稚拙な文章で申し訳無い。
「こんなもんかな?」
双銃剣をホルスターに収める。
校庭脇の林の中、軽い射撃練習を終え、帰路に付くフィー。軽くと言っても足元には無数の空薬莢が転がっていた。
入学式を終え、学院での生活も少し慣れてきた頃。サラが突然妙な事を言い出した。
【特別実習】
クラスを二つの班に分け、パルムとケルディックへ向かい何かをやらされるらしい。
「めんどくさいなぁ」
何をやらされるかは知らないが。サラの事だ、ロクな事じゃ無いのは確実だろう。
しかも同行するメンバーに難ありだ。
はぁ、あの面子で集団行動かー……。
パルム行きメンバー
エマ・ミルスティン
クラス委員長で面倒見が良く、文芸部に在籍する才女。首席入学。魔導杖使い。しかもとんでもない巨乳の持ち主で触るとポヨンポヨン。でも羨ましくは無い、ワタシだって2年後にはきっと……。
…………………今はよそう。
ガイウス・ウォーゼル
ノルドからの留学生で、風が大好きな長身の十字槍使い。見た目によらず美術部で絵を描いている。
この二人は問題無い、何しろ1人は巨乳で天才だ。
問題は残りの二人である。
ユーシス・アルバレア
名門貴族の子息。アーツと剣術の腕は中々。貴族男子である事にプライドがあるらしいが、何処か無理してる感が否めない。無駄にイケメンで皮肉屋。人付き合いは苦手らしい。
マキアス・レーグニッツ
帝都知事の子息。学年2位の秀才で何かにつけて口喧しい。学生なのに(?)ショットガン使い。貴族が嫌いでユーシスと常にいがみ合っている。
このメンバーだ。
貴族派と革新派の対立は知っている。数年前から表立つ事は無いが色々とやりあっているらしい。
フィー自身、猟兵団に居た頃に、面倒な依頼に巻き込まれる事もあった。
その子息同士が一所に集まれば、そりゃトラブルも起きるだろう。
何でこんな班分けにしたんだろう?というか、何でワタシがそれに巻き込まれなければならないんだろう?
あっちの班が良かったな……。
ケルディック行きメンバー
リィン・シュバルツァー
八葉一刀流の使い手。お人好しらしく頼まれたら断れない性格。たぶん気苦労が絶えないタイプ。たぶん女難癖。たぶん朴念仁。たぶんどえらい過去がありそう。
アリサR
弓使いのお嬢様タイプ。入学式の直後リィンに暗い地下室で『ぱふぱふ』される。ラクロス部なので運動は得意そう。たぶん実家が超お金持ち。たぶん機械に強そう。たぶんどえらいお母ちゃんが居そう。……それと巨乳。
エリオット・クレイグ
赤毛で可愛い感じの少年。音楽が好きらしく自室でよくバイオリンを引いている、かなりの腕前。エマと同じ魔導杖使い。たぶん回復クラフトが得意。たぶん魔導杖をバイオリンに変形させて戦ったりしそう。たぶんどえらいお父ちゃんが居そう。
ラウラ・S・アルゼイド
アルゼイド流の使い手。大剣を振り回し、何でもかんでもぶった切りそう。男勝りな性格で曲がった事は嫌い。新入生最強。たぶん天然。たぶん機械には弱い。たぶんどえらいお父ちゃんが居ていつか倒そうとしている。
巨乳とまではいかないが中々のモノを持っている。
入学して日が浅いため、詳しく知らないクラスメイト達だが、これがフィーの独断的な第一印象であった。
それにしても、何でウチのクラスの女子は担当教官を含めて全員ナイスバディなのだろう?
ワタシに対する当て付けか?そうなのか?
………まぁそれは置いといて。
どう考えても、ケルディック行きの方が楽出来そうだ。
面倒事があっても、基本的にリィンに振れば何とかしてくれそうな気がする。
「はぁ、A班良いなぁ…………」
再度落胆しながら寮への帰路を歩くフィー
そう言いながらも、念のため戦闘に備えて銃のチェックと鍛練を欠かさない辺り、リィンと通じる部分があるのかもしれない。
もっとも、自分から面倒に首を突っ込む気はないが。
・
「んー、君は確か7組の生徒だったか?」
校門前に差し掛かった時、後ろから声を掛けられる。
振り返ると、髭が印象的で妙に生理的嫌悪感が漂う男が立っている。
……教頭だ。
「こんな時間まで何をしている?部活動が無いなら早く寮に戻りなさい」
こんな時間って……、まだ18時を回った辺りだ。それに今まさに校門を出ようとしている生徒に向かって「早く帰れ」とはどういう了見だ?
