妖精の軌跡first【完結】   作:LINDBERG

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子猫は人外さんと出会う

今日こそスニーカーを見に行こう。

 

フィーは授業が終わるとすぐに、アンゼリカからバイクを借りようと技術棟へ向かった。

 

「ふふっ、すっかり気に入ってしまったようだね」

同好の士を歓迎するアンゼリカ。

「あ、ゴメン、乗るつもりだった?」

「いや、構わないよ、ゆっくり楽しんでおいで」

「さんくす、行ってくるね」

 

スロットルを回してバイクを発進させた。

 

 

 

 

 

ヘイムダル ヴァンクール大通り

 

平日にも関わらず賑わいを見せている、流石は帝都のメインストリートといったところか。

 

ストレガー♪ストレガー♪

 

鼻歌を唄いながら、楽しそうに大通りを歩くフィー。

「おや?フィー君じゃないかい?」

不意に後ろから声を掛けられる。

振り返ると、長い金髪に赤いローブを着た男が笑顔で立って居た。

「あ、オリヴァルト皇子」

フィーは軽く会釈をして挨拶する。

「ふふふ、そんな他人行儀ではなく、いつもの様に、オリビエお兄ちゃん、と呼んでくれたまえ」

 

……いや、いつもは呼んでねーだろ。

 

「1人でどうしたんだい」

「ん、ちょっと買い物に……、?」

 

……あれ?

 

何か物足りないなと思ったら、ミュラーの姿が無い。てっきり常に一緒なのだと思っていたが、そうでも無いらしい。

代わりに年輩の男性が皇子の後ろに立って居る。皇子と同じく金髪で、気品と威厳という言葉がピッタリな男性だ。微笑ましい様子でフィーを見つめていた。

 

?、何処かで見た様な……。

 

「ん?ああ、今日はミュラーでは無くて、彼と一緒なんだ」

フィーの様子を察した皇子が答える。

「ふふふ、皆には内緒で抜け出して来たんだよ。たまには親子水入らずの付き合いがしたくてね」

 

内緒で抜け出して来たって……、ん?親子???

 

もう一度年輩の男性を見つめる、彼は威厳ある態度を崩さぬまま、優しげな眼差しでフィーを見つめていた。皇子と同じく赤いローブを身に纏っている。

 

お、親子??……って事は。

 

「こんにちは、お嬢さん」

男性がフィーに語り掛ける。

 

こっ……。

 

「トールズの生徒だそうだね、オリヴァルトから話は聞いているよ。随分と昔の事だが、私もあそこに通っていてね」

 

こっ……。

 

「ふふふ、父上、今はオリヴァルトではなくオリビエと呼んで頂きたい」

皇子が男性に笑い掛ける。

 

こっ……。

 

「おっと、そうだったな。ん?それを言うならお前も、父上ではなくユーゲントと呼ばなくては駄目ではないか?」

 

こっ……。

 

「おや?そういえばそうでしたね、失礼しました。しかし名前をそのまま呼ぶというのも芸が無い、いっその事、ユーリ、とでも名乗っては如何かな?」

 

こっ……。

 

「ユーリか……。良いね、ユーリ。親しみを持たれそうな名前だ」

 

こっ……。

 

「ふふふ、という訳でオリビエの父のユーゲント……、いや、ユーリと申す者です」

柔和な表情を崩さず、優しくフィーに語り掛ける。

 

皇帝かよ!!!!!!

 

胸の内でフィーが絶叫する。

 

「息子がお世話になってるようだね、一つ私とも仲良く頼むよ、お嬢さん」

 

イヤイヤイヤ「頼むよ」じゃねーよ!!親子揃ってアホか!!何がユーリだ!!?

 

まじまじと皇帝を見つめる。

 

こんな街中で護衛も付けねーで何やってんだ!?テロリストもまだ捕まってねーんだぞ!!っていうか近衛兵はどうした!?皇帝だったら側近が10人位は常時近くに居る筈だろ!!それも撒いてきたのか!?

