妖精の軌跡first【完結】   作:LINDBERG

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子猫はやましい事があると目を合わせない

放課後、第3学生寮2F

 

コンコン。

「リィン、居る?」

「はい?……、フィーか、どうした?」

「ん、園芸部で育ててたハーブが咲いたから、お裾分け持って来たんだけど……」

「へー、凄いな、綺麗に咲いてるじゃないか」

部屋着では無く、リィンは制服を着ていた。

「あれ?どこか、出掛けるところだった?」

「ああ、帝国時報までな」

「帝国時報?……何で?」

「ノートンさんに取材の手伝いを頼まれてな、ちょっとしたバイトみたいな感じなんだけど」

相変わらずのお人好しだ、生徒会の手伝いだけでも大変そうなのに……。

 

「3人で来てくれって言われてるから……、良かったらフィーも付き合わないか?バイト代は1人1,500ミラって言ってたぞ?」

「ん、やる」

即決するフィー、懐事情が寂しいのも確かだ。

「相変わらず決断が早いな……」

「もう一人はどうするの?」

「ああ、誰か適当に……」

 

「……あら?どうしたの貴方達?」

丁度アリサが階段を下りてきた。

 

 

 

 

 

 

 

数分後、3人は列車に揺られていた。

 

「良かったのかアリサ?何か用事とかあったんじゃ無いか?」

「ゴメン、もしかして巻き込んだ?」

「そんな事無いわよ、帝国時報の取材なんてちょっと興味あるし、気にしないで」

 

まぁ、そう言ってくれればこちらも気が楽だ。

ワタシとリィンで行くって言った時に、一瞬目が鋭くなったのは気になるが……。

 

「それで、何の取材協力なの?」

「ああ、今日オペラハウスでクロチルダさんのコンサートがあるらしいんだけど、それの取材って言ってたな」

「え?ヴィ、ヴィータ・クロチルダの取材なの!?」

アリサが驚きの声を上げる。

「一応そう聞かされたが…、何だ、ファンなのかアリサ?」

「べ、別にファンって訳じゃ無いんだけど……。前にお手紙書いたりとか、チケットの抽選に応募したりとかした事があったから……」

 

イヤイヤ、それをファンと呼ばずに何と呼ぶのだ?

 

「そう言えばエリオットとマキアスも好きだった筈だな?」

「うん、ヘイムダルの実習でちょっと会った時に狂喜乱舞してたからね」

「え?会ったって……。蒼のディーヴァに会ったの!?」

「ああ、……あれ?言ってなかったか?」

「聞いて無いわよそんな話!?」

「あ、そう言えば、実習には関係無かったから報告レポートには書かなかったんだ……」

フィーが実習を思い出す。

「何でそういう大事な事を書かないのよ!!貴方達!!真面目に実習やってたの!!?」

 

真面目にやってたから書いて無いんだけど……。どうやら変なスイッチが入ったらしい。

 

その後、フィーとリィンはヘイムダル到着までアリサからみっちりとクロチルダ情報をレクチャーされ続けた。

アリサがあまりにも熱く語る為、危うく乗り過ごす所だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘイムダル帝国時報本社

 

「やあ、良く来てくれたね。おや?今日はアリサ君も一緒かい?」

「お久しぶりです、ノートンさん」

3人一同に頭を下げる。アリサはノルドでの実習以来だ。

 

「ワザワザ来てもらってすまないね、内輪事情を話すと本来取材に向かう予定だった人が急に断りを入れて来てね……。僕が代わりに行ければ良かったんだけど、ちょっとこの後外せない用事があって、そこで君達に白羽の矢を立てた訳さ」

「蒼のディーヴァの取材を断るなんて……、信じられない記者ですね!」

アリサがやや憤慨した様に言う。

 

……ホント好きなんだね。

 

「うーん、……まぁ、クロチルダの取材である事は確かなんだけど……。今日君達にお願いしたいのはコンサートの警備状況の取材さ」

「……、はい?」

「オペラハウスの警備を取材してきて欲しいんだ。クロチルダの方はアポが取れなくてね……、また後日に、という事になってる」

「な、な、何で警備の取材なんかするんですか!?」

「実は来週からテロに関するコラム記事の特集を組んでいてね。そこで是非とも帝国の歌姫を守護する憲兵隊の取材が必要になったのさ」

「じゃ、じゃあ、クロチルダには会えないって事ですか!?」

「いや、そんな事は無いさ。もしかしたら憲兵隊の取材中にひょっこり通り掛かるかも知れないよ?」

 

それは……、出待ちをしているファンと何か違うのか?

