「……少し話があるんだが」
マキアスが真剣な面持ちでフィーに話し掛ける。
「ん?後で聞くよ」
制服の上から着ていたCの衣装を脱ぎながらサラッと流すフィー。
「……ふっ」
マキアスは乾いた笑みを見せると、鼻先にズレた眼鏡を押し上げながら薄暗い鉱山の天井を見つめた。上から水滴でも落ちて来たのだろうか、一筋の雫がゆっくりと頬を伝っていった。
「……おや?」
その時、アンゼリカのARCUSに通信が入る、相手はジョルジュだ。アンゼリカは出力を切り替え、全員に聞こえる様に設定を変えた。
「やあ、全員無事かい?」
「ふふふ、勿論さ。アリサ君とフィー君には私がいる限り手出しはさせないよ」
「アン……、僕は、全員、って聞いたんだけど?」
「ゼリカ、お前は少し黙ってろ……。ジョルジュ、街の様子はどうだ?」
「クロウかい?元気そうで何よりだ、ルーレの街に変わった様子は無いよ。でも未確認なんだが、ヤバそうな情報が入ってる」
「ヤバそうな情報?」
「ああ、街の人が噂してるのを耳に入れた程度何だけど……、どうやら、領邦軍の戦車がそっちに向かったらしい」
「……戦車、ねぇ」
クロウの顔がひきつる。
「こっちでもう少し調べてみるけど、危険な状況に変わりは無い、くれぐれも無茶はしないでくれ。トワから通信が入ったら、また連絡するよ、それじゃあ」
通信が切れた。
「ふふふ、戦車とはね……、親父殿も大袈裟な事だ」
「ホント、物騒だね。なに考えてんだろ?」
アンゼリカとフィーが他人事の様に呟く。
その様子を見て他のメンバーは思った。
コイツら……、頭、大丈夫か???
「そんな事より、変じゃない?」
フィーが周囲に視線を飛ばす。
「変って?」
「別に変わった所は無いように思うけど?」
アリサとエリオットが辺りを見回しながら聞き返す。
鉱山の入り口付近にはコンテナ等が積み上げられバリケードが敷かれていた、戦車で無理矢理にこじ開けなければ侵入は難しかっただろう。意図せずにしてだが、フィーとアンゼリカの策が功を奏した事になる。
その他は前日の実習で訪れた時と、特に変わらない様に見えた。
「ふむ、確かに妙だね?」
「まぁ、言えてんな」
「ああ、侵入と同時に囲まれる位は覚悟していたんだが……」
アンゼリカ達はフィーと同意見らしい。
籠城するならば外の様子を窺う為にも、入口付近に人員を配置しておくのがセオリーだ。結託しているであろう領邦軍から情報が入ってくるとしてもだ。
それが無いという事は……。
「……罠の匂いがするね」
フィーが誰にも聴こえないように小さく呟く。
問題は何に対しての罠なのかという事だ。
単純に鉱山内に突入してくるであろう憲兵隊に対するモノか。
入り口付近の守備を敢えて無くし、奥深くまで呼び込んだ所で集中的に叩くというのは、戦略として十分あり得るだろう。領邦軍から相手の戦力と突入のタイミング等の情報が入ってきさえすれば、成功する確率もかなり高まる。
そして、もしそうだとすると一つの疑問が解消する。
鉱山を占拠した目的は何なのか?という事だ。
アンゼリカが持ってきた情報から推察した結果、鉄鉱石の横流しの証拠を消し去る為、というのがここに来る前に全員が考えていた仮説だったのだが、そもそも鉱山の中にそんな重要な証拠が残っているのだろうか?
採掘量、鉱石純度等のデータはラインフォルト社が導力コンピューターで管理している筈だ。ヘイムダルに居るトワ会長が横流しに気付いたというのも、導力ネットワークを使ってそれらの情報を精査した結果で弾き出したモノだろう。
となると、鉱山内に残されていると予測される記録書類など、ワザワザ占拠してまで押さえたい情報だろうか?
いや、それ以前に何故こんな真っ昼間から鉱山内に立て籠る必要がある?深夜に忍び込んでドカンと爆破でもしてやれば済む話ではないか?
