妖精の軌跡first【完結】   作:LINDBERG

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帝都の夜は、青春と、バトルと、涙で溢れてます。


子猫は相手がどんなに大きくても向かっていく

「何か悪いな。奢って貰っちゃって」

「ん、リィンには手伝ってもらってるんだから、この位は当然」

 

 

帝都百貨店プラザ・ビフロスト2Fレストラン

フィーとリィンは向かい合って夕食を食べていた。

 

フィーはシーフードパスタとデザート、リィンはハンバーグセットを注文した。

味は絶品と言っても良い。流石は帝都デパートのレストランだ。

 

時刻は21時を少し過ぎた辺りか、もう少しゆっくり出来そうだ。

 

食事もほぼ終わり、フィーはチョコレートケーキをパクつき、リィンは紅茶を飲んでいる。

 

「リィンはコーヒーより紅茶派?」

「ああ、こないだマキアスに進められてコーヒーも飲むようになったけど、やっぱり紅茶が多いな」

「ワタシはコーヒーの方が好きだな、砂糖とミルクたっぷりのヤツ」

「それはコーヒー牛乳じゃないのか?」

とりとめもない会話を楽しむ。

 

店内はディナータイムという事もあり、身なりの良い大人の客ばかりだ。学生などフィー達しか居ない。

 

というか、周りはカップルばっかりだ。

 

その中に真っ赤な制服の少年少女が一組、明らかに浮いている。

 

周りからは自分達はどう見られて居るのだろう?

兄と妹?仲の良い同級生?それとも……?

 

ヤバい、何か変に意識してきた……。

 

リィンはどう思っているんだろう?さっきから落ち着いた様子で紅茶啜ってるけど。

 

周りの様子が目に入らない訳がない、どんなに鈍くても何かしら思うところはあるはずだ。……良し、一つ仕掛けてみるか?

 

子猫の悪戯心に火が灯った。

 

「リィンはこういう所でご飯食べたりするの?」

「こういうって、レストランでって事か?」

「そう」

「キルシェとかはたまに行くけど、わざわざヘイムダルまで食事に来ようとは思わないな」

「リィンの実家って男爵家でしょ?たまにはちょっと贅沢してみようとか思わないの?」

「思わないな。貴族と言ってもシュバルツァー家の領地はユミルの山奥だからな。人間より野性動物と魔獣の方が多い所だ。割と質素な暮らしだったから、贅沢したいって発想がそもそも無いよ」

「ふーん」

 

「フィーの実家はどんな所なんだ?」

「ワタシ?ワタシは……乙女の秘密」

「何だよ、それ?」

「ワタシの事は良いから、もっとリィンの事聞かせてよ?」

「俺の事って、何聞きたいんだ?」

「んー、何で士官学院に入ったとか?」

「……何かこないだも聞かれた気がするな、それ」

「なら、もう一回言ってくれても良いじゃん?」

「んー、前回の実習の時も言ったんだけど、自分を見つける為かな?」

「……?なにそれ?」

「上手く言えないんだけど。自分がどこから来てどこに向かうのか、それを考える時間が必要だった、みたいな感じかな。上手く言えないけど」

「ふーん」

聞きながらケーキを頬張る。

 

「フィーは何で学院に?」

「ワタシ?ワタシは……、飼い主を見つける為かな」

「飼い主?」

「そっ、飼い主」

「それは、自分が所属したい場所を見つけるって意味か?」

「んー?……まぁ、そんな感じかな」

「へー、色々考えてるんだな」

「まぁ、ね」

本当は似ている様で全然違うが、上手く言葉に出来ないのではぐらかす。

 

「でも、貴族だったら、将来は領地とか継がなきゃならないんじゃない?軍事学校じゃなくて、経済学校とかの方が良い様な気がするけど?」

「いや、多分、家は継がないよ」

「え?リィン長男じゃないの?」

「前に少し話したけど、俺は元々捨て子だったのを今の両親に拾って貰ったんだ。だから家督は妹が結婚したらその相手に任せようと思う」

「妹さん居るんだ?」

「ああ、エリゼっていうんだけど、帝都の女学院に通ってる」

「じゃあ、リィンは、家の事は全部妹に押し付けて、自分は好きにしたいから士官学院に来たんだ?」

「いや、別にそういうつもりじゃ……」

「リィンにそういうつもりがなくても、周りにはそう見えるって事。リィン妹さん以外に兄弟居る?」

「イヤ、居ないけど……」

「ほら、リィンのお父さんとお母さんはリィンの事ホントの息子だと思って、今まで育ててきたって事じゃん?そうじゃなかったら、後継ぎの男の子が出来るまで子作り頑張るとか、早いうちに養子を取って育てるとか、するはずだもん!それなのにリィンは、さっさと一人で自立したい、なんて勝手過ぎると思うけど?」

「…………。」

「ゴメン、ワタシが言うような事じゃ無かったね。ごめんなさい」

しまった、思わず言いたい事を言ってしまった。

ちょっとからかって、恥ずかしい秘密の1つや2つ暴露して貰おうと思っただけなのに。

 

「イヤ、フィーの言うとおりかも知れないな」

「ううん、ワタシが言った事なんて、何も知らない部外者が口挟んだだけだから。ホント、忘れて」

「そんな事ないさ、確かに自分勝手だったかも知れない、周りが見えて無いんだな俺は。ありがとう、とっても参考になった」

「……そ、それほどでも」

まぁ、ああ言ってるんだし、結果オーライで良いか?