「全く、これだからあんないい加減な教官のクラスはダメなんだ。ウチのクラスを見習いたまえ」
な、なんなんだこのオヤジは?なんで1日の終わりにこんな事言われなくてはならないのだ?そもそも学院入試のトップはウチの巨乳委員長だぞ?
………巨乳は余計だったか。
その後も暫くの間、ネチネチとした小言が続く。
「とにかく、用も無いのにうろうろしてないで早く帰りたまえ。いちいちこんな事で私の時間を無駄にしないように」
「はーい、サヨウナラ」
ようやく解放されるが腹の虫は収まらない。
なんてムカつくオヤジだ!
そういえば入学式前のある日、朝っぱらからサラが決闘を申し込んだ事があったらしい。
確かワタシが夕飯を作った次の日だったか?
その姿はまるで憎しみと怨みに取り付かれた幽鬼のようだったそうだ。
教官達が総出で止めに入ったため、何とか収まったらしいが、普段から余程酷い扱いを受けているのだろう。
……可愛そうなサラ。
そうだ!せっかくだし『アレ』のテストもしといた方が良いかな?
周囲を素早く確認する。人の気配は無い。
教頭が後ろ姿を見せて立ち去ろうとするその瞬間、フィーは教頭のベルト付近に小さな黒い粘着物を張り付ける。
何も気付かずに歩き去る教頭。
十分に距離が開き、校舎に差し掛かったところで……。
「……イグニッション」
小さくフィーが呟くと急に教頭のベルトが弾け飛び、ズボンがズリ落ちた。
全く似合わない、みっしぃ柄のパンツ丸出しである。
「んな!?」
あまりに突然の事に固まる教頭。
ズボンもボロボロになり、最早只の布切れと化していた。
フィーが仕掛けたのはお手製の簡易爆薬。
火薬に紅耀石の粉末を混ぜた物で、威力調整も着火も自由自在な優れものだ。おまけに粘着性を持たせているため、何処にでも簡単に仕掛けられる。
今回使用したのは極微量なもので、人体に影響なくベルトとズボンだけを破壊した。
一つ調整を間違ったら教頭の腰から下は吹き飛んでいたのだが、……まぁ、その時はその時だ。何しろ帝国男子は常在戦場である。
多少の衝撃はあるが、そこはパンツ丸出しの衝撃が勝るため、気付かれる事もない。
それにしてもみっしぃ柄とは……。何処で売ってるんだろ?でも、教頭とお揃いはやだな……
遠目に興味深くパンツを眺めるフィー。
「はぁー、終わった終わった。さぁて、帰ってビールでも飲もうかしらねー、……って?」
そこに間の悪い人物が校舎から出て来た。
「な!?ななななな、何てモノを見せつけてくるんですか!!!?」
「さ!?さささ、サラ教官!!??」
校舎を出たら、目の前にみっしぃパンツの教頭である。
「こんな所で何て格好を!?」
「違うんだ!急にズボンが破れて……」
「ズボンが破れるくらいに興奮してるって事ですか!?不潔!!」
「ち、違う!ふ、不潔とは失礼だぞキミ!」
「不潔です!しかもド変態!早くそれ隠して下さい」
「ど、ド変態とはあんまりじゃないか!」
下校時間を過ぎているため人はあまり居ないが、それでも騒ぎを聞きつけ生徒達が集まってきた。
「なんだ、どうした?」
「教頭がズボン下ろしてサラ教官に迫ってるらしいぜ」
「最悪やな教頭……、なに考えとんのや」
「いや、サラ教官が教頭のズボン剥ぎ取ってるみたいにも見えるね」
「ふふ、サラ教官ならやりかねんな」
「ったく、何やってんだよサラのやつ」
見覚えのある生徒数名が言いたい事を言っている。
「はーい、みんなどいてどいて。いったい何騒いでるの……」
そこに背の低い女子生徒が近づいてきた。
「な!?なななな……」
予想外の光景に二の句が告げないでいるのはトワ・ハーシェル。トールズ士官学院の生徒会長だ。
「くくく、流石のトワもこれには驚いたみたいだな」
バンダナを巻いた男子生徒が薄笑いを浮かべる。
「ふむ、ワタシのトワにあんな汚らわしいモノを見せたくはないが……。それよりもあのみっしぃ柄のパンツは教頭よりもトワにこそ相応しいね」