とすると……、敵が敢えてこんな大袈裟な事件を引き起こしたのは、憲兵隊を誘い込む為の罠という事ではないだろうか?
猟兵時代、トラップマスターの異名を持つゼノに言われた事を思い出す。
罠を張るのに一番のポイントは、相手の立場になって考える事や。相手が何を考えどう動くかを把握しきれさえすれば、どれだけ自分より強い相手でも簡単に倒す事が出来る、と。
テロリスト達がワザワザこんな大掛かりな策を用いて憲兵隊を待ち受けているとすれば、狙いはほぼ間違いなくクレアだろう。
噂に名高い氷の乙女を仕留める為なら、この位の仕掛けを用意したとしてもおかしくは無い。ザクセン鉄鋼山をアイスメイデンの墓標にしてやろうというわけだ。
それでも何か違和感が残る、奴らが待ち受けているのは本当に憲兵隊なのだろうか?
うーん……、ん?
不意に何かが接近する気配を感じ取った。
「おっと、おいでなすった様だぜ!」
クロウが導力銃を抜く。
見ると、坑道の奥から警備用の人形兵器が数台近付いて来る。以前ガレリア要塞で戦った物と同じタイプの様だ。
「Ⅶ組総員戦闘態勢!蹴散らすぞ!!」
『おう!!』
リィンの掛け声に反応し、各々が武器を構える。
……しょうがない、チャチャっとバラしてやるか。
フィーも考え事を中断し双銃剣を取り出す。
「行くよ!」
風を纏い先陣を切って走り出す。
薄暗い坑道に斬撃と銃撃の音が響き渡った。
警備人形を難なく始末し、一行は坑道を奥へ奥へと進み続ける。これまでの歴戦に比べれば、あの程度の人形兵器などモノの数にも入らない。
特にマキアスの活躍が凄まじく、鬼神という言葉がピッタリと当てはまるかのように、絶え間なくトリガーを引き続け、見るも無惨な残骸の山を築き上げていった。
既に事切れて、動けなくなった人形にまで銃撃を浴びせ続け、リィンとエリオットが慌てて止めに入るといった場面もあった程だ。
全身からはドス黒いオーラを放ち続け、何故か時折フィーに対して鋭い視線を飛ばしている。
?、……どうしたんだろ?
あ、そっか、クロチルダのラジオか何かがあるから、早く終わらせたいのかな?
……チルダーも大変だね。
フィーはそう結論し、一人で納得した。
そのまま進んで行くと、鉱山内の休憩小屋まで辿り着く。見張りの人形兵器を破壊してから中を確認すると、人質となっている工員数名を発見した。
「みんな無事みたいね」
アリサが嬉しそうな様子で一人一人に声を掛ける、やはり相当心配だった様だ。
「監督達は一緒じゃ無いの?」
「はい、多分奥の管理小屋に捕まってると思います」
「管理小屋?」
リィンがアリサに訊ねる
「採掘に関する許可証とか作業行程の書類とかが置いてある所よ、このままずっと進んだ先にあるわ」
「ああ、私も場所は知っているから問題無いが……」
「ん、ちょっと困ったね」
アンゼリカとフィーが顔を見合わせる。
「このまま進むか、一旦戻るか」
「しかし、戻ると言っても入り口は領邦軍に固められているぞ?」
「いや、流石に人質にまで手を出す真似はしないんじゃねーか?」
「警備人形はあらかた片付けたとは思うんだけど……」
「まだ潜んでる可能性もあるわね」
悩み処だ、人質を引き連れて戦車の辺りまで引き返すか、それとも危険覚悟で彼等を連れてこのまま進むか。
「……しゃーねー、俺が面倒見てやるよ」
クロウが頭を掻きながら言い出す。
「お前らはこのまま進め、工員のオッサン達は俺が入り口まで護衛して、後は自分達で外に出て領邦軍か憲兵隊に保護してもらう。隙をついて逃げて来た、とか言えば何とか誤魔化せんだろ?」
「良いのか?」
「ああ、あんまり時間も掛けてられねーしな。……ゼリカ、後は頼むぜ!」