 

「けど、俺達は素人の学生です。任されてホントに大丈夫なんですか?」

「うん、今回はあくまでも参考取材だからね、質問内容は事前に決めてあるからそれを読み上げてくれるだけで十分。後は書記係とカメラマン役が居ればバッチリさ」

ノートンが導力カメラと質問メモが挟まった手帳を貸してくれる。

「じゃあ宜しく頼むよ、先方にも話は通ってるから、オペラハウスに行って私の名前を出せば対応してくれるはずだ。時間は18時丁度、まだ余裕はあるけど遅れない様にね。終わったら報酬を渡すからまたここに戻って来てくれ。それじゃあ」

 

それだけ言い残すとノートンは仕事場に戻ってしまう。やはり、新聞記者ともなると相当忙しそうだ。

 

 

「そ、それじゃあ、取り敢えずオペラハウスの方まで行ってみるか」

「ん、らじゃ。……アリサ、大丈夫?」

「え、ええ、大丈夫、大丈夫よ……。……さ、行きましょ」

思ったよりショックだった様だ。

 

3人は導力トラムに乗り、ガルニエ地区を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都ヘイムダル ガルニエ地区

 

オペラハウスの前には、出演を終えた稀代の歌姫の姿を一目見ようと多くの人だかりが出来ていた。それを屈強な憲兵隊員が何とか取り締まっている状態だ。

それにしても凄い人気だ、これだけの人を集めるというだけでも、ヴィータ・クロチルダのカリスマ性が窺える。

 

そんな人混みの中に見知った顔をみつける。エリオットとマキアスだ。

二人ともサイン色紙と導力カメラをそれぞれに持ち、団扇にクロチルダの顔写真を張り付けた、手作りらしきファンアイテムをこれでもかと振り回している。

 

「あれ?二人も来てたのか?」

リィンが二人に近付く。

「おや?リィンじゃないか!!そうかそうか!君もようやくクロチルダ様の素晴らしさに気付く事が出来たらしいな!」

「リィン!!僕もすっごく嬉しいよ!!さぁ、みんなでクロチルダ様の御尊顔を拝謁しよう!」

マキアスとエリオットがリィンを歓迎する。

 

 

「ああいうのと一緒だと思われるからファンって言いたく無かったのよ……」

アリサがこっそりフィーに耳打ちした。

成る程、納得。

さすがは蒼のディーヴァ、ファンの熱狂度合いも半端じゃ無い……。

 

 

「あ、いや、俺はちょっと頼まれた仕事を片付けに……」

「おお!?リィンもしっかりとカメラを用意してきているようだな!ふふふ、その心意気や良しだ!このまま頑張っていけばホワイトチルダーも夢では無いぞ!!」

「うん、僕も最近ようやくブロンズチルダーになったばっかりなんだ。リィンも頑張って!!」

 

どうやらファンのランク分けがあるらしい。

オフィシャルかどうかは知らないが……。

 

「本当にすまない!もう行かないと、じゃあ!」

リィンが無理矢理会話を打ち切り、こっちに戻って来た。

 

「お帰り、お疲れ」

「不用意にチルダーに近付くからそうなるのよ!」

「……ああ、身に染みたよ……。ノートンさんに頼まれた仕事を片付けよう」

 

3人は人混みを掻き分け、オペラハウスへと向かった。

 

 

 

 

 

入り口の憲兵に案内されスタッフルームに通される。

ノートンから連絡が行っていたらしく、すんなり通して貰えた。

「すぐに警備隊長が来るから、ここで待っててね。そっちに置いてあるお茶は好きに飲んで良いから」

優しい憲兵さんだ。ありがたく頂こう。

 

「今のうちに役割を決めておきましょうか?」

3人分の紅茶を紙コップに注ぎながらアリサが言う。

「そうだな、アリサがインタビューして、俺が書記係、フィーがカメラマンでいいか?」

「ん、らじゃ。写真って何枚位取れば良いのかな?」

「うーん、参考取材って言ってたし、5~6枚もあれば良いんじゃないかしら?」

「うん、そんなもんだと思うな。使い方は大丈夫か?」

「ん、問題なし」

そのままお茶を飲みながら待つと、数分後警備隊長がやってくる。

 

 

「お待たせしてすまんね」

何故か見覚えがある顔だった。

横分け頭に特徴的なチョビヒゲ。

 

え?ウソ!!

 

「オペラハウス警備隊長のズーラと言う」

 

……イヤイヤイヤイヤ!!!!