黒いライドスーツを着た女子が真面目な顔で思案する
「アン…、まじまじと人の不幸を見るもんじゃないよ」
大柄でつなぎ姿の男子がそれを諌める。
クロウ・アームブラスト、アンゼリカ・ログナー、ジョルジュ・ノームの3人だ。直接の面識は無いが、サラから色々と話は聞いている。
「何してるんですか!二人とも!」
トワが叫ぶ
「ハ、ハーシェル会長!違うんだ!これは違うんだ!」
「ちょっとトワ!二人って何でアタシまで入ってるのよ!」
教頭とサラも口々に叫ぶ。
「とにかく!早く隠して下さい!」
「そうはいっても、どうすれば……」
「手で抑えれば良いじゃないですか!」
「それでは余りにも不恰好……」
「みっしぃ丸出しより何倍もマシです!」
「ふむ?クロウ、君のバンダナを貸して差し上げたらどうかな?」
「ふざけんなゼリカ!これはオレが物心つく前からのトレードマークだ!そんな事に使えるか!ジョルジュお前のゴーグル貸してやれよ!」
「クロウ……ゴーグルじゃ透けちゃうから意味ないし、それにこれは僕のトレードマークだ」
「お前のトレードマークはその太鼓腹だろ!」
「これは僕のチャームポイントだ!」
それぞれが言いたい事を言っている。
遠巻きに様子を伺って居たフィーだったが、最早自分の手には負えない事態だ。ちょっとだけ教頭を困らせてやろうとしただけなのに……。
そういえば昔、猟兵団で一番世渡り上手だったケイトが、どうにもならなくなった時には気付かれない様に立ち去ればそれで良い、と言っていた気がする。
うん、仕方ないよね?
ごく自然な足取りで、そっとフィーはその場を後にした。
お腹空いたな。
子猫は家路を急いだ。
・
特別実習当日
Ⅶ組B班は列車に乗ってパルムに移動中であるが、案の定車内には重苦しい空気が漂っていた。
ボックス席に向かい合う形でフィーとエマ、マキアスとガイウスとユーシス、といった席順で収まっている。
「どんな場所なんでしょうね?パルムって」
エマが何とか場を持たせようと話し出す
「ふむ、紡績が有名という事だし、それなりに賑わっていそうだが…」
ガイウスが相づちを打つが、いかんせん情報が全く無いためかイマイチ話が膨らまない。
マキアスは腕を組んで目を閉じたまま動かないし、ユーシスは頬杖をついて窓の外を眺めたままだ。
間に挟まれたガイウスが何とか和ませようとするが、とりつく島もない。
というか、何なんだこいつらは?コミュニケーションは集団行動の基本だぞ?
思い切って二人まとめて車外に放り出してみるか?列車も丁度深い森に差し掛かった所だ、二人で軽くサバイバルでもしてくれば、嫌でも友情が芽生えるだろう?
「フィーちゃんは行った事ありますか?パルム?」
物騒な事を考えるフィーにエマが話しを振る。
「ワタシ?うーん、行った事はあるけど、ちょっと寄っただけだし……良く覚えて無い」
「そうですか……」
昔、団の任務で行ったのだが、作戦の都合上殆どの時間を箱の中で過ごし、町の様子等は見ていない。しかも待機時間が長くて殆ど寝ていた記憶しかない。
春先の木箱はポカポカして温かく、底に敷いた藁の束はフカフカで、最高の任務だったのを思い出す。
そんな事を思い出していると何だか眠くなってきた。
「委員長、ちょっと寝るから少し寄りかかって良い?」
「良いですよ、着く前に起こしますから」
「さんくす、んじゃ遠慮なく……」
躊躇い無くエマの胸に頭を乗せた。
「ってそこですか!?……もうフィーちゃんたら……」
プニプニでポヨンポヨンのエマ枕は最高で、至極の安堵を与えてくれる。人肌の温もりがそうさせるのか、この枕が特別なのかは判断出来ないが……。
軽く目を閉じて、身体の力を抜く。
丁度いいポジションを探すため、フィーがグイっと頭を動かすと、エマがピクッと反応した。
何という高性能!これぞまさに帝国の至宝だ!帝国政府は軍事などという野暮なものではなく、こういった安らぎにこそ予算を割くべきである!!!