 

「ふふっ、今日はユーリと2人だけで、視察を兼ねて帝都の社交場に顔を出そうかと思ってね」

皇子が笑顔でフィーに説明する。

 

社交場か……、ワタシには無縁の場所だな。

ワザワザ素性を隠して行く意味は良く解らないけど、この皇子のやる事は元々ワケ解んないからな……、考えるだけ無駄か。

あんまり関わりたく無いし、ほっといて行こ。

 

適当に話を終わらせ、その場を後にしようとするフィー。

 

「そうだ、もし良かったらフィー君も一緒にどうだい?美味しいモノもあると思うよ?」

「ん、行く」

美味しいモノという言葉には弱いフィー。

 

「ふふふ、では参るとしようか」

 

3人は連れだってその場を後にした。

 

 

 

 

 

帝都ヘイムダル 某所

 

社交場と呼ばれるその場所は、フィーが初めて目にする物で溢れていた。

キラキラと光輝く豪奢なシャンデリア、ピカピカに磨き抜かれた大理石の床、フカフカで座り心地の良さそうなソファー。

思わずキョロキョロしてしまう。

 

そしてゲストをもてなす綺麗なドレスに身を包んだ女性達。テーブルに並べられた沢山のフルーツと、ワインやウィスキー等のボトル。

更に、入り口を入ってすぐの所に受付カウンターと、セット料金が書かれた壁掛け?

 

……

……

……

……って、ただのキャバクラじゃねーか!!!

 

「あら、オリビエさん!いらっしゃい」

「ふふふ、久しぶりだね、ママ」

皇子が慣れた様子で、店の責任者らしき女性に挨拶する。……どうやら常連のようだ。

 

何が社交場だアホ皇子!!何を視察するつもりだ!?単に遊びに来ただけじゃねーか!?

しかもまだ夕方にもなってねーぞ!!

 

「あら?そちらは、お連れ様かしら?」

女主人が目を細めてフィーを見つめる。

 

……そりゃそうだ、真っ赤な学生服を来た小娘が、こんな店に入場出来るワケが無い……。摘まみ出されるのがオチだ。

 

「ああ、僕の姪でね。社会見学の一環として、入場させては貰えないかな?」

「あら、姪子さんなの?うーん……」

困り顔の女主人。

 

無茶言うなよ、大問題になるぞ。

 

「……まぁ、良しとしましょうか。特別ですよ」

女主人がイタズラっぽくウインクしてみせる。

 

……フランク過ぎるだろ、良いのかよマジで。

 

「本日のご指名はどうなさるの?」

フィーの心配を余所に、女主人が女性の顔写真をカウンターに並べている。

「ふむ、そうだな……」

見た事が無い程に、真剣な表情で思案する皇子。

 

……何でこういう時だけ、男は一切の妥協が無いんだろ?

 

無感情に皇子を見つめるフィー。

 

「うーむ……、それでは前回と同じく、ユミちゃんにお相手をして貰おうかな」

熟考の末に皇子が答える。

「待てオリビエ、私もユミちゃんを指名したい」

ユーリがそれに待ったを掛けた。

「おや?ユーリはNo.1を指名したい、と来る前に仰っていた筈では?No.1はユミちゃんではなくマリちゃんですよ?」

「No.1よりOnly.1だ!私はユミちゃんが良い!」

 

……アホの親子め。

 

「ははは、ユーリ、それはルール違反だ。ユミちゃんは私が先に指名したのだから、私のユミちゃんだ」

「ふふふ、オリビエよ、こういった場所では年功序列がモノいうのだよ。だから私のユミちゃんだ」

笑顔のまま揉める2人、そして口元は笑っているのに、目は一欠片も笑っていなかった。

 

……もう、好きにしてくれ。

 

「年功序列と言うならば、この店の常客である私に優先権がある筈では?」

「いや、年齢以上の序列など、この世には存在しない。ここは私に譲るべきだ」

 

……ふぁ、早く座ってフルーツ食べたいな。

 

アクビを噛み殺すフィー。

 

「ふふふ、流石はユーリ。折れないお人だ」

「ははは、お前も強情だなオリビエ、ここは私の顔を立ててはくれないか」

どちらも引く気はないらしい。

 

アホ共め……。ったく、しょうがねーな。

 

「ん、それなら2人でユミちゃん指名したら良いじゃん?ユーリとオリビエの間に座って貰って、2人一緒に相手して貰ったら?」

フィーがメンドくさそうに提案する。

 

『!!!』

……

……

……

『て、天才だ……』

2人が同時に呟く。

 

「何ということだ、これ程平和的かつ合理的な答えが存在するとは……、女神に感謝しなくては」

「いいえユーリ、我々の目の前に居るこの少女こそが、女神の化身なのでしょう……。ありがとうフィー君、私は今日から君の僕〈しもべ〉となろう」

口々にフィーへの賛辞を贈り、揃って恭しく頭を垂れる。

 

……アホの僕なんか要らねーよ。やっぱ来なきゃ良かったかな?

