まったくもって自分の意志を見せないようなカカサ・キヤモイ。
ムゲンと出会った彼もまた、心の中で何かの変化があったのだろうか?
それとも……無いのか。
これはそんなカカサ・キヤモイの過去の話。
「……ふむ…」
ジオンが新たに投入されるであろう機体の資料に俺は目を通していた。
「…MS-XX1…ムゲンギア…ね」
「なかなか面白い機体だな…。だが、あまりにも危険すぎるな」
俺は資料を机に軽く投げた。もう見る必要すら感じなかったからな。
コーヒーを一気に飲み干した後、俺は椅子に深く腰掛けた。
「……もうすぐ…戦いは終わる…」
他の奴らには分からないだろうが、俺には分かった。
この戦いは…ジオンの負けで終わる。
「…ふぅ…」
のんびりしていると、突然扉が開く。俺は、彼だと分かった上で、入る前から声をかけた。
「お、クロノード君」
「……なんでお前はいつも入る前に言い当てるんだよ…」
クロノード君は目を細める。
「…君とどれほどの時を過ごしてきたか分かるかね?嫌でもわかるのだよ」
「ははは…。それも…そうだな」
クロノード君は椅子に腰掛け、何かを思い出すように呟いた。
「懐かしいな…今から7ヶ月前か…」
「何の話だね?クロノード君よ」
「…さすがに忘れたとは言わせないぞ?カカサ…」
「……何だっけ?」
「お、おいおい…」
流石のクロノード君も呆れてしまう。
「…なんてな。冗談の冗談の冗談だよ。まったくクロノード君はこんなことも分からないのかね」
「……」
クロノード君がムッとしている。この顔を見るのも何度目だっただろうか…。たしか、最初の出会いもこんな感じだったか…。
あれは確か、7ヶ月前の事。つまらない事しか言わなくて、何も知らない男を一人の兵士が気に入っちまった。そんなくだらない話。
「……」
そいつはサイド2から一番最初に逃げ出した。他人のことも大切ではあったが、自分の事が一番と踏んだからだ。
全身黒い服、黒いフードを被って、そいつは小さな場末の喫茶店で静かにコーヒーを飲んでいた。
そこに突然扉を蹴り開け兵士が現れる。あいつは確か、隊長の補佐をしていただろうか。
「おい!親父!!ビールだ!!ビール寄越せぃ!!!」
隊長らしき人物が大声で叫ぶ。なんてつまらん奴だろう…。人が居ることを考えて言っているのだろうか。…その男は思った。
「……申し訳ございません。ここではビールは……」
店のマスターが頭を下げながら言う。その言葉にムカついたのか、隊長らしき奴は声を荒げて言う。
「ないだと…?ふざけるんじゃねぇ!!こっちは軍人だぞ!!とっとと出しやがれ!!」
「…そ、そんな無茶なぁ…!!」
さすがのマスターも驚いてしまう。後ろの部下であろう奴らは何一つ言わずに、ただ立っているだけだった。
「早くださねぇと…撃ち殺す…!!」
とうとう痺れを切らして、拳銃を構え始めるしまい…。男は既に怒りが頂点に達しようとしていた。これだけの傍若無人な行いを見て、何も思わないわけが無かった。
「…あ、あわわ…」
マスターは尻餅をついて慌ててしまう。当然だろう、自分へ銃口が向けられているのだから。
見ていられなくなった男がコーヒーを飲み干した後口を開いた。
「…マスター、勘定」
その言葉でマスターは我に返り、男に金額を言う。
「え…えっと、2ドルになります」
「……これで…足りるか?」
男はおもむろに自分のポケットから小さな小銭を差し出す。
「あぁ。はい。問題ありません。ありがとうございました……っぐ…!?」
彼の言葉を、銃声が遮り、気がつけば、銃弾は彼を貫いていた。
「……!!!」
あの時、どうして彼らを止められなかったのだろうか…。今でも気持ちが悪くなることだった。俺は何一つ知らなかった。生きることに必死…。
そんな言葉で知ろうしなかった。だから、あんな悲劇を生んだ。
その後男がどうなったかって?どうなったと思う…?ふっ……どうなっただろうなぁ…。
「……!!」
兵士を盗み見ると、満足げに笑って、マスターのほうへ歩いていく。
「お前ら!金をあされ!!全部持ってくんだ!!」
兵士達は黙って歩いていく。男とは反対に。
ただ、隊長補佐の彼だけは、何故か手を強く握りその場から動かなかった。
男は不思議に思った。こいつはきっと、そんなつまらない強情のせいで隊長らしき奴に撃たれて人生を終えるのだろうと。
だが、不思議と彼の人生を終わらせたくない気持ちがどうしてか、その男に宿っていた。
「おい!
