宇宙世紀0079.11.29 あの一件の後、少しばかり研究者たちの動きが小さくなったように見えた。
不思議と足取りは軽く、俺は研究者のところへ向かった。
「来たか…。適合者よ」
「…はい」
研究者は忙しそうに機械を動かしている。
「作戦は夜に行なわれる。そこまでは自由にしているがいい」
普段とは打って変わって、研究者は静かに言った。
「…了解」
俺は頷いて部屋を後にする。
特にすることは無かったが、あの老人の部屋へ自然と足が向いていた。
老人の部屋の前に立つ。俺は扉を開け、部屋の電気をつけた。
周りを見渡すと、老人のお気に入りだったのだろうか、沢山のコーヒーの素と共に、コーヒーメーカーが置かれていた。
「…爺さん…」
調整を受けた俺には感情と言うものはない。自分ではそう思っていたが、だが彼のことだけは、自分の中でどうしても忘れることが出来なかった。
彼が最後に言った言葉をまた思い出す。「君には生きる権利がある!!!」そんな言葉と共に、彼が必死に叫ぶ姿が目に浮かんだ。
「…くっ!!!」
俺は頭を抱える。どうしてあの時彼を助けられなかったんだろう…と。
そういえば…昔、こんな感じのことがあって、自分を恨んだ時があったな…いつだっただろう、誰を失ってそうなったのだろう、今の自分には何一つ思い出すことが出来なかった。
「…」
俺はポットに水を入れ、火にかける。昨日飲んだコーヒーがまた飲みたくなったからだろうか、俺は静かに湯が湧くのを待つことにする。
しばらくするとポットから湯気が出てくる。タイミングを計って俺は火を消し、前に準備していたコーヒーの粉末をフィルターのペーパーに振りかけた後、そこからお湯をかけた。
すると、フィルターペーパーを伝って、下のポットへコーヒーが一滴ずつ落ちていく。
それを見つめていると、少しだが眠くなってくる。
「…」
丁度一杯分のコーヒーが出来たので、俺はカップにコーヒーを注ぐ。
俺は静かにコーヒーを口に運んだ。昨日ほどおいしくないのは何故だろう。
残ったコーヒーを全て飲み干したあと、呟いた。
「爺さん…コーヒーおいしかった…」
カップを洗い場に置いた後、俺は彼の部屋から出る。
いつもは賑わっている廊下も、今日はとても静かだった。まあ、昨日の一件で人が足りないので当然と言えば当然なのだが…
俺はそんな静かな廊下を一歩ずつ歩いていく。廊下は静か過ぎて俺の足音だけが響いて聞こえてくる。
そして、歩いた先に見えてきたのは、俺と共に過酷な実験に付き合わされた可哀想なアイツが見えてきた。
思えばコイツも研究者達の私利私欲のために造られた機体で、俺と同じなんだと思う。
俺はペイルライダーに向かって問いかけてみる。
「…お前は…お前の家は…どこにあるんだ…?」
何故それを聞いたのかは分からない。たぶん…俺に家が無いからだろうか…自分で聞いておいて少し寂しくなってしまう。
「…確証なんかないが…きっと帰れるさ…お前の家に…」
そう言って俺はペイルライダーに微笑む。
「…また後でな…」
小さく呟いて、俺は格納庫を後にした。
俺は作戦のために、部屋で仮眠をとることにする。
ベットに横になり天井を見上げていると、ふとある人の言葉を思い出す。
「どんな形であれ俺たちは家族だ!!」そんな言葉を思い出した。
確か…髪の色は赤で、元気な性格で…みんなの部隊長だった…
「ファング…さん…」
そう、その人の部隊で、確か名前は…
「第…00特務試験MS…隊…」
「くっ…!!」
思い出そうとすると頭が痛くなる。何故しっかり思い出すことが出来ないのだろうか…
「…」
俺は静かに目を瞑り眠りに着いた。
ここは夢だろうか…俺は真っ暗な世界にたった一人で立っている。
周りを見渡すと何もなく、本当に何もない虚無の世界。
「…」
ただ朦朧とした意識でぼんやりと立ち尽くしていると、遠くから歩いてくる人影を見つけた。
彼らは俺の前で立ち止まる。よく見ると、彼らは自分とそっくりの人間だった。
そして、一人の俺が言う。
『お前が求めているのは何だ』
「…」
ただ俺は黙って聞いていることしか出来ない。
『人が死ぬのがお前の望みか』
『自分の居場所が望みなのか?』
『自分のココロが欲しいの?』
『それとも…自分が生きる事を望んでいるのかい?』
俺は精一杯声を振り絞り言った。
「…消えろ…」
