クロスベル自治州
東西の大国から人と資本が流れ込み、未曾有の好景気に賑わう街。だがそれは、一部の人間だけが味わえる甘い汁でしかなく、市民の生活格差は深刻な社会問題になっているらしい。
それでも、すれ違う人々は、皆一様にエネルギーに満ち溢れ、懸命に生きようとしているのが感じられた。
パワフルな街だな……、お堅いエレボニアとは大違いだ。
クロスベルの駅前を通り過ぎ、中央広場へと向かう道すがら、近代的な街並みと活気溢れる住人達を見つめながらフィーはそう思った。
マスターが用意してくれたカーゴタイプの飛行艇は、ウルスラ間道を少し進んだ空地に、操縦士と一緒に待たせてある。バス路線からは離れているし、大型の魔獣も現れる場所なので、地元民に見付かる事は多分無いだろう。
街名の由来となる巨大な鐘楼が飾られた中央広場は、平日にも関わらず行き交う人達で溢れ返っている。デパートの入り口付近ではイベントが行われているらしく、子供から大人まで沢山の人達で賑わっていた。
警備隊員の姿は、チラホラとしか見受けられない。恐らく経済会談をしているという、オルキスタワーの方に人員を割いているのだろう。
総人口はヘイムダルの方が多いけど、人口密度はこっちの方が高いのかな?
ごちゃごちゃと乱立するビル群を眺めていると、そんな風に感じた。
「ちょっと貴女!キョロキョロしながら歩くんじゃねぇですわ!」
横を歩くデュバリィから鋭い叱責が飛ぶ。
「田舎娘丸出しじゃないですの!一緒に歩くわたくしの身にもなりやがれですわ!」
そう言いながらも、先程までオルキスタワーを遠目に見ながら「ほぉー!あれが噂の!」とか「はーっ!何と高い!!」とか言ってたのを、フィーはしっかり目撃していた。
「さっさとレストランに向かって、仕事を終わらせますわよ!」
「ん、らじゃ」
「まったく……、何故わたくしがこんな小娘の御守りなどを……。……あら?」
ぶつくさと文句を垂れ流しにしていたデュバリィの視線が、不意にある一点で止まる。
?、何だ?
視線の先を辿ると、デパート前の人だかりが気になっているらしい。良く見ると、まん丸とした猫の様な着ぐるみが、子供達に風船を配っていた。
ああ、みっしぃのイベントだったのか。
クロスベルが誇るテーマパークのマスコット、みっしぃ。
独特の丸っこいフォルムと、愛嬌のある顔立ちに凛々しい眉毛が特徴で。その人気はクロスベルだけに留まらず、帝国や共和国にまでファンが居る程だ。
集まっている民衆も大興奮で、最前列に陣取る蒼髪の少女など、目をキラキラさせながらも微動だにせず、ジ~ッと愛おしそう見つめている。隣に居る桃色髪の少女は、その様子を微笑ましそうに見守っていた。
確かラウラが好きだったな、お土産にグッズでも買って帰ろっかな?
フィーがそんな事を考えていると、すぐ真横から不気味な声が聞こえて来た。
「み、み、みみみみみみっ……」
ん?なんだ?……みみ?……耳?
小首を傾げながら隣を様子見る。
「みっしぃぃィィー!!!!」
デュバリィが奇声を上げながら、人だかりへと突進して行った。
オイオイ、一人で勝手に動くんじゃねーよ。
フィーはポーチからワイヤーを取り出すと、素早くデュバリィの片足に向かって投げつける。
「みっし……、へ!?ぶふぉ!!?」
急に片足引っ張られたデュバリィは、豪快に地面へとダイブし、顔面をこれ以上なく強かに打ち付けた。
「な、な、何しやがるですわ小娘ぇ!!?」
ダラーッと真っ赤な鼻血を垂らしたデュバリィが、怨めしそうに振り返った。
「ん、予定の時間まで30分しか無いんだし、みっしぃと遊んでる時間なんか無いよ」
「レストランはすぐそこですわ!?ちょっと行って風船を貰って来る位、良いじゃありませんの!?」
「風船なんか持ってレストランに入ったら、店の人に迷惑でしょ?それに店の周りも少し見ておきたいし」
「せ、せめて握手だけでも!!」
「ダメ、もう行くよ」
「お、鬼ぃ~!!!」
ワイヤーを肩に担ぎ、ズルズルとデュバリィを引っ張るフィー。デュバリィも地面に爪を立てて抵抗するが、フィーはそんな事にはお構い無しにワイヤーをグイグイ引っ張る。またもやスカートが捲れ上がり、付近の男共の視線が集まった。
「諦めなよ、仕事を終わらせてからゆっくり行けば良いじゃん?」
「う、うううっ……」
「マスターにワタシの見届け役頼まれたんでしょ?」
「ぐっ……、うううっ」
マスターの名前を出したのが効いたのだろう、渋々といった様子だがデュバリィは立ち上がった。
「……くぅ……さっさと終わらせますわよ!小娘ぇ!!」
全身から怒気を撒き散らしながら、デュバリィは一人でさっさとヴァンセットへ向けて歩き出した。
やれやれ……。ん?、あれ?
