「ふぁー……」
早朝、欠伸を噛み殺しながら、自室を後にするフィー。
1時限目は経済学だっけ?……サボろっかな。
そんな事を考えながら寮の階段を降りると、中2階の踊り場にリィンとアリサの姿があった。
「リィン!!待ちなさい!!」
「ご、誤解だ!俺は何もしてない!!」
……何か揉めている。
朝っぱらから、飽きずに良くやるよ。っていうか、そこでイチャつかれると邪魔なんだけど?
乾いた視線を送ってやる。
「何もしてないなら、何で洗濯した私のパンツを貴方が持ってたのよ!!」
「し、知らない!部屋の前に落ちてたのを拾っただけなんだ!!」
部屋の前に、アリサのパンツね……。
フィーは、夜中にお嬢様の下着を持って、楽しそうに微笑む極悪メイドの姿を思い浮かべた。
……ま、アリサも全部解った上で絡んでるんだろうけど。……でもやっぱり、落ちてるパンツを考え無しに拾うリィンが悪いかな?
やれやれといった感じで、朴念仁達を見つめた。
「ほ、ほら、もう朝食の時間だぞ。皆を待たせちゃ悪いし、行かないと」
リィンが撤退を試みる。
「待ちなさいよ!!逃げられるとでも思ってるの!?」
アリサがリィンの肩に手を掛け、無理矢理引っ張った。
「え?う、うわっ!!」
バランスを崩したリィンは階段を踏み外し、階下に落下していく。
!!、危なっ!
フィーは咄嗟にワイヤーフックを取り出すと、狙いも付けずリィンに向かって投げつけた。
……それが良く無かった。
「っ!!?」
投げたワイヤーは、運悪くリィンの片足に巻き付いてしまう。
ワイヤーに足を引っ張られ、急に上下逆さまになったリィンは、受け身も取れずに頭から落下していった。
あっ……。
早朝の寮内に、鈍い音が響き渡る。
……そして、静寂が広がった。
……ヤっちゃった?
大急ぎでリィンに駆け寄るアリサとフィー。リィンは仰向けの状態で、ピクリとも動かずに失神していた。
恐る恐る頬っぺたを突っついてみる。
……反応が無い、マジで屍かも知れない。
青ざめた顔を見合せる2人。
「り、リィン?」
アリサが躊躇いがちに声を掛ける。
「……ん、んん?」
リィンがうっすらと目を開け、虚ろな視線を辺りにさ迷わせる。
よ、良かった。……ホント打たれ強いね、リィン。
やや呆れながらも、ほっと胸を撫で下ろす2人。
「大丈夫?気持ち悪いとかない?」
「ごめんなさいリィン、つい……ね」
アリサがばつの悪そうに謝る。
「……」
リィンは焦点の合わない目で2人を見つめていた。
「?……リィン?」
「ちょっと、大丈夫なのリィン?」
「……」
反応が薄い。意識はあるみたいだが、ぼんやりしているらしい。
……打ち所悪かったのかな?
フィーがリィンの顔を覗き込む様に見つめる。薄紫色の瞳と視線が合った。
「……お」
フィーを見つめたまま、リィンが口を開く。
「……お姉ちゃん達、……誰?」
……
……
……
……お、お姉ちゃん???
