ドヴァンス食堂
「鉄鋼石の横流し!?」
店内にアリサの驚きが響き渡る。
他にお客さんが居なかったという事もあり、店は一時的にⅦ組一行の貸し切りとなっていた。店員さん達にもバックヤードで待機して貰う様にお願いし、周りに気兼ね無く話が出来る。
テーブルにはサンドイッチやフィッシュアンドチップといった軽食が並んでいて、昼食を取りながらの話し合いとなっていた。
「ああ、私のトワが調べてくれた情報なんだが、採掘された鉄鋼石に対して、精製された鉄鋼の量がここ数年に渡って明らかに少ないらしい」
「な、何故そんな事が、まかり通るんですか!?」
「一応の理由として、鉄鋼石の純度低下という事になってるらしい。だが、現場からはそんな報告は一つも上がっていない様だ」
「成る程……、書類上はいくらでも誤魔化せるでしょうね」
「うん、……それに、鉄鋼じゃ無くて鉄鋼石って所が……」
「ああ、精製する前ならチェックも甘いだろうしな」
「その件に、先輩の実家が絡んでいると?」
「まぁ、そういう事だ。身内の恥を暴露するのは不本意ではあるのだがね」
アンゼリカが紅茶を一口啜る、流石にバツが悪そうだ。
「横流しされた量はどの程度なんですか?」
「概算でしかないが、新型戦車2,000台分位らしい」
「せ、戦車2,000台???」
「そ、想像も付か無い量なんだが?」
「書類上は目立たない程度の量でも、数年間猫ババし続けりゃそん位にはなるか……」
「し、しかし、そんな量を一体どうしたと言うのだ!?」
「もしかして、秘密裏に戦車とか飛行艇とか造ってたりとか?」
「いえ、戦車も飛行艇も導力技術の塊よ。材料と設計図があれば造れるという類いの物では無いわ」
「となると……、単純に裏でカルバードかクロスベル辺りに売り飛ばしたか?」
「少量ならともかく、そんな大量だとすぐに足が付きそう……。それに、金とかセピスと違って鉄鋼石なんか売っても大した額にはならなそうだし」
「だよな……」
クロウが腕を組む。
「となると……」
全員が思案顔で俯く。
「ん、実家の改築とか?」
「せ、戦車2,000台分も改築したら立派な要塞よ!!」
「いや……、親父殿ならそれも有り得るかな?」
「……マジかよ?」
「ふふ、ログナー家は武闘派で通っているからね」
「す、凄まじいお父さんですね……」
「ん、本当の武闘派なら、要塞なんかに頼らないで、身体一つで頑張って欲しいかな?」
サンドイッチをパクつきながらフィーが呟く。
「ふぃ、フィー、そういう問題じゃ……」
「あれ?そう言えばジョルジュ先輩は?」
エリオットが辺りを見回す、話に夢中で気付かなかったらしい。
「ああ、ルーレ工科大に用があるとかで席を外しているよ」
「工科大?」
「何でも以前お世話になった人が居るらしい、挨拶でもしてるんじゃないかな?」
「アリサ、イリーナ会長達との連絡は、付かないままか?」
「駄目ね、さっきから何回も呼び出しを掛けてるんだけど、全然繋がらないわ。ルーレに居ないんじゃないかしら?」
「うーん、それはちょっと困ったね……」
「ああ、この状況で後ろ楯も無く動くのは……、流石にな……」
「つっても、領邦軍と憲兵隊に任せてたら、いつまで経っても解決しねーぜ?」
「ええ、工員達が人質になってる以上、見過ごす事は出来ないわ!」
「……」
「?、フィー、どうかしたか?」
「ん、……いや、別に」
このタイミングでアリサのお母さんと連絡が付か無い?
……ただの偶然だろうか?
ふと、朝考えていた仮説を思い出す。
アリサのお母さんが鉄血のオジサンと繋がっているのは間違いない。……どの程度かまでは解らないが。
なら、貴族派はどう出る?
ラインフォルトは無視出来る程小さい存在では無い筈だ、当然取り込もうと近付いて来るだろう。
そこでアリサのお母さんならどう動く?
革新派に付くか?貴族派に付くか?