そんな事を考えながら至福の時間を楽しんでいると、急に不穏な気配が迫って来た。
「全員動くな!席から立ち上がった者は容赦なく射殺する!」
隣の車両から扉を開け、ライフルを構えた数人の男が突入してくる。
「我々は猟兵団タイガーファング!この列車を占拠する!全員大人しく従え!」
男達は乗客に銃を向けながら宣言した。
余りに突然の出来事、その場に居る全員が何の反応も起こす事が出来なかった。
枕を楽しんでいたフィーも同様だ。本来なら真っ先に気配を感じ取って、有無を言わせる前に相手を無力化しているはずなのだが。
それもこれも全てこの枕のせいだ。
…………恐るべし帝国の至宝。
そこで、ふと思う。
というか、ライフルなんかどうやって持ち込んだんだろ?
あっ、でも武装してるのはワタシ達も一緒か……。
……
……
……
っていうかこの鉄道、セキュリティ緩すぎじゃね?
大陸鉄道は飲食可、ペット可、武器の持ち込みも可である。
はぁ、やれやれ
ため息を付きながらもそれとなく相手の様子を伺う。
布製の覆面、上半身だけのプロテクター、中古品と思われる型落ちの導力ライフル。
ホントに猟兵団か?そもそも、タイガーファングなどという恥ずかしい名前の団は聞いた事が無い。恐らく只の強盗団だろう。猟兵団を初めに名乗る事で、こちらを威圧し、制御しやすくするのが狙いか。
動きにも無駄がなく、仕事慣れしている雰囲気がある。
恐らくあちこちで、荒らし回っている集団なのだろう。
続いてこちらの状況を整理する。
今自分達が居るのは、3両編成最後尾車両の後方席。
フィー達の他にも数名の乗客がいる。朝早い時間だからそれほど混んではいない。他の車両も似たようなものだろう。
敵は簡易武装した男性3名、強引に制圧する事は出来るが、周りに被害を出さない様にするとなると少し難しい。それに前の2車両にも同様に仲間がいるのだろう。となると、敵はトータルで10名前後か……。
勝負を仕掛けるなら一瞬でケリをつけなくちゃならないけど……、どうしよう?閃光手榴弾は音がするから駄目だし……。いっそのことずっと大人しくして助けが来るのを待つか?どうせ政府を相手にした身代金が目的だろう、半日もすれば全部カタが付きそうだ。何よりワタシはここを動きたくない。
フィーはまだエマ枕に頭を乗せていた。何しろ銃を持った男達に動くなと言われているのだから仕方がない。
ふと視線を前に向けると、男子3人も思案顔でうつむいていた。何とか状況を収めよう考えているのだろう。
……となると、流石に自分だけ先に諦めるのは躊躇う。
隙が作れれば何とかなるけど、狭い列車の中で3人同時ってなると。
うーん。
……
……
……あっ!良いこと思い付いた!
フィーはゆっくりと枕から頭を離すと、椅子に浅く座り直した。
とっておきの爆弾をお見舞いしてやる。
両目に光を宿すと、ARCUSのリンク機能を使って他の4人に戦闘準備を促す。
即座に反応した全員が、視線を交わし合い軽く頷く。内容までは流石に理解出来ないが、フィーに策があるのは伝わった。
Ⅶ組B班各々がそっと自分の得物に手を伸ばす。
「ごほ、ごほ、ごほ……」
急に咳き込むフィー。
「ごほ、ごほ……助けて……」
「あん?何だ?」
敵の1人がこちらに近づいてくる。
まさか、これが作戦か?他の4人に動揺が走る。
1人はこちらに近付いて来るが、残り2人は視線を投げて寄越すだけで近寄っては来ない。これでは3人まとめて仕留める事など出来そうに無い。
チビッ子の浅知恵に頼った自分達が間違いだったか?