「ふふ、アリサ君とフィー君さえ居てくれれば私としては何の問題も無いよ、心置きなく行ってくれ!」
「……オメーに頼んだ俺が間違いだったよ」
「じゃあクロウ、宜しく頼む」
「おうよ!じゃあ、遅れないように付いて来てくれ」
クロウが工員達を連れて、来た道を引き返して行く。
「良し、俺達も行こう!」
『おう!』
リィンの呼び掛けにならい、残った一行も移動を再開した。
そのまま坑道を突き進んで行く、途中で再び人形兵器の襲撃にあったが問題なく対処した。
やはりマキアスが凄まじい勢いで敵を蹴散らしていく、殆ど一人だけで50台近い人形を破壊していた。ちょっと怖くなってきたが、チルダーには関わりたく無いフィーは一切触れなかった。
目的の管理小屋までは、もう間もなくといった所だ。
「ま、マキアス……、頑張ってくれるのはありがたいんだが、もう少し抑えても大丈夫だぞ?」
リィンが恐る恐る話し掛ける。かなり引いているらしく、出来るだけ視線を合わせない様にしていた。
「何を言ってるんだリィン?早く人質を解放するためにも、もっとガンガン行こうじゃないか!立ち塞がるモノは全て破壊してやるのさ!!」
マキアスが、まるで返り血の様に顔に付いた人形のオイルを拭いながら笑顔で応える。
何故か爽やかな笑顔が余計に不気味だった……。
……悪鬼って、こういうのを言うんだろうな。
フィーは心の中で呟いた。
「ふふふ、良いねマキアス君!そういうノリは嫌いじゃないよ!」
アンゼリカが口元を歪めながらマキアスに同意する。
こっちもこっちでノリノリだな……。
「さあ!テロリスト達に、産まれてきた事を後悔させてやるとしようじゃないか!」
「はい!お供します、先輩!!」
……こいつら血の雨でも降らせるつもりか?護衛はクロウじゃなくてこの二人に任せれば良かったかな?
……そう言えば、リィンは胸の中に鬼を飼ってるし、アリサはお母さんが鬼だし、マキアスはただの鬼だし、アンゼリカは天然の鬼だし……。
……
……
……
百鬼夜行か!!!
こうなるとエリオットだけが良心だ。
……いや待てよ?エリオットのお父さんは、猛将と呼ばれる赤毛のクレイグだ。しかもエリオット自身もマキアスと同じくチルダーだった……。
……オイオイ、ヤベー奴しか居ねーよ、このチーム。
フィーが誰にも悟られ無いように小さく溜め息をつく。
その時、背後から微かに衝撃音が聴こえ、鉱山内に振動が拡がった。
「何だ!?」
「ほ、崩落!?」
「かなり遠いみたいだけど!?」
「アリサ君、フィー君!私に掴まって!」
アンゼリカがアリサとフィーを力強く抱き寄せた。
「あ、アンゼリカさん!?」
「く、苦しい……」
どうやら鉱山内部の何処かが崩れたらしい、幸いこの近くでは無いらしく、周りの状況に変化は無かった。
「ふぅ、大丈夫かい?二人とも」
アンゼリカがアリサとフィーを解放する。あんな馬鹿力で捕まえておいて、大丈夫も何もあったもんじゃ無いんだが。
「……ん?」
不意にリィンのARCUSに通信が入った。
「はい、こちらリィン……、クロウか?」
リィンが全員に聴こえる様にARCUSの出力を切り替えた。
「ヤられたぜ……、工員のオッサン達を送った後に通路を爆破されちまった」
「だ、大丈夫なのか?」
「ああ、俺は何とも無い、だが退路は完全に塞がっちまってる。何とかしてそっちに向かうが、時間が掛かりそうだ。すまねぇが援護は期待しないでくれ」
クロウの申し訳無さそうな報告に、アンゼリカが返答する。
「ふふふ、クロウの援護など最初から期待しちゃいないさ」
「おいおいゼリカ、そりゃねぇだろ!?」
「後は私達に任せて君はゆっくりとお茶でも飲んでいてくれ、という事さ。正直言って、テロリストごときにこのチームが負ける事など、万に一つも考えられないよ!」
