Doctor-X 目の腐った外科医 作:tray
これは一匹狼の男医の話である。
大学病院の医局は弱体化し、命のやりとりをする医療もついに弱肉強食の時代に突入した。
その危機的な医療現場の穴埋めに現れたのが
フリーランス…すなわち一匹狼のドクターである。
たとえば、この目の腐った男。 群れを嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌い、働くのが嫌だと固持する、専門医のライセンスと叩き上げのスキルだけが腐った目をした男の武器だ。
外科医比企谷八幡。
またの名を、ドクター X。
目を覚ますと見馴れた天井。見馴れたデスク。そして嗅ぎ慣れた薬剤の匂い。
総武高校を卒業して医学部を目指した俺は、専門大学の道に進んだ。今考えてみたら、サブレを助けたときに牽かれて入院したのは、俺がこの道に進む暗示だったのかもしれない。
日本医科大学医学部医学科を卒業後、東帝大学医学部外科医局に入局した俺だが、1年半ほどで退局し、キューバ・クバナカン医科大学医学部に進学。僻地医療・軍医・船医を経験した後にようやく日本に帰国してきた。
ここまで舎蓄として立派に社会人やってるとか俺は何をやってるんだと思うが俺はまだ諦めてはいない。俺の夢はあくまで専業主婦!これは昔から変わりはしないのだ。
まあ今の就職先は、神原名医紹介所というメロンおじさんの元でフリーランスの外科医として働いている。
小町に言ったら「フリーランスの外科医?え?お兄ちゃん、ちゃんと医学部卒業したのにしっかりと就職出来なかったの?小町、お兄ちゃんを養うだけのお金なんてないよ?」て言われたっけな。あの時は、本当に泣けた。枕が涙で濡れるくらいは泣いた。
まあ冒頭で俺が部屋で目が覚めて爽快な朝を迎えていないのは、分かっていただけたと思う。俺は現在、帝都大学医学部の自分のデスクに座っている。
何故なら徹夜だったからだ。
フリーランスの外科医って確かバイトだよな?とか思ったけど、なんか書類を帝都医科大学付属病院本院 第二外科部長・教授の海老名さんに言われたからだ。あの人気が良さそうで断りずらいんだよな...。
腹は黒そうだけどな。
人間なんて自分が一番可愛い生き物だ。腹黒くない人間なんてそんなのは、人の顔をしたナニかだ。
時刻を確認すると、仕事開始まで30分ほど時間があったのでこのまま仮眠を取ろうとデスクに頭を下げると後ろから聞き覚えのある声がした。てか俺が残業している原因を作った人物だった。
「おお、比企谷。お疲れ、どうだ?終わったか?」
凄い嬉しそうに聞いてくるんですけど何か良いことでもあったんですかね?....。用事があるから帰るとか言ってましたけど。
「ええまあ...一応終わりましたけど」
「おお!流石比企谷だ!何処かの女医にも聞かせてあげたい有能ぷりだ!」
態々大袈裟に声を荒げて言っている、海老名さんの視線の先には、俺と同じくフリーランスの外科医こと大門先生がいた。
おいおい...めっちゃ大門さん睨んでるんですけど...朝から俺を巻き込んで喧嘩始めるの止めてくれませんかね?
「時間なので着替えまーす」
そう言って大門先生は、女性用の更衣室に入っていく。
「全く!なんだあの態度は!」
いやいや...何も言い返されてないんですから良いじゃないですか。
俺は改めて寝ようとしたが仕事が始まるまで残り15分だったので止めてトイレに行くことにした。
ん?なぜトイレって?別に仮眠を取るためじゃないからな?本当だよ?
さて少し長めのトイレが終わり、男子トイレから出ると大門先生が仁王立ちで立っていた。
「ちょっと遅すぎ。トイレに何分入ってんの?」
はい、尤もですね...ぐうの音も出ません。てか大門先生怖えよ...あと怖い。
「すいません、少し腹痛がしたので」
「言い訳は良いから、今から手術するよ。私の第一助手に付いて」
毎回思うが俺じゃなくても東帝大病院なんだから他にもいるだろうに。つーか大門先生、基本助手要らないんじゃないかってくらい速いから必要ない気もする。
「あ、すいません...持病の腹痛が」
「あんたふざけてるの?」
「ひゃ、ひゃい!....いきます!」
怖い...怖すぎるだろ。
「早くしてよね、緊急のオペなんだから」
「...そんなに急いでいたなら他の人を第一助手にすれば良かったんじゃないですかね?」
何で俺なの?虐めなの?
「あんたじゃなきゃ無理なの」
え?何それ勘違いしそうになるんですが?えーでも大門先生既にみそ「あ?」すいません、本当にすいません!
「どうして俺じゃないと?」
「局所進行膵癌よ。他のじゃ邪魔になる」
は?....おいおいそれって。
「どれくらい進んでるんだ?」
「かなり進んでると思う。患者が痛みで倒れるくらい」
それじゃ...転移の可能性ありか。場所によっては助からないだろうな。
「あと少しあんたが遅かったら男子トイレに入るところだったわ」
あ、あぶねぇ...。もうトイレで休憩するの止めよう。
「ところで今回の患者は誰なんだ?お前がそこまで焦ってるってことは知り合いか?」
「...博美よ」
「え?...」
その人物は、大門先生の知り合いでありそして俺の知り合いでもある。神原名医紹介所の麻酔科医である城之内先生だった。
病院の廊下に俺と大門先生の足音が少しずつ速くなっていく。