「おはよ」
「おはよう、フィー」
朝、食堂へ向かう階段でラウラと挨拶する。
ヘイムダルでの実習以来、ようやくラウラと打ち解け合えていた。
「今日の朝ごはん何かな?」
「私は東方風の朝食だと嬉しいが」
先日シャロンが作ってくれた、サモーナの塩焼き、卵焼き、野菜の塩漬けといった東方の朝食を、ラウラはいたく気に入ったらしい。
「ラウラは帝国風の料理より、東方風の料理の方が好き?」
「ふむ?そうだな、私が育ったレグラムの味に通ずる部分があるせいか、東方風の方が好みだな」
「ふーん、んじゃ今度ワタシが、それっぽいの作ってあげるよ」
「そうか、フィーも料理が得意であったな。是非お願いしたい!」
「ラウラも手伝ってね」
「良いとも、何でも真っ二つにしてくれよう!」
真っ二つ?……えーっと。
「……期待してるよ」
「ああ、任せておけ」
アリサといい、育ちが良いお嬢様はみんなこんな感じなのか?
食堂に入ると、他のみんなは既に席に着いていた。
挨拶を交わしながら、フィーとラウラも席に座る。
シャロンは奥で食事の準備を進めている。モーニングドリンクを飲みながら、それを待つというのが第三学生寮の朝のスタイルだ。
先週からⅦ組に新しく仲間が増えた。
フィーはその人物達を何気無く見る。
クロウ・アームブラスト
トールズの先輩なのだが、単位が足りないとかで、3ヶ月間だけⅦ組に所属する事になった。
バンダナがトレードマークらしく、風呂に入る時も巻いているらしい。
……髪の毛どうやって洗ってるんだろ?
それともう一人
ミリアム・オライオン
帝国宰相ギリアス・オズボーン直属の諜報員らしいのだが、見た目は日曜学校に通ってそうな女の子で、行動は本能が赴くままといった感じだ。
どう考えても、何らかの目的があって学院に入学しているのだろうが、あんなに目立つ潜入捜査員があり得るのだろうか?
「フィーちゃん、ミルク飲みますか?」
「ん、さんくす、委員長」
そんな事を考えていると、エマが回って来たミルクを入れてくれた。
何故だろう?
委員長がミルクを注いでくれると、とても美味しそうに感じる。
搾りたて感が増すというか、今さっきそこで搾ってきましたというか、これは私のミルクですというか、お代わりが欲しかったらご自由に搾って下さいというか……。
それにしても、朝から凶悪過ぎる破壊力だ。
エマは食事の時、皿やカトラリーを皆よりもテーブルの奥に置いている。
何故ならば。
手前には、ボインが乗るスペースが必要だからである。
そう言えば昔、猟兵団で1番のボイン研究家だったニコラスの言葉を思い出す。
上手に触ってあげれば、胸は遺伝子の壁を越えていく、と。
「ねぇ、委員長?」
「何ですか?フィーちゃん」
「委員長は、今までに何人位に胸揉まれたの?」
男性陣が一斉にミルクを吹き出す。
「な、な、な、!?!?」
エマの顔が、あっという間に真っ赤に染まる。
「あー!それ、私も聞いてみたかったのよね!」
アリサが食い付く。
「ふむ、フィー、何故その様な質問をするのだ?」
ラウラは良く解って無いようだ。
「んー、ボクも知りたいかな?」
最年少のチビッ子はちゃんと解っているらしい。
「だって、ある程度マッサージしないと、そんなにはならないよね?」
「えっ、ええ??そんなこと言われても……」
「それとも、元々の素質だけでそうなったの?」
「フィ、フィーちゃん……」
「ねぇ、教えてよ。ボイイン長」
「誰がボイイン長ですか!!!」
「そう言えばエマ、私も風の噂で、胸が大きい女性はあまり賢く無い、という話を聞いた事があるのだが、そなたはそれには当てはまらぬようだな?」
どんな風が運んできた噂だ!と突っ込みたいのを我慢するガイウス。
「そんな事言ったら、アリサさんもシャロンさんもそうじゃないですか!!そんなの只の都市伝説です!!」
「むう……、そう言われてみればそうだな。どうやら私の知識は間違っていたようだ。スマン、エマ」
自分の非を認め、素直に謝るラウラ。
「でもさ、クレアもそうだけど、男の気配なんか全然無いのに胸が大きい人って結構いるよね?」
ミリアムがさらりと身内の個人情報を公開する
「いいえ、気配が無くても男が居るなんていうのは良くある話よ!友人に何の相談も無く、いつの間にか男を作って、幸せを確実なモノにしてから、自慢気に全ての経緯を報告してくる。なんて話もあるくらいだからね!」
アリサが瞳に暗い光を湛えながら話す。
昔何かあったんだね……。
取り敢えず触れないでおこう。
「はっきり言いなさいエマ!その胸はいつから大きくなったの?何か特殊なマッサージをしてるの?それとも誰かにしてもらってるの?ねぇ!?ねぇ!?」
アリサが鬼の追及を見せる。
というか、それだけ立派なモノを持っているのに、もっと欲しいとは。
アリサ、それは罪深い望みだよ……。
その様子を伺いながら男性陣は思った。
朝飯の前に、なんちゅう話をしてるんだコイツら?