 

皇子が女主人に向き直る。

「と、いう事さ、宜しく頼むよママ」

「本当によろしいの?料金は2人分頂く事になるけれど?」

「ふふふ、先日の帝都ダービー(競馬)で20万馬券を当ててね、軍資金はそれなりにあるから心配はご無用さ」

 

てっきり国民の血税で遊びに来たのかと思ったが、どうやら違うらしい。

それにしても、20万馬券(2,000倍)って……。やはり皇族ともなると、クロウ辺りとは引きが違うらしい。

 

「もしそれでも足りないなら、いつもの様にピアノ演奏でも皿洗いでもトイレ掃除でもやらせてもらうよ」

皇子が笑顔で答える。

いつもはそうしてるらしい。

 

……ん?ひょっとしてそれは、ワタシも付き合わされるのか?

 

激しい不安に襲われるフィー。

 

「うふふ、畏まりました。それでは、お席にご案内致しますわ」

女主人に促され、3人はボックスシートに通される。

 

 

 

 

 

流石は皇子推奨の店なだけある。

座り心地の良いソファーの端に身を沈めたフィーは、美味しそうにフルーツを口いっぱいに頬張っていた。

 

と、止まらん!

 

自分の意思とは無関係に手が動いて、次々と口にマスカットを放り込んでいく。

 

メチャクチャ美味い!

 

皇子達は希望のユミちゃんを間に座らせ、ワインを飲みながら楽しそうに雑談している。

2人はどうやら皇族にそっくりの芸人さん、という設定で会話を進めているらしい。

 

……どうせ本物って言っても信じねーよ。

 

心の中で呟く。

 

っていうか、親子で同じお姉ちゃん口説くのってどうよ?……ドン引きなんだけど。

 

冷たく乾いた視線で見つめるフィーを余所に、2人はとても楽しそうだった。

 

ま、奢って貰えれば何でも良いか。

 

この店特製らしいレモネードで、口に詰め込んだフルーツを流し込む。

 

まだ早い時間にも関わず、フィー達以外にも数組の客がいる。

どのテーブルも、和やかに女の子達との談笑を楽しんでいるらしいが、1つのテーブルだけは男4人のみでヒソヒソと話し込んでいた。丁度フィー達の真後ろの席だ。

一見すると、飲む前に仕事の打ち合わせでもしているかの様に見えるが、フィーは引っ掛かりを覚えた。

彼らの視線の動かし方、死角を作らない席の位置取り、口を動かさずに話す喋り方、周囲に漂う独特の張りつめた空気。

 

……軍関係者?

 

彼らの足元にはボストンバッグが2つ置かれてあり、4人全員が絶えず注意を払っている。

 

こんな場所で内緒話?……ちょっと気になるね。

 

何とか話の内容を聞けないかと、聞き耳を側立てる。

 

「いらっしゃいませでやがりますわ」

不意に横から声を掛けられる。

見ると、何となく野暮ったい印象の女が、全然似合わない青いドレスを身に付け、フィーに話し掛けて来ていた。不機嫌な感情を思いっきり顔に出し、嫌々ながらも仕事だから仕方ない、といった態度を隠そうともしない。更に客と視線を合わせるのも嫌なのか、目を瞑っている。

フィーは女の顔を見つめた。

 

?……あれ、何処かで会った様な?

 

「こんな早い時間から良くお越し下さいやがりました、相当お暇なご様子で何よりでございま……」

女が目を開けてフィーを見つめる。

「……」

「……」

 

んーっと……、何処で会ったんだっけ?

 

記憶を探るフィー。

 

「こっ……」

 

ん?