「な、何を言ってるの、リィン?」
アリサの顔が再び青ざめる。
「……僕は、何でこんな所に居るの?」
周囲をキョロキョロと見回す。
「ちょ、ちょっとリィン?どうしちゃったのよ?」
「ん……」
フィーがリィンの前に屈み込む。
「……これ、何本に見える?」
フィーが中指と人差し指を立てて見せる。
「……2本」
どうやら意識はハッキリしてるらしい。
「自分の名前、解る?」
「うん、僕の名前はリィン・シュバルツァー」
「歳は?」
「……えーっと」
少し間を置いてから。
「……9歳」
アリサとフィーは、目を見開いて顔を見合わせた。
「よ、幼児返り???」
マキアスの驚声が寮のロビーに響き渡る。
「……ええ、……どうやら向こう8年間位の記憶が、スッポリ抜け落ちてるみたい」
アリサが伏し目がちなまま全員に説明する。
当のリィンはソファーに座りながら、不思議そうに周囲を見回していた。
その隣に座ったミリアムが、嬉しそうにリィンの頭を撫でながら、しきりに自分の事を「ミリアムお姉ちゃん」と呼ばせようと試みている。
「何も覚えていないのか?」
「ん、昨日何してたの?って聞いたら、エリゼのおままごとに付き合った後、お父さんに連れられて狩猟に行った、とか言ってた。多分、以前にホントにあった日の事を思い出してるんだと思う」
「妹とままごとの後に父親と狩猟か……、凄いスケジュールだな」
「リィンさんの実家はユミルの山奥ですからね、向こうではそれが日常なのかも知れませんが」
「くくくっ、こうなるとⅦ組のリーダーも形無しだな」
「クロウ……、そんな事言っちゃ駄目だよ」
「……、ふむ」
ラウラがリィンの太刀を手に取ると、グイっとそれをリィンに向かって差し出した。
「剣を取れリィン、頭が覚えていなくとも身体が覚えていよう。私に向かって打ち込んで来るが良い!」
凛とした声でリィンに告げ、自分も愛用の大剣を取り出した。
成る程……、剣の道を志す者同士なら、口で語るより余程効果がありそうだ。
リィンは太刀を受け取ると、ジッとそれを見つめている。
「どうした?遠慮無く来るが良い」
「……お姉ちゃんは剣士さんなの?」
「そうだ、そして、そなたもまた剣士だ!さあ、太刀を抜くが良い!」
ラウラが大剣を構える。
「……何で剣を振ってるの?」
「む?そうだな……。一口には言えぬが、己を律して高め、目の前の大切なモノを守り、そしていつかは理へと至る為に振るっている」
「でも、剣を取るっていう事は、誰かを傷付けたり傷付けられたりするっていう事だよ?」
「無論、承知している。その覚悟が無くては剣は振れぬ。だが、剣術の道を歩むのに、それは避けて通れぬモノだ」
「昔の人は、剣は凶器、剣術は殺人術、どんなに綺麗事を並べてもそれが真実、って言ってたよ?」
「それも承知している、承知した上で剣を握っている」
「その過程で無関係な人を巻き込む事があったら?」
「……え?」
「剣を振る人は覚悟を持ってるから良いかも知れないけど、その人の家族とか、周りの人を不幸に巻き込んじゃった時はどうするの?」
「……そ、それは」
「僕は、剣を握る勇気より、剣を持たない勇気の方が好きだな」
無垢な少年の瞳がラウラを見据えた。
「う、ううっ……」
ラウラは解りやすく肩を落とすと、無言のままロビーの隅に移動し、小さく蹲った。
「幼少期のリィンは随分と弁が立つ子供だったらしいな」
「ああ、恐らくはシュバルツァー男爵ではなく、捨てられたという本当の両親の影響だろう」
ユーシスとマキアスが、冷静に状況を解析する。
どうやらリィンの子供時代は、今とは少し違っていたらしい。何となく、朴念仁の片鱗を見せている様な気もするが……。
「リィン様、オレンジジュースなど如何ですか?」
シャロンがグラスに入ったジュースをリィンの前に置いた。
「ありがとう、綺麗なお姉さん」
礼を言いながら両手でグラスを持つと、美味しそうにジュースを飲み出した。
「あら?リィン様はお上手ですわね」
シャロンが笑顔を浮かべ、優しくリィンの頭を撫でる。
リィンも嬉しそうにしながら彼女を見ると、続いてエマに視線を移し、そしてアリサを見やり、最後にフィーを見つめ、何故かキョトンとした表情を浮かべる。
?、何だ?
「お姉ちゃん」
リィンが不思議そうにフィーに訊ねる。
「お姉ちゃんは女の人なのに……、何で無いの?」
ん?無い?……何が?。
リィンの視線はフィーの胸部を注視していた。
……!!!
フィーは目にも止まらぬスピードで、ホルスターから双銃剣を引き抜くと、リィンの頭部に狙いを付けた。
「フィ、フィー!!早まるな!!」
「ガキの戯言だ、勘弁してやってくれ、クラさん!!」
ガイウスとクロウが、慌てて両脇からフィーを羽交い締めにする。
「……ん、頭打って記憶が飛んだんでしょ。こいつをぶち込めば、元に戻るかもよ?」
銃口が危険な光を放つ。
「イヤイヤ!そいつをぶち込んだら、記憶どころかリィン自体がどっか遠い所に飛んでっちまうぞ!!?」
「……風も駄目だと言っている」
「ちょっとフィー、落ち着きなさい!大丈夫よ、貴女には未来があるわ!」
アリサが大きなバストをポヨンと揺らしながらフィーを諌める。
うるせーっ!!オメーに胸の事言われると腹立つんだよ!!
