Doctor-X 目の腐った外科医 作:tray
「そうか...」
平塚先生は、俺の話しを聞いて静かにビールを置いて胸ポケットから煙草を出して火をつける。その仕草に何処か懐かしさを覚えて、あの頃に戻ったような感覚に陥る。
「どうしたらいいんでしょうかね...」
「医者の君が分からないことをいち教師でしか無い私が分かるわけないだろう」
確かにその通りだった。でもこんな質問をしたということは、平塚先生なら何かヒントをくれると思ったからだろう。奉仕部で俺達が困っているとき、止まってしまったときに、ヒントをくれていたこの人に。
「ですよね...」
乾いた笑みを溢しながら当たり前の回答にビールを流し込むことでなんとか堪える。
「だがな比企谷。お前の話を聞いていて思ったがお前らしくなくないか?」
俺らしく?
「どういう意味ですか?」
「どうもなにもそのままの意味だ。君は頼りになる先輩に全てを任せて傍観主義に徹していただけじゃないのか?」
「...どういう意味ですか?」
「簡単だよ、比企谷。お前は知り合いからの死に初めて直面して目をそらしている。責任を取りたくない、というのとは少し違うな。助けたいが自分では助けられる気がしない、だから自分より先輩の人に任せている。仮にその知り合いが死んでも、先輩が無理だったなら俺だって、てところだろ?」
熱いものが、何かが胸の中から込み上げてくる。俺は我慢できずに机を叩きながら立ち上がってしまう。
「....」
だが何も言い返す事が出来なかった。今日の俺出来事が立ち上がった瞬間に思い返され言葉を出すことを俺自身が許してはくれなかった。
「すいません....」
俺は驚いている他のお客さんやお店の人に頭を下げて、座ったあとに平塚先生にも頭を下げた。
「頭をあげたまえ」
頭をあげた俺を、平塚先生は瞳に涙を浮かべながら見ていた。
「少しキツい言い方をしてしまった。教師失格だな」
はははと笑いながら煙草を置いてビールを空にする平塚先生を見て、心の底から感謝の気持ちが溢れてくる。
「いえ...平塚先生はやっぱり教師に向いてると思いますよ」
今更ながらに思う。平塚先生と会う機会が無かったら....きっと俺は、未だに自尊心と見栄で本物を見ようともせず、求めることもせず一人で偽物になっていったのだろうと。
「な、なんだ急に!」
平塚先生は何処か照れ臭そうに頬をかいている。
「平塚先生が俺達の顧問で本当に良かったですよ」
「そうか」
「平塚先生、今度は俺が納得いくまでやってみます」
「ああそうしろ!」
「平塚先生本当にありがとうございました」
俺はやるべき事を見つけ平塚先生には悪いが帰ることにした。
「全く...良い男になったじゃないか」
平塚静の夜は一人寂しく更けていく。
家に着いた俺は戸棚にしまってあった医学書を片っ端から読んでいた。勿論読む項目は絞っている。局所進行膵癌についてだ。それだけでもかなりの項目があり医学書によって説明の文が多少異なっている事がある。あとは論文についても読み進めてなんとか方法が無いか調べる。
「何かあるはずだ...見落としている何かが」
俺は医学書を捲りながら時間も気にせずにひたすら調べ続ける。
八幡が病室に入らずに帰った頃、博美と一緒に私は話していた。
「行っちゃったか....比企谷君、まだ若いしこういうの馴れてないから...悪いことしちゃったかな」
「あれは八幡がいつまでも吹っ切れないでいるからでしょ?いつもの八幡なら...」
「くすっ」
「何よ...」
「大門先生って比企谷君の事信頼してるよね」
「....腕は良いからね。それに何時もは、何て言うんだろう...私が言わなくても勝手にやり始めるっていうか...」
「分かってる。でもそれが出来なくなってるのは、私のせい。はぁ...舞のお金どうしよう」
「お金の事だけじゃなくて自分の事も少しは考えなよ」
「ここまできたら無理だよ...後は残された時間で舞の為に残せるものは残したいの」
「....」
「....そりゃね。私も生きたいよ?舞がプリマになったとこ見たいし、なれなかった時には一緒に泣きたいんだ。恋もしたいし、大門先生みたいに、ミニスカート履いて歩きたかった
それにもっとオペがしたかった!」
「患者のバイタルを聞いているあの瞬間が、患者と一緒に生きているって強烈な感覚を覚えさせてくれる一時だったから」
「それに...大門さんとそういうオペ....もっとしたかったな」
博美は涙を流し、思っていることを隠さずに私にぶつけてきてくれた。
私は-------。
諦められなかった。
何か方法があるはず。何か残ってるはず!