アンゼリカの顔には自信に満ちた笑顔が浮かんでいた。
「そ、そうか……、まぁ、出来るだけお手柔らかにしてやってくれや。じゃ、後でな」
通信が切れた。
「ふむ、どうやらクロウの合流は難しいらしいね……、おや?」
今度はアンゼリカのARCUSに通信が入る、ジョルジュからだ。
「……アン……、無…かい……」
通信にノイズが混じっている。
「ジョルジュ、少し聞き取りにくい。もっと出力を上げてくれないかい?」
「……、……、あ、あー、聞こえるかい?アン」
「OKだ、良く聞こえるよ、トワからの連絡かい?」
「ああ、今通信を繋ぐから、ちょっと待っててくれ……」
……
……
……
「……アンちゃん?リィン君達も聞こえる?」
「やあトワ、こんなに離れて居ても君の声が鮮明に聞こえるよ、これぞまさに愛の成せる業だね!」
「いや、導力通信の進歩のおかげだから……」
トワが呆れた口調で応じる。
トワからの通信内容は、皇帝陛下が憲兵隊に対して鉱山の調査許可書を出したというものだった。恐らく後数分もすればクレアの元に届けられ、突入の号令が出されるだろう。
「ふふ、好都合だ。崩落したという退路の確保は、憲兵隊の諸君に任せようじゃないか」
「だね、悪いけどクレア達にも働いて貰おう」
「はぁ、何だか凄く申し訳無い様な……」
「いいえ、それもこれも全部帝国解放戦線のせいよ、必ず償わせてやるわ!」
「トワ、色々付き合わせて悪かったね、後でお詫びをするよ。そうだな、いつもの様に私の部屋で良いかい?」
「アンちゃんの部屋なんて1回も行った事無いよ!!ホントにもう……、……皆、無理だけはしないでね」
「了解です!ありがとうございます、トワ会長!」
リィンが代表して礼を言い、通信を終えた。
「良し、状況は大体解ったな」
「ええ、退路が塞がっているのは少し気になるけど」
「でも、どのみち前に進むのに変わりは無いんだし」
「ああ、まずは目の前のテロリスト共をどうにかするのが先決だな」
「ふふ、では、進むとしようか!」
「……」
「?、どうかしたの?フィー」
一人考える素振りを見せるフィーにエリオットが訊く。
「ん?うんん、何でもない」
「良し!皆、気合い入れて行こう!」
『おう!』
リィンの掛け声を合図に一行は移動を再開した。
ザクセン鉄鋼山最奥
開けた広い空間、深く掘り進められた縦穴、日の光が入る吹き抜け、そして重要書類があるという小屋。
一行は目的の場所に到達し、物陰から辺りの様子を窺っていた。
「どう思う?」
「ん、小屋からは人の気配を感じるけど……」
「ああ、他には何も感じないね」
どう考えても怪しい。
これだけ見通しが良い広い空間、狙撃でも地雷でもやりたい放題だ。
一見して地面や壁に細工の痕は見当たらないが、熟練のトラップ使いなら相当近付いても解らない様に仕掛けを作るなど朝飯前だ。
さて、どう動くべきか……。
「コソコソしてないで出てきたらどうだ?」
不意に管理小屋の陰から大きな人影が姿を見せた。
顔に深く刻まれた傷痕、相手を威圧する鋭い視線、右手に持ったガトリング砲。
「帝国解放戦線、幹部V!」
リィンが太刀を抜いて構える。
「久しぶりだな、士官学院のガキ共。ガレリア要塞でヤリ合って以来か?」
Vが口元を歪めながらガトリング砲を構えた。
「彼が噂のテロリスト君かい?」
「ええ、この男が待っているとは」
「気を付けて下さい、以前戦った時はナイトハルト教官と互角にヤリ合ってました」
「へぇ?剛撃殿と互角とはね……、これはヤリ甲斐がありそうだ」
アンゼリカが掌に拳を打ち付け、ポキポキと鳴らす。
