妖精の軌跡first【完結】   作:LINDBERG

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子猫と朴念仁

「これが祭壇か……」

目の前にはこんな場所に似つかわしく無い、小じんまりとはしているが立派な祭壇が在る。

何を奉っているのかは知らないが、周囲の禍々しさに相反して、ここにだけは清らかな空気が流れているように感じられた。

 

「とにかく調べてみましょうか?」

「うむ、見たところ危険な気配は無いが……」

「ああ、油断無くいこう」

 

一行が祭壇に近寄る。

 

「むっ?」

ガイウスが何かに反応するように歩みを止めた。

「どうかしたの?ガイウス?」

エリオットが不思議そうにそれを見つめた。

「あ、いや、その……」

ガイウスにしては歯切れが悪い。

 

どうかしたのかな?

……ん?

 

祭壇の前の空間が少し歪んでいる様に見える。その時、リィンが持っている獅子心勲章が輝き出した。

 

次の瞬間、歪んで見えた空間に巨大な甲冑が現れる。

以前リィンの妹を襲ったモノに良く似ている様にも見えるが、あれより一回り程も大きく、腕も左右に3本ずつ付いていてそれぞれに馬鹿デカい大剣が握られている。

東方に伝わる阿修羅を思わせる風貌だ。

 

「……、皆、風が変わった……」

ガイウスが力無く呟く。

「イヤイヤイヤ!出て来てから言ってどうする!?」

「言われずとも見れば解るぞ!得意の風の導きはどうしたのだ!?」

「す、すまん……、あまりにも風の評判が悪いので、言いそびれてしまった……」

ガイウスが申し訳無さそうに言う。

 

あっ、ひょっとして門の所で言ったの気にしちゃってる?……ガイウス、ごめんね……。

 

取り敢えず心の中で謝っておく。

 

「あれは……、まさか魔煌兵!?」

エマが誰にも聞かれない様に小さく呟く。

 

甲冑は目に光を宿らせると、大剣を構えたまま巨体を揺らせて一行に向かって来る。

ヤル気らしい。

 

「Ⅶ組総員、戦闘態勢!行くぞ!」

『おう!』

リィンの掛け声に反応するⅦ組一同、各々が武器を取り出し甲冑を迎え討つ。

 

最前衛にリィン、フィー、ラウラ、ガイウスの4人が立ち、その後ろから後衛としてユーシス、マキアス、ミリアムが援護する。アリサ、エマ、エリオットの3人は最後方から支援するといった布陣だ。

それぞれがリンクを繋ぐ。

 

 

 

甲冑が右手の大剣を3本まとめて横薙ぎに払ってきた。

前衛の4人が飛び退いてかわすが、後追いの爆風が4人を吹き飛ばす。受け止めていたら、そのまま煉獄の果てまでかっ飛ばされそうな一撃だ。

 

力比べじゃ話になら無いか……、それなら。

 

フィーがいち早く態勢を立て直し、弾幕を張りながら背後へ回り込む様に動き出す。

甲冑が釣られてフィーの動きを追う。

 

そうそう、こっちだよ。

 

フィーが少しずつ速度を上げて、更に甲冑を引き付ける。甲冑が大剣を振り上げて襲い掛かってきた、必然的に大きく隙が出来る。

 

良し、皆お願い!

 

リィン、ラウラ、ガイウスの3人が飛び掛かる。狙いは甲冑の左足一点、まずは機動力を奪う策だ。

八葉の業炎撃、アルゼイドの鉄砕刃、ノルドのゲイルスティングを同時に叩き込む。

だが。

 

……え?ウソ?

 

技を繰り出した3人の方が弾き飛ばされた、想定外の出来事に態勢を崩すリィン達。

甲冑がフィーから目標を3人の方に切り替えて襲い掛かる。

 

「こっちだ!」

マキアスがショットガンを乱射して牽制する。だが、甲冑は意にも介さず大剣を振りかぶる。

「こんにゃろー!いっけー!がーちゃんビーム!」

ミリアムがアガートラムを出現させ、ライアットビームを射出する。極太の破壊光線が甲冑の頭部を直撃し、僅かに甲冑が態勢を崩した。

 

その隙にターゲットになっていた3人が離脱し、駆動準備を終えたアリサ、ユーシス、エリオット、エマの4人が同時にアーツ攻撃を仕掛ける。

「これでも喰らいなさい!」

アルテアカノン、ラグナヴォルテクス、グランシュトローム、クラウソラリオン、並みの魔獣なら骨も残らない程強烈な4連発が、甲冑を容赦無く攻め立てる。辺りに大量の粉塵が立ち上った。

 

前衛に回っていたメンバーも合流し、再び一ヶ所に集まるⅦ組一同。

 

「ふっ、流石にこれでは一溜まりも無かろう」

「う、うん、一時はどうなるかと思ったよ」

ユーシスとエリオットが勝利を確信したのか笑みを浮かべる。

……が。

「……いえ、まだです!」

エマが魔導杖を構えたまま、警戒を促す。

 

立ち上る粉塵を振り払い、甲冑が咆哮と共に姿を現す。所々煤けてはいるがほぼ無傷の様だ。

「な!?バカな!」

「う、ウソぉ??」

一瞬で笑顔が凍り付くユーシスとエリオット。

 

