妖精の軌跡first【完結】   作:LINDBERG

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このストーリーは、番外編の後に続く話です。



Another end
子猫の1番大切なモノ……


七耀歴1206年 海港都市オルディス

 

初夏の日射しが心地良い、潮風の薫りが鼻腔をくすぐる。蒼を基調とした風光明媚な街並みは、訪れた者に溜め息を吐かせるのに充分な壮麗さを備えていた。

 

「……っ」

注文したオレンジジュースを1口飲み、ミランダ酒場2階の窓から湾の様子を眺める。

一面の青い空と海、カラフルなマストを立てたヨット、大型の貨物船に小型のクルーザー……、港街ならではの壮観な景色が広がっていた。

 

……ん、予想通りの時間だね……。

 

貴族街の方から、紺色の学生服に身を包んだ4人と、白いロングコートを着た男が歩いて来た。

男はふわふわヘアーの娘に片腕を絡められ、少し困り顔を見せている。その様子を桃色髪の娘と水色髪の少年がやれやれといった顔で見つめ、銀髪ロングにベレー帽の少女が無表情に眺めていた。最後尾を歩く金髪の少年は興味無さそうに欠伸をしている。

 

最後に見た時より大分背が伸びたらしい。一瞬だけ、別人の様な印象を受けた。……女難癖は相変わらずの様だが。

確か今は『灰色の騎士』とか呼ばれて、鉄血の後を引き継いで宰相になった、マキアスのお父さんから色々とオーダーを受けているそうだ。

白でも黒でもない灰色……、清廉でもなく汚泥にまみれるでもない中途半端な騎士……。

何となく、どっち付かずの朴念仁にピッタリな気がした。……お節介焼きの世話好きに、白黒の概念は全く関係が無い。

 

不意に男がベレー帽を被った少女の頭を撫で始める。

……背は伸びても、ああいうところは全く変わっていないらしい。

 

ったく、あのアホは……。平気でそうゆう事するから、女タラシって呼ばれんだよ。

 

思わず目を細めた。

 

ふと思い立ち、窓ガラスに映った自分の姿を、ベレー帽の少女に重ねてみた。男の手が、自分の虚像を撫でている様に見える。

ほんの少しだけ頬が弛んだ。

 

そういえばあの夜も、オレンジジュース飲んでたっけ……。

 

自分にとって忘れられない夜。自分以外は誰も覚えていない夜。大切なモノを守るために、もっと大切なモノを手離した夜。

……後悔が無いとは口が裂けても言えない。それでも、自分なりに納得して今日まで歩いて来た。

一度手離したモノは二度と手には入らない。だが、手離したモノが大切では無くなるというワケではない。

例え元には戻らなくても、例え相手に気付いてすら貰えなくても、ワタシはワタシの大切なモノの為なら何だってする。

 

グラスを傾けてオレンジジュースを飲み干すと、最後にもう一度だけ窓の外を見つめた。

 

……じゃあね。

 

音も立てずにその場を後にした。

 

 

 

 

 

「……んっ?」

「?、どうかしたんですか、リィン教官?」

「イヤ、誰か俺の事呼んだか?」

「?、……いいえ、誰も呼んで無いと思いますけど」

「そ、そうか?気のせいかな……」

前にもこんな事があった気がする。あれはいつだっただろう?……ポッカリと胸の奥に穴が空いた感覚。何よりも大切なモノが指の間をすり抜けて、落としてしまった様な感覚。

「……っ?」

不意に口の端で、甘酸っぱいオレンジジュースの味を感じ取った。

甘くて、そして少しだけホロ苦い味。……あの夜と同じ味。

 

……ん?あの夜?……いつの事だ?

 

砂よりも細かい記憶の破片。幾ら拾い集めても、形を作る事は無い。

海を渡って来た西風が、少しだけ頬を撫でて、まるで自分をからかう様に通り抜けていった。

 

 

 

 

 

 

鋼の鎧を身に纏い、金色の髪を靡かせ、聖女は市街地近郊の高台に立ち、物憂げな蒼い瞳でオルディスの街を見下ろしていた。

「……マスター」

主と同じ甲冑に身を包んだ筆頭隊士が、すぐ脇で膝間付いて現状を報告する。

「アイネス、エンネア、両名とも既にブリオニア島に入り、作業に取り掛かりました。数時間後には遺跡への道も開かれるかと……」

「ご苦労様です、引き続き警戒しながら作業を進める旨、伝えて下さい」

「はっ!了解しましたですわ!」

「……」

「?、どうかなさいましたか?」

「……デュバリィ、下がっていなさい」

「へ???」

「そろそろ出て来てはどうです?フィー・クラウゼル」

「なっ!??」

2人の背後にある岩陰。銀色のうしろ髪を揺らしながら、少女はゆっくりと姿を現した。

 

