妖精の軌跡first【完結】   作:LINDBERG

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子猫と神速は結構気が合うが仲良くなる事は無い

クロスベル 東通り 市街地

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

息を荒げ、汗を滴らせるデュバリィ。

2人は何とか追っ手を振り切り、市街地の方へと逃げ延びていた。

昼時の住宅街は人通りも少なく、誰かに見咎められる事も無い。一息着いても大丈夫そうだ。

 

「はぁ、はぁ……。貴女と行動を共にしていると、生きた心地がしませんわ……」

「ん、人生を楽しむには、適度なスパイスが大事らしいよ」

「適度の範囲を、大幅に越えてますわ!?」

「良いじゃん、お互い無事なんだし」

「たまたま運が良かっただけですわ!一歩間違えば、良くて女神送り、悪くて煉獄送りでしたわ!!?」

「大丈夫だよ、煉獄もそこまで悪いトコじゃなかったし」

「何を抜かしていやがります!?煉獄には鬼よりも恐い冥王様が居るそうですわ!!灼熱の業火で表裏をまんべんなく炙られて、針の山をフルマラソンさせられて、生皮を剥いだ後に塩水へどっぷりと浸けられて、仕舞いには一晩中耳元で黒板を引っ掻かれるそうですわ!!」

エゲつない情報ばかりを一気に捲し立てる。

 

誰に聞いたんだよ?恐過ぎだろ、冥王さん。……寝かせてもくれないなんて。

 

ちょっとだけ身震いする。

 

「それにしても……、何でレストランに警官が来やがったですわ?」

腕を組んで首を傾げるデュバリィに対し。

「ん?それは勿論、ワタシ達を捕まえる為でしょ」

フィーは、にべもなく告げた。

「なっ?そんな筈はありませんわ!あの時、わたくし達はクロスベルに着いたばかりで、何一つ警戒される様な事はしていなかった筈ですわ!?」

「レストランに来た2人組は、武器を構えて警戒した状態で来てた。多分レストランに誰が何人居るとかは全く知らないまま、斥候要員として急遽駆り出されたんだと思う」

「?、何故そこまで解るんですわ?」

「ワタシ達が中央広場に着いたのが11時30分。その時点で広場に不穏な気配は感じ無かった。でもその30分後には、どういう訳か警備隊に囲まれる事になってた。この状況から考えると、警備隊は11時30分より後に動き出した事になる」

「……っ」

無駄に高い洞察力に思わず息を飲む。

 

「取引の現場を押さえるなら、事前に網を張って待ち構えるのがセオリー。でも警備隊は、そうする事が出来なかった。だから様子見として、あの2人を本隊より先に寄越したんだと思う」

「出来なかった?何故です?」

「ん、色々考えられるけど……。普通に考えれば、直前になって急に取引の情報が入った、ってのがあり得そうかな」

「直前に情報?」

「ん、要するにタレ込みってヤツ」

「なっ!?」

デュバリィの顔色が変わる。

「……貴女は、誰かが情報を警備隊にリークして、わたくし達を捕まえさせようとしていた。そう言っていますの!?」

「ん、まぁ、ぶっちゃけるとね」

「じょ、冗談じゃありませんわ!誰が何の目的でそんな真似しやがったですわ!」

「ん……」

 

そう、それが問題だ。……誰が、何の為に。

 

今の自分には手掛かりなど殆ど無く、味方も残念な騎士しかいない。何でも良いから、情報が欲しいところだ。

 

「……ねぇ、取引相手について、マスターから何か聞いてない?」

「いいえ、わたくしもあのホテルで急に命じられましたので」

「ん、そか……」

 

……んじゃ、しょうがないか。

 

フィーは双銃剣を一丁取り出すと、手に持った鞄の腹を躊躇無く切り裂いた。

「な!?何をしていやがります!!」

デュバリィが慌てて止めに入る。

「止めやがれですわ!マスターから、鞄は開けるなと言われた筈ですわ!?」

「ん?開けちゃダメって言われたから、切ってるんだけど?」

「豪快な屁理屈を抜かすんじゃねぇですわ!?開けちゃ駄目な物を切って良い訳がねぇだろですわ!!」

「あ、そなんだ?ゴメンゴメン、次からは気を付けるよ」

全く悪びれる素振りすら見せずに、鞄の中身を道路にブチ撒けて内容を確認するフィー。

「っ~~!!」

デュバリィは頭を抱えながら、何処までも広がる天を仰いだ。

 

