「空から人が降ってくると思うか?少なくともこの問いにYesというやつがいるなら、今のこの状況を打開する策を教えてほしいものだね」
俺はそんなことを考えていた。だが時に現実とはそんな一人の男の考えを超越することがあるものなのだ。いわゆるそれは『奇想天外』というものであり、そんな奇想天外を偶然見かけてしまった一人の男と、出くわしてしまった哀れな男と、空から降ってきた女の子が出会うことから始まる物語である。
「今日から高校2年か、随分と遅いようで早い4年間だったな。今日は始業式だけと言っても遅れるわけにはいかなよな。 よし、カバンよし。時計よし。武装問題なし。朝飯も食ったことだし、行きますか!」
俺は佐藤真剱《さとうまさたち》、今日から東京武偵高校1年の冬に装備科に転科した武偵校においてはそこそこ普通と言える男だと自負している。ん?そんなこと言ってる奴は大抵後々強くなるか、もともと潜在的な能力を秘めてるやつだ?そんなことはない、と言い切れないのがこの武偵校の生徒たちなのだろう。事実一人で一個小隊と同等の力を持つと言われているSランク武偵が普通にいるのがこの学校なのである。そんな学校の中でも俺は特筆した能力なし、唯一とも言える特徴は、一人でも生きていけるようにするために色々な学科を転科していることくらいだろう。俺は今中学での単位履修も加味すると強襲科Aランク、狙撃科Aランク、尋問科Cランク、探偵科Bランク、そして現在の装備科Aランクといった五つになる。俺は徒歩で学校まで向かっている時奇妙なモノを見かけてしまったのである。中学時代からの知り合いでありながら親友のキンジが空から降ってきた女の子に助けられているのを見てしまった。そんな光景を見た俺の行動は、どう見ても小学生にしか見えないような女の子と抱き合っている親友を写真に収めていたのである。誰がどう見ても犯罪の匂いしかしない状況だが仮にも親友が困っているのだ、助けないわけにもいかない。
「で、この状況は一体?キンジが獣になったのかな?面白そうでつい証拠写真も撮っちゃったけど許してね!」
「全く、シンは変わらないね。後でちゃんと消さないとお仕置きするぞ」(ヒステリアモード中)
「き、強猥の証拠になるから寄越しなさい!あ、で、でも渡した後は消しなさい!」////
「ま、どちらにせよ事件証拠も撮ってるし鑑定科に持って行かなきゃならないな」
「そうだな、これにて一件落着と言いたいね」
「それとは別にアンタ!強猥したことには変わらないわよ!せ、責任取りなさい!」////
「強猥だなんて人聞きの悪い。あれはただの誤解さ」
「おーおー、痴話喧嘩するなら別のところでやってくれ〜。俺は先に校舎に入ってるけどね〜。」
「そうか、俺もそろそろ行かないとな」
「逃げようとするなー!この強猥男!」
「じゃあ、そっちの方のキンジなら任せるわ。俺は逃げる!」
「やれやれ、お姫様の相手は疲れる」
「ふぅ、なんとか入学式初日から遅刻にならなくて済んだぜ。これが『やれやれだぜ』ってやつか」
確か俺のクラスは2-Aだったから、この教室だな。担当のがいい人だといいな。
「お、久しぶりだな真剱〜!」
「ん?武藤か。久しいな、こないだの1月の依頼以来か。元気そうで何よりだ。相変わらず星伽さん一筋かね?」
「おうよ!あったり前だぜ!そして車輌のことならこの武藤にお任せってな!」
「肝心の星伽さんは隣のBクラスだった気がするが……まぁ、お前には関係ないか」
ガラガラガラッ
2年A組SHRが始まる直前にちょっとやつれたキンジがやってきた。あの様子は、おそらく”アレ”になってしまったことを後悔してるのだろう。まぁ、あれは知ってるからこそ言えるが一度見られるだけでも面倒なモノだしな、しょうがのないことだ。まぁ、後でフォローはしておきますか。
