彼は、一年戦争で何を見て、何を想ったのか。
これは、そんな少年が時代の【歯車】として生きた物語の一部。
外伝:Episode of Gray
「待たせたな…!!お前は僕と地獄逝きだあああああ!!!!」
僕は少しずつジムのスラスターの出力を上げていく。彼を…彼と夢を守るために…!!!
「後は…任せ…たよ…ムゲン…」
爆発と共に僕の人生は終わる。そして、今までの出会いが、託した未来が全てが僕の頭で駆け巡った。
僕は…運命を変える…【歯車】になれただろうか…。
時は
「グレイ!!!とっとと運べ!!!」
「は、はい!!!はぁ…はぁ…!!」
生まれつき僕は体が強かったんだけど…今は少し動いただけでもめまいが起きてしまうほど弱っちゃったんだ。だから、主治医に処方された薬を飲まないとしっかり動く事ができない。
こんな体で生まれなければ、あんな過去を生きていなければもっと役に立てたと何度自分のことを恨んだだろうか。
普通の人間が運べるような荷物でさえも、僕はまともに運ぶ事もできない。いっそ、小さい頃に殺されていれば良かったと、今でも思ってた。
僕は昔、サイド2で普通に暮らしてた。もちろんお母さんとお父さんがいて、とても幸せだった。
でも、サイド2に毒ガスがばら撒かれた事で、全て変わってしまったんだ。
僕は生まれつき体が丈夫で、僕だけは毒ガスを吸ってもなんとも無かったんだ。
だから、お父さんとお母さんが苦しそうに倒れている姿を見ている事しかできなかった。
そして僕は連れて行かれた。研究者に。わけのわからない場所へ。
それからというもの、毎日のようにわけのわからない薬を投与された。
投与された薬の全ては僕に害を与える事ができなかった。今思えばとてつもないほどの抗体を持っていたんだなと、思う。
けど、ある日、僕がおかしくなった原因の薬を投与される事になる。
最初はなんともなかった。だけれど、次第に体調が悪くなっていった。
そうだね…例えるなら、とても大きなダムがあったとしよう。
そのダムは、とても大きく、大量の水を抑えていた。
けどある日それが突然決壊するんだ。
そしたら、水が一気に流れ出す。今まででたまりにたまった分が。
そんな感じで、僕の体に一気に毒が回った。
耐え難いほどの頭痛や吐き気が僕を襲う。そして同時に思った。
『僕の人生も終わりだな…』って…。
それから、誰かに助けてもらったんだけど…。
あまり覚えていない。けど、確か…それから人工ニュータイプ計画の実験体になったんだったっけ…。
記憶がはっきりして無いけど、研究者が言ってた言葉は確か…。
『今までにこんな数値が出たのは初めてだ…!これは…本当の…』
そこからは思い出せない…。
少し思い出していると、背後から足音が聞こえてきた。
「ちんたら運んでんじゃねぇぞ!!!おら!!!とっとと運べ!!!」
僕の背中を副隊長が蹴る。僕はふらついて転んでしまった。
「い、いてて…」
「おい、何荷物壊してんだよ!!!弁償だ!!」
副隊長が僕の胸ぐらを掴んでにらんで来る。
「やめておけ。まったく。グレイをいじめてやるなよ」
見ると、そこにはこの部隊の隊長であるシュバルツさんが立っていた。それを見た副隊長は、僕の胸ぐらから手を離し、つまらなそうに言った。
「…ちっ。なんだよ隊長さんか…。忙しいんじゃねえのかよ」
「何、少し用事があったんだ。ここはいい、お前は別の場所に行け」
「…りょーかいですよ。…ちっ」
通り抜けざまに副隊長は軽く舌打ちをして部屋を出て行く。
「隊長…。ありがとうございます…」
「気にすんな。それよか、体は大丈夫か?」
この部隊で僕の事情を知っているのは隊長と副隊長だけで、だから副隊長は僕をいじめてくるんだろうな…。でも、隊長は違った。
「あ…。はい…大丈夫です。荷物…運ばなきゃ」
「あー。俺が持つから、半分でいい。一緒に行くぞ」
隊長はいつも優しくしてくれた。体のこともあるだろう。それ以上に、彼は僕を弟のように扱ってくれた。
だからかな…。僕が頑張れたのは。
「隊長、僕…本当に役に立ててるんでしょうか…」
荷物を運びながら隊長に聞いてみる。すると、彼は表情一つ変えずに言った。
「いいか、グレイ。役に立つ立てるじゃない。立とうと努力してるなら、それでいい」
隊長の言葉は、僕には理解できなかった。仮に努力したって、報われなければ意味が無いと思っていたから。
「…」
そのときはそう思ってた。けれど、人間の心は案外脆くて、簡単に意志は崩れていくものだ。