隊長の言葉を無視し、彼は口を開く。
「……できません…」
「何ぃ…?」
「……民間人を守るのが軍人の役目だ…!それなのに…なぜ民間人を殺してまでこんなことをするんです…!!!!」
彼は静かに、しかし怒りを表しながら言った。
それによって火がついた隊長は叫ぶ。
「てめぇ…上官の命令が従えねぇのか…?なんなら民間人なんていくらでも殺してやるよ!!そこにいる黒い奴もな!!!」
「……」
銃口が男に向けられる。
「……」
「へっ!!死ねぇ!!!!」
銃の引き金を引く。響きわたる銃声。
補佐の男は目をつぶる。
「……?!」
見ると、男はフードを取り、隊長を睨み付けているのだ。銃弾は…?よく見ると、男の頬を掠めて、扉に食い込んでいた。
「……お前…!何者だ…?!」
あの状況で弾丸を避ける人間を、隊長も、そのほかそこに居る人間は一度も見たことが無かった。
そして、男がついに言葉を放つ。
「…黙れ…クズ」
「何…?!」
「部下を何に使ってんだ。そこで突っ立てる馬鹿な兵士の言うとおりだ!お前ら本当に軍人なのか?」
「ふざけやがって…!おい!お前ら!ジョンごとこいつを殺せ!!!」
「……部下ばっかに頼りやがって…!お前はただのクズだな…!!!」
そう言って男は驚くべき速さで隊長の懐へ潜り込み、全力の一撃を叩き込んだ。
「ごっふぁ…!!!…ぐ…!!てめぇ…」
そう言いながらも膝を突いてしまう。
「……あーすまんね。俺加減をしらないんだよねー。いっつも喧嘩ばっかやってたからな」
「…ぐっ……てめぇ…!!!」
すると、後ろで立っていた補佐が隊長へ向かって歩いていく。
そして……銃を構えた。
「…な、なんのつもりだ…!」
「……もう…あなたには従えません。あなたは…最低なクズだ!!!」
「なんだと…!?おい!お前ら!!何とかしろ!!!」
そう言って従うものが誰もいなかったのには、流石の男も驚いた。そして、男は言った。
「見ろよ。こいつら、お前の下に居るのは嫌だってさ。これだったら俺が軍人になったほうがマシだな」
「…て、てめぇ!!!!」
「…うるせぇよ。だまり…」
男に殴りかかろうとする瞬間。銃声が響き渡り、隊長は地面に倒れる。それを見て、兵士達が一斉に逃げていく。
「……う、撃っちまった…」
隣を見ると、顔を青ざめさせて、震えている補佐の男が居た。
「……」
彼もこちらを見てくる。男は、フードが外れていたのを忘れながら彼を見た。
「…何だよ…」
先に口を開いたのは男からだった。
「……さっき言ったよな…あんた」
「…な、何を…?」
「…軍人になったほうがマシって」
「そ、それはあいつよりはって事で…、なりたいわけじゃあないぞ?」
「いいや…もう必要なんだ。この埋め合わせを」
男は息を飲む。
「だから、なっちゃくれないか?隊長とは言わない。俺の…俺の補佐をしてくれ!!」
「え…?」
「俺は…人から信頼されはする。けど、俺は強くなんか無いし、頭も良くない…だから…あんたみたいな奴が欲しい!」
男は流石に戸惑った。あまりにも不思議なことを言う人が居たから。
男にとっては全てが不思議だった。他人とかかわること、笑うこと、感情というものが、これほど自分にあったことを。
「……」
だからこそ。一瞬でもこの青年と心が通った。そんな気がしたからこそ。
「…名前は…?」
「え…?」
「お前の名前は…?」
「……
「……いい名…だな」
「あんたは…?」
「俺は……
と、男は笑ってみせた。