「……ん、やっぱしネ」

一人で納得するかの様に、頷いて見せる。

「何が『やっぱしネ』ですわ!?貴女!どう考えても頭がおかしい……」

「そんな事より、これ見て」

「?、何ですの?」

鞄をひっくり返して道端に散乱したのは、古新聞と古雑誌の山……。マスターに預けられた鞄の中には、ゴミとしか言いようが無い物しか入っていなかった。

「なぁ!?ど、どういう事ですの??」

「ん……」

狼狽えるデュバリィを他所に、フィーは念の為、適当に選んだ雑誌の中身を確認してみる。

 

〈激アツ!皇女殿下のお宝ショット!!〉というタイトルで、聖アストライア女学院の制服に身を包んだアルフィン殿下の、無許可と思われる隠し撮り写真が数点掲載されていた。中には階段下から撮影したと思われる、かなり際どいアングルのショットもある。更には侍女として横に付いて居たのであろう、エリゼの写真まで撮られていた。こちらもかなり際どい角度からの写真で、何枚かには確実に『乙女の聖域』が写り込んでいる。

リィンが知ったら、髪の毛を真っ白にして出版社に殴り込み、関係者全員を真っ赤な血の海に沈める事、間違い無しだろう……。

だが、お宝には違いないだろうが、わざわざクロスベルで取引するモノとも思えない。

 

「な、何故こんな物が入っているのですわ!??」

動揺を隠せないデュバリィも、確認の為に何冊かの雑誌をペラペラと捲り始めた。

「ん……、っ……」

その問いには答えずに、顎に手をやって考えを巡らせるフィー。

ふと周囲を見ると、道路脇にクロスベル全域の見取り図が掲示してあった。

何の気無しに近付いて、それを見つめる。

 

……こうして地図で確認すると、中央広場はクロスベルの中でも一番人通りが多い場所だ。

?、何でワザワザこんな場所で……。

 

続いてマスターが話していた内容を、断片的に思い返す。

 

盟主さんから承った取引の仕事……、今後の計画の資金繰り……、ワタシが結社入りを拒んだ時の代替案……。

 

もう一度道端に掲示された地図を、今度はしっかりと眺める。

 

中央広場のレストランで取引……、オルキスタワーでは経済会議……、取引時間ギリギリに現れた警備隊……、渡された鞄の中身はフェイク……。

 

……

……

……

……あっ。

 

不意にある考えが脳裏を過った。

 

ん……。

 

一人で頷きながら、自分の考えを反芻する。

 

……うん、コレが一番あり得そうかな?

 

スッと地図から視線を外し。

「ねぇ、ちょっと確認したい事があるから、もう行くよ」

すぐ真横で、熱心に古雑誌を読み耽るデュバリィに声を掛ける。

 

……

……

……

返事が無い、余程集中しているらしい。

 

?……、夢中になって何読んでんだ?

 

影を作らない様に気を付けながら、脇から覗き込む。

デュバリィは丁寧に開けられた袋綴じの付録写真を、食い入る様にジッと見つめていた。

内容は男性のグラビア写真らしい。濃い金色の長髪を靡かせた湯上がりらしき男が、上半身裸の状態で薔薇の花を1輪咥えながら、カメラに向かって装飾が施された導力銃を構えている。

 

げっ……。

 

濡れた裸身からは、妙な色香と艶っぽさが醸し出され、右手に握られた銃からは、男の気高さと己の運命に抗う意思の様なモノが感じられた。

……ドコからどう見ても『奴』にしか見えない。

 

何やってやがんだ!あのアホは!!!

