宇宙世紀0079.11.20 敵を倒すことが当然となる毎日…俺とペイルライダーの実験は日に日に過酷になっていく。別にそれがどういうわけでもないが。
「いいな!出撃だ!!!」
研究者が叫ぶ。俺はいつも通り頷き、ペイルライダーに乗り込む。
「…指示は…」
[全軍の抹殺]
研究者はそう一言いった。
「了解…」
そう言って出撃する。
戦場に出ると、レーダーを確認する。連邦機はざっと6機、ジオン機も同じ数だろうか…
「…執行する…」
俺は呟いた後、ビームサーベルを引き抜きざまにジムを切り裂いた。
[う、うわああああ!!!]
「…」
背後からの気配に気づいた俺は、振り返ると共にビームサーベルでザクを切り裂いた。
[く、くそがああああ!!!]
何故、こうも人は悲鳴を上げながら死んでいくのだろう。あぁ…鬱陶しい。
俺が周りを見渡すと、ジオンの機体と連邦の機体が俺を取り囲んでいた。
おかしい。この状況は俺の頭の中でも理解できた。こいつらには裏がある。
だが、今はそんなことを考えている時じゃないと言うことも同時に理解できた。
「…この取引の現場を見られた以上…死んでもらう!!」
「…執行する…お前へタチニ…シヲ…」
突如俺の意識が朦朧としてくる。薄れ行く意識の中、何とかモニターを見つめた。
「…くっ…」
〔HADES〕…モニターの中心にはそう書いてあった。それが何なのかは分からない。ただ、こいつのせいで俺の理性は消えかかっていたというのは理解できる。
このままでは、俺はまた意識が飛んでしまうだろう。だが、今回は…今回こそは、自分の手で…こいつを使いたかった。
だから、俺は研究者に渡された得体の知れない注射器を自分の腕に打ち込んだ。これは確か、HADESの負荷にパイロットが耐えるための精神剤だっただろうか…
打ち込まれた後、俺はいつもの頭痛と吐き気…そして、自分の憎悪が自分自身を飲み込んでいくかのような気持ちに駆られる。
少しすると、俺の意識ははっきりしてきたが、自分が誰なのか、それすら分からず、ただ今は、敵を殺したくてたまらない衝動に駆られていた。
「…ア…アァア…!!」
ペイルライダーのカメラアイが真っ赤に染まる。排気口から周りが見えなくなるほどの熱を排気し、その煙の中からコイツのカメラアイが奴らを睨み付けた。
[な、何だ…!?周りが見えない…!]
[どうなってる!普通じゃないぞこんな…!]
「…し、執行…。オマエタチヲ…コロス」
俺の意識は殆どコイツに飲み込まれ、もうこれ以上自分を保っていることは出来ないほどだった。
[え、援軍を呼べ!!!急ぐんだ!!!]
ペイルライダーはビームサーベルを引き抜き、出力を勝手に上げだす。今、俺はそれを抑制すること、制止する心すら消え、ただコイツの言いなりになり操縦する機械と成り果てた。
[な…!]
恐らく軽く振ったであろうビームサーベルの熱に耐え切れず、ジムの機体が半分溶け始める。
[な、なんなんだよ!こいつは!!!]
「…コロス…!オマエタチニ…シヲ…!!!」
ザクは、必死に応戦し、マシンガンを放つものの、出力を上げたビームサーベルの前にはなすすべなく溶けて消えていく。
[こ、こんなんじゃあ…勝てない…!!]
[お、おい!お前たちが遅れさえしなければ、こんなことにはならなかったんだぞ!!]
[何を言ってるんだ!ジオンのお前たちこそ、こいつに位置を嗅ぎ付けられてたんじゃないのかよ!!!]
[何だと!!!]