 

「小娘ぇ~!!!こんな所で何していやがるですわ!!?」

 

あっ、その喋り方。

 

「思い出した、確か、神速の……ティンパニーだっけ?」

「デュ、バ、リィ、です!!!何ですの!!その凄腕の打楽器奏者みたいな異名は!!?」

「何してんの?」

「人の話を聞きやがれですわ!!」

デュバリィがフィーに詰め寄る。

「ん、聞いてる聞いてる。で、何してんの?ただのバイトって感じじゃなさそうだけど?」

「くっ、あなたには関係ありませんわ」

「教えてくれても良いじゃん、この前いっぱい遊んであげたんだし?」

「あ、あ、遊んであげた!!?な、何ですの!!その言い草は!!!」

デュバリィのこめかみに青筋が浮き立ち、一瞬にして怒りの炎が瞳に宿る。しかし、何とかそれを無理矢理押さえ込んで平静を装った。

 

「ふん、私が何故ここに居るのか気になる様ですわね?」

口元に不敵な笑みを浮かべる。

「気になりますか?気になりますわよねぇ?」

鋭い眼光でフィーを見つめる。

「でも、絶~対教えてやりませんわ!!せいぜい悔しがれですわ!!」

してやったり、といった具合で勝ち誇る様に嗤う。

「ん、ひょっとして、あれ?」

フィーが親指で、後ろに座る4人組の男達を指差す。

「……」

デュバリィの顔からサッと笑みが消えた。

「当たり?」

「あんたなんか……」

「ん」

「あんたなんか、大っキライですわ!!!」

瞳を潤ませながら、デュバリィは魂から声を絞り出す。

「はいはい、で、あれをどうするつもりなの?」

そんなデュバリィの一声を、フィーはサラッとスルーした。

「そこまで教えるワケねーだろですわ!」

そう言いながらも、デュバリィは視線を微妙に動かし、ある物を見つめていた。

「?、ああ、あの鞄?」

尋ねながらレモネードを一口飲むフィー。

「うっ……、ううっ」

涙目になるデュバリィ。

 

「泥棒しようとしてるの?」

「人聞きの悪い事言うんじゃねーですわ!!あれは元々私達が手にする筈だったのを、奴らが強引に奪って行ったのですわ!」

「ふーん……、あっそ」

何の感情もない相槌を入れながら、もう一口レモネードを飲み込む。

「じ、自分から聞いておいて、いきなり興味を無くすんじゃねぇですわ!!!」

「ん、実は最初から、それ程興味は無いんだけどね」

チェリーを口に放り込む。

「なっ!!?だったらハナから聞くんじゃねーですわ!!っ……!」

デュバリィは憤慨するが、ハッと気付いた様に声のトーンを落とす。4人組の男を見ると、横目でこちらの様子を窺っている様に見えた。

隣でこれだけ騒いでいれば当然だが。

 

「あらら、警戒されちゃったみたいだね」

言いながらカットされたパインをモグモグと頬張る。

「だ、誰のせいでこうなったと思っていやがるのです!?」

「……?、誰?」

「あなたのせいに決まってやがります!!」

「ん、いや、それ以前に……」

改めてデュバリィの装いを見る。

「どうやっても警戒されるでしょ?あんた明らかに他の女の子達と毛並みが違うし、言葉使いもなってないし、……色気も無いし」

「あなたみたいな小娘に、色気が無いとか言われたくありませんわ!!」

憤慨するデュバリィ。

 

はぁ、ったく、怒りっぽい女だ。アリサと良い勝負かも?

 

溜め息を吐きながらマンゴーを口にする。口の中にとろける様な食感が広がった。

 

それにしても、胸が大きいから色っぽいとは限らないんだな。……勉強になった。

 

デュバリィのポヨンとした胸を見つめながらフィーは悟った。

 

 

 

「こうなったら仕方ありません!あなた、手伝いなさい!」

「?……なんで?」

「あなたのせいで私の計画が駄目になったからですわ!」

「……一応聞くけど、どんな計画?」

「当然、私の美貌に相手が酔いしれている間に、鞄を頂くといった寸法ですわ」

「……」

乾いた瞳で見つめるフィー。

「何ですの!その顔は!?」

「いや、……うん、まぁ、人の好みって色々あるしね。確率はともかく可能性はあるかな?」

「きぃ~!バカにするんじゃねぇですわ!」

「落ち着きなよ、……っていうか、どう考えてもあんたの適役じゃ無いんじゃない?何でこんな事やってるの?」

「ふん、適役かどうかは関係ありませんわ!私はマスターに喜んで頂く為に、ここへ来ているのですから!」

「……マスターね」

 