……いや、帝国の今後がどうなるか、今の時点では流石に読み切れないだろう。両方と関係を持ちつつ、最後に勝ち馬に乗るのが一番賢いやり方だ。
しかも、アリサのお母さんにはトールズ理事という立場を介して、皇族とのパイプもある。どう転んだとしても最悪の事態は免れるだろう。
ん?となると……。
「ねぇ、アリサ。現時点でラインフォルトのナンバー2って誰?」
「ナンバー2?……えーっと、第一製作所の責任者になる訳だから……、ハイデル取締役ね」
「どんな人?」
「私の叔父に当たる人だね」
アンゼリカが代わりに答える。
「人物象としては、そうだな……、小心者で自分の手を汚す事を嫌い、だが手柄だけは何とか独占したいと少ない脳を働かせる人物、といった所かな?」
「あ、アンゼリカさん……」
「せ、先輩……、幾らなんでも言い過ぎじゃ?」
「ふふ、私としてはこれでもオブラートに包んだつもりだよ」
どうやら結構なクズでポンコツらしい。
でも、アンゼリカの叔父という事は、一応ログナー家に関わる人間……。
成る程、これが世間で言う、コネ入社、とかいうやつか?
「ところで、どうしてそんな事を聞くんだい?」
「ん、……アリサのお母さんが居ない場合は、誰が今の状況をまとめるのかなって思って……」
「ああ、成る程……」
アンゼリカが顎に手を当てる。
鉄鋼山がジャックされたままでは、生産ラインがストップしてラインフォルトも身動きが取れないだろう。当然解決に尽力するはずだ。
だが頼りの会長は不在、居るのはポンコツの取締役。仮にそのポンコツがテロリストと繋がっているとしても、憲兵隊、領主軍、テロリストの間でバランスを取りつつ立ち回るのは至難の技だ。恐らくは居るだけで何の役にも立たない様な存在だろう、現場をまとめるなど出来る筈も無い。
すると、どうなる?会長であるアリサのお母さんに尻拭いをして貰うか?
イヤ、あのヤリ手母ちゃんの事だ「現場を預かった者として、最後まで責任を取りなさい」と押しきるだろう。
そうなると、ポンコツはログナー家に泣き付くしか無くなり、今度はアンゼリカの親父殿とやらが出てくるだろう。
その後はラインフォルト会長とログナー侯爵の話し合いになるが、あの母ちゃんにかかれば、武闘派の親父殿とやらもあっさりKOされるのは目に見えている。
結果、ラインフォルトはログナーに対して恩を売る事になり、今後のイニシアティブを取れる事になる。
更に鉄鋼山の件が片付けば、所有者である皇族との繋がりも、より強固に出来る。
鉄血のオジサンはどうだ?
もしアリサのお母さんが、今の状況を全て理解した上でルーレを離れているとしたら、行き先はヘイムダルの宰相閣下の所じゃ無いのか?
単純に現在の状況を報告するだけでも宰相に貸しを作れるし、相手の出方によっては、今後の革新派との関係も有利に事を進めそうだ……。
不意に鳥肌が立つ。
この状況を上手く活用すれば、今後どの勢力に対しても優位に事を進める事が出来るのでは無いか?
あくまでワタシの想像でしか無いが、この一大事にあのヤリ手会長が何故かルーレに居ないという現実を、他にどう説明する?
……
……
……
恐ろしい……、恐ろし過ぎるぞイリーナ・ラインフォルト……。
チラリとアリサに視線を向ける。
アリサも数年後には、ああなるのだろうか?
確かに頭はキレるし口喧嘩も強い、それに負けず嫌い。そして、あの母ちゃんのDNAを受け継いでいる、……有り余る程の素質だ。
次に何となくリィンを見る。
もしもこの二人がくっつく様な事になったら……。
そういえばリィンの胸の奥には、狂暴な獣だか鬼だかが巣くってるんだっけ?