「領主の娘か……、話には聞いちゃいたが、噂以上に無茶苦茶みたいだな」
「ふふ、照れるなぁ、そう持ち上げ無いでくれよ」
「人質になっている工員達は何処!」
アリサがアンゼリカの前に進み出て威勢を放つ。
「今すぐに解放しなさい!!」
「ふふ、まぁそう怒りなさんなお嬢ちゃん。工員達なら全員あの小屋に居るぜ、勿論傷一つ付けちゃいねぇ」
Vが管理小屋を指す。
「俺も本当は人質何ていう策は好きじゃあねぇんだがよ……、あの鉄血野郎をぶち殺す為なら手段は選んでられなくてな!」
ガトリング砲を持つ右手に力が入った。
「……あんた達は何でそんなにも宰相を憎んでいるんだ?例の鉄道計画のせいか?」
「あ?……他の連中は、まぁそうだが、俺のはただの逆恨みってヤツだ」
「逆恨み?」
「古巣を壊された恨みだ」
古巣……。
「……思い出した。猟兵団アルンガルム、その生き残りだったりしない?」
フィーがようやく思い出した、というように訊く。
「ほう?良く知ってやがったな。お前さんが売り出した頃には、とっくに潰れちまっていたんだが」
「ん、前に団長から少し……」
「西風の猟兵王か……。遅ればせながら悔やみを、敵対してはいたが、尊敬出来る男だった」
「ん、……感謝」
Vが語り出す。
以前宰相に脅しを掛けるという依頼を受け、上手く接近したまでは良かったが、情報が相手に筒抜けで敢えなく返り討ちに遭い、V以外は1人残らず彼の目の前で殺されたという事。
Vも大怪我を負ったが何とか命を繋いで、その後帝国解放戦線と出会ったという事。
今でも夜に眼を閉じると、仲間達が殺される場面が鮮明に浮かび上がる事。
その度にギリアス・オズボーンに対しての怨嗟が甦る事。
どんな手を使ってでも鉄血宰相の息の根を止める、その為だけに生きている事。
Ⅶ組全員の顔には同情とも憐れみともつかぬ表情が浮かんでいた。
「あんたの事情は解ったが……」
「だからといってこんな事をして良い筈がないわ」
「同情はしないでもないが……」
「元々宰相を狙ったのはそっちな訳だし」
「……」
「こいつはな、どっちが正しいとかそういう話じゃねぇんだ。どれだけ時間が経とうが、どれだけ世の中が変わろうが、俺の時間はあの時止まったままだ」
Vがガトリング砲を構える。
「逆恨みだってのは十分解ってるし、巻き込んだ奴らには悪いとも思ってる……、でもな」
Vの身体から黒いオーラが立ち上る。
「そんなんで納得してたら、死んじまった仲間に合わす顔が無ぇだろうが!!」
咆哮と共に全身から凄まじい闘気が溢れ出した。
「こ、これは??」
「な、何よあれ!?!?」
「か、怪獣か!?!?」
「ウォークライ……、最強クラスの猟兵だけが纏える闘気」
「さ、最強クラス??」
「ふっ、相手に取って不足無しさ!」
でも……。
……
……
……
違うよね、ソレ……。
「ガキ共が!!余計な事に首を突っ込んで来やがって!!」
ガトリング砲が唸りを上げて回転を始める。
「来るぞ!皆、散れ!!」
「消し飛びやがれ!!」
黒い狂気と共に凄まじい弾丸の嵐を射出する。
全員が素早くその場を飛び退いて回避する、着弾した弾丸は岩を粉砕して坑道に大穴を開けた。
「な、何だあの威力は!?!?」
「導力噐を経由して闘気を武器に流し込んでる。一発でも当たったら女神送りだから気を付けて」
「何よそれ!?」
「当たらなければどうという事もあるまい!こっちも行くぞ!!」
「了解!、エリオット補助アーツを頼む」
「りょ、了解!」
アンゼリカとリィンがリンクを繋いで突っ込み、エリオットがアーツ駆動に入る。
アンゼリカが低い姿勢で銃弾を掻い潜りながらVへと接近して行く。あれ程デカイ武器だ、ゼロ距離には対応出来ないだろう。接近さえすれば何とかなりそうだ。