でも、結局また元の思考に戻って、今度は妹辺りに怒られるんだろうな、きっと。

うん、間違いない。

 

「フィーは思ったより、ずっと大人な考え方が出来るんだな。ちょっと意外だった」

「んー、まぁ、ワタシも似たような感じで育ったからね」

「えっ?それってどういう意味だ?」

「……詳しくは乙女の秘密」

「そればっかりじゃないか?」

「乙女の秘密は、ちょっとやそっとじゃ教えられないのだ」

「運びの仕事手伝ってるのに…」

「それは、ここの夕食でチャラ」

「……70,000ミラ独り占めしといて良く言うな」

「えへへ」

 

ふいに、リィンが紙ナプキンをワタシの口元に当てて来た。

 

「わっ?何?」

「さっきからチョコレートくっついたまんまだぞ」

「言ってくれれば、自分で取るのに」

「よし、取れた」

 

「……今は無理だけど、そのうち教えるよ。ワタシの過去……」

「そのうち?」

「そっ、そのうち」

元猟兵団所属何て知られたら、嫌われちゃうかも知れないしね。

 

…………。ん?嫌われちゃうかも?

ワタシはそんな事を気にする人だったか?

 

「ちょっと早いけど、そろそろ行くか?」

「だね、下見はしっかりしといた方が良い」

 

二人揃って席を立つ。

 

「会計済ませてから行くから、リィンは外で待ってて」

「ああ、解った。ごちそうさま」

「それほどでも」

 

一人でレジへ向かい会計を済ます。

 

「お会計が2,500ミラでございます」

「え、そんなに?」

「夜間料金とテーブルチャージ料、それに帝都夜間特別税が加わりますので」

 

うう、痛い出費だ。

なんだ、夜間特別税って?スペシャルな税金など、払いたい民衆が何処にいるのだ?

 

道理で身なりの良い、大人しか居ない訳だ。

 

70,000ミラ入ると思わなかったら閃光弾を炸裂させて、疾風の様に逃げていたかも知れない。

 

何がなんでも、コイツを送り届けてやる。

フィーは固い決意と共に、上着のポケットを触る。

 

会計を済ませ百貨店を後にする。

表道りは、思ったより混雑し、人の往来が激しい。

 

リィン何処かな?

 

背伸びして赤い制服を探すが、いかんせん人に隠れて良く見えない。

気配を探ろうにも、こう人が多いとさすがに無理だ。

 

参ったな……。

 

その時、ふいに手を捕まれる。

 

咄嗟に振りほどこうかと思ったが、思いとどまった。その手に悪意が全く感じられなかったのである。

 

「フィー、探したぞ」

「……リィン」

「ホテルはガルニエ地区だったな、行くぞ」

「……らじゃ」

 

リィンはフィーの手を掴んだまま歩き出す。

 

その時フィーはふと思った。

 

そう言えば、男の子と二人きりでご飯食べるのも、夜の町を歩くのも、手を繋ぐのも初めてだな。

 

フィーはリィンの手を握り返し、横に並んで歩き出した。

 

 

 

 

 

 

帝都ヘイムダル ガルニエ地区

 

オペラハウスが有名で、宝石店などの高級ショップが店を構える場所だ。

 

ホテル デア=ヒンメルは、オペラハウスを広場で挟んだ向かい側に建っている。

 

この時間は店も閉まり、勤め人と思われる数人の男女のグループと、巡回の帰りと思われる神父とシスター、青いドレスを着た女の人が歩いて居るだけだ。

 

特に怪しい気配は感じられない。

 

「特に妙な感じはしないが……」

「うん、でも油断は禁物……」

 

そのまま二人は気配を殺し、暫く様子を見る。

路地裏等も先程確認したが違和感は無かった。

 

ただヘイムダルには、広大な地下水路が張り巡らされていると聞いた事がある。隠れようと思えばいくらでも出来るし、それを二人だけでフォローするのは不可能だ。

 

「さて、どうする?人が多そうだからあんまり行きたくないが、ホテルの中に入って待つか?」

「うーん……」

 

悩み処だ。

約束の時間までおよそ30分、ホテルの中で待っても良いが、人が沢山いると気配が読みづらく隙が出来やすい。

逆に外だと誰かが近寄ればすぐに気付くが、こちらの姿も相手に見つかる可能性が高い。

 

そもそも、敵が襲ってくるのかどうかも、よく分からない状況だ。

 

「うん、そうだねホテルの中の方が良いかも……」

 

「こらこら、学生がこんな時間まで何しとんねん?」

 

さっきの神父がこちらに近づいて来る。

 

緑色のツンツンヘアーが特徴的な若い神父だ。というか遠目に法衣が見えたので、神父だと思っていたがホントに神父か? 街のチンピラにしか見えない。

一気に警戒心が高まる。

 

その後ろから、お供のシスターも付いてくる。こちらは可憐な印象でシスター然としている。

両手一杯にパンやら果物やら、大量の食料を抱えているのが気にはなるが……。

 

「こんな時間にこんな所で……。まさか、二人であそこのホテルに用があるなんて言わんやろな?」

神父が軽い調子で聞いてくる。

「そうです、二人であそこに行くつもりです!」

嘘をつけない朴念仁が、真っ直ぐな瞳で答える。

 

「おおっ?……そ、そうか……。都会っ子は進んどるんやな……」

何故か悲しそうに視線を逸らす神父

 

「イヤ!俺かて数年前は現役バリバリやったやないかい!」

 

後ろからシスターが無言で蹴りを入れる。

というか、口にパンを突っ込んでるから喋れ無いらしい。

「ぐはぁ?」

前のめりに倒れそうになるのを、オーバーな様子で踏み留まる神父。

 

何だこの愉快な連中は?