鬼嫁の尻に敷かれる鬼か……。
……
……
……
ヤ、ヤバ過ぎる……。
「さてそれで、皆はこれからどうするつもりだい?」
アンゼリカの言葉に不吉過ぎる想像を打ち消すフィー。
「そうですね……」
リィンが険しい顔を見せる。
「鉄鋼山には私の知り合いも居るの!このまま放っとけ無いわ!」
アリサが断固とした決意を見せる。
「しかし、現時点で僕達が介入出来る余地は無いぞ?」
「うーん、確かにそうなんだよね」
「まあ確かに、人質になってる工員位は助け出したいトコだけどよ」
「アリサ、鉄鋼山って非常通路みたいなのは無いの?」
「あると思うわ、小さい頃にお祖父様が造ったって話を聞いた覚えがあるもの」
「なら、それを使えば……」
「でも、何処にあるかまでは知らないのよね……」
「ふむ、私も以前鉄鋼山でバイトしていた事があるんだが……、それらしいモノを見た記憶は無いな」
この二人が知らなければ、恐らくアリサのお母さんか鉱山の責任者辺りに聞かなきゃ解らないモノだろう。
……それにしても、領主のお嬢様が鉱山でバイトって……、周りはさぞかし気を使った事だろう。
いや、この先輩の事だから、身分を隠して潜り込む位は朝飯前か?
「他に正面以外から中に入る方法は?」
「運搬用の線路が引いてあるから、そこからなら行けるわよ」
「いや、敵もそこまで甘くは無いだろう。待ち伏せに遭って返り討ちになるのがオチだ」
「まぁ、そうよね……」
「となると……」
「八方塞がりだな」
「まさか、憲兵隊と領邦軍が居る正面から堂々と乗り込む訳にもいかないし……」
全員が渋い顔で腕を組む。
「ん、手はあるよ」
フィーの言葉に全員の視線が集まる。
「どうする気?」
「モチロン、正面から堂々と殴り込むんだよ」
フィッシュフライを食べ終えたフィーが事も無げに言う。
「ふぃ、フィー……、幾らなんでもそれは……」
「憲兵隊と領邦軍を、まとめて相手取るって言うの!?」
「む、無茶苦茶だぞフィー!」
「そ、それに、そんな事したら、僕達だけの責任じゃ済まなくなるよ?」
予想通りの反応を見せる一同、しかしフィーは事も無げに続ける。
「要は、ワタシ達だとバレなきゃ良いんでしょ?」
「???」
「そ、それは??」
「ど、どういう意味??」
フィーの顔はいつの間にか、イタズラ好きの子猫の顔になっていた。
「責任は全部、帝国解放戦線に取って貰うって事」
指に付いたフライの油を舐め取りながら言う。
「え???」
「???、……何それ」
「ちょっと待って、フィー、……それってもしかして?」
「オイオイ!マジかよ!?」
「ふぃ、フィー……」
マキアスとエリオット以外は、何となくピンと来たらしい。
「ふふふ、成る程、流石はフィー君だ!」
アンゼリカが急にフィーを抱き締めた。
「君の様に素晴らしい後輩を持てて私は幸せ者だ!」
「……く、苦しい」
フィーが呻くがアンゼリカは離そうとしない。
「そうだ!どうせなら私の実家にも協力して貰うとしよう!」
ひとしきり抱き心地を楽しんでから、アンゼリカはフィーを解放する。
「先輩の実家って……、ログナー侯爵にですか?」
「あ、アンゼリカさん?」
「ゼリカ……、何考えてやがる?」
「ふふふ、殴り込みは派手な方が良いだろう?」
アンゼリカの口元が楽しそうに歪む。
「ん、成る程」
何処か通ずるモノがあるのだろう、詳しく言わずとも理解したフィーも不敵な笑みを見せた。
何とも楽しそうに笑いながら、ヒソヒソと話を続けるショートカットの女子二人組を見て、他の5人は例えようの無い不安を覚えた。
ログナー邸 領邦軍詰所
ルーレの上層区画に門を構えるその建物は、白を基調とした落ち着いた造りになっていた。
二人の門番が整然とした佇まいで見張りをしている。武闘派の領主とやらの訓示なのだろう、見た目の雰囲気だけはそれなりのモノがあった。