同時にマキアス、アリサ、フィーの3人が注意を引き付ける為に援護射撃を行う。
Vが狙いをアンゼリカから援護の3人へと切り替えた。
「……良し!先輩、お待たせしました!」
エリオットがクロノドライブをアンゼリカに駆動する。
「ありがとう、エリオット君!」
瞬間的に速度を増したアンゼリカが、一足飛びにVの懐まで潜り込んだ。
「もらった!!」
加速を伴った踏み込みと同時に全力の拳を叩き込む。ゼロインパクト、アンゼリカの得意技だ。炸裂弾さながらの一撃がVの腹部を捉えた、内臓が破裂してもおかしく無い一撃だ。
……しかし。
「ふん!!」
Vは何事も無かった様にアンゼリカの腕を掴むと、無造作に身体を放り投げた。
「なっ!?」
空中で身動きの取れない彼女に、ガトリング砲を向けるV。
「させるか!!」
リィンが死角から太刀を振るってVを牽制する。
「邪魔だ!!」
Vがガトリング砲を横薙ぎにしてリィンの太刀を打ち払う。
「化物め、喰らえ!!」
マキアスがショットガンをぶっ放す。
撃ったのは通常の散弾ではなく、スラッグ弾と呼ばれる大口径の銃弾だ。
通常の弾丸よりも速度は落ちるが、その分威力は絶大である。扉や壁などを破壊するために使う弾だ、間違っても人間に対して使用するモノでは無い。
……
……
……鬼だ。
弾丸は見事にVを直撃する、……が。
「痛ぇなこのガキが!!」
Vは意にも介さずにガトリング砲を構え直す。
着弾した箇所は赤く爛れているが軽症程度のものだ。
「と、どういう事!?!?」
「な、何故倒れないんだ!?!?」
「黒い闘気には痛覚を鈍らせて身体能力を極限まで高める効果がある、生半可な攻撃じゃ意味無いよ」
「な!?そんなの反則よ!?!?」
「……なんか僕達って、そんなのとばっかり戦ってるような……」
「ふっ、面白くなってきたじゃないか!」
投げ飛ばされたアンゼリカが着地と同時に構えを取り、丹田を中心に気合いを入れ直す。
「やああ!!」
ドラゴンブーストと呼ばれる泰斗流の自己強化クラフトだ、炎の様なオーラがアンゼリカを包み込んだ。
「行くぞ!!」
再びアンゼリカがVへと突進する。リィンとのリンクは切断していた、どうやら1人でヤりたいらしい。
再びVの懐まで潜り込み高速の乱打を見舞う。一撃の重さよりも手数を重視した攻め方だ、これなら掴まえられる危険も少ない。
「は!そんな軽い拳が効くかよ!!」
Vがアンゼリカの攻撃など意にも介さず、ガトリングの砲身を力任せに叩き付ける。
「ぐっ!?」
横っ腹を殴打され再び吹き飛ばされるアンゼリカ、今度は坑道の方まで飛ばされ、全員の視界から姿が消えた。
「はああ!!」
リィンが太刀を打ち込む、疾風から始まる八葉の剣技を間断無く繋いだ連続攻撃を仕掛け続ける。
斬撃は確実にVを捉え、身体に裂傷を刻み付けてはいるが……。
「はっ!まだまだ足りねぇな!!」
ガトリングの砲身で太刀を受け止めると、リィンの腹部に思い切り拳をめり込ませる。
「うぐっ!?」
呼吸困難に陥りながら崩れ落ちたリィンはその場でのたうち回った。
「そんなもんか小僧!!」
Vがリィンを踏みつけ一喝する。
「がはっ!?」
吐血しながら苦し気に顔を歪めるリィン。
「身の程を知らねぇガキが!人数が多けりゃどうにかなるとでも思たのか?嘗めるんじゃねぇ!!」
Vがガトリング砲をリィンに向けた。
「くたばりやがれ!!」
砲身が唸りを上げて回転を始める。
その時。
「……させないよ」
フィーが風を纏ってVに飛び掛かる。
「はは、来やがったな、シルフィード!!」
砲身でフィーの一撃を受け止めると、Vはリィンを解放して一度距離を取った。
「ふ、フィー……」