 

「ぐふぅ、と、とにかく!未成年がこんな時間まで夜遊びはあかんで、早よ帰り……」

思ったより蹴りが効いたらしい。

 

「ん、わかった」

「わかりました、用を済ませたらすぐ帰ります」

「イヤイヤ、する事してから帰る気かい!今すぐ帰れや!」

イチイチ突っ込んで来る辺り、律儀な性格らしい。

 

なんだ、ただの面白い兄ちゃんか?

 

更に神父が続ける。

 

「俺かて、あんまり口うるさい事言いたくないんや。早よう帰れ」

何だか、面倒見の良いお兄さんといった感じだ。

 

「ああ、そや、帰る前になぁ」

 

周囲の空気が変わった。

 

「ポケットの中のモン、置いてってもらおか?」

 

瞬間、殺気に近い闘気が神父から発せられる!

 

思わず身構えるフィーとリィン。

 

「あちゃー、マジか?カマ掛けただけなんやけどな?まさかキミ達みたいな学生が…、とは思わんかったわ」

 

しまった、思わず構えてしまった。

こんな単純な演技に引っ掛かるなんて?

 

くそー、アホ丸出しの外見に騙された……。

後ろのねーちゃんは、何かモグモグ食べてるし。

リィンはともかく、このワタシが!?

リィンはともかく!!

 

「荒事にはしたく無いんや、早よ出すモン出して終いにしようや?」

 

どうする?一旦逃げるか?

さっきの闘気を見る限り、かなりヤバそうな相手だ。

……イヤ、約束の時間も迫っている。

 

素早く目配せするフィーとリィン。

 

互いに双銃剣と太刀を構える。

 

「ほう、やる気かいな?しゃあないな、ほんならちょっとだけ遊んだろか?丁度2対2やしな!」

神父が薄く笑う、

 

「ほら、お前もいつまでも食っとらんと、こっち来て手伝えや」

 

振り返り、神父がシスターに言う。

しかし、シスターは食べるだけで動こうとしない。

 

「おい、リー……」

「もう就労時間はとっくに過ぎてる、これ以上は残業手当も付かないからやりたくない。しかも私の食事の邪魔をしようとするなら……、わかってるわよね?」

「……はい」

 

神父がこちらに向き直る。

 

「……やる気なら、俺が一人で相手になるで!」

言い直した、言い直したよこの人。

 

「おら、どっからでも掛かってこいや!」

ヤケクソ気味に気合いを入れる神父。

ちょっと涙目なのは気のせいか?

 

こっちには好都合だ、2対1なら、やりようはいくらでもある。

 

「いくぞ、フィー!」

「らじゃ!」

リンクラインをつなぐ二人。

 

「ほう、噂のARCUSってヤツかい?初めて見たわ」

物珍しそうな表情を浮かべる神父。

 

「ほな、チャチャっとやろか!」

ふいに法衣の下からボーガンを取りだし、矢を射る。

 

!?

 

身を翻して避けるフィー。

 

まさか飛び道具が出てくるとは思わなかった。神父だったら普通ナイフとかだろ?

 

しかし、ボーガンが得物で2対1か……。何とかなりそうだ。

 

フィーが神父の右肩を狙って銃弾を放つ。

左に避ける神父。

そこに、リィンが間合いを詰めて斬りかかる。

ボーガンに仕込んだ刃で受け止める神父。

フィーが空いた脇腹目掛けて更に銃弾を叩き込む。

蹴りでリィンと距離を取り銃弾をかわす神父。同時に矢をボーガンにつがえる。

しかし、リィンが逃がさずに更に追撃を見舞う。

仕方なく再度ボーカンで受け止める神父。

そこに、死角からフィーが飛び込んで斬撃を繰り出す。

体を捻って何とかかわす。

 

ボーガンはその形状故に連射が利かない。1本撃ったら次に撃つ為には、弦を張って矢をつがえるという動作が必要である。

熟練の使用者であれば、移動しながらでも矢をつがえる事は可能だが、ARCUSのリンク機能があれば、間断無く連続攻撃を繋ぐ事が可能である。そんな時間は与えはしない。

アーツは使用しない。お互い得意なタイプではないし、駆動時間を考えると、肉弾戦で押し切った方が効率が良い。

 

 

 

「おいおいマジか?ジリ貧やないかい!」

 

たまらず神父が距離を取るが、リィンは逃さない。

フィーがフォローしてくれるお陰で、多少強引でも有利な位置取りで戦う事が出来るのである。

 

 

フィーはチラリとシスターの方を横目で見る

 

「エレボニアのパンは歯ごたえがあるけど少しパサつく、やっぱりパンはリベールが1番。でもブドウは美味しい、今度から果物だけ買うことにしよう……」

 

何かブツブツ言いながら、一心不乱に食べている。

どうやら本当に戦闘に参加する気は無いようだ。

 

その後も攻勢を続けるリィンとフィー。

神父は防戦一方だ。

 

神父が、リィンの一撃を受け態勢を崩す。

 

ここで決める!

 

「行くよ!」

フィーが目にも止まらぬ速さで突っ込んでいく。

が、微かな違和感を覚える。

 

呼び込まれた?マズイ!

