機動戦士ガンダム虹の軌跡   作:シルヴァ・バレト

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18:手をつないで

 宇宙世紀0079.12.??

 

 ここは……どこだろう…

 

 

 

 俺は……誰なんだろう…

 

 

 

 問いかけてもその言葉だけが反響する…

 

 

 

 帰ってくるのは自分の発した言葉だけ…

 

 

 

 自分が今どこに居るのかすら分からない…

 

「……」

 

 気がつくと、俺は見慣れた家の中に居た。

 

『よぉし!お前の名前は…ムゲンだ!』

 

 目の前には懐かしい二人と、男性が抱える一人の赤ん坊。

 

『なんでムゲンって名前なの?もっといいのあると思うんだけど…』

 

『…こいつに【無(・)限(・)の(・)可(・)能(・)性(・)と(・)希(・)望(・)】を願って…かな』

 

 突然風景が一変する。また同じような家に立っている。

 

 

 

『パパ…ママ…』

 

『おい!ムゲンが喋ったぞ!!』

 

『本当!?…いい子ね…ムゲン』

 

 どうしてこんな風景が流れてくるのだろう。

 

 

 

『父さん!!』

 

『お前とは…もっと一緒に居たかった…』

 

『…!』

 

『お前がMSのデータを極秘で研究してるってやつだな?』

 

『そうだとしても、お前達にデータをくれてやるわけにはいかん!!』

 

『そうか…ならやむを得ないな…』

 

 響き渡る銃声。弾丸は父の腹部を貫いた。

 

『ぐはっ…!!け、研究データは…わた…』

 

 父は続けざまに弾丸を何発も撃たれる。

 

 それをみて母は、ただ震えていた。

 

『この女、研究データ持ってるぞ!!そいつをよこせ!!!』

 

『だめ…!これは…私と…彼の…!!』

 

 銃声が響き渡る。止めたくても止められない。

 

『…やめろ…!!やめてくれ!!!母さんを…母さんを放せ!!!』

 

 心で叫んでも、その言葉は届かない。

 

『ぐっ…!……ムゲン…ごめん……』

 

 言い切る前に…母さんは力尽きた。

 

 

 

「…うわああああああああああ!!!!」

 

「はぁ…!!ハァ…!!!」

 

 目を覚ますと、いつもの見慣れた自分の部屋。もうあの場所に戻ることはできない。

 

 俺は手から血が出るほど手を強く握った。

 

「くっ…うぁああ…!!!うああああ!!!!」

 

 堪えきれず言葉が漏れてしまう。

 

 そんな声に反応したのか、ノックもせずに扉が開く。

 

「…ムゲン…?」

 

 前を見ると、いつもの彼女が居た。だが、今は涙で前を見ることができない…。

 

「どうしたの…?」

 

「…リ…ナ……。くっ…」

 

 喋りたくてもまともに喋れない…悲しいからか、つらいからなのか…分からない…だが涙は自然と流れてくる。

 

「ムゲン…」

 

 すると彼女は、俺の横に座り、優しく頭を撫でてくれた。

 

「…!」

 

 彼女を見ると、とても優しく微笑みながら言う。

 

「辛いなら…泣いていいんだよ…?だって…ずっと頑張ってきたんだもん。…ムゲンは泣いてもいいんだよ…?」

 

「きっと辛かったんだよね…だって、顔ぐしゃぐしゃにしてるんだもん…。嫌でも分かるよ」

 

「…くっ…うぁ…あああ…ぐっ…えぐっ…」

 

 そのときの涙は、決して悔しかったからじゃない。親を失ったその記憶が蘇った。だからだろうか…。

 

「リナぁ…リナぁ…うわあああ…!!!」

 

「そ、そんなに辛かったんだ。…よしよし…。もう辛くないよ。ムゲンは一人じゃないから…」

 

 その日、俺は初めてリナの前で涙を流した。

 

 いつもは逆の立場だった彼女が、今は俺を優しく撫でてくれる。

 

 リナは天井を見上げながら呟く。

 

「…どうして…皆分かり合えないのかな…」

 

「こうやって、人は肌と肌で触れ合って、話し合って…。ちゃんと分かり合えるのに…」

 

「………」

 

 俺はただ黙っていることしか出来なかった。彼女の瞳は、とても悲しそうで、そして、慈愛に満ちていた。

 

「…ムゲン…きっと…来るよね…あなたが記憶を取り戻すときも…。そして、皆が皆手を取り合う日が…来るよね…」

 

「……来るんじゃない…持って来るんだ…」

 

「え…?」

 

「今は霧が濃すぎて見えないけど…それでもその先に手が伸ばせたなら…きっと手に届く…。そう信じてる…」

 

「…グレイがな…ソロモン攻略戦で死んだ…。その時、言ったんだ」

 

 俺は涙を堪えながら続ける。

 

「…夢を託したって…。奴の夢は…ジオンや連邦が分け隔てなく笑って過ごしている世界なんだ」

 

 喋るたびに胸が苦しくなる。

 

「そこでは争いが無くて……幸せそうな家族が仲良く暮らしてるんだ…」

 

「そ、それでッ…それでさ…ッ…」

 

 話そうと思うのに、言葉が詰まってしまう。

 

「父親がいて、母親がいて、子供は幸せそうに外で遊んでる。そんな…そんなありきたりだけど…そんな世界…なんだ…ッ」

 

「か、かれが…っ…求めたのはっ…そんな…優しい世界なんだ…っ…それを…造るためにも…」

 

「今ここに居る皆を守るためにも…!」

 

「俺は…戦うよ…リナ」

 

 そう言って、俺は涙も拭かずに彼女に微笑んだ。みると、彼女も涙を流している。

 

「…な、泣くなよ。…可愛い顔が台無しだ…」

 

「…ムゲン…!私…」

 

「大丈夫。皆で行こう…。しっかり手をつないで、霧の中でも…暗い宇宙の中でも。とてつもなく冷たい海の中でも…俺たち全員で、平和…掴むんだ」

 

「……うん」

 

 

 

 俺は、腕時計に目をやる。時間は丁度4:00だった。星一号作戦が強行されることになり、俺たちは司令室でファングさんの話を聞いていた。

 

「皆聞いてくれ。俺達はXフィールド攻略に参加することになった」

 

「…敵は今まで以上の大勢で来るだろう…。だが…!俺たちなら…。超えられる。俺達はどんなものより強い家族の絆がある!!!」

 

「…いいか…絶対に、全員で生きるんだ!もうそれ以外は何も望まない。ただ、生きて帰って来い!!」

 

 ファングさんの強い想いを胸に秘め、俺は…いや、俺達家族は、最後の戦いへ赴く。

 

 全てを終わらせるためじゃない…グレイや皆が願った世界を造るために、未来へ手を伸ばすんだ。

 

「…行こう…道夜!ユーリ!!!」

 

 機体に乗り込み、ハッチがオープンされる。

 

[……生きるぞ…ムゲン]

 

[さーて、いきますかー]

 

 そんな聞きなれた人たちの声が、何故か今だけは特別に感じた…。

 

 ユーリ、道夜が出撃していく。俺も遅れないように…。

 

「ムゲン・クロスフォード…ピクシー・ミラージュ…行くぞ!!!!」

 

 そう叫び、出撃した。

 

 

18 完

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