それがやってきたのは、僕がジオンに…、クロノード隊長の所へ向かう理由になった日だった。
ジャブロー攻防戦で敗走したジオン兵を追撃するように命令された僕たちの部隊は、ジオンの兵士を探し、索敵を行っていた。
[…全機、しばらく待機だ]
隊長はいつもの口調で部隊の人へ声をかけた。
[ちっ…面倒だな…]
彼らは普段どおりの行動をしていた。けれど、僕は…不思議な違和感を覚えていた。
こう…何か胸騒ぎがする…。誰かが銃弾に貫かれ死ぬ。そんなのが頭をよぎる。
「…」
そんな考えがよぎるたびに震えが止まらなくなる。
突然コンコンっとコックピットをノックする音が聞こえた。
「…?」
コックピットのハッチを開くと、シュバルツ隊長が覗き込んできた。
「おう。グレイ。いるか?」
「あ、はい。どうしました?」
「なに、ちぃっと暇だったんでな。少し話をしよう」
「…良いですけど…」
隊長は嬉しそうに話を始めた。
「グレイ。お前に、言わなきゃいけない事がある」
「…なんですか?」
「ああ。身構えなくていい。何、この作戦で俺に何かあったらすぐに向かって欲しいとこがあるんだ」
「…」
僕は黙って彼の言葉を待った。
「第30特別遊撃隊って呼ばれる部隊に行って欲しい。そんで、そこの隊長に伝えて欲しい事がある」
「
【希望は成った】。どういうことなのか理解できなかった。しかし、僕は彼に頷いた。
「……さて…そろそろ動くか」
そう言って彼は、僕の機体から降りていった。
[全機、行動す……なんだ!?]
突然の爆音。それに驚いたのは僕と隊長だけだった。それに関しても理解が追いつかない。
そして、次の瞬間には煙幕が焚かれ、何も見えなくなる。
だが、煙幕が消えると、隊長は僕の近くにいるが、周りを見ると、他の部隊員の機体とジオンの機体が僕たちを囲んでいた。
「…ど、どういう…」
僕はただ震えてしまった。そして、何とか声を絞り出して出た言葉だった。
[…はめられたか…。グレイ]
「…隊長…?」
[…さっき言ったとおり、向かってもらう事になりそうだ…]
「え…?」
[第30特別遊撃隊…。そこに行くんだ。ここは、俺が引き受けよう]
「で、でも…一人だったら…!」
僕が言うと、かれはそれを鼻で笑った後言った。
[まがりなりでも少将だ。俺の腕をなめるな。さあ、いけ…!]
「でも…!」
[3秒数える…。0で…全力で行くんだ!!さっき送った座標へ!]
「…え…?」
見ると、機体に新たな座標が指定してあった。
[3…2…]
「た、隊長…!!」
[1…0…!!行け!!!グレイ・シュタイナァアアアア!!!お前に希望は…
そう叫びながら彼は僕とは逆方向へと向かっていく。
僕はただ無我夢中で機体を座標のほうへと動かした。
どれくらい移動しただろう…。座標の所へ何とか移動する。
そこには、ジオンの駐屯地があった。一瞬血の気がどっと引いていく気がした。
「……あ…あああ…!!」
僕はただ怖くて機体の中で震えている事しかできなかった。隊長を見捨て、自分だけ逃げたのだから…。
すると、コックピットが強引に開かれる。
「…!!!」
「おい…お前。ここに何のようだ」
そう言って銃を構えたジオン兵が言う。
「…た、隊長の…」
「ん?隊長がなんだかしらんが…」
僕はありったけの声で叫んだ。
「き、希望は…成った!!!そうシュバルツ隊長が…!!!!」
「…知らんな。死ね…連邦兵」
銃を押し付けてくる。ああ。人生は儚いものなんだな。
しかし、その兵士の後ろに影がさす。
そして、その影は全力の振りかぶり後、前のジオン兵を引っ叩いた。
「いってぇ!!!な、何するんだよクロノード君!!!!」
「…馬鹿かお前は。【希望は成った】って言ったんだろ。こいつがシュバルツにとって自分以上に助けて欲しかった奴なんだろ」
「えー?こんな子供をー?」
「お前も子供だろ…」
「そんな事は無いさ。ほら!身長だって160cmあるし!!どうだ!クロノード君より偉いしね!!エッヘン!!!」
そんな光景を見て、ただ僕は呆気に取られていたが、その後、声を上げて笑ってしまった。
「な、なんだよ!!なんかおかしいか!?」
「い、いえ…。特には…」
「さて…驚かせてすまないな。さて、ようこそ第30特別遊撃隊へ!」
「…えっと…」
「突然だっただろうが、まあとりあえず話はテントの中で聞こう。さぁ、行こう」
そう言って二人は降りていった。
僕はそれに続いて機体から降りる。
そして、僕は彼らから隊長が彼らに言った言葉を知った。