しかも、仮病などというありきたりな……。
そう思った矢先。
「ごほ、ごほ、ごほ……、委員長、ゴメン……」
「え?」
何の躊躇いもなく、フィーは思い切りエマの胸元を引きちぎった!
「きゃあああ!!?」
フロント部分にリボンが付いた可愛らしいピンクのブラ。その可愛らしさに相反した2つの至宝がポロリと零れ落ちる。
とっておきの委員長爆弾炸裂である。
「おお!」
「ぬお?」
「ぐはぁ!」
敵は3人ともエマの胸元に釘付けである。
予想通りだ。
しかし、想定外の事態も起こっていた。
「うお!」
「これは……」
「ほう?」
マキアス、ガイウス、ユーシスの3人もエマに釘付けである。
おまけにフィーとのリンクも途絶えてしまっている。そのくせ何故か3人からのリンクラインが、エマ1人と繋がっている。
しかもいつもよりラインが太い、……極太だ。
全く、これだから男は……。
横目で男子3名を冷ややかに一瞥しながら双銃剣を構える。
「いくよ!」
残像が残る程のスピードで列車通路を素早く疾走する。
すれ違い様、相手の急所に当て身を繰り出し仕留めていく。
相手に反応する間すら与えず、通路を駆け抜けて動きを止めた。
一言も発せずに3人の敵は崩れ落ちた。
「ぶい、だね」
振り返りエマだけに向かって、ピースサインを決める。
「……ふぃ、フィーちゃん」
エマは口を真一文字に結び、わなわなと震えながら上着で胸を隠していた。
「何て事するんですか!?許しませんよフィーちゃん!!」
はだけたシャツを直しながらエマの怒りが炸裂する、無理もない。だが哀しいかな、そうしながらもその大きな胸はポヨンと揺れていた。
「だから、先に謝ったじゃん。でも、もう一回謝るよ。ごめんなさい、委員長……」
言いながら胸元を優しく触ってあげた。
「何処に謝ってるんですか!?委員長はコッチです!!」
自分の顔を指差すエマ。
「まあまあ、エマ君。皆無事だったんだし良いじゃないか?」
眼鏡を光らせながらマキアスが諭す。
「ちっとも良くありません!男子の皆さんも同罪ですからね!!」
「ふっ、なぁマキアス・レーグニッツ。俺たちの小競り合いなど、何とちっぽけなモノなのだろうな?」
急に悟りを開き出したユーシス
「ふっ、全くだ、ユーシス・アルバレア。僕は今日という日の事を決して忘れないぞ、……決してな」
「忘れて下さい!今すぐ!」
「……ふむ、都会に吹く風も悪くない。少々刺激が強すぎるようだが……」
「しみじみ言わないで下さい!」
「これもまた貴族の嗜みか……、ふっ、一つ学んだよ」
「意味が分かりません!」
「姉さん。僕は今日、一歩あなたに近づけたよ……」
「誰に語りかけてるんですか!!?」
良くわからないが、男子3人は心の底からエマに感謝しているようだ。
居合わせた他の乗客も全員無事だ。一様に女神に感謝の言葉と祈りを捧げているが、何故か数名の男性客はエマを拝んでいた。
・
「さて、これからどうする?」
強盗団3人の拘束を終えたガイウスが聞く。
「今のところ、前の車両には気付かれてないようだが、時間の問題だろう。行動するなら早くした方が良い」
「そうだね、急がないとパルム通り過ぎちゃいそう…」
フィーが双銃剣の動作確認をしながら答える。
「そうですね、やっぱり人質がネックですか……」
「何を言っている?もう一度エマ君の爆弾を炸裂させれば済む話じゃないか?」
「絶対嫌です!!」
「委員長。お前も士官学院に席を置く身なら、覚悟を決めるのだ」
「何の覚悟ですか!?絶!対!嫌!です!!」
……この二人、言いたい放題だな……。
「それならば、俺に策がある」
ガイウスが力強く言った。
・
「おう、お疲れ。どうした?」
前列の車両に乗り込むと、強盗団の仲間が声を掛けてくる。
「ああ、この二人どうやらトールズの学生らしくてな。念のため拘束しておこうと思うんだが、ロープか何か持って無いか?」
前列に両手を挙げたフィーとエマ。その後ろに覆面を着けて変装し、ライフルを構えるガイウス。
ガイウスの策とは敵の装備を拝借するという、シンプルな騙し討ちだ。マキアスとユーシスは後部車両からこちらの様子を伺っている。何かあったら飛び出してくる手筈だ。
「士官学院生か……ん?それよりもお前、何か声が変じゃ無いか?」
「こんな覆面被ったままじゃ、そりゃ変にもなるさ。お前だって声がおかしいぞ?」
「そ、そうか?自分だと気付かないもんだな……」
何とか誤魔化せたようだ。
意外にもガイウスは機転が利く。
恐らく魔獣に囲まれて立ち往生しているときにも、馬に乗って助けに来てくれるに違いない。
2両目の敵もやはり3人。すぐ目の前に1人、奥に2人。何とか奥の2人をこちらに近寄らせて、一網打尽にしたいところだ。
「ロープか?俺は持ってないな……。あいつらあるかな?おーいちょっと来てくれ!」
手前の男が奥の仲間に声を掛ける。
やった!こんなに上手くいくとは!