「どうやら、物理攻撃もアーツ攻撃もほとんど効かない相手の様です!」

「ちょ、ちょっと待って!そんなのどうしろって言うのよ!?」

「!!、来るぞ!皆!散れ!」

全員が飛び退いて避けた所に、甲冑の大剣が6本まとめて降り下ろされた。飛行艇が墜落したのかと思う程の衝撃波が辺りに拡がる。

 

「ぐあ!」

一瞬逃げ遅れたマキアスが左足をやられた。

「レーグニッツ!大丈夫か!?」

「くっ……、大した事は無い、飛び散った瓦礫が当たっただけだ……」

「肩に掴まれ、一度離脱するぞ!」

「す、すまない。まさか君に助けられるとはな……」

「ふん、無駄口を叩く余裕があるなら無事な方の足を動かせ!」

「ああ、宜しく頼む……」

マキアスがユーシスの肩に掴まって戦闘圏内から離れる。

 

「皆、こっちに注意を引き付けるんだ!」

「らじゃ!ワタシに任せて!」

フィーが動き出し、甲冑の頭部に銃撃を浴びせる。狙い通りに甲冑はフィーを目標にして大剣を振り回しながら追ってくる。素早い身のこなしで避けながら、フィーは更に甲冑を引き付けていく。

 

横目でチラリと確認する、ユーシスとマキアスの撤退は完了していた。

 

デカさと頑丈さと力自慢が売りの相手か……。

スピードが無い上にオツムの出来がイマイチだから避けられるけど、攻撃範囲が広いからいつまでもは逃げ切れない。しかもこっちは、今までずっと歩き通しで全員疲労が半端じゃない、早めにケリを付けないとマジで全滅するかも……。

さっきの攻撃を見ると、アガートラムのビームだけは少し効果がある様に見えた、多分強力な光学兵器の類いならダメージを与えられそうだ……。

 

……光学兵器か……、光学兵器ねぇ……。

……

……

……

無ぇよ!そんなモン!!!

 

 

甲冑が再び6本まとめて大剣を降り下ろして来た。

 

ちっ……。

 

フィーがトップスピードでその場を離脱する。

轟音と共に先程と同じ様に衝撃波が拡がり、クレーターが出来上がる。

 

甲冑から距離を取った所で双銃剣を構えるフィー。

 

考えながらじゃ駄目だ、集中しないとヤられる。それに、考えるのはワタシより適任が居る。

 

チラリとエマに視線を向ける。

 

フィーからの視線を受け取ったエマは小さく頷き、全員に向けて口を開いた。

「皆さん聞いて下さい!甲冑の腹部に赤い球体が在るのが見えますか?」

全員の視線が同じ場所に集まる。確かに甲冑の腹に当たる部分に大きくて赤い玉の様な物があった。

「先程こちらから攻撃を仕掛けた際に、あの部分を守る様な仕草をしていました。恐らく甲冑の核に当たる部位だと推測します。あそこをピンポイントで狙う様に攻撃して下さい」

 

「……いや、そんな事言われても」

「あの6本の腕を掻いくぐって、あそこを攻撃しろって事?」

「うーん……、ちょっとムリなんじゃないかな?」

「……だが、やるしかあるまい!」

「ふふ、承知した!」

「良し、行くぞ!アリサ、エリオット、ミリアム、委員長、援護を頼む!」

リィン、ラウラ、ガイウスの3人が行動を開始する。

「フィー、そのままヤツの気を引いてくれ!ガイウスは右から、俺は左から攻める!真ん中が開いたら、頼むぞ、ラウラ!」

「らじゃ!」

「了解!」

「任せておくが良い!」

 

フィーが再度先陣を切って仕掛ける。

甲冑から付かず離れず絶妙な位置取りをキープしたまま出来るだけ引き付ける。

 

もう少し……、もうちょっと……、今だ!

 

フィーが突然全速力で駆け出し、スライディングで甲冑の股の間をくぐり抜ける。

目標を見失った甲冑の動きが一瞬止まった。

「ミリアム!お願い!」

「おっけー、いくよー!がーちゃんビーム!」

アガートラムがライアットビームで甲冑の左足を撃ち抜き態勢を崩させた。

フィーはそのまま駆け抜けてアリサ達と合流する。

 

「うおおおおお!!」

「はあああああ!!」

リィンとガイウスが左右から焔の太刀とカラミティーホークで同時に挟み撃つ。

甲冑が大剣を十字に交差させてそれぞれを防いだ。

 

「エリオットさん、今です!」

「了解!委員長!」

エマとエリオットが互いにジャッジメントボルトで集中的に核を狙う。甲冑は残った2本の腕の剣を捨てて、素手でそれを受け止める。

完全に正面のガードが空いた!

「ラウラ!決めてくれ!」

「無論だ!任せよ!!」

ラウラが空中で舞うように回転し、自身の力に遠心力を乗せた必殺の一撃を繰り出す。

真・洸刃乱舞、ラウラ最強の技だ。

 

以前にフィーは、学院ギムナジウムの武術修練場でラウラと手合わせをした際にこのクラフトを勇敢にも受け止め、壁をぶち破りプールまで吹き飛ばされた事があった。

あの時はマジで走馬灯が見えた。

 

「やあああああ!!」

ラウラが気合いと共に甲冑の核に切りかかる。完璧なタイミングだ、回避も防御も不可能、これで決まった。

 

だが、ラウラの剣が核に届く瞬間。

「何!?」

防御結界が核を包み込んで剣撃を阻む。

「くっ!?あああああ!!」

それでもラウラは強引に大剣を捩じ込む。

「ああああああ!!!!」

鈍い音を立てながら、結界を打ち砕いた!