「……気にするな。俺も自分の名前は気に入ってない」
ふと思い立った男は、地面に落ちている拳銃を拾い、弾薬を投げ捨て、ジョンに向ける。
「どういうつもりだ…?」
とっさに銃を構える。しかし、男は笑って言った。
「名前が嫌いなんだろう?なら…こうすれば良いじゃないか!」
そういって、彼に引き金を引いた。
銃声を上げて、彼は目をつぶる。しかし、銃弾はどこにもない。
「……空砲…?」
「…せーかい!これでお前、ジョン・クライガーは
「……なら…お前も…」
続けて彼は弾薬を地面に落とし、男へ向けて銃を放つ。
「…これで…俺達二人は名無しになった」
「…さぁ。自己紹介からだ」
「あぁ…」
「俺の名前はクロノード・グレイス。よろしくな!」
「…俺は…カカサ・キヤモイだ…よろしく。クロノード君よ」
二人は強く握手をした。
「…そういえばそんな事もあったなあ…」
二人でしみじみと昔の話をしている。まあ…今回はふざけるのはよしておこうか。
「…それで…なんだったけね?クロノード君よ」
「ん?…そのあとは…」
「それで、カカサ。お前はこれからどうするんだ?」
「…分からない。…でも俺は自由きままにいきれたらそれでいいんだよねー。正直さぁ。世間では戦争がどうとか言ってるけど、なんかくだらないよなー」
「…く、くだらないか…珍しい奴も居るんだな。俺と同じ考えを持ってる奴…」
「え…?えぇええええええ?!」
割と大きく驚く俺。こういうノリのほうが、楽しい気がしたからな。
「お、驚きすぎじゃないのか…?」
「だって、クロノード君と同じ考えなんだろう?じゃあお風呂入る時間も被るんじゃ…」
「そういうことを言ってるんじゃあない!!俺は戦争が…」
「なぁに、冗談の冗談の冗談さね。こんなことも分からないなんて近頃の若者は…」
「いやいや……」
流石のクロノード君も少し引き気味だ。……こういう顔を見るためにやってるんだけどね。
「…本当のこと言うなら、まだ考えてない。俺さ…サイド2から逃げてきたんだ」
「サイド2って…住民を催眠ガスで眠らせて、コロニーを使ったって場所だろ?」
「…士官学校ではそう教えられたんだね。でも実際はそうじゃないんだ」
ほうっと息を吐いた後、俺は口を開く。
「……あの場所でばら撒かれたガスはな…、神経ガス。…人が人に手を下すにしてはひどすぎる手段だった」
「あれを多く吸えば、あっという間に死に至る。それを、ジオン公国は、コロニーの
「……」
クロノード君は何もいえなかった。当然だ、今までの教えは全て嘘で、奴らがやっている事を考えれば。
「皮肉な話だよなぁ。そんな事があって、俺は故郷を離れた。そういえば、生きている奴もいたんだ。少しだけだけどな」
「そう…なのか」
「あぁ。一人は顔見知りっちゃあ見知った顔の奴。まあこっちが覚えててもあっちは覚えてないだろうけど。そいつは連邦の研究員に連れて行かれたんだよ」
「……そいつがその後どうなったかなんて俺は知らん」
「だが…生きている気がすんだよネ。んで、いつか会える気もするんだ」
「……会えると…いいな」
「…さぁね?良いとも思わない。どっちでもいいんだ」
「…さて…俺は行くかぁ…!」
俺が喫茶店から出ようとすると、クロノードが叫ぶ。
「待てよ!!」
「…なんだね?クロノード君よ」
「どこに行くんだ?行くにしても早く帰って来いよ?」
その一言だった。今まで一度も言われた事のない言葉だった。
「……!」