「あっ、ちょっと待った」
急に男はストップを掛けた。
「何だ、どうした?」
ガイウスに緊張が走る。
「合言葉は?」
「何?……合言葉?」
「ほら、アジト出るとき決めただろ?念のため、一旦バラけて次に集合するときは、持ち場を離れた奴から合言葉を言うって」
え?何、そのふざけた取り決め?
「え?ああ、そ、そうか……。確か、そ、そうだったな……」
思わずガイウスが吃りだす。呼吸が荒くなっていくのが背中越しに伝わった。
「おう。んじゃ、頼むぜ。合言葉は?」
「……ああ、合言葉は……」
解るわけが無い、予想もつかない。どうする?
「合言葉は?」
「あ、合言葉は………………………………」
マズイ……。
その時、ガイウスが小さく呟く
「…………すまん、委員長……」
「え?」
ガイウスがエマの胸元に手を添えた。
まさか?
「…………合言葉は………、これだぁ!!!」
「きゃあああ、またですかぁぁぁ!!??」
やっぱり、やりやがった!
「おお!」
「うひょ!」
「むは!」
本日2度目の委員長爆弾が炸裂し、敵の視線がエマに集中する。その隙を見逃さずガイウスが風を纏って飛び掛かかり、十字槍の代わりにライフルの打突を見舞っていく。
覆面の下で彼は目を瞑っていた。何があってもエマを見ないという、せめてもの気遣いである。
マスタークオーツ、ファルコの心眼を駆使しているお陰で、視界が利かなくとも戦闘に支障は無かった。
「エマ君、こっちを向くんだ!」
「ふっ、甘いなレーグニッツ。俺など見えていなくとも手に取るように解るぞ」
それとは対照的に、車両を仕切ったガラスに張り付く欲望剥き出しのマキアスと、ガイウスとは違う心眼を会得したらしいユーシス。
……というか、あの二人は何の為に居るんだろう?
最後の1人の首筋にライフルの柄を打ち付けると、ガイウスは目を閉じたままこちらを振り返り頭を下げた。
・
「どういう事ですか!?フィーちゃんだけならともかくガイウスさんまで!?」
「申し訳ないとしか言えない……」
大きな身体を小さく折り畳み、ガイウスは深々と頭を下げたまま身動き一つしない。
不器用な彼なりの精一杯の謝罪だった。
「あの場合はしょうがないよ、ワタシでもああしてたと思うし……」
「フィーちゃんは黙ってて下さい!」
「申し訳無い……」
頭を下げ続けるしか出来ないガイウス。
「人の事を何だと思ってるんですか!」
「申し訳無い……」
「自分が何をしたか解ってるんですか!」
「申し訳無い……」
「……本当に反省してるんですか?」
「申し訳無い……」
とにかく頭を下げ続けるガイウス。
……
……
……
「はぁ……、もう……、頭を上げて下さいガイウスさん、分かりましたから」
「本当にすまない……」
言われた通りに頭を上げるガイウス。
「でも許した訳じゃありませんからね!」
「うっ……」
ふと見ると、2度も御開帳したはずなのにエマの胸元は綺麗に閉じている。普通ならボタンの一つも弾け飛んでいてもおかしくないのに……。何故だろう?魔法でも使ったのか?