「皆様、食事のご用意が出来ましたわ」
そこにシャロンが、出来たての帝国風朝食を運んでくる。少しだけ肩を落とすラウラ。
「お嬢様、バストマッサージがお望みでしたら、後で私がいくらでも……」
「嫌よ!自分が楽しみたいから揉むだけでしょ!?」
いつぞやの女死会を思い出す。
本人は覚えて無いらしいが、あの時はアリサも随分お楽しみだった気がするが?
「さぁ、皆様。温かい内にお召し上がり下さい」
皆朝食を頂く事にし、その話はそこで打ち切られた。
事件は、その日の水練の時間に起きた。
エマの下着が無くなったのである。
本来この時期に水練の授業は無いが、特別実習との兼ね合いでカリキュラムが変更となり、Ⅶ組だけの特別授業となった。
そして授業終わり、更衣室に向かうとエマのブラが無くなっていたのである。
その日のホームルーム、Ⅶ組男子を対象とした公開尋問、並びに公開裁判が開廷される。
「これより開廷します」
アリサが低く重い声で宣言する。
「あの、皆さん。私は何もこんな大袈裟に……」
エマが戸惑っている。
「何言ってるのよエマ!こんなの容疑が固まり次第、ラウラに処断してもらうべきよ!!!」
アリサが憤慨しながら、ラウラが教室に持ち込んだ大剣をチラリと見る。
どうやら、犯人はこの場で打ち首にされるらしい。
フィーは入学式の日、旧校舎の地下1Fで首を切り落とされたガーゴイルを思い出した。
男子は全員床に正座させられ、発言の際は手を挙げてからというルールだ。
ルールを守らなかった者は、その瞬間ギルティの烙印を押され、処断されるらしい。
マキアスが挙手する。
「僕達以外という可能性、外部犯の可能性は無いのか?」
「私達が水練の授業を受けている間、ギムナジウムの外で用務員のガイラーさんが掃除をしていたそうよ。時間は私達がギムナジウムに入ってから出るまでの間中ずっと。その間、ギムナジウムの正面口からの人の出入りはなかったと証言してくれたわ」
アリサ裁判長兼検事が答える。
ユーシスが挙手する。
「では正面口以外から侵入した可能性はどうだ?」
「ギムナジウムに正面以外の出入口は無い。明かり取りと換気の窓はあるが、人間が出入り出来る程大きな物では無い」
水泳部で、ギムナジウムの造りに詳しい、ラウラ書記官兼執行官が答える。
「つまり、ここに居る人間以外にはあり得ぬという事だ」
フィーは陪審員として参加し、基本的な進行は全てアリサに任せている。
裁判長兼検事という時点で、弁護側に勝ち目はひと欠片も無いのだが。
ミリアムは傍聴人で、彼女達の様子を席に座って見ている。
その横で、サラは見届け人として座り、基本的に口は出さない事になっていた。
クロウが手を挙げる。
「って事は水練の授業をサボった俺は、容疑者から外れる事になるな?先に帰らせてもらうぜ!」
立ち上がろうとするクロウ。
「そう言えばクロウ、授業サボって何処行ってたんだ?」
リィンが手を挙げる前に喋った為、ラウラが大剣を構える。
発言後に慌てて手を挙げたので、処刑は免れたようだ。
「あん?……まぁ、ちょっと野暮用だよ」
クロウが手を挙げたまま、少し暈し気味に答える。
「ダメよ!最有力容疑者を野放しには出来ないわ!」
「何で俺が最有力何だよ!」
「だって1番下着ドロっぽいし!」
「どういう意味だよ!?」
「クロウ、そなた。他の者達を置いて自分だけ助かろうと言うのか?」
「うっ……」
ラウラの一言に、クロウが押し黙る。
エリオットが手を挙げる。
「そもそも、授業を受けてた僕達にも無理なんじゃないかな?」
「いいえ、授業中でも数秒の時間があれば犯行は可能だわ。貴方達の中で、授業中に少しの時間でも姿が見えなかった人は?」
男子達が顔を見合わせる。
「確かレーグニッツが、タオルを取りに行くとかで一旦更衣室に向かったと記憶している」
「なっ?」
「ああ、そうだったな」
「うん、僕も覚えてる」
あっさりとマキアスを売るユーシスとリィンとエリオット。
因みに男子達は、ガイウス以外ずっと手を挙げたままだ。
「僕は本当にタオルを取りに行っただけだ!時間にしたらほんの数秒だし、女子更衣室なんて入ってもいない!!」
マキアスが捲し立てる。
「そもそも、数秒あれば出来るとアリサは言うが、盗ったモノはどうする?既に身体検査は全員済ませただろう?」