 

神父が薄く笑いを浮かべる。

「もう、終いにしよか……、滅!」

地面から物質的な力を持ったヤリが突き出す!

 

急制御、急速離脱!

 

フィーが無理矢理に体を捻ってかわす。

そこに神父が笑みを浮かべながら追撃を放つ。

「もろた!」

「フィー!」

間一髪リィンが割って入り、攻撃を止める。

 

リィンの背中越しにフィーが弾幕を張る。

「ちぃ」

仕方なく追撃を諦め、距離を取る神父。

 

「はぁ……」

「ふぅー」

 

互いに息を整える。

 

「中々やるやないか」

神父が楽しそうに笑う。

 

飛び道具が武器という時点で予想はしていたが、あんな近接クラフトがあるとは……。

これで迂闊に近寄れなくなった。

 

だが1度見てしまえば何とでもなる。

猟兵に同じ攻撃は通用しないのだ。

 

さて、どう攻めるか?

 

「お前は手伝う気無いんやな?」

振り返らずに神父がシスターに聞く。

「無い」

一言で済ますシスター。

 

「ほな、使うしかないやないか……」

神父が目を閉じる。

 

ふいに神父の背中に青白い魔方陣の様なものが浮かび上がる。

 

!?!?!?

 

なんだ、あれ?

 

……何だか解らないが、ヤバイ感じしかしない!

 

「次の一撃で決めたる!」

神父の身体から、今までに感じた事の無い種類の力を感じる。

 

初めて見る力。

絶対ヤバいヤツだ!

どうする?どうする?どうする?

 

「俺が受けて立つ!」

リィンがフィーの前に出る。

「リィン?」

「フィー、もしもの時は俺に構わず逃げろ!」

「え……?」

「いいな!!!」

 

「……らじゃ」

 

言いながら呼吸を整え、丹田に力を込め、フィーも構える。

 

 

大丈夫だよ、リィン。

もしもの時はワタシがリィンを守るから!

 

集中力を限界まで高める。

 

どんな攻撃が来ようが対応してみせる!

 

「はああ!」

神父から蒼い光が発せられる。

「おおお!」

対象的にリィンから赤い焔がたちのぼる

 

神父が先に動いた。

 

「我が深淵にて煌めく蒼の刻印よ、天に昇りて煉獄を照らす光の柱と化せ……」

 

無数の青白いヤリが、背後に浮かび上がる。

 

「走れ、空の聖槍!」

 

全方位から、無数の蒼いヤリがリィン目掛けて襲いか掛かる。逃げ場はない。

 

「おおお!」

リィンが焔の太刀を振るい、迎撃する。

 

その時。

フィーがリィンの前に割って入る。

「!?!?」

 

「シルフィード ダンス!!!」

 

フィーがリィンの前に立ちはだかり、超高速で回転しながらありったけの銃弾を放つ!

 

全部、撃ち落とす!

 

蒼い聖槍、対、妖精の弾丸

 

たが一撃の威力はヤリの方が遥かに高い。銃弾をはね除け何本かがフィーを襲う。

 

「くっ!」

足と肩に裂傷を負う、制服も穴だらけだ。

だが何とか致命傷だけは避ける。

 

「フィー!」

「リィン!構わず行って!」

「くそーぉぉおお!!!」

 

リィンの焔の太刀が神父を捉える。

 

「うおおお!」

 

回避出来るタイミングでは無い、確実に捉えた!

 

「我が右手に有りし星の杯よ、天より授かりし輝きをもって、我らが盾となれ」

 

目に見えない障壁にリィンの太刀が阻まれる。

みるみる、太刀にヒビが入っていく。

 

「?!?!?!」

 

太刀が弾かれ、バランスを崩すリィン。

 

「もろた!」

 

神父の回し蹴りをモロに食らうリィン。

 

「ぐはぁ!」

 

たまらず数アージュ吹き飛ぶ。

 

「これで、終いや!」

止めを刺そうと神父が肉薄する

 

その時。

 

「……その背中の黒いの、何?」

急にシスターが声を掛ける。

 

相変わらず食事の真っ最中だ。

 

「何?」

神父が法衣を確認する。

 

これは、火薬の匂い?

 

「……イグニッション!」

「んな!?」

 

神父が爆発した!

それに巻き込まれリィンもぶっ飛ぶ。

 

リィンに蹴りを入れる隙に、フィーがありったけの爆薬を背中に張りつけたのだ。

 

白煙が街中に舞う。

 

やったか、……っていうかリィンも一緒にやっちゃった?

 

思わず背中に冷たい汗が流れる。

 

「ううっ」

リィンがうめき声を上げる。

 

あっ、動いた。

 

どうやら生きているらしい。

 

白煙が晴れ、神父の姿が見え始める。

こっちはどうだ?

 

「……今の攻撃は見事やったで。一瞬、女神様のお膝元に招かれたかと思たわ……」

 

神父が姿を表す、全くの無傷だ。

 

「そんな……」

「スマンなお嬢ちゃん…。俺のグラールスフィアは完全防御を2回連続で発動出来るんや」

 

何ぃぃ!何だその都合の良い技は?