この前もそんな事言ってたな。てっきりカフェのマスターか何かかと思ったけど、どうやら違うらしい。

まぁ、街中で大剣振り回してた時点で、【あっち】関係の人間だとは思ってたけど。

 

大切な人に喜んで欲しい。その気持ちはフィーにも良く解る。

横を見ると、ユーリ達はフィーの事など気にも止めず、ユミちゃんとお喋りしていた。……このまま放っといても良さそうだ。

 

ま、チョット位なら手伝ってやるか。

「ん、良いよ」

「ふふっ、当然ですわ!」

 

いや、そこは「ありがとう」だろ?……どういう教育してんだ、マスター。

 

「んじゃ、あんたの計画をそのまま使おっか」

「だから、いくら私でも、警戒してる相手を……」

「あんたが奴らの気を引いてる間に、ワタシが鞄を頂戴するから」

「?、どうやってですの?」

「ん、これ」

フィーはポーチからワイヤーフックを取り出すと、ニヤリと笑う。

「これを引っ掛けて、ちょちょいと」

「……、あなた、ホントにただの学生ですの?」

デュバリィが目を細める。

「全員の意識をあんたに向けさせなきゃダメだよ、出来る?」

「ふん、簡単な事ですわ、そこで見ていなさい!」

デュバリィは気合いを入れて立ち上がると、目標が座るボックス席へ向かった。

 

……大丈夫かな?

 

その様子を見つめるフィー。だが、例え失敗しても自分は痛くも何とも無いので、全く心配はしていなかった。

 

 

 

「失礼しますでやがります!」

デュバリィが精一杯の作り笑いを浮かべて男達に声を掛ける、あからさまに不信な目でそれを見つめる男達。

「宜しければお酌をして差し上げるでやがりますわ!」

顔を見合わせる男達。

「いや、今は内輪の話をしてるから、後でお願いするよ」

リーダーらしき男が答える、意外にも紳士的な対応だ。

「まぁまぁ、そう言わずに黙って飲めですわ!」

デュバリィは強引に男達の隣に腰を下ろす。

……彼女の身体に隠れて、フィーの視界から鞄が消えた。

 

アホー!オメーがそこに座ったら、此処からじゃ何も出来ねーだろが!!

 

開始僅か5秒で、フィーの計画はあっさりと崩れ去った。

 

もう知らん!後は自分で何とかしてくれ。

 

再びマスカットに手を伸ばし、高みの見物を決め込む事にした。

 

 

 

「お作りしますから飲みやがれですわ」

デュバリィがウィスキーボトルを手に取る。

「いや、ホントに後で良いから」

リーダーが迷惑そうに断る。

「女に恥をかかすつもりですの?良いから飲みやがれですわ!」

「飲みやがれって……。??、あれ、その顔は……」

不意に男がデュバリィを突き飛ばした。

「きゃ!?」

床に尻餅を付くデュバリィ。

「お前!鉄機隊の!!」

4人の男達がデュバリィを取り囲む。

「ちっ、まさかこんな所まで引っ付いて来てたとはな、悪いがここで消えてもらうぞ!」

懐に手を伸ばす男。デュバリィは尻餅を着いたまま動けないでいる。

 

マズイ!

 

助けに入ろうとフィーが動き出す。

その時。

 

「何をしている?」

突然、リーダー格の男の眼前に、真紅のローブが颯爽と翻った。

 

え?

 

「なっ!?」

突然視界を遮られ、動揺する男。

「女性に対して何をしていると聞いているのだ!」

不意に男の喉元に、目にも止まらぬ指突が突き刺さった。

「かはっ!?!?」

そのまま人差し指一本だけで男の身体を持ち上げると、残りの3人に対して鋭い視線を向ける。

「私の目の前で、女性を傷付けるなど看過出来ん!!」

持ち上げた男を3人に向かって投げ飛ばす。勿論指一本しか使っていない。

 

こ、皇帝!!?