深夜になっても帰らず医局に残り僅かでも可能性が無いか調べる。
周りは誰もいなくなり自分のデスクの灯りだけが光を照らしている。外では雪がふり薄く積もっていく。
城之内先生の手術があってから一週間が過ぎた。
城之内先生は、本日一日だけ退院した。その理由はクリスマス休暇を利用して城之内先生の娘である城之内舞が日本に帰ってくるからだ。神原名医紹介所に皆集まり焼肉を食べることにした。
勿論城之内先生の病気の事は、舞いには内緒のままだ。
「ママ!ただいま!!」
「舞!おかえり」
城之内先生の病気を知っている俺達は自然と顔を下げてしまう。
「大門さんと神原さんとそれにお兄ちゃんもお久し振りです!」
おかえり舞ちゃんと二人が言っている中で俺だけは反論をしなくてはいけないだろう。
「えーと舞ちゃん?」
「んー?どうしたの?お兄ちゃん」
いやいや舞ちゃんがどうしたの?俺の妹は世界で小町だけだよ?
「えーと舞ちゃん。俺は舞ちゃんのお兄ちゃんじゃないよ?」
確かに小さい頃に遊んだり、大学に行っているときに何故か大門先生に遭遇して、城之内先生から不信に思われながらも他にいないからという理由で手術するから娘を見ていてくれと頼まれたことがあった。いや、かなりあったのだ。
手術するから見てての回数は何故か増えていき俺の家まで来て預かってて?なんて言うようになったのだ。俺を便利な人か何かと勘違いしてるんじゃないでしょうかね?....。
「えーでも。ママと結婚したらお兄ちゃんになるんじゃないの?」
ピキッ!とその場の空気が凍りついた。腰が痛いはずの城之内先生すら痛いのを忘れて俺の方を見ながら口を開けている。
「あ!そっか!」
どうやら間違いに気付いてくれたようだ。
「ママと結婚したらお兄ちゃんじゃなくてお父さんになるんだね!」
「あらあら比企谷君ったら」
ぶはっ!盛大に地雷を爆破してくれた舞に俺が何を言おうか戸惑っていると、大声を出せないのか城之内先生が舞を手で呼び耳元で何かを言っている。
大門先生と神原さんが俺の方を見ているが断じて俺と城之内先生はやましい関係ではない。そして神原さん、変な言い方しないでください。
城之内先生が説明?したのか舞が少し落ち込みながらこっちに戻ってきて謝ってきた。
「気にしなくて良いよ。誤解が解けたならそれでいいから」
「うん...でもママじゃ駄目なら私じゃ駄目かな?」
今度は一定の人物から悪寒というか寒気と言うか漫画的に表現するなら殺気が此方に向かってきた。
その方向を見ると城之内先生が物凄い表情で俺を睨んでいた。というか俺は25歳だ。舞に手を出すとかマジで洒落にならないので出すつもりはない。
「舞に手を出したら....」
「いや出しませんから!むしろ出さなくても一緒にいるだけで警察に通報されるまである」
「あはは!やっぱりお兄ちゃん面白い」
ふむ、どうやらお兄ちゃんの位置付けが一番しっくりくる。
「舞...少し大事なお話があるの」
城之内先生の真面目な声を聞いてお通やの様に辺りが静かになる。
「好きな人出来た?やっぱり再婚するの?」
「そんなんじゃなくて...」
城之内先生は、一度吐こうとした言葉を戻してしまった為に歯切れが悪くなってしまった。俺は折角の親子の再開ということで、あまりしんみりさせたくなく焼肉を食べるように進める。
あまり食欲が無いが舞の手前無理矢理肉を頬張る城之内先生....。!、ここで一つの可能性があることに気付いた。
「「病院に行こ(行きましょう)」」
大門先生と被って未だに放心しながら肉を飲み込もうとしている城之内先生を無理矢理にでも病院に連れていく。
助けられる可能性が出てきたんだから。
比企谷と大門先生の視点変わってて分かりずらかったらすいません。