「ん、リィンはちょっと休んでて、アンゼリカはアリサ達に頼んだから大丈夫」
「だ、駄目だフィー……、あの男は強い、強すぎる……。俺に構わず逃げるんだ」
「ん、任された」
「え?……イヤ、任された、じゃ無くて」
「いいから、怪我人は大人しくする」
フィーが死角からリィンの首筋に手刀を叩き込む。
「かっ?……」
リィンは地面に突っ伏して動かなくなった。
お休み、リィン。
「オイオイ、まさか1人でヤろうってのかよ、シルフィード?俺を嘗めるんじゃねぇ!」
「……嘗めてんのはアンタの方だよ」
「ああ?」
「リィンもアンゼリカも、いつもより身体のキレが無かった。アンタに同情して本気を出せ無かっただけ。ま、それがアンタの策略だったって言うんなら大成功なんだけど?」
「は、ワザワザそんな面倒くせぇ真似するかよ!」
「だろうね、ま、何を言っても戦闘中に甘い事考えてるリィン達が悪いんだけどさ」
でも、その甘っちょろいのが、リィン達の良い所だもんね。
「ふん、それじゃあ、甘くないお前さんなら1人で俺とヤリ合えるってのか?」
「ん、勿論そのつもりだけど?」
「その小っこい身体で、俺の怒りを受け止められるとでも思っていやがるのか!!」
「アンタの怒り?……何か、勘違いしてない?」
「ああ?」
「アンタ達はヘイムダルでリィンの妹達を拐って酷い事をしようとしたし、マキアスのお父さんに怪我をさせた。ガレリア要塞でエリオットのお父さんの部下達を沢山殺した」
双銃剣を持つ両手に力が入る。
「ノルド高原では争いを引き起こしてガイウスの故郷を焼こうとしたし、そして今度はルーレでアリサの大切な人達を傷付けようとしてる……」
両眼に鋭い光を宿す。
「怒る?アンタが?……ふざけないで」
両足でステップを刻む。
「怒ってるのは……」
突然フィーの姿がVの視界から消える。
「ワタシの方だよ」
不意にすぐ耳元で、冷たい声が聞こえた。
「くっ??」
Vがガトリング砲を声の方に向ける、だがそこには誰も居ない。
次の瞬間、左肩から鮮血が迸る。
「な??」
視線を左に向ける、だがそこには誰も居ない。
今度は右肩から血が吹き出す。
「この!!」
反射的に拳を突き出す、だがそこには誰も居ない。
その後も身体中を細かく切り刻まれる、だがVにはフィーが何処を狙ってくるのかすら全く解らない。
すぐそばに居るのは解る、手を伸ばせば届く程すぐそこにだ。
だが触れる事も姿を見る事も出来ない。
ただ一方的に攻められ続ける。
黒い闘気によって身体能力は上がっている、それでも追い縋る事さえ出来ない。痛覚が麻痺し、耐久力も通常より上がっているとはいえ、これ以上出血すれば身体が動かなくなる。
Vの顔が歪む。
幾つもの戦場を経験している彼でも、ここまで何も出来ずになぶり殺しにされた事は無い。
妖精の姿は誰にも見る事は出来ない。見る事も、触る事も、感じる事すら出来ない。
しかし妖精は、人に夢を見せて幻の国へ連れて行くと言われている。
悪夢の様な時間が過ぎていった。
俯き、自分の血溜まりの中に膝を付くV。
黒い闘気はとうに消え去り、全身からは力が抜け、ガトリング砲を掴む気力すら残ってはいなかった。
「くくく、こいつは凄ぇ、手も足も出無ぇとはこの事だ」
Vが自嘲する様に笑う。
「流石は西風の妖精だ、噂程度には聞いていたがこれ程とは思わなかったぜ」
「ん、アンタも大したモンだよ、殺すつもりでいったのにまだ生きてる」
「ははは、何の慰めにもなって無ぇよ。それに、急所は外してくれたみたいじゃねぇか?何のかんのでお前さんも十分甘ぇな」
「……久しぶりに本気出したから、勘が鈍ってただけ」
「ふふふ、まぁ、そういう事にしといてやるか……」