「もらったぁ!!!」

核に追撃を打ち込もうとするラウラ、だが左右からアーツを防ぎきった2本の腕が迫って来た。

「くっ!!?」

咄嗟に自身の剣でガードを固めたが巨大な拳の2連撃をまともに受け止めてしまい、無情にもラウラの大剣は根元からへし折られラウラ自信もダメージを負いながら数アージュ吹き飛ばされた。

 

ラウラ!!

 

一瞬フィーの意識がラウラに飛びそうになるが、辛うじて堪える。このチャンスを逃せば、もうこちらに勝機は無い。

 

「アリサ!決めちゃって!!」

「了解、フィー!これで終わりよ!!」

限界ギリギリまで力を溜めた弓矢が、アリサの手を離れ一直線に甲冑の核に向かって飛ぶ。紅耀石の力でブーストされた矢は、見事に核に突き刺さった。

甲冑から苦悶に満ちた咆哮が上がる。

 

「やった!!」

エリオットが歓喜の声を上げる。

「お見事、アリ……サ???」

しかし甲冑はまだ動いていた、どうやら完全に破壊するまで動きは止まらないらしい。

リィンとガイウスに向けて大剣を降り下ろす。

 

「もう終わりだよ、イグニッション!」

フィーが小さく呟くと、核に突き刺さった矢が爆発する。ありったけの爆薬をつぎ込んだ、フィーとアリサ渾身の一撃だ!

甲冑は6本の腕をだらりと垂らすと、そのまま後ろに倒れ込んだ。

 

ふぅー、終わったー……、ん?

 

甲冑の腕が一本だけまだ動いている、大剣をフィーに向けて投げつけてきた。

 

最後の悪あがきか……。

 

造作もなく避けようとするフィー、……しかし。

 

ん、あれ?

 

足が動かない。

 

え??ウソでしょ???

 

ずっと歩きっぱなしの上、先程の戦闘では陽動のために散々動き回ったのだ、常人なら既に倒れていてもおかしくない。

 

動け!動いて!!

 

大剣はすぐそこまで迫っている。

 

…………、ダメか……。

 

どうやっても足が一歩も動かない、這って逃げる時間ももう無い。フィーは真っ直ぐな瞳で、すぐそこに迫り来る死を見つめた。

 

みんな……、ごめんね……。

……ごめんなさい……。

 

生きる事を諦めた訳では無い……、だが、死を恐れてもいない。

フィーは少しだけ困った様に笑うと、そっと瞳を閉じた。

 

 

 

「フィー!!」

そこに、リィンが全速力で駆け付け、フィーを突き飛ばす。

 

え?

 

尻餅を着くフィー、その目の前に大剣が落下し、衝撃で舞い散る砂埃に遮られてリィンが見えなくなった。

「り、リィン!!!」

足が動かないフィーが地面を這いつくばってにじり寄る、視界が砂埃で効かず良く見えない。

 

「リィン!!」

「リィンさん!!」

アリサ達も駆け付ける、砂埃が晴れてきた。

 

お願い、無事で居て……。

 

祈る様な想いでリィンを探すフィー、視界が開けて惨状が見えてくる。

リィンはうつ伏せに倒れ、下半身が巨大な大剣の下敷きになっていた。

「リィン!!!」

フィーが大剣にすがり付き、何とか持ち上げようとする。

「ミリアム!」

「う、うん、がーちゃん、お願い!」

アガートラムが出現し、大剣を持ち上げる。負傷していたマキアス達も駆け付け、全員が一心になって力を込める。

「タイミングを合わせろ!3、2、1、ふん!!」

ユーシスの掛け声に合わせて一斉に力を入れる。

何とか大剣をリィンからどかし、フィーがリィンの体を抱き締めながら起こす。

「リィン!リィンってば!!」

 

「……ん、……んんっ??」

リィンの目が開いた。

「リィン!!」

「大丈夫なの!?リィン!!」

「僕たちが解る!?リィン!?」

全員が心配そうに覗き込む。

 

リィンの目がフィーを見つめた。

「……ああ、フィー……、……怪我は無いか?」

「うん……、大丈夫だよ……」

こんな時でも自分以外の心配をする。

もう驚きはしない、……リィンだからだ。

「……そっか、……良かった」

リィンがフィーの頭を優しく撫でる。

「……俺の足、どうなってる?」

フィーが、チラリと視線を向ける。が、すぐに視線を背けた。

……ぐちゃぐちゃだ、左足は骨が制服を突き破って飛び出している、右足は……、それ以上だ。

「……酷い事に、なってるみたいだな、ははは、腰から下の感覚が無いよ……」

リィンが自嘲気味に笑みを見せる。

「……車椅子の、お世話になるしか無いかな?……ははは……、また、エリゼに怒られそうだ……」

 

「……大丈夫だよ、リィン……」

フィーがリィンの頭を強く抱き締める。

「……ワタシが……、押すから……」

更に強く抱き締める。

「……ワタシが、……一生、リィンの車椅子、押すから!」

力の限り、ぎゅっと抱き締める。

「……ずっと!……ずっと!押すから!!」

もう離れなくなる程、きつく抱き締める。

「……ふぃ、フィー、……ちょっと苦しい……」

リィンが少し顔を歪めるが、フィーは決して離さなかった。

 

「貴方達……、……もう……」

「リィンさん……、フィーちゃん……」

アリサ達が涙ぐむ。

 

 