 

「まっ、さすがにこれで種切れやけどな…。そやけど被害はそっちの方が大きいやろ。どうする?まだやるか?」

 

弾薬無し、爆薬も使いきった、右肩と左足に裂傷、相棒は…………ワタシがKOした。

……ここまでか。

 

「……そだね、……もう降さ…」

 

「……まだだ!」

リィンが緩慢な動作で立ち上がり、神父に向かって行く。

 

「リィン……」

「……フィー、……俺に構わず逃げろ!」

 

先程の爆発で、身体中のあちこちから血が流れている。

太刀もヒビが入り、後一撃打ち合ったら砕け散りそうだ。

 

何でそこまで?もういいよ、もういいから……。

 

「ここに来る前に決めたんだ……、絶対フィーを守るって……」

 

いいって、ワタシは大丈夫だから。こんな事に命掛けないでよ……。

 

「……だから!」

ボロボロの太刀を正眼に構え、フィーの前に立ちはだかる。

「うおおお!」

リィンの眼が赤く染まり、全身から赤黒い闘気が吹き出す。

 

「……リィン?」

 

何だ?これ?

……何か凄くヤバいモノが飛び出して来そうな気配が……。

 

「おああああ!」

更に強く闘気が吹き出す。

気のせいか?髪の毛が銀色に変わっていく。

 

「な、何や?これは?」

 

神父の方もボーガンを構え直し、身構える。

 

「ああああ……」

 

しかし、それ以上の変化は無かった。

急に闘気の噴出が止まり、微動だにしない。

 

「……リィン?」

フィーの呼び掛けにも反応しない。

 

「……大した坊主やな、君の彼氏…。立ったまま気ぃ失っとるわ……」

 

リィンは、フィーと神父の間に立ちはだかり。太刀を構えたまま意識を失っていた。

 

「リィン!」

フィーが叫ぶが、リィンはピクリとも動かない。

 

「せやけど、最後のは一体?」

 

神父が考える素振りを見せる。

 

「まぁ、どっちみち、このまま見逃す訳にはいかんか……」

 

神父がリィンに近寄る。

 

「……!」

 

フィーがリィンの前に出て双銃剣を構える。

 

「止めときや。君一人じゃどうにもならんて、解っとるんやろ?」

「そだね……、多分、ワタシ一人じゃ無理だね……、……でも!」

 

フィーの瞳に強い決意が宿る。

「でも、リィンには指一本触れさせない!!」

 

姿勢を低くし、身構える。

左足に痛みが走るが歯を食い縛って耐える。

1発の弾丸も残って無い双銃剣を力強く握る。

 

絶対にここは通さない!

 

「……はぁ、帝国の学生さんは気合い入っとるな。……せやけど」

神父の背中に再び魔方陣が浮かび上がる。

「こっちも仕事やから止める訳にはいかんなぁ!」

先程より、更に強く蒼い光が身体を纏う。

 

来る!

 

その時。神父の法衣から通信機の呼び出し音が鳴り響く。

 

「……何やねん、こんな時に?」

 

神父は戦闘態勢を解除し、通信機を取り出した。

 

 

 

 

 

 

「はい、こちらケビ…」

「貴様!今何処に居るのだ!」

「そ、総長?お疲れ様です!今エレボニアの……」

「だぁまぁれぇ!!!貴様の意見など聞きたくも無いわ!!」

「ひいいぃ???」

 

自分から居場所を聞いておいて黙れとは……、もはやチンピラを通り越してや◯ざである……。

 

「貴様!私の依頼を放り出して、何をしていると聞いているのだ!!」

「いや…、そうは言われましても俺には俺の仕事が…」

「貴様の意見など聞かんと言っている!!!」

「…………」

「黙っていればそれで済むとでも思っているのか!!!」

「どないせえっちゅうねん!?」

「貴様、今度は生身で煉獄の門を通りたいらしいな!?」

 

生身で煉獄の門?

……それってただの死去じゃ???

 

「現在22時50分、明朝7時迄にクロスベルに赴き依頼を片付けろ!!もし、出来無ければ……」

「出来無ければ……?」

 

「三泊四日で煉獄ツアーに行かせてやる!!!」

「ひいいぃ、せめて日帰りで勘弁して下さい!」

 

通信が切れた。

 

 

 

 

 

 

神父がシスターに向き直る。

 

この距離では、さすがに通信内容は聞き取れ無かったが、顔色を見る限り良くない知らせらしい。

 

周囲には人が集まり始めていた。

こんな夜更けに爆発まで起きれば当然か。

 

「行くで、総長がお怒りや!」

 

ようやく食事を済ませたシスターが緊張した面持ちで答える。

「それじゃあ仕方ない、行くなら早くした方が良い」

「そやな、すぐに行くで!」

 

神父がフィーの方に向き直る

「スマンが急用が入った。続きはまた今度にしよか、お嬢ちゃん」

 

ボーガンを法衣の下にしまう

 

「急ぐで!」

「了解!」

 

神父とシスターが走り出す。

ふと神父が足を止める。

 

「そや、名前聞くの忘れとったな?」

「名前?」

「せや。もう知らん仲や無いし、名前くらい教えてくれてもええやろ?」

 

「ワタシの名前は西風の……」

そこでフィーは首を振る。

 

「トールズ士官学院特化クラスⅦ組、フィー・クラウゼル」

「フィーちゃんか、ええ名前やな」

「そっちは?」

「俺か?俺はケビン、七耀教会のケビン・グラハムや」

 

本物の神父なんだ?