 

『ぐあ!?』

投げ飛ばされた男を受け止めながら、3人共ソファーに叩き付けられる。

「な、何者だ!!」

「私か?……ふっ」

赤いローブを脱ぎ捨て、何故か上半身裸になる。筋肉が異様に盛り上り、全身から凄まじい闘気を放っている。

……気のせいか、胸に7つの傷があるように見えた(だが、良く見ると何も無かった)

「貴様達の死神だ!」

ユーリの身体から、青白いオーラが立ち上った。

 

こ、こ、皇帝ぃぃぃ!?!?

 

我が目を疑うフィー、その横でデュバリィは口をあんぐりと開けていた。

 

「怪我は無いかい?」

皇子がフィーとデュバリィに優しく訊ねる。

「……あれ、何?」

「ああ、ユーリは少し暗殺拳を嗜んでいてね」

 

あ、暗殺拳!?!?

 

「何でも、護身と運動不足解消の為に始めたらしいんだが、彼は凝り性でね、気が付くとああなっていたらしい」

 

な、何で護身に暗殺拳???

 

「昔、泰斗流の伝承者に指一本で勝ったとか」

「ゆ、指一本???」

デュバリィが目を丸くする。

「ん?……、いや、2本だったかな?」

皇子が考え込む。

 

いや、そこじゃねーよ!!!

 

声にならない突っ込みを入れる。

 

何で暗殺拳なんか嗜んでんだ!?っていうか暗殺拳って嗜むモノなのか!??どうなってんだこの国は!???

 

どうやら自分が知らないだけで、世の中には凄い人が沢山居るらしい。

 

「貴様等に、今日を生きる資格は無い!」

ユーリが流れる様に両手を動かして構えを取る。

 

か、華麗だ……。

 

その動きの美しさに、思わず目を奪われる一同。

 

「さぁ、後は任せて、君達は早くここから離れるが良い」

皇子がフィー達に告げる。

「詳しくは知らないが、何か事情があるのだろう?後始末は我々引き受けるよ。そろそろ、ママが憲兵を呼ぶ頃だしね」

 

憲兵か……、それは困る。こんな所を見つかったら、退学間違い無しだ。

 

「ん、ありがと、お兄ちゃん」

「ふふ、こちらこそ、付き合ってくれてありがとう、フィー君。また美味しい物でも食べに行こう」

「らじゃ、またね」

 

フィーとデュバリィは、互いにテーブルの下から鞄を掴み出し、その場を後にする。背後からは、男達の断末魔が聞こえていた。

 

「あ、あの人達は一体何者ですの??」

「ん?エレボニアの皇帝と皇子」

何の躊躇いもなく正体を明かすフィー。

「こ、こんな明るいウチからキャバクラで飲んで、暗殺拳を駆使する皇族が何処にいやがります!?もっとマシな嘘を付きやがれですわ!!」

 

ま、普通はそう思うよね。……説明しても信じないだろうし、面倒くさいからいっか。

 

2人は一目散に店の出口へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

数分後

 

フィーとデュバリィは導力バイクに跨がり、トリスタへの街道を走っていた。

「何処まで送って欲しいの?」

フィーが振り返りながら後ろに聞く。

「ちょ!?、危ないから前見て運転しやがれですわ!!」

「大丈夫だよ、ここは滅多に車も通らないし。たまに猫とかは出るけど」

「ね、猫轢いたら呪われますわよ!!」

「大丈夫だって、それで?」

「……ヘイムダルから離れられれば何処でも構いませんわ、後は自分で何とかしますから」

「ん、了解」

視線を前に戻す。

「……っ」

「ん?」

「その……、付き合わせて悪かったですわ」

「?、何が?」

「いえ……、考えてみれば、あなたには何の関係も無い事ですから……」

「ああ、気にしないで」

 

……

……

……

ん?何か今、自分らしく無い事を言った気がする。……「気にしないで」か、リィンの世話好きが伝染ったかな?

 

フィーは1人で苦笑いを浮かべた。

 

「それにしても、凄い乗り物ですわね、これ。後ろに乗るのはチョット怖いですけど」

「ん、まだ試作機らしいけどね」

「試作機……、何だか急に不安になって来ましたわ……」

「今のところ無事故だから、心配いらない……、?」

不意に、後方から何かの気配を感じ取る。

フィーは再度振り返るが、視界には何も映らなかった。

 

?、気のせいか……、いや、ひょっとして。

 

視線を上空に上げると、そこには機銃を搭載した飛行艇の姿があった。

 

ガンシップ!!?