 

「……そなた達、こんな時に言いたくは無いが……」

「ああ、ここから出る方法を探ろう……」

「き、君達、もう少し空気と言うものをだな……」

「……、待て!!」

ガイウスが緊張した声を上げる。

「風が変わった!皆気を付けろ!!」

「こんな時にか!?」

「ええい!もう少し空気を読めんのか!?」

「いや、ユーシスにだけは言われたく無いのだが……」

 

見ると、奥にある祭壇が強く光を放っている。いつの間にかあの巨大な甲冑の姿は、影も形も無くなっていた。

 

「??何がどうなってるの?」

「どうなんだ!?今回も悪い風なのか!?」

「……解らん」

「皆!リィンとフィーを中心にして陣形を組むのだ!」

「うん、了解!」

「あれ?ちょっと待って、この感じは……」

祭壇から出る光が大きくなった、光は周囲を包み込み、Ⅶ組全員もその範囲に入る。

 

全てが閃光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ん、あれ?ここは?

 

「……うーん??」

「こ、今度は何よ??」

「あれ?ここって??」

一面が真っ赤に染まった煉獄の景色とはうって代わり、そこは旧校舎のエレベーターホールだった。

 

「戻って来たのか……」

リィンがフィーの横で呟く……、というか普通に立っている。

「え?リィン、足は?」

「えっ……、あれ、何とも無いな」

右足と左足を交互に上げ下げするが、先程の目を背けたくなる凄惨な怪我が嘘の様に何とも無い。

「僕の左足も大丈夫だ」

マキアスが負傷したはずの足を上げて観察するが、こちらも何とも無いらしい。

 

……え、これって……。

 

「皆さん、落ち着いて全員居るか確認して下さい」

エマが呼び掛け、それぞれが互いの無事を確認し合う。

アガートラムを含む全員が無事だ。

 

「どうやら元の場所に戻れた様ですが……、ラウラさん、時計を確認してもらえますか?」

「ふむ、……16時41分だ、正常に動いているぞ」

「私の時計も同じです、日付も間違いありません」

「とすると……、俺達が飛ばされたあの時に戻ったということか?」

「いえ……、戻ったと表現するのが正しいのかどうか……。やはり、集団催眠の可能性もありますね」

 

……え、マジで?夢オチ???

 

「……いや、それでは説明がつかぬ事があるぞ」

ラウラが自身の大剣を掲げて見せる、それは根元からポッキリと折れていた。

「催眠や幻覚の類いなら、この折れた部分は何処に行ったのだ?」

フィーもポーチを確認するが、爆薬が全く残っていなかった。残念だがミヒュトの店の爆破は後日に持ち越さなければならないらしい。

「……そうだね、僕もあの体験が夢だったとはとても思えないよ」

「……となると……」

「うーん???」

そこで全員の思考が固まる、どう理屈を付けても納得のいく説明など出来そうに無かった。

 

「まぁ、全員無事なんだし、これで良いんじゃ無いか?」

「……そうね。うん、それが何よりだわ」

「ああ、そうだな……」

「ところで、結局この体験は何だったのだ?」

ガイウスが根本的な疑問を口にする。

「虚なる宝珠、だったか?」

「ああ、そういえば……」

「結局ナンにも無かったねー?」

「ああ、旧校舎の謎も解けないままだな……」

「ふむ、骨折り損だったか?いや、時間が経過した訳でも無いから、損すらしてないのか?」

不意に空気が澱む、あれは一体何だったんだ?

 

ん、あれ?

 

フィーがポーチを再度確認する。

「?、どうかしたの、フィー?」

「いや、何か変なのが……」

フィーはポーチからそれを取り出した。

初めは自前の手榴弾だと思っていた、だがそれよりも幾分軽く表面がツヤツヤと黒光りしている。形は正20面体で手のひらに収まる程の大きさだ。勿論、フィーの持ち物では無い。

 

??、なんだ、コレ??

 

「フィーの所持品では無いのだな?」

「ん、全然知らない」

「となると……」

「これが……、宝珠?」

「でも、何でフィーのポーチに?」

全員が首を捻る。

 

「ところで……、それは一体何なのだ?」

ユーシスが当然の疑問を口にする。

 

そう、それが問題だ。見た目は黒燿石っぽいが質感が全然違う。黒くて解りにくいが所々に細かい彩飾が施され、それなりに価値がありそうな代物にも見える。

単純に観賞用のお宝なのだろうか?

 

「フィー、ちょっと見ても良いか?」

「ん?、はい」

フィーが手渡し、リィンが間近に眺める。

「これが旧校舎の秘密なのか?……ん?」

リィンが何かに気付く。

「なぁ、ここの先端にボタンみたいなのがあるんだが?」

「え?どれどれ?」

フィーが覗き込むと、確かに小さな突起物の様な物がある。

 

あれ?ワタシが見た時にあんなのあったかな?

 

「リィン、早く押してみてくれ!」

ラウラが目をキラキラさせながら煽る、いつもの事だが興味のあるものには我慢が出来ない様子だ。

「ああ、それじゃあ、押すぞ?」

全員が頷き、固唾を飲んで見守る。

リィンがボタンを押した。

……

……

……

……?