「あ〜、最悪だ。朝からこんな気分になるなんて……」
「お、キンジ。無事?帰ってきたな。どうだった?あの子と何があったらアレになったんだ?」
「それを聞くか、普通。俺のことはお前がよく知ってるだろうに」
「でも原因は知りたいじゃん」
「もういい、聞くな。そんなワクワクした顔をするな」
「なんだ、キンジまた何かあったんだな。お前のそのいいのか悪いのかわからない運はたまに羨ましくなるぜ」
「は〜い、皆さん。おはようございます。
この一年間このクラスの担任をすることになりました、高天ヶ原ゆとりです。よろしくお願いしますね〜。」
(へぇ〜、今年は高天ヶ原先生か。おっとり系のいい先生だ、当たりの部類だな)
この2年A組のクラス担任の高天ヶ原ゆとり先生だ。生徒からは怒っている姿も可愛いと評されるほど温厚なこの学校には珍しいタイプの先生だが、それでもやはり武偵校にいる先生である。彼女もまた戦場で呼ばれていた名は”血塗れ(ブラディー)ゆかり”、返り血で全身が濡れていたことからついた名らしい。経歴だけで言ってしまえば、ちっともマトモな人ではないのである。
「早速ですが、昨年度末から転校してきた娘がこのクラスに入る事が決まりました。早速入ってきてもらいましょう。神崎さ〜ん」
そうそう、こんな学校に来る転校生だが名前しか知らなかったのだった、顔は覚えてないからしっかりと覚えなければ。確か名前は–––
「神崎アリアよ」
そうそう、そんな感じの名前だった、さて顔は,,,ん?どこかで見たような?しかもつい最近。
はて、転校生に転入前に知り合う、しかも女の子の。ん〜、少なくとも会話はしていないと思うが、どうだったか。
「それじゃあ、神崎さん、どこに座りたいですか?」
「私アイツの隣がいいわ。」
スッ
指差す先にはキンジが……
ん?そうか!どこかで見たことがあると思ったが今朝キンジを助けていた娘ではないか。なるほど納得。
「よかったな〜、キンジ。何やらお前にも春が来たらしいなぁ〜。先生!俺の席神崎さんに譲ります!」
そう言うのは車輌科の武藤剛気。彼は車輌科の中でも乗り物であれば何でも乗りこなすAランク武偵なのである。口癖は”轢いてやる”。
と、ここでキンジを見てみると、おや?なぜか顔が青くなって絶望的な感じになってる。
「どうかしたのか、キンジ?体調でも悪いのか?それとも悪夢でも見たか?」
「体調は悪くないが、悪夢を見た気分だ。よりにもよって同じクラスだとは。」
「ああ、なるほど、神崎さんのことか。」
まぁ、あんな出会い方したら忘れられないだろうが、そこまで絶望的ななにかがあったのだろうか?
「ほら、キンジこれ」
ぽいっと何かを投げてくる神崎さん。これはベルト?なぜ?
「ああ、さっきは悪かったな」
ふむ。なにやらあの後一悶着あったらしいな。ま、追求はしないでおこう。
「りっこりん分かっちゃたー。キーくんベルトしてない、そして転校生さんがそのベルトを持っている。これは二人がそういう関係だってことだよ〜!」
「「「おぉ〜!」」」
ん〜、これはキンジがシメられる流れかな?まぁ、いいや。なんだかんだ言ってあいつは死ぬことはないだろうし。
「キンジめ〜、根暗そうな顔しておいて彼女とかー!羨ましいぞ!」
「うわぁ〜、遠山くん不潔〜。」
おぉう、言いたい放題だなみんな。いいぞ、もっとやれ!
バキュンバキュン!
カランカラン。
「れ、恋愛なんてくだらない!そんなこと言う奴には______________風穴開けてやるわよ!」
物騒な娘だなぁ。まぁ、武偵高らしいといえばそれまでだけど。
あぁ、なんかヤバイ匂いしかしないわ〜。とりあえずしばらくキンジと間を取らないと巻き添えにあうな、間違いなく。
–––––しかし、この時俺は既に事件に巻き込まれ続ける運命にあるなど知る由もなかったのである–––––