聞くところによると、隊長は、本当に信頼できて、弟のような存在の僕を、あの状況になると分かったうえで助けて欲しいと頭を下げたそうだ。
「…隊長…」
「お前にとっては辛い経験だっただろう」
「…はい…」
「でもな、こいつをバネに生きてかならなきゃいけないときがある」
「くっ…!!!」
こんなに良くしてくれる隊長を自分が見捨てたという事が余計に自分を絶望させる。
「…わるい、クロノードくん。後は任せたわ」
そう言ってカカサと呼ばれる人物は部屋を出て行った。
「すまんな、あいつはこういうのは苦手なんだ。さて、ここでの役割なんだが…」
「あ、はい…」
「普通に生活すればいい。そんだけだな」
「え…?」
「正直、面倒な事をするつもりも無いからな、あとは最低限のマナーだけ守るようにな。まあ、お前にとっては当然の事だろうが…」
正直呆気に取られた。ジオンが管轄の部隊だから、結構マナーもしっかりしていると思ったが…。
「あれだ、ここはな、ジオンで捨てられた奴や、連邦のはぐれ者達が集まる場所なんだ。少なからず連邦の奴らもいる。だから気にすんな」
と、僕の心を見透かすように彼は言った。
「…あ…はい…」
「いいか?グレイ。人間には割り切らないといけないときがある」
「…」
「お前とシュバルツに何があったか俺は知らない。けれど、あいつはお前に全て託した。だろ?」
「そう…なんでしょうか…」
「シュバルツが見たかった世界ってのはな、連邦とジオン分け隔てなく仲良くしてる世界なんだとさ」
「…僕も…そう思います」
「そうかい。きっと、知らないうちにお前にもあいつから
「え…?」
「ふっ…なんでもないさ。さて、後は自由だ。好きに動け!」
そう言って彼は手を打った。
それから…1ヶ月くらい後の話かな…。僕は、彼とであった。彼にとってはほんのひと時の出会いだったかもしれない。
でも、今でも僕の心には強く…根強く残っている出会い。
彼に、僕の全てを託した。彼にとって負担になるのは分かってたけれど、それも運命なんだって思う。
【ムゲン・クロスフォード】。彼は、とても純粋で…。優しかった。だからこそ話した。
「…ねえムゲン」
「何ですか?」
「ムゲンには、夢がありますか…?」
「…夢…?」
「夢でも、願いでもいいんです。何か…そんな感じのもの」
あやふやな表現だった。けれど、それでも彼には伝わった気がした。そして、僕は話をつないだ。
「…僕には夢があります…」
「どんな…?」
「30特別遊撃部隊の皆のように、ジオンも連邦も関係なく皆が幸せになって欲しい…そんな夢があるんです」
「…」
「きっと…皆まだ気づいてないだけなんです。ジオンだからとか、連邦だからって言うのに縛られて、単純なことに目が行かないだけなんです」
「いつか…連邦もジオンも分け隔てなく手をつなぎあう時が来れば…その時こそが、本当の幸せなんだって思います」
「それはきっと、長くて遠い道のりかもしれない。けど、それでもそんな世界が来てくれることを、僕は夢見てるんです」
僕は、いつの間にか隊長と同じ考えに生きて、夢を語っていた。でも、いいんだ。だってその世界が僕にとっても、隊長にとっても幸せなんだから。
「…すごいね…グレイは」
「え…?」
「立派な夢があって。俺なんか、夢なんか思いつかないよ…」
そのときの彼は、自分を嫌うような顔をしてた。いつもの僕みたいな顔…。
「でも…願いはある…」
「何ですか?」
「…記憶を取り戻したい…かな…」
「記憶…ですか…」
「うん。たとえ、どんなつらい過去でも、思い出さないほうが楽な過去だとしても…俺は…グレイのように夢を持ちたいんだ…だから…思い出したい。自分自身を…」
「…大丈夫ですよ。ムゲンなら…きっと思い出せます」
「何で分かるんだい?」
「…なんとなく…かな…。でも、頭の中で考えたら、そんな姿が目に浮かぶんだ。ムゲンが笑っている姿が」
表現なんて出来ない。けれど、前々からあったニュータイプってやつの力なのかもしれない。ぼんやりだけどムゲンが笑ってる姿が脳内に浮かぶ。
「…そうか…ありがとう」
「いえいえ。それにさ、夢が無いなら僕と一緒の夢を見ればいいんだよ」
「一緒の…夢…?」
「そうだよ、一緒に叶えよう。ジオンも連邦も分け隔てなく暮らせる幸せな日々を…」
僕はそう言って手を差し伸べた。すると、彼は緊張しながら手を握り返してくれた。
「…うん。そうだね…きっと、叶えよう…」
そんな小さな出会いだったかもしれない。そんな会話しかなかったかもしれない。それでも、僕はそれでも願った。
だから…ムゲンを一人に出来なかった…!