「何だ?何も起こらぬではないか……」

ラウラが解りやすく肩を落とす。

「リィン、手に持ってて何か変化ある?」

エリオットがリィンの顔を見る。

リィンは一点を見つめたまま動こうとしない。

「?、リィン、どうかしたの?」

アリサも不思議そうにリィンの顔を覗き込んだ。

やはりリィンは動かない。

「リィンさん?」

「どーしたのリィン?」

仲間達に不穏な空気が漂う。

 

「す、……」

不意にリィンが口を開いた。

「……すまない、エリゼ!不甲斐ない俺を許してくれ……」

突然、妹に懺悔しながら膝を着くリィン。

「な、何だ、どうした?」

「おい、リィン!しっかりしろ!」

「俺は、俺は自分の事しか考えられない駄目な兄貴だ……、馬鹿と罵られても仕方ない人間だ……、すまない……、エリゼ……」

 

どうしたんだろ?ようやく自分の朴念仁さ加減に気が付いたのか?

……イヤ、コレはもしかして?

 

フィーがリィンの持っている宝珠を無理矢理取り上げる。

「お、俺は……、あ、あれ?」

リィンが我に返り、懺悔を中止した。

「あれ、俺は、何を?」

どうやら状況が解っていないらしい。

 

「ふむ、どうやらその宝珠の影響の様だが?」

「こ、これってどういう現象なの?」

「……うーん、リィンさんだけでは何とも言えませんね……」

「良し、レーグニッツ、次はお前だ」

「な、何故僕なんだ!!?」

「お前は副委員長だろうが?リィンの次は副委員長と相場が決まっているものだ」

「何の相場だ!!」

「はい、副委員長、ヨロシク」

フィーが宝珠を手渡す、その瞳は悪戯好きな子猫の目だった。

「くっ……、い、良いだろう、やってやろうじゃ無いか!」

マキアスが宝珠を受け取り、覚悟を決めてボタンを押す。

……

……

……

 

今度はどうなるんだろ?

フィーはワクワクした目を向ける。

 

「ね、姉さん……、す、すまない……。僕がもっと強ければ、貴女を守ってあげられたのに……」

どうやら亡くなった従姉の事を思い出しているらしい。

 

……これは、……さすがに重過ぎる!

 

フィーはすぐにマキアスから宝珠を取り上げた。

「姉さん……、は、僕は何を?」

マキアスが元に戻った。

「ふむ、どうやら持ち主の心の傷をえぐって、ネガティブな思考にさせる効果があるらしいな」

「ね、ネガティブって、何の為に?」

「さあ?使用用途は良く解りませんけど、ただこの現象は……」

「ええ、人の精神に干渉するアイテム。現代の技術で造るのは不可能な代物よ」

「えーっと、要するにコレって?」

「アーティファクトというやつだな」

 

アーティファクト……、古代人の叡智、早すぎる女神の贈り物。様々な言われ方をするがゼムリア文明以前に女神が人に託したとも伝えられるオーバーテクノロジーの総称である。

 

「しかし、アーティファクトって事は……」

「ええ、お宝には違いありませんけど……」

「私達が持つべき物では無いな、教会に預けるべきだろう」

「え、教会?何で?」

フィーが不思議そうな顔をする。

「アーティファクトに関する物は全て七耀教会の『封聖省』で管理すると国際法で決まっています。無許可で所持していると罰せられる事もありますよ?」

 

ふーん、そうなんだ……。

 

「じゃあ、教会が買い取ってくれるって事?」

「うーん……、品と引き換えにミラを渡すという事は無いと思いますけど……」

「え?買い取ってくれるんじゃ無いの?」

「フィーちゃん……、教会にミラを要求してはいけませんよ」

 

……言われてみれば確かにそうだ。

 

「取り敢えず、トリスタの礼拝堂に行ってパウル教区長に相談してみるか?」

「そうだな、それが間違い無かろう」

「ええ、少なくともこのまま所持していて良い物じゃ無いのは確かだわ」

意見が纏まった。

 

「あっ、もうこんな時間だ。すまないが僕とエリオットはお先に失礼させてもらう!」

「うん、皆ごめん、マキアス急ごう!」

エリオットとマキアスが全速力で旧校舎を後にする、ヘイムダルのオペラハウスに向かったのだろう。

 

「ふむ、すまぬが私もここで失礼させて貰う。腰の物が無いとどうにも落ち着かん、購買部に行って来る」

ラウラが折れた大剣を見つめながら言う

「あ、私もフェリスと食堂で約束してたんだったわ。ごめん、後は宜しくね」

ラウラとアリサも行ってしまった。

 

「あ、ボクもマルガリータに呼ばれてたんだった、ゴメン、先行くね」

「教会など大人数で押し掛ける場所でもあるまい、俺も馬術部で馬房の掃除をせねばならん」

「うむ、俺も部活の途中で抜け出して来たのを忘れていた。すまんがここで抜けさせて貰う」

ミリアム、ユーシス、ガイウスもその場を後にする。

「何か解ったら後で教えてくれ」

「了解、皆ありがとう、助かったよ」

 

結局元々居た3人が残った。

 

「さて、じゃあ教会に行ってみるか?」

「らじゃ」

「あっ、そう言えばオリジナルの勲章も学院長に返さなくてはいけませんね?」

「ああ、そうだな、じゃあ先に学院長室に……」

「いえ、私が学院長に事情を説明しながら返しておきますので、教会にはリィンさんとフィーちゃんでお願いできますか?」

「?、構わないが、委員長も何か用事でもあるのか?」

「ええ、私もセリーヌ……、じゃなくて文芸部の方でちょっと……」

「?、それじゃあ頼むよ、委員長」

リィンがエマに勲章を手渡す。

「はい、では、そちらもお願いしますね」

「ん、さんくす、委員長」

エマは笑顔で答えて扉から出ていった。

 

フィーとリィンだけが残された。

「それじゃあ、俺達も行くか?」

「ん、らじゃ」

歩き出そうとする二人、だが。

 

あれ?