「お前の帰り、俺は待ってるからな!」
俺はその言葉を背に、店を後にした。
「そういえば、あの後お前どこに行ってたんだ?」
「ん?まあちょっとした散歩ついでに人助け…かな。どうよ?クロノード君より偉いんだぞ?エッヘン!」
「……自分で言ってどうするんだ…」
町に出ると、もう日が落ちようとしている。
どこかへ行って飯でも食おう。
「…お…」
周りを見ると、服も身なりもボロボロな少年がいた。
無視しようとも思った。だが…。
「……」
俺は周りを見渡す。一軒、小さなパン屋があった。
パン屋へ向けて足を進ませる。
「いらっしゃい」
店に入ると、老婆の声が入ってきた。
俺はカウンター前まで来ると、ポケットから金を出して、こう言った。
「……ばあちゃん。この店の一番うまいパン、売ってくれ。あ、2本な!あとコーヒーももらっておこうかな」
すると老婆はにっこり微笑んで言った。
「あいよぉ…。ちょっと待っておいてね」
そう言って、手際よくパンを紙袋の中へ入れてくれる。
俺は店の中を見渡した後、言う。
「……ここ、いい店だなぁ、ばあちゃん」
「そうかい?夫の残した店だからねぇ…」
「…あぁ。店中掃除が行き届いてる。んでもって、とっても優しい気持ちになる」
「そうかいそうかい…うれしいねぇ…。はい、おまちどおさま」
そう言って、紙袋を俺に渡した。
「御代は一人分で良いよ」
「えっ…?」
「あそこの子にあげるんだろう?」
「……な、なんでそれを…」
「顔を見れば分かるさぁ…。この町はね、貧しい暮らししか出来ないけれど、それでも自給自足できる町なのさ」
「……」
「家族を戦争で失った子は多くてね。でも、なんとか必死に生きているのさ」
「ばあちゃんは、子供、引き取らないの?」
「…あたしゃあ、もう歳だからね。さすがに引き取っても育てていける気がしないのさ」
老人だからこそ、悩んでしまう所なのだろう。
「……邪魔したね。じゃあまた来るよ」
そう言って店を後にした。
店を出て、しょんぼりと座っている少年の前に歩いていく。
そして、少年の前へ立って、笑顔で言った。
「隣、いいかい?」
少年は、ただ黙って頷いた。
俺は隣に座り、紙袋を開ける。中からとてもおいしそうなパンの香りがした。
紙袋に手を居れ、パンを取り出す。そして、少年へ向ける。
「……?」
「食えよ。腹…減ってるだろう?」
「……ありがと…」
目を合わせず、ただ他を見ながら受け取る。
それを横目に、俺もパンを取り出し、一口かじる。
「う、うめぇ!!!こんなに優しい気持ちになれるもんなんだなぁ!」
彼に聞こえるように、なるべく大きくリアクションを取る。
「……!…おいしい」
「だろ?どんなまずいもんでも、一人より二人で食ったほうがうまいんだぜ?」
「……お兄ちゃん。優しいね」
「…気のせいだよ。俺の気まぐれって奴だ」
「ふーん…」
少年は美味しそうにパンをほおばる。それを見て、俺は何故か幸せな気分になれた。
「……お前は、行く所、あるのか?」
「…ないよ…むぐむぐ…ボクは、ずっとここに居る。むぐむぐ…」
食べながら言葉を返す少年。
「……寂しくないのか?」
「…寂しくない。慣れてるから」
この少年も戦争で親をなくしたのだろう。どうして戦いは悲しみしか産まないのだろうか。
「…そっか。さて…そろそろ行くか。あ、この残ったパンとコーヒー飲んで良いからな。じゃあ。またな」
そう言って立ち去ろうとしたとき、少年が言った。
