トールズ士官学院 旧校舎1Fエントランス
「それで?これをどうするのよ?」
アリサがオリジナルの勲章を眺めながら聞く。
「うーん……、さあ?」
「さあ?ってリィン……、もしかして何も解って無いの?」
「そう言われてもなぁ……、そもそも、今までだって何も解らずに探索していただろ?」
「まぁ、確かにそうね……」
「獅子の証を持つものよ、深奥に眠る虚なる宝珠を手にし、己に向き合え……、か。その証とやらがこの勲章だという根拠は何だ?」
ユーシスが例の紙を見ながら尤もな疑問を提示する。
「それに関しては明確な根拠はありません、強いて言えば私とフィーちゃんが同じ結論に辿り着いたから、としか……」
「うーん……、エマ君はともかくフィーの発案と言うのがな……」
「イヤ、今日のフィーはキレまくりだ。現にさっきもフィーの戦略で見事に学院長に一泡吹かせただろ?俺はフィー達の勘を信じるぞ」
リィンが擁護してくれる。
ふふ、さんくすリィン。
「ふむ、となるとこの獅子心勲章をどのように使うかだな……。まあ色々試すしかあるまいが……」
「うむ、そうだな、確かに何も解らずに始めた旧校舎の調査だ、可能性があるなら試すしかないだろう」
「うん、やれる事は全部やろう」
ラウラとガイウスとエリオットも前向きに捉えてくれる。
「うーん、ボクは楽しければ何でも良いかな?」
ミリアムは一人でお気楽感を出す。
「じゃあ取り敢えず昇降機で最下層まで降りてみるか?」
『了解』
一同はエントランスを抜け、昇降機がある広間へ向かう。
最下層に降りる前に昇降機の様子を調べる一同、数日前に調査したばかりだが、何かしらの変化が無いか念入りに観察する。
しかし成果は何も無く、階層を表すパネルも6個のままだった。
「うーん……、ちょっと期待してたんだけど、何も変わって無いみたいね?」
「ふむ、新しい階層が追加されているかとも思ったのだが……」
「うん、やっぱり6階層より下は無いみたいだね」
「下に降りてみよう、何か変化があるかも知れないし」
「ん、らじゃ」
全員が昇降機に乗り込み、リィンがパネルを操作しようとする。
「待て!」
ガイウスが鋭く言う。
「き、急に驚かさないでくれ」
「どうかしたのか?」
隣に居たマキアスとユーシスが怪訝な顔で見つめる。
「気を付けろ!室内の風が変わった……」
アリサが持っている勲章が淡く光出す。
次の瞬間、一行は光に包まれていた。
「あれ?」
「え?」
「な、なに?」
「……ここは?」
目の前には、どこまでも続く石造りの長い廊下が続いていた。何百アージュ、イヤ、何セルジュもあるのかもしれない、一本道の通路が果てしなく続いている。
等間隔に松明が灯り明かりを付けているが、奥の方は暗くて全く見えない。
「な、何が起きたの?」
「皆、取り敢えず落ち着いて全員無事か確認してくれ」
それぞれの所在を確認する一同。
「ん、……大丈夫。みんな居る」
「それにしても……」
「ここ、何処??」
周囲に生き物の気配は無い、魔獣などは居ない様子だ。通路の幅と高さは10アージュ程もあり、狭苦しさも感じられ無い。
エマが顎に手をやりながら言う。
「古い遺跡等には転送装置が設置されている事があると聞いた事があります……、恐らくその類いの物ではないかと……」
「て、転送装置?」
「古代人の叡智ってやつね……、途方も無い技術だわ」
アリサが獅子心勲章を見ながら感心する、もう光は収まっていた。
「……えっと、ちょっと信じられないんだけど……」
「ど、どうやら想定外の場所に来てしまった様だな……」
「ああ、……で、どうする?このまま通路を進んでみるか?それとも一度戻るか?」
「そうだな……、確かに予想外の事態だ、一度戻った方が良いかも知れないな……」
リィンが腕を組みながら思案する。
「ふむ、ところで、どうやって戻るのだ?」
「……え?」
後ろを振り返る、行き止まりの石壁があるだけだ。足元を見る、昇降機が無くなっている。上を見る、壁と同じ素材の天井があった。前に向き直る、果てしなく続く通路がある。
……
……
……これは、もしや?