「…はぁあああ!!!」
僕はジムからビームサーベルを引き抜き、黒いザクに切りかかる。
[おっと…!グレイ…って言ったっけか…。そんな操縦で…!!!]
「うわぁあああ!!」
そんな言葉と共に軽くあしらわれ、僕の機体は吹き飛ばされてしまう。
そして、耐えられないほどの頭痛が運悪く、僕はしばらく気絶してしまった。
…目が覚めたとき、ムゲンのガンダムと見たことの無い蒼い機体がしのぎを削りあっている。
ムゲンのほうが圧されていた。そして脳裏によぎるムゲンが撃ち落される描写…。僕はただ無心で機体を動かした。
「ムゲェェェェン!!!!」
ただ必死に叫んだ。彼に届くように…。
[何!?]
「お前の相手は…この僕だ!!!!」
ビームサーベルを引き抜き、奴にぶつかる。
[グレイ!!!]
「いいんだ!!早く逃げるんだ!!」
[何を…!]
「ムゲン!僕は君と一緒に夢が見れたこと、とっても嬉しかった!!」
「だから…その夢のために、ムゲンはやらせない!!!」
僕はビームサーベルを投げ、蒼い機体に組み付いた。
[やめろ!!!グレイ!!!]
「君だけでも…ぐっ…!!生きるんだ!!!」
[離れろ!!クソがあああ!!!]
暴れるシゼルの機体を必死にグレイが抑える。
「もう少しだ!黙ってろ!!!」
「ムゲン!僕は人工ニュータイプの研究に成功したんだ!僕は…殺しのためにニュータイプになったわけじゃない!」
こんなこと、僕は願ってなかった。
[…グレイ…]
彼の声はとても優しくて…。
「でもね…それでも人を殺さなきゃ…駄目みたいだ…」
それでも……。
[…そんなこと無い!!!グレイ…お前は…!戦う必要なんて…!!]
本当はそうでありたかった…。
「ううん…ムゲン…君を救うためには…戦わなきゃいけないんだ…だから…!」
それでも…!
僕はムゲンを守る……!この命を…賭けて…!!!
[やめろ!!!]
「とめないでくれ!!!僕は…いや…これが僕の覚悟だ!!!ムゲン…僕の夢は…託したよ!!」
僕はくい気味に彼に叫んだ。そう、夢は全て託した。あの時、夢を語ったとき…きっと彼は託された。
だから…せめて【歯車】となり、彼を救う運命を造りたい…!!!
[何をする気だ!!!離れろ!!くそったれがああああ!!!!]
「待たせたな…!!お前は僕と地獄逝きだあああああ!!!!」
僕は少しずつジムのスラスターの出力を上げていく。彼を…彼と夢を守るために…!!!
[あ…あぁ…待ってくれ…グレイ…!]
「後は…任せ…たよ…ムゲン…」
直後、ジムが爆発する。そして、視界が真っ白に輝いた。
ムゲンは…きっとこの先も辛く険しい道を歩むだろう…。
それでも僕が出来るのはただ見続けるだけ…。
それならば、僕は僕にしかできない事を全うする。
僕は、楽しかった。今まで見てきた世界も…。
だからこそ…。
こんな小さな世界を僕は、遠くからでも
「見守り続けるよ…」
外伝 完