Vが力の無い視線でフィーを見つめる。
「何故だ?、ウォークライまで使って、何故歯が立たなかった?何故俺は負けた?」
「……アンタが使ってたのはウォークライじゃ無いよ」
「あん?」
「戦場で猟兵が上げる雄叫びは、相手を倒すためのものじゃ無い、絶対に生きてこの地獄から帰るんだという意思の力、だから……」
フィーが屈み込んでVに視線を合わせる。
「帰る場所も、帰るつもりも無いアンタは猟兵でも何でもない、ただ破壊を撒き散らすだけの存在」
「ふん、ガキが、知った様な事を」
「知らないよ、ワタシはアンタじゃ無いんだからアンタの考えてる事なんか知る訳無い、……でも」
フィーが鋭い瞳を向ける。
「宰相にヤられた時に、猟兵としてのアンタはもう死んでたんだよ。それでもアンタは過去にすがり付いてそれを認めようとしなかった、止まった時計を動かす事も外す事もしなかった。そんなヤツにワタシは負けない……、そんなヤツらにワタシ達は負けない!」
「……ちっ、生意気なガキが……」
Vがフィーから視線を逸らして、傍らに置かれたガトリング砲を見つめる。身動ぎもせず身体中から血を流しながら、彼は長年一緒に戦ってきた相棒を見つめていた。
「ううん……、フィー?」
目を覚ましたリィンがフィーに話し掛ける。
「おはよリィン、終わったよ」
「あれ、俺は……?」
「覚えて無いの?」
「えーっとVにヤられて……、あれ?その後首筋に衝撃を受けた様な……」
「ん、気のせいじゃない?ワタシが見た時にはもう寝てたみたいだし」
「え?そ、そうだったかな?」
「ん、そうだったよ」
「そ、そうか?」
「そうだった」
「そ、そうだったかな……」
リィンが腕を組んで考える。
「……リィン君、フィー君」
アンゼリカがアリサに肩を借りて脇腹を押さえながら近寄って来る、マキアスとエリオットも一緒だ。
「すまない、助っ人に来ておいてこの様とは……」
「ん、大丈夫、皆無事だし、それに……、解ってるから」
フィーが少し躊躇いがちながら答えた。
「イヤ、それでは私の気が済まない!さあ、君の双銃剣を私のケツに思い切り突き刺すが良い!」
アンゼリカが四つん這いになってフィーに尻を向けた。
……脇腹が痛む筈なのに良くやるよ、と言うか何でケツ?
「さあ!!バッチコイだ!フィー君!!」
「ん、……また今度で良いよ」
「そうかい?それじゃあ、今夜にでもホテルに部屋を取ってから……」
……どんだけホテル行きたいんだコイツは?
「オホン、で、この人どうするの?」
アリサが話を打ち切ってVを見つめる。
「取り敢えず拘束しておいて、後でクレア大尉に引き渡せば良いんじゃないか?」
「……それにしてもこれ、フィーがやったんだよね?」
「100人位で袋叩きにしたみたいになってるんだが……」
「ん、ま、ちょっと本気出したから」
「ちょ、ちょっと?」
「ふふふ、流石はフィー君だ!先輩として誇らしいよ!」
アンゼリカが四つん這いのままフィーを褒め称える。
「工員達も解放しないとな」
「ええ、管理小屋に行ってくるわ」
「それは、もう少し後にして貰えるかな!」
突然、周囲に機械で加工された声が響き渡る。
全員が揃って声の方に振り返る、アンゼリカも四つん這いのまま首を捻って声の主を確認した。
黒いマントにフルフェイスメット。先程フィーが真似た偽物ではなく、ヘイムダルの夏至際で見た時と同じ装いがそこにあった。
「帝国解放戦線!?」
「リーダー、C!?」
全員の視線が集まる。
「トールズ士官学院の諸君、久しぶりだね」
Cの機械化された声が鉱山内に反響した。
やれやれ、まだ一休みは出来ないか……。
子猫はいつものように面倒クサそうな視線をCに向けた。