妖精の軌跡first【完結】   作:LINDBERG

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原作とフィーの性格が若干ズレてきた。
軌道修正するべきか、このまま進むべきか。


子猫は欲しいものがあると諦めを知らない

「はぁー……」

 

フィーは非常に困っていた。

 

 

 

お金、お金、お金…………。

 

何処かにしまい忘れて無かったかな?

 

自室にある服のポケットを片っ端から探ってみる。

 

出て来るのは、ジュースの蓋、空薬莢、手榴弾のピン、携帯用砥石、猟兵団の皆で撮った写真、微妙に綺麗な貝殻、いつのだか解らないチョコレート、また空薬莢、謎の液体が入った小瓶、自分で書いた筈なのに意味不明なメモ、ちょっとおもしろい形の小石、いつのだか解らない飴玉……。

 

駄目だ、ロクな物が出てこない。

「あーあ、どうしよ?」

飴玉を口の中に放り込む。歪に変形していてグミの様な食感だが美味しかった。

 

 

 

 

 

1時間ほど前の話だ。

 

学院からの帰り道。

アノール川を渡り、何気なく駅前の商店街を窓越しに覗いていると。

「…………え、ウソ?」

思わず窓ガラスに張り付く。

ブランドン商会のウインドウディスプレイにそれはあった。

 

ストレガー社製超激レアスニーカー、ストレガーレディ遊撃士モデル!

約1年前、隣国のリベール王国でのみ数量限定で売り出され、そのまま幻となった伝説の品だ。

Def380、Spd25、Mov15。翠耀石が埋め込んであり、一定時間が経過するとオートでホーリーブレスとレキュリアが同時発動するというとんでもない代物だ。

デザインも可愛く、日常の機能性も抜群。

【これであなたも、今日からA級!】

というキャッチフレーズが売り文句だ。

何でも、開発にとある新人遊撃士が協力したため、このネーミングになったとか。

 

猟兵団時代に雑誌で読んで、団長にリベール行きを交渉したのだが、即時却下された。

 

何でもリベールの女王様は猟兵が嫌いで、ある程度顔が知られているワタシ達が入国しようものなら即刻王国軍に捕縛され、ハルバードを構えたおっかないジジイと棒を持ったヤバすぎるオヤジが出てくるらしい。

 

それでもなお食い下がると

「そもそも猟兵が遊撃士の靴を欲しがってどうする?」

と反論の余地が無い一言を言われてしまった

 

その究極の逸品が何故こんなところに?

 

フィーは店の中に飛び込んだ。

「いらっしゃい。おっ?フィーちゃん。お帰りなさい」

日用品は全てここで購入しているため、店主のブランドンさんとは顔見知りだ。

「あの、あの、あの、表のあれ」

いつになく興奮した様子のフィーを見てピンとくる。

「ああ、ストレガーレディかい?」

「そう、それ!何でこんな店に?」

「こんな店で悪かったね……。いや何、実はストレガー本社に知人がいてね。ずーっと入荷をお願いしていたんだ。発売から1年以上も経つし、もう諦めてたんだけど、ついさっき1足だけ届いてね。レディースシューズじゃなかったら私が履くんだけど」

「ワタシが履く!ワタシが!」

「解った、解ったから落ち着いて。それじゃあ、お買い上げで良いかい?」

「うん、お買い上げ」

「いつもありがとう、お会計98,000ミラだよ」

「高っ!!」

冗談抜きで目ん玉が飛び出した。

 

「国外品だし、もう生産していない限定品だからね。オークションに出せば120,000ミラはすると思うし。これはお買い得価格だよ?」

 

今の自分の全財産は7,800ミラ。銀行にも残高はほとんど残って無い……。

……話しにならない。

「ねぇ、少しだけおまけして?」

「うーん、そうしてあげたいけど。ストレガーはファンも多いし、欲しがる人は沢山いるからね……。因みに幾らまでなら出せるの?」

「…………7,000とちょっと……」

「うーん、…………ごめんね。今回は縁が無かったって事で」

 

素早く足元にすがり付くフィー。

「そこをなんとか!お願い!」

「イヤイヤ無理だから!」

ちょっとだけスカートを捲ってみる

「ね?ね?お願いします!」

「そんな事しても無理なものは無理!」

「ワタシのパンツあげるから!」

「そんな事言っちゃいけないよ!とにかく駄目!」

くそー、ワタシの色気じゃ無理か。だが、引き下がる訳にはいかない!