「やあ、お疲れ様」
アンゼリカが気さくな様子で門番に声を掛ける。
「これは姫様、良くお戻りで」
「お帰りなさいませ、姫様」
門番達が敬礼で挨拶する。
「いつも苦労をかけるね……。ところで、武器倉庫に入りたいんたが、鍵を貸して貰えるかい?」
「……姫様、倉庫へは侯爵様の許可が無ければ、立ち入り出来ない事は、御承知かと存じ上げますが?」
「ふふふ、勿論承知しているとも。だから、内緒で鍵を貸してくれないかい?と頼んだいるわけさ」
「い、いくら姫様と言えどもそれは……」
「我々は侯爵閣下の信任を得て、鍵をお預かりしておりますので……」
「むう、どうしても駄目かい?」
「はい、こればかりは……」
「も、申し訳ありません」
門番達が誠意を持って頭を下げる。
「ふふふ、君達の様な忠義に厚い衛兵に仕えて貰えて、私は嬉しいよ」
「ひ、姫様……、勿体ないお言葉です」
「き、恐縮です、姫様」
「これからもどうか、そのままでログナーを支え続けてくれないか?」
アンゼリカが優しく微笑みながら感謝を示す。
「ひ、姫様!」
「あ、有難うございます!」
感激の余り視界が滲む門番達。
「……では」
そして感謝の後にアンゼリカは。
「お休み……」
やや申し訳無さそうに視線を動かした。
「……へ?」
「……は?」
不意に首筋に衝撃を受けた門番二人は、眠るようにその場に崩れ落ちた。
「ふぅ、ご苦労様、二人共」
アンゼリカが門番の背後に音もなく回り込み、銃を逆手に持ったクロウとフィーを労う。
「はぁ、ホントに良いのかゼリカ?……今更だけどよ」
クロウが気の毒そうに、倒れた兵士達を見つめる。
「こいつら、この後立場無いんじゃねーのか?」
「ふふふ、そこは私が責任を取るさ、何があっても彼等を悪い様にはしないよ」
アンゼリカの言葉には、断固とした響きが感じられた。
「ん、あった」
フィーが門番の一人のポケットから鍵の束を引っ張り出す。
「倉庫は何処にあるの?」
「案内しよう、こっちだ。……ん?」
アンゼリカのARCUSに通信が入る。
「はい、こちらアンゼリカ……」
……
……
……
「……了解だ、宜しく頼むよ」
通信を切った。
「誰からだ?」
「ジョルジュさ、工科大の通信設備を借りる事が出来たらしい、これでヘイムダルに居るトワとも連絡が取れるよ。持ち運びは出来ない物だから、そのまま工科大に留まって情報のサポートをしてくれるようだ」
「ん、ルーレ市内の情報も必要かもしれないし、その方が良さそ……?」
フィーのARCUSにも通信が入った。
「ん……」
……
……
……
「……らじゃ、こっちも問題無し。んじゃ、予定の場所で」
通信を切る。
「リィン達か?」
「ん、良さそうなのが手に入ったって」
「ふふ、それにしても、ルーレのジャンク屋の主人とアリサ君が知り合いというのは意外だったな?」
「そうか?アリサも機械とかイジるの好きそうだし、そんなに意外でも無いんじゃねーのか?」
「でもラインフォルトのお嬢様が、ジャンクショップに入り浸ってるってのは……」
「まぁ、確かに意外っちゃあ意外か……」
「ふふ。さぁ、そろそろ行こうか、余り時間を掛けるのも良くない」
「だな、ゼリカ、案内頼むぜ」
「ん、ヨロシク」
三人は門番を壁際に移動させて寝かせると、気配を消しながら武器倉庫へと移動を開始した。
ルーレ市郊外 空き地
リィン、アリサ、マキアス、エリオットの四人は、ジャンクショップで目的の物を調達した後、フィー達が合流するのを待っていた。
この場所は市街と鉱山を結ぶ山道を少し登った辺りだが、魔獣も頻繁に出没する為、地元民でも滅多に近寄らない場所であった。
「今更だが、これを使って一体どうするのだ?」
「い、嫌な予感しかしないんだけど……」
マキアスとエリオットがジャンクショップで購入した大きな荷物を、不安しかない顔で見つめている。