 

フィーの足取りが覚束ない。

 

「?、どうした?フィー」

「ん、ちょっと足がもつれて……、あっ」

膝をついてしまうフィー。

「大丈夫か?」

「ん、平気……、おかしいな?」

「……もしかして、負傷した箇所は治るけど、体力まで戻ってる訳じゃ無いとか?」

「……そかも」

 

何て不親切なんだ、ヤッパリあの空間を考えたヤツはロクなもんじゃない。

 

「しょうがないな、ほら」

リィンが屈んで背中を見せる。

「?、なに?」

「こんな所じゃゆっくり休めないだろ?旧校舎の外にベンチが在ったはずだから、そこまで」

「……ん」

リィンの背中におぶさるフィー、何となく懐かしい匂いがする。

 

リィンの背中、意外と大きいんだね。

 

「ちゃんと掴まってろよ、行くぞ」

「ん、ヨロシク……」

リィンが立ち上がり、二人は旧校舎を後にした。

 

 

 

 

 

 

旧校舎前のベンチで一休みすると、フィーの足はすっかり回復した。今はリィンと並んで歩き、トリスタの礼拝堂を目指している。

 

……それにしても。

「さすがリィンだね、まさか、おんぶを選択するとは」

「いや、他に方法を思い付かなかったんだが……」

「ん、お姫様抱っことか?」

「……大人をからかうんじゃありません」

少し困った顔を見せるリィン。

 

「……ねぇ、リィン、あのさ……」

「ん?何だ?」

「……あの時言った事、覚えてる?」

「あの時?」

「リィンの足が潰された時の事」

「ああ、勿論覚えてるぞ」

「ん……、あの時言ったのは……」

「危うく本当に車椅子生活になって、皆に迷惑かける事になるかと思ったよ。フィーも一生車椅子を押してくれるなんて……、嬉しいけど大丈夫だぞ?慣れてくれば車椅子でも一人で何とかなると思うし?」

「!!、……ん、そか……」

フィーが俯いてリィンから視線を外す。

 

……

……

……

……こ、こ、この朴念仁が!!!!

そういう意味で言ったんじゃねーよ!!!どういう頭の構造してやがんだ!!?脳ミソ腐ってんじゃねーのか!!!

あれか!?胸に巣食う獣とやらにそういう感情は食べられちゃうのか!?そうなんだな!?それなら何とか納得してやる!!!

……いかん……、洒落にならん程の殺意が溢れ出して来た……。

 

「?、フィーどうかしたのか?何かもの凄くドス黒い気配を感じるんだけど?」

「ん、気のせいじゃない……」

フィーはリィンの方を見もせずに答える。

「え、えーと、フィーさん、もしかして怒ってます?」

「……別に」

「イヤ、絶対怒ってるよな、俺、何かしたか?」

「……」

無言を貫くフィー、全身からはどえらい殺気を放っている。たまたま目の前を通り掛かった子犬が一目散に逃げ出した。

リィンもそれ以上は聞かずに並んで歩き始める。

二人は無言のまま礼拝堂を目指した。

 

 

 

 

 

礼拝堂前に辿り着く。

先程よりはフィーも落ち着いていたが、まだ怒りは収まら無い。

「……なあ、何で怒ってるんだよ?」

「怒って無いよ!」

「イヤイヤ、どう見ても怒ってるだろ……」

「怒って無いって言ってるじゃん!」

フィーが礼拝堂の扉に手を掛けると、入れ違いに誰かが中から出てくる。

「おっと、すまんな」

出て来たのは白い法衣を着た緑のツンツン頭の男だ。……何処かで見た気がする。

「あれ、もしかして、フィーちゃんか?」

「え?えーっと……」

「ほら、俺や俺、前にヘイムダルのホテルの前で……」

「あ、あの時の神父!」

「そうそう、その神父さんや」

「確か……、カビン・グラハム!」

「そうそう、今日もお花を生けましょう……って違う!ケビンや!ケビン・グラハム!何でどいつもこいつもグラハムだけは覚えてんねん!」

「?、いや、グラハムは覚えやすいよ?」

「ええ、グラハムの方は覚えやすいですね」

真顔で答える二人。

「え?ええ!?俺が間違っとんのか?」

「で?シビンはこんなトコで何してんの?」

「そうそう、病気で入院したらこいつが無いとどうにもならん……って違う!ケビンやケビン!もう突っ込まんからな!」

「ハイハイ、で、何してんの?」

「うわ、軽くスルーしよった……、お兄さんもう泣いてまうぞ!……パウル教区長の代理や、アルテリアで会議があってな、1日教区長って訳や」

「ふーん……」

「ふーんってキミ……、もうちょっと何かあるやろ?」

「いや、特には」

「……はぁ、……ほんで、今日は何や?まさか、また危ない事してるんや無いやろな?」

「ん、……それは、もうしてきたから大丈夫」

「そかそか、既にやってきたからもうこれ以上は無いってか……。……ドアホ!どういう理屈やねん!」

「そんな事より、これ見て欲しいんだけど」

フィーが宝珠を手渡す。

「?、何や、これ?」

「イヤ、実はですね……」

リィンが掻い摘まんでこれまでの経緯を説明して、フィーがミヒュトに貰った羊皮紙を見せる。

ミヒュト自体は勿論秘密だ。

 