「お願いだから……」

少し目を潤ませる。

「泣き落としても無理!」

「鬼!悪魔!悪徳雑貨店!でも品揃えは最高!」

「どんなツンデレ!?」

その後も暫く粘るが全く折れる気配がない。

敵は相当手強いらしい。

 

「……あー、もうこんな時間だ。フィーちゃん悪いんだけどタイムセールの準備があるから、ひとまず帰って貰って良いかな?」

「お客様に帰れとは何事だ!」

「限定商品を9割以上値引こうする人をお客様とは呼べないよ……。少なくとも今日は売りに出さないって約束するから」

「絶対だよ?お金集めて明日またくるからね!」

「ハイハイ、あんまり無理しないようにね」

「約束だからね!もし破ったら、ありったけの爆薬仕掛けて店ごとドカン!だよ?」

「ドカン!とかもしないように!それじゃあね」

「絶対だからね?…………お騒がせしてごめんね」

ペコンと頭を下げ、店を出て寮に戻るフィー。

 

インポッシブルなミッションの開始だ。

 

 

 

 

「うーん、どうしよう?」

今度はチョコレートを頬張る、食感は悪いが味は美味しい。

サラに相談してみるか?いや駄目だ、もらった給料をその日の内に全部酒に変える女だ。90,000ミラ何て出てくる筈が無い。

クラスメイトから借りるか?全員から10,000ミラ貸してもらえれば約80,000ミラ集まる。

しかし生徒同士の金の貸し借りは、きつく学院から禁止されている、お堅い委員長辺りは絶対無理だろう。

 

ふと、先月の特別実習を思いだす。

 

ぶるぶるぶる

駄目だ命と引き換えには出来ない。

 

取り敢えずリィン辺りに相談してみるか?

 

口元を拭きながらフィーは部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

「なるほど、話は解ったけど……。うーん」

リィンの部屋に来るのは初めてだ、と言うか男の子の部屋に入るのが初めてだ。

室内には東方の小物等が飾ってある。

物珍しさもあり思わずキョロキョロしてしまう。

「98,000ミラか……、多少ならカンパ出来るけど…、殆ど焼け石に水だぞ?」

「うん、だからカンパってよりも何か良いアイデア無いかな?」

「アイデアって言ってもな……。魔獣を倒してセピスとドロップアイテムで稼ぐのは?」

「1番初めに考えたけど、計算するとこの辺に出るヤツじゃ2,000匹位やっつけないと駄目」

「2,000……、却下だな」

「うん、却下!」

「そうなると……、うーん」

二人揃って腕組みして考える。

 

「うーん、これも焼け石に水かも知れないけど。寮の皆に不要品を分けて貰って、売り払うってのはどうだ?」

「売るって、ミヒュトの所で?」

「ああ、あそこなら何でも買い取ってくれるから、そこそこの金額にはなるかもしれないぞ?」

 

成る程。貴族生徒も住む寮だ、意外な掘り出し物が出てくる可能性はある。

 

「うん、解った。んじゃ皆の所回ってみるよ」

フィーは立ち上がり部屋を出ようとする。

「よし、じゃあ俺は男子の部屋を回るから、フィーは女子の方頼む」

「えっ?手伝ってくれるの?」

「まぁ、乗り掛かった舟だしな……」

まだ出港すらしていないボロ舟に、一緒に乗ってくれるらしい。

とんでもないお人好しだ。

「……さ、さんくす」

 

何故かちょっとだけ胸の辺りが温かくなった。

……何だろうこれ?

 

「じゃあ一通り集め終わったら、1階のロビーに集合で良いか?」

「らじゃ!」

「週末にはまた特別実習があるみたいだし、あんまり無理言って皆を困らせないように」

「らじゃ!」

「良し、じゃあ一旦解散!」

「らじゃ!!!」

二人揃って部屋から出る。

 

子猫は妙にわくわくしていた。

 

 

 

 

 

 

「随分出てきたな……」

「……だね」

 

一通り各部屋を回り、ロビーで落ち合ったフィーとリィン。成果は予想以上だ。

とくに女子部屋を回ったフィーがスゴい。衣類だけでも20着以上ある(殆どがアリサだ)

学院生活も2ヶ月近く過ぎるとどうしても不要な物がでてくる。

初めての1人暮らしにテンションが上がり、何となく買ったけど袋から出すこともなく忘れていた。など良くある話だ。

 

集まった品を整理してみる。

衣類23着、ぬいぐるみ5個、食器類12皿、書籍35冊。ノルド産香辛料2袋、バイオリンの弓1丁。

 

さらに目玉として、ユーシスが実家から持ってきたという絵画。作者のサイン付き。

持ってきたは良いが、部屋に合わないため処分する予定だったらしい。

 

これは大いに期待出来る!