ふと見ると、デュバリィの片足にはワイヤーが巻き付いたままだった。
「あっ、ちょっと、ストップ」
「何ですの!?貴女もさっさと付いて来やがれで……、へ?ぐほぉ!!?」
ピンと張ったワイヤーに足を取られ、再び顔面を強打するデュバリィ。
「だからストップって言ったのに……」
呆れ顔を浮かべたフィーがデュバリィに近寄り、ワイヤーの拘束から解放してやる。
「……、うっ……」
今度はおでこを思いっきり打ったらしく、額を真っ赤に腫らしたデュバリィが振り返る。相変わらず鼻血を垂らしながら、目には大粒の涙を浮かべていた。
「あ、貴女なんか大っ嫌いですわ!!!」
デュバリィの魂の叫びが周囲にこだました。
「ん、了解。んじゃ、行こっか」
フィーは適当に返事を返し、レストラン『ヴァンセット』へ向けて歩き出した。
「~~~!!」
デュバリィは重たそうに身体を起こすと、無言のままフィーの後に従う。
一見無防備に見えるフィーの後ろ姿を、灼熱の如く燃える瞳で見つめながら彼女は思った。
小娘ぇ~!わたくしが騎士道に携わっている事に感謝しやがれですわ!!!
拳をギュッと固く握りしめながら、デュバリィはフィーの後を追った。
カフェレストラン ヴァンセット
昼時という事もあり、店内は満席に近い状態だ。
店に入り2F席を使いたいと申し出ると、店員さんが丁寧に対応してくれた。フィーの名前で事前予約が取ってあったらしい。
流石マスター、抜かりが無いね。
2人はスムーズに予約席へと通された。
店は吹き抜けになっていて、2Fからでも1Fの様子を窺う事が出来る。もっとも、出入口を確認するには、2Fデッキの柵から、顔を出さなくてはならないが。
席に着くなり、素早くメニューに目を走らせたデュバリィは、ミックスピザとナポリタンと海鮮サラダとマッシュルームのアヒージョとソーセージの盛り合わせを注文した。
鼻血は止まったらしいが、前髪に隠れたおでこはコブになっているらしい。横から見ると、微妙にシルエットが歪んでいた。
良く食べるね……。
フィーはその様子に目を細めながら、シナモン多めのカプチーノだけを注文した。
「貴女、食事はちゃんと摂らないと、身体に悪いですわよ!?しっかり食べやがれですわ!」
「ん、そんなにお腹減ってないし」
「ダメですわ!そんなガリガリの身体で何を言ってやがります!」
「……っていうか、ここに来た目的覚えてるよね?」
「勿論ですわ!わたくしがマスターの命を、忘れるワケねぇだろでやがります!」
さっき、みっしぃに向かって、突撃しようとしてなかったっけ?