「お兄ちゃん。ありがとう。それと……ポケットから紙出てるよ?」
ポケットを探ると、小さな紙切れを手にする。
「おう。サンキューな。じゃあ!」
紙を見ると、クロノードの居る場所が書いてある。あいつ……。
「……行って…みるか」
既に暗くなった夜道を俺は歩き出した。
そこについた頃にはもう既に夜は更けていた。そこは、兵士の寝る場所のテントに、奥で焚き火をする場所がある。
しかし、火は消えてなくて、その付近からにぎやかな声が聞こえてくる。
「……」
俺は火の元へ向かっていく。
だんだんと楽しそうな声が近づいてくる。
「それでさ!そいつがこう言ったんだよ!「…黙れ…クズ」って!ありゃあカッコよかったなぁ。…っと噂をすれば…」
俺に気づいたクロノードは手招きをする。
「よお!待ってたぜ!早く来いよ!皆お前の話に興味津々なんだ!」
「……あ、ああ…」
戸惑いながらも、俺はその輪に入って話をすることにした。
そして、いろんな話を聞いた。
軍に入った理由。夢や願い。
そいつらの話を聞いているうちに、俺はいつの間にか、ここを離れるのが嫌になっていた。
他のやつが眠りに入った後、俺とクロノードはまだ話をしていた。
「……クロノード君よ」
「…なんだ?ここが気に入ったか?」
「……ああ。とっても気に入ったともさ。俺も…軍人になろうと思う」
「へぇ。で?入りたい部隊とか、決まってるのか?」
「ああ」
「ここか?」
「…それ以外あると思うか?」
「ま、そりゃあそうか」
「さっき言ったじゃないか。俺の補佐をしてくれって」
「…そういえばそう言ったな」
「だから、お前の補佐をする。そして、お前以外の命令を聞くつもりは無い」
「お、おいおい………まあいいか。あぁ。それでいい」
「…よろしくな。隊長さんよ」
「あぁ。よろしくな。カカサ」
俺達は、燃える焚き火の前でそんな話をした。
「懐かしいな…ザク・インヴィジブル…」
「ん?お前の機体…っと…もう居ないんだな」
「……ああ…。すっごく気に入っていたんだけどな…」
「まああれとは長い付き合いだったろうしな」
それだけではない。本当に色んなことがこもった機体だったのだ。
格納庫へ呼ばれた俺は、
「…おい、カカサ…何をしてたんだ…?」
「んー?ちょっとトイレさね。それで…?俺に何のようかね」
「ほら、お前のが配備されたんだよ」
「んー?おお。こいつぁザクってやつか。実物は初めてだな」
機体を見ると、真っ白なカラーが施されたザクが佇んでいる。
「…なあクロノード君よ」
「なんだ?」
「俺、これ嫌だわ」
「えっ!?せ、せっかく配備されたんだぞ!?」
「そうじゃない…。色がヤダ!!」
「は、はぁ!?」
「俺はね!?こう!まっくろーい奴がよかったんだ!!そう!クロノード君の機体みたいに!!!」
「……」
流石のクロノードも呆れてしまっている。
「い、いやだがな…」
「俺ぁこの機体にはのらん!!!」
俺が意地を張り続けていると、ついに痺れを切らしたクロノードが言った。
「わーったよ。俺の機体使えよ。その代わり、こいつは俺が使う」
「ひょ?!いいのか?!」
「あぁ。だが、貸すだけだからな!!元は俺の機体なんだ!」
「分かった!こいつは俺とクロノード君の友情の機体なんだな!」
「お、おう……」
黒いザクを見上げながら、俺は目を輝かせていた。
「そういや、一時期お前、連邦に潜ったって言ったけど、どこ行ってたんだ?」