こんな状況でも人は、自分は悪くない。相手が全て悪いと言って、罪を擦り付け合う。それを見るのはもう………飽きた。
ペイルライダーは俺に代わり、彼らを執行する。全員が死刑…それがペイルライダーの判決だった。
「ワレハ…オマエ…タチヲ…ゼンイン…コロス…ダケダ…」
ペイルライダーはさらにビームサーベルの出力を上げる。これ以上上げてしまうと、機体に負荷が掛かりすぎすぎて耐えられない。
でも、今の俺にはそれを止める術などなかった。もう…ここまでなのか…。諦めかけた俺の目に、胸ポケットに入っている写真が目に入る。
俺は震える手でそれを取り、見つめた。
「…コレ…は…」
その写真には、恐らく自分であろう人物と、それを囲うように肩を組んで笑っている画があった。
「…あ…あぁ…」
自然と言葉が漏れ出す。覚えていないはずなのに、それでも何故か自然と彼らの名前が出てきた。
「…これは…ファングさん…それで…これが道夜…そして、ユーリに…フユミネさん…そして…リナ…」
彼らの名前が俺の心、意識をはっきりとさせる。彼らは…俺の…何だったのだろう…。だが、それが分からなくても、その写真は俺に何か強い力を与えてくれる。
俺は写真を胸ポケットにしまった後、モニターを見た。
ペイルライダーのHADESシステムを強制的にダウンさせれば、こちらも相手も被害を受けないですむ。微かに残った自分の理性がそうさせる。
「…やめるんだ…これ以上は俺がさせない…!!」
ペイルライダーは俺の言葉を無視し、出力を上げようとする。
「…お前に…人を殺させは…しない…!」
俺はそう言って、HADESシステムを強制的にシャットダウンする。すると、機体の中は真っ暗になり、世界中が自分だけになったかのような静寂が訪れた。
「……」
コックピットを開くと、そこには、ビームサーベルの熱に耐えられず、溶けた機体が地面に転がっていた。
結局、ペイルライダーは彼らに死刑を執行した。俺は、何のために戦っていたのだろう…
いろいろな事で頭がごちゃごちゃになってしまう。俺はペイルライダーを動かし、研究所へ帰還した。
コックピットから降りると、研究者が俺の頬を殴る。
俺は宙に浮き、吹き飛ばされた。
「適合者よ!どうしてシステムを強制ダウンさせた!!!」
「…申し…訳…ぐっ!!!」
言葉を言い切る前に腹に蹴りを入れられる。
「何故だ!!大事なデータを!!どうしてくれんだよ!!この役立たずが!!!」
そう言って彼は何度も何度も俺を殴り続けた。
「…くっ!!」
「ふんっ!今度からはちゃんと命令を聞いてもらうために強化しなければな…なんせ、お前は俺の人形だからな!!分かったな!えぇ?!」
「…了解…」
俺はただ一言言って、その場に力尽きた。
次に目が覚めたのは自分の部屋で、体を起こすとさっき殴られた頬が少しだけ痛む。
俺は立ち上がり、おぼつかない足取りで部屋を後にした。
廊下を歩いていると、少し目眩がして膝を付いてしまう。
「大丈夫か…?適合者…いや、【ムゲン・クロスフォード】」
本当にしばらくぶりに、俺は自分の名前を呼ばれた。俺が顔を上げると、そこには白衣の老人が立っていた。この人も研究者だろうか…
「…」
俺は言葉を出せず、ただ頷いた。
「そうかそうか…。よし、立てるかね?」
彼は俺に手を差し伸べてくる。俺は彼の手を取り、立ち上がった。
「…あり…がと…う…」
精一杯の一言。それを見た彼はやさしく微笑みながら言った。
「構わんさ。随分とボロボロじゃないか…。さぁ、ちょっとこっちに来なさい」
そう言って彼は俺の手を引いてゆっくりと歩き出す。
そして、連れて行かれたのは小さな個室。恐らくは彼の部屋だろう。そして部屋に入ると、彼は俺をイスに座らせる。
「どれ、飲み物を出してやろう…。少し待っていなさい」
そう言って彼は飲み物の準備をしだす。正直、こんな俺にどうしてこう優しくするのか理解できなかった。俺は、精一杯声を振り絞り彼に聞いてみた。
「…なぜ…俺に…優しく…す…る…」
「何故か…。とな…?」
彼は少し考えた後、笑顔で言った。
「どんな形であれ、人間は人間だ。だからわしは、君を適合者なんて言わない。君にはちゃんと親に与えられた素晴らしい名前があるじゃないか。なぁ?ムゲン君よ」
「…」
俺はただ頷いて彼の話を聞いた。
「さぁ、出来たぞ…コーヒーだが飲めるかね?」
俺は頷いてコーヒーを飲んだ。このコーヒーの味は、言葉では言い表せないほど暖かく、そして優しい味だった。
何故だか…いや、自分でも理解は出来ていた。このコーヒーを一口飲むたびに、涙がこぼれてくる。彼の優しさだろうか、そんな暖かい何かを久しぶりに見つけられたから…。
「ほら…君にも心があるじゃないか…こんなにも綺麗で、優しい…心だ…」
彼はそう言って俺の頭を優しくなでてくれた。
「…っ!くっ…うぅ…!!」
この涙は、自分が望んで出したのだろうか。それは分からないが、今はただただ涙が頬を流れ続けた。