こんな偶然があってたまるか!!?

大体アンタ、市街地の警備担当だったろ!?

 

3人の背中に冷たい汗が滲む。

 

「おや?トールズの学生と聞いていたが、赤い制服は初めて見るよ」

「え?え、ええ、今年から新設された特化クラスの制服なんです」

インタビュアーのアリサが答える。

 

リィンは手帳を開くと深く俯きながら何かを書く素振りを見せ、フィーはカメラを構えて顔を隠した。

あの時はタオルで顔を隠していたが、さすがに間近で対面する勇気は無い。

クロウを連れて来なくて良かった、顔を晒さなくてもバンダナでバレる。

 

「ふむ、そうか。……しかし何故かな?妙にその制服に見覚えがある気がするのだが?」

 

そういえばスイーツ店での一件の際、窓ガラスが割れていた。(正確には眼鏡チルダーが割ったのだが)

すぐにブラインドを下ろしたが、一瞬とはいえ店内に居るⅦ組の制服を見ていても不思議では無い。

 

「き、気のせいではないでしょうか?赤は今年の流行色ですし?!何か他の服と勘違いなされているのでは?!」

アリサが強引に誤魔化す。

「そうだったかな?ふーむ、……何か大切な事だった様にも思うのだが……」

「そ、それでは早速質問を始めたいと思います!あまりお時間を取らせても申し訳ないですので!?」

「む?ああ、そうか、気を使わせてすまんな」

 

あの時はやたらと人の事を蜂の巣にしたがっていたが、こうして対面するとズーラは優しいオジサンといった印象だ。

恐らく銃を持つと性格が変わるタイプなのだろう。

……正直あまり関わりたく無いタイプだ、どこでスイッチが入るか解ったもんじゃない。

 

アリサがノートンから渡されたメモを見ながら、インタビューを開始する。

「えー、それではまず初めにズーラ警備隊長はどの位の期間こちらに赴任していらっしゃいますか?」

「まだ赴任して1週間といったところだ、その前は市街地の警備を担当しておった」

 

うん、知ってる。

 

「では、こちらでのお仕事内容をお聞かせ下さい」

「主に3つに分けられる、まず出演者の警護、次に観客の誘導と整理、最後にオペラハウス自体の巡回警備だ」

「ズーラ隊長独自のお仕事といった物はございますか?」

「そうだな、隊員の配置と警備シフトの管理ぐらいだな。市街地警備に比べれば、ここはトラブルも少なくて平穏だ。やっかいなのはファンへの対応かな、あまり手荒にするわけにもいかんし、ましてや蜂の……、イヤ失礼、なんでもない……」

 

今、蜂の巣、って言おうとしなかったか!?

 

適当に角度を変えながらフィーがシャッターを切る。

リィンは不自然な程に顔を上げず、黙々と書記に徹している。

 

 

 

 

その後何事も無くアリサの質問は続き、インタビューも佳境に入った。

 

「……はい、ありがとうございます。では最後に現在のエレボニアで起こっている問題についてお聞かせ下さい」

「問題?テロリスト達の事かな?」

「はい、私的なご意見でも構いませんので」

「ワシは絶対にCを許さん!!」

「成る程、やはり帝国開放戦線の所業は我慢がならないと?」

「帝国開放戦線?ワシが言っているのはあんな小物共の事では無いぞ!」

 

王女誘拐やガレリア要塞襲撃の容疑者を小物共って……。

……ん?それじゃ誰の事言ってんだ?

 

「ワシの言うCとは、【クラさん一味】のCだ!!」

フィーが思わず固まる。

 

「ク、クラさん一味!ですか?」

「左様!先日帝都で起きた強盗犯と憲兵隊の戦闘はご存知かな!?クラさんとはその事件の主犯と目されている人物だ!!」

 

しゅ、しゅ、主犯!?!?

 

「クラさんは、閃光弾で相手の視界を奪い、双銃剣を突き付けて相手を脅し、最後に爆薬で何もかも吹き飛ばして証拠を隠滅する、という悪魔の様な犯罪者集団の首領だ!!」

 

ち、違う!!……イヤ、違くは無いか???でも首領ではない!!!……はずだ。

 

「一部の仲間は捕らえたのだが、皆一様に声を揃えて犯行は自分達だけで行ったと言い張っている。手下に対する教育も徹底していたと思われる!」

 

て、手下……。

 

「更にクラさんは!一人の男の人生をメチャクチャに狂わせたのだ!!クラさんのせいで、彼は部下の信用を失い、職場を変えられ……」

 

……いや、それってアンタの事じゃ……。

 

「そして彼は!誰にも知られたくない秘密を暴かれ!男としての尊厳を、粉々に打ち砕かれたのだ!!」

 

イヤイヤイヤ!それは違う!!それは絶対クラさんのせいじゃない!!