「ん?ああ、あれはね、ムゲン達の部隊を見てきたんだ」
「あいつの?」
「うむ。とは言っても、ムゲンと知り合う前だからな。あんときの
「ダレだ…?」
「あー。ムゲンの所の部隊に、あいつと同い年の子が居るんだよ。元気にしてるかなーって」
「カカサでも、可愛いとか言うんだな」
その言葉に、少しだけムッとする。
「…クロノード君は俺をなんだと思ってるの…」
「そうだな…。宇宙人か?」
「ワレワレハ、ウチュウジンダ」
「ふっ…まあいいさ。続けろよ」
「ソウダナ…タシカアノトキハ…」
「もうやめんか」
そう言って頭をひっぱたかれた。
軍に入ったあの日から4ヶ月後くらいだろうか。一度連邦のスパイとして、入ったことがある。
「…っと、潜入完了…。さて、整備兵として、スパイに入ったんだ。なんかいい情報でも探すかなっと」
「~♪」
鼻歌交じりに、機械を整備する少女。不思議そうに見つめていると、彼女は気づいて慌ててこちらへよって来る。
「あ…す、すいません。うるさかったですか…?」
「別に?気になったから見てただけだけど?」
「あ…そうですか…すいません…」
「あんたは名前なんて言うんだ?」
「わ、私ですか…?えっと…リナ・ハートライト技術曹長です!」
丁寧に敬礼までして俺に自己紹介してくれる。
「へー。俺はモシホイ・ガクダイモイ。よろしく。
「り、りなっち…?」
あまりにも砕けたあだ名をつけたせいでさすがの彼女を驚いてしまう。
「んじゃあ、俺は用事あるからサ。まったねー!りなっち!」
「あ…は、はい…」
戸惑う彼女を通り過ぎて、俺は資料室へと向かった。
「…なるほど…こいつとこいつ…あとは…ん?」
一つ気になる資料があった。シゼル・クラインと呼ばれる男の資料だった。
「…こいつも持ってくか」
あらかたの資料をコピーし、俺はこの部隊が戦闘中のうちに消えた。
「まあそんな感じだったなぁ」
「…ほう…お前は他の部隊でも随分砕けているんだな」
「そうさせたのはクロノード君じゃあないのかね?」
「ま、そうか…」
「それよりクロノード君。この後の攻防戦。俺の考えを聞いてくれないか」
「ん?どうした?」
「部下を傷つけることになるかもしれないが、それでも聞いてくれるか?」
少し考えた後、クロノードは言った。
「……流石に親友のお前を無視できるほど冷酷な人間じゃあないんだよね。いいぜ。なんだ?」
俺は机にある資料を広げ、クロノードに説明を始める。
「今回の作戦、ムゲンたちの部隊と俺達の部隊は運よくXフィールドと被ってる。そして、このでっかい奴も同じフィールドだ」
「……」
「こいつは、ジオン連邦関係なく、倒さなきゃあならん奴だと俺は思ってる」
「そんで?どうすんだ?」
「そこで…俺達二人でこの化け物を止める。ムゲンたちが加勢してくれればなお良いんだが、期待はしないでおこう」
「…奴を潰すまでの間、味方ジオン兵をXフィールドに入れないように裏切りをしかける」
「……なるほど…だから無理強いしなかったわけか」
「あいにく、この部隊で機体の脚が速いのは俺とクロノード君だけだからね」
「…よし、分かった。後は俺に任せておけよ!!」
「頼んだ…」
こんな時、いつも思うことがあった。あんな馬鹿で、何も知らなかった彼が、ここまで成長した。それが少しだけ、嬉しく感じた。
「分からないのか!!!!」
俺は心の奥底から叫んだ。これは待たせている仲間のため、そして、クロノードのために叫んだことだった。
[……!!]