 

デュバリィから無理矢理に『モノ』を引ったくる。

「へ!??、あ……」

悲しさと恨めしさが入り交じった視線が飛んで来たが、全く気にも留めない。

 

他の新聞やら雑誌やらと一緒に破れた鞄に突っ込むと、街中であるにも関わらずARCUSを駆動させてファイアボルトを発動し、全部まとめて火種にしてやった。

 

「い、いきなり何をしやがります!!」

ヨダレを垂らしながら陶酔していたデュバリィが、現実世界に戻って来る。

「あんなのじっくり見始めたら人間廃業だよ。そんな事より、もう行くから付いて来て」

「??、行く?何処へですの?」

「ん、港湾区画の方」

「港湾区?」

「ちょっと確かめたい事があるから……。ま、別に付いて来なくても良いんだけど」

「ふん、マスターから貴女の監視を任された以上、一瞬足りとも目は放しませんわ!」

 

イヤイヤ、アンタついさっきまで……。……ま、いっか。

 

浅く溜め息を吐きながら、東通りを後にするフィー。その後ろから、焼け焦げた雑誌を少しだけ物欲しそうに見つめながらも、デュバリィが付き従う。

 

2人が去った道路脇には、天才演奏家を自称する男と、その妹である可愛いらしい皇女のフォトグラフが、彼等の未来を暗示するかの様に、真っ赤な炎に包まれていた。

 

 

 

 

 

クロスベル 港湾区

 

市民の憩の場となる公園や、ミシュラムへの定期船の発着場、ラジオ放送局や新聞社、外資系企業のオフィスビルが建ち並ぶ、湖に面した閑静な区画。

フィーとデュバリィは公園を散歩する風を装いながら、辺りの様子を探っていた。

 

「こんな場所に何の用ですの?」

不満タラタラな口調で、デュバリィが愚痴を溢す。

「わたくし達の立場を理解していやがりますの?何時また警備隊に追い回されるか、解ったものじゃありませんわ」

「ん、いいから、気を抜かないで周りの様子を見てて」

フィーはそれには取り合わずに、ジッとCNSと書かれた建物の、横にある脇道を見つめていた。

「こんな所をウロついていては、目立って仕方ありませんわ。定期船に乗ってミシュラムにでも行った方が安全なんじゃありませんの?」

「……、どう考えても、向こうの方が警戒されてるでしょ。いい加減、みっしぃの事は忘れなよ」

「バカ抜かすんじゃねぇでやがります!!あんな事をやらかして、もしもわたくしがみっしぃに嫌われる様な事になったら、絶対に貴女の事は末代まで祟ってやりますわ!!」

 

末代って……。

 

「大丈夫だよ、向こうも仕事だから、多少嫌でも『みししっ☆』って言ってくれるって」

「お止めなさい!!そんな生々しい話を、しているんじゃありませんわ!?」

「そんな事より、アレ見て」

「そんな事!?そんな事とはなんですの!!わたくしにとってはマスターの次に……」

「いいから、見ろ」

後頭部を鷲掴み、無理矢理に首を捻る。

「ぐぎゃっ!?」

何やら鈍い音が聞こえた気がするが、勿論フィーは気にも留めない。

「こ、こ、小娘ぇ~……、人間の首は、そんな角度には回りませんわ~」

妙な方向に首を巡らせ、苦しそうに呻く。

「あそこで立ち番してる警備員が見えるよね?」

「本題に入る前にぃ~……、一言位謝りやがれですわ!~~」

「ん、ゴメン。……で、どう思う?」

「誠意の欠片も無い謝罪など、何の意味もありませんわ!~~。……どう、って、只の警備隊員にしか……、……??」

自力でゴキゴキッと首の角度を調整しながらも、デュバリィは目を細めた。

「あの雰囲気と立ち振舞い……、警備隊というよりも軍人……、いや、猟兵?」

「ん、赤い星座の連中」

「な!?、何故その名前が出て来るのですわ?」

「前に戦場で何度かカチ合った事があるから。まぁ、一応は商売敵だったしね、その時に見た顔。確か『血染め』の部下達じゃなかったかな?」

「『血染め』……。『ブラッディ・シャーリィ』とか呼ばれてる女猟兵でしたか?」

「ん、それそれ」

「……嫌な名前ですわね、悪い噂しか聞いた事がありませんわ」

「ワタシも何回かヤり合ってるけど、一回も勝った事は無いかな?」

「なっ!?卑劣の極みである、貴女がヤられましたの!?」

 