「おいおい、まさか閉じ込められたのか!?」
マキアスが取り乱す。
「落ち着け阿呆!焦っても何にもならんぞ!」
「うむ、ユーシスの言う通りだ、まずは落ち着くが良い!」
ユーシスとラウラがマキアスを諭すが、マキアスは興奮したままだ。
「これが落ち着いて居られるか!!」
「……僕達、18時にヘイムダルのオペラハウスに行こうと思ってて……」
どうやら、チルダー二人の心配は別の事らしい。
「アリサ、勲章の様子はどうだ?」
「ダメね、転移した後は何の反応も無いわ」
「ねぇユーシス、ミヒュトから貰ったっていう紙に変化は無いの?」
「ああ、ただの古い羊皮紙だ。新しく文字が浮かんで来るといった事も無い」
「……駄目です、ARCUSの通信も圏外みたいですね」
「……八方塞がりだな」
「となると……」
「進むしか無いね……」
フィーが皆に先んじて歩き出す。
他の一同もそれに従い、先の見えない真っ直ぐな通路を進み始めた。
「……ねぇ、どの位歩いたかしら?」
アリサがふらふらしながらエマに問いかける。
「……さあ?もう20セルジュ位歩いてる気がしますけど……」
エマは魔導杖を杖代わりにして何とか歩を進める。
「うう、ボクもう歩きたくないよう……」
学院長にシバかれたアガートラムがまだ使用できず、ミリアムもぐったりしながら歩き続ける。
「ミリアム、もう少し頑張ろう」
エリオットがミリアムを元気付けるが、本人もかなりキツそうだ。
「ま、まさか、こんな事になるとは……」
「ええい、泣き言等聞きたくも無い!とにかく歩け!」
マキアスとユーシスもいつもより言い合いが短い。
「ふむ、これはこれでなかなか良い鍛練にはなるが……」
「流石に全く景色も変わらずに歩き続けるのは堪えるな……」
体力があるラウラとガイウスも流石にキツイらしい。
……こんな事があり得るのか?幾らなんでも長すぎる。
出発点が何処か解らないから確かめようが無いが、このままだと徒歩でヘイムダル位まで移動する事になる。
……これってもしかして?
「……リィン時計持ってたら見てくれる?」
「ん?ああ、持ってるぞちょっと待て。……あれ?止まってるな」
「……ラウラ、時間解る?」
「ああ、暫し待て……、……むう、すまん私のも止まっている様だ、今まで壊れた事など無かったのだが……」
「ひょっとして、止まってる時間って16時41分?」
「?、ああ、その通りだ」
「俺の時計もその時間で止まってる」
「……やっぱり」
「どういう事だ?」
「あくまで仮説だけど、ここは閉ざされた空間かも知れない」
「……閉ざされた?」
「ん、さっき言った時間はこの通路に転移した時の時間。ま、転移が原因で時計が壊れたって可能性もあるけど、ワタシの勘だと多分この空間には時間の概念が無いんだと思う」
「……はい?」
余りにも突拍子も無い発言にリィンの思考が固まる。
フィー自身もリベールに行った際、帰りの飛行艇でオリヴァルト皇子から影の国の話を聞かされていなければ、思い付きもしなかっただろう。
「……成る程、あり得るかもしれません」
エマが後ろの方から肯定する。
見ると、アリサ、エマ、エリオット、ミリアムの4人が大分遅れていた。
あ……、考えながら歩いていたから、後ろが付いて来てるか確認してなかった。
「ちょっと休憩しようか?」
「らじゃ」
「うむ、異論は無い」
一行は立ち止まり、銘々に休憩を取る。
それぞれに疲労の色が見える。行く先の解らない道を只延々と歩き続けるのは、肉体的にも精神的にもキツイものがあった。
「委員長はさっきのフィーの話があり得るっていうのか?」
「はい、私も以前読んだ古い文献を元にした仮説しか立てられませんが、この空間自体が現実の空間では無いと言うのは、あり得る事だと思います」
「現実じゃ無い?」
「ええ、一種の異世界に迷い込んだか、もしくは集団催眠の様なものに掛かったか、とにかくこれだけ歩いても何も変化が無いのは異常です。……まあ旧校舎自体が元々異常な場所ではあるのですが……」
「ふむ、つまりこのまま歩き続けてもここから抜け出す事は出来ないと?」
「はい、そういう事になります」
「ま、待ってくれエマ君!」
マキアスが鼻息を荒くしてエマに近づく。
「時間の概念が無いと言ったな、という事はここから出たら外はまだ17時前という事か?」
「はい、あくまで仮説ですが……」
「聞いたかエリオット!?」
マキアスの眼鏡がキラリと光る。
「うん、一時はどうなるかと思ったよ!」
エリオットの赤毛が炎の様に揺れる。
……どうやらこの二人は出口の見えない迷宮より、オペラハウスに間に合わない事の方が重要らしい。
恐るべしチルダー根性……。
「こんな阿呆はもう放っておけ!それで委員長、どうすればここから出られるのだ?」
「こういったものは特定の条件を満たせば出られる様になっているはずです。それさえ解れば……」
「条件ねぇ、……何かしら?」
「むう、考えられるとすれば、例の紙に書いてあった言葉か?」
「えーっと、深奥に眠る虚なる宝珠だっけ?……それって何の事?」
「うーん……」
全員が頭を捻る。
「待て!」
急にガイウスが緊張を孕んだ声を上げる。
「風の流れが変わった…」
ガイウスが告げる。
「そ、それは……、良い風なのか?」
ガイウスが読み取る風は、良かった物の試しが無い。
「ん、あれ?」
フィーが地面に手を付ける。
「?、どうかしたの、フィー?」
「ん、何か振動を感じるんだけど……」
「ああ、俺も感じる……。これは?」
皆後ろを振り返る。
何か来る?……、あれは……。
見ると、通路ギリギリいっぱい程もある、巨大な石の玉が迫って来るでは無いか!