 

 

 

突然の訪問にも関わらず、マスターはさも当然と言わんばかりにワタシを迎えてくれた。もしかしたら、来る事を予測されてたのかもしれない。

以前一緒に戦った剣士は、驚きを隠す事も無くコッチを見つめている。

 

……あんまし変わってねーな、コイツは……。

 

少しだけ苦笑いを浮かべた。

 

「久しぶりですね、クラウゼル」

「ん……、そだね」

「……単刀直入に聞きます、何をしに来たのですか?」

「言うまでも無いでしょ?アンタ達を止めに来た」

「止める……ですか」

「ん、アンタ達が何をしようとしてるかは、ある程度解ってる。このままだとリィン達とぶつかり合う事になるのも。だから、出来ればこのまま何もしないで、帰ってくれない?」

「ちょっ!?お待ちなさい小娘!!」

剣士がマスターの前に飛び出した。

「いきなり出て来て何を言ってやがります!厚かましいにも程が……」

「デュバリィ、下がっているように申し付けた筈です」

「で、ですがマスター!」

「下がりなさい」

「~~っ」

分かりやすく肩を落として、すごすごと後ろに控える。

 

……ホント、変わってねーなコイツは。……それとも、成長が無いっていうのかな?

 

「残念ですが、我々がそなたの言に従う理由はありません」

「ん、だろね……」

「それに、蛇の使徒として、そなたをここで見逃す事も出来ません」

 

……ん、……だろうね。

 

「そなたがオズボーン宰相を抹殺したお陰で、結社の計画は大幅に狂いが生じ、2年もの準備期間を要す事になりました。結社内の上層部では、そなたを処分する指令も出ています」

「ん、知ってるよ。色々調べてるから」

「ほう?それが解っていて、私の前に姿を現したのですか?それがどれだけ愚かな行為か、解っているのですか?」

「ワタシだってアンタ達とヤり合いたいワケじゃ無いよ。でも、アンタ達がワタシの仲間に手を出そうとしてるんなら、話は別」

「仲間……ですか……。クラウゼル、その仲間の記憶を、そなたは自分の手で消し去ったと聞き及んでいますが?」

「ん……、そだね……」

「自分を覚えてもいない人間を、そなたは仲間と呼ぶのですか?」

「……皆にすればワタシはただの赤の他人だし、そう仕向けたのはワタシ……。でも……」

双銃剣を引き抜き、クルクルと回しながらいつもの様に構える。

「ワタシは覚えてる、皆と過ごした半年間を!ワタシは絶対に忘れない、皆の笑顔も優しさも厳しさも温かさも!だからアンタ達が、ワタシの大切なモノを傷付けようとするなら、ワタシは絶対に許さない!」

断固とした響きで言い放った。

 

「……小娘……」

「……成る程、分かりました」

マスターの手に巨大なランスが握られる。

「貴女がそれだけの決意で向かって来るのであれば、私も本気で応えなくてはなりませんね」

「ん、さんくす、マスター」

「……これから殺し合う相手に礼を言うのですか?……私は貴女のそういうところ、嫌いじゃありませんよ」

「ん……」

「ま、マスター……」

「デュバリィ、手出しは無用です。見届けをお願いします。そして、私が敗れたら、潔くこの地を離れなさい」

「……っ、畏まりましたわ」

黄金のオーラを放ちながら、鋼の聖女は構えを取った。

 

「ごめんねマスター、お茶の約束は果たせないかも」

「ふふふっ、少し残念ですが構いません。煉獄の果てでティータイムというのも、興味深いですし」

「ん、それなら喜んで付き合うよ」

「ふふ、約束しましたよ?」

「ん、らじゃ……」

互いの顔には笑みが浮かんでいた。

不意に風が止み、凍り付いたかの様な静寂が訪れる。

 

「いざ!!」

「ん!!」

 

金色と銀色が交差した瞬間、周囲に閃光が迸る。

自らの想いで軌跡を描き、子猫と聖女は眩い光に包まれた。

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