……誰が卑劣の極みだ。

 

「ん、別に勝てなかっただけで、敗けては無いよ」

「??、勝てなかった、要するに敗け。じゃありませんの?」

「サシの勝負じゃ勝てなかったけど、団として敗けた事は一度も無いって事」

「一対一で勝てなきゃ、敗けたも同じですわ」

「それは騎士の考え方。レストランでも言ったけど、仲間が無事ならこっちの勝ち」

「随分と都合の良い言い分ですわね……。それで、悪名高い赤い星座の部隊長が、こんな所で何をしていやがるですわ?」

「あの脇道の先に何があるか考えれば、答えは一つでしょ」

「??……、あの先には確か……」

IBC、クロスベル国際銀行がある筈だ。そしてその道を封鎖する様に、数人の猟兵が警備隊の格好で見張りをしている。

しかもご丁寧に、車止めのバリケードまで敷いていた。

 

「!!、……まさか」

「ん、どう考えても、ソレでしょ?」

「あ、あり得ませんわ!?いくら赤い星座が無法者の集まりでも、国際銀行を襲えばどうなるか位、理解している筈ですわ!!」

 

そう、当然ただで済む筈が無い。クロスベルの警備隊に追い回されるのは当然として、仮に逃げられたとしても、その後にIBCと繋がりのある大手企業等から、どういう報復があるかは想像に難くないだろう。

 

……だが。

 

「今は状況が違う」

「?、どういう意味ですの?」

「オルキスタワーで経済会議ヤってるのは覚えてる?」

「ええ」

「そんな時に、街のど真ん中で大剣をブン回しながら〈みっしぃ〉を人質にする凶悪犯が現れて、しかも行方を見失ったらどうする?」

「……い、イヤ。それってまさか、わたくしの事……」

「いいから、どうする?」

「……そうですわね。……勿論、指名手配を掛けて、全捜査員を投入……。いえ……、わたくしなら万が一に備えて、オルキスタワーの守備を堅め、追跡は最小限に留めますわ。下手に刺激して、犯人が無茶をしないとも限りませんし」

「ん、ワタシも同じ意見。んじゃ、守備はどうやって堅める?」

「タワーの警戒を強化するには、他から人員を回すしかありませんわ。必然的に、市街地の警備は緩くなります。勿論それは、港湾区も例外では無い……、!!」

「ん、そゆこと」

「で、ですが!何故赤い星座の連中は、こんなタイミングで!?」

「簡単だよ。星座とアンタんトコが繋がってるから」

「……は、はぁ!??」

思わずデュバリィが固まる。

「正確には、アンタんトコの盟主さん、かな」

「な、何故そんな事が言えるのですわ!?」

「ん、現状からの推測になっちゃうけど、良い?」

「……良いですわ、貴女の推測とやらを聞かせてもらおうじゃないですの」

 

「まず今回の取引だけど、コレは完全にフェイク」

「フェイク?」

「ん、取引相手も取引自体も、存在しなかったって事」

「なっ!?」

「言いたい事はあるだろうけど、先に全部言わせて。話が進まないから」

「っ……」

「んじゃ、何の為にワタシ達にこんな面倒な事をさせたか?……答えはさっき言った通り、銀行を襲う為。しかも、コレには裏付けがある」

「裏付け?」

「マスターとの話の中に『今後の計画の資金繰り』って言葉があった。……アンタんトコ、何か大きな事企んでるでしょ?その為に多額のミラを集めようとしてる、違う?」

「えっ?あっ……、いや、その……」

動揺という文字が、思いっきり顔に出ていた。

「ま、そこは詳しく聞かないから、別に言わなくても良いよ。全国制覇でも世界征服でも何でも、好きにやって。……ただし、ワタシには関係無い所でね」

「……貴女、発言がアウトロー過ぎですわ……」

「ん?ま、元猟兵だからね」

「はぁ……」

溜め息以外が出て来ないデュバリィ。

 