全て俺を惑わすもの、俺はただ早く夢が覚めることを願う。
その言葉を聞いた彼らは言った。
『君は…自分のココロですら殺すのかい?』
「…」
『それが君の望みなら、俺たちは消えよう…』
そう言って、彼らは霧のように消えていった。
それと同時に、俺は目を覚ます。
「…」
目覚めた俺は、自分から何か大切なものがポッカリと消えた感じがした。
俺は立ち上がり、時計を確認する。時間は夜の6時くらいだろうか…。
俺は部屋を後にし、格納庫へ向かった。
はじめてあったあの時のように、コイツは静かに佇んでいる。
夜間に行なうためか、ペイルライダーには黒いフード付きのマントが装着されていた。
「…行くか…ペイルライダー」
俺は機体に飛び乗り、MSを起動させた。
すると、研究者から通信が入る。
[適合者、時間だ。行け]
「…指示は…」
[言うまでもない、全軍の抹殺]
いつも通りの指示、俺は頷いて言った。
「了解…。出撃する」
俺はペイルライダーの出力を上げ、ブーストを起動し出撃する。
今の俺には、何も躊躇いはない。自然と敵との戦闘に心を躍らせていた。
しばらく移動していると、連邦軍の本拠地であるジャブロー付近に近づいたことを自分の感が告げた。
レーダーを確認する。既に連邦とジオンの間で戦闘が始まっているようだ。
俺は崖の上に立ち、彼らを見る。
連邦機はおおよそ7機…そのうちの3機…おそらくは特務部隊だろう。
ジオン機は13機程か…俺は先に連邦の機体に矛先を向ける事にする。
「さて…行くか…」
ようやく俺が居る事に気づいたのか、全機が俺たちを見た。
俺は、風になびくマントを投げ捨て、HADESシステムを発動させる。
「面白そうだ…そこに混ぜてもらおうか!!!」
俺がターゲットにしたのはイフリートタイプの機体と鍔迫り合っているガンダムタイプの機体だった。
俺は崖から飛び出し、迎撃してくる3機のザクをマシンガンで撃ちぬく。
[う、うわああああ!!]
いくらザクに乗っていようとも所詮は新兵で、彼らの放ったマシンガンは、俺の機体に掠りもせずにどこかへ消えていった。そして、彼らの命も。
1機は完全に戦意を喪失し、そしてもう1機のザクはこちらにマシンガンを放つ。それに構わず、ガンダムタイプを切り裂こうとする。
「…貰った!!!」
[こ、こいつ!]
[リッパー、回避!そいつはヤバイ!]
攻撃は避けられ、ガンダムは反撃しようとする。しかし、それを俺は余裕で回避した。
[友軍じゃないのか…!?]
一人の連邦兵が言う。
[こいつは…敵だ!]
[かかる火の粉はなんとやらってね]
「…全員まとめて相手してやる!!」
俺はビームサーベルでピクシーをと鍔迫り合う。
[くっ!何なんだこいつは!]
ピクシーは間合いを取ると、ガンキャノンが砲撃を放つ。俺はシールドでそれを防ぐ、その間にスレイヴレイスがビームサーベルで切り裂こうとする。
「…!」
[くっ!この機体…!]
俺は左手でビームサーベルを引き抜いて彼の攻撃を防いでいた。
[トラヴィスさん!避けてください!]
スレイヴレイスが身を引くと、ビームライフルが飛んでくる。
「…!」
それを身を屈めて回避し、前を見ると、真っ白なピクシーが立っていた。
[お譲ちゃんは下がってな!こいつは本気でヤバイぞ!]
[いいえ!やります!]
そう言ってピクシーがダガーで攻撃してくる。
俺はビームサーベルでダガーを受け止めた。
「…ちっ!」
[仲間は…やらせません!]
聞き覚えのある声。だが、それが誰なのかは思い出せない。そんなことより、今はこの機体と戦えて心臓が破裂するほどワクワクしている。
「…!」
ピクシーを吹き飛ばし、ビームサーベルで切り裂こうとすると、それに割って入った白い機体が対艦刀で受け止めた。
[邪魔を…するな!]
俺はビームサーベルの出力を上げ、対艦刀を焼き切る。すると、白い機体は間合いをとり、遠くから弾丸が飛んできた。
[数で圧せる…行くぞ、ユーリ!]
[援護は任せてください!]
聞きなれた名前と声…だが、まだ思い出すことが出来ない。いや、自分が思い出したくないのかもしれない。そんな俺から言葉が漏れた。
「…黙れ…黙れえええ!!!!」
その叫びは、全員に聞こえたのか、全員が攻撃の手を休める。
[その声、もしかしてその蒼い機体に乗ってるのはムゲン…お前さんなのか!?]