当然の事ながら、全員の持ち物から身体に至るまで、細かい検査は既に行われていたが、盗品の発見には至っていなかった。
「盗まれた品が出て来なかったという事が、何よりの僕の潔白の証明じゃないか!!」
力強くマキアスが言い切る。
僕達ではなく僕。
彼は自分が助かる為だけに必死だった。
「ええ、そうね。確かに品は出て来なかったわ。でもそれは、単独犯ならという事よね?」
「な、何!?」
「共犯者が居れば犯行は可能という事よ!!」
アリサの目がクロウを捉えらる。
「ギムナジウム内でマキアスが盗み、外に居るクロウに窓から品を渡す。受け取ったクロウはそれを何処かに隠した後で合流する。どう?コレなら犯行は十分に可能だわ!!」
「冗談じゃねーぜ!!俺は何もやっちゃいねーよ!!」
クロウが憤慨する。
「ならクロウ!授業サボって何やってたかハッキリ言いなさいよ!貴方のアリバイが証明されれば、こっちだって引き下がるわ!」
「それは……」
口ごもるクロウ。
?、珍しいな、クロウならこんな時は適当に誤魔化しそうなモノなのに?よっぽど大事な用でもあったのかな?
……女か?
「さぁ!どうなの!?」
アリサが詰め寄る。
「待て」
ここで、今まで沈黙を貫いてきたガイウスが手を挙げる。
「残念だがアリサの推理には無理がある。そんな事は不可能だ」
「あらガイウス。なら、その根拠を教えて貰おうじゃない」
「まずマキアスだが、彼は女子更衣室には行っていない。男子更衣室に入って行くところと、出てくるところを俺は目撃している。それに、クロウが共犯という説だが、彼が共犯なら女子全員の下着が無くなっている筈ではないか?」
うん、そんな気がする。
何故かクロウ本人も頷いている。
「そして、最大の理由だが。更衣室に窓は無いという事だ!」
そっちを先に言ってやれよ。
「アリサの推理通り行動するなら、一度女子更衣室に潜入した後、プールサイドにある小窓から外に居るクロウに品物を渡した事になる。だが、全員の目をくぐり抜け、そんな事をするのは不可能だ!」
ガイウスが力強く宣言する。
「そもそも今回の事件、今までの話を総合すると、ここに居る人間には不可能だ、女子達も含めてな。だが、一人だけそれを可能にすることが出来る……」
ガイウスが一度言葉を切る。
「それは……」
ガイウスの指がある人物を指し示す。
「お前だ、ミリアム!」
「え?ボク?」
ミリアムは目を白黒させている。
「さっきも言ったが、この事件は人間には不可能だ。仮に共犯者が居たとしても、俺達全員の目を盗み、女子更衣室に忍び込み、プールサイドの小窓から仲間に受け渡す。そんな事は不可能だ!だが、ミリアムにはそれが可能だ、イヤ!正確にはミリアムが使役する戦術殻がな!!」
「がーちゃん?何でがーちゃんがそんな事するのさ?」
ミリアムが戸惑いながらも質問する。
「アガートラムはミリアムの言うことしか聞かない、だが、例外がある!それは、ミリアムの主人だ!」
「主人って……、もしかしてオジサンの事?」
「そう、オズボーン宰相ならば、ミリアムを介せずにアガートラムを使役する事も可能な筈だ!」
「うーん……、どうなのかな?ボクが知らないだけで、そんな事出来るのかな?」
「出来るのだ!!!」
ガイウスが、これ以上無い程に力強く言い切った。
何故ソコまで言い切れる……。
「鉄血宰相ギリアス・オズボーン。その政務は苛烈を極め、常に周りを政敵に囲まれているとも聞く。ならば!その荒み果てた環境に、柔らかな温もり求めたとて仕方なき事……。それが我がⅦ組が誇るボイイン長であったとしても不思議ではあるまい!!!」
……イヤ、不思議な事だらけだよ……。
「ボイイン長は止めて下さい!!!」
エマが心の底から叫ぶ。
「残念だわガイウス……、まさか貴方がそんな無茶な理屈で、この場を凌ごうとするなんて」
アリサが冷めた瞳でガイウスを見つめる。
「フフフ、裁判長殿は現状が見えていないようだな」
ユーシスが不敵に笑う。
「どういう意味よ!?」
「ガイウスの言っている事は、確かに強引な理屈だ。だが筋は通っている、絶対にあり得ないとは言えんだろう?」
「あり得ない無いわよ、そんな事!」
「ほう?では、証明してみせるが良い」
「えっ?……、そ、それは……」
成る程、そう来たか……。