「赤い星座が出て来たのは意外だったけど、状況からして関わってるのは確実」

「確実?そこまで言い切れますの?」

「ん、理由は簡単。このタイミングで銀行を襲ってるから」

「あっ……」

「アンタが言った通り、星座の連中はイカれてるけどバカじゃ無い。勝算無しに、銀行を襲ったりはしない。でも、今回の件にハナっから関与してるとしたら、話は別。経済会議との兼ね合いで株価も動くだろうから、ミラもたんまりとあるだろしね」

「……」

「それと、コレは完全にワタシの想像だけど、IBC自体もどっかで結社と関わってるんじゃない?」

「なっ!?何故そんな事が言えるんですの!??」

「アンタも解ってると思うけど、銀行を襲うのに成功しても、その後に色んなトコから追われるのは目に見えてる。ソレを揉み消せるのは大元のIBCだけ。それなら事前に話をつけて、一枚噛ませておくのが賢いやり方。そう思わない?」

不敵な笑みを浮かべるフィー。

「……貴女、やっぱり色んな意味で鬼ですわ……」

 

「どう?ここまで聞いてて」

「~~……」

デュバリィが腕を組んで唸る。

「……成る程、確かにスジは通ってますわ。ですが、納得のいかない部分があります」

「ん?」

「貴女の推測ですと、わたくし達は最初から嵌められる前提で、クロスベルに送り込まれた事になります。ですがその様にゲスな所業、我がマスターがお赦しになるとはとても思えませんわ。これを、どう説明するおつもりです?」

「ん……。多分マスターはこの計画の事、知らないんだと思う」

「……へ?」

「マスターは『盟主からはそう聞いてる』って言ってた。多分細かい内容までは、聞いて無いんだと思うよ」

「……」

「それと、ワタシが結社に誘われたのにも説明が付く」

「?、どういう意味ですの?」

「仮にワタシが結社に入ってたら、最初の仕事とか言って結局はクロスベルに送られたんだと思う」

「……それは、つまり……」

「ん、要するに、入社の話は只の建前。本命は、結社とは無関係でソレなりに腕の立つ人間を、今日の正午にあのレストランへ潜り込ませる事だった、ってワケ」

「……っ!」

「なかなか悪どいね、盟主さん。どんな人なの?」

「……わたくし、盟主と対面した事はありませんわ。盟主は最高幹部である使徒としか会う事は無いと聞いています」

「へぇ、随分用心深いんだね」

「盟主は、この世で起こる全てを見通している、と聞いた事がありますわ」

「ん……、それはどうかな」

フィーがニヤリとした笑みを見せた。

「?、どういう意味ですの?」

「今回の件に関しては、盟主さんの予想を裏切った人が居るから」

「裏切った人?誰ですの?」

「勿論、アンタ」

「へ?わたくし???」

「盟主さんの予定だと、ワタシは昨日のウチにマスターと面会して、今日の早い時間には1人でクロスベルに来てる、って事になってたんだと思う。でも、アンタがイレギュラーを起こしたから、その予定は思いっきり崩れた。正直な話、ワタシが1人だけで警備隊に囲まれてたら、もっと大きな騒ぎを起こしてたと思う。盟主さんにとってはその方が都合良かったんだろけどね」

「……、一応聞きますが、もしも貴女1人だったら、何を仕出かすつもりでしたの?」

「ん?閃光弾は当然として、爆薬もチョロっと使ってたかな?」

「……それ以上は言わなくて結構ですわ」

デュバリィが思わず顔をしかめる。脳裏には爆発で吹き飛ぶ、クロスベルの街並みが浮かんでいた。

 

 

 

「……それで、わたくし達はどうしますの?」

「ん、……別に何も」

「な!?ここまで解ってて、見て見ぬふりを決め込むつもりですの!??」

「これはあくまでもクロスベルの問題だからね、ワタシが出しゃ張るのは違う気がする」

「なら、せめて警察か警備隊に……」

「どうやって?ワタシ達は一応お尋ね者だよ。ARCUSで連絡しようにも、警察署の番号なんか知らないし」

「……じゃあ、何もせずに黙っているつもりですの?」

「ん、っていうか、それがアンタ達の意向なんじゃないの?」

「……」

デュバリィが目を細める。

「ん……。そんじゃ、東通りの方に戻ってみよっか。みっしぃに教えて貰った店にも行ってみたいし……」

フィーは1人でスタスタと歩き出した。

 