スレイヴレイスのパイロットが無線で問いかけてくる。
「…そう…だ…」
俺が答えると一人の女性が叫ぶ。
[…ムゲン!!ムゲンなんでしょ!?何で攻撃してくるの!?]
何故攻撃してくるか、そう問われたら、俺は淡々と言い放った。
「何故…それは、戦いでなきゃ満たされないからだ!!!」
「そして!俺はコイツで全てを執行すると決めた…!」
[そ、そんな…!ムゲン…嘘だよ……!]
完全に戦意を喪失した白いピクシーをビームサーベルで切り裂こうとする。
[やらせない!!!]
その間にグレーのピクシーが割ってはいった。
[お前の相手はこの俺だ!]
「…執行する!」
サーベルと、ピクシーのダガーがぶつかり合い火花を散らす。
俺は間合いを取った後、ブーストを吹かし飛び上がる。そして、ビームサーベルを上から振り下ろした。
[ちっ!!]
ピクシーは間合いを取る。そして、機体を低くした。するとピクシーを掠めてビームが飛んできた。
[ムゲン!お前さんなんだろう!!目を覚ますんだ!!!]
[フィクサー、今の奴に何を言っても無駄だ。今はこいつを止めるしかない!]
スレイヴレイスのパイロットは少し考えた後、叫んだ。
[野郎共!こいつから嫌でもムゲンを降ろさせるぞ!]
そう言ってスレイヴレイスはビームライフルを放つ。
俺はそれを防ぎ、マシンガンを放った。
[くそっ…!]
奴をビームサーベルで切り裂こうとした瞬間、マシンガンが背後に直撃する。
「…!」
[ムゲン!聞こえているな!俺だ!ファングだ!!]
聞き覚えのある声、そして、名前…そう…俺が前にいた部隊のリーダー…今、思い出した。ずっと引っかかって思い出せなかった、全員の名前、顔全てを思い出した。
「ファング…さん…」
[ムゲン!!その機体から降りるんだ!]
「…りょう…か…」
言葉を言い切る前に、研究者から無線が入る。
[適合者!何をしている!そうか…調整に失敗したか…。ならばこちらでHADESを強制的に起動させてやろう]
研究者の声が聞こえたのか、慌ててファングさんが叫ぶ。
[何だと!?おい!ムゲン!早く降りるんだ!!]
俺がハッチを開ける前に、ペイルライダーは熱を排気し、カメラアイが赤く光る。間に合わなかった、HADESが起動した以上、俺はコイツを操る機械と化してしまう。
「ぐ…アァ…!?アァアアアア…!!!」
[ムゲン!!!しっかりするんだ!!!]
ペイルライダーはゆっくりと起き上がり、背後にいるガンダムを睨み付ける。
「…ぐ…あ…!」
意識が消えかけ、言葉さえ発せ無くなってきた。
[ムゲン!やめるんだ!!!]
「ファン…グ…さん…逃げる…んだ…」
[お前が帰ってきたのに今ここで逃げてどうするんだ!!俺たちが受け止める、だから…帰って来い!!!]
ファングさんが必死に叫ぶ。そんな言葉で、朦朧とした意識が少しずつはっきりし始める。
「がぁっ…はぁっ…はぁっ…!」
[ムゲン!!皆待ってる!戻って来い!!!]
「…了解…はぁっ…はぁっ…!」
俺はHADESを強制的にシャットダウンさせる。そして、コックピットハッチを開き、機体から降りようとした瞬間、唐突に目眩いがする。
倒れるように落ちるのを、大きな機械の手がゆっくりと俺を捕らえた。
「く…あ…」
機体のハッチが開く、そして彼女の声が聞こえてくる。
「ムゲン!やっと…やっと会えた…」
「…リ…ナ…」
彼女は、俺を引きずるようにピクシーの中に入れた。
「ムゲン!!!会いたかった…ずっと…ずっと…!」
「リナ…」
彼女の言葉で目が覚めていく。
「あぁ…ムゲン!!」
彼女は俺を強く強く抱きしめてきた。
「…痛い…よ…」
「あ…ごめん…」
久しぶりの再会の雰囲気を潰すかのようにその機体は現れる。
[な、なんだ…?あいつ…!]
[この蒼い機体と同じ…?]
「いや…少し違う!」
[なんにせよ、野郎共!ここが正念場だ!!]
トラヴィスさんが叫ぶと、リッパー、ボマーが動き出し、見たことのない機体と戦闘を開始する。
「リナ…怖いだろうけど、少しだけだから我慢して…」
「うん、ムゲンがいるなら何も怖くないよ!」
俺は彼女に微笑んだ後、モニターを見る。
俺はピクシーのダガーを引き抜き、蒼い機体に斬りかかった。
そして、軽々とダガーをビームサーベルで受け、俺の機体を吹き飛ばす。
「ぐあ…っ!」
[ジオンの機体を逃がしたお前らは、俺によって抹殺されなきゃなんねぇよなぁ!!]