「オイオイ!嘘だろ!?」
「何で!?坂道でもないのに!?」
「ふふん、ボクに任せて!行っけー、がーちゃん!」
……
……
……
……何も起こらなかった。
「あっ、まだ自己修復中だった……」
「逃げろ!走れ!」
全員が一目散に走り出す。
幸い玉の転がるスピードはさほど速くは無い、走れば十分に逃げられそうだ、……しかし。
「こんな一直線の通路で、あんなのどうしろっていうのよ!!」
「解らん!とにかく走れ!」
「エリオット、クリスタルフラッドで凍らせて止められないか!?」
「ぼ、僕もそうしたいけど、駆動する時間が……」
「レーグニッツ!お前、あの玉と壁の隙間に挟まって時間を稼げ!」
「殺す気か!そもそも何で僕が!」
「お前なら眼鏡とショットガンがちょうど引っ掛かりそうだ!」
「そんな細かい所に引っ掛かるか!!」
「委員長、胸で弾き飛ばせ無い?」
「ふぃ、フィーちゃん!!」
エマの眼鏡が鋭く光る。
「……ゴメンなさい」
……悪くない案だと思うんだけどな。
「あっ!?」
ミリアムが転んだ。
アガートラム無しの彼女は頭脳も身体能力も平均年齢以上ではあるが、所詮はチビッ子である。
「大丈夫かミリアム!」
ガイウスが駆け寄りミリアムを小脇に抱えて走り出す。
「えへへ、ありがと、ガイウス」
「喋ると舌を噛むぞ」
ノルドの兄ちゃんは頼りになる。……しかし、不吉な風しか読み取らないのは何故だ?
「ら、ラウラさん……、壁を崩せますか!?」
「……ふむ、成る程な、任せておくが良い!」
走りながら大剣を振り回し、ラウラが通路の石壁を壊しまくる。
「皆、先に行け!」
ラウラが瓦礫の山を作りながら全員を先に行かせる。
玉もすぐそこ迄迫って居るが瓦礫が阻み、何とか足止めになっている。
その隙にエリオットが駆動準備に入る。
「はぁ、はあ……、ラウラ準備出来たよ!退いて!」
「エリオット頼む!」
ラウラが退くと同時にエリオットが息を切らせながらクリスタルフラッドを発動させて一面を凍結させる。
巨大な石の玉は凍り付いてその動きを止めていた。
「ふぅ、全員無事か?」
ラウラが一仕事終えた解体業者の様に汗を拭う。
大剣が何故かハンマーに見える、黄色いヘルメットと腹巻きが似合いそうな光景だ。
「ああ、何とか無事みたいだな……」
「ミリアムちゃん、大丈夫ですか?」
「うん、ガイウスが助けてくれたから」
「ふ、気にするな」
「それにしても、何で坂でも無いのに転がって来たのかしら?」
「イヤ、そもそもここまで来る途中にあんな物は無かった筈だ、一体何処から来たんだ!?」
「これも委員長が言う異空間ならではの現象という事なのだろう、どうやら俺達の常識は通用しないようだ」
「はい、ユーシスさんの言う通りだと思います。この先も何が起こるか解りません、皆さん十分注意して……」
「待て!」
エマの言葉をガイウスが遮る。
えーっと、これはもしかして?