「うーん……、詳しい策を聞いた訳じゃ無いから、俺も良くは解らないが……」
「フィーとアンゼリカさんの策よね……」
思い付く限り、トールズでも最悪の組合せが考えた策だ。出来る限り穏便なモノである事を祈るしか出来ない四人。
しかし、現実は彼等の想像を遥かに越えるモノだった。
「?……、何の音だ?」
「あれ、何か振動が……」
「え?ちょっと待って、コレって」
「ああ……、間違いだと思いたいが……」
四人が音の方に目を向ける。
力強い駆動音を響かせながらソレは坂道を登って来た。
昨日の領邦軍と憲兵隊が揉めている時にも見たが、こうして間近に迫って来る様は、圧巻の迫力がある。
帝国正規軍でも多く採用されている、ラインフォルト製の軍事製品。中でも【アハツェン】と呼ばれるソレは、今後の主戦力として国内外から高く評価されていた。
ソレはリィン達の目の前まで来ると停車し、上部ハッチからアンゼリカが顔を覗かせた。
「やぁ皆、お待たせして済まないね!」
昼を過ぎた初秋の太陽にやや顔をしかめるその姿を見て、リィン達が声を揃えて絶叫する。
『ど、どうしたんですかこの戦車!?!?!?』
「ふふふふ、驚いてくれた様で嬉しいよ」
アンゼリカが満足そうな笑顔を見せた。
「あ、あ、あ……」
「あ、アンゼリカさん!?!?」
「せ、先輩!?こ、これは!?」
「じょ、冗談ですよね!?」
四人共開いた口が塞がらないらしい、……無理も無いが。
「ふふふ、こいつで乗り込めば、彼等も大人しく道を開けてくれると思わないかい?」
アンゼリカが軽やかに戦車から飛び降りた。
「イヤイヤイヤ!そういう問題じゃ無くてですね……」
「そ、そもそもどうしたんですか、コレ?」
「ん?実家からちょっと拝借して来ただけさ。不良娘が親の車を無断で乗り回すなど良くある話だろう?あれと一緒さ!」
「そ、そう言われてもですね……」
無断拝借した車が規格外過ぎて、全く共感出来ない一同。
「もう諦めろや」
アンゼリカの後からクロウとフィーが姿を見せ、同じ様に戦車から降りて来る。
「……この女にイチイチ常識を言っても無意味だ」
クロウが肩を竦める。
「ふふふ、照れるなぁ、そんなに持ち上げないでくれよ」
「一個も褒めちゃいねーよ!!」
「ん、今更四の五の言ってもしょうがないよ」
フィーが全く悪気無く呟く。
「オメーが言うんじゃねーよ!大元凶が!!」
「ん、ぶい」
「だから、褒めてねーって言ってんだろが!!……もう嫌だ、この女達……」
クロウが忙しなく二人にツッコミを入れ続ける。
「で、頼んでたモノは?」
フィーがクロウを放って聞く。
「あ、ああ、一応それらしいのは手に入ったけど」
リィンが観念のため息を吐きながら、購入したモノをフィー達に見せる。
「……、ん、良さそうだね」
「流石に全員分は集まらなかったみてーだな?」
「ああ、店の主人にあちこち探して貰ったが、三人分かき集めるので精一杯だった」
「ふふふ、十分だよ。他の者は戦車の中から出なければ良いだけだしね」
「んじゃ、役割を決めよっか」
フィーがリィン達が購入してくれた、黒い衣装とヘルメットを確認しながら言う。
リィン達はまだ状況に付いていけずに戸惑いを見せているが、淡々と進んでいく現実は待ってはくれなかった。
「まずは、帝国解放戦線に化ける三人を決めるとしようか?」
「そうだな……、どうせなら実際に見たヤツがやった方が良いだろう」
「この中だと、リィン達四人はヘイムダルでヤリ合ってるのよね?」
「ああ、俺とエリオットとマキアスとフィーは実物を見ているから、この中から決めるのが良いかな?」
「ん、問題無し」
「うう、僕、全然自信無いよ……」
「いや、待ってくれ……。そもそも実物を憲兵隊も殆んど知らないんじゃ無いのかい?」
「あ、言われてみれば……」
「なら、誰がやってもそれ程問題ないのか?」