「貴女こそ、鞄はしっかりと持っていやがるのかでやがりますわ?」
「ん、大丈夫」
片手でボストンバッグを挙げて見せる。
「それなら、後は取引相手が来るのを待つだけですわ。食べられる時に食べておくのも、戦士としての基本ですわよ!」
ん……、まぁ、一理あるかな?見習う気はしないけど。
そんな事を考えながらも、顔を動かさずに視線だけをあちこちに飛ばし続ける。
店の周囲や店内の確認は一通り済ませてある。特に気になる箇所は無かったが、警戒しておくに越した事は無い。
「……猟兵という人種は、全員が貴女みたいな人ばかりですの?一緒に居るこっちが落ち着きませんわ」
その様子を見たデュバリィが、溜め息混じりに呟いた。
「ん?ま、人それぞれだとは思うけど、ワタシは出来るだけ不安要素が無くなる様にしてるかな」
「ふん、騙し討ちや不意討ちが、貴女方の常套手段ですものね!」
やや含みのある言い方に思えた。
「?、前に猟兵がらみで、何かあったの?」
「ふん!貴女に話す様な事など、何一つありませんわ!」
「ふーん、なら良いけど」
「イヤイヤ、少し位は興味を持ちやがれですわ!!」
どうしろってんだ……。
今度はフィーが溜め息を吐く。
「……一つ聞きたいのですが。貴女は幼い頃から戦場で育ったと聞きましたが、本当の家族の事は覚えてますの?」
「ん……さぁ?もう思い出す事は殆ど無いかな」
「そうですか……」
「アンタは?」
「へ?」
「アンタもワタシと似た様なモンなんじゃないの?」
「……何故そう思うのですわ?」
「んー、何となくかな。でも、アンタはちょっとだけワタシに似てる気がする」
「な?貴女みたいな小娘と、一緒にするんじゃねぇですわ!!」
「別に性格とか外見が似てるって言ってる訳じゃないよ。本質的にっていうか、根っ子の部分が、って意味」
「ふん、そんな訳が……」
一瞬だけフィーから視線を反らしてから、デュバリィは向き直った。
「そうですわね……。確か、西風の猟兵王でしたか?貴女が拾われたのは。……貴女と同じ様に、わたくしもマスターに拾われなければ、恐らく、今こうしてはいませんわ」
やっぱね……、ま、そんな事だろうとは思ったけど。
「ですが!わたくしは貴女とは全然違いますわ!わたくしが目指しているのはマスターの様な騎士です!武を尊び、理への道を志す、誇り高き戦士ですわ!邪道な猟兵なんぞと一緒にして欲しくはありませんわ!!」
うーん……、何だか、ウチの剣士と同じ様な事を言い出したぞ。
思わず肩を竦める。
「ん、そだね。生き残る為なら平気で汚い手を使う猟兵と、どんな時でも誇り高く戦う騎士。……正邪を言うなら、アンタの言う通りなんだろうね……」
少し言い難そうにしながらも、フィーが肯定する。
「でも同じ所もあると思うよ」
「?……、何ですの?」
「大切なモノの為なら、躊躇わずに命を懸ける所」
「っ……」
「猟兵団は仲間って言うより、家族みたいなモンだからね。誰一人欠ける事なく、戦場から帰って来る事が何よりも大事。だから誰かがピンチになったら、どんなに危険でもワタシは躊躇わずに助けに行く。ワタシの事は、誰かが命懸けで護ってくれる。ワタシ達はそうやって戦場を生き延びて来た」
「……」
「鉄機隊って言ってたっけ?アンタもマスターとか仲間の為なら、似た様なもんなんじゃないの?」
真っ直ぐにデュバリィを見つめた。
「……」
「どう?」
「……ふん、そうですわね」
浅い溜め息混じりに、デュバリィが答える。
「確かに、似ているのかも知れませんわね……」
何処となく不満そうな顔だが、納得したように小さく頷いた。
「あ、もう一回言っとくけど、性格とか中身とかは全然似て無いから勘違いしないでね」
「わ、わざわざ言い直すんじゃねぇですわ!!!っていうか、性格はともかく中身ってどういう意味ですの!!?」
「ん?乙女としての完成度とか?」
「この場でブッた切られたいのかですわ!!?小娘ぇ!!!」
「あ、ゴメンゴメン。つい本音がポロっとしただけだから、あんまり気にしないで」
「余計に悪いですわ!!!」
「し、失礼致します!」
デュバリィが怒りを爆発させると同時に、料理を運んで来たウェイターが、ソーセージとカプチーノを恐る恐るテーブルに置いた。
「ご、ごゆっくりどうぞ!」
早口でそれだけを言うと、ウェイターは逃げる様にその場を後にした。
……
……
……
「……ご、ゴホン。……まったく、失礼な小娘ですわ」
流石にバツが悪いのだろう。デュバリィは首元にナプキンを巻き付けると、何事も無かったかの様にパキッと良い音をさせながら、ソーセージにかぶり付いた。
やれやれ、ホント賑やかな女だ。
フィーも一応ナプキンを装着し、砂糖をたっぷりと追加してから美味しそうにカプチーノをすすった。
店内に備え付けの時計を確認する。正午まで3分半といったところだ。
目の前ではデュバリィが、夢中になってソーセージに喰らい付いている。
はぁ……。
その様子を呆れ顔で眺めながらも、フィーは違和感を覚えていた。
……何か変だ、猟兵時代に警備の仕事で、こういう取引現場に立ち合った事は何回かあるけど、あの時みたいな独特の張り詰めた空気感が感じられない。
それに、場所と時間だけで取引きするのは良いとして、相手がわざわざ時間ピッタリに来る何て事が、有り得るのだろうか?事前に場所と周辺の様子位は確認したくなるのが、人情というものだ。でも、ワタシが見たところ、それらしい人間が様子を探っている気配は、全く感じられ無かった。
ワタシのカンが鈍ってるんじゃ無いとすれば、これは……。
その時、不意にフィーはレストランの階下から、緊迫感のある気配が2Fに上がって来るのを感じ取った。
?、何だ?