「また、風が変わった……」
「またか!?もういい加減にしてくれ!」
「ガイウス、お前のその言葉の後には必ず良くない事が起こるのだが何故だ?」
「そ、そう言われてもだな……」
「いや……、今度は俺にも感じられる、魔獣の気配だ!」
リィンの声に緊張が感じられる。
「ん、この先に何か居るみたい」
「ふむ、こちらに襲い掛かって来る気配は無いが……」
「一本道じゃあ、こっちから行くしか無いみたいね……」
「うう……、何処まで続くんだろ、これ」
「皆さん、頑張って下さい。必ず出口はあるはずです」
「……うん、がーちゃんも、もう動けるって言ってるよ。そんじゃ、張り切って行こー!」
一行は立ち上がり、再び歩き出した。
少し進むと明かりが見え、通路が終わり広い空間があった。巨大な魔獣が数頭居る。
初めて見る種類だが名前は知っている、ドゥルグネッサ、確かサラの危機管理の授業で習った。……気がする(半分寝てたのでうろ覚えだ)
滅多に遭遇する事は無いが、もし出会ったら戦わずに逃げた方が賢明な相手だ。(とか言ってたかも知れない……)
それが、1、2、3、……、8、9、10体?
オイオイ、冗談じゃねーぞ!あんなの10体も相手してられっか!!
「これは……、流石にマズイな……」
「ちょ、ちょっと何よあれ!」
「イヤイヤ、無理だろ!これは!」
「まぁ、普通ならここに飛び込む阿呆は居無いだろうな……」
各々が現状を嘆き、悲観的な意見を述べる。
「ふむ、相手にとって不足は無いな……」
ラウラだけはヤル気らしい。
恐らくヤツらの巣なのだろう、何体かは眠って居るらしい。まだこちらに気付いていない様だが、これ以上一歩でも近付けばアウトだ。
「どうするの?流石にあれとヤり合うのは無理」
「むう……、ん?見ろ」
ガイウスが指差す。
「奥に通路が見える。あそこまで辿り着ければ何とかなりそうだが……」
巨大な魔獣の遥か後ろには、これまで歩いて来たのと同じ様な通路が続いている。
しかし……。
「ここから300アージュ近くあるぞ、どうやって行く?」
「ボクはがーちゃんに乗って行けば良いから何とかなるかな?」
アガートラムが復活したミリアムは、お気楽感丸出しだ。
「どうしよう?皆であの魔獣の間を走り抜けるとしても1分弱は必要だよ……」
「1分か……、少し厳しいな」
「ええ、防御に徹して走ったとしても、1分は長いですね……」
「何かデコイになる物が必要か……」
「うーん……」
全員が頭を捻る。
「そうだ!さっきのデカイ玉は使えないか?」
成る程。
「……うん、アーツをぶつけて威力を上げてやれば……」
「……ええ、いけそうな気がするわ、やってみましょう!」
「良し、一旦さっきの所に戻るぞ!」
『了解!』
一行は来た道を引き返した。
「手順をもう一度確認するぞ?」
リィンが全員を見ながら言う。
「凍結を解除して玉を動かす、さっきの広い所まで行ったら玉の後ろに回り込みアーツをぶつけてブーストしてやる、その後は全速力で奥の通路に走り込む。これで良いか?」
「ええ、大丈夫よ」
「うう、結構綱渡りな作戦だけど……?」
「ふむ?それは今に始まった事ではあるまい」
「あはは、ホントそんなんばっかしだよねー」
「ふふ、言えているな」
皆一様に笑みを見せる。
こんな状況なのに……、全く頼もしい仲間だ。
「じゃあ行くぞ!アリサ頼む!」
「OK、いくわよ!」
アリサがフランベルジュで、離れた所から玉の氷結を解除する。
大玉が再び動き出した。
「来たぞ!走れ!」
全員全力で先を目指す。
先程の広い空間に出た。
「良し、一旦散ってくれ!」
全員がバラけて玉の通り道を作り、それぞれがアーツ駆動準備に入る。
大玉が一行の脇を通り過ぎた。
「今だ!」
エマ、アリサ、エリオット、ガイウスがそれぞれファイアボルトとエアストライクを発動する。
石の大玉が巨大な火の玉となり、魔獣の群れに突撃する。
突然の襲撃に驚いた魔獣達は、素早く火の玉から遠ざかり、中央に道が出来た。
と、同時にフィーとリィンがクロノドライブを全員に発動する。
「今だ、全員走れ!!」
皆が一斉にゴールへ向けて走り出す。