あの時ズーラのヅーラを剥ぎとったのはクロウだ!!

だから、CはClaussellのCじゃなくて、CrowのCであるべきだ!!!

 

「今話しただけでも、Cの恐ろしさは十分伝わった事だろう!Cは必ず我が手で捕らえ、蜂の巣にしてやるべきだ!!」

 

止めろー!!!

クラさんをCと呼ぶなー!!!

 

「と、捕らえた犯罪者を蜂の巣にするのは、い、如何なものかと思いますが?」

「いいや!そんな生温い事では緋の帝都を守護する事は出来ん!!犯罪者は即時罰するべきだ!!!」

 

オイオイ!これ帝国時報の取材だって解った上で言ってるんだろうな???

 

「ワシは!絶対にCを野放しにはしない!!!」

 

もう勘弁してくれー!!!

 

カメラを構えたまま、心の中で叫ぶ。

 

 

 

「おっと、ついつい熱くなってしまったな。まぁ、とにかく、ワシは如何なる手段を用いてでも、エレボニアを守る事が第一だと考えている」

そうズーラ隊長が締めくくった。

 

「あ、ありがとうございます。し、質問は以上で終わりです……」

 

よ、ようやく終わった。

この手のタイプは今まで出会った事が無いが、かなりヤバイ相手だ。自分がコレと決めたら、その障害となるものには一切容赦が無いのだろう。

早いところ、ここから出た方が良さそうだ。

 

「では、我々はこれで……」

アリサが挨拶してその場を去ろうとする。

「うむ、では表まで送ろう」

「え?あ、いいえ、そんなご面倒をお掛けするわけには……」

「ははは、そんな気遣いは無用だ、遠慮する事は無い!」

「は、はい……」

 

3人はズーラに先導され、再び沢山のチルダーが待ち構える正面口に向かう。

 

 

 

 

 

「色々とありがとうございました」

「いや、こちらも久しぶりにお若い方と話が出来て楽しかったよ。またいつでも来なさい、お茶位ならご馳走するよ?」

「あはは……」

力無くアリサが笑う。

リィンとフィーは「ありがとうございました」と頭を下げたまま動かない。

その様子を、礼儀正しい学生だと思ったズーラは更に上機嫌になる。

 

 

 

その時、急に辺りが騒がしくなった。

「く、クロチルダ様だ!!!」

「ヴィ、ヴィータ女王様!!!」

「クロチルダ様こちらを向いて下さい!!!」

「ありがたや、ありがたや……」

 

蒼のディーヴァが登場したらしい、殺気だったチルダーが入口付近に群がる。一部の年配のチルダーは遠くから拝んでいる。

 

「おや?クロチルダ殿がお出ましの様だな、では諸君、これで失礼する」

ズーラが3人に挨拶しチルダーへの対応に向かう。

 

 

 

「はぁー、生きた心地がしなかったわ……」

「ああ、何度蜂の巣にされると思った事か……」

「つ、疲れた……、ねぇ、もう帰ろ?」

「いや、帝国時報に行かないと……」

「ええ……、そうね……、早く終わらせましょう……」

3人がその場を後にしようとする。

 

「あら?リィン君?」

不意に後ろから声を掛けられる。

「えっ?」

リィンが振り向くと、そこには蒼のディーヴァが立っていた。

 

「あっ、ミスティさ……んぐ!?」

クロチルダがリィンの口元に素早く人差し指を当てた。

「うふふ、ダメダメ。今は、クロチルダさん、でしょ?」

リィンに優しく微笑み掛けるクロチルダ。

 

「な、な、な???」

アリサが驚きの表情を浮かべ、その後怒りの表情に取って変わる。

「ちょ、リィン!!何やってるのよ!!」

「い、イヤイヤ違う!!俺は何も……」

アリサは鬼の形相だ。

 

「リィン!!何をしている!!」

「ちょっとリィン!!何、今の?!?!」

マキアスとエリオットのチルダーコンビも向かって来た。

 

「至近距離からショットガンをぶち込んでやろうか!!!」

マキアスが眼鏡を激しく光らせながら詰め寄る。

「リィン……、君に、僕のレクイエムを贈るよ」

エリオットが魔導杖をバイオリンに変形させて構える。

「お、お、落ち着け3人とも!!話せば解る!!」

 

「まずお前が落ち着け!」と突っ込みたくなる程狼狽するリィン。

その様子をクロチルダは可笑しそうに見つめていた。

 

あーあ、何やってんだか……。……ん?