この車両の乗客も全員無事なようだ。そして前回と同様、男性客は皆エマを凝視していた。
・
「さて、これからどうする?」
ユーシス達が無駄にクールな装いで近づいてくる。
「今度は俺が覆面を被ろう。何、任せておくが良い」
ユーシスが宣言する。
何を任せろというのだろう……。
「ズルいぞユーシス・アルバレア!今度は僕の番だ!」
マジで何の為に居るの、コイツら?
「変装しても駄目なのは今ハッキリしたじゃないですか!?また合言葉聞かれたらどうするんです!?」
もっともな意見のエマ。
「大丈夫だ、俺にはとっておきの秘策がある!」
恐らく想像通りの秘策だろう
「何を言う!僕の秘策の方がスゴいに決まってる!」
こっちは欲望を隠そうともしない。
「ふっ、俺の秘策はお前のよりテクニカルだ!」
「なにおう!僕の秘策の方が破壊力があるはずだ!」
……醜い。
「俺だ!」
「僕だ!」
「いい加減にして下さい!」
流石にエマがキレた。
「もういいです!私が1人で行ってきます!」
「なっ?委員長それは……」
「幾らなんでも危ないんじゃ……」
フィーとガイウスが止めに入る。
「大丈夫ですよ、じゃあ行って来ますね。……うふふ」
エマが軽い足取りで先頭車両に向かう。
……と言うか何故笑う?
「うふふふふふふふふふふふふふ………………」
薄い笑い声を響かせながら、エマは1人で乗り込んで行った。
「おい、大丈夫なのか?」
「うーん、でも委員長、勝算あるっぽかったし?」
「彼女を信じよう」
「エマ君……」
心配する残された面々。
様子を伺うため、フィーは扉の方へと足を進める。
次の瞬間、先頭車両から鈍い光が溢れ出した。
???、何だか良くわからないが、絶対ヤバい光だ!
今覗き見るのは危険だ!
しばらく様子を見ていると、何事も無かった様にエマが出てきた。
「うふふふふふふ……、終わりましたよー」
何故だろう?笑顔が怖い。
出迎えた4人は一様に身体を震わせる。
誰1人、一言も声を発する事が出来なかった。
現場確認をするべきか?
イヤその必要はない!近寄っちゃ駄目だ!と直感が告げている。
まさか……、ヤっちゃってはいないよね?
フィーは心から祈った。
「うふふふふふふ……」
エマは何故かまだ笑っている、とても楽しそうだ。
だが口元が笑っているのに、目の奥には鋭い光を宿したままだった。
委員長を怒らせるのはよそう。
その時、フィーは心に深く誓った。
列車はもうすぐパルムに到着する。
・
「ご協力感謝します」
強盗団達はパルムで鉄道憲兵隊に引き渡された。
「事件の捜査機密があるため、ここで起きた事はくれぐれも他言無用に願います」
対応してくれたのはクレア・リーベルト大尉。氷の乙女の異名を持つ、鉄血宰相直属の部員だ。
「了解致しました。後の事はお任せします」
班を代表してエマが対応する。
「それにしても、実習に向かう前にトラブルとは災難でしたね?」
「いえいえ、全員無事で済みましたし。うふふふ……」
エマが何処か酷薄な微笑を浮かべた。
「……余りお時間を取らせても申し訳無いので、これで失礼します」
何か不穏なモノを感じ取ったのか、クレアはそこで対話を打ち切った。
「では、実習の成功を祈ります」
敬礼すると彼女はは背を向け去って行った。
……何故か足早だ。
色々あったが、ようやく実習が始まる。
「さぁ、皆さん。頑張りましょうねぇ?うふふふふふ」
エマがずっと怖いまんまだ。本人は何故か楽しそうだけど、それがまた一段と怖い。
ユーシスとマキアスも、逆らってはいけないと本能が告げているのだろう。二人ともとても従順だ。お陰でB班の統率は取れている。
恐怖という統治によってだが……。
でもトリスタを出た時に比べれば全然マシかな?
一応全員の連携も取れているし?(連携と言えるのかはわからないが)
あー……、もう帰りたいなー。
子猫はちょっとだけ肩を落とし、怖いけどポヨンポヨンな魔女に付き従った。