…………世も末だ……。

 

「ほなまたな、フィーちゃん」

 

神父達は走り出すと、あっという間に見えなくなった。

 

 

 

 

 

 

「ケビン遅い!総長怒らせたら、どうなるかわかってるでしょ?」

「スマン、スマン、リース。ほな、急ごか」

ケビンとリースは、暗い路地裏を素早く走り抜ける。

「しっかし、とんでもない子達やったな?」

「良く言う、全然本気出してなかったじゃない?」

「本気は出して無くても、聖痕まで使って仕留めきれんかったんやで?それに、最後の爆発は一瞬マジで『ねぇさん』に会えるかも知れんと思ったわ」

「バカ!何言ってんの!」

「それに、本気出して無かったのは向こうも一緒や。あの坊主は最後何か出そうとしてたし、フィーちゃんかて……」

「あの子が何?」

「ああ。俺を、殺そう、とは思っとらんかったみたいやな」

「?……どういう意味?」

「手を合わせたモン同士にしか解らん事や。何しろ、……お前は手伝ってくれんかったしな」

「……何か言った?」

「イヤ、……別に……」

 

速度を上げるケビン。

 

「急ぐで、リース!」

「了解、ケビン!」

 

二人は夜の闇に消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

「リィン、リィン!」

「ん?あれ?」

 

リィンが意識を取り戻す。

 

「あれ?あの神父は?」

「もう行っちゃった、何も覚えて無いの?」

「えーっと、俺の太刀が弾かれて、蹴りを食らった辺りまでは覚えてるんだけど。……あれ?その後何かが爆発した様な気がするんだが?」

「気のせいじゃない?こんな所で爆発何て起こるはず無いし……」

「……そうだな、気のせいだな、きっと」

「うん、気のせい、気のせい」

 

乙女の秘密は守られた。

 

「身体は?大丈夫?」

「ん、あちこち痛いけど、大した事は……って、フィーこそ怪我してるじゃないか?」

「ん、だいじょぶ」

「大丈夫って、動くなよ今回復アーツを……」

「それよりも、今22時55分。届け物を先に済まそう」

「しかし……」

「ワタシなら大丈夫だから」

「……、よし、手早く済まそう」

「らじゃ!」

 

二人はホテルに向かって歩き出す。

 

「ねぇリィン」

「ん、何だ?」

「さっき言った事覚えてる?」

「さっき?」

「気を失う前」

「えーっと?いや、……俺、何か変な事言ったのか?」

「んーん、別に……」

「?」

「早く行こ」

 

歩みを速めるフィー、それに続くリィン。

 

きっとリィンが言った言葉に深い意味は無い。この男はきっと誰にでも同じ様な事を言いそうな気がする。

……でも。

……

……

……

……まっ、いっか。

 

周りへの警戒は怠らず、二人は足を進めた。

 

 

 

 

 

 

ホテルに入り、ロビーを見渡す。

二人ともボロボロの身なりだが、見咎められる事は無かった。

 

白いスーツ、白いスーツ、居た!

……違う、女の人だ。

 

白いスーツ、白いスーツ、白いスーツ……。

 

 

 

 

 

……居ない。

 

周囲に白いスーツの男は居なかった。

 

「何で?時間通りなのに……」

「俺達が戦ってるのを見て、逃げたのかも知れないな」

「そんなぁ……」

 

思わず、膝を付く。

 

 

 

 

そこで、ふと思う。

 

何であの神父達はワタシ達を狙ってきたんだろ?

ここで張っていたということは、取引自体バレていたという事だ。

神父はワタシ達が運び屋だとは知らなかった。なら、取引相手も知らなかったという事か?

そうだとしても、ホテルの中で張っていれば、そのうち目ぼしい人物を見つける事は出来る筈だろう?

仮に出来無ければ、二手に別れてホテルの中と外で張り込むのがセオリーだ。

それをしなかったという事は……。

 

ホテル内の人物を探す、もしくは捕縛するのを諦めた?

 

 

「あら、君達こんな時間にどうしたの?」

 

先程目に止まった女性が近付いて来る。

 

「駄目よ、こんな時間にこんな所に居ては。変な誤解を受けるわよ?」

 

近くで見ると綺麗な人だ。

お人形さんみたいだな、とフィーは思った。

「俺達、人を探してるんです」

「あら、人探し?」

「はい、白いスーツを着た男の人何ですが……」

「白いスーツの男の人?うーん、ここには居ないみたいねぇ」

「ええ、それでどうしようかと……」

「何のためにその人を探しているの?」

「えーっと、それは……」

 

リィンが口ごもる。

 

「何か、届け物でもあるのかな?」

「!?!?!?」

 

ふいに、リィンとフィーに緊張が走る!

 

また、このパターンか?

 

ワタシ達の日頃の行いが悪いのか、それとも作者のアイデア不足か?

 

「うふふ、ごめんなさい驚かせてしまって。ミヒュトさんに頼まれたのよね?」

「えっ?」

「そう、私が依頼主よ。白いスーツ着てるでしょ?」

「でも男性だって……」

 

女がリィンの左手を掴む

 

「えっ?」

 

それを自分の股間に押し当てた

 

「ななな、!?!?!?!?」

今日一番の衝撃がリィンを襲う!!!