「その声…!お前は…シゼル・クライン!!!」
彼は俺の声を聞き、驚きながら言った。
[おやぁ?俺が実験台として要求したムゲン君がどうしてそんな機体に乗ってるんだぁ?実験台はなぁ…実験台らしくペイルライダー乗ってればいいんだよぉお!!!!]
そう言ってビームライフルを撃ってくる。
俺はその攻撃を回避し、ダガーで奴を斬ろうとする…が。
[ふっ!!遅いんだよぉ!!!]
そう言って奴は、ピクシーの腕を掴み、そのまま投げた。
「ぐああああああああ!!!」
機体が吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
その刹那、俺はリナを庇うようにコックピットでうずくまった。そのせいか、頭を強く打ち、意識が飛びそうになる。
ピクシーは膝を付き、ゆっくりと立ち上がる。
「…頼む…俺…に…力を貸せ…ピクシー…ハートライトォオオオオ!!」
俺は叫びながらシゼルに一本のビームダガーを突き刺す。
[な、なにっ!?]
シゼルは負けじと頭部バルカンを放ち、バルカンの弾はコックピットに貫通し、機器が破損し、モニターが砂嵐になりかける。その際、俺の腕に機器の破片が飛び散り傷をつけた。
「ムゲン…!あなた…!」
「リナ…逃げろ…!きっと帰るから…!」
「嫌だ!ムゲンと離れたくない!!!」
そう言って抱きついてくるリナ。
「言うことを聞いてくれ!!!頼む…早くコックピットから降りて逃げるんだ!!!!」
俺が必死に叫ぶと、彼女は涙目になりながら言った。
「…分かった…絶対帰ってきてね…」
「うん… ファングさん!リナの回収頼みます!」
そう言ってハッチを開ける。そして、リナを機体から降ろした。
[ムゲン!絶対帰ってくるんだぞ!!!]
「了解…!」
ファングさんがリナを回収したのを確認した後、奴と間合いを取った俺はシゼルに叫んだ。
「お前を逃がすわけには行かないんだ!!!」
[黙れ…!!!お前を処刑してやる!!!]
機体が赤く発光する、やはりあいつもHADESシステムを搭載していたのか。
「うおおおおおおお!!!」
サーベルとダガーがぶつかり合い、二機は一度間合いを取る。
そして、俺はダガーの出力を上げながら、呟いた。
「この一撃に…俺の魂を込める…!」
[俺がお前を殺してやる!!!終わりだぁ!!!ムゲン!!!]
シゼルがビームサーベルを振り下ろす。俺は咄嗟に回避し、続けて左腕のダガーで機体の腕を切り落とした。
[何だと!?]
「これが…俺の魂の一撃だあああああああ!!!!」
俺はビームダガーを奴の頭部に突き刺した。
そしてそのまま俺は気を失った。
10 完
今回登場したキャラです。
名前:シゼル・クライン
年齢:25
性別:男
主な搭乗MS:ハデス
階級:大佐
説明
地球連邦軍に所属するパイロットで、グレイヴの右腕的な存在。
非常に凶暴な性格で、誰にでも挑発的な言動でほかの人物達からは、あまり風当たりはよくない。
第三話で初登場し、ファングやムゲンを挑発し、ファングたちの部隊をモルモットと呼ぶなど
挙句の果てには、敵が撤退した後の戦場に赴き、敵を逃がしたという理由でムゲン達に銃口を向けるなどと、いかにも悪役な人物。
夜間にジャブロー付近で戦闘が起こった際、それを知っていたかのように愛機であるハデスに乗りこみ出撃する。
機体名 ハデス
正式名称 HADES
型式番号 RX-80-HA
生産形態 試作機
所属 ??
全高 18.2m
頭頂高 18.0m
本体重量 43.7t
全備重量 45.6t
出力 2,100kw
推力 65,000kg
センサー 7,000m
有効半径
武装 ビームサーベルx2
ビームライフル
180mmキャノン
ボックスタイプビームサーベルx2
搭乗者 シゼル・クライン
機体解説
地球連邦軍の高官であるグレイヴの右腕であるシゼル・クライン大佐が駆る機体。
本機はペイルライダーの完全な初号機で、ありとあらゆる武装が試験的に取り込まれている。
HADESシステムの初期型が本機には搭載されており、パイロットへの負担は通常のペイルライダーの数倍もの負担が掛かる。