドルで左折する。

「そのまま、真っ直ぐ行って!速度はこのまま!ボクネンはクロノドライブの駆動準備お願い!」

「了解!クラさん!」

「リンク繋いで集中して!一瞬で決めるよ!」

「あいよ!クラさん!」「了解だクラさん!」

前方にはヘイムダル港が見えていた。

 

 

 

 

 

 

クラさん達の後方30アージュにズーラ達は迫っていた。

「もっと飛ばせ!!奴らのケツに張り付くんだ!!」

「了解です、ヅーラ隊長!」

「……今発音がおかしかった気がするが?」

「気のせいであります!隊長!」

「くっ……、なら良い」

 

クソ、クソ、クソ!!

これも全部奴らのせいだ、確かクラさんとか呼ばれてたな?

必ず蜂の巣にしてくれるわ!!

 

逃走車輌との距離が縮まる。

 

くたばれ、クラさん!!!

 

ズーラが窓から身を乗り出してハンドガンを撃った!

次の瞬間、前の車輌から閃光弾が投下される。

 

ふん、嘗めるな!何度も同じ手を食うか!

 

目を瞑って回避する憲兵隊員達。

次に目を開けた瞬間、逃走車輌が爆発炎上していた。

 

な、何!?!?

 

車輌は炎上しながらも走り続け、ヘイムダル港の海へ落ちて行った。

 

ワシが撃った弾が導力車の紅耀石を撃ち抜いたのか?それとも奴等の持っていた何かしらの可燃物に引火したのか?

 

憲兵隊員達が車を止め、海に落ちた車輌を覗き込む。

 

……どちらにしろこれではクラさん達も生きては居れまい。クソ!蜂の巣にしそこなったわ!!

 

ズーラが憎しみを吐き出すかのように、憲兵車輌のタイヤを蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「上手く行ったみたいだな?」

「ったく、2度とゴメンだぜ!」

「良いじゃん、みんな無事なんだし」

3人はヘイムダル港の奥にある、地下道への入り口付近に隠れて居た。

 

仕掛けは単純だ。

車の速度を落として、相手に追い付かせて発砲させる。

閃光弾で相手の視界を奪い、その隙にクロノドライブで速度を上げた3人が一瞬で離脱する。

最後に、仕掛けた爆薬を爆破させ、車を炎上させればフィニッシュだ。

 

「しっかし、あの一瞬で良く思い付いたもんだよな、流石はクラさんだぜ!」

「……、もうフィーで良いんじゃない?」

「ん?ああ、そうだな。なんかクラさんって言うのに愛着湧いちまってよ」

「それよりも早くみんなと合流しよう。ここを進めばオスト地区に抜けられるはずだ」

「あいよ、ボクネン!」

「もうリィンで良いだろ!大体何なんだよ、そのボクネンってのは?」

「さあな、妹にでも聞いてみろや」

「ん、それが良いかも」

1人首を捻るボクネン。

 

「そんじゃ行こっか。…バンダナ、ラウラ達と連絡取ってみて」

「あいよ、クラさん!」

 

3人は暗い地下道を走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝

サラは寮のロビーで紅茶を飲みながら、帝国時報を読んでいた。

1面は昨日の強盗事件の顛末だ。3人を下着姿で拘束するが、残りの3人を取り逃がしたと書いてある。

焼け焦げた憲兵隊の車輌が、海から引き上げられる写真が掲載されていた。

「全く、物騒な世の中ねぇ」

 

「ん、おはよ、サラ」

そこにフィーがやってくる。

最近はちゃんと朝起きて、髪の毛を整えてから1Fに顔を出す様にしている様だ。

 

「おはよう、フィー。そうだ、アンタ達も昨日帝都に行ってたのよね、大丈夫だったの?」

「え?帝都なんか行って無いけど?」

「あれ?たしか、憲兵隊のあの女に甘いものご馳走して貰うとか……」

「気のせいじゃ無い?」

そのままフィーは食堂の方へと行ってしまった。

 

気のせい?そんな訳無い。確かにミリアムから「みんなと帝都でスイーツ食べて来るねー」と自慢気に言われた。

その後に、何でアタシは呼ばれて無いのよ!と思ったのだから間違いない。

 

それをワザワザ嘘を付いて隠すという事は……。

……

……

……

いや、気のせい気のせい。アタシの気のせいね!

 

そう結論付けたサラは朝刊をクシャクシャっと丸めてゴミ箱に捨て、学院へと向かった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。