「どうした?今回の件にオズボーン宰相が関わっていないと、どうして言い切れる?」
「ううっ……」
まず、無理だろう。まさか宰相閣下に「ブラ盗りませんでしたか?」と聞くわけにもいくまい。
確かにガイウスの言うことは無茶苦茶だ。しかし、他に可能性を示せなければ、それが事実と成り得るのだ。
「待ってよ!がーちゃんに聞けば解る事じゃん?」
ミリアムが助け船を出す。
「アガートラムに聞く……か。残念だがそれは証拠にはならん!」
「なんでさ!?」
「何故ならば、アガートラムは機械だ。メモリーを消去されている可能性もある、故障している可能性もある、そして何より、話す内容がミリアムにしか理解出来ない!よって、証言者にはなり得ない!!」
「そ、そんなぁー……」
「ふふふ……、さあ、反論はあるのかな?」
マキアスが、怪しく眼鏡を光らせながら畳み掛ける。
「まぁ、あながちガイウスの説が真実なのかもしれんぞ?何しろ、あの立派な黒い髭だ。性欲も相当なモノだろう。つい、出来心と言うヤツだ」
マキアスが、自身の父の盟友と言われる人物を、容赦なく攻め立てる。
「そうだな、あの髭では仕方あるまい」
「ああ、髭があれではブラも欲しくなると言うものだ」
「……人の業が生み出した、悲しき怪物だな」
ガイウスとユーシスが乗っかって来た。
それにしても、言いたい事言ってるなコイツら。
リィンとエリオットは唖然としながら事の成り行きをみている。クロウは笑いを噛み殺すのに必死らしい。
「さぁ!どう反論するのかな?」
マキアスが更に詰め寄る。
「くっ……」
「さぁ、さぁ、さぁ!!」
眼鏡が怪しく光る。
「はい、ソコまで!」
サラが声をかける。
「ディベートの授業にもなるから良いかな、とか思ったけど、全くアンタ達は……。途中から言いたい事言ってるだけじゃないの!」
途端に大人しくなるユーシス、マキアス、ガイウス。
「まぁ、確かにガイウスの言う通り、人間には無理な事件よね?」
「そんな!教官は男子の肩を持つんですか!?」
アリサが憤る。
「客観的事実を言ったまでよ。それともアリサは、何かしらのトリックなり、何なり使って、ここに居る誰かが盗ったって言いたいの?」
「それは……」
「推定無罪ってやつよ。まぁエマの下着に関しては、何処に行ったかは解らないままだけど、多分女子更衣室の何処かにはあるでしょ?後でアタシが探しとくわ」
その時、フィーは1つ疑問に思った。
「委員長、今、ノーブラ?」
「いいえ、目立たない様にタオルを巻いてます」
ま、そりゃそうか。衣替えもしてないこの時期、エマがノーブラで学院内をうろついていたら、目撃した男子生徒は、前屈みで歩きながら、無意識に後を付いていく事だろう。
「それじゃあサラ教官は、この件はもうここまでって仰るんですか!?」
納得がいかないアリサがサラに詰め寄る。
「そうねー、このままで終わりっていうのも消化不良よね……。それじゃあ男子全員!武装準備した後、校庭に集合しなさい!」
「え?」
「それは……」
「もしかして……」
男子全員の背中に、イヤな汗が滴る。
「特別実技訓練よ!アタシが相手になってあげるわ!」
教室内に、声にならない悲鳴が巻き起こる。
校庭に場所を移した一同は、そのままサラとの模擬戦に入る。
イヤ、それは模擬戦とは名ばかりの、只の公開処刑だ。
Ⅶ組メンバーの実力は、日頃の研鑽や特別実習を経て、それなりのモノにはなっている。ARCUSの連携を使えば、ヘタな猟兵団程度なら余裕で殲滅出来る実力はあるだろう。
だが、相手はサラ・バレスタイン。
紫電の異名を持つ、帝国でも指折りの実力者だ。
しかも彼女は、日頃から教え子として彼らを指導し、戦闘技術、癖、得意な間合い等を完全に把握している。
まともにヤり合うには、もう少し時間が必要だろう。
その様子を、女子達は校庭横の階段の上から見学する。
「リィン達、思ったよりも頑張っているな」
「うん、でもそろそろ限界っぽいかな?」
始まって数分は、何とか持ちこたえていた男子組だが、サラの中距離クラフトでエリオットとマキアスがリタイアしてからは、完全にサラのペースになっていた。
今は、リィンとガイウスがクロウの援護を受けながら、何とか前線を維持し、ユーシスがアーツで補助と回復をしているといった状態だ。
それにしてもサラ、ヤり過ぎじゃない?