 

「ねっ?『ついてる』でしょ?」

 

「あわわわわ?!?!?!」

 

リィンは足を震わせ、膝から崩れ堕ちた。

 

「それじゃあ、渡してもらおうかしら?」

「ん、どぞ」

フィーがポケットから品物を出し、男(女?)に渡す。

「確かに…。お礼はミヒュトさんから受け取ってね、可愛い配達員さん?」

「ん、らじゃ」

 

非常に女性らしい仕草でその人は去っていった。

 

こりゃ無理だ。解るわけ無い。

 

神父達がこちらを目標にしたのがわかった。依頼人が男と言われてアレじゃ、手の打ちようが無い。

もっとも、あの二人にどういう情報が渡っていたか、知るよしはないが……。

 

リィンは左手を見つめたまま動こうとしない。

 

「良かったら」

 

フィーが気遣わしげに聞く。

 

「……左手、切り落としてあげようか?」

「……遠慮しておきます」

 

悲しげな顔でリィンは立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

「いやー、大変だったみたいだな?」

ミヒュトが労いの言葉を掛ける。

「ホントだよ、あんな依頼人、解る訳無いじゃん?」

「あはは、まぁそう言うな、敵を騙すには味方からってヤツだ」

「変な神父には襲われるし……」

「神父?……どんなヤツだった?」

「緑のツンツン頭のボーガン使い。確か名前が……」

少し考える。

「確か……、ネギ・グラハムだったかな?」

「……使い勝手良さそうな名前だな?」

 

ミヒュトがカウンターの下から封筒を取り出す。

「まぁ、何はともあれ良くやってくれた。ほら、約束の報酬と買い取り分のミラだ。確かめてみてくれ」

「やった!」

 

喜んで中身を数えるフィー。

 

その後ろでリィンは大人しく待っていた。

放心状態は既に脱していたが、今はただ、ベッドに倒れ込みたかった。

 

封筒の中に92,500ミラピッタリ、これに自分の有り金を足すと……97,800ミラ?

 

……足りない。

 

えっ?何で?

 

もう一度確かめてみる、計算も初めからやり直す。

 

……やっぱり足りない。

 

な、何でだぁ???

……はっ!

 

そこで、フィーは夕食の事を思い出す。

 

あれだ!レストランの支払いだ!

夜間特別税だ!!

…………ふざけんな!ヘイムダル!ワタシに何か恨みでもあんのか!!!?

 

フィーが緩慢な動作で動き出す。

 

「後200ミラ、……ちょっと魔獣、狩って来る!」

 

痛めた足を引き摺り、弾丸切れした双銃剣を掲げ、フィーはミヒュトの店を後にする。

制服にもあちこち穴が空き、角度によってはチラチラとパンツの一部が見えてしまっているが、本人は全く気にしていない。

 

「待て待て待て!フィー!200ミラ位なら俺が貸すから!」

慌ててリィンが止める。

「大丈夫、ここまで来てリィンから借りるのはプライドが許さない!ちょっと行ってくるだけだから……」

「その身体じゃ無理だ。せめて明日にしなさい!」

「今日出来る事は今日の内に済ませておく!それが快適な睡眠の秘訣!一人で大丈夫だから、リィンは先に帰って休んで」

 

常人には理解出来ない考え方である。

 

「双銃剣だって弾丸切れなんだろ?そんなんでどうやって……、ん、ちょっと待てよ?」

リィンがポケットを探る。

「あった!出るときにサラ教官から渡された200ミラ。これならどうだ?」

 

リィンの手に飛び付くフィー。

サラの金はプライドの範疇に入らないらしい。

 

「やった、これで98,000ミラ、揃った!やった、やったー!」

全身で喜びを爆発させるフィー。

 

その姿を見て、リィンもほっと胸を撫で下ろす。

色々あったが、これだけ喜んでくれるなら手伝った甲斐があるというものだ。

 

「良かったな、フィー。さぁ、そろそろ帰ろ……」

「ちょっと靴買ってくる!」

「えっ?今からか?」

リィンが目を剥く。

「勿論!今日出来る事は今日の内にやる!」

「だってもう店なんかやってないんじゃ……」

「ブランドン商会ならだいじょぶ、行ってくるね!」

何が大丈夫なのだろう?

「待てよ!俺も付き合うから!」

満身創痍の身体を引き摺り、フィーの後を追うリィン。フィーも似たような身体のハズだが、全速力で目的地に向かっている。

 

 

 

 

 

 

フィーが辿り着くと、ブランドン商会にはまだ明かりが灯っていた。

勢い良く扉を開けるフィー。

 

「持ってきたよ!」

ミラを掲げてみせる。

 

そこには店主のブランドンさんと、大柄な女子生徒が居た。確か貴族クラスのマルガリータだったか?

 

見ると、その手には、フィーが心に決めたストレガーレディが!

 

「あー!それ!!!?」

「フィ、フィーちゃん?」

「あら、貴女が先に予約していた人?」

 

フィーが詰め寄る。

 

「何で?何で?何でワタシのストレガー……」

「あー、フィーちゃん、実はね……」

「あら?貴女が予約していたのは昨日までよ?」

「……昨日?」

「そう、時計をご覧なさい」

 

店内の壁掛け時計を見る。

時刻は0時3分。

 

「貴方の予約は3分前に無効。だからぁ、これはぁ、私の物よ」

 

「…そっ」

 

「あー、ごめんねフィーちゃん。予約してるお客さんが居ますって断ったんだけど、今日だけの予約って話をしたら、彼女が日付が代わるまで待つって言うもんだから」

 

「…そっ」

 

「むふふ、私ルールはちゃんと守りますのよ。淑女ですから」

 

「…そっ」

 

そんなバカなああああぁぁぁぁ!!!!

 

「それじゃあ、早速履かせてもらおうかしら?むふふ、この靴を履いて行けばヴィンセント様もきっと…。むふふ、まるでシンデレラのガラスの靴みたいじゃなぁい?」

 

何がシンデレラだ!死んどけや!