 

不意に銀色の何かがフィーの視界に入った。

 

見ると、男がナイフを持ってクロチルダに近付いている。クロチルダはリィン達に気を取られ、気付いていないらしい。

咄嗟にフィーが助けに入ろうと動き出すが、目の前に居る4人が揉み合い、邪魔されて進めない。

男はクロチルダのすぐ背後にまで迫って居た。

「逃げ……」

フィーが叫ぼうとしたその時、1人の憲兵が男に飛び掛かった。

「何をしている!!」

ズーラが男を地面に引き倒し、後ろ手に拘束してナイフを取り上げた。

「君達怪我はないか!?貴様!!蜂の巣にしてやろうか!!」

男の耳元でズーラが凄む。

 

ヒュー、やるー!

 

素直にフィーはそう思った。

 

あっ!そうだ。

 

首に下げたカメラを構え、シャッターを切る。

揉み合っていた4人は、ただ唖然とその様子を見ているだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、良い写真だよ!君達に頼んで良かった!」

帝国時報に戻り、ノートンに事のあらましを報告しながら写真のプリントを待つ3人。

 

あの後、憲兵隊に取り囲まれ、男は連行されて行った。

行き過ぎたチルダーの身勝手な事件だったらしい。

 

「見てみるかい?」

プリントされた写真をノートンが机に並べる。

 

スタッフルームで撮った数枚の後に、男を拘束する勇ましいズーラの姿があった。

「あら、良く撮れてるじゃない。……でも」

「ああ、良い写真なんだけどな……」

「うーん、あの時は流石にそんなの気にする余裕無かったし……」

飛び掛かった時の反動か、ズーラの頭が不自然にズレていた。

 

「ああ、まぁそこは修正すればどうにでもなるよ。後で本人にも掲載の確認は取るし。……でも、良い顔で仕事してるよね彼、羨ましくなるよ!」

写真の中のズーラは生き生きとしていた、正に頼れる隊長といった感じだ。

 

でも、確かあの時、捕まえた男を蜂の巣にしようとして無かったか?

……触れないでおこう。

 

世の中ホント色んな人が居るな、……マキアスとエリオットも含めて。

 

「とにかくお疲れ様。はい、これはバイト代」

3人それぞれに封筒を手渡すノートン。

「また何かあったら頼むよ」

そう言うと彼は足早に仕事場へと戻って行く。

 

 

 

 

 

「ようやく終わった……」

帝国時報を出た所で、こんなに疲れるバイトは初めてだ、と言わんばかりに肩を落とすリィン。

「リィン、貴方にはまだ聞きたい事があるから、そのつもりで居なさいよ!」

ジトリとアリサがその様子を見つめる。

アリサもリィンが相手だと容赦が無い。愛情の裏返しなのかどうなのかはイマイチ読めないが。

 

……あ、そうだ。

 

「ねぇ、ワタシちょっと寄る所あるから先に帰ってて」

「えっ?何処か行くのか?」

「うん、こないだのスイーツ店に寄って来ようかなって……。テイクアウトでケーキでも買って来るから」

「あら、良いじゃない、それ!どうせなら3人で行きましょうよ、リィンの奢りで」

「……いや、別に奢るのは良いんだけど……」

「良いんだけど、なに?」

アリサがジトリと睨む。

「い、いえ、何でもありません……」

リィンが更に肩を落とす。

 

 

 

はぁ、……ま、いっか。

 

タダで食べられるならそれに越した事は無い。

 

子猫はツンツンお嬢様に乗っかる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝

 

サラは寮のロビーで朝刊を広げていた。

1面の見出しに、『お手柄!警備隊長!蒼のディーヴァは我々が護る!』と書かれ、その下にチョビヒゲで妙に毛量の多い髪型の憲兵が、男を取り押さえる写真が掲載されていた。

 

ふーん、憲兵隊もなんのかんので、ちゃんとやってるのね……。

 

そんな事を思いながら新聞を見つめるサラの前をフィーが通りかかる。

「おはよ、サラ」

「おはよう、フィー。あ、新聞見る?」

サラがフィーに読み終わった帝国時報を差し出す。

「ん?うんん、もう解ってるから別に良いや」

 

そう言い残し、フィーは朝食を食べに食堂へと入っていった。

 

 

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