 

 

「なるほどな、確かにアーティファクトみたいや……、それも封聖省に未登録の品みたいやね」

「……それって凄いの?」

「凄い何てもんや無いで!新しい遺跡を発見した様なもんや!」

「……いや、例えが良く解んない」

「とにかく物凄い事やで、機能性は試したんか?」

「ん、ボタンを押すとネガティブになる……」

「ね、ネガティブ?……何やそれ?」

「えーっとですね……」

またリィンが掻い摘まんで説明する。

 

「ほーう、それは珍しいタイプやな」

「……試してみたら?」

「えーっと、ボタンってこれか?そんじゃあポチっと」

……

……

……

神父の様子が変わる。

「う、うう、これは?……くぅ……」

苦し気に顔を歪める神父。

 

フィーが宝珠を取り上げた。

 

「……くはぁー、これはキツいな」

「どう、何か解った?」

「ああ、何となくはな……。リィン君やったか?キミがそいつに見せられたのは、自分のトラウマというか、これまで生きてきた中で、一番キツイ時の事や無かったか?」

「!、ええ、確かにそうです」

神父が羊皮紙を見つめる。

「なるほどな、それで虚なる宝珠、心に向き合えか……。こいつは、思ったより危険な代物かもしれんな……」

「どういう事?」

「そいつは恐らくネガティブにさせるというよりは、使用者の心の中の一番根深い傷をほじくり返して、無理矢理過去と向き合わせる代物や。使いようによっては人間を廃人にもしかねん、メチャクチャ危険なアーティファクトやで」

「そんなにヤバい物なの?」

「ああ、あくまで使い方次第やけどな。で、この紙にある心に向き合えの一文やが、これはそのまんまやろ。自分のトラウマと向き合って克服しなさいって意味やろな」

「……そういえばフィーが宝珠を持った時はボタンが無かったって言ってたな?」

「……うん、それに何でかワタシのポーチの中から出て来たんだけど……、それは何でだと思う?」

「簡単や、フィーちゃんはトラウマになる様な事が無いか、既に克服しとるっちゅー事やな」

「ワタシのトラウマ……」

なるほど、心当たりはある。

 

そっか……、さんくすクローゼ。

 

「フィーちゃんのポーチから出て来た、ってのはよう解らんが……、フィーちゃん自身何か心当たり無いんか?」

「ん……」

 

自分の心に向き合え……、か。確かに、あの時、は向き合ってた気がする。それが理由かな?

その結果は……。今はよそう、また殺意が沸き起こりそうだ。

 

「ケビンは何が見えたの?」

話を変えるフィー。

「お、ようやく名前覚えてくれたな。そうやな、詳しくは言えんが俺の家族の事や。もう大丈夫やと思ってたんやけど……、俺もまだまだヘタレのままやな……」

神父が少し自嘲する。

 

詳しくは聞かない方が良いかな?

 

再度話を変える。

「で、これを教会に渡すと報酬とかはあるの?」

「報酬?そんなんあるわけ無いやん」

「……え?無いの?」

「教会は民間の団体とちゃうからな、後で賞状と記念品位は贈られると思うけど」

「えーと、ミラは?」

「だから、無いって」

「ワタシ達がどんだけ苦労したと思ってんの!!?」

「そんな事言われてもな……」

「リィンなんか両足ペチャンコになったんだよ!!」

「イヤイヤ、足メッチャあるやん!思い切った嘘はあかんで!!」

「……それがですね……」

リィンが三度掻い摘まんで説明する。

 

 

 