富める者に、貧しき者の気持ちは理解出来ない。
「フィ、フィーちゃん。この前読んだ本に、男の人の中には『大きさよりも色や形を重視する人が居る』と書いてありました。だから頑張りましょう、ね?」
エマが更に大きなバストをポヨンポヨンと揺らしながらフィーを優しく諭す。
何の本読んでんだボイイン長!!?っていうか何を頑張らせるつもりだ!!?バカにすんじゃねー!!!
ガイウスとクロウに押さえ付けられたフィーが、じたばたと暴れもがく。だが悲しいかな、その際に彼女の胸が揺れる事は一切無かった。
「どうやらリィンは、幼少期から女性の胸が好きだったようだな」
「ああ、ユミルの女性には豊かな人が多いのだろう。……ふっ、一度訪れてみたいものだ……」
マキアスとユーシスがしみじみと語り合う。
「バカな事言ってねーで、手伝えお前ら!」
クロウが背後からフィーを抱え込みながら叫ぶ。
「マジでヤっちまいかねねぇぞ!!この、まな板娘」
ブチッ!!!
フィーがその場で飛び上がり、自慢の石頭をクロウの鼻っ面に叩き付ける。
「ぐふぉっ!?!?」
大量の鼻血を撒き散らしながら、クロウは仰向けに倒れた。
「く、クロウ!!」
ガイウスが倒れたクロウに駆け寄ろうとすると、フィーは凍てつき、荒み果てた視線を彼に向けた。
「!!!、なっ!??!」
それは、修羅と呼ぶのすら生温い、外の理に通じてしまう程凄絶な瞳だった。
暗黒の瞳に射竦められたガイウスは、呼吸をするのも忘れ、その場に立ち尽くした。
「フィーちゃん!私の目を見て下さい!」
エマが眼鏡を外してフィーの前に回り込み、背中を撫でながら何事かを呟く。
「フィー!落ち着いて聴いて!」
エリオットがバイオリンを構え、心安らぐ美しい音色を奏る。
「フィー様、シャロン特製のハーブティーです、お飲みになって下さい」
シャロンが何処からともなくテーブルを取り出し、黄金に輝く液体をカップに注ぐ。
数分後。
「……ん」
落ち着きを取り戻したフィーは、いつもの眠たげな視線で辺りを見つめていた。
「よ、良かった……」
エリオットが演奏を止めて、座り込む。
「……ええ、どうなる事かと思いましたが」
エマも疲れた様子で眼鏡を掛け直す。
「ふふふ、フィー様、オイタはほどほどに」
シャロンは笑顔を見せながらキッチンへと戻って行った。
その間、リィンはオレンジジュースを飲みながら、キョトンとした表情を浮かべ続け、ミリアムは相変わらず「お姉ちゃん」と呼ばせようと躍起になっていた。
「とにかく学院へ向かいましょうか、サラ教官にも報告しなければなりませんし」
「ああ、そうだな……」
「うん、その後で、ベアトリクス先生に相談してみようよ」
「そうだな、それがベストだろう」
「ねぇリィン、お姉ちゃんって呼んでよ」
「……すまぬが、私は今日休ませてもらう。久しぶりに心行くまで剣を振りたくなった」
ラウラは1人で寮を後にし、街道の方へと向かって行った。
「ラウラ、大丈夫かしら?」
「こればかりは、俺達ではどうにも出来んな」
「ん、ラウラならきっと大丈夫。じゃ、行こっか」
「リィンさん、一緒に行きましょうか?」
エマがリィンに手を差し伸ばす。
しかし、リィンは立ち上がると彼女の手をスルーした。
「あら?」
彼はそのまま一直線にフィーの前まで進むと、おもむろに彼女の制服の裾を掴んだ。
「……」
無言の瞳が何かをフィーに訴えている。
……はぁ、しょうがないか。
「……ん、行くよ?」
リィンはコクンと頷くと、自分よりも小さなお姉ちゃんの後に付き従う。
Ⅶ組一同は学院へと移動を開始した。
誰にも心配される事無く、仰向けで寝転んだまま1人取り残されたクロウは思った。
……今日は普通にサボろ。
鼻の奥がジンッと痛んだ。
トールズ士官学院 Ⅶ組教室
「はぁ……、全くアンタ達は、何でこう次から次に問題ばっか起こすの!!」
サラが溜息を吐きながら怒りを吐露する。