 

導力エンジンをフル稼働させ、全速力でバイクをかっ飛ばす。

「追っ手がきやがりましたわ!もっと急ぎなさい!!出来るだけスピードは出さずに!!」

 

……無理言うな。

 

後方上空から飛行艇の機銃が火を吹き、街道に銃撃の雨が降り注ぐ。

 

ちっ!

 

高速駆動しながらも、巧みに射線から車体をズラすフィー。スピードメーターの針は、150セルジュを越えている。

「ぎゃあああ!もっと安全運転しやがれですわ!!」

デュバリィがフィーの首に腕を巻き付けてしがみつく。

「く、苦しい……、掴むなら、腰にして」

顔を歪めながらも、アクセルを緩める事は無い。

「な、何とかしやがれですわ!」

「ん、まあ、後ろから撃たれても、ワタシは何とかなるかな?」

「!!?、人を盾にするんじゃねーですわ!!!」

耳元で喚き散らす。

 

……ホント、喧しい女だ。

 

更なる機銃の掃射を掻い潜る。

 

どうする?このまま、あれを連れてトリスタまでは行けない。何処かで撒くか、撃墜するかしないと……。

……

……

……!!

 

「ねぇ、あんたの剣で、あれを斬れる?」

「!!、あんな高い所に居る奴を、斬れるワケねーだろですわ!」

「近くに寄せられたら?」

「……剣さえ届けば、……まぁ、何とか」

「ん、じゃ、掴まっててね」

「へ???」

高速走行のまま後輪をロックしてアクセルターンを決め、バイクは180°向きを変えた。

「ぎゃあああ!!!」

街道にデュバリィの絶叫がこだまする。

間髪入れずにクラッチとギアを操作して、バイクは猛然と飛行艇へ向かって突っ込んで行った。

「な、な、な、何してやがりますわ!?!?」

デュバリィの声に恐怖が混じる、機銃の銃撃を避けながら、バイクは更に速度を上げる。

「チキンレースして勝てる相手だと思っていやがるのかですわ!?しかも相手は空に浮かんでるですわ!??」

「ん、大丈夫、こっちもミサイル飛ばすから」

「み、ミサイル???」

フィーがアクセルを全開まで開ける、飛行艇はすぐ目の前まで迫っている。

「ど、何処にミサイルを積んでるですわ!?!?」

「行くよ、fire!!!」

「へ???」

前輪だけに急ブレーキを掛け、車体が1回転しそうな程前のめりに沈み込む。反対に後輪は1アージュ以上も持ち上がり、乗っていたデュバリィは、反動で大きく空へ投げ出される。

「こ、こ、小娘えええぇぇぇ!!!」

「後は、ヨロシク」

フィーの容赦無い一言と共に、デュバリィミサイルが発射された。

 

 

 

 

 

茜色の空高くに投げ出されたデュバリィは、パニックに陥ったまま飛行艇へと突っ込んで行った。

 

な、何て事をしやがるのです!?あの小娘ぇ!!

 

空中で態勢を整えながら、怒りと憎しみに満ちたドス黒い邪気を全身から放つ。

 

こ、こうなったらやってやりますわ!!あの飛行艇を斬り落とした後に、あの憎たらしい小娘の素っ首も叩き斬ってやりますわ!!この神速のデュバリィをバカにするんじゃねぇですわ!!!

 

デュバリィの右手に大剣が現れる。

 

マスターの命をやり遂げる為にも、こんなところで負ける訳にはいきませんわ!!!

 

右手の大剣を力強く握り締める、集中力を最大限まで高めて目標を鋭く睨む、自身の全身全霊をたった一撃に注ぎ込む。

 

喰らいやがれですわぁぁ!!!……へ???

 

しかし、どう剣を振るったとしても、飛行艇迄は5アージュ近くも足りなかった。

 

こっ、小娘えええぇぇぇ!!!!!