絵画の値段なんか予想もつかないけど、上手くいけばこれだけで目標金額に届くんじゃない?

 

量が多くなったのでリィンが台車を用意してくれた。

「じゃあ行くか?」

「らじゃ!」

リィンが台車を押し、フィーが崩れない様に支える。

 

夜の帳が落ち始めるトールズの町へ、二人は歩き出した。

 

 

 

 

 

 

「しめて22,500ミラだな」

ミヒュトが告げる。

「え?そんなもん?」

予想よりあまりにも安い

「内訳を言うと、衣類が11,000ミラ、ぬいぐるみが400ミラ、食器類が600ミラ、書籍が5,200ミラ、香辛料が4,000ミラ、バイオリンの弓が1,200ミラだな」

 

香辛料が意外と良い値段だ、恐るべしノルド。

 

「じゃあその絵は?」

「こりゃあ偽物だな、本物とサインが違いすぎる。貴族は良く解りもしないのに買うヤツが多いからな、商人にとっちゃ良いカモだ。100ミラ」

 

ふざけんなアルバレア家ぇ!!!

 

フィーは心の中で叫んだ。

だが、ここで引き下がる訳には訳にはいかない。

 

バン!

カウンターを力強く叩きフィーが食い下がる。

 

「お願い、もう一声!」

「無理だな」

「この前、弾薬と火薬いっぱい買ったじゃん!」

「あれだって学生料金で、こっちは儲け無しだ」

「サラの恥ずかしい秘密教えてあげるから!」

「既に腐るほど知ってる、要らん」

「お前の血は何色だ!」

「……赤だよ」

 

こりゃ駄目だ、テコでも動きそうにない。

自分の手持ちと合わせると30,300ミラ、不足分が67,700ミラ……。

 

気合い入れて魔獣1,600匹倒すか?

 

「大体、学生からしたら十分すぎる金だろ?何に使おうとしてるんだよ?」

「実はですね……」

リィンが説明してくれる。

 

 

 

「成る程な、ストレガーのスニーカーか…。そりゃファンならどうやっても欲しいわな」

一通り話しを聞き終えたミヒュトが言う。

 

「後、幾ら必要なんだ?」

「68,000ミラ」

「……諦めろ、世の中どうにもならない事は山程あるもんだ」

「諦めたらそこで試合終了だよ!」

「諦めず足掻いたところで終わる時は終わるんだよ…。というか試合じゃないだろ……」

やはり次の手を考えるしかないか

 

「まぁ、手が無い事も無いがな…」

 

ミヒュトから気になる一言が出てきた。

 

「えっ?何かあるの?」

「あるにはあるが……、ふむ…」

「何?何?何?何でもやるよ?」

「まぁ落ち着け。お前ら、口は固いか?」

ミヒュトの雰囲気が怪しいものに変わる。

明らかに嫌な予感しかしないが、背に腹は代えられない。

ここは、猟兵団一つ壊滅するつもりで(清水の舞台から飛び降りる的な意味らしい)やってやろう。

 

「何すればいいの?」

「何、する事はガキの使いだ。ある人にある物を渡してくれるだけで良い。本来別の人間に頼むつもりだった仕事だが、お前らに回してやる。報酬は70,000ミラ、どうする?断るなら今聞いた事は全て忘れて帰りな」

 

仕事が簡単な割に報酬額が異常にデカイ。

確実にヤバい話だ。

 

フィーはリィンに向き直った。

「リィン、付き合ってくれてありがと。でもこれ以上は巻き込めない。悪いけどここで帰って…」

「何言ってんだフィー?ここまで来たら最後まで付き合うよ。……明らかにヤバそうな話しだしな」

「えっ?」

予想外の返事が返ってくる。

「でも報酬の振り分けもあるし……」

「いらないよ」

「えっ?」

「報酬なんか要らない、タダ働きは慣れてるしな。フィーが喜んでくれればそれで十分だ」

 

……な、な、何なんだこの男は!?良くそんな恥ずかしいセリフを真顔でいえるな!

 

そういえば昔、猟兵団で1番男運が無いジュリアが酒を飲みながら言っていた。男なんてどいつもこいつも口先で甘い事言うだけで、する事したらさっさとヤリ逃げして行くんだよ!と。

内容は良く解らなかったが、とにかく男の言葉は信じるなという事らしい。

 

「ホントにいいの?リィンに何の得も無いじゃん?」

「損得を考えないで助け合うのが仲間だろ?」

 

損得無しで、か……。

なるほど、何故か納得する言葉だ。

 

どうやら目の前に居るコイツは、男云々の前にどうしようもないお人好しらしい。

 

「んじゃ、悪いけど……」

「悪いけど、とかいいよ。頼んでくれれば助けるから」

「ん、……そか。…じゃあリィン、お願い」

「ああ」

 

そんな、二人の様子をミヒュトは口を半開きで見ていた。

人の店で何やってんだコイツら?