「本当にそれで宜しいんですの?」

デュバリィの声が、重く耳に響いた。

「……」

「貴女は確かに、マスターが認めるだけの事はありますわ。洞察力、状況判断、勝負度胸……。気に入りませんがある部分では、わたくしが逆立ちしても敵わないかも知れませんわ」

「……ん、さんくす」

「その貴女が!今の状況を放って置けば、最後には誰が泣きを見る事になるか、気付いて無い筈がありませんわ!!」

「……ん」

 

仮に銀行の損失を保険等で補填したとして、元の70%もカバー出来れば良いところだろう。そうなると、足らない部分は誰かに泣いてもらうしか無い。

誰に?IBCか?大口の顧客か?……そんな訳が無い。

あの手この手で、しわ寄せを一般の民衆に被せるのは間違い無いだろう。

 

エレボニアの、貴族と平民の関係と一緒だ。力を持つ人間は、立場の弱い人間が虐げられるのを当然だと考える。それは国が変わろうが時代が変わろうが同じだ。

 

……そんな事は、勿論解っている。

 

「貴女の考え通りなら、一部の人間の傲慢が、何も知らない市民を喰い物にするという事ですわ!!貴女はそれを、見なかった事にしようとしていやがりますわ!!」

「ん、でも……」

「わたくしに気を使っているつもりですの?見くびるんじゃねぇですわ!!仮に盟主が何を企もうが、それはわたくしの騎士道とは全く関係の無い事です!!」

 

良いのかよ、そんな思い切った事言っちゃって……。

 

思わず肩を竦める。

 

……

……

……

……はぁ、ヤレヤレだね。

 

溜め息を吐きながら、薄い笑いを浮かべた。

 

ま、確かにここで知らんぷりするのは、少し寝覚めが悪いかな?

 

翡翠色の瞳に小さな炎が灯った。

 

「ん……、そだね。……そんじゃ、ちょこっと行って来よっかな」

双銃剣を取り出し、作動チェックを済ませて弾薬を補充する。

「帰りは自分で何とかするから、待たなくて良いよ。んじゃ、マスターにヨロシクね」

「?、何を言ってますの?」

「え?」

「勿論、わたくしも同行しますわ!」

デュバリィの右手に大剣が現れた。

「いや……、流石にマズイでしょ?」

「ふん、余計な心配は無用です!」

レストランから拝借したナプキンで、再び顔の半分を覆う。

「これなら、わたくしだとバレる心配はありませんわ!」

本人は気付いていないが、デュバリィは少しずつ、誰かさんに染まり始めていた。

「良いの?思いっきり盟主さんに逆らう事になるけど?」

「結社に身を置いてはいますが、わたくしが仕えるのは使徒第七柱、アリアン・ロード様だけです!会った事も無い盟主の考えなど、知ったこっちゃありませんわ!」

力強く言い切る。

「それに、マスターから貴女の見届け役を仰せつかったからには、クロスベルを出るまで監視するのは当然ですわ。逃げられるとでも思ったら、大間違いです!」

ビシッ!っと人差し指を突き付けた。

 

……はぁ、素直じゃねーな、ったく。

 

思わず苦笑いを浮かべる。

 

「ん、そんじゃ、ヨロシクお願い」

フィーも同じ様にナプキンで顔を覆ってから、双銃剣の刃を構えてみせた。

「ふん!そっちこそ、足を引っ張ったら承知しませんわ!」

デュバリィも大剣を掲げてみせ、軽く双銃剣にぶつける。

小気味の良い金属音を響かせながら、覆い隠した口元に楽しそうな笑みを浮かべる2人は、意気揚々とIBCへ向けて歩を進める。

 

「あ、万が一の時はアンタの責任でヨロシクね、リーダー」

「だから!わたくしをリーダーと呼ぶんじゃねぇですわ!!調子良すぎですわよ小娘ぇ!!」

「ふふふっ」

 

子猫は軽やかな足取りで、楽しそうに死地へと向かう。神速は少しだけ怒りながらも、笑みを浮かべたままその後に続いた。

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