「れ、煉獄……、君達、思ったより苦労人なんやね……」

神父の目に同情と慈愛の色が浮かぶ。

「ね、だから、お願い」

フィーが上目遣いに頼む。だが悲しいかな、色気は全く感じられなかった。

「イヤー、そう言われてもなぁ……。そや、俺がお小遣い上げるからそれで勘弁してくれんか?」

「お小遣い?」

「ああ、ええっと、確か500ミラ位は持ってたはず……」

神父が法衣のポケットを探る。

「それって、ただのお小遣いじゃん!!」

「だから、お小遣いって言っとるやろ!!」

「フィー……、もう諦めよう。後で魔獣狩りでも何でも付き合うから……」

「……リィン君の彼女も大概やな……、何かキミの事、他人とは思えなくなってきたわ……」

「ど、どうも……」

「そや!学院卒業したら俺んトコ来んか?キミには素質がある気がするわ(聖痕の……)」

「か、考えておきます……」

リィンが顔をひきつらせる横で、フィーは双銃剣のマガジンに残った弾丸をありったけ詰め込んでいた。

「?、えーっと……フィー、何やってんだ?」

「封聖省って本部はアルテリアに在るって言ってたよね?」

「?、ああ、そやで」

「ちょっと話し合いに行って来る」

アンゼリカに導力バイクを借りようとARCUSを取り出すフィー。

「待て待て待て!ちょっと待てフィー!!」

「しゃ、洒落になっとらんぞ!!絶対やめとき!!」

「大丈夫!誠心誠意話し合えばきっと解ってくれる」

「どう見ても話し合いに行くスタイルじゃ無いだろ!!とにかく落ち着け!!」

「そや!封聖省に殴り込みに行くんなら、いくら俺かて黙ってられんぞ!!」

「だから、話し合いだって」

双銃剣がキラリと光る。

「イヤイヤイヤ、完全にヤル気やないか!!取り敢えずその物騒な双銃剣しまってくれ!!……ん?双銃剣?」

不意に神父の眉間に皺が寄る。

「爆薬に双銃剣?……、身長も合っとる……」

神父が考え込む仕草を見せた。

「?、どうかしましたか?」

リィンが不思議そうに見つめる。

「なぁ、フィーちゃん、まさかとは思うが【クラさん】って言葉に聞き覚えは無いか?」

フィーの動きが止まる。だが前回と違い、決して動揺を顔には出さない。

「……クラさん?何それ?」

「いや、今週に入って七燿教会に回って来た手配書なんやけど……。身体的特徴と使こてる武器が丁度フィーちゃんと一致するんや」

「……ふーん、どういう手配犯なの?」

「強盗、傷害、憲兵隊への襲撃に車輌爆破、その他諸々……。かなりの重罪人やな、今後は各国指名手配になる予定や」

 

各国指名手配??しかも、その他諸々って何だ??

 

何とか平常を取り繕うフィーだが、リィンはそうはいかなかった。顔から大汗を垂らし、目が泳ぎまくっている。

その様子を神父が確認し、口元を緩める。

「そうか……、イヤーてっきりフィーちゃんの事やから、無実の罪に捲き込まれた挙げ句に、車輌を爆破して逃げたんかと思ったわ」

 

あの時どっかで見てたのかオメーは!!?

 

「俺なら手を回して手配書を無かった事に出来るんやけどなぁ?」

 

こ、この外道神父が!!!

 

「フィー……」

「リィンは黙ってて!」

「さぁ、どうする?」

「……」

「ふふふ、俺はどっちでも良いで?この前の続きをするのも有りやしなぁ?」

「……」

「ふふふ……」

 

く、くっそー……。

 

フィーが無言で宝珠を差し出した。

「はい、ご苦労さん。後の事は俺が上手くやっとくから任しとき!」

フィーは無言で踵を返すと、そのまま走り出した。

「あ、ちょっ、フィー!」

「ありゃりゃ、ちょっとからかい過ぎたかな?」

「……」

「そんな目で見んといてや……。そりより、後の事は俺に任せて、キミは早くフィーちゃん追っかけてあげてくれ」

「……解りました。後の事、くれぐれも宜しくお願いします」

「おう、絶対悪い様にはせんと約束するわ。……何や、キミとはまた何処かで会いそうな気がするな?」

「ええ、俺も何故かそんな気がします」

「ほな、またな、リィン君」

「失礼します」

軽く頭を下げてからリィンもその場を後にした。

 

まったく……、大した学生さん達やな……。

 

神父は薄く笑みを見せてから、礼拝堂の中に戻って行った。

 

 

 

 

 

「フィー、こんな所に居たのか」

駅前の段差の所で、フィーは小さく丸まって座って居た。遠くから見ると完全にふて腐れた猫だ。

「隣座るぞ?」

リィンが聞くと、フィーは無言のまま横に移動してリィンが座るスペースを空ける。

「何であんなにミラにこだわったんだ?フィーらしく無い様な気がするんだが……」

リィンが腰掛けながら聞く。

「……お店」

「え?」

「……またお店を貸し切りにして貰って、皆でご飯食べられたら良いなって……」

「!、……そっか」

リィンがフィーの頭を優しく撫でた。

「大丈夫、また行けるよ……」

「ん、そだね……」

 

日が沈み始める、長すぎる1日がようやく終わろうとしていた。

 

「フィー、たまには二人で外に食べに行くか?」

「……奢ってくれる?」

「俺から誘ったんだしな、勿論良いぞ」

「ん、行く……」

「良し、それじゃあ一回寮に戻って、シャロンさんに断ってから行くか」

「らじゃ」

二人は腰を上げ、並んで歩き出す。

 

「?、そう言えば機嫌直ったみたいだな?何で怒ってたんだ?」

何の悪気も無く再び地雷を踏むリィン、そして踏んだ事に気づく事も無い。

 

全くこの男は……。

 

「……はぁ、怒って無いよ……、ただ……」

フィーが目を細めてリィンを見つめる。

「ホント……、リィンだなって思っただけ」

「???どういう意味だ」

「……さあ?アリサかエリゼにでも相談してみたら?」

「???」

やはり解っていないらしい。

 

ったく、この朴念仁は……。

……

……

……

ま、いつもの事か……。

 

フィーは少しだけ笑うと、リィンの腹に肘打ちを入れた。

「痛っ!何するんだフィー」

「ん、……あの時助けてくれたお礼?」

「な、何でお礼が肘打なんだ???」

「んー、何となく?」

「何となく人に肘打ちするんじゃありません!」

「はーい、ふふふ」

 

少しだけ機嫌を直した子猫は、その後もリィンにイタズラを仕掛けながらずっと隣を歩き続ける。

 

トールズの町には夜の帳が落ちようとしている。

子猫は、ずっと、隣を歩き続けた。




最後までお付き合い頂きありがとうございます。

当初はこの話を最終回にしようと思っていましたが、回収しきれてない伏線もあるため、ルーレの実習から閃Ⅰのエンディング辺りまで続けようと思います。

一応原作に沿って進みますが、途中から思いっきりオリジナル展開になる予定です。原作イメージが著しく壊れる可能性もあるのでご注意下さい。
(今更かな?)

では失礼いたします、次回もお楽しみに。
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