階段の方を見ると、導力銃を持った令嬢然とした銀髪の女と、トンファーを構えて青い制服を着た茶髪の男が、ゆっくりと2Fに上がって来るのが見えた。
げっ!あの制服って!?
フィーは素早く鞄を握りしめて立ち上がると、軽やかにテーブルを飛び越え、空いてる方の手でデュバリィの襟首をひっ掴んだ。
「ふごっ!?あひひははふへふは!!?(何しやがるですわ!!?)」
突然の事に、ソーセージを喉に詰まらすデュバリィ。
「あれ見て!」
フィーがデュバリィの首を、無理矢理2人組の方へ向ける。
「!!、ふぇ、ふぇひはふ!?(け、警察!?)」
「行くよ!」
片手にボストンバッグ、もう片方にデュバリィを掴んだフィーは、そのまま2Fデッキの柵を飛び越え、1Fへと飛び降りた。
「ふぉふふへほはほーー!??(翻訳不可)」
カエルの鳴き声の様なデュバリィの悲鳴が上がるが、フィーは気にも留めない。
着地と同時に階段の方を振り返る。先程の2人組が慌てた様子で、こちらに向かって来るのが見えた。
「外に出るよ!」
すぐ隣に居るデュバリィに、静かに囁く。
……が、何やら様子がおかしい。
ん、あれ?
デュバリィは真っ青な顔で、白眼を剥いていた。
あ、もしかして。
フィーは平手で、背中を思いっきりブッ叩いた。
ポンという音と共に、デュバリィの口からソーセージが丸々1本吐き出される。
「ぶはぁ!!?こ、殺す気ですの、小娘ぇ!!!」
「ん、早く立って」
デュバリィの苦言を左から右にスルーし、フィーが走り出す。
「~~!!」
デュバリィも全身から怒気を立ち昇らせながら、その後を追った。
カウンター前を通り過ぎる時、フィーはデュバリィのスカートのポケットに手を突っ込んだ。
「ちょっ!こんな時に何処を触ってやがります!!?」
思わぬ行動にデュバリィが身体を捩った。
「ん」
フィーはそんなデュバリィの様子にはお構い無しに、ポケットから少しシワになった1万ミラを取り出し。
「ごちそうさま、お釣りは取っといてね」
カウンター越しに店主へ支払った。
「小娘ぇ!!何がお釣りは取っといてね、でやがります!?」
顔を真っ赤にして憤る。
「え?だって、貰ってる時間なんか無いし」
「そんな事は解ってますわ!ですが、それを決めるのは貴女じゃなくて、わたくしです!!!」
「別に良いじゃん」
「良くないですわ!わたくしだって、お釣りは取っといてね、って言ってみたかったですわ!!」
……知らねーよ、そんなの。
「というか!何故貴女のカプチーノ代が含まれているのですわ!?」
「?、マスターから経費って言われて、渡されたお金でしょ?奢ってよ」
「例え天地がひっくり返っても、貴女には奢りませんわ!!カプチーノ代500ミラ、絶対に返しやがれですわ!!」
「ん、後でね」
「絶対ですわよ!!」
やれやれ、メンドくさい女だ。
フィーは肩を竦めながら、出入口の扉を勢い良く押し開けた。
「ぐはぁ!!?」
前触れ無しに勢い良く開いた扉が、表に立って居た男の顔面を直撃した。
あっ。
と思ったが、勿論どうする事も出来ない。恐る恐る確認すると、赤い長髪の男が大の字に倒れ、目を回していた。
あっちゃー、ヤっちゃった……。ん?