「俺だって…俺だって奴を殺したい!!!だが…それよりも大切なものがあるだろう!!!……俺達の出番は…終わったのさ」
[……カカサ……。分かった…。ムゲン…必ずけりを着けろ。そんで…戦争終わったら…うまい飯食おうぜ…!家族全員で!!!]
[…あぁ…!また会おう!!!]
シゼルとすれ違い、俺達は家族の元へと急ぐ。
[くそっ!!シゼル…!!!]
イラつくクロノードを静めるため、口を開く。
「落ち着けよ。別にまだ仲間は全滅と決まったわけじゃない。最後まで仲間を信じろって、ムゲン言ってただろう?」
そんなこと
[…そう…だな…急ごう!こんな戦いもうやめさせるためにも!]
[隊長!カカサさん!!]
[皆!待たせたな!全員撤退だ!!!]
[どういうことです?!]
「…この戦いはもう終わる。そうクロノードが踏んだんだよ。だから、帰るんだ」
[……はい!]
そう言って、クロノードが叫んだ。
[全機、聞け!!!]
味方機の目線がクロノードに集中する。
[この戦いはもう終わる!もう一切戦う必要は無い!!部隊を失った奴、生き残りたい奴は全員連邦ジオン関係なく俺について来い!!]
[そんで…!うまい飯でも食おうぜ!!!]
こんな時に思ってしまうのは変なのだろうか。あんなに小さくしょぼくれていた兵士が、今では人を率いるまで強く、巨大な背中となっている。
「……強くなってるんだなぁ。……なぁ…クロノードよ」
俺は、誰にも聞こえない声で呟いた。
「…さて…最後の仕事をしないとな…」
そう言って、クロノードに背を向ける。それに気づいたクロノードが言った。
[カカサ…?!……いや……どこに行くんだ?行くにしても…早く帰って来いよ?]
「……!」
懐かしかった。あの時言われた言葉そのままだった。
「ちょっとそこまで行って来るさ」
[俺は…いや…家族全員で待ってるからな!早く来ないと焼き鳥抜きだぜ?]
「ふっ…。なるべく早く帰る!」
俺はゲルググのブースターを起動させ、最後の仕事へ向かう。
「…見えてきた」
俺は、小さな隕石の後ろに隠れ、機体から降り、それに向かう。
「……」
格納庫に入ると、忙しそうな整備兵と、両手で何かを祈るかのような少女がいた。
「……ムゲン…!」
「お嬢さん」
彼女はこちらを見て構える。
「いつの間に…!って…!」
「しっー!何もしない。話があるだけだ」
あくまで危害を加えるつもりは無い。最後の仕事だからな。
「な、なんですか…?」
「ムゲンのとこまで行ってやれよ」
「え…?」
「あいつはな、家族を守れって言ったんだ。お前の家族はお前で守れってな」
「……でも…私は…戦えない…」
「違うよ…。俺も女性に引き金引かせる勇気はない。ただ…
「……迎え…?」
「ああ。誰だってするだろう?お母さんが子供を迎えに行くように。あんたは笑顔でムゲンに笑っておかえりって迎えに行けばいいんだよ」
「……家族…ですもんね。はい!」
「…んじゃ。またね。りなっち!」
「また…会いましょうね。モシホイさん」
俺は彼女と別れ、機体に乗り込む。
「さて…帰るか。家に…。家族に会いに」
それから、数分後、俺は興味深いものを見た。
機体が爆発する中、
その光の暖かさは、こちらまで伝わってきた。
「……あったけぇな…」
俺は胸を押さえ呟いた。
あの光が人間の心なのだろうか。そんなことは分からない。
わからなくていい。
俺には、俺の道があって、光がある。
だから、せめて、進むにしても、寄り道とか沢山できる。そんな自由気ままな人生を。
「…歩めたらいいなぁ」
外伝 完