「ごほん」

思わず咳払いする。

「話しは纏まったみたいだな。こっから先は、もう断れないぞ、良いのか?」

「うん、だいじょぶ」

「よし、さっきも言ったが仕事自体は簡単だ。帝都にデア=ヒンメルってホテルがあるんだが、今夜23時、そこのロビーに居る上下白のスーツを着た男にコイツを届けて欲しい」

カウンターの下から、手の中に収まる程度の、布に包まれた小さな包みを取り出した。

 

「……触っても良い?」

「ああ、確かめてくれ」

右手で掴み、持ち上げてみる。

 

軽い、金属では無いようだ。布越しに仄かな温かさが伝わり、相当な硬度がありそうだ。

紅耀石か何か?いやそれにしては軽すぎる。何だろ?これ?

 

「届けるに当たって幾つか条件がある。まず中身を確認しない事。次に何かトラブルがあっても士官学院生という事以外明かさない事。もし道中で憲兵に捕まる事があったら、ブツは知らない人に駅前で渡されたと言い張れ。人相は帽子とサングラスとマスクで解らなかった事にするんだ。最後に、何が起こっても俺の名前は出すな。言っとくがトラブルが起こっても、俺にはどうしてやる事も出来ん。以上だ。何か質問は?」

 

フィーは腕組みしながら考える。

はっきり口にするのは躊躇われるが、要するにこれは……?。取り敢えず質問してみるか。

 

「トラブルになった場合、品物は破壊した方が良いの?」

「いや、簡単には破壊出来ない代物だ。どうにもならなくなったら相手に渡して逃げてくれて構わない」

「その場合報酬は?」

「90%引きで渡す」

7,000ミラか……。

「報酬の受け取りは?」

「ブツが相手に渡った時点で俺にも解る様になってる。仕事が終わったらまたこの店に戻って来てくれ、その時にさっき買い取った分のミラとまとめて渡す」

成る程、まぁ後は出たとこ勝負か。

「……リィンは何かある?」

「そうだな……、戦闘になる可能性は?」

「かなり低いと思ってくれて良い、まさか士官学院の学生が運び屋とは思わないだろう」

 

運び屋ってはっきり言っちゃったよ、この人。

 

「ハッキリ聞くが………これは法に触れる事なのか?だとしたら、すまないが俺達が協力する事は出来ない」

「話しを聞いたら断れないって言ったろ、今更何言ってやがる!……安心しろ法に触れる事は何も無い。……少なくともお前らの住む世界の法はな……」

最後の方は暈して答えられた。

 

「しかし、今になって断りを入れるとはな……。だったら何でさっき1人で帰らなかった?」

「俺が居なくなったら、フィーはどんなにヤバい内容でも1人で依頼を受けちゃうだろ?道を踏み外しそうなら正してやるのも仲間の務めだ」

 

「リィン……」

少し熱っぽい視線を送るフィー。

 

「成る程な……。気に入ったぞ小僧!今度からお前だけには、通常価格で釣り餌を提供してやる!」

「……ど、どうも」

 

と言う事は、今まではボッタクリだったのか?

 

「まぁ心配するな、運び屋と言っても所詮は配達業務!万が一の可能性があるから、高い報酬になってるだけだ!」

 

モノは言い様とはこの事だ。

 

「それじゃあ、宜しく頼むぜお二人さん。おっと、時間が遅くなるからな、念のためサラには断りを入れておけよ。変に勘繰られるのも上手くないからな」

「らじゃ」

「了解しました」

品物をフィーが上着のポケットにしまい込み、二人はミヒュトの店を後にした。

 

外に出ると辺りはすっかり暗くなっている。

「それじゃあ、1度寮に戻るが、良いか?」

「らじゃ」

「良し、行こう」

二人は揃って歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

寮に帰ると、ロビーでサラが一杯やっていた。

 

最近お酒の量が増えているみたいだ。原因は先月の教頭パンツ事件に起因しているらしい。

 

入学式前にサラが申し込んだ決闘を、1ヶ月しっかり準備した教頭がズボンを下ろして受けてたったというのが、事件の真相という事になっている。

『私と相棒のみっしぃがお相手致そう。さぁ!掛かってきなさい!』

といった具合だ。

 

お陰でサラは、一部の生徒の間で痴女教官の烙印を押されているらしい(その生徒達は見つかり次第、特別指導という名の制裁を受けているそうだが……)

 

…………可哀想なサラ。

あれ?