「何をどうしたら記憶喪失なんて事になるのよ!?それも朝っぱらから!!」
……いや、朝夕は関係ねーだろ。
「……それにしても困ったわね、ベアトリクス先生、今日居ないのよ」
「……え?」
「出張でガレリア要塞にね、明日の夕方まではお帰りにならないわ」
……マジかよ、後でおやつ貰いに行こうと思ってたのに。
人知れず肩を落とすフィー。
「ま、取り敢えず様子を見ましょうか。記憶なんてちょっとしたきっかけで戻るものよ。エマ、号令」
「あ、はい」
挨拶を済ませると、サラはサッサと出て行った。
相も変わらず、いい加減な……。
リィンを除く、その場に居る全員が思った。
昼休み
案の定、リィンの記憶が戻る事は無かった。
当のリィンはというと、いつもと変わらぬ様子で大人しく席に座り、他の皆と一緒に授業を受けていた。
教科書に落書きをする事も無く、飽きて眠ってしまう事も無く、ただ静かに教官達の話に耳を傾ける様は、普段のリィンと全く変わらなかった。
「どうやら幼少期のリィンさんは、大人しくて真面目な子供だったみたいですね」
「ああ、さぞかし両親の教育が良かったのだろう」
「ミリアムとフィーも、少しは見習ったらどうだ?」
「ぶーぶー、そんな事言ったって、教科書読んだら眠くなるに決まってるじゃん」
「ん、育ち盛りに必要なのは、勉強よりも睡眠」
「……この2人には何を言っても無駄みたいね」
「ふふ、風のままに生きるのが、2人のスタイルだからな」
一同は席に座るリィンを中心にして雑談していた。
年上のお兄ちゃんお姉ちゃんに囲まれたリィンは、相変わらずキョトンとした表情を浮かべている。
「あ、ごめんなさいリィンさん、周りでこんな話をされても退屈ですよね」
「良し、レーグニッツ、何かやって楽しませてやれ」
「な、何故僕が???」
「お前は副委員長だろうが?副委員長は子供の相手をしなくてはならない、と決まっているものだ」
「誰が、いつ、何処で決めたんだ!!?」
「ガイウスは弟が居るから、子供と遊んであげるの慣れてるんじゃない?」
「むう、ノルドに居た時は、一緒に馬で遠乗りに出たりしたものだが……、他の遊びは良く解らんな」
「うーん、私も一人っ子だから、子供の相手は……ちょっとね」
「ん、そんじゃワタシが」
フィーが一歩前に出る。
「大丈夫なの、フィー?」
「ん、団に居た頃は、小っちゃい子達の相手とかしてたから大丈夫」
フィーがリィンの前に陣取る。
「んじゃ、ワタシが楽しいお話を聞かせてあげるよ」
楽しいお話?……大丈夫か???
全員の不安気な視線が集まる。
「んっと、昔ワタシはある事情で、狼型の魔獣を何頭か飼ってた事があるんだけど……」
猟兵団で使う軍用魔獣だ、とその場の全員がピンと来る。
「その中の1頭に『チロ』って名前を付けて、可愛がってたんだ」
フィーが話を続ける。
チロはバイトウルフの亜種で、白っぽい毛並みの可愛い狼だった。とても人懐こい性格で、いつもフィーの後を付いて回っていた。フィーもチロの事が好きで、晴れた日には一緒に草原を駆け回り、風の日には一緒に軒下で昼寝をし、雨の日には一緒に屋内で昼寝をし、雪の日には一緒にストーブの前で昼寝をしていた。
話を聞く他のメンバーの脳裏に、白い狼と銀髪の少女が仲良く戯れる光景が浮かんだ。
どうやら子供に聞かせても大丈夫そうな話だ、晴れの日以外は寝てばかりなのが気にはなるが。
するとある日、長い期間仕事で団を離れていた2人が帰って来た。トラップマスター、ベヒモスと呼ばれる2人は、仕事が上手くいかなかった愚痴をこぼし合いながら、アジトへと向かっていた。
「ホンマ骨折り損やで、結局負け戦の後始末をしただけやないか」
「ふっ、あの戦況では仕方あるまい、酒でも飲んで忘れるとしよう」
「せやな、そうしよか。……あっ、そういえば酒の肴買うて来るの忘れたな」
「アジトに何かあれば良いのだが……、むっ?」