本当に…本当に久しく涙を流した俺は、疲れたせいか彼の部屋で眠ってしまっていた。
長い眠りから目覚めた俺は、研究所の異変に気がつく。
俺はベットから立ち上がり、部屋を後にした。
しばらく寝たからか不思議と意識ははっきりとしていて、体もしっかりと動いてくれる。
廊下に出ると、誰かの怒号と悲鳴が響きあっていた。
俺はその声をたどって走り出した。
声をたどると着いた場所は、ペイルライダーの格納庫で、俺は急いで扉を開く。
格納庫には、ジオンと連邦の軍人が研究員たちを一人ずつ撃ち殺していた。
「はっはぁ!!ヘッドショットだ!!」
「ジオンじゃあそんなの当たり前だ」
「ほぉ…じゃあやってもらおうじゃないか!」
「いいだろう…こいつにするか…」
ジオンの兵士が選んだのは、あの老人だった。
「あ…あぁ…!や…め…!」
精一杯の言葉で叫ぶ。すると、老人は俺に気づき叫んだ。
「ムゲン君!!!人間に…本当の正しさなんてものは…ない…!だが、それが正しくなくても、正しくても構わない!君が!!君自身が思ったとおりに戦えばいいんだ!!!!」
「我々が君にした仕打ちは酷いものだ。それを許してもらおうなどとは思ってはいない!ただ、君には【生きる権利】がある!!!」
「わしは…君を信じるよ…ムゲン君」
すると、ジオンの兵士が笑いながら言った。
「おいおい、この爺さん。頭が狂って見えない誰かと話してるよ!!はははは!!!傑作だ!!!」
そして、笑いながら彼の頭を撃ち抜いた。
「あ…あぁああ…!!!」
言葉にならない声を上げ、その場に倒れそうになる。そんな自分を抑え、ペイルライダーの所へ向かった。
「これで全部か?何だ!?蒼いジムが…!?」
彼らが気づいたときにはもう遅く、俺はペイルライダーに乗りこんで、MSを起動していた。
「しまった!!!皆!MSに乗るんだ!!!」
兵士たちが逃げるようにMSに乗り込む。敵の数は合わせて4機。
「…俺は…お前達を殺す…!!!」
彼の仇を討とうとは思ってはいない。ただ、自分の意思でこいつらを仕留めたかった。
[ちっ!!攻撃だ!!!]
ザクが2機斬りかかって来る。そしてジムがマシンガンを放つ。
「爺さん…。俺は…生きる…!爺さんのためにも…!」
俺はそう言ってザクを2機まとめて斬り捨てる。
[う、うわあああ!!!]
[た、助け…]
「…お前たちに言い渡す判決は…死だ!!!」
[ひっ…。て、撤退だ!!!]
逃げようとするジムたちを俺は逃がさずビームライフルで撃ち抜いた。
全員が動かなくなるのを確認し、俺は機体を格納庫へ移動させる。
機体から降りると、いつもの見慣れた研究者が立っていた。
「適合者よ、よくやったな…」
と、珍しく研究者は俺を褒めた。この研究所の半数の人が失われて、さすがの彼もショックが大きいのだろう。そのせいか、普段よりは優しく言ってくれたわけだ。
「…はい…」
「適合者よ、次の作戦は、ジャブローの夜間偵察を行なっているジオン軍と連邦軍を抹殺する事だ」
「…何故…」
「この研究の資金提供をしている人物が、彼らを邪魔に思っているみたいなんだ。やってくれるな?」
「…はい…」
俺は彼に一言言って、自分の部屋に戻り、眠りにつく。
彼が何を望もうと、俺はただその通りに動き、敵に死を与える執行者になるのみ。それ以外は何も求めてはいなかった。
ただ、あの老人が死ぬ間際に言った「君には生きる権利がある」その言葉が、俺には理解が出来なかった。
本当の正しさも、自分の戦う意味でさえ曖昧な俺には、あまりにも贅沢な言葉だった。
あぁ…分からない…分からないんだ!!自分は誰で…何者なのか…そして、本当の…心は何なんだ…
俺は嫌でも訪れる現実から目を背ける。だが、目を背ければ夢の中で常に知らない誰かと戦って、殺して、殺されて。その繰り返しで。
俺が求めたものは何なんだろう。感情?心?仲間?居場所?考えれば考えるほど分からなくなっていく。
あぁ…まただ…。
深い深い夢の中へ引きずり込まれていく。
まるで、底の無い沼に入り込んでしまったかのように少しずつ、少しずつ引きずり込まれるんだ。
そして、俺はまたここでも戦い続けるんだ…それが嫌であろうが、そうでなかろうが…。
今の俺に…安息はない…。
「くっ…!はぁっ!!!!」
今日は自分が殺されて目が覚めた。見覚えのある機体に何度もビームライフルで撃ちぬかれた夢だ…。
俺は体を起こし、着替えを始める。
今日の任務は、ジャブローを偵察中のジオン軍と連邦軍の部隊を抹殺すること。
ただ、今回は、何故だか分からないが、異様な胸騒ぎを感じた。
何が起こるのかは分からない。ただ、ものすごく恐ろしい何かが起こる予感がした。
俺はそんな考えを振り切って、立ち上がる。
そして、一度胸ポケットにしまった写真を取り出し、見つめた。
そして、少しだけ微笑んだ後、それをしまい、部屋を後にした。
09 完