でも、何でこんな事になったんだっけ?

 

自分に都合の悪い記憶はすぐに消去するフィー。

 

 

 

「あら?お帰り、遅かったわねアンタ達」

すっかり出来上がった様子のサラが、グラスを掲げながら教え子を出迎える。

 

帝都の教育委員が見たら、卒倒しそうな光景だ。

 

リィンが一歩前に出る。

「サラ教官、俺とフィーの夜間外出の許可を下さい」

「えっ?帰って来たばっかりなのにまた出掛けるの?……何?夕食?」

グイッとビールを煽るサラ。

 

「いえ、俺とフィーの二人で帝都のホテルに行ってきます!」

 

ブーッ!!!

サラが豪快にビールを吐き出す。

 

「な、な、な…………!?!?」

二の句が告げないサラ。

「お願いします、教官!詳しい理由は話せませんが!」

「理由ってアンタ!?ホテルに行く理由っていったらアンタ!?!?」

「お願いします!フィーの望みを叶えてやりたいんです!」

「フィーの望みって…、フィーから誘ったって事!?!?」

 

フィーに視線を送るサラ。

思わず視線を反らすフィー。

 

俯き、もじもじする仕草が余計にサラの想像力を掻き立てる。

 

当のフィーは、フォローしたいが、下手な事を言うと、痛くもない腹を探られそうで何も言えずにいた。

 

ここは、リィンに任せよう。何か面白そうだし?

 

「俺が危険からフィーを守ります!」

「アンタが1番危険よ!!!」

「どうしても今日じゃ無いと駄目なんです!」

「……??安全日って事か!!!」

「俺はフィーとイク(行く)って決めたんです!」

「真っ直ぐな目で何言ってんのアンタは!!!」

 

何でこの朴念仁は誤解されそうな単語ばっかり口にするんだ……?

 

「お願いします!教官!」

深々と頭を下げるリィン。

 

少し考え込むサラ。

 

「……はぁ、アンタ達の気持ちは解ったわ」

肩を竦めてみせる。

「……そうよね、年頃の男女が一つ屋根の下で暮らしてるんだもの。そんな事もあるわよね。……寮じゃなくて帝都のホテルで何て、……ふっ、少しは男気あるじゃない」

薄い笑みを浮かべる。

 

「リィン・シュバルツァー、フィー・クラウゼル、夜間外出を許可します」

「ありがとうございます!教官!」

「……さ、さんくす?」

 

良いのか?これ?

 

「但し、この事は絶対他言しないように」

「了解!」

「ら、らじゃ」

 

ホントに良いのか?これ?

 

「それと、外泊は許可しません。多少遅くなっても良いから必ず帰って来る事」

「了解!」

「……らじゃ」

 

マジで良いのか?これ?

 

「万が一の時はワタシが責任を取ります!」

「ありがとうございます!教官!」

「……さんくす」

 

責任とってくれるらしい、正気か?サラ?

 

「現在1950。……行ってきなさい、二人とも!」

「はい!」

「……ん」

 

とんでもない誤解をされたまま送り出される。

 

「リィン、待ちなさい」

サラはリィンだけを呼び止める。

「はい?」

 

ポケットから200ミラ取り出すとリィンに握らす。

 

「行く前に必ず薬局に寄りなさい、それが男としての責任よ!」

「……成る程、了解しました!」

「行ってきなさい、リィン!」

「はい!教官!」

 

先を歩くフィーにリィンが追い付く。

「どうしたの?」

「ああ、サラ教官が回復アイテムを補充しとけって」

200ミラを見せる。

 

恐らくそういう意味じゃないとフィーはすぐピンとくる。

朴念仁は何処までいっても朴念仁だ。

 

 

 

 

 

寮を出て駅に向かう。

フィーはチラッとブランドン商会を見た。

 

明かりが付いていて、まだ営業しているようだ。

トリスタの店は、何処も閉店時間があって無い様なものだ。暇な時は19時で店を閉めるし、お客さんが居れば日付が変わっても店を開けている。

 

待っててねストレガー、必ず迎えに行くから。

 

永遠を誓った想い人に対するような気持ちを胸に秘め、子猫と朴念仁は駅へと向かった

 

 

 

 

後半へ続く

 




長くなりそうなので前後半分けてみました。
それと集英社の関係者様。申し訳ありません。
でも、私はジャンプを愛してます

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