そこへ、一頭の白い狼が近寄って来る。狼は尻尾を振りながら2人の事を出迎えた。
「なんや、ウチで飼ってる魔獣か?」
「そうらしいな、白いバイトウルフとは珍しいが」
「こんなに目立つ色で、作戦に使えるんかいな?」
「うむ、状況にもよるが……、難しいかも知れんな」
「しかも人に慣れ過ぎや、敵味方関係無く懐いてしまいそうやで?」
「それは……、あるかも知れんな」
「ウチは今、何頭位魔獣飼っとるんやっけ?」
「全部で20頭は居る筈だな」
「……ほな、1頭位は良いか?」
「問題あるまい」
その日の夜、チロは変わり果てた姿で、食卓の上に盛り付けられて……。
「待て待て待て!!!何だその話は!!?」
マキアスがフィーの話を遮る。
「子供にそんな話を聞かせてどうするつもりだ!?トラウマにしかならんぞ!?」
「?、ミリアムに話した時は喜んでたよ?」
「うん、ボクはその話好きだよ、なんかお肉食べたくなるよね」
にししっ、と歯を見せて笑うミリアム。
「どういう感性だ!?そもそも、その話から子供に何を学ばせようと言うのだ!?」
「ん、……狼型の獣肉は結構筋張ってるから、下処理のカットは丁寧にした方が良いとか?」
「そんな教訓は要らん!!」
そんな2人のやり取りを、リィンはキョトンと見つめていた。
「それにしても、どうしましょうか?ベアトリクス先生が帰って来る明日まで、このまま何もしないって言うのも……」
「そうだな、他の医者に診て貰った方が良いかも知れんな」
「授業が終わったら、帝都の病院に連れて行ってみるか?」
「うん、確か帝都庁舎の近くに大きな病院が在った筈だよ」
「ん、じゃあ委員長、ヨロシク」
フィーがエマに振るが、エマは首を傾げた。
「うーん……、私よりフィーちゃんが連れて行った方が、良さそうに思うのですが?」
「確かに、リィンはフィーに良く懐いている様だしな」
「頭を打って意識が戻った時、1番初めに見たのがフィー達だったんだよね。その時に刷り込みがあったんじゃない?」
「成る程、小鳥が初めて見た物を、親だと思うのと同じだな」
「あの時は、私も一緒に居たのよ。何でフィーだけ?」
「……だって」
「アリサはリィンを突き飛ばして、フィーはリィンを助けようとしたんでしょ?」
「それじゃあ、アリサには懐か無いよねぇ」
「なっ!??別に突き飛ばして無いわよ!ちょっと肩を掴んだらバランスを崩しただけ……」
「ても、その結果が……」
全員の視線がリィンに集まる、リィンは相変わらず不思議そうに周りを見回していた。
アリサはガックリと肩を落として項垂れる。
ま、ホントはワタシがワイヤーで足引っ掛けたから、こんな事になったんだけどね。
あの時フィーが余計な事をしなければ、リィンは落下しながらもしっかりと受け身を取った筈だったのは、この際内緒にしておく。
「じゃあ、リィンさんに決めて貰いましょうか。リィンさんは誰に病院に付き添って貰いたいですか?」
エマがリィンに訊ねると、リィンは少し考える素振りを見せた後、おもむろにフィーの上着の裾を掴んだ。
「決まりだな」
「あはは、ホントにフィーの弟みたいだね」
……はぁ、面倒クサイけどしょうがないか。
「……らじゃ」
面倒クサがりながらも、満更ではない表情を浮かべ、フィーは承諾する。
放課後
「んじゃ、離れないようにね」
「うん」
フィーはリィンを連れて学院を出ると、トリスタの駅へ向かう。
ヘイムダルか……。
最近あそこに行くと、毎回変な奴に絡まれるからな……。しかも今日は記憶喪失のリィンと一緒か……、何も無きゃ良いけど。
チラリと横に視線を移す。
フィーと出掛けるのが嬉しいらしく、リィンは楽しそうに横を歩いていた。
ま、何かあっても、ワタシが何とかすれば良いか。
「……ん」
はぐれない様にリィンと手を繋ぐと、子猫は満更でも無い表情を浮かべて、駅前の通りを歩き出した。