魔獣達は、初めは何が起きたのか解らず戸惑い、両脇に寄っていたが、次第に自分達の棲家を荒らした犯人が誰なのかを理解すると、激怒して襲って来た。
ゴメン、ちょっと通るだけだから。
フィーが閃光弾をばら蒔き視界を潰す。
近くに迫っていた魔獣2体が一瞬怯んで動きを止め、その背中に後から来た魔獣が激突した。
良し、今の内。
怒り狂った魔獣達の襲撃を掻い潜り、何とか奥に続く通路に辿り着く。
「はぁ、はぁ、全員居るか?」
「はぁ、はぁ、もうこんなの二度とゴメンだわ……」
「……ほ、本当ですね……」
「……あれ?エリオットは?」
「……え?」
エリオットの姿が無い。
振り返ると、10体のドゥルグネッサに囲まれたエリオットが居た。
「ミリアム!リンク繋いで!」
言いながらフィーはすでに動き出していた。
「ボク?……OK、任しといて!がーちゃん、行くよー!」
ミリアムもアガートラムの手に乗る。
「ううう、ヘマしちゃった……」
魔導杖を構え立ち竦むエリオット、魔獣達が威嚇しながら近付いて来る。
こうなったらやるしか無い。魔導杖をバイオリンに変形させて構える。
もしかしたら、……これが最後の演奏かな?
いつもそうする様に、彼は笑顔を見せてバイオリンに弓を添えた。
その時、目の前に双銃剣を構えた少女が風の様に駆けつける。
「え?フィー?」
「エリオット!合わせて!」
「……、了解!!」
エリオットが演奏を開始し、フィーが双銃剣を構えたまま回転を始める。
「行くよ!シルフィードダンス!!」
「セブンラプソディ!!」
二人の最強クラフトが同時発動する。7属性の効果を宿した弾丸が、360°に撃ち出された。
危険を察したドゥルグネッサ達が、一斉に二人から距離を取る。更にリィン達がアーツと遠距離クラフトで牽制してくれた。
今しかない!
「ミリアム!お願い!」
「りょーかい!がーちゃん、ヨロシク!」
ミリアムがアガートラムに乗ってフィーとエリオットの真上に来る。
フィーがポーチからワイヤーフックを出して、アガートラムに引っ掻け、左手でエリオットを掴む。
「良いよ!出して!」
「はーい!」
アガートラムが更に浮上し、その場を離れる。
「……フィー、重く無い?」
エリオットが申し訳無さそうに言う。
「ん、全然平気」
「……前にバイクに乗った時も言ったけど、役割が逆だよね?」
「そかな?気にしなくて良いんじゃない?」
「はぁー……」
恐怖から解放された安堵と、年下の女の子に抱えられる気恥ずかしさに、大きなため息を付くエリオット。
三人は何とか窮地を脱し、仲間の元へと合流した。
「ありがとう……。でも何で来たのさ、フィー……」
リィン達と合流したエリオットが、少し責める様な口調で言う。
「ボクの事を助けに来て、君まで巻き込んだら……」
「そんな事考えてたの?」
「考えるよ!勿論!」
「でも、ワタシが同じ様な目に遭ってたら、エリオットも来てくれたでしょ?」
「そ、それは……」
「だからおあいこ」
「ぜ、全然おあいこじゃないよ!」
「良いのおあいこで、だからこの話はもうおしまい」
フィーがエリオットに背を向ける。
ドゥルグネッサ達はしばらくの間こちらの様子を窺っていたが、これ以上自分達に仕掛けて来る事は無いと解ると、途端に興味を無くした様子だ。何体かは昼寝の続きを始めている。
騒がしてゴメンね。
取り敢えず心の中で謝っておく。
「怪我は無いか、二人共?」
リィンが近付いてくる。
「ん、へーき。それより先に進もう、早いトコこんな所出た方が良い」
「ボクもフィーにさんせー!」
ミリアムが元気良く同意する。タフなチビッ子達だと感心するリィン。
「そうですね、今はここを出る事を第一に考えましょう」
「ああ、僕は早くオペラハウスに行きたくて堪らないんだ!」
「お前の頭はそればっかりか!」
「貴方達、こんな所で揉めないでよ!」
「ふむ、この二人は何処に居ても変わらないのだな」
「ふふふ、俺達らしくて良いじゃ無いか」
各々が言いたい事を言い合う。
全く、良い仲間だ。
「良し、じゃあ先に進むぞ!」
『了解!』
一行は更に奥を目指して移動を再開した。