 

デュバリィは、何も出来ぬまま飛行艇の真下を通過すると、そのまま街道脇の丘を越えて、その姿を消した。

 

 

 

 

 

……ちっ、失敗か。

 

フィーは舌打ちしながらその光景を見つめていた。

 

距離は足りてたけど発射角度が甘かった、もう少し前輪のブレーキが強ければな……、後でジョルジュに相談してみよう。

 

一応導力バイクのテスト走行という名目で借りて来たので、報告内容を胸の内に書き留めておく。

デュバリィの事は、既に忘却の彼方へと追いやっていた。

 

さてと、次の手を考えなくちゃ。

 

飛行艇へと視線を向ける。

 

後ろの荷物(デュバリィ)が無くなって軽くなったし、ワタシ1人なら何とか逃げ切れるかな?街道を外れて森の中を突っ切れば、上からは視認出来ないだろうし。

それともミサイル(デュバリィ)を回収して、もう一発お見舞いしてやるか?もう少し加速があれば届きそうだったし。

 

思案するフィー。

その時。

 

ん?

 

張りつめる様な気配が周囲に広がる、空気が重く身体にまとわりつき、呼吸するのさえ億劫に感じる程のプレッシャーに全身を包まれる。

 

な、何だ、この超ヤバい感じ???

 

神経を研ぎ澄ませ、辺りに視線を走らせる。

次の瞬間、目の前を飛ぶ飛行艇に、金色の閃光が突き刺さった。

 

えっ!??

 

飛行艇は制御不能となりながらも、フラフラと漂う様に飛び続ける。しかし、結局は白煙を撒き散らしながら、何処かへと飛び去って行った。

 

落雷?……いや、今確か槍みたいなのが見えた気が……。

 

「驚かせて申し訳ない」

不意に後ろから声を掛けられる。

 

!??

 

振り返ると、全身に厳つい甲冑を纏った、明らかにヤバそうな人が立って居た。片手に巨大な馬上槍を持ち、反対の手で、白眼を向いて気絶しているデュバリィを担いでいる。

 

ど、どっから出て来た!?!?

 

見通しの良い街道のど真ん中で、こんな目立つ格好をフィーが見逃す筈が無い。しかも、警戒していたにも関わらず、声を掛けられるまで気配にすら気付く事も無かった。

 

……ヤバい、絶対にヤバい奴だ。

 

先程の皇帝から感じた闘気と、同レベルの覇気を目の前の人物から感じ取る。今すぐにバイクを走らせ、逃げ出したい欲求が沸き上がった。

 

「貴女に危害を加えるつもりはありません」

涼やかな声が告げる。

 

?……女の人?

 

フルフェイスの兜を被っているため顔は解らないが、声の印象からそう感じた。

 

「我が友を手伝ってくれた様ですね、まずは感謝を……」

 

友?……あっ、もしかして。

 

「ひょっとして、あんたがマスター?」

「ええ、彼女からはそう呼ばれています」

 

成る程、この人の為に頑張ってたんだ。……肝心な時に白眼剥いて寝てるのはどうかと思うけどね。

 

どうして白眼を剥く事になったかは、既に記憶から消し去っているフィー。

 

「貴女が持っている鞄を、こちらに譲っては頂けませんか?」

バイクに括り付けてある2つのボストンバッグを指す。

「ん、良いよ」

中身が何かは知らないが、自分が持っていても仕方ないので、フィーは素直に従った。

バイクを降りて目の前の人物に近寄る。両手が塞がっているので、槍の先端に鞄を掛けてやった。

「ありがとう、先を急ぐのでこれで失礼します。お礼は、いずれ改めて致しますので……」

「ん、お構い無く。大した事してないし」

「ふふっ、ではこれで……」

優しげな笑い声と共に黄金の光が甲冑を包み込むと、次の瞬間には目の前に誰も居なくなっていた。

 

……

……

……

……帰ろ。

 

フィーはバイクに跨がり、導力エンジンを始動させた。

 

ホント、世の中、色んなのが居るね……。あ、そういや、またスニーカー見に行けなかった。

……今度でいっか。

 

子猫は夕暮れの中、家路を急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

翌朝

 

サラは寮のロビーで朝刊を読んでいた。

 

見出しに【ナイトクラブで乱闘騒ぎ。しかし、犯人も被害者も忽然と消え、特定には至らず】と、書かれてある。

 

?、変な事件ね。

 

それだけ思うと紙面を閉じ、テーブルに置いた。

 

ま、アタシには関係無いか。

 

大きく身体を伸ばしてから、サラは学院へと向かう。

トリスタの町は、今日も平和だった。

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