フィーが見た中でも、今日のサラは1番強い。教え子相手にバリバリ本気だ、全く容赦無い。
まるで日頃の鬱憤を晴らすかの様に、強力なクラフトとアーツを惜しみ無く繰り出す。
詳しい事は知らないが、教頭が何かしら関わっている事は間違い無いだろう。
数分後、力の限りを尽くした男子組が、残らず地べたに這いつくばる。
「あらー、やっぱりダメだったみたいね……」
「がーちゃんの事、疑うからこうなるんだよ!」
「ふむ、良い勝負だった。フィー、我らもちょっと参加してくるとするか?」
「うーん、今ならサラも疲れてるから勝算ありだね……。全員で行けば何とかなるかも?」
「……」
エマは無言を貫きながら様子を伺っていた。
「あら?どうかしたの、エマ?」
「え?い、いいえ!別に……」
「?」
委員長どうかしたのかな?
男子組がサラにボコボコにやられてる間、エマは信じられないモノを目撃していた。
校庭の隅にある用具倉庫。その裏には死角になるスペースがあり、エマ自身も自分の相棒と内緒話をするのに良く使っている。
そして、今まさに、その相棒がその場所に居た。
見ると、白い布を木の枝に吊るして、ハンモックの様にそれを揺らしながらくつろいでいるらしい。
白い布?それは妙に見覚えがあった。
朝着替える時に見たというか、水練の授業前まで自分の胸に身に付けていたというか……。
……
……
……
お、お、お前か!!!!!
エマは、心の中で絶叫した。
「はぁ、酷い目にあったよ……」
寮のロビーでエリオットが呟く。
「ったく、何で俺達がこんな目に」
クロウが同調する。
マキアスとユーシスも、いつもの言い争う元気も無いらしく、二人で大人しくチェスをしている。
リィンとガイウスは……。最後まで頑張った代償か、今日は学校の保健室で一晩過ごす事になった。
「それにしても、何処行っちまったんだろうな?委員長のブラ……」
「ホントにクロウが盗ったんじゃないの!?」
アリサが詰め寄る。
どうやら、彼女の中でクロウは未だにオフホワイトらしい。
「だから、違げーって言ってんだろ!もし俺だったら、委員長だけじゃ無くて全員の下着盗んで、今頃もう売り捌いてるだろうよ!」
「うむ、クロウならそうだろうな……」
「あはは、ホントにやりそうだよねー」
ラウラとミリアムが頷く。否定の声は何処からも上がらなかった。
「……あのー、皆さん。もう良いですから、これ以上仲間を疑うのも辛いですし……」
「良い訳無いでしょ!!エマだけの問題じゃないのよ!?」
「いえ、アリサさん。私の勘違いっていう可能性も……」
「何言ってるのよ!それじゃあエマは、朝からノーブラだったって事!?そんな訳無いじゃない!!」
アリサがエマの肩を掴み、真っ直ぐに見つめ合う。
「いい、エマ。泣き寝入りなんかしちゃダメよ!?こんな事許される筈無いんだから!!絶対に犯人を見つけ出して、報いを受けさせてみせるわ!!」
アリサの瞳に強い決意が宿る。
「ううう……」
アリサの気持ちに感動したのか、エマは涙を流している。
「大丈夫よエマ!私が必ず何とかしてみせるから!」
「ア、アリサさん……」
アリサがエマを抱き締める。
そこにラウラとミリアムも加わり、女子達が円陣の様な格好で密接する。
フィーもエマに抱きつく。
ポヨンポヨンの大きなモノが顔に当たる。
イロイロあったけど、女子の団結も深まったし……。
これで良かったのかな?
子猫はそう納得しながら、嬉しそうに二つのポヨンポヨンに顔を埋めた。