倒れた男の顔には、妙に見覚えがあった。
あれ?確か……赤い星座の死神?
西風時代に、何度か手を合わせた相手だ。大陸最大級の猟兵団、赤い星座。
その団長の息子さんだったかな?確か。
「何を立ち止まってやがります!?行きますわよ小娘!!」
「ん、らじゃ」
何でこんなトコに居るのか知らないけど……、取り敢えずゴメンね。
フィーは心の中だけで謝罪すると、デュバリィと並んで走り出す。後には白眼を剥いて天を仰ぐ、哀れな死神だけが取り残された。
ヴァンセットを飛び出し、中央広場を駆け抜けるフィーとデュバリィ。だが、いつの間にやら広場には、武装した警備隊員達が迫って来ていた。
「ど、どうするでやがります!?」
「ん、どうしよっか?」
「何を呑気に言ってやがります!?真剣に考えろですわ!!」
「そうは言われても、この街の事良く知らないしな……」
言いながらも素早く周囲の様子を視認するフィー。
駅前に行く通りも、オルキスタワーに向かう道も、完全に塞がれている。少し戻って西通りに進もうにも、さっきの2人組が待ち構えて居るだろう。東通りへの道はそれ程警戒されていない様だが、わざわざ隙を見せてるのが如何にも怪しい。
ヤバいね、思いっきり囲まれてるじゃん……。
思わず苦笑いを浮かべる。
それでも諦めずに周辺をサーチし続けると。
……あ!
フィーの目がある一点で止まった。
いや……、でもなぁ……。
ほんの一瞬だけ躊躇いを見せたが。
……ま、しょうがないか。背に腹は代えられないよね。
覚悟を決めてデュバリィに振り返った。
「行くよ、顔隠して付いて来て」
デュバリィに指示を出しながら、フィーは胸元に装着したままでいたナプキンで顔を覆い、デパートの方へと向けて駆け出した。
い、一体どうするつもりですわ?
デュバリィは戸惑いながらも、指示に従いナプキンで顔を隠し、フィーの小さな背中を追い掛ける。
……が。
あからさまに嫌な予感しかしていない。
……考えてみれば、あの小娘と行動を共にして、良かった記憶が一欠片もありませんわ。
倒れるまで街道を走らされ、夕焼けの大空をスカイダイブさせられ、仕舞いには人前でスカートまで剥ぎ取られましたわ!!
無意識にドス黒い感情が沸き起こる。
どうせ今回もロクな事にならないのは、目に見えていやがりますわ。マスターの命があるとはいえ、このまま付き従って良いものなのかですわ?
思わず不安げな視線でフィーを見つめた。
それにしてもあの小娘は何処に向かうつもりですの?デパート前の人だかりの方へ向かっている様ですが、あそこには……。へ???
ふと見ると、フィーが腰から双銃剣を引き抜いていた。
な、な、何をする気ですの、あの小娘は!?
とんでもなく嫌な予感がする。
ま、ま、まさか???
……い、いや、いくら何でもそれは無いですわ!そんな事は空の女神様が、断じて許しませんわ!?
……
……
……
そう信じていますわ……。
デュバリィの不安を他所に、フィーは一直線に人だかりへと突っ込んで行った。
「あれぇ?どうしたの?おねぇさん☆」
風船を持った猫の様な丸っこい着ぐるみが、つぶらな瞳でフィーを見つめている。
「ん」
フィーは後ろ手に双銃剣を構えたまま、素早く着ぐるみの後ろに回り込むと、低く凄む様に呟いた。
「ワタシの言うことに従わないと、グサッ!だよ」
「へ???☆」
片手に持った銀のガンナイフが、妖しい光を放っている。
や、やっぱり『ヤり』やがりましたわ!!!?
デュバリィは目をひん剥いて、悪夢の様な光景を見つめていた。
な、何て事をしやがります!!!
しゃ、洒落になってませんわよ、小娘ぇ!!!
みっしぃの手から離れた色とりどりの風船が、大空へと向かって飛んでいった。
デュバリィはそれを見つめながら思った。
どうやら空の女神様は……、遅い夏期休暇中らしいですわ……。
目から大きな雫が零れ落ちた。