 

フィーがまるで呪い殺さんと言わんばかりの、激しい視線を向ける。

 

「あら、少し私には小さいみたいね?」

 

やった!

そりゃそうだ。そんな丸太の様な足が、レディースシューズに収まる筈がない。諦めてワタシに譲るんだ!

 

「仕方ないわね、よいしょっと」

マルガリータが踵を潰して強引に履く。

 

何やってんだああぁぁ!!!!

靴は踵潰したらすぐ駄目になるんだぞおおおぉぉぉぉ!!!!

 

「ふう、何とか収まったわね」

マルガリータが立ち上がる。

パキ、っと小さな音がなる。

シューズに仕込まれた翠耀石砕け散った音だ。

 

ストレガーああああああぁぁぁぁ!!!!!!

 

「あら?もう、こんな時間じゃなぁい?夜更かしは美容の天敵なのに…。それじゃあ、皆さん。ごきげんよう」

 

マルガリータはドスドスと足音を響かせ去っていった。

 

「ああぁぁぁぁ……」

 

フィーは為す術も無くその姿を見送った。

 

「ワタシの、ワタシのストレガー、ワタシの……」

 

力無く膝を付くフィー。

 

ブランドンもリィンも掛ける言葉すら見当たらない。

だが、いつまでもこのままというわけにもいかない。

リィンがフィーの肩に優しく手を掛ける。

 

「フィー……」

「リィン……、ワタシの、ワタシの」

「もう帰ろう?身体を休めなくちゃ…」

「リィン、ワタシの…」

「わかった、わかったから」

「うううっ」

 

フィーがリィンに支えられ、何とか立ち上がる。

見ると、床にミラが散らばっていた。

ショックで手から離れてしまったらしい。

 

リィンとブランドンが無言でそれをかき集め、フィーの上着にそっとしまう。

 

その間もフィーはずっと

「リィン、ワタシの……」

と、繰り返している。

 

フィーの瞳から涙が零れ落ちる。

いや、そんな事は無い、彼女は強い女性だ、きっと見間違ったんだろう。

もしくはそれは、涙に見えた血だったのかも知れない。

 

リィンに肩を抱かれ、傷心した子猫はトボトボと家路を歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寮の前で、サラは落ち着かない様子で待っていた。

忙しなく時計に目をやる。

 

「まだかしら?あの子達?」

 

二人が出ていった後

 

若いって良いわね。

 

などと思いながら飲んでいたのだが。

冷静になると、とんでも無い事態だ!

 

何処の世界に、教え子がホテルに行くのを容認する教官が居ると言うのだ!!

 

 

しかも自分は、何かあったら責任取る、とか言った気がする。

 

万が一……、万が一、フィーがリィンの……何て事になったら?

自分一人でどうやって責任を取るというのか?

 

こんな事ならアタシもついて行くべきだったわ。

教官立ち会いの元なら、あの子達も安心して『出来る』でしょ?

 

ぶっ飛んだ事まで考えだした。

 

 

 

ふと、人の気配を感じ取り、顔を向ける。

 

街頭に照らされた赤い制服。間違いない、リィンとフィーだ。

リィンがフィーの肩を抱き、こちらに歩いてくる。

 

良かった、ちゃんと帰って来た!

さすがアタシの教え子達だわ!

 

しかし、どうも様子がおかしい?

歩き方が変だ、足を引き摺っている。

 

な、何があったの?

 

サラが慌てて駆け寄る。

 

「リィン、フィー!」

「あ、サラ教官」

 

リィンがこちらに気付いた。あちこち怪我をしているようだが無事のようだ。

しかし、フィーの様子がおかしい、目の焦点が合っていないように見える。

 

「どうしたの?こんな格好で」

「いや、実は……」

 

その時、フィーが口を開く。

 

「サラ?…サラー!ワタシの、リィン、ワタシの…」

 

これは?

 

ふと見ると、フィーの制服の損傷がひどい。

暗がりでわかり難いが、スカートにも穴が空き、パンツがちょっと見えてしまっている。

 

更に良く見ると、フィーの上着のポケットに大量のミラが詰め込まれていた。

 

おまけに、顔には涙の痕が刻まれている、

 

「サラ、ワタシの、リィン……」

 

これは?まさか?

 

「リィン・シュバルツァー!あんた!」

「えっ?」

 

サラの鉄拳が炸裂する!

 

「ぐはぁ?」

 

リィンが駅前の公園の方までぶっ飛んだ!

 

「最低よ、リィン!!最低だわ!恥を知りなさい!!!!」

強くフィーを抱き締めるサラ。

 

「サラ~、ワタシの……」

「大丈夫、大丈夫よ、もう大丈夫…」

 

サラはフィーを抱きしめたまま、寮へと歩き出す。

 

「リィン!あんたは一晩外で頭を冷やしなさい!!!!」

 

寮の扉が無慈悲に締まり、鍵がかかる。

 

辺りには夜の静寂が広がっていた。

 

 

 

 

 

大の字で横たわりながら、リィンは満天の夜空を眺めていた。

 

何だ?何がいけなかった?

俺はただ、フィーの力になりたいと思っただけなのに?

 

しかし、朴念仁には解る訳が無かった。

 

 

 

夜風が心地良い。星空が綺麗だ。

 

リィンはそのまま眠りに堕ちた。

 

 




ちょっとリィンが気の毒過ぎたかな?
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