「一応リーダーのCに体格が近いのは俺かマキアスかクロウかな」
「ん、マキアスには他にやって欲しい役があるんだけど」
「ぼ、僕に何をやらせる気だ!?」
「大丈夫、演技力とかは殆んど要らない役割だから」
「本当か!?本当に大丈夫なんだな!?」
「大丈夫大丈夫、……多分」
「多分を付けるな!!」
マキアスが激しく動揺しながら憤る。
「じゃあ俺かクロウか……、……クロウ、頼めるか?」
「……は??俺がC役をやるのか???」
「ああ、クロウなら咄嗟の機転も利くし、適任だと思うんだが?」
「いや……、俺がC??……俺が???」
クロウが腕を組んで唸る、余り乗り気では無さそうだ。
「いや、クロウはリーダーというタイプでは無い、違う方が良いんじゃないかい?」
アンゼリカがリィンの考えを否定する。
「え、そうですか?」
「ああ、そもそもクロウがリーダーのチームなど、上手くいく訳が無いじゃないか!」
「うーん……、確かに……」
「そうね、肝心な所でポカしそうなのが目に浮かぶわ」
「まあ、先輩ならやらかしそうだな……」
「お、お、お前らな……」
クロウの身体が怒りに震える。しかし具体的な反論が出てこない辺り、自分でも何かしら心当たりがあるのだろう。
「ん、それにクロウが『我々は帝国解放戦線』って言ってるの想像したら……」
「ふふふふ、確かに質の悪いジョークも良いところだ!」
「ぷっ、……そ、そんな事言ったら悪いよ」
「くくく、や、やめたまえ君達、僕を笑い死にさせる気か!」
「あははは、もうダメ、お腹痛いわ!」
「はははは、確かにそれは言えてるな」
全員が腹を抱えて笑う。
勿論彼等には何の悪意も無い、作戦前の緊張をほぐす為、わざと大袈裟に明るく振る舞っているだけだ。
そんな彼等を、クロウはただ呆然と見つめるしか出来なかった。
「そうだ、どうせならフィー君がC役をやってはどうかな?」
「え?ワタシ?」
「ああ、Ⅶ組のリーダーはリィン君で間違いないだろうが、こういう時に頼りになるのはフィー君なんじゃないかい?」
「ええ、言えてるわね」
「僕も異論は無い」
「うん、フィーなら上手くやってくれそうだね」
「んー……、でもワタシじゃ身長が……」
「大丈夫さ、戦車の上に立っていれば下から見上げる構図になるだろう?身長などいくらでも誤魔化せるさ」
「そうだな、俺達よりも上手くやってくれそうだ。……クロウはどう思う?」
「あ?……ああ、クラさんには敵わねーよ……」
力なくクロウが答えた。
「じゃあフィーがC役で、俺とクロウが戦闘員役としてフィーをサポートする構成で良いか?」
「らじゃ」
「お、おう……、もう好きに決めてくれ……」
「それなら、私は戦車の操縦に専念させて貰うよ」
「それじゃあ、私が副操縦士を担当するから、エリオットは観測をお願い」
「うん、了解」
「そ、それで、僕は一体何をさせられるんだ?」
一人だけ役割を発表されていないマキアスが、不安しか無い面持ちでフィーに聞く。
「ん、もうちょっとしてから教えるよ」
「そ、そうか……」
「良し、じゃあアリサ君とエリオット君は私と一緒に戦車の中に入ってくれ、簡単に操作説明をするよ」
『了解!』
三人が戦車をよじ上る。
「んじゃ、ワタシ達も着替えようか?」
「了解……。そうだ、呼び名はどうする?」
「ん、それじゃ、ワタシがCでクロウがA、リィンは……、Bで良いんじゃない?」
「俺がAか……、ま、何でも良いけどよ」
「……その呼び名に何か他意はあるのか?」
「ん?……、特に無いよ」
「……何か今、間があった気がするんだが?」
「気のせいじゃない?」
本当は、ClaussellのC、ArmbrustのA、そしてBokunenjinのBだった。
「んじゃ、ヨロシク!」
『了解!』
各自が準備を進める。
